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12月21日

目を覚ますと昨日のイライラは、すっかり消えていた。
その代わり、虚脱感に身体を支配されていたが。
とりあえずベッドに腰掛けて、ぼーっとしたり……

男「……」

火の点いてない煙草を、指でくるくる回したり……

男「ペン回しの要領だぜ」

UMAを撮影したり……

男「こ、これがスカイフィッシュ!」

そんなことをしていた。

昼になると、部屋の外から声が響いてきた。

かなた「男くん?」
男「……あー?」
かなた「入っていいですか?」
男「……あー」
かなた「入りますよ?」

そう言うなり、ぬう、と床下から顔が生えてきた。

男「……ドアから入ってこいよ……」

かなた「……」
男「なんだよ」
かなた「あの……ええっと」
男「……」
かなた「昨日のこと……」
男「言っとくが、前言撤回する気はないぞ」
かなた「……」
男「俺はもう知らん。こなたと別れるつもりも、付き合い続けるつもりもない」
かなた「……」
男「どうでもいい」
かなた「……」
男「このまま放置」
かなた「……」
男「……そうだ。こなただって、冷たくされれば俺のことなんざ諦めるだろ」
かなた「……」
男「そしたら、俺が死んでもあいつは自殺しない。我ながらベストな案だ」
かなた「……」
男「……」

かなた「……男くん」
男「……」
かなた「ちょっ! お説教するつもりはないですから、塩を構えないで下さいよぉ」
男「じゃあなんだ?」
かなた「……お話してもいいですか?」
男「……」
かなた「話を聞いてくれた後なら、いくらでも塩ぶつけていいですから」
男「……」
かなた「……」
男「……勝手にしろよ」

かなた「私は死んでから、あの子のことがずっと心配でした」
男「心配?」
かなた「ええ。確かにこなたは元気な子に育ってくれたけど、ずっと恋人の一人も出来なかったから……」
男「……そういえばあんた、いつ死んだんだ?」
かなた「こなたがまだ幼い頃です」
男「ふーん……」
かなた「そのせいであの子は男の人を好きにならないのかな、って心配してたんです」
男(いや、単に性格の問題だと思うんだが)

かなた「こなたが高校に入ってしばらくすると、ある変化がありました」
男「……」
かなた「あの子は一人の男性を好きになったようでした」
男「……俺、か」
かなた「はい。嬉しそうに携帯電話の画像を眺めているあの子の姿を見て、私はほっとしました」
男「……」
かなた「他のことには積極的なあの子が、あなたのこととには臆病で」
男「……」
かなた「本当に好きなんだな、って……嬉しかったです」
男「……」
かなた「出来ればその恋が成功するように、願いました」
男「……」
かなた「でも……」
男「……相手は死ぬ、と」
かなた「……」
男「……」

かなた「……私は、今でも同じことを願っています」
男「……」
かなた「あの子が幸せになれるように、一度でも人と愛し合うことが出来るように」
男「……」

かなた「それと今は、あなたについても同じことを」
男「……俺?」
かなた「あなたが人を愛せるように」
男「余計なお世話だ」
かなた「やっぱり。そう言うと思いました」
男「……」
かなた「短い間ですがあなたと過ごして、こなたがあなたを好きになった気持ちがわかりました」
男「……は?」
かなた「気付いてないかもしれませんが、あなたはとっても優しいですよ?」
男「……」
かなた「一方的な約束を渋々ながらも守ろうとしてくれたり」
男「……」
かなた「よく見ると、いいところはいっぱいです」
男「……下らない」
かなた「ふふ。……だからそんなあなたに、人を愛する喜びを知って欲しいんです」
男「……」

かなた「話はこれだけです」
男「……」
かなた「じゃあ、私は部屋に戻ります」
男「……」

かなたは言うだけ言って出ていった。
俺は部屋に一人取り残される。
……俺にいいところだって?

男「……アホか、あいつは」


12月22日

かなた「あれ? どこに行くんですか?」
男「どこだっていいだろ」
かなた「あ! もしかして昨日の私の話で気が変わって、こなたに会いに」
男「行くわけないだろ。煙草を買いに行くだけだ」
かなた「またまたぁ。照れなくていいですってばぁ」
男「塩(シ)ッ!」
かなた「あいたーっ! な、なんで塩常備してるんですか!」
男「毎度毎度下らないことを言う亡霊への対策に決まってるだろ」
かなた「うぅ」
男「大体俺は、あんたが昨日語った願いなんかどうでもいい」
かなた「……むー」
男「願いなら、お星様にでもしてろ」
かなた「ひ、ひどいです!……でもそんなこと言いつつ、本当は会いに」
男「塩(シ)ッ!」
かなた「あぁっ!」
男「勝手にそう思ってればいい」
かなた「うぅ。本当に煙草を買いに行くだけなんだ……」
男「だからそう言ってるだろ。じゃあいってきます、狐」
子狐「くぅん……」
かなた「鬼ーっ! 人でなしーっ!」
男「人じゃないのは貴様だろうが……」

むくれるかなたを置いて、俺は歩き出した。
もちろんこなたに会いに行くわけではない。
さっき言ったように、俺は自縛霊の願いなどどうでもいいからだ。
ただ、昨日は何故かやたらと煙草を消費してしまった。
だから煙草を買いに行くのだ。
中毒性とは恐ろしいものだ。

男「お」

確かこの角を曲がったところで買えるはずだ。

男「あ゛」

曲がると、逆さまの自販機が目に入ってきた。

男「わ、忘れてた。ここは駄目だったんだ……」

自分の記憶力の低さを恨みながら、俺はため息をついた。
一昨日パチモンを買ったばかりなのに。
ちなみに怪しげなパチモン煙草「ラッキースター」はまだ家にある。
あんなの怖くて吸えるか。
憎悪を込めて、逆さま自販機を睨む。

男「……ん?」

すると自販機の前に一匹の猫がいることに気付いた。
猫は自販機を見上げている。
俺は好奇心から、そいつに近付いてみた。
猫が俺に気付いた。
そして

猫「ちょっとそこのあんた! なんなのよ、この自販機!」

喋った。

男「猫が喋った!?」
猫「あぁん? 誰が猫よ誰が」
男「お前だ!」
猫「あーはいはい。そういえばそうだったわ」
男「自分が何者か忘れるなよ!」
猫「五月蠅いわね! あたしだって好きでこんな身体になったわけじゃないわよ!」
男「はぁ」
猫「そんなことより何よこの自販機は。人をおちょくってんの?」
男「人じゃないだろ……」
猫「なんか言った?」
男「別に」
猫「あー! もう腹が立つー!」

猫は自販機をガンガン叩き始めた。猫パンチで。

男「で、でも一応買えるじゃねーか」
猫「受け取り口に届かなかったら意味ねーだろがーっ!」

さらにガンガン叩く。猫パンチで。

男「わかったわかった! 俺が取ってやるから!」

俺は暴れる猫を押しとどめ、煙草を取ってやる。

男「ほら」
猫「ったく。ようやく一服出来るわ」

煙草の箱を渡されるなり、猫は前足で器用に封を開けた。

猫「……」

しかし箱の中には、一本の煙草も入っていない。
代わりに、紙切れが入っていた。
俺はそれを盗み見る。

男「ハズレ……」
猫「うがーっ!」

猫は煙草を地面に叩き付けた。

猫「ふー! ふー!」
男「そんなぐしゃぐしゃになるまで踏み付けなくても」
猫「ふざけやがって! ふざけやがって!」
男「……」
猫「あーあ。こんなことなら、やっぱ白石にパシらせるんだったわ」
男「白石? そいつは猫仲間か?」
猫「はんっ。あんな細目が猫になっても萌えないっつーの。やっぱこのあたしのようなスーパーアイドルじゃないと」
男(猫界にも色々あるんだな)

みのる「こんなところにいたんですか!」

突然声が聞こえたと思ったら、細目の男性が現われた。
細目の男性は、猫に話し掛ける。

みのる「探しましたよー!」
猫「噂をすればなんとやらね」
男「……」
みのる「どうもすみません、ウチの猫が!」
猫「ちょっと! 誰があんたの猫だって!?」
みのる「もう! 喋る猫なんて普通はいないんですから、自重して下さいよ!」
猫「なんだぁ? 私に指図する気か下っ端」
みのる「そういう問題じゃなくてですね!」
猫「じゃあなんだ!?」
みのる「だからそれはそれで!」
男「……あー。痴話喧嘩中に悪いが、俺はもう行くぞ?」
猫「な、何が痴話よ! 目ぇ腐ってんの!?」
白石「はい。本当に失礼しました。僕らももう帰りますから。ほら、行きますよ」
猫「ちょ、ちょっと! 首の後ろの皮を持つなぁ!」

俺が去るより早く、二人は仲良く(?)ぎゃあぎゃあ騒ぎながら歩いていった。

男「……なんだったんだ」

その後俺はコンビニを訪れ、煙草を買った。
身分証の提示は求められなかった。
……俺、老けてるのかな?

男「さて……」

家に帰るのは気が引けた。
かなたがプリプリしてるだろうし。

男「やっぱあそこしかないか」

俺は車道沿いにある、景色のいい公園に向かうことにした。

男「うお!」

公園に辿り着くと、そこには先客がいた。
カップルのようだ。
まさかここに人がいるとは思ってなかったため、俺は声をあげてしまった。
カップルが二人同時に振り向く。

男「……」

女の方には見覚えがあった。
長い髪に、カチューシャ……。

男「……峰岸?」
あやの「あ……こ、こんにちは」

峰岸の横にいる男性は「誰?」という顔をして、彼女を見た。
それに気付いた峰岸が、彼に言う。

あやの「あ……えぇっと……同じクラスの……」

そう聞くと、彼氏はにこやかな表現で俺に会釈した。
俺は会釈を返さず、淡々と告げた。

男「邪魔したな」
あやの「あ……ううん。いいよ……」

俺は二人に背を向け、来た道をとぼとぼと引き返した。
煙草に火を点ける。

恋人やら、猫と飼い主やら、今日はなんて日だよ。
そういうのは、もううんざりだった。
人は何故人を求めるのだろう。
かなたが言っていたように、人を愛するというのは、そんなに必要なことなのか?
――わからない。
考え方の違う人間といても煩わしいだけなのに。

あやの「待って!」

考えながら歩いていると、後ろから峰岸の声がした。

何故追いかけてきたのだろう。
「一本ちょうだい」とでも言いに来たのだろうか。
……それはないか。
即座に自分の考えを否定し、尋ねる。

男「何だよ?」
あやの「はぁ、はぁ……その……」
男「おい。息を整えてから話せよ。聞きにくいだろ」
あやの「あ……はい……はぁはぁ」

峰岸は何度か深呼吸した。

男「落ち着いたか?」
あやの「ありがとう……」
男「で、なんだ?」
あやの「……私、男さんに、謝りたいの」
男「謝る?」
あやの「うん」
男「謝られるようなことはない。早く彼氏のところに帰ってやれ」
あやの「あるの!」
男「ない」
あやの「き、聞いてよー!」
男「嫌だ」
あやの「じゃあ……」
男「……」
あやの「勝手に謝るね。ごめんなさい」
男(……かなたといい、こいつといい、女って奴は……)

あやの「あのとき、怖がったりしてごめんなさい」
男「あのときだぁ?」
あやの「男さんが私に話掛けてくれたときだよ」
男「……あー。そんなこともあったな」
あやの「本当にごめんね。男さんのこと噂だけで怖がったりして、迷惑掛けて……」
男「やっぱ謝る必要はないな。実際、俺は怖がられるようなことしてんだから」

指で挟んだ煙草を、ひらひら振ってみせる。

あやの「でも、男さんは、泉ちゃんのことを聞きたかっただけなんでしょ?」
男「……」
あやの「……」
男「な、なんで知ってんだ」
あやの「だって『こな』って言い掛けてたよね? その後すぐに、泉ちゃんを連れていっちゃったし……」
男「……」
あやの「次の日には、二人は付き合ってるみたいだったから……そうだったのかなって……」
男「……貴様はどこぞの名探偵か。手紙の謎を解明したりするのか」
あやの「手紙?」
男「俺、そんなこと言ったか?……まぁいい。深く考えるな」
あやの「う、うん。とにかく男さんは、泉ちゃんに告白したかっただけだったんだよね」
男「……」
あやの「だから、ごめんなさい」

男「……そんなことで謝りに来たのか」
あやの「そんなことじゃないよ! 大切な告白の前だったのに……」
男「わかったわかった。許す。ほら、これでいいだろ? とっとと帰れ」
あやの「……ありがとう、男さん」
男「……」
あやの「やっぱり、本当は優しいんですね」
男「……」

峰岸は礼儀正しく一礼して、俺に背を向けた。
少しずつ彼女の背中が遠ざかる。

男「――おい」

気付いたら、俺は声を掛けてしまっていた。
すぐに聞こえなかったことを祈ったが、あやのは振り返ってしまった。

あやの「はい?」

頭に浮かんだ言葉を、仕方なく口に出す。

男「彼氏といるのは、楽しいか?」

峰岸は驚いていたようだったが、やがて、はにかみながら答えた。

あやの「とっても!」

あやのが行った後も、俺は暫くその場に立ちすくんでいた。

男「お、俺は何故あんなことを」
男「……」
男「か、かなたのせいだ! あいつが昨日、下らない話をするからだ!」
男「……覚えてやがれ、幽霊娘」
男「帰ったら塩のフルコースだ」
男「――ハッ」
男「ま、また独り言を……俺ってやつは……」

うなだれていると突然、車のクラクションが鳴り響いた。

男「うお」

俺は急いで車道脇に移動した。
やってきたのはパトカーだった。
パトカーは俺の目の前で停止した。
窓が開いて、婦警が顔を出す。

婦警「気をつけなよー? 道の真ん中に立ってると危ないよー? 特にこの道は、走り屋とか多いし」
男「あ、すみません」
婦警「おやぁ?」
男「……」

婦警が眼鏡ごしに俺をじっと見る。
煙草を持っているのがバレたのだろうか。

婦警「あなた、男くんじゃない?」
男「は?」
婦警「……うん! 絶対そうだよね!?」
男「……確かに俺は男だけど」
婦警「男なのは見ればわかる! 男くんかどうか聞いてるんだよ!」
男「だから! 俺は男!」
婦警「男なのはわかったってば! それ以上からかうと逮捕しちゃうぞ!」
男「俺の! 名前は! 男だ!」
婦警「あー」
男「……」
婦警「やっぱりそうだよねー! いやぁ偶然だねぇ。おねーさんびっくりだ」
男「あんた……誰だよ?」
ゆい「あや。自己紹介まだだっけ。ごめんごめん。私はこなたの従姉妹のゆいだよー」

男「あいつの従姉妹?」
ゆい「そう。男くんのことは、こなたからよく聞いてるよー」
男「……」
ゆい「ささ。立ち話もなんだし、乗りなさい」
男「え……あんた勤務中じゃ……?」
ゆい「細かいことは気にしない! さぁ乗るんだ!」
男「いや、でも……」
ゆい「むー……あ! あれはなんだ!」
男「え?」

ゆいさんの指差した方向を見た瞬間、カシャンと小気味いい音がした。
それと、手首に違和感。

男「……」

俺は手錠をはめられていた。

男「な、何すんだーっ!」
ゆい「外して欲しければ乗るのだ!」
男「く……卑怯な……!」
ゆい「あっはっは」
男「あんたそれでも警官か!」
ゆい「別にいいんだよー? 警官らしく、奇妙に膨らんだそのポケットの中身を追求しても」
男「なっ!」
ゆい「何が入ってるのかなぁ? なんか身体に悪そうな気配が――」
男「外道……っ!」
ゆい「あは」

ゆい「こなたのどこが好きなのー?」
男「言えません……」
ゆい「照れちゃってー!」
男「……」

パトカーの中で(予想通り)俺は質問攻めされた。
答えるのが難しい質問も幾つかあったが、なんとか誤魔化した。
散々話を聞いて、ゆいさんはようやく満足したようだった。

ゆい「うんうん。ラブラブだねぇ!」
男「……」
ゆい「でも私ときよたかさんには負けるけどねー!」
男「きよたかさん?」
ゆい「えへへ。私の旦那さんだよ」
男「……」
ゆい「ん? どったの? ま、まさかこなたと付き合っておきながら、私のことを!」
男「ありえねー」
ゆい「うぐ。それはそれでなんか悔しい……いいもーん。私にはきよたかさんがいるもーん」
男「……あの……」
ゆい「ん?」

男「……その人といると、どんな感じですか?」

ゆい「すっごく幸せ!」
男「幸せ……」
ゆい「……あー。でもあの人単身赴任してるから、あんまり会えないんだよねー……うー……」
男「じゃあ……嫌になったりしないんですか?」
ゆい「うゆ?」
男「意見や趣味……考え方が合わなくて、疲れたりしないんですか?」
ゆい「しないねー!」
男「何故ですか?」
ゆい「何故って……えーと……」
男「……」
ゆい「そうだなぁ……。合わなかったら、合わせる! これかな!」
男「合わせる?」
ゆい「そういうこと! 基本だよー。人付き合いの基本だよー」
男「……」

そのとき一台の車が凄まじい速度で、俺達のパトカーを追い抜いた。

ゆい「あの野郎……」
男「え」

後のことは思い出したくもない。

男「た、ただいま……」
子狐「くぅ!?」
男「どうした、だって? 聞かないでくれ……」
子狐「こん……」
男「ただ一つ言えるのは、あの暴走車のプライドはペシャンコだってことだ……」
子狐「きゅう」
男「はぁー……」
子狐「ぺろ」
男「お?」
子狐「ぺろぺろ」
男「こら、くすぐったいぞ」
子狐「ぺろぺろ」
男「……気を取り直して、飯でも作るか。腹減ってるだろ?」
子狐「こん!」
男「……あれ? そういえば、自縛霊は?」

かなた「誰が自縛霊ですか!」

かなたの顔が、天井からにょきっと生えてきた。
長い髪が垂れ下がって果てしなく不気味だ。

男「む。まだ怒ってんのか」
かなた「怒ってないです!」

そう言って、かなたは頭を引っ込めた。

男「明らかに怒ってるじゃねーか」
子狐「くぅん」

食事をし終えると、俺はかなたの部屋を訪れた。
いや、正しくはかなたが取り憑いている部屋、か。
ドア越しに

男「おい、かなた」

と声を掛ける。

かなた「なんですか!」

同じように声が返ってきた。

男「入るぞ」

ドアを開け、中に入る。
かなたは足の爪を切っているところだった。
入ってきた俺を見るなり、彼女は真っ赤になって爪切りを投げ捨てた。

かなた「な、なんですか! 不法侵入ですよ!?」
男「貴様に言われたくないわー!」
かなた「む……」
男「大体幽霊の癖に爪なんか伸びるのかよ!」
かなた「伸びませんよ!」
男「なら何を切ってたんだ!?」
かなた「なんでもいいでしょう!? それより、何か用ですか!? 用が無いなら出てって下さい! 塩投げますよ!?」
男「さわれるもんならさわってみろよ!」
かなた「どうせさわれませんよ! 幽霊ですからね! 塩にさわれますように、とお星様に祈るだけです!」
男「……」
かなた「……」

男「はぁ。その話はもういい」
かなた「もういいなら出てって下さい」
男「一つだけ聞いたら出て行く」
かなた「……なんですか?」
男「こなたの家の電話番号、教えてくれ」

かなた「え……」

男「早く。俺、携帯とか持ってないから、困ってるんだよ」
かなた「……」
男「あいつに番号も教えて貰ってないしな」
かなた「わ、わわわ」
男「ん?」
かなた「わかってくれたんですか!?」
男「ぶわっ! ち、近付くな! ひんやりする!」
かなた「ついにこなたを好きになってくれるんですか!?」
男「そうは言ってないだろ! ただ……」
かなた「ただ?」
男「合わせてみようかなってな」
かなた「……」
男「ま、まぁこれもただの気まぐれだ。好きになるかは、その後で決めるんだからな! 勘違いすんなよ!?」
かなた「気まぐれ……ですか……」
男「ああ。最初に気まぐれであんたと約束した。それなら、二回目の気まぐれがあっても変じゃないだろ?」
かなた「……ふふ。そうですね……ぐすっ……」
男「な、何泣いてんだよ!」
かなた「男くん」
男「あ?」
かなた「ありがとう……」

かなたに番号を聞いた俺は、埃をかぶった電話機を前にしていた。

かなた「わくわく」
男「おい、なんで貴様までいるんだ」
かなた「いいじゃないですか」
男「チッ」

受話器をあげ、番号を打ち込む。

男「……」
かなた「……」

1回、2回、3回と、呼び出し音が鳴り続ける。

男「よし。10回鳴っても出なかったら切ろう」
かなた「そんなっ!」
4回、5回、6回……

男「……」
かなた「お、お願い。出てぇ」

7回、8回、9回……ガチャ。

?『はい』
男「うおっ」

出たのは、の太い声をした男性だった。
断じてこなたではない。
俺は慌ててかなたに受話器を押し付けた。

かなた「えっ! な、なんで私に!?」
?『なっ! その声はまさかっ!?』
かなた「あ、わ! そ、そうくん!?」
そうじろう『うわっ! うわっ! うわあーっ!』

ガタガタという音が、伝わって来た。
どうやら向こうの受話器を、床に落としたらしい。

(=ω=.)『もー。何やってんの、おとーさんは』
そうじろう『か、かなたが出た! かなたが出たんだ!』
(=ω=.)『は? そんなわけないって。……よいしょ……もしもーし?』

かなたが黙って俺に受話器を返却してきた。
その目は「なんてことするんですか!」と言っていた。
俺はそれを受け取る。

男「こなたか?」
Σ(=ω=.)『えあっ!? ひ、ひゃああっ!』

またガタガタが聞こえた。
今度はこなたが落としたらしい。

そうじろう『な、な! かなただったろ!?』
(=ω=.;)『違うよ! 違うけど、別の意味でびっくりしたんだよ』
そうじろう『へ?』
(=ω=.;)『とにかく、ここは私に任せて。あっち行って』
そうじろう『でも……』
(=ω=.#)『早く』
そうじろう『うぅ。わかったよ……』

(=ω=.)『……もしもし、男?』
男「そうだ」
(=ω=.)『本当に、男?』
男「俺の名前は男だ」
(=ω=.*)『電話くれたんだね!』
男「ま、まぁそんなとこ」
(=ω=.*)『やったーっ! 嬉しいな、嬉しいな。なんのようかな、かな?』
男「えーと。なんつーか、その……明日会わないか?」
(=ω=.*)『もちろんだよっ! どこで待ち合わせするの?』
男「んー……駅前にある噴水はどうだ?」
(=ω=.*)『オッケー!』
男「それじゃ、また明日な」
(=ω=.*)『うん! おやすみ、男!』

受話器を置く。

かなた「……」
男「……何にやにやしてんだ」
かなた「ふふ。なんでもないですよ?」
男「塩(シ)ッ!」
かなた「いたぁっ!……ふふ……あっ! いたたっ! や、やめっ! いたいですーっ!」

男「ふぁーあ……よし。明日に備えて早く寝るか」
男「……」
男「べ、別に楽しみなわけじゃないけどな」
男「オタ話に合わせるのなんて大変だろうし……」

そのとき、部屋の片隅にあるいくつもの箱が、俺の目に入ってきた。
以前、こなたに押し付けられたエロゲ達だ。

男「……」
男「……」
男「……」

男「……ちょっと、やってみようかな……」

男「うん。話のネタになるかもしれないしな」
男「一本くらい、さわりだけプレイしてみよう」

俺は積まれたエロゲの中から、適当な一本に目をつけた。
恐る恐る手を伸ばす。
指先がエロゲの箱に軽く触れた。
その感触に、俺はビクッと手を引っ込める。
――馬鹿な。この俺が恐れているだと?
自分を奮い立たせ、箱を鷲掴みにする。
重い……。
これが、エロゲ……。
そのパッケージを舐めるようにじっくり観察する。

男「……Air? エロゲのくせに洒落た名前だ」

PCを起動し、Airのディスクをセットする。
インストールはすぐに完了。
ご、ごくり……

子狐「こん!」

男「わあああああああああああああああああああああ!」
子狐「くるっ!?」
男「はぁはぁ。な、なんだお前か。驚かすなよ」
子狐「くぅ」
男「……なんだ? まさかエロゲが見たいとか?」
子狐「こん!」
男「じゃ、一緒にやるか」
子狐「こん!」

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最終更新:2009年08月24日 13:27