「ごちそうさまでした」
「あら、みゆき?ほとんど食べてないじゃない?もういいの?」
私、高良みゆきはその晩、ほとんどご飯を残してしまいました。
男さんの家にお見舞いに行ったその晩。
お見舞いはいらないと言っていた男さんの家に大勢で押しかけたのは、迷惑ではなかったでしょうか?
心配です……
でも、私の心配は、今現在、そのこととは違う内容で、そのほとんどが構成されています。
「ええ、お母さん……なんだか食欲がなくて」
「あら~?もしかしてダイエット?」
「いえ、別にそういうわけでは……」
「……みゆき~好きな男の子でもできたんでしょ?」
「ひやう!?そそそそそんなことは!」
ガタタッ!
バシャ……
「あああ、おおお茶が……!!」
慌てて手をバタバタと動かしたので、湯飲みをひっくり返してしまいました。
「くすくす、図星ね、みゆき。はい、お膳拭き」
「すみません……」
お母さんは心の底から楽しそうな笑みを浮かべながら、テーブル用の布巾を渡してくれました。
……本当にこの人は、母親というよりは長女のような存在ですね。
「いいじゃない、みゆき。そんなに照れなくても。女の子は恋をする生き物なのよ」
「は、はあ……そういうものなのでしょうか?」
「そういうものよ~みゆきは今までそういうのに縁がなかったみたいだから、ちょっと心配してたのよ?」
「そ、そうだったんですか?」
「そうよ。まあ、桐箪笥の歴史なんかいきなり語られても、男の子は興味持ってくれないだろうから。うふふ」
「べ、別にいつもそういう話をしているわけでは……!」
焦って弁解する私を見て、くすくすと悪戯っぽい笑みを浮かべるお母さん。
湯飲みに新しいお茶を入れてくれました。
「それで?みゆき。どんな人なの?」
「え?」
「んもう!その男の子よ!みゆきをその気にさせた人」
「えっと……そうですね。」私にとって太陽みたいな存在、とでも言いましょうか……」
「きゃー!みゆきってばロマンチストね~!」
あからさまにテンションの上がるお母さん……
私なんかよりもずっと高校生っぽいです。
あなたは本当に[禁則事項です]歳なんですか……?
私も思わず恥ずかしくなってしまいました。
「で?告白はもうしちゃったのかしら?」
「あ!う!そ、そんなに根掘り葉掘り聞かないでください!恥ずかしいです!」
「あらあら、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。ふふ。そうね、じゃあ、一つだけ教えてちょうだい。みゆきは今、何にそんなに悩んでいるの?」
「……実は、私、その方を一度傷つけるようなことをしてしまって。その方が、お気を悪くされていないかどうか心配で……いえ、きっとお気を悪くされていると思います。どうすればそのことを補填できるのかと思いまして……」
「ふ~む。それは困ったわね~それで、その男の子はみゆきに対して怒ったり、嫌がるそぶりを見せたりしてるの?」
「いえ、優しい方ですので、そのようなそぶりは……以前と変わらず接していただいてます」
そう、優しい男さん。
こんな私を好きだと言ってくれた男さん。
お付き合いの申し出を一度は断った私を決して責めることのなかった男さん。
そして、私と真摯に向かい合ってくださった男さん。
私はそんな男さんが好き。
男さんのそばにいたい。
男さんのお役に立ちたい。
「そう、優しい人なのね。じゃ~、みゆきが気にしているほど、その男の子は気にしていないかもしれないわよ?」
「そ、そうでしょうか?」
「そーよ、そーよ。本当に気を悪くしていれば、おのずと態度に出るものよ」
「………」
確かに……本当にお気を悪くしてらしたのなら、昨日私の方からお付き合いを申し込んだ時に、すぐに拒絶されているはずですよね……?
「それに男の子なんて押し倒しちゃえば、コロッと行っちゃうものよ。うふふふ、既成事実を作っちゃうってやつね」
「あわわわ!お母さん!?なに平然と押し倒すとか、既成事実とか言ってるん――」
ガタタッ!
バシャ……
……せっかく入れてもらったお茶をまたこぼしてしまいました。
「す、すみません。でも、お母さんがあんなこと言うから……」
「あらあら、ごめんなさい。でも、押しが強いくらいがちょうどいいのよ?好きな子にはしっかりアピールしなきゃ!」
「押し……ですか?」
「そうそう。押し倒すのは冗談だとしても、そうね……例えば、手作りのお菓子を作っていくとか」
「お菓子……」
そこで私は、今日の男さんのお見舞いの時のつかささんを思い出しました。
男さんに手作りクッキーを手渡したつかささん。
そしてさらに思い出されるのは、つかささんの言葉。
『昨日言ってた通り、男くんの好きなチョコチップたっぷり乗せてるからね!』
つかささんは男さんの好みを知っている?
そして、つかささんは昨日、男さんと会っていた?
昨日、私と会った後で?
それとも前にでしょうか?
………
………
なんでしょう?この感情は?
お恥ずかしながら、恋愛経験がないので想像の域を出ませんが、
そう、
これはきっと、
――嫉妬。
最終更新:2008年07月05日 18:45