―――…………その後?
その後……何も、無い?
何も無い……?
いや―――
「実は……」
頭に、引っかかる。
時に密かに、時に露骨に。
それはあったはずだ。
思い出せ―――
『……おっかしいなあ……こんなもん買ったっけ……?』
知らない、桃缶。
『―――あ、お前、は……あの時の……』
知らない、不良。
……いや、何よりも、
『男くん、好きです! もしよかったら付き合ってください!』
知らない、知らなかった子から、俺は告白されていた―――
「実は……なんだい?」
「あ―――……はい、実は―――」
―――
「……成る程ね」
説明―――今俺が感じた違和感を話し終える。
「……どうですかね?」
「…………。
まず間違いないね」
「! そう……ですか……」
それは……つまり。
「先生」
「……なんだい」
「俺……また、眠れない日々が、始まるんですか?」
「そうだね」
「俺は……また、知らず知らずの内に、誰かを傷つけるんですか?」
「……そうだね」
「…………」
「すまない…………情けないよ。早寝早起き……そんな苦し紛れの措置しか出来ない、自分がね」
「いえ……先生は、悪くないです」
悪いのは―――全部。
俺達なのだから。
「……ありがとう、男くん」
「……いえ」
「私も出来る限りの協力をするわ。
……君の、二重人格……その解消の、ね」
……二重人格。
解離性同一性障害。
しかし、俺のは少し特殊だった。
一、もう一つの人格が出ている時の記憶は一切無い。
二、もう一つの人格は俺の記憶を持っている。
三、男という人間は、特に精神的問題を持ってはいない。
四、これは先天性であり、産まれ付きの異常。
五、人格の交代は、睡眠時にしか起こらない―――
それが、俺の病気。
この町に来た理由。
繋がりを、持てなくなった、理由―――
ガサッ。
「「!」」
不自然な音に振り返る。
まさか、聞かれた―――?
「……あ」
あの制服。
あの髪―――間違いない。
少女は逃げていってしまった。
……聞かれた。知られた。知られてしまった。
「……みゆき」
ある意味、最悪だ。
恐らく知り合いの中で一番、頭が働く。
無闇に広めることはないだろうが―――恐らくは、最後しか聞かれていなかったであろう会話でも、思い当たってしまうだろう。
俺の、引越しの、理由に。
「……くそっ」
…………最悪だ。
―――
俺はつかさに行けなくなったとメールをして、先生と別れた。
みゆきと、顔を会わせたくなかった。
こなたの見舞いは、時間を置いて一人で行こう。
最終更新:2009年09月09日 23:26