「私、男の人と二人でこういったお店に入るの、実は、初めてなんです」
そういう話題を高翌良さんのほうからふって来た時、正直、俺は動揺した。
冷静なフリをしながらも、その真意を測りかねた……
「へ~、意外だね。高翌良さんってモテそうなのに」
「いえ、お恥ずかしながらそのような話とはあまり縁がなくて……」
「そうなんだ……」
俺は白石の話を思い出す。
カベ……か。
………
――よし!ここは、きっとここは勝負どころだ!
サッカーで言うなら左斜め45°のフリーキックだ!
俺も男だ。
俺は男だ。
シュミレーションは何度も重ねてきた。
シュミレーションつってもPKもらうためにわざと倒れるアレじゃない。
いささか、暴走気味な気もするけど。ここは思い切って!
「――もしかして、高翌良さん、男の人苦手だったりする?」
「え!?いえ、別にそんなことは……」
「そっか、なんとなくそんな感じに見えたんだけど……」
「……いえ、実は……ちょっと苦手です」
「あ、やっぱり?」
「ええ……」
高良さんの表情が曇りだしたのが少々気になったが、ここまで来たら……
「あのさ、それなら俺のことも苦手……かな?」
「え!?」
……もう引き返せない!
「お、男さんの事は別に……苦手というわけでは……」
「……いやさ、俺はニックネームも『男』なくらい男なわけで……」
「………」
「でも、男の人がちょっと苦手な高翌良さんも俺とはこうしてドーナツを一緒に食べてくれてるわけで……」
「………」
「ということは、少なくとも高翌良さんはきっと俺のことを『一緒にドーナツ食べるくらいならいいかな~』ってくらいの仲だと思ってるわけで……」
「………」
高良さんはずっと黙っている。
ヤバイ!自分でも何言ってるのかわからなくなってきた。
ダメだ!この沈黙、俺には耐えられん!
――ッ!
――ッ!
「――ッ!ぶっちゃけ、俺、高良さんのことが好きなんです!俺と付き合ってください!」
………
……言っちまった。言っちまったよ、俺。
俺の女神、高良さんに告っちま――
「ごめんなさい」
――ったよ、俺。
って、えええ~!!早ッ!?
「あの……私そういうのよくわからなくて……それに男さんとはまだ出会って間もないですし……お互いのことよく知りませんし……
……ですから男さんとはお付き合いできません」
はっきり言われた。
「あ、あはは……そ、そうだよね。ごめんね、ちょっと帰りに二人でお茶してるからっていい気になって、何かいきなり変なこと言って……」
なに謝ってんだ、俺。このまま引き下がっていいのか!?
でも食い下がってもウザイと思われるだけだろうしな……
「あ、あの。私、そろそろ失礼させていただきます」
気まずそうに席を立とうとする高良さん。
ヤバイ、このまま何もできずにジ・エンドなのか!?
い、いや、あきらめたらそこで試合終了ですよ!?
安西先生!バスケがしたいです。
何か……何か言って高翌良さんを引き止めよう!
「待って。高翌良さん……」
何か……
しかし、俺はその『何か』の選択を決定的に誤ったらしい。
いくらテンパっていたとは言え……
「ごめん。あと、一つだけいいかな?」
「……?何でしょう?」
「今までもそうしてきたの?」
「……はい?」
「いや、今もそうなの?」
「男さん、何を言っているのか……?」
「高翌良さんって、なにか、こう、周囲にカベみたいなもん作ってない?誰に対しても、本当に近い距離には近寄らせない雰囲気って言うか……」
「………」
「誰に対しても敬語だしさ、いい人オーラでAT……じゃない、カベをつくっているって言うか……」
……い、いや!違う、俺が言いたいのはこんなことじゃない!
そこで俺はハッとなる。目の前の高良さんから表情が消えていた。
「………」
「あ……いや、俺がフラれたからといって、そのカベに弾かれたからといって、負け惜しみでこんなこと言ってるんじゃなくて……その……」
なに言い訳してんだ、俺……カッコ悪さ全開じゃないか。
「えと……俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……
もちろん、誰に対しても心を開けなんていうつもりはないけど……っていうか、そっちのほうがむしろ危険だけど。詐欺とか合いそうだし……高良さんなんかとくに……」
あわわ、また余計なことを……
「………」
「ただ……高良さん、パッと見は誰に対してもいい人だけど、本当は誰にも、こなた達にも心を開いてないんじゃない?でも――」
でもそういうのは後から辛い思いばかりが、
募ってくる、
積もってくる、
溜まってくる。
前の学校で……サッカーを辞めた後の俺がそうだったから……
「――そういうのは良くないと思」
「もう結構です」
高良さんは、ほとんど表情の消えたその顔で、静かに、でも有無を言わさぬプレッシャーを込めて、俺の言葉を遮った。
まるで生まれたばかりの悟空を見るバーダックのような目で、
『戦闘力2か。ゴミめ』とでも言いそうな雰囲気で。
俺が知っている女神は、もうそこにはいなかった。
そして言った。
「私、これで失礼させていただきます」
もう、何も言えなかった。
俺は何も言えず、店を出て行く高良さんを見送った。
俺はしばらく動くことすらできなかった。
呆然とする、残された俺。
なんと言うか……もう……
こんな時なんて言うんだっけ?
えっと……あ、そうだ。
人生\(^o^)/オワタ
(※こなた先生直伝オタク用語集~初歩編~ より抜粋)
最終更新:2008年07月05日 18:26