12月19日
キーンコーンカーンコーン。
放課後を知らせるチャイムが鳴り響いた。
教室から出ると、こなたが待っていた。
どれだけ素早いんだよ。
(=ω=.*)「一緒に帰ろーよ!」
男「ん」
そのやり取りを見て、クラスがまた騒がしくなった。
例のごとく無視した。
(=ω=.*)「アニメイト寄ろうか」
男「アニメイト? ビデオ屋か?」
(=ω=.;)「ぐは……ま、まさかそこまでとは……」
男「なんだよ」
(=ω=.*)「まぁいい。これから存分に教えてあげよう」
男「は?」
(=ω=.*)「なにせこの私と付き合ってるんだからね! 1から10まで完璧にレクチャーしてあげるよ!」
男「れ、レクチャーだ? なんのレクチャーだよ?」
(=ω=.)「黙ってついてきなさい」
男「よ、よせ引っ張るな! なんか目が怖いんだよ!」
(=ω=.*)「ここが、アニメイトだ」
男「い、異臭がする……」
(=ω=.*)「すぐ慣れるよ。むしろ段々故郷のようにすら思えてくるよ」
男「お前さ……」
(=ω=.*)「んー?」
男「オタクなんだな……」
(=ω=.*)「今さら何言ってんの」
男(……かなたの奴、隠してやがったな)
Σ(=ω=.)「あ。スザクの新刊出てるなぁ。今日だったかぁ」
男「スザク?」
(=ω=.)「ランスロット仮面だよー」
男「より一層わけがわからなく……」
(=ω=.)「あ。こっちには、グレンラガン……これは持ってたっけなぁ」
男「おーい……」
(=ω=.*)「あっ。男、これなんかオススメだよ! ひぐらしは初心者にも取っ付きやすいから!」
男「……」
(=ω=.*)「む。でもまずエロゲかな? ネトゲもしてほしいな」
(=ω=.*)「エロゲだったらやっぱ王道な純愛系からやらないとね! 沙耶の唄とかグロ描写はちょっときついかもだし」
(=ω=.*)「やっぱダカーポとかさぁ。マブラヴもいいね。純香はタケルちゃんの嫁」
(=ω=.*)「オルタでグロ耐性もつくし、そういや最近ファンディスク出したらしいし」
(=ω=.*)「とりあえずそれを見に行ってみようかー……」
(=ω=.;)「あれ?」
男「ふぅー……やってらんねー……」
(=ω=.#)「い、いた!」
男「む」
(=ω=.#)「どこへ行ったのかと思ったら外ですか」
男(貴様の話が長いんだよ)
(=ω=.#)「散々探しまわっちゃったよ!」
男「(く。反論したいがここは我慢だ、俺! ファイト、俺!)……悪かったよ」
(=ω=.*)「許す」
男「……」
(=ω=.*)「じゃあ次は、ゲーセンでも行こうかー」
(=ω=.)「ギルティやる?」
男「ギルティ?」
(=ω=.;)「男、アニメイトはともかくゲーセンにも来ないの?」
男「来ない」
(=ω=.*)「そかそか。ならこっちも私が教えてあげよう!」
男「いや、俺は……」
(=ω=.*)「座りたまへー」
男「……」
(=ω=.*)「では100円入れて」
男(自腹!?……後でかなたに請求、と)
(=ω=.*)「よしよし。ではキャラを選ぶんだ」
男「……じゃ、こいつ」
(=ω=.;)「ジョニー? ズブの素人はソルやカイの方がいいと思うけどな」
男「カチン。決定。ジョニーを使う」
(=ω=.*)「まぁ好きなキャラを使うのが一番だね。ちなみに私はスレイヤー」
ジョニー『ミストファイナー! ミストファイナー!』
(=ω=.)「CPU戦で、コマンド入力はよくなったね。欲を言えば通常技キャンセルからミストで構えキャンしたいところだけど」
男「日本語か、それ?」
ガチィーン!
男「ん?」
(=ω=.;)「あ。やば。挑戦者だ」
男「ふ。真っ二つに、してやぁるぜぃ」
カイ『セイクリッド・エッジ!』
YouLose!
男「……な……」
(=ω=.;)「この辺、それなりのレベルはあるからなぁ」
男(グゥ)
(=ω=.#)「よし。恋人のかたきは私がとろう! いざ参る!」
一時間が経った。
(=ω=.*)「50連勝ーっ! 男、今の見た見た?」
男「あー」
男「ただいまー……」
子狐「こん!」
男「あれ? かなたは?」
子狐「きゅう」
男「……ま、いいか。聞いてくれよ狐ぇー」
狐を抱き締める。
俺の癒しはこいつだけだ。
その思いが伝わったのか、いつもより狐はおとなしかった。
子狐「きゅう?」
男「アニメイトはくさいわ、ゲーセンではこなたが連勝だわ、帰りに貧乳について語られるわ、大量のエロゲを押し付けられるわ……」
子狐「く、くぅん」
男「大変だったんだぞ!」
子狐「け、けふっ!」
男「あ。悪い。つい力が入ってしまった」
子狐「こん……」
男「……ところでお前は、貧乳ってどう思う?」
子狐「きゅうん! こんこん! きゅるきゅる! こん!」
男「なに? 小さい方がいいだと? 大きい方がいいに決まってるだろ」
子狐「がぶっ!」
男「いてぇーっ!」
かなた「……あ。帰ってたんですね。おかえりなさい。仲良く何してるんですか?」
男「これが仲良く見えるか!」
子狐「がじがじ」
かなた「じゃあ喧嘩ですか?」
男「あんたの平らな部分のせいで噛まれているんだ!」
かなた「狐さん。その指噛み切っちゃえ」
子狐「こん!」
男「ああああああああ覚えてろよ貴様らあああああああああああ」
かなた「いたぁ……いたぁ……まさか、あんなに大量の塩を振り撒かれるとは……」
男「煙幕みたいになってたもんな」
かなた「身体中がひりひりします……」
男「自業自得だ」
かなた「もう。……それで、今日はあの子と一緒に帰ってきてくれたました? 仲良く出来ました?」
男「……」
俺はいつものように煙草に火をつけた。
最近吸う本数が増えている気がする。
かなた「そんなの吸うと、身体によくないですよ?」
男「24日に死ぬんだから身体に悪くても構わないだろ」
かなた「う。た、確かにそうですね」
男「……散々だった」
かなた「え?」
男「なんでもない。じゃ、俺は寝るからあんたは早く部屋に帰れ」
かなた「あ、はい、えっと……」
男「……こんな時間まで男の部屋にいるのは、旦那様より俺をとったと見なす」
かなた「わ、私はそうくん一筋です! 言われなくても出て行きます!」
男「ついでに成仏しても構わないぞ」
かなた「ぷんぷん!」
12月20日
かなた「いってらっしゃいにゃん、ご主人様!」
子狐「……」
男「……」
かなた「にゃん……にゃん……うぅ。そんな目で見ないでぇ……」
男「今のはなんの真似だったんだ。そしてそのネコミミはなんだ」
かなた「昨日そうくんの話をして思い出したんです……」
男「何を」
かなた「そうくんが、こうやって見送られるの好きだったこと」
男「……」
かなた「だから男くんも、これなら私にも返事してくれるかなぁ、って……」
男「いってきます、狐」
子狐「くぅん……」
かなた「すんすん……」
すすり泣く自縛霊を尻目に俺は学校へ向かった。
かなたの奇行で、こなたが女ながらにオタク街道まっしぐらな理由がわかった気がする。
そんな奴に今日も一日付き合わなければならないのか……。
無意識に煙草を求め手を伸ばした後、それを切らしていたことを思い出した。
ちょっと寄り道して買いに行くことにした。
確かこの角を曲がったところで買えるはずだ。
男「……なんじゃこりゃあ」
そこには、逆さまになった自販機があった。
男「新しいデザインなのか……?」
試しにお金を入れてみる。
ランプはちゃんと点灯した。
俺はしゃがみ込んで男くん御用達の銘柄を探す。
さ、探しにくい。
男「えーと。ラッキーストライクは……逆さまだと読みにくいな……お、あったあった。ポチッとな」
ガコン、と小気味いい音が、上にある受け取り口から鳴り響く。
男「……らっきーすたー……?」
微妙にラベルが違った。
二度とここでは買わないと誓った。
パチモンを掴まされた嫌な気分を引きずりながら、学校に到着する。
校門で偶然こなたと鉢合わせする。
(=ω=.*)「あー。おはよー」
男「……」
昨日した最悪のデートを思い出し、気分はさらに沈んだ。
彼女の表情を見るに、こなた的には最高だったのかもしれないが。
男「……おはよ」
(=ω=.;)「あれ? どったの? なんかテンション低くない?」
男「あ……いや。その、パチモンの煙草買っちまってな」
(=ω=.#)「……わかる! わかるよその気持ち!」
男「は」
(=ω=.#)「たまにあるんだよねー。ネトオクでも悪質な出品者いてさ! 何度煮え湯を飲まされたことか!」
男「へぇ」
(=ω=.;)「あ。ちなみにコスモスのフィギュアはパチモンじゃなくて、デフォでアレだったけど」
男(相変わらずついていけねーな……)
(=ω=.)「あ!」
男「……ん?」
(=ω=.)「そんなパチモンの話じゃなくて、楽しい話があるじゃん!」
男「なんだ?」
(=ω=.*)「今日から冬休みだーっ!」
男「……あー。そうだったか。最近色々あったせいですっかり忘れてたな」
(=ω=.)「色々?」
男「色々だ」
(=ω=.*)「まぁいいやぁ! ねぇねぇ男! 学校終了祝いに、今日はぱーっとカラオケでも行こうよ!」
男「……」
(=ω=.*)「私達は自由だよー!?」
男「……悪い」
(=ω=.)「へ?」
男「今日は駄目だ」
(=ω=.;)「な、なんと!」
男「悪いな」
(=ω=.#)「ええい、何故だ! 理由は!」男「……用事だよ」
もちろん俺に用事なんてない。
本当の理由は「気分が乗らないから」だ。
かなたに約束した手前、そんなことは言わないが。
(=ω=.)「そんな用事は破棄すればいいよ!」
男「大事な用事なんだよ」
(=ω=.#)「むぅ!」
男「……」
(=ω=.)「じゃあ、一緒に帰るのは?」
男「それもなし」
(=ω=.#)「もー!」
男「怒るなって。ほら、早く学校行かないと遅刻だ」
俺は唐突に歩き出した。
こなたは慌ててついてくる。
(=ω=.;)「待ってよー」
男「はいはい」
(=ω=.)「…………ねぇ、男」
男「ん?」
(=ω=.)「男は……私のこと……」
キーンコーンカーンコーン。
男「うお! やべー! 走るぞっ!」
(=ω=.;)「あっ!……うん……」
退屈な終業式が終わり、放課後になった。
俺はこなたが来る前に教室を出る。
男「……ふぅ」
学校が見えなくなった辺りで、俺は歩くペースを緩め、一息ついた。
男「今から、どうするかな」
男「家に帰っても鬱陶しい幽霊がいやがるし」
男「はぁ……」
男「本当、あんな約束するんじゃなかったな」
男「……ハッ」
男「また独り言を言ってしまった……」
男「独り言は死の前兆……まさに俺だ!」
男「……」
男「あ。そうだ……こんなときこそ、あそこに行くか」
俺の家から少し離れたところに、小さな公園がある。
街が一望出来るその公園は、俺が一人になりたいときにいつも来る場所だ。
男「はぁ。やっぱりここは落ち着くな……」
そう言った瞬間後ろの方で、微かにマフラーをふかす音が聞こえた。
また走り屋か。
この公園は車道沿いにある。
しかもその車道というのが曲がりくねったイイコースなので、走り屋が来る事も日常茶飯時なのだ。
そろそろ見える頃かな。
そちらに視線を移してみる。
二台の車が風のように、公園の脇を通り過ぎていった。
一瞬見えたが、優勢は眼鏡をかけた女性の車だった。
男「またあの人か……」
何度ここで彼女が走る姿を見たことか。
男「何者なんだろう」
男「今日が20日だから……残り4日か」
木製の手すりに寄り掛かり、街を眺める。
男「……ぶるっ」
少し震えた。
男「俺の身体の癖に弱虫な……」
男「死ぬからなんだって言うんだ」
これからやりたいこともない。
趣味や楽しみもこれといって持っていない。
離れたくない人もいない。
男「なら、死んでも構わないはずだろ」
しかし、何故か足の震えは止まらなかった。
男「……」
不意にこなたの顔が浮かぶ。
俺の死を悲しむであろう唯一の人物。
それだけでなく、その悲しみのせいで自殺までしてしまうという。
男「……本当、わけわかんねー……」
呟いたとき、震えは止まっていた。
男「あれ? な、なんでだ?」
男「……」
男「……なんかむかつく」
男「オラァ。帰ったぞコルァ」
子狐「きゅ?」
かなた「お、おかえりなさい」
男「黙ってろ塩を口にぶち込まれたいかこの猫耳人妻メイド幽霊」
かなた「な、何でそんなに荒れてるんですか? 不良の真似ですか?」
男「真似も何も俺様は不良なんじゃっ! 屑じゃっ! 人間の不良品でいいんじゃっ!」
かなた「えーと……たぶんそこまで酷くはないですよ?」
男「だからやめる」
かなた「え?」
男「こなたのことなぞもう知らん!」
かなた「そ、そんなっ!? 喧嘩でもしたんですか!?」
男「してない。順調に……とは言えないが、一応付き合うフリをした」
かなた「じゃあなんで……」
男「イライラするからだ」
かなた「……」
男「そもそもおかしかったんだ。この俺が人助け紛いのことするなんて」
かなた「……でも……約束を……」
男「約束は破る。我ながら屑な行為だな。だけど俺はさっき言ったように」
かなた「……」
男「不良でいい」
かなた「でもっ!」
男「うるせァーッ! もう寝る! 俺は寝る!」
かなた「あ……」
男「ほら狐、寝るぞ! カモン!」
子狐「……」
男「狐!」
子狐「……」
男「……」
子狐「……」
男「チッ!」
何度読んでも狐は近付いて来なかった。
俺は大きな舌打ちをして、部屋に帰った。
男「……」
その夜は結局、かなたも狐も部屋に近付いて来なかった。
最終更新:2009年08月24日 13:27