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私こと、新子憧は男性が苦手だ。 嫌いとまではいかなくて、苦手なのだ。 小学生のころ、男子によくからかわれ弄られて以来、苦手意識が消えない。 今思えば、好意によるものだったのだと理解出来るも、嫌な記憶であることに変わりはないのだ。 「よろしく」 「……よろしく」 だから、最初に京太郎と会った時もあまり良い顔をしなかった。 背が高く、金髪で和や玄、宥姉の胸に視線が行って鼻を伸ばす男子。 苦手とする男子像そのものだったのだ。しょうがないだろう。 それでも、和の部活友達であり、和に迷惑をかけるわけにもいかないと思った。 「ごめん。私……男性苦手で」 「あー……そっか、分かった。気をつけるよ」 「お願い」 それ故に最初に会った時に自分のことをしっかりと告げておく。 手を差し出していた京太郎は、手を引っ込ませ手を軽く上げて『改めて、よろしく』と挨拶してくれる。 怒るわけでもなく、不愉快な表情をするわけでもない、更には理由も聞いてこない京太郎に少し好感度が上がった。 喧嘩しないように騒ぎにならいないように伝えた事。 良く思えば、これからのことを考え別の言い方をすればと後悔する。 そうすれば、未来は、現在の私は苦労しなかっただろう。 : : : 「よっす!」 「京太郎!」 季節は夏。三度目のインターハイが終わった後の夏休み。 遊びに来た京太郎にしずが飛びつく。 女性が男性に抱きついて挨拶を交わす。 普通であれば、恋人のそれであるが、この二人の場合色気のいの字もなかった。 そもそも二人は付き合っているわけでもなく、仲がいいからのスキンシップでしかない……筈だ。 「飽きないわねー。あんたら」 「えへへ、嬉しいんだもん」 「憧も、よっす」 「よっす」 二人を呆れた表情で見ていれば、京太郎が笑顔で手を上げて挨拶してくる。 それに対して、私も同じように手を上げて挨拶を交わした。 「今日も山?」 「もちろん!」 「しずには、聞いてない。あんたの場合、それしか言わないし」 「夕方には戻ってくるし、泊まりだから……明日は皆で遊べるな」 嬉しげに笑うしず。 今まで、男性の友人も居らず。 しずのお爺さんが、山を登れなくなってからは一人ぼっちであった。 だからこそ、山に付き合ってくれる人が居るのが嬉しいのだろう。たぶん……。 「いってきまーす!」 「しゃぁ、行くか!」 「はいはい、いってらっしゃい」 元気に飛び出ていくしずと気合を入れて歩く京太郎。 そんな二人を見送り、一人になると落ち込んだ。 (……しずとの挨拶の落差ぁ) 誰もいない事を確認し、その場にしゃがみ込み、そう思った。 何時からだろうか、京太郎を好きになったのは……そんな事をついつい考えてしまう。 初めて阿知賀に来た時、しずに付き合い山へと登って行った。 最初は止めようとしたもの、体力があるから大丈夫と笑う京太郎。 相手が女の子のしずだから油断していたのだろう。軽いハイキング程度だと。 夕方になり、困った表情のしずの横で倒れこむボロボロの京太郎に呆れ溜息をつく。 これで懲りただろう、そう思った。 『今回は大丈夫。リベンジだ』 二度目の訪問の時、登山用の服装にリュック。 しっかりと履き慣らした山用の靴を持参して来た時は、別の意味で呆れる。 何処までもお人好しなのだろうと。 『また……一緒に登ってくれるの?』 『おぅ! 付き合うぜ』 泣きそうな、それでいて嬉しそうな複雑な表情をするしず。 そんなしずに笑って返す京太郎。 あぁ……今思えば、あの時初めて意識をしたのだ。 『おもち!』 『おもち……っ』 『そうなのです! おもちです!』 『おぉ……柔らかさに清楚な白い色のイメージ……玄さん、天才ですか!』 『えっへん!』 『……馬鹿っぽい』 男女の仲に友情は成立するのだろうか。 セクハラに近い談笑をしている二人を見てそう思った。 (私もそこそこ大きいわよね?) 玄が胸を張った瞬間、大きな胸が突き出される。 その胸に視線が行ってしまい、顔を赤らめ鼻下を伸ばす京太郎。 そんな彼を見て、少し拗ねながらも私は自分の胸を軽く持ち上げた。 しずよりかは、勝っている筈だ。 『京太郎君って筋肉付いてるよね?』 『ふへ? まぁ……鍛えてますし』 『……ちょっと触れてもいい?』 『え? は? えっと……いいですけど。なんで?』 『筋肉がある人って体温高いって聞いたから……だめ?』 炬燵に入っていれば、宥姉がそんな事を言い出す。 お人好しの京太郎に断れるわけも無く。 炬燵に入っていた京太郎の背中に、幸せそうな表情で宥姉がぴったりと張り付く。 『あったか~い』 『……!!』 『ずるっ……』 恥ずかしさと物理的暑さで顔を真っ赤にさせる京太郎。 素直にずるいと思った。 『勝負!』 『受けて立ちますよ!』 『何してんの? あの二人』 『ボウリングで勝負するんだって』 『私から……っ!!』 『おっと』 『っ……ご、ごめん』 『やー、こっちは大丈夫っす。それより怪我が無くてよかったです』 灼さんと京太郎のボウリングでの遣り取り。 その最中に灼さんが足を縺れさせ転んでしまう。 そんな彼女を庇ったのが京太郎だ。 抱きしめられる様に庇われた灼さんは、顔を真っ赤にさせている。 逆に京太郎はほっとしていた。 そんな二人を見て、庇われる灼さんが羨ましかった。 『京太郎! 何飲んでるの?』 『新発売だってさ』 『どんな味? 美味しい?』 『ほれ、飲んでみ』 とある時、京太郎が飲んでいた飲み物に興味を示す、しず。 そうしていれば、京太郎が苦笑して、飲んでいたペットボトルをしずに寄越した。 簡単に言えば、間接キス。 しかし、二人は気にしない。 『へ、へ~……新しい奴なんだ?』 『憧も飲むか?』 『い、いいの?』 羨ましく思い、言ってみれば期待通りの答えが返ってきた。 『ほい、俺の奢りだ』 『あぁ……うん、ありがと』 しかし、思ってた展開と違う。 京太郎が新しく買ったジュースを此方に渡してくる。 よく考えれば、飲んでいたのを貰ってもしずが先に飲んでいるので意味はないのだ。 それでも落ち込んでしまう。 『んでさー』 『へー』 『……』 貰ったジュースを両手で包み込むように持ちながら、二人の後ろを歩いて付いていく。 あぁ、羨ましい。 他の子達と触れ合う様子を見ていると本当にそう思う。 男性が苦手と言った私。京太郎からしたら気を使っているのだろう。 でも、それが今は辛い。 あぁ――苦手だった男性からの視線 しかし、好きな人から視線を貰えないのが、こんなに苦しいものだなんて あぁ――男性と触れ合うのが怖かった でも、好きな人と触れ合えないのが、こんなにも悲しいなんて 付き合ってくれるのが、見て貰えるのが、触れ合って貰えるのが、庇って貰えるのが 「本当に羨ましいな」 遠い未来、私も他の四人の様な関係になれるのだろうか。 その場から立ち上がり、二人が登って行った山を見て思いを馳せた。 カンっ!

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