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「ひぃらぎ~!一緒に帰ろうぜ~!」

「あ、日下部!」

「あれ、こいつってヴぁ誰?」

 八重歯にショートヘア。
 男っぽいしゃべり方に、「ば」が「ヴぁ」になる特徴的な発音。

 ……しかもいきなり、人を「こいつ」呼ばわり。

「そ、そっちこそ……誰?」

「あ~、はいはい。日下部、こっちは男。こなたのクラスの転校生。男、こっちは日下部みさお。私のクラスメートよ」

 日下部さん、ね。

「あ~、お前、あのちびっこの一味か!」

 おいおい、一味って……

「お前、しょっぱい顔のくせしてうちのひぃらぎを誘惑してんじゃねぇってヴぁよ!」

「ちょ!?誘惑って……!?」

「バ、バカ!誘惑なんかされてないから!」

 かがみは否定したが、日下部さんは露骨に疑いの目を向けている。

 『背景』がどうとかブツブツ言っているようだったが、よく聞こえなかった。

「ほ、ほら、行くわよ。日下部。今日、峰岸と三人で宿題する約束でしょ」

「あ!そうだよ、そうだよ!せっかく陸上部の練習が休みなんだから、この機会を逃すわけには行きませんぜ!溜まった宿題を一掃するチャンスだってのに、ひぃらぎがいないとあたしの宿題も進まないからさ。」

「あんたもこなたと一緒で、自力でやる気ゼロかい!?」

「む~!あんなちびっこと一緒にするなってヴぁ!」

 何故かはよくわからんが、この日下部さん、こなたをライバル視しているようだ。

 ちびっこって……事実とは言え、こなたが聞いたら心中穏やかではあるまい……

「じゃ、そういうわけだから、私、日下部と帰るわ。またね、男。バイバイ!」

「おう、じゃあな!あの……日下部さんも」

「あ~、ヴァイヴァイ」

 ……めんどくさそーに挨拶したな、この子……

 日下部さんの中ではすでに俺はこなた一味の一員なんだろう。

 ……まあ、いいけど、別に。

「さて、俺も帰るか……」

 グラウンドの改修だかなんだかで、今、運動部の半分くらいは練習が休みになっているらしい。

 部活をやっている生徒が少ないと、なんとなく校舎がひっそりとしているように感じる。




「それにしても……いじめられてたのか、高良さん……」

 さっきのかがみの言葉を思い出す。

 やっぱり、ドーナツ屋の帰り際にあんな話をしちゃったこと、謝ったほうがいいかな?

 でも、今更、話を蒸し返すと逆効果かな……?

 ……ん?そういえば、さっきかがみは他に変なこと言ってなかったっけ?

 なんだっただろう?

 たしか、日下部さんの乱入に気が行ってしまって……



 思い出そうとしながら、俺は昇降口から外に出て、校門に向かって歩き始めた。

 しかしその時、俺の思考は再び遮断されることになる。

 見覚えのあるピンク色の髪が目に飛び込んできたからだ。

「あ……」

 高良さんだった。

 俺の50mくらい先を歩いている。図書館にでも寄っていたんだろうか?

 あんな話を聞いたあとだからだろうか?

 どことなく一人で歩く後姿に、影のようなものを感じる。

 ………

 追いかけよう――!

 ――少なくとも、頭ではそう思った。

 ……でも、

 でも、足が動かなかった。

 ケガがうんぬんの話ではない。

 昔のようにサッカーはできないが、今だって走ることくらいはできる。

 わかっていた。足が動かないのは……心の問題。

 俺に勇気がないからだ。

 高良さんに謝ったほうが、ちゃんともう一度話をしたほうが、いいってのはわかっているんだけど……

 あの高良さんの無表情が、冷たい目が脳裏をかすめる。

 結局、俺は高良さんの後姿が見えなくなるまで、その場から動けなかった。




「……何やってんだよ、俺……」

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最終更新:2008年07月05日 18:27