曇り空を見上げながら、俺は明日のことを考えた。
『明日は、かがみだ…。』
ケータイを取り出し、かがみにメールを打つ。
【to】
柊かがみ
【タイトル】
【本文】
明日の放課後、どうしても話したい事がある。
少しだけ二人になれる時間作れないかな?
返信はすぐに来た。
【from】
柊かがみ
【タイトル】
Re:
【本文】
勉強した後、買い物行くって言って男の家行くわ。それでいい?
【to】
柊かがみ
【タイトル】
Re:Re:
【本文】
いいよ。ありがとう。
【第二十話(裏√);フタリメ】
今日はかがみと話し合う日…。
傘を差して柊家に向かう。
つかさ「男君おはよっ!」
かがみ「おはよ、男。」
男「おはよう。」
三人で並んで歩き出す。
かがみがチラッと俺のことを見る。
…今日話すことで、かがみはどんな反応を示すだろうか…?
つかさはずっと笑顔だった。
昼休み。
みゆきさんが、他の人に聞こえないように小さな声で話しかけてきた。
みゆき「…あの…例の事…大丈夫ですか…?」
男「うん…みんなに正直に話して…距離を置くことにした…。」
みゆき「そうですか…。私に…力になれることがあったら言ってください。」
男「うん。ありがとう。」
…みゆきさんは心配そうな顔だった。もちろん善意からの気持ちもあるんだろうけど、仲のいい友達の関係が壊れないか心配なんだろうな…
いつか問題が片付いたらみゆきさんにも謝らないとな…
放課後。
かがみ・つかさは図書館に向かう。
かがみがチラッとこちらを見て、目で何かを伝えてきた。
『後でね』
…かがみはどんな気持ちなんだろう…?
もし…俺の気持ちを勘違いしているなら、それはかがみにとって残酷な事を告げることになる…。
みゆきさんは別れ、結果的にこなたと二人で電車に乗る。
こなた「じめじめして暑いねー」
吊革に掴まりながらこなたが言う。
男「うん。」
こなた「あのさー」
男「…うん。」
こなた「…男が私のこと選んでくれなかったしても…昔みたく友達でいてもいい…?」
男「…。」
こなた「…まぁそれは難しいかっ!」
男「…分かんないや…。」
こなた「そだね………。そーいえばつかさとかがみんにはいつ言うの?」
男「…かがみには…今日言うよ。」
こなた「そ…か…。まーガンバレ!」
男「うん。」
こなたは電車を降りていった。
次の駅で俺も降りる。
傘を差して家までの道を歩く。
かがみからの連絡を待つ時間は凄く長く感じた。
…
…
ヴヴヴ…
ピッ
【from】
柊かがみ
【タイトル】
無題
【本文】
今、ゴトーヨーカ堂通過したよ。
かがみ「おじゃまします。」
ガチャン。
ドアが閉まるなり、かがみは俺に抱きついた。
男「!!…かがみ…」
かがみ「やっとこうできる…///」
『………やっぱりかがみは勘違いしてるんだな…』
男「か…かがみ…とりあえず上りなよ…。」
かがみ「うん!」
かがみは、みんなと一緒のときには決して見せない笑顔で笑いかける。
『…嬉しそうに甘えるかがみを見ると気が引けるな…いや…ダメだ…言わなきゃ…。』
お湯を沸かして紅茶を淹れる。
かがみ「リビングじゃなくて男の部屋行こうよ…///」
男「…今日はちょっと話がしたいんだ…。」
かがみ「………ベッドの中で…話そうよ…///」
男「かがみ………違うんだ…今日はそう言う事じゃないんだ…。」
かがみ「えっ……?」
Pii――――!!!
やかんのお湯が沸いた。
俺は無言で立ち上がりティーパックの入った二つのコップにお湯を注ぐ。
かがみも何もしゃべらない。
かがみの前にコップを置くと俺はゆっくりしゃべり始めた。
男「…かがみ…俺がこんな事言うのは虫が良すぎるかもしれない…」
かがみ「…」
男「かがみは全部知ってる事だけど、俺は許されない事をしてる…。」
かがみ「…」
男「俺は…つかさと付き合ってるのに…こなたと関係を持って…かがみと関係を持って…」
かがみ「…」
男「…俺がまいた種だけど…この数日考えて、この状態に決着をつける方法を俺なりに考えたんだ…。」
かがみ「…」
男「…昨日はこなたと話した。」
かがみ「…」
男「…もう…関係を持つのはやめようって。」
かがみ「…」
男「かがみ…」
かがみ「イヤッッッッ!!!」
それまで黙っていたかがみが突然叫んだ。
男「かがみっ…!!」
かがみ「イヤッ!イヤッ!イヤッッッッ!!!」
かがみは泣きながら首を大きく左右に振った。
男「かがみ…ごめん。」
かがみ「…私のどこがダメ…?」
男「…かがみがダメとかじゃないんだ…」
かがみ「じゃあ何でッッ?!!…私は…男と居られるなら…今のままの関係でもいい…」
男「それは…かがみの為にも…他のみんなの為にもダメだ…。」
かがみ「私は…男と…居られればいい…。」
男「かがみ…こんな結果を招いたのは、俺が優柔不断だったからだ…本当にごめん。でも、今ここでまた関係を続けちゃったらかがみもつかさもこなたも…きっと今までの関係が崩れちゃう…。もう友達に戻れなくなっちゃう…だから…まだ今ならギリギリ間に合う気がするんだ…」
かがみ「…もう…戻れないよ……こなたは大切な友達だった…つかさは大事な妹だった…でも……今は男が一番好き…。男が…私を初めて抱いてくれた時…覚悟決めたから…。」
男「…つかさにも言う。こなたとの事も…かがみとの事も…。言って…つかさとは別れる。…それで…しばらく考えるつもりだ…」
かがみ「……つかさと…………別れるの…………?」
男「…うん。」
かがみ「………。」
男「…つかさは…なにも知らないよな…?」
かがみ「……そうね…疑ってはいるけど…。」
男「つかさは……傷つくよな………?」
かがみ「………。」
男「…でも…つかさにも言う…今言わなければ…もっと傷つけるから。」
かがみ「………私、ヘンかな?」
男「えっ?」
かがみ「私…男と一緒にいられるなら…他は何も要らないって思ってたはずなのに…つかさが…妹が心配かもしれない…」
男「かがみ…」
かがみ「男のしたこと知ったら…つかさは…たぶん私よりも悲しむと思う…」
男「うん…」
かがみ「あの子は…純粋だから…」
男「…」
しばらく沈黙が続いた。
かがみ「………ダメね…。」
男「?」
かがみ「男と一緒に居るために…他の全部捨てるつもりで居たのに…つかさの事考えたら…」
男「…」
かがみ「…こなただって…ずっと男の事…」
男「かがみ…」
かがみ「…つかさには…いつ言うの?」
男「明日には…言いたい…。」
かがみ「男は…どうするの?つかさに言って…別れて…その後どうするの…?」
男「よく…考えようと思うんだ…俺が…一番大切なのは誰なのかを…。」
かがみ「私は男が一番大切だから。」
男「…」
かがみ「でも…私も考えるわ…男の為に他の全部犠牲に出来るか…。」
男「うん…。」
かがみ「男が考える間、私も考えるわ…。」
男「ありがとう…かがみ。」
かがみ「…勘違いしないでよ?私、男を諦めたりしないから。」
男「…うん。」
かがみは残った紅茶をゆっくりと飲むと、少しだけ俺を見つめ、席を立った。
かがみ「…じゃあ、帰るね。」
男「うん…雨だから気をつけて。」
かがみ「ありがと。」
夜になっても雨は止まない。
ベッドに横になりながら、つかさの事を思い浮かべた。
わんこで遊んだこと。
一緒に家で勉強したこと。
内巻公園で告白されたこと。
テストの点が良くてはしゃぐつかさ。
公園のベンチで俺に抱きついたつかさ。
つかさの手の感触。
…見飽きてきた天井の模様が、うっすらと滲んだ。
『…俺は、かがみの事もこなたの事も好きだけど…』
『…つかさの事のも大好きだったんだな…』
身勝手すぎる気持ちな事は分かっているのに、大好きなつかさと別れる事が悲しかった。
つかさの笑顔を壊す事が悲しかった。
俺は自分の涙が、何か汚いもののような気がして急いで拭き取った。
…明日、俺はつかさに何て言われるんだろう?
…つかさは、どれだけ泣くんだろう?
…俺はどんな形で罪を償えばいいんだろう?
覚悟を決めて目を閉じた。
…しかし次の日の朝、学校で聞いたニュースは俺の覚悟を奪う力を持っていた。
【第二十一話(裏√);クロイ】
翌日、異変は朝のHRで起こった。
予鈴が鳴っても、授業開始のチャイムが鳴っても先生が来ない。
教室はざわざわしている。
…しばらくして隣のクラスの先生が入ってきた。
「黒井先生が遅れているようなので朝のHRは無しです。一限は自習していてください。」
思いがけず世界史は自習となり、クラスのみんなは少しざわめいている。
午後の授業が始まる前、再び隣のクラスの先生がやってきて言った。
「今日は黒井先生はお休みとなりましたので、帰りのHRは委員長が行ってください。」
再びざわめく教室。
俺は妙な胸騒ぎを覚え、放課後職員室へ向かった。
職員室へ向かおうとすると、みゆきさんが話しかけてきた。
みゆき「男さん…もしかして職員室へ行かれるのですか?」
男「え……うん。」
みゆき「先生の…事ですね?」
男「う…うん。」
みゆき「…私も行きます…。」
男「…」
男「…ね…ねぇ、みゆきさん?」
みゆき「はい…?」
男「先生は風邪で休んでるとかじゃ…無いのかな?」
みゆき「…それを確かめに行きましょう。」
俺はここ数日の非現実的な日常と、先生と父親、さらにはこなたの父親との事で、先生の不可解な休み方に違和感を感じた。
…しかし、みゆきさんはなぜ俺と同じ様に、先生の休みを心配しているんだろうか…?
少なくとも、みゆきさんの表情は、先生の事を心配している様だった。
職員室のドアをノックして開けた。
みゆき「私、二年E組の委員長の高良です。お聞きしたいことがあるのですが。」
他の先生の話によると、黒井先生は突然の病気で休んだらしい。
…俺の考えすぎか…
そう思って職員室を出ようとすると、みゆきさんが口を開いた。
みゆき「…そうですか。ではみんなでお見舞いに行こうと思うので先生の家を教えていただけますか?」
話をしていた先生の表情が一瞬戸惑いの色を見せた。
先生「い…いや、君たちに移しては悪いから来なくても良いと黒井先生は仰ってたな…。」
みゆき「……そうですか。」
俺はなぜか先生の言っていることが、何かを隠す『言い訳』に聞こえた。
みゆきさんは少し落胆した様子だった。
先生「そうだ、君にちょっと仕事を手伝って欲しいんだ。」
みゆき「私ですか?」
先生「いや…力仕事だから君だな。」
俺を置いて、みゆきさんは職員室を後にした。
みゆき「それでは、すみませんが私は用がありますのでお先失礼します。」
男「お疲れ様。」
…
男「…で、俺は何をするんですか?」
先生「いや、仕事と言うのは嘘だ。…君に聞きたいことがある。」
男「へっ?」
先生「君は黒井先生について…何か知っているか?
男「はい?」
先生「これは…他の生徒には言わないで欲しいんだが…実は黒井先生は今朝から行方不明なんだ。」
男「…えっ?!」
確かに朝と昼の先生の対応は病気にしては不自然だったし、黒井先生も昨日まで病気という雰囲気は無かった。
男「で…でも、何でそれを俺に言うんですか?」
先生「実は黒井先生から、君への手紙を預かってる。」
男「…?!」
先生「…そういう訳で黒井先生の事、何か知らないだろうか?」
男「…すみません…ちょっと分からないです…。」
先生「そうか…。」
黒井先生の手紙を鞄に入れ、一人帰路につく。
『今日はつかさに言うのは無理だな…タイミング逃したし…気分的に無理だ…』
つかさに告げるのは金曜の放課後にしよう…話した後はきっとお互い会うのがつらくなるから翌日が半日でちょうどいいかもしれない…。
家に着き、郵便ポストを見ると、消印のない封筒が入っていた。
家に入り、まず黒井先生からの手紙を開封する。
内容は友達を大切にしろだのテストマジメにうけろだのといった他愛の無いもので、やはり行方不明になった理由は書かれていなかった。
しかし最後に『私からのプレゼントや。よく考えて使いやー。』という言葉と共に四桁の数字が書かれていた。
当然俺は訳が分からず、続けて封筒を開いた。
中には貯金通帳と、『黒井』の判子が入っていた。
男「???」
『まさかさっきの数字は暗証番号か…?』
恐る恐る中を見ると、金額は以前親父から(島さんを通じて)渡された通帳と同じ程度の額が記入されていた。
「………!!!」
俺は驚きよりも、恐怖を強く感じた。
なぜ先生は俺にこんなものを渡して失踪したんだ?
金銭が絡んだことで、俺は黒井先生の安否が心配になると共に、何か『事件』が起きているという事を感じた。
正直、今自分が置かれている状況は、自分が招いたとは言え、非常に重い。
しかし黒井先生の『失踪』は、自分の知らないところで何かもう一つ、退っ引きならない『事件』が起きていることを、俺に感じさせた。
ともあれ、つかさには言わなくちゃいけない…。
予想外の事件で一旦決意をためらったが、黒井先生の件は、今自分を取り巻く『事件』を解決した後に考えることにした。
俺はケータイを取り出しつかさにメールを打った。
【to】
柊つかさ
【タイトル】
【本文】
こんばんは。
金曜日の放課後、話したいことがあるんだ。うちに来ない?
返信はすぐに来た。
【from】
柊つかさ
【タイトル】
うん!
【本文】
いいよ!久しぶりに男君と二人っきりになれるね[ハート]
その後、二~三往復メールをした後、『おやすみ』と言って、メールは終了した。
ケータイを閉じた。
『もう…後戻りはできないな…。』
金曜日。
梅雨の合間の久しぶりの晴れだ。
少し蒸し暑い。
柊家の前で、夏服のつかさとかがみが待っていた。
つかさ・かがみ「おはよー」
男「おはよう。」
つかさ「今日は晴れたねー!」
そう言ってつかさは俺と手をつないだ。
かがみの目が一瞬大きくなって俺たちを見た気がした。
かがみ「…私、今日委員会の仕事があるから先行くわね。」
そう言うとかがみは走っていった。
『…かがみ…』
電車に乗るとき、こなたに会った。
こなた「おーおはよー。」
男「おはよう。」
つかさ「おはよーこなちゃん!」
こなた「あれ?かがみんは?」
つかさ「なんか委員会があるからって先行ったよー。」
こなた「ふーん…。」
こなたは俺をじーっと見た。
こなたは…かがみの気持ちが分かるんだろうな…
午前の授業が終わった。
…やはり黒井先生は姿を現さなかった。
先生は俺の境遇を知って、親身に相談に乗ってくれた。
早く無事を確認したいと思う。
何気なく鞄からケータイを取り出した。
一件のメールが入っていた。
【from】
柊かがみ
【タイトル】
無題
【本文】
昨日、つかさに話すんじゃなかったの?
なんで今朝、つかさと手をつないでたの?
あんな事言って、結局つかさと別れないんだね。
私、もう、考えるのやめるわ。
俺はすぐに、昨日あった事を説明するメールをしたが、返信はなかった。
昼休みの教室。
つかさはご機嫌で俺の隣でお弁当を食べる。
みゆきさんとこなたは、おそらく努めて…至って普通だ。
かがみの姿はない。
こなたとつかさが(おそらくトイレのために)席を立ったとき、みゆきさんが心配そうな目でこちらを見た。
男「…みゆきさん、みゆきさんのおかげで今日けじめをつけられそうなんだ。」
みゆき「そう…ですか…。男さん…大丈夫ですか?本当に私に出来ることがあったら言って下さいね…?」
男「ありがとう…。でもこれは俺の問題だから…。」
みゆき「今日…つかささんに言うんですね?」
男「うん…。」
つかさとこなたが教室に戻って来た。
【第二十二話(裏√);サンニンメ】
放課後。
HRが終わるとつかさがくっついて来た。
つかさ「男君!一緒に帰ろう!今日お姉ちゃんは委員会あるみたいだし、こなちゃんはお姉ちゃん待ってるみたいだから。」
男「…うん。」
みゆきさんと三人で学校を出て、駅でつかさと二人になった。
別れるとき、みゆきさんは心配そうな目でこちらを見て、小さく手を振った。
電車の中で、つかさはずっと俺の腕に抱きついて、頭を俺の肩にもたれていた。
そして何度か俺の顔を見上げると「えへへ///」と笑った。
その笑顔は本当に可愛くて、何度も俺の決意を奪いそうになった。
俺の家が見えた。
ずっとつないでいた手を離し、鍵を取り出した。
つかさ「おじゃましまーす!」
俺はココアとコーヒーの入ったコップを持って、つかさの待つ俺の部屋へ入った。
ココアをすするつかさ。
俺はコーヒーを一口飲んだ…味は全くしない。
つかさ「…どうしたの?男君。」
男「…つかさ…。」
つかさ「…?」
男「あのさ…俺…つかさに謝らなきゃいけないことがある…。」
つかさ「えっ……何?」
長い沈黙が流れた。
つかさは大きな目で俺を見つめている。
男「俺は…つかさと付き合っていながら…他の人とも関係を持った…。」
つかさ「…」
つかさ「……」
つかさ「………」
つかさ「…………」
つかさ「…………こなちゃん………?」
…意外にも…と言うより、やはり、つかさはこなたの名前を言った。
つかさ「……ねぇ……こなちゃんなの……?」
男「…」
つかさ「こなちゃんなのッッッ?!!!!」
初めて聞いた、つかさの大声に俺は怯んだ。
男「…こなたと………かがみだよ……。」
つかさの顔色が蒼白になったように見えた。
もうさっきまでのつかさはいない。
今俺の前にいるつかさは、少しうつろな目をして震えている。
つかさ「ウソ…だよね…?私をびっくりさせようとして、ウソついてるんだよね…?」
つかさ「お姉ちゃんが男君と仲良いのは知ってるよ…?でも…お姉ちゃんは…私の…相談乗ってくれるし…味方…だよ…?」
つかさ「こなちゃんだって…こなちゃんだって…男君の事…好きなの知ってるけど…最初に男君に好きって言ったのは私だよ…?」
つかさ「…こなちゃんは…私のもの…取る人じゃ…無いよ…?」
男「つかさ…!悪いのは全部俺だ!…こなたやかがみは悪くない!」
つかさ「あ…れ…?男君…?なんで…こなちゃんとかお姉ちゃんの味方するの…?」
つかさ「…やっぱり…ホントなんだね…?」
つかさ「…こなちゃんと…お姉ちゃんが…男君取っちゃったの…ホントなんだね…?」
男「…つかさ…」
つかさ「………したの?」
男「…えっ……?」
つかさ「…私にはしてくれないのに…キス…したの…?」
男「…ごめん…つかさ…俺…二人とは…もっと………」
汗が落ちた。
つかさ「へっ………?」
つかさ「………私……男君の彼女だよね……?」
男「………うん。」
つかさ「………。」
男「………。」
つかさ「……えへへっ…。」
男「……つかさ?」
つかさ「そっか……そっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっか」
…つかさは立ち上がり、少し乱暴に俺を押し倒した。
口元はかすかに微笑んで、しかし瞳に光はなく大きく見開いている。
つかさ「…いーよ、おとこくん。えっちなコトしよう?」
つかさ「私、したことないからやり方よく分からないけど、いっぱいすれば、こなちゃんとか、おねえちゃんのコト、わすれてくれるよね?」
つかさ「わたしだけのおとこくんになってくれるよね?」
男「つかさ…ゴメン…ゴメン…俺…もう誰ともそういうことしない事にしたんだ!!」
つかさの不自然な笑顔が消えた。
つかさ「…私とは…できないの…?」
男「…俺、考えたんだ…今の状況…こなたにも、かがみにも、つかさにも、酷い事した…。」
男「だから…みんなとの関係を全部清算して…また一からやり直そうと思うんだ。」
男「こなたとも、かがみとも、もう今の関係をやめようって言った。」
男「だから、つかさとも……。」
男「つかさ…だからさ…もう…別れよう…。」
つかさの顔にまた不自然な笑顔が戻った。
つかさは俺の上に覆い被さって俺の左頬に、自分の右頬が触れる体勢で抱き付いた。
つかさ「うん、恋に障害は付きものだよね。」
つかさ「…障害は、二人で取り除いていかなきゃ。」
つかさ「男君ばっかにつらい思いさせてごめんね。」
つかさ「私ももっと男君が自慢できる様な女の子にならなきゃね!」
男「…つかさ…」
男「つかさの気持ちは分かる…悪いのは全部俺だ…でも…」
そこまで言うと、つかさは急に俺の上から退いて、立ち上がるとつぶやいた。
つかさ「行かなきゃ…」
男「えっ?」
つかさ「二人で…ずっと一緒に居られるように…私がんばるね。」
男「…つかさ?」
つかさはスタスタとリビングの方に歩いていく。
俺は慌てて追いかけた。
つかさは玄関まで行くと振り返った。
つかさ「また来るね!」
男「え……うん……。」
バタン。
男「つかさ…」
俺は閉められたドアを見ながら、何度も何度もつかさに謝った。
『つかさ…ごめん…ごめん…ごめん…。』
自分の部屋に戻って、つかさが残したココアを飲む。
すでに冷めてしまって、濃い部分が底にたまって残った。
『…これでしばらくみんなと距離を置けるな…』
『つかさは…やっぱりすごく傷ついたんだろうな…』
『時間が経てば…また友達に戻れるだろうか…』
物語が終わりに差し掛かっている事を、蒸し暑い梅雨の空が告げていた。
その夜。
柊邸。
つかさがかがみの部屋のドアをノックする。
つかさ「おねーちゃん、入ってもいい?話があるんだー。」
かがみ「………いいわよ。」
かがみの部屋で、二人は向き合った。
対照的な二人。
ニコニコ笑うつかさ。
無表情のかがみ。
…でも二人の心の中は一緒だった。
…そして、土曜の朝が来た。
気怠い朝が来た。
シャワーを浴びても、すっきりなんかしない。
コーヒーを淹れた。
…俺はどれだけのものを失ったんだろう?
母が死んで、父が死んで。
幼なじみや、新しくできた友達との関係も…自分で壊した。
父の、黒井先生の、言葉がよみがえった。
男父『…友達を大切にな…』
黒井先生『…友達を大切にしーや…』
テレビをぼーっと見ていた。
ニュースキャスター『…関東北部の青空は午前中までで午後からはまた梅雨空が戻ってくるでしょう。傘をお忘れなく。それでは次のニュースです…』
俺はいつもより30分以上遅く家を出た。
通勤ラッシュが過ぎているためか電車はすいている。
『…もう今日からは…つかさを迎えに行かないでいいんだな…』
…俺は…今日つかさとどんな顔で会えばいいんだろう。
完全に遅刻だったが、あまり行きたくない気持ちだったので、一限が終わった頃を見計らって教室に入った。
俺の席は通路側の後ろの方だったので、こっそり紛れ込むことが出来た。
最初に俺が見たのは、と言うか見ることが出来たのは、みゆきさんだった。
みゆきさんはとても心配そうな表情だったが、俺を見つけると少しだけ笑って小さくお辞儀した。
…みゆきさんにはだいぶ心配かけたな…
…こなたは…いつもと同じ。眠そうな顔で二限の授業を受けている。
…つかさの席には…つかさはいなかった。
午前の授業が終わった。
今日は半日だ。
みゆきさんが俺のところに来た。
みゆき「男さん…言ったんですね…?つかささんに…。」
男「うん…。」
みゆき「…。」
男「…結構…つかさの事、傷つけちゃった…みゆきさんの言ったとおりだったよ…」
みゆき「…ごめんなさい…私…」
みゆきさんは、うっすら涙を浮かべた。
男「みゆきさん、みゆきさんは悪くないよ。…ありがとう。言わなければ…もっと傷つけてたよ。」
みゆき「…つかささん…お休みですね。」
男「うん…。学校…来たくないんだろうな。俺の…せいだな…。」
窓際に座るこなたが、声をあげた。
こなた「みゆきさーん!」
…当然、俺はそこで話す事なんて出来ない。
静かに自分の席で帰りのHRが始まるまでの時間を待っていた。
しばらくすると、みゆきさんはトイレだろうか、教室を出て行った。
すると、こなたがこちらに歩いてきた。
男「…。」
こなた「おとこ…。」
こなたが、じっと俺の顔を見る。
こなたの目に、俺が写る。
こなた「ずっと…大好きだよ。」
男「…えっ?」
こなたはそれだけ言って自分の席に戻った。
男「…??」
帰りのHRが終わってみんなが帰り始めた。
俺はみんなと一緒に帰る事なんて出来ない…
急いで教室を出て帰路に就いた。
電車に揺られる。
いつもの癖でかがみやこなたの降りる、手前の駅で降りてしまった。
『つかさ…』
朝、教室につかさが居なかったときは、正直安堵している自分が居た。
でも柊邸が近づくにつれて、つかさが心配になった。
『つかさ…ごめん…早く…また前みたいに一緒に…みんなで一緒に帰りたいよ…』
柊家の神社に差し掛かったとき、向こうから歩いてくる少女が居た。
『…つかさ…?』
つかさはまるでこちらに気づいていないかのように、俺の横をすれ違った。
手にはいつかうちに来たとき持っていた大きなバッグが握られていた。
『…つかさ…?』
俺は振り返った。
つかさは振り返らない。
『つかさ…』
つかさの姿が小さくなったとき、ポケットのケータイが震えた。
【from】
柊かがみ
【タイトル】
無題
【本文】
私、男のために他の全部を犠牲に出来そうだわ。
かがみのメールを見て、俺は寒気がした。
…そういえば今日はかがみに会ってない。
かがみはつかさと何かあったんだろうか…?
俺は足を止めてUターンし、もう一度電車に乗り込んだ。
嫌な予感がする。
夏が近いのにブルブル震えていた。
2-Eの教室。
教室にはこなたとかがみが居た。
見つめ合う二人。
かがみ「…こなた」
こなた「…かがみん」
かがみ「…言えるうちにいっておくわ。…ごめんね。」
こなた「…私こそ、かがみんの気持ち気付けなかったよ。」
かがみ「…行こっか。」
こなた「…うん。」
かがみとこなたは教室を出ていった。
電車を降りて、俺は全力で走った。
ふと…みゆきさんの言葉を思い出した。
『…私に出来ることがあったら言って下さい…』
走りながらみゆきさんに電話をする。
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
ガチャ
みゆき「…もしもし男さんですか?今、電車の中なので…」
男「みゆきさん!!なんだか分からないけど嫌な予感がするんだ!!さっきつかさに会って、話しかけても気付いてないみたいで、学校の方に歩いていったんだ。俺も今学校に向かってる!」
みゆき「!!…私も学校に向かいます!」
電話を切り、学校に走り込んだ。
階段を駆け上がる。
2-Eの教室のドアを開けると、そこには…つかさが居た。
男「…つかさ!」
つかさ「あっ男君、久しぶりー!」
私服のつかさは、昨日別れたときと同じ、不自然な笑顔で微笑んだ。
つかさ「えへへ…私に会いに来てくれたの?うれしいなー!」
男「つかさ…」
つかさ「私ね、もう少しでね、この世で一番男君にふさわしい女の子になれそうなの。」
男「…えっ?」
つかさ「…おねえちゃんと…こなちゃんと…もうすぐ決着付くから…待っててね!」
男「なん…だって?」
つかさ「三人でね、決めたの。三人で勝負して、勝った人が男君と一緒になるって。」
男「まっ…待てよ!そんなのって…」
つかさ「…だって、男君じゃ決められないでしょ?…だから、私たちが決めるの。」
つかさはそう言って、大きなバッグを開けた。
中から、刃が布で巻かれた鉈と、短い日本刀が現れた。
それらを手に取ったつかさが、笑顔のままこちらに近づいてくる。
俺は足が震えて動けない。
「つ…かさ…」
つかさは俺の胸に、自分の顔が当たる距離まで近づくと、まっすぐ俺を見上げた。
その目は、氷の様に冷たく、透き通っている。
つかさ「…誰にも優しいってことは、誰の気持ちも大切にしてないって事だよ…?」
つかさ「待っててね、男君。」
つかさはにっこりと笑った。
つかさは俺から離れると、ゆっくりと教室を出た。
震えていた足を奮い立たせて俺はつかさを追った。
つかさの影が階段を上がっていくのが見えた。
男「屋上…?」
階段を駆け上がると、目の前で屋上のドアが閉められた。
…一瞬だが、屋上にはこなたとかがみが居るのが見えた。
俺は焦ってドアノブを回したが、鍵をかけられている。
男「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!開けろ!!開けろ!!つかさぁぁぁ!!!!!」
いくらノブを回しても、ドアをたたいても鍵は開かない。
みゆき「男さん!!」
俺の大声をあげたから気付いたのだろうか、みゆきさんが階下から現れた。
男「みゆきさん!!鍵を!屋上の鍵を!!」
みゆき「!!分かりました!」
みゆきさんは再び走っていった。
最終更新:2008年09月11日 23:54