―――一閃。
振るわれたそれは、まるで一本の銀に輝く横線だった。
それが危険だと察知したのは一瞬後。
ひゅお、とそれは風を切った。
「っ……!」
それは目撃情報に多々あった形状の、ナイフ。
―――そう、柊かがみは俺に向かって切りかかっていた。
続いてもう一閃。
息をつく暇もない。
ひゅお、と再び、今度は縦に振るわれた刃はまたも空を切る。
「柊っ……!」
続いて二閃。連続に振るわれる十字の刃。
だがそれも、ひゅおひゅお、と空気の切った。
……?
何か、おかしい。
ひゅおひゅお。
また、外れた。……まさか。
―――当てるつもりが、無いのか……?
……そうか、これはフェイク。
確実に俺を切り捨てるために、だ。
なんと狡猾。
油断してはならない。
ここで、やられる訳には、いかない……!
……ならば、ここで一計を謀ろう。
いままでのがフェイクなら、本命は必ず来る。
それは必殺の一撃。故にかわせば最大の隙になる。
それを―――待つ!
ひゅお。
ひゅおひゅお。
ひゅおひゅおひゅお―――
そして案外早く、その時は来た。
先程までと明らかに違う。
視線が、違う。
はっきりと、柊は俺の首を見ている―――!
―――かわせ。
いくら無茶な体勢でもいい。
奴には、それ以上の隙が生まれる―――!
そして、
ひゅお。
その凶刃は、空を切った。
その刃は俺の首を捕らえることなく。
その殺意は俺を殺すことなく。
そして、俺は無理に反らせた身体を戻し、大振りを空振って隙だらけな柊の脇腹に向かって肘を―――
ドッ。
「ぐ、あ――――――?」
頭が揺れる。
意識が刈り取られる。
何が起こった。
……そうだ、俺の肘は柊に―――
……届いて、いない。
―――え、まて、そんな。
じゃあ、さっきの音は。
「……ごめんなさい」
それを考える前に、その【首】に【もう一度】打撃が加わった。
―――そうか、それさえもフェイク。
柊の目的は、あくまで、
「く―――ぁ」
俺の首を殴打し、意識を奪うことだったのか―――
そして、俺の意識は途切れた。
……最後に、ドアの閉まる音と、その錠が落ちる音が聞こえた。
☆―――
彼の首をもう一度叩いた後、私は部屋を出た。
彼が仕掛けていた外からの錠をかける。
……これで、邪魔は入らない。
そもそも、殺す気は無かった。
……もう、人を殺すのは。
―――あの人を刺す感触は、こりごりだ。
……さあ、教室を目指そう。
そこには、男がいる。
最終更新:2009年09月04日 20:34