12月23日
かなた「……くん! 男くん!」
男「……んあ?」
かなた「や、やっと起きたっ!」
男「なんだ、かなたか。……あ。俺、パソコンの前で寝ちまったんだな……」
かなた「寝ぼけてる場合じゃないですよ! 今何時かわかってます!?」
男「何時って……」
時計を見る。
男「……8時か。そういえば昨日、何時に約束だとか決めなかったな。そろそろ行った方がいいか」
かなた「8時じゃないですよ!」
男「はぁ? どう見ても8時だろ。幽霊になると時計が読めなくなるのか」
かなた「じゃあ外を見て!」
男「……あれ? 今日は曇ってるな。やけに暗い――」
言いかけて気が付いた。
暗いどころではない。
これは……
男「夜っ!?」
子狐「きゃんっ!」
俺は慌てて立ち上がった。
膝の上で寝ていた狐がどすんと落ちる。
男「は、8時じゃなくて20時っ!?」
男「なんで起こさなかったーっ!」
かなた「あらゆる手段を使って起こそうとしましたよ! でも全然起きないんだから!」
男「だ、だって」
かなた「だって、なんですか! 昨日は早く寝たんじゃなかったんですか!」
男「……観鈴ちんぴんち……国崎最高……つまり……」
かなた「はい!?」
男「朝までエロゲしてた」
かなた「……」
子狐「すやすや……」
かなた「ば、ばかぁーっ!」
男「おわぁっ! も、物を投げるな!」
かなた「ばかっ! ばかっ! ばかぁーっ!」
男「いたたたっ! お、俺が悪かった! 悪かったってば!」
かなた「今すぐ行ってあげて下さい!」
男「は!? いくらなんでも、待ってるわけないだろ!?」
かなた「……」
男「わ、わかったわかった! 行くから、振り上げたそのハサミを捨てろ!」
子狐「すやすや……」
かなたに急き立てられ、俺は駅前の噴水に向かっていた。
男「いるわけねーってのに……」
煙草をふかしながら愚痴る。
そんな風に歩いていると、前から二人の女がやってきた。
夜の闇でその顔はよくわからない。
男(こんな時間まで遊んでるとは、不良め)
すれ違いざま、二人の会話が聞こえた。
リボンの女「ねぇおねーちゃん。こなちゃん、あんな所で何してたんだろうね」
お下げの女「さぁね。人間観察とかふざけたこと言ってたけど……。ちょっと様子が変だったわね」
リボンの女「最近、怖い人と付き合ってるって噂だしねー。そういえば、バル……」
二人の会話が離れていく。
彼女達の足音を聞きながら、俺はその場に立ちすくんでいた。
咥えていたはずの煙草が、何故か地面にぶつかる。
男「……」
男「はぁ、はぁ……!」
駅前に着いたとき、俺の息は完全に上がっていた。
こんなに全力で走ったのは、久し振りだった。
息も凍るほど寒い夜なのに、額に汗が伝う。
男「ふぅ」
上着を脱ぎ、肩にかける。
凍て付く夜風が心地いい。
男「あいつは……」
俺は辺りを見回した。
まばらにしかいない人々。
もはや21時を指し示す背の高い時計。
大きな噴水。
その横のベンチ。
男「あ……」
そこに、こなたはいた。
(=ω=.)「……」
時々寒そうに手を擦り合わせながら、じっと待っている。
その表情はよくわからない。
なんで、待ってんだよ……?
戸惑いながら、俺は声を掛けることにした。
男「……おい」
(=ω=.)「……」
男「おい!」
(=ω=.)「あ……」
男「……」
(=ω=.)「男……?」
男「……」
(=ω=.)「あは……。来てくれたんだ……」
男「……」
(=ω=.)「待ってた甲斐、あったかなぁ?」
男「……」
(=ω=.)「ね、男」
男「……なんだ?」
(=ω=.)「隣、座って……」
こなたに促されるまま、俺はベンチに腰掛けようとする。
男「あ……」
しかし、そこにある二本のジュースに目が止まり、動作が途中で停止してしまう。
男「これ……」
(=ω=.)「ん? あー……一緒に飲もうかと。飲みたいなら飲んでいいよ」
男「……」
俺はジュースに手を付けず、その分だけこなたから距離をとって、座った。
(=ω=.)「……」
男「……」
長い沈黙の時間が過ぎた。
その間、俺は言うべき言葉を見つけられず、ただこなたの言葉を待っているだけだった。
(=ω=.)「……」
男「……」
そのとき、駅から一人の酔っ払いが現われた。
酔っ払い「ひっく……」
相当飲んだのか、千鳥足で右に左にふらつきながら歩いている。
酔っ払い「ん……?」
不意に俺と酔っ払いの目が合った。
酔っ払い「なんか文句あるんかー! ラブラブしよってからにー! クリスマスイブイブってか!?」
酔っ払いが叫んだ。
酔っ払い「熱々ってかぁー!? 見せつけとるつもりか! そうや! どうせウチは一人もんやーっ!」
そうやって叫ぶだけ叫ぶと、酔っ払いはふらふらした足取りのまま走り去った。
(=ω=.)「……あはは。ラブラブだってさ」
男「タチの悪い酔っ払いだったな」
(=ω=.)「そう言わないであげてよ。あの人も寂しいんだよ」
男「そうかもな」
(=ω=.)「……」
男「……」
(=ω=.)「……私も、同じだけどね」
男「……」
(=ω=.)「あのさ」
男「……」
(=ω=.)「私さ、男に告白されたんだよね……?」
男「……」
(=ω=.)「そうなんだよね?」
男「……ああ」
(=ω=.)「付き合ってるんだよね?」
男「付き合ってるな」
(=ω=.)「私は、男が大好きだよ」
男「……」
(=ω=.)「ずっと好きだったから、付き合えてとっても嬉しかった」
男「……」
(=ω=.)「……男は?」
男「……」
(=ω=.)「男も、嬉しかった?」
男「……」
(=ω=.)「私のこと……好き……なんだよね?」
こなたの声が震える。
(=ω=.)「ねぇ……」
男「……」
(=ω=.)「教えてよ……」
男「……」
(=ω=、)「どうして?」
男「……」
(=ω=、)「なんで一度も、笑ってくれないの?」
男「……」
(=ω=、)「好きじゃないなら、なんであんなこと言ったの?」
男「……」
(=ω=、)「うぅ……うー!」
男「……っ!」
(=ω=、)「あっ!?」
俺は、こなたを抱き締めた。
何故そんなことをしたのかは、よくわからなかった。
気まぐれでもなんでもなく、気付いたときには彼女が胸の中にいた。
その身体はすっかり冷たくなっていて、とても小さかった。
(=ω=、)「うぅ……」
男「……」
どれだけ耐えていたのだろう?
俺のために震える彼女を、強く抱き締めながら考えた。
そうしていると、今まで誰にも感じることのなかった気持ちが生まれた気がした。
温かくて、不安定で、とても優しい気持ち。
男「……お前の言う通りだよ」
(=ω=、)「……」
男「付き合ってくれと言ったが、本当は好きでもなんでもなかった」
(=ω=、)「……」
男「ごめん……」
(=ω=、)「……それでもよかった。どんな形でも男のそばにいられるなら、それでよかったよ」
男「……」
(=ω=、)「でもね、今日……あんまり外が寒かったから……」
男「……」
(=ω=、)「凄く寒くて……私……」
男「……」
(=ω=、)「うぅ……」
――ああ、そうか。
俺もこれが怖かったんだ。
人に傷付けられることが、怖くて仕方なくて。
だから最初から拒んでいた。
不安定に揺れる気持ちの上に立つのを拒んでいたんだ。
男「ごめん。傷付けて、ごめん」
(=ω=、)「……」
男「謝っても許して貰えないだろうが、本当に……」
(=ω=、)「……」
男「でももし、許してくれるなら……」
(=ω=、)「……」
男「信じられないかもしれないが、聞いてくれ」
俺は、不安定な足場に身を置くことを、決意した。
男「俺は、お前が好きだ」
(=ω=、)「え……」
男「好きだ」
(=ω=、)「男……」
男「好きだ」
(=ω=.*)「……」
男「好きだ」
(=ω=.;)「……あわ」
男「好きだ」
(=ω=.;)「あわわわわ」
男「好――」
(=ω=.;)「うきゅーっ! す、ストップストップ! う、うう嬉し過ぎて色々壊れる!」
男「む」
(=ω=.;)「はぁはぁ……でもなんで急に?」
男「やっぱ駄目か?」
Σ(=ω=.)「だ、駄目じゃないっ!」
男「じゃあいいのか?」
(=ω=.*)「もちろんだよっ!」
男「そっか。……サンキュ。これから、よろしくな」
(=ω=.*)「男ーっ!」
こなたが抱き返してきた。
男「そういえば、俺、Airやったぞ」
(=ω=.*)「えっ!」
男「国崎最高ーっ!」
(=ω=.*)「もしかして今日遅れたのって、それが理由?」
男「あ……ま、まぁそんなとこ」
(=ω=.*)「むふー」
男「なんだよ!」
(=ω=.*)「イインダヨー。グリーンダヨー。そういうことならしょうがないんダヨー」
男「は?」
(=ω=.*)「私も最初にエロゲやったときは、目の下にでっかいクマが出来たものさ」
男「いつの話だ」
(=ω=.)「あれはぁー……中学せ……」
男「そ、それ以上言うなっ! やばいだろ!」
(=ω=.*)「あは」
男「まつたく!」
(=ω=.*)「ね、男」
男「あん?」
(=ω=.*)「大好きだよーっ!」
男「うわらばっ! サバ折りだと!? やめろ! せ、背骨がァーっ!」
(=ω=.*)「えへ」
男「ただいまー」
かなた「あ!」
子狐「こん!」
男「狐ぇーっ! お前は可愛いなぁーっ!」
子狐「く、くるっ!?……くぅんくぅん」
かなた「……男くん?」
男「あ?」
かなた「ど、どうでした? こなた、いましたか?」
男「いた」
かなた「……」
男「よしよーし、狐、狐!」
子狐「くんくん」
かなた「それで、どうなったんですか?」
男「……」
かなた「……」
男「聞きたいのか?」
かなた「まさか、何か悪いことに……?」
男「……そうだな。この先次第かな」
かなた「この先?」
男「何しろ、人と付き合うなんざ初めてだし」
かなた「え……?」
男「……ま、そういうことだ」
かなた「……」
男「……」
かなた「男くん!」
男「うわあああああああああああっ!」
かなた「あ。しまった。抱き締めるつもりが通り抜けちゃった……」
男「ひくひく」
子狐「……」
かなた「うー……ひりひり……悪気はなかったのにー……」
男「そういう問題じゃない」
かなた「大体ですねー、男くん」
男「なんだ。無い胸を張るなと言ってるだろ」
かなた「ほら、またばかにして! 私、一応こなたの母親なんですよ?」
男「一児の母とはとても思えないが、そうだな」
かなた「またまたばかにしましたね! 母なのに!」
男「だからそれがどうしたんだよ?」
かなた「あなたがこなたの恋人なら、私はあなたの義理の母になるんですよ?」
男「幽霊なのに?」
かなた「幽霊は関係ないです」
男「ふーん。そうなるのか」
かなた「少しは敬意を持って下さい」
男「敬意ってどんな風に?」
かなた「かなた母さんって呼んで下さい」
男「地獄に墜ちろこの自縛霊」
かなた「ひ、ひどいです!」
男「ふざけたこと言うからだ!」
かなた「でも私、息子も欲しかったんですよねー。一回だけでいいから呼んで下さいよー」
男「無理」
かなた「うぅ。しどい……狐ちゃぁん……男くんがお母さんにひどいのよー」
子狐「がぶっ!」
男「ぎゃあああああっ! だから何故俺を噛む!? 何故そいつの言うことを聞く!?」
子狐「がじがじ」
男「指がちぎれるゥーッ!」
かなた「あはは!」
子狐「がじがじ」
男「はうっ! き、貴様ら! 覚えておけええええええええええええ!」
かなた「……あは……」
子狐「がじがじ」
男「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
かなた「……狐ちゃん」
子狐「がじ?」
かなた「もういいよ。ありがとうね」
子狐「こんっ」
男「はぁはぁ……と、途中でやめたからって許されると思ってんのか!?」
かなた「……ごめんね」
男「謝っても許さん! かねてから計画していた、塩風呂に入れてやる!」
かなた「……」
男「おい。聞いてるのか?」
かなた「……」
男「……なんだよ。変な顔しやがって」
かなた「……いよいよ、明日ですね」
男「……」
かなた「……」
明日は24日。
それはつまりクリスマスイブで、俺の誕生日で……俺が死ぬ日だ。
男「忘れてたわけじゃないが、わざわざ思い出させてくれるとはな。ありがとうよ」
かなた「ごめんなさい……」
男「……謝るなよ」
かなた「せっかく上手くいったのに……」
男「……」
かなた「男くんが人を好きになれたのに……」
男「……」
かなた「もう終わりだなんて……悲しいよ……」
男「わかってたことだろ」
かなた「それはそうですけど……」
男「……」
かなた「……」
男「ていっ」
かなた「あいたーっ!? な、何するんですか!?」
男「下らないことを言うな。こっちは最初から覚悟出来てるんだよ」
かなた「……」
男「それより、明日のデートを成功させる方法でも一緒に考えろ。デートって何すればいいんだ?」
かなた「……もう。わかりました。かなた母さんが教えてあげます!」
男「やっぱいらん」
かなた「ひどっ!」
最終更新:2009年08月24日 13:28