12月20日☆
かなた「いってらっしゃい、男くん」
男「……」
かなた「あれ? どうしたんですか?」
男「お前さぁ……」
男「いってらっしゃいにゃん、ご主人様!」
男「……ってやってるんだってな?」
かなた「……」
男「……」
かなた「ど、どどどどどどうしてそれをっ!」
男「ふ……。どうしてだろうな?」
かなた「まままままままままさか前回の私がそんなことを!?」
男「さぁて、学校行くかなぁ」
かなた「うっ……うぅっ……。も、もう生きていけないです……」
男「生きてないくせに」
男「あ。そういえば煙草切らしてたんだった。そういや前も今日だったなぁ」
前回同様、逆さまの自販機に向かう。
この二日ラッキースターを吸い続けた結果、俺はついにその独特な味に惚れてしまったのだ。
男「もうこれ以外の煙草なんて考えられないぜ!」
上にある受け取り口から、箱を取り出しながら言う。
男「パチモンなんて言ってすまなかったなマイベストフレンド!」
端から見たら怪しい人かもしれないが、生憎俺しかいない。
そう思っていると
リボンの女「くすん……くすん……なんでこんなことにぃ……」
と背後をリボンをつけた女が歩いていった。
俺は恥ずかしさを誤魔化すようにうつむいた。
そこで気付く。
男「あれ……?」
今の奴、どっかで見たことあるぞ?
男「……」
顔をあげてみたが、もう彼女はいなかった。
学校に到着した。
男「そういや、校門でこなたと会うんだっけ」
俺は校門の周辺を見回した。
男「……ん?」
校門近くの電柱から、アホ毛が生えている。
……電柱からアホ毛?
よく見てみると、電柱の陰に誰かいる。
男「……こなた?」
こなたは電柱の陰からちらちらこちらの様子を窺っていた。
気付かれていないつもりだろうか。
男「あ、そうか」
俺は理解した。
前回の俺は、ここでこなたと出合ったのは偶然だと思ったが、実はあいつが待構えていたのか。
男「……俺、気付かなかったんじゃねーか。あんなにわかりやすいのに……」
自分に失望しながら、俺はこなたに近付いていった。
男「……」
電柱の真近くに立つと、俺は揺れるアホを掴んだ。
(=ω=.;)「あいったたたたたたたたたっ!」
男「フィッシュ!」
(=ω=.;)「ふぃ、フィッシュじゃな――いたたたっ! わ、私の萌え要素を離すんだっ!」
男「何が萌え要素だ。待ち構えやがって」
(=ω=.#)「ふぅ……痛かったなぁもう。ここだけハゲたら、私は男を絶対に許さない」
男「で、なんで隠れて待ってたんだよ?」
(=ω=.)「……」
男「……」
(=ω=.*)「愛だよ」
男「貴様の愛は狂ってるな」
(=ω=.;)「ひ、ひどっ! この純情がわからぬか」
男「……わからん!」
(=ω=.;)「……」
男「……」
(=ω=.)「まぁそんなストーカーちっくな話より、もっと楽しい話があるじゃん!」
男「なんだ?」
(=ω=.)「昨日も話したけど」
(=ω=.*)「今日から冬休みだーっ!」
男「わーわー」
(=ω=.*)「学校終了祝いに、今日はぱーっとカラオケでも行こうよ!」
男「よーし、行くかぁ!」
(=ω=.*)「おー!」
男「いやあ。いっぱい歌ったなぁー」
(=ω=.<)「そうだね……」
男「もうこんな時間だもんな。カラオケは本当に楽しいな」
(=ω=.<)「そうだね……」
男「……なんかお前、ふらふらしてないか? 歌い過ぎたんだろ?」
(=ω=.<)「そうだね……」
男「まつたく、ハメ外し過ぎだって。俺のように節度を持てよ」
(=ω=.<)「あれで……節度を持ってたんだ……」
男「まだまだ歌えるぞ?」
(=ω=.<)「それだけは許して下さい。本当に許して下さい」
男「はぁ?」
そんな他愛ない話をしながら二人で歩いていると
(=ω=.)「……お?」
目の前の路上に、何枚も花びらが落ちていた。
男「これ桜の花びらか?」
(=ω=.)「だねぇ」
しかし周りに桜の樹などない。
男「変なこともあるもんだ」
(=ω=.)「あっ」
男「ん?」
(=ω=.*)「ここ! ここだよ!」
男「ここ?」
(=ω=.*)「ここで私達は出会ったんだよね!」
男「あー……そうだったな」
(=ω=.*)「花びらの辺りに、猫が捨てられてて」
男「そう。猫が……」
……猫?
(=ω=.*)「男が拾ってたんだよね。いやぁ、懐かしいなぁ」
男「ちょっと待て、こなた」
(=ω=.)「む?」
男「俺が拾ったのは、狐だぞ?」
(=ω=.;)「き、狐……?」
男「そうだ」
(=ω=.;)「どう見ても猫だったじゃん」
男「いや、狐だって! 猫に似てるけど、狐なんだよ!」
(=ω=.#)「えー。そんなはずないってばー。確かに見たもん」
男「何を見てたんだよ!」
(=ω=.#)「からかってるね? じゃあ見せてよ、その狐」
男「は?」
(=ω=.#)「まだ飼ってるんでしょ?」
男「おう。当たり前……」
言いかけて、気が付いた。
男「……」
俺の家からあいつがいなくなっていたことに。
俺は家に飛び帰った。
男「かかかかかかか、か、かなたああぁぁぁっ!」
かなた「わっ! な、なんですか? どうしたんですか?」
男「き、狐っ! ききききき狐っ! 狐はいるかああぁっ!?」
かなた「き、狐さん?」
男「そうだ! 可愛い子狐だ! 俺が飼ってる貧乳史上主義の狐だっ! し、しし知ってるだろ!?」
かなた「い、いいえ……」
男「嘘をつくなーっ! ずっと家にいるはずなんだ! ニート幽霊の貴様が知らないはずがないだろ!?」
かなた「嘘じゃないですよぉ」
男「まだ嘘ぶくか! さささささては貴様が隠してやがるんだな!? 塩(シ)ッ! 塩(シ)ッ!」
かなた「あいたーっ! もう! 知らないっていってるでしょう!?」
男「嘘だァッッッッッ!」
かなた「嘘じゃないです!」
男「し、信じるもんか!」
かなた「最初からいませんよ! 狐さんなんか見たこともありません!」
男「う、うぞ……」
かなた「本当です。この家のことなら、私が一番よーく知っています」
男「あ、あわ……」
かなた「……」
男「探さなきゃ……!」
かなた「え……」
男「お、おおお俺! 探してくる!」
かなた「あ! ま、待って――」
男「うわあああああああああああ!」
かなた「あ。しまった。止めるつもりが通り抜けちゃった……」
男「ひくひく……」
かなた「だからですね。こんな夜に探しても見つけるのは難しいと思います……ひりひり」
男「……でも、こんな寒空の下で……」
かなた「アテはあるんですか?」
男「にゃい……」
かなた「……それならなおさら、探すのは明日にしませんか?」
男「……」
かなた「今回の24日にも貴方に何かが起こるのなら、徹夜なんかして時間を無駄にしちゃ駄目です」
男「……」
かなた「……私も狐さんのことは可哀相だと思ってるんですよ?」
男「……わかってるさ。お前が正しい。薄情者だ、なんて思ってない」
かなた「男くん……」
男「それと」
かなた「はい?」
男「狐ちゃんって呼んでやってくれ……」
かなた「な、なんでですか?」
男「……前回のお前は、そう呼んでたんだよ」
かなた「……」
男「かなり仲良かったぞ。一緒に飯を食べたり……」
かなた「……」
男「お前のために、飼い主である俺に噛み付いたり……」
かなた「今すぐ探しに行くべきです」
男「……!?」
かなた「何してるんですか! そんな素晴らしい狐さん……ううん! 狐ちゃんを放置しちゃだめです!」
男「い、言ってることが違っ!」
かなた「ええい! もういいです! 私が行きます!」
かなたは鼻息粗く部屋の壁を擦り抜けようとして
かなた「うあっ」
べしっと跳ね返された。
男「……出れないって、本当だったんだな」
かなた「きゅう……」
12月21日☆
(=ω=.;)「き、狐探し?」
男「ごくごく……ぷはっ。そう、狐だ」
俺はこなたに貰ったジュースを飲みながら言った。
男「猫じゃないからな」
(=ω=.;)「むー。記念すべき初デートがフォックスハンター……」
男「何が初デートだ。どうせ今日も、これがなければゲーセンアニメイトコースだろうに」
(=ω=.*)「ま、それもそうだね。それに比べたら狐狩りの方がお洒落かな? 貴族のスポーツっぽくてさ」
男「狩ってどうするんだ貴様はっ! 優しく保護しろっ! 丁重に扱えっ!」
(=ω=.;)「冗談だって。というか、これから探すのって昨日話してた猫だよね?」
男「昨日話してた狐だな」
(=ω=.)「わかったぁ、わかったぁ」
男「本当にわかっているのか!? 俺の狐の一大事なんだぞ! 真面目にやれよ!?」
(=ω=.;)「もう、探すならどっちでもいいじゃん。猫でも猫でも」
男「なんで猫しか選択肢がないんだ! 狐だっての! 切なくなるほど可愛い子狐だ!」
(=ω=.;)「はいはい。狐でも、ね。……男ってさ、相当あの猫を溺愛してるね。ちょっと嫉妬していい?」
男「猫じゃないが却下だ。そんなことしてる暇はない。さぁ、これを……」
(=ω=.)「……何これ」
男「見て分からないか? 俺のパンツだ」
(=ω=.;)「なんでパンツ」
男「あいつは、これを枕にして寝るのが好きだったんだ……」
(=ω=.#)「てりゃっ!」
男「お、おまっ! 何故投げ捨てるーっ!?」
(=ω=.)「そんな猫は、嫌だ」
俺達は狐――こなた的には猫――を探し回った。
あるときは住宅街を。
(=ω=.)「ねっこちゃーん?」
男「狐ぇーっ! うおおおおお!」
(=ω=.;)「男……さすがにマンホールを開けても出てこないと思うよ」
またあるときは商店街を。
(=ω=.*)「にゃーにゃー」
男「こんこんっ!」
(=ω=.;)「ねぇ男。猫でも狐でもいいから、名前付けないの?」
男「俺にはそんな生き物への冒涜は出来ない……」
(=ω=.;)「じゃあ私達に名前が付いているのをどう思う?」
男「うるせーっ! それに俺には名前など――」
(=ω=.#)「わーっ! わーっ!」
またまたあるときは学校の中を。
(=ω=.)「こそこそ(ねこちゃーん?)」
男「こそこそ(どこへ行ったんだああああああぁぁぁぁぁっ!)」
(=ω=.)「こそこそ(それをこそこそで表せるのが凄い)」
またまたまたあるときはアニメイトを。
男「え!? アニメイト!?」
(=ω=.*)「にゃー!」
そうして探し回っていると、ついに日が傾き始めた。
俺達は公園のベンチに座って、少し休憩することにした。
(=ω=.;)「見つからないねー」
男「……ううっ。どこに行ってしまったんだ……。あんなに一緒だぁったのにぃ……」
(=ω=.*)「言葉一つ通らないぃー」
男「アホ! 言葉はわからずとも以心伝心してたわ!」
(=ω=.;)「……ジョークすらも通らないぃー……」
男「きゅ、休憩してる場合じゃない!」
(=ω=.;)「えー。ちょっとだけ休憩させてよ……」
男「わかった」
(=ω=.*)「……」
男「で、でもやっぱり探さないと!」
(=ω=.;)「……」
男「そ、そうだな。休憩だ休憩だ……」
震える手で煙草を咥え、火を点ける。
男「ふぅ。……落ち着いた」
(=ω=.;)「煙草、逆だけどね」
男「……」
(=ω=.;)「……」
男「あぁぁぁ……あいつがいなかったら俺はぁぁぁ……」
俺は手に顔を埋め、うなだれた。
(=ω=.)「あ!」
男「なんだ! み、見つけたのののか!」
(=ω=.#)「くそぅ。今日はネトゲでイベントがあったんだ。忘れてた」
男「……」
俺はより一層深い悲しみに包まれた。
(=ω=.)「あ!」
男「どうしたんだ! 今度こそいたのか!?」
(=ω=.*)「閃いた! 張り紙をして、誰かが見つけてくれるのを祈ろうよ!」
男(……俺は24日に死ぬ予定……)」
俺の精神は絶望の深海へ墜ちていった。
(=ω=.)「あ!」
男「……」
(=ω=.*)「いたああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!」
男「はいはい……」
(=ω=.#)「本当だよ! あそこ見て!」
男「うん、いるね……」
(=ω=.#)「見てないじゃん! ほらぁぁぁ……」
男「いててっ! や、やめろ! 首の骨が折れ――」
……あ。
目をあげて、こなたが指差す方を見ると
猫「……」
そこには猫がいた。
(=ω=.*)「ほらねー。いたでしょ!」
男「……あれは違う」
(=ω=.#)「目、悪いの?」
男「悪くない。でも絶対あれは違う。あれは……」
(=ω=.#)「もー! 違わないってば! 私が連れてきたげる」
男「ま、待て!」
こなたは俺の制止も聞かずに猫の方に走り出した。
男「そいつは――!」
猫を捕らえるこなた。
(=ω=.*)「捕まえ――」
猫「何すんじゃワレェェェーっ!」
(=ω=.)「た」
俺はその様子を見ながら、こなたに伝えたかった言葉を、小さく呟いた。
男「……喋るんだ……」
(=ω=.;)「おっ男の猫が喋ったああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
猫「あぁん? 誰が猫よ誰が」
(=ω=.;)「あんただよ!」
猫「あーはいはい。そういえばそうだったわね」
男「だから言っただろ」
俺もこなたに続いて、猫に近付いた。
男「こいつは俺の飼い猫なんかじゃねーの」
(=ω=.)「で、でも確かにこの子だよ! 私が言うんだから間違いない」
猫「はっ。誰がそんな冴えない男に飼われるかっての。スーパーアイドルはみんなのものなんだよ? きゃはっ」
男「猫を被るな猫を」
猫「んだこらぁ!?」
(=ω=.;)「……というか、男。ヤケに冷静だね。自分の猫が喋ったっていうのに」
男「まぁな。というか俺の猫じゃねーって! 俺が探してるのは、狐!」
(=ω=.#)「この猫だよ!」
男「狐だ!」
猫「あーはいはい、痴話喧嘩はその辺にしてくれない? 猫も食わないって言うでしょ」男「犬だろ……」
その後、猫は俺から煙草を一本ひったくり、俺達が座っていたベンチに腰を落ち着けた。
俺達も同じく座る。
猫「ぶはっ! げほぉっ! げほぉっ! ま、マズっ! ちょっと何よこの煙草!」
男「ラッキースター」
猫「どこの糞煙草よ! マズすぎるってーのっ!」
男「逆さまの自販機に売ってるぞ。欲しけりゃ買いに行け。たまにハズレもあるが」
猫「いらねーよ!」
男「ハズレを引くのが怖いのか」
猫「あんた馬鹿ぁ? ハズレなんかあったとしても、スーパーアイドルなあたしが引くはずないでしょ」
男「……」
(=ω=.;)「……」
(=ω=.)「ねぇ、猫」
猫「猫様」
(=ω=.;)「ね、猫様。ちょっと聞いていい?」
猫「何よ。ギャラなんか聞いたら覚悟しろよ小娘」
(=ω=.)「本当に男の飼い猫じゃないの?」
猫「違うってーのに。あんたもしつこいわねぇ」
男「そうだぞこなた。俺のペットは煙草なんか吸わない」
猫「ふ。陰で何してるかなんてわかんないもんよ?」
男「す、吸わないもんっ!」
(=ω=.;)「まぁまぁ。……猫様。じゃあもう一つ」
猫「あん?」
(=ω=.)「なんで喋れるの?」
猫「そりゃあたしが人間だからに決まってるじゃない」
男「……人間? どう見ても猫だが」
猫「チッ。あたしだって好きでこんな姿になったわけじゃないわよ。仕事でもないのに」
猫はそう言いつつ煙を吸い込んだ。
ラッキースター特有の甘い香りが広がる。
男「(前もそんなこと言ってたな……)ということはなんだ? 猫の姿に変えられた、とでも言うのか?」
猫「まぁね。誰の呪いかしらないけど、三日くらい前に起きたらこんな姿だったのよ」
男「……3日前?」
3日前といえば……
男「18日か?」
猫「昨日、一昨日……あぁ、そうね。18日よ」
男「……」
俺は今まで、24日に起こる異変ばかり考えていた。
だから疑問に思わなかった。
何故18日に戻ったんだ?
ただの偶然なのか?
幽霊が現われる。
時間が戻って目覚める。
あんなに懐いていた狐がいなくなる。
人間が猫になる。
これらのことが一度に起こるのは、偶然で済むのか?
男「……」
腑に落ちない。
男「……」
(=ω=.)「男? どうしたの、難しい顔して」
男「……こなた。ちょっと俺、用事思い出しちまった」
(=ω=.;)「え。急にどうしたの? ペットはいいの?」
男「明日、また探す。ごめん! また明日な!」
(=ω=.;)「あっ! ちょっと! 男ーっ!」
猫「あー。これは女ね。本命の女よ。あんたは遊びだったってわけね」
(=ω=.#)「……」
猫「うがっ! ちょっ! 尻尾はやめ……にゃぁぁっ!」
男「ぜえ……ぜえ……た、ただいま……」
かなた「おかえりなさい、男くん。どうしたんですか? そんなに息を切らして」
男「……はぁはぁ……」
かなた「あ。狐ちゃんが見つかったとか!」
男「……いや、まだだ……」
かなた「……そうですか。一体どこへ行ったんでしょうね?」
男「……それより、話したいことがあるんだ……」
かなた「話したいこと?」
男「はぁはぁ……あ、あぁ」
かなた「と、とにかく落ち着いて下さい。」
かなたに促され、椅子に腰掛ける。
男「はぁ……はぁ……」
かなた「はい、お水どうぞ」
男「……サンキュ」
かなた「いえいえ」
男「ゴクゴク……」
かなた「私が飲んでた残りですが」
男「ブーッ!」
かなた「わあああっ。冷たいぃぃ」
男「げほげほ!」
かなた「なんですか、もうっ。失礼ですねっ」
男「生きてる人間がお供え物を飲むと、バチが当たるんだぞ!」
かなた「お供えされたんじゃなくて、私が自分でいれたんだからいいんです。そもそもお供えなんてしてくれないじゃないですか!」
男「そうですね……」
かなた「ぷんすか」
かなた「それで、話というのは?」
男「……」
かなた「……」
男「……さっき、喋る猫に会った」
かなた「……」
男「……」
かなた「からかってます?」
男「大まじめだ」
かなた「からかってますね? 現実的に考えてそんな猫はいないです」
男「幽霊が何を言う」
かなた「うっ。た、確かに……」
男「……その喋る猫には前回も会ってたんだがな。今回は色々と話を聞けたんだ」
かなた「ふんふん」
男「そしたら、自分は元人間だって言いやがった」
かなた「人間が猫に?」
男「あぁ。朝起きたらそうなってたらしい」
かなた「……」
男「18日の朝に、な」
かなた「18日……」
男「あぁ。お前が俺の家に来た、あの日だ」
かなた「あ……」
男「俺が目覚め、狐がいなくなったりもした」
かなた「……」
男「……なぁかなた」
かなた「は、はい?」
男「お前はどうして俺の前に現われることが出来た?」
かなた「……」
男「幽霊って、普通は見えないもんだろ?」
かなた「はい……。見えません……」
男「それが何故急に現われることが出来たんだよ? いつでもよかったんなら、18日じゃなくてもいいだろ」
かなた「……」
男「言いたいことはまだある。お前は、何故未来を知っているんだ?」
かなた「……」
男「おかしいだろ? この前、お前は時間を戻せないと言った」
かなた「……」
男「それなのに、何故未来に起こる死を知ってるんだ?」
かなた「……」
男「……」
かなた「……ごめんなさい。どっちもわからないんです」
男「……」
かなた「幽霊の私がここにいられる理由も、死を知っている理由も……」
男「……」
かなた「どうしてなのか、わからないんです……」
男「……」
かなた「……私は目覚めると、この家にいました」
男「……」
かなた「今までこなたを見守っていたはずなのに、気付くとここにいたんです」
男「……」
かなた「一つの強い思いを持ちながら」
男「強い思い?」
かなた「はい。こなたを死の運命から救いたい、と」
男「……」
かなた「あ。でも今は、あなたのことも救いたいと思ってますよ?」
男「……わかってるさ」
男「ともかく、24日だけじゃなく18日にも何かあるみたいだな」
かなた「そうですね」
男「わかってるだけでも……」
幽霊。
猫。
狐。
俺。
男「……わけがわからん」
かなた「男くんは二度も18日を経験したんですよね?」
男「ん? まぁ、そうだな」
かなた「何か変わったことはなかったんですか?」
男「変わったこと?」
かなた「あ。今回の時間逆行は別として」
男「んー……」
俺は前回の18日を思い出してみた。
珍しく夜中まで起きて煙草をふかしていて……
かなたが現われて……
死の宣告されて……
こなたと付き合ってやってくれ、とかふざけたことを頼まれて……
しぶしぶ付き合って……
男「むー。よく考えたら俺、よくあのときオーケーしたな」
かなた「何をですか?」
男「こなたと付き合うことだよ。俺、人と付き合うなんて絶対にごめんだったはずなのに」
かなた「そうなんですか?」
男「あぁ。お前は、今の俺しか見てないからな。前回の俺は人付き合いが嫌いだったんだ」
かなた「じゃあ、なんでそうしてくれたんですか?」
男「……何故かはわからないが、有り得ない選択をしちまったんだ。1000回頼まれてても絶対に断るはずなのに」
本当に有り得ない選択を。
今考えてもそんなことをするのは、異常だ。
かなた「ふふ。じゃあ1001回目ならいいんですか?」
男「そういう問題じゃ――」
待てよ?
1001回……?
18日に全ての異変が始まった。
24日に俺の日々は終わった。
男「……」
18日に目覚めた。
24日にまた終わる。
男「……」
18日にまた始まるのか?
24日にまた終わるのか?
男「……」
18日にまた始まる。
24日にまた終わる。
男「……」
今の俺には記憶がある。前回に経験した一週間の記憶が。
……だが、もし仮に記憶がなかったら?
24日に記憶を無くし、また18日に目覚めたなら?
男「……」
またかなたがやってきて、ふざけた頼みをする。
記憶のない俺は、勿論断る。
男「……」
断っても日々は過ぎていき、また24日が来る。
18日が始まり、かなたが同じ頼みをする。
俺は断る。
男「……」
だがその繰り返しが、1001回目に達したなら?
男「……」
気まぐれにオーケーしてしまうかもしれない。
――前回そうしたように。
男「まさか…………俺は………………」
有り得ない選択が出来るほど、繰り返していたのか?
かなた「男くん?」
男「……」
かなた「どうしたんですか?」
男「……お前の言う通りだ」
かなた「はい?」
男「1000回頼まれても絶対に断るはずの頼み。それを受けるには、1001回目が必要なんだ」
かなた「やだなぁ。ただの冗談で――」
男「冗談なんかじゃない。俺の身に起きた時間逆行が、有り得ないはずの選択をしたことを説明出来るんだ」
かなた「え……」
男「俺は、何度もこの一週間を繰り返しているのかもしれない」
かなた「な、何を……!?」
男「18日に始まり、24日に終わり、18日にまた始まる一週間を、繰り返しているのかもしれない」
かなた「……」
男「だから有り得ない選択が出来た。前回がお前の言う1001回目だった、そう考えるとしっくりくるんだよ」
かなた「そ、そんな……」
男「……俺だって馬鹿げた考えだとわかってるさ」
かなた「……」
男「だがお前の頼みを聞くっていうのは、それほどふざけた出来事なんだ」
かなた「……」
男「……ま。所詮一つの推論だけどな」
かなた「……」
男「……」
かなた「……私も……そうだと思います」
男「かなた……?」
かなた「さっきも言いましたが、私は突然男くんの家にいました」
男「そう言ってたな」
かなた「それ以前の私の記憶は……何か、こう……大切な記憶に強引に消しゴムをかけられたような感じなんです」
男「……」
かなた「これは記憶が消えるという、証拠ではないでしょうか?」
男「……と、すると……」
かなた「……」
男「……繰り返しているのは、俺の時間じゃなく……」
かなた「……」
男「世界……なのか……?」
かなた「でも何故今回の男くんは、記憶があるんでしょうか?」
男「どうしてだろうな。世界ループ説からすると、記憶は消えるはずだが」
かなた「んー……」
男「むー……」
かなた「あ」
男「む?」
かなた「……私の頼みを叶えてくれたのが、理由でしょうか?」
男「お前の?」
かなた「今まで一度もしなくて前回したことは、おそらくそれなんでしょう?」
男「……あー……」
かなた「それなら、そうなりませんか?」
男「かもな。だがそんなことが何故俺の記憶をとどめておけたんだ?」
かなた「……い」
男「い?」
かなた「あっ。いえ! なんでもないです」
男「いいから言ってみろよ」
かなた「うぅ。やです。どうせ笑うでしょう?」
男「笑わない笑わない」
かなた「……じゃあ本当に笑っちゃ駄目ですよ?」
男「はいはい」
かなた「愛……」
男「エフッ」
かなた「あぁっ! やっぱり笑った!」
男「エフッ。エフッ。わ、笑ってないぞエフッ」
かなた「笑ってるじゃないですか! しかも変な笑い方!」
男「アハハハハハハハ」
かなた「普通の笑い方でも駄目です! もう男くんなんて知りません!」
男「あっ。どこへ行く。まだ話は終わってない」
かなた「もういいです! 夜も遅いしトイレ行って寝ましょう! べー!」
かなたはそう言うと、ドアの外に消えた。
男「……幽霊って、催すのか……?」
最終更新:2009年08月24日 13:32