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 俺は高良さんにフラれた。

 一人でテンパって、暴走して、

 ロマンチックな雰囲気もクソも無い、ドーナツチェーン店の一角で、

 しかも、余計なことを言って高良さんを怒らせてしまった。

 ヘコんだ俺は、一睡もできず、

 昨晩の俺は『へんじが ない ただの しかばねの ようだ』を素でいってた。



 翌朝の俺は腐った死体くらいにはなったかな?
 パーティに加えたら名前はスミス……

 しかし黒井先生に「失恋したから学校休みます」なんて言えるわけもなく、俺は学校に向かう。

 「失恋から立ち直る」「いつもどおり登校する」
 両方やらなくっちゃならないのが思春期真っ只中の高校生の辛いところだな。

 覚悟は……いいか?



 ガラガラッ!

 教室に入る俺。

 高良さんは……まだ来ていない。

 ほっ……

「おはよー!男~」

「男くん!バルサミコ酢―」

「うっす……こなた、つかさちゃん」

「どうしたの?なんか元気ないね?」

「あ……いや……」

「そういうこなちゃんもフラフラだけどね~」

「なんだ?こなた、昨日もネトゲ?」

「そ~なんだよ!昨日、レバ剣拾っちゃってさ!」

「へ~、レバニラね~」

「なに言ってんの、男!?レバ剣だよ。レバ剣!」

 レバケンとかいうものについて熱く語るこなた。

 しかし俺の耳にはほとんど入ってこなかった。

 時々、つかさちゃんのツッコミになってないツッコミが聞こえてくる。

 ガラガラッ!

「おはようございます。泉さん、つかささん、男さん」

 緊張が走った。

 いや、もちろん俺だけに。

「おはよーみゆきさん」

「ゆきちゃん、ミコ酢~」

「お、お……おはよう、た、高良さん……」

 俺は笑顔を作ったが、おそらく引きつっていただろう。

 しかし、高良さんは実に滑らかな、いつもの女神スマイルを向け、俺の引きつった笑顔など鮮やかにスルーした。

「どうされたんですか?泉さん。体調が優れないように見受けられますけど……」

「昨日ネトゲでさ~、レアアイテム拾ってね。嬉しくてついつい、朝まで……」

「そうですか、それはおめでとうございます」

 ……かがみがいたら、ツッコんでるところだろうな、ここ。クラスの違うかがみは朝のホームルーム前にうちのクラスにいることは少ない。

 俺がツッコんでも良かったんだが……

 さすがに今日のテンションで、他の誰でもない高良さんにツッコむ勇気はなかった。

 って、いうか高良さん、どうやら昨日の俺との事はなかったことにするみたいだ。

 ……黒歴史って言うんだっけ?こういうの。

 俺に対してもあまりに普段通りに接している。

 こっちは嫌でも意識してしまうっていうのに……

 昨日の、表情の消えた高良さんの顔を思い出す。

 冷めた表情。

 思い出したくもないのに……

「やっぱり、カベがあるとかいう話をするのは……まずかったかな……地雷を踏んじゃった感じだもんな、アレ……」



 ガラガラッ!

「おらー、ホームルーム始めるでー!」


 当然、その後の授業なんか右から左に受け流した。

 ――放課後、転入手続きの確認だかなんだかで職員室に呼ばれた。

 そこで同じく職員室に呼ばれていたかがみに会った。

「かがみはなんで職員室に呼ばれたの?」

 職員室を同時にあとにした俺達。

「学級委員の仕事でちょっとね」

「学級委員ね~、大変そうだな?」

「そうでもないわ、一年生からもうずっとやってるから慣れちゃった。一年生の時には学級委員つながりでみゆきと仲良くなったしね」

 そう言えば、うちのクラスの学級委員は高良さんだ。

 高良さん……

「どうしたの?何か元気ないわね?まさか、あんたもこなたみたいにネトゲで寝不足とか?」

「違うよ。こなた師匠には『男にはまだネトゲは早い。もっと修行を積んでからじゃ!』って言われてる」

「アホくさ……」

 嘘だ。

 むしろ逆にこなたのやつはネトゲをやれとうるさく言ってくる。

 意味のない嘘つくなんて、やっぱ精神的に参ってんのかな、俺……?

「なあ、かがみ……」

「ん?」

「もともと、かがみが最初に高良さんと仲良くなったんだよな?」

「そうよ。さっきも言ったけど、お互い学級委員で、それが縁で仲良くなったの」

「ということは3人の中ではかがみとの付き合いが一番長いんだ?」

「まあ、数ヶ月の差だけどね。私も高校に入ってからみゆきと知り合ったんだし。みゆきがどうかしたの……?」

「あ、いや……この前、こなたと話してたんだけど……ほら、こなたって高良さんのこと『みゆきさん』って呼ぶじゃん?それが、なんかよそよそしいっていうか、他人行儀っていうか、そんな感じだなっていう話をあいつにしたら……」

「どうせ、こなたのやつは『みゆきさんって誰に対しても敬語で、丁寧過ぎるくらい丁寧だから、なんとなくこっちもそういう対応しちゃう』とかなんとか言ったんでしょ?」

「……よくわかったな」

「まあ、ね。私も多少そういうようなことは感じるから……でもみゆき、あれでもだいぶ明るくなったほうなのよ。知り合ったばかりの頃は丁寧って言うよりむしろ暗くておどおどしてる感じだったから……」

「え?そうなんだ……?」

「うん、なんかね……あ、これ、こなた達には内緒にしててね。あ、別にみゆきに口止めされてるわけじゃないんだけど。まあ、あの子他人に口止めなんかする子じゃないし……」

「わかった。それで?」

「うん、なんかね……みゆき、中学校の頃にいじめにあってたみたいなのよね。本人はいじめってほどのものじゃないみたいな言い方してたけど。あの子、中学の頃から胸が大きかったらしくて、男子にからかわれたりしたらしくて。ホント男ってデリカシーないわよね!」

 ……ホント男ってデリカシーないわよね!か。

 まるで俺のこといってるみたいだな。

 世の男性全般を指してるものと信じたい……

「で、しかもあれだけ美人で、頭も良くて、真面目でっていうんで女子からも妬まれたり、反感買ったりしていじめられてたみたいなのよ。私が言うのもなんだけど、女って怖いわよね。」

 それでカベを作るようになった、と。

 やっぱり、ドーナツ屋での帰り際に、あんな話を持ち出したのはヤバかったな……

 高良さんの踏み込まれたくないところに、俺が踏み込んじまった感じだし。

 高良さんのあの無表情が、冷たい目が、俺の頭にフラッシュバックする。

「都内から陵桜に来たのも、地元の高校に行きたくなかったっていうのが理由のひとつらしいわよ。それでみゆきのお母さんの母校のここに進学したってわけ」

「環境を変えて、心機一転ってわけか……」

 なんか、まるっきり俺と同じじゃねーか。

 ますます高良さんのことが……

 ……いや、もうフラれたんだったな。

「それでもね、やっぱり出会った頃は何かほっとけない感じがあったのよ」

 かがみは苦笑する。

 前の学校ですさんでた時にも、かがみみたいな人がそばにいたら、あんな暴力沙汰は起こさなかったかもしれない。

「かがみは優しいんだな」

「え!?あ、ま、まあね!ほら、うちにはすでに一人、つかさってゆーほっとけないのがいるから!な、なんていうか、いつもの癖で見過ごせないっていうか……」

 真っ赤になるかがみ。

 ヤバイ、ちょっとかわいいぞ。

 って、いかんいかん!

「ねえ、男?」

 かがみが急にマジな顔になった。

「どうして、そんなにみゆきのこと聞くの?もしかしてみゆきのこと――」

「ない!それはない!」

 俺は即答した。自分でもびっくりした。

 そうすることで、即答することで、
 フラれたことを受け入れようと、高良さんのことを諦めようとしたのかもしれない。

「ふ~ん、そう。そうなんだ……」

「そう、そうなんだよ。確かに高良さんのことかわいいとは思うけど、別にそんなじゃ全然……」

「……よかった」

 かがみが、本当に小さな声で言った。

 え、あれ?今「よかった」って言った……?

 それ、どういう――



 しかし、その時、舌っ足らずな声が廊下に響き、俺の思考を遮断した。


「おぉーい!ひぃらぎ~!」

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最終更新:2008年07月05日 18:26