「た、高良さん!」
「あら、男さん。どうされました?」
「今日一人で帰るんだよね?良かったら一緒に帰らない?」
「え?ええ、構いませんけど……」
ちょっと戸惑っている。
「ノートもちょこちょこ借してもらってるし、お礼にドーナツでもおごるよ」
「いえいえ、そんなにお気を使わずとも……」
「いやあ、借りてばっかりってもの悪いし。も、もちろん無理にとは言わないけど……」
「あ、あの……本当にお気遣いなく……困ります……」
これは……もしかして、断られるパターン?
ATフィールドを張られちゃってるわけか?
「あ、いや、別に気を使ってるわけじゃなく、ただ、何て言うか、その、ドーナツが俺を呼んでいるって言うか……」
うわー、我ながらテンパってんな、俺。
「……っていうか、単純に高良さんとドーナツ食べたいんです!」
うわー、言うに事欠いてそんなセリフかよ、俺……
「そうですか……わかりました。ではお礼とかそういうの関係なく、ということでしたら、ご一緒させていただきます」
にっこりと微笑む高良さん。
女神の笑顔。
よし!
よーしよしよしよし!
グッジョブ、俺!
よかった……
ここで断られたら学校に通う気力を3日分くらい無くすところだったぜ。
それに、別に俺とドーナツ屋に入ること自体を嫌がってるわけじゃなくて、本当に「ノートのお礼だから」といって気を使われるのが嫌だったらしい。
俺は心底ほっとした。
「ありがとう!じゃ、さっそく帰ろっか!」
「はい」
「学校帰りによくこういうお店に寄ったりなさるんですか?」
「いや~、普段、男友達と行く時はハンバーガーだね。女の子は甘いものの方がいいかなと思って今日はドーナツにしたんだけど……」
「そんなところにまで配慮して頂いてたんですね。ありがとうございます」
「あ、いや、別にそんな大したことじゃないよ、あはは……甘いものは好き……かな?」
「ええ、和菓子なんかとくに好きです!」
あ~、和菓子かー。でも和菓子はこういうお店じゃ食べられないもんな……
「そっか、和菓子にもこういうお店があればいいのにね」
イメージは『峠のお茶屋』みたいなもんか……?
「え、あ、いや、でもドーナツも好きですよ。すみません、私ったら。せっかくこうしてドーナツを頂いてるのに和菓子の方がいいみたいな言い方……すみません……こういうのKYって言うんですよね……?」
「あ、いやいや、全然気にしなくていいよ」
なんかギクシャクするな……
何か……何か話題はないか?
「そ、そういえばさ、ド、ドーナツって、なんでこんな形してんのかな?」
うわー、激しくどうでもいい話題を振っちまった……
「えっと……ドーナツの穴ですか?それに関しましては、私こんな話を聞いたことがありますよ。もともとドーナツには穴が無かったらしいですが、19世紀半ばにハンソン・グレゴリーという方が穴を空けることを考えたのだという説もあるそうです。このハンソン・グレゴリーさん、船長をやっていたそうで、操舵輪のスポークにひっかけるためにドーナツに穴を空けることを考えたという説と、子供の頃に母親が作る生焼けの揚げパンを見て、火どおりをよくするために穴を空けることを考えたという説があるらしく、どちらが本当なのかはよくわかってないらしいです」
………うわあー
俺、今日は「うわー」ばっかりだな。
「――ちなみに、ドーナツの『ドー』というのは小麦粉に水・砂糖・バター・卵などを混ぜた生地のことを意味し――(中略)――だ、そうですよ。……あ、あの、男さん?」
はっ!?思わず、寝てしまいそうに……
「……え!?あ、いやいや、よく知ってるな~、と思って。あはは」
こ、これがみwikiさんと呼ばれる理由か……
やはり、この人、俺ごときでは手におえない気が……
いや、ここで弱気になっちゃダメだ。
逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!
「高良さんって、物知りで勉強家なんだね」
「ええ、まあ……お恥ずかしながら、もともとは小さい頃、母に『みゆきは物知りで偉いわね~』と褒められたことが嬉しかった、という些細なことがきっかけなんです。それ以来、知識を吸収するのが楽しくなってしまって」
勉強家の高良さんにはそんなかわいらしい起源があったのか。
やはりこの人は可愛すぎるぜ……
ぎこちないなりに高良さんと楽しい会話ができていた。
今日のところはそれでいいと思っていた。
――そう、高良さんの口からあんな言葉が出るまでは……
最終更新:2008年07月05日 18:25