……何を、言っているの。
「もう……遅いのよ」
この手には今でも感触が残っている。
「そんなことないよ」
目の前にいる少女を刺した感触が。
「……手遅れなのっ……!」
それは確かな、罪の証だ。
「―――手遅れなんてこと、ないよ」
―――なのに、なんでこいつは。
「……っ。
あんたは、自分が何を言ってるのか、解ってるの……! 何で、何でそんな……!」
「―――そりゃあ、さっきも言ったじゃん。
かがみんは、私の友達だからだよ」
「―――っ」
……ああ、そうだ。
こなたはいつもそうだったじゃないか。
つかさを通して知り合った、今最も近しい友達。
いつもいつも、こいつは私をからかってきて。
ツンデレだー、とか。かがみーん、だとか。訳の解らないことばっかり言って。
……でも、不思議と嫌いにはならなかった。
なんだかんだでいつも楽しい。
いつもいつもバカ言って。
いつもいつも笑ってる。
―――心地よかった。私の居場所。
男に言わせればそう、『繋がり』と言うだろう。
……そして私は、男との『繋がり』を創るために、こなたやつかさとの『繋がり』を断ち切ろうとした。
それなのに。
私は、そんなことをしたのに。
こなたは私をまだ、『友達』と呼ぶ。
……ああ、そうだ。
私はこいつがこんな奴だから、殺しきれなかったんだ。
全力でなんて、殺せるはずがない。
―――なんて、中途半端なんだろ、私は。
『友達』として、『姉』として、男とつかさの仲を応援しようとした。
……でも、やがて私の気持ちは私の胸を激しく突いてきていて。
一人の『女』として、我慢が効かなくなってしまった。
挙げ句、暴走。
つかさに罪を着せようとした。
あの日、つかさとこなたと男のやり取りを見ていた私は、チャンスだ、と思った。
つかさがこなたを刺す動機が出来たから。
……でも、予想外の事が起こった。
男はつかさを追いかけていた。
結果、つかさにはアリバイが出来てしまった。
そして、このままでは、やがて犯人は突き止められるだろう。
こなたが秘密にしようがしまいが、結局は彼にバレてしまう。
……嫌われるんだろうなあ。
……友達を殺そうとして、好きな人には嫌われて。
―――そんな未来に、私は絶望した。
「―――ごめんね、こなた」
そして私の『女』としての欲望からくる勢いみたいなものは消え去ってしまった。
「かがみん……」
後悔。自分がやってしまったことへの自覚が私を呑み込んでゆく。
「私、間違ってた。こんな卑怯な方法。私らしくない」
全く、こなたにツンデレだと言われてもしょうがない。
……ホントに素直じゃない、私。
「じ、じゃあ……!」
「……ごめん」
ごめん。私はもう、未来への恐怖と罰に、耐えられない。
……私はやっぱり手遅れだ。そう、自覚してしまった。
「え……?」
「―――サヨナラ」
そして未来に絶望した私は、服に潜ませていた、こなたを刺した小さな、
それでいて強靭なナイフを、たとえここ病院であっても即死する勢いと力を込めて、
自分の喉元に、降り下ろした。
☆―――
「――――――――――――え?」
刺さらない。
思い切り、首を貫通する覚悟で降り下ろしたナイフが、私の肌を穿たない。
何故?
何故?
何故……?
ボタタッ。
何の音だろう。
私にナイフは刺さっていない。
なら、私の血が流れる音じゃない。
……ああ、じゃあ決まっているじゃないか。
―――それは、泉こなたの鮮血だ。
お腹を深く抉られて、本来絶対安静の身体で、包帯と衣服を滲ませながら、垂れる血を気にせずに、私の手を、止めていた。
強く、握られた手。
まるでそれが、こなたの意志の強さだと、示すかのような―――
「…………こ、なた」
「…………ダメだよ、かがみん」
「え?」
「かがみんが死んだら、私、悲しいよ。嫌だよ……」
「こなた……」
……こなたの顔は、普段からは考えられないほどに、恐怖に歪んでいた。
……そういえば、こなたは母親を亡くしてるんだっけ。
「お願い……か、が……み…………ん」
ドサッ。
「―――あ」
こなたの身体が、白い床に落ちた。
「ああ」
腹部から滲む深紅の血が、白を赤に染めて―――っ、
「こなたぁ―――っ!!」
病院に、私の絶叫が、響き渡った。
最終更新:2009年09月04日 20:30