※テルー超強化前提です


私と彼、須賀京太郎が出会ったのは中学三年の給食委員会の時だった。
 人気がある放送委員会や飼育委員会は取られてしまい、あまりものに割り振られることに。

「よろしく……」
「よろしくお願いします。先輩」
「えっと……私も初めてだから」

 三年は一年に教えてほしいと先生に言われたのに委員会共通の事しか分からない。どうしよう。
 まず、やることになったのは新しいメニューの考案だった。毎年行っていることらしいが私は好きな食べ物なんてお菓子くらいしかない。なので、須賀君にメニューの考案をさせてみる。

「そうですね、毎年の例を先生に聞いてみたのですがデザートはここ数年間はないそうなのでやってみたいです」

 意外にも挑戦的だった。それで委員会終了の時間になり先生に各自で作ってみてほしいと言われた。
 でも、私の家には人見知りの咲がいるし、お父さんとお母さんはピリピリして離婚するか否かと話し合っている。そんなところに連れていけない。家庭科室は借りれなかったところ、須賀君がウチでやろうと提案したのだが。

 京ちゃんが提案したのはデザートとして蕎麦の天ぷらだった。

「須賀君の家って料亭だったんだ」

 学校に集合してから須賀君のお店に行ったが、先生……個人情報を教えてもよかったのだろうか。 

「えぇ、よし……できましたよ」

 てんぷらと言っても蕎麦の切れ端を油で揚げて砂糖をまぶした意外にもシンプルなものだった。

「美味しい。けど」
「けど?」

 私はお菓子好きだし新しい触感だから満足はするかもしれないけど。

「みんな、学校の皆にとっては地味かもしれない」
「地味。ですか」
「みんな、饅頭とかいわゆる、昔からある日本のお菓子って白とか茶色とかカラフルじゃないのが多いから人気が……えっと、その……」

しまった。今年から委員会に入ったばっかりの子。しかも試作品まで作ったのに否定してしまって。
 須賀君は苦笑いだ。彼も小さい頃から練習はしているんだろう。それを私が否定してしまったら……えっとどうすれば。

「すみません、不勉強で。俺、和食ばっかりだったし」
「ううん、須賀君の技術は手を見れば分かるから」

 切り傷や豆とかいっぱい作っている所謂、職人の手だ。でもせっかく和食の店にいるのだからそれを出していきたい。

「何がいいですかねー……」
「長野、そば、おやき、野沢菜、りんご……!」
「りんご?……いいかもしれません」

 そうだ。リンゴならデザートに使いやすいし長野の名産だ。和食にも使えるかもしれない。

「……落雁、羊羹、お団子、アイス、どら焼き、饅頭。饅頭か、どら焼きなら和風だしりんごをいっぱい詰め込めると思う……」
「いいかもしれない。でも、良く思いつきましたね。いまのところ米粉は……あっこれ業務用だ。小麦粉は……大丈夫」
「お菓子大好きだから。なら、どら焼きだね」

 どや顔で応える私。そこへ須賀君のお父さんが入ってきた。挨拶もそこそこに現状を彼は伝える。

「リンゴのどら焼き……か」
「宮永先輩のおかげで思いついた」
「そうか。おりがとうな、宮永さん。京太郎、今日は手伝いはいい。思ったように作れ」
「わかった、頑張るよ」

 作り方や材料を明記していくが何かもっと良い味にしたい、今のままだとどら焼きの皮がりんごに負けている。

「少し餡をマイルドにする必要があるかもしれませんね」
「リンゴに砂糖を混ぜた黒餡だと濃すぎたのかもしれない」
「白あん使ってみますか」

 須賀君が言うには白あんは餡子の印象が強くなく他の素材と合わせやすい。それに砂糖を使うよりもマイルドな仕上がりになるという。

「美味しい。いけるかもしれない。和食の繊細なイメージも崩れていない」
「ありがとうございます。宮永先輩」
「長年磨いた須賀君の努力のおかげ。私はこうあればいいなって思っただけ」


 後日。私たちが考案したリンゴのどら焼きは給食委員会で人気となり正式に採用された。
 少し、須賀君がうらやましいと思った。ハンドボールの活躍は勿論だが、料理を続けていること。
 私も咲もそうかもしれないけど家族で麻雀をやっていたけど両親の仲が険悪になって小学校半ばで中止に。


「宮永先輩のおかげです。ありがとうございます」
「よかったね、須賀君」

 本当に美味しかった、リンゴのどら焼き。もっと食べたいくらいだ。頼んでみようかな。

「えっ?お菓子や料理を?」
「うん。その代わり、皿洗いするし。須賀君の勉強も見るから。私の受験勉強にもなるし」
「……とりあえず、聞いてみます」

 須賀君はハンドボール部でもあるため手伝うのは週に一回くらい。須賀君のお父さんが言うには歳の近い人の意見も聞けるかもしれないということもあってOKを貰った。

 そしてしばらくした7月上旬。


「ねぇ、京ちゃん。どうして、長年、料理という一つのことに集中できるの?辛くはないの?」

 私は話した。母が元プロ雀士で幼少のころ家族麻雀をしていたこと。負ければお年玉やお菓子を没収されて勝てば嫌な気分をされていたこと。いまは、両親が離婚寸前でやっていないこと。

「辛いですよ。でも、楽しい。お客様の笑顔とか見るとこっちも嬉しいし。親から受け継いだ技術ですが誇らしいからですかね。照さん。麻雀は辛いだけでしたか?」
「……勝てば安心できたけど。お年玉とられずに済んだし。楽しくはなかった……かな」
「そう、ですか。照さんはどうなりたいですか?」
「いま、何も賭けずにただの競技としてやればまた違うかもしれないけど。わからない。両親がいつ離婚するかもわからないのに。咲、妹とも折り合い悪いし」

 いまは受験だし麻雀にしろ、違ったものにしろやるのは高校からだろう。
 ちなみに、高校からの麻雀部での営業スマイルの基礎はここのウエイターのお手伝いで養われたのはいい思い出だ。
 できれば家族仲良くしたいけど、まず優先すべきなのは両親だ。離婚だけはとりあえず避けてほしい。
 そんなある日のことだった。両親が離婚寸前から別居状態に落ち着いたのは。もう少し詳しく言うと私の高校受験を機にお母さんは東京で暮らすらしい。その際、一緒に来るかといわれたのだ。
 私はそれにOKした。子は鎹ともいうしこのまま一緒にいると離婚の話になりそうで嫌だったし。
 京ちゃんは別居に改善されたことを喜んでくれたけど、数少ない良好な関係だから複雑だった。



「で、ここの図式は……」
「は、はぁ……」

 秋になってもうすぐ受験。
 勉強を教えているがなぜがどうも集中していない。まるで何かを隠しているかのような。視線を辿ってみる。

「ねぇ、京ちゃん。そのベッドの下から見えてる袋とじの文字って……なに?」
「なっ何でもないですよ」
「……見せて。でないと、おばさんに言いつける」

 そして差し出された雑誌はいわゆるグラビア誌だった。それも巨乳モノだ。

「京ちゃんってこういうの好きなんだね」
「あっいや……」
「ここに年上のお姉さんがいるのに……」
「いや照さんはオモチが」
「いずれ大きくなる。なってみせる」
「……」

 そんな微妙な顔をされても困る。高校を出て帰ってきたときビックリすればいい。

「料理や学校の勉強もいいけど女の子の扱い方も学んだほうがいい。私で、学んでみる?」

 顔が赤い……脈ありだろうか。揶揄いながら彼の胸を指でつつく。

「茶化さないでください」
「ふふっ」

 なかなか可愛い反応をしてくれる。学校ではやんちゃな評判しか聞かないが意外だ。そして暫くたった頃。

「胸が少しキツイ」

 おかしい。いままでの成長ペースでいけば下着のサイズには遺憾だがまだ余裕があるはず。
 買い替えなきゃいけないとは。咲は相変わらずちんちくりんだ。その原因を知るには私がオカルトを自覚したころになるのだが。

 冬になり京ちゃんに勉強を教えながらじゃれあう日々が続き。私は東京の白糸台高校に合格した。

「改めておめでとうございます。照さん」
「えっへん」

 白糸台は全寮制だが、東京の自宅からは近い学校だ。そこには麻雀部はあるものの勝ったり負けたりという普通の実績だ。どうなるかは髪の味噌汁といったところ。

「でも、京ちゃんと別れるのは寂しいな」
「俺は長野ですからね。でも、たまに東京に営業とか競りとかに付き添いで行きますから。きっと会えますよ」

 なるほど。これは良いことを聞いた。そのときは家に呼ぼう。

「そのときは京ちゃんにお菓子と料理を作ってもらう」
「まだ見習いで下拵えしかさせてもらってませんよ」
「それでもいい。その代わり、引き続き勉強を教えるから」

 あのどら焼きを見るに京ちゃんにはお店での下地が身についている。きっと美味しいはずだ。

「そういえば、照さんって妹がいますよね」
「……私に妹は居ない」
「……そう、ですか」

 京ちゃんからその名前をきいたとき背中に氷を入れられる感覚が襲った。咲にお年玉を取られて、京ちゃんまで取られるの……

「咲は私よりおもちが薄い。私はなぜかこの数ヶ月で成長している」
「やっぱり居るんですね」
「……京ちゃんは私でいい……」
「!?」

 そういって私は抱き着いて学ランの上から胸に唇を落とした。

「じゃあ、また夏休みにね」

 そして、高一のGW。私はオカルトの照魔境を自覚して少し経ったとき京ちゃんが親の付き添いで東京に来た。偶然にも私の部活も休み。

「とりあえず、照さんが好きなお菓子を作ってきました」
「ありがとう京ちゃん」

 長野の名産品やあのリンゴのどら焼きや大福とかより取り見取り。

「やっぱり美味しい……」
「そうですか、よかったです」
「その咲ってどんな様子?同じクラスになったって言ってたよね」
「いつも本を読んでますよ。たまにハンドの試合を見に来てますが迷子にもなってます。その度に探しに行くんですがね」
「むぅ……京ちゃん」
「なんです?」

 嫉妬もソコソコに。正直、伝えようか迷う。けど、自覚させておいた方が良いかも。

「私が麻雀を再開したことは知ってるよね。でね、今年運がいいことに強い人が集まった」
「へぇ」

 おめでとうという言葉は嬉しいけどソレには実は京ちゃんも少なからず関係している。

「麻雀って理論に沿って打つタイプと独自の好みに沿って打つタイプが居るんだけどね」

 私の能力は照魔境。相手のオカルトを見抜く代物であることを説明した。

「まぁ、競技の世界ですからね。ハンドにもすごい人いますから大体理解できます」
「うん。で、京ちゃんにもあるんだ。オカルト」
「へ?」
「いままで、周りの人が幸運に恵まれる前に○○だったらいいなって聞いた場面があったはず。電話で聞いた限りで数回ほどあったね」

 コクリと頷く。でもすぐに否定した。確かにチームメイトがこうあればいいという話は聞いたがそれはその人自身の幸運や努力で叶ったものだから。

「ごめんね。確かに良いことが全て京ちゃんのおかげだったらなんて。でも、半信半疑でいいから聞いて。気を付けて、たぶん代償がある」
「まさか……」

 何を冗談を。と、京ちゃんは言った。私自身もそう思いたかった。ならばせめて……

「お守り」

 そういって京ちゃんの唇を奪った。

「照、さん……」


 一年後、その日はやってきた

「大怪我したって本当!?」

 電話で彼に聞いた。県大会の決勝で順調にいっていたのに肩を壊したのだ。

「まぁ、高校は別の部活にでも」
「ごめん!」

 私は電話越しに涙ながらに話した。京ちゃんのオカルトは周囲の人間をその人の理想に引き上げるオカルトだと。
 勿論、そんな都合のいい話があるわけもなく代償があった。

「需要と供給。そのバランスが崩れきったらそれまで与えていた人。それでも足りなかったら京ちゃん自身も」

 その結果がこれだ。

「でも、照さん。不幸になっていないでしょ」
「それは、私自身。勉強を教えたりしてて」

 離婚寸前だった家族が別居にとどまって。あとオモチも京ちゃん好みに膨らんで。

「ならプラスマイナスゼロじゃないですか」
「プラマイゼロか。咲、妹も家族で麻雀してたときそんな戦い方をしていたんだ」

 そうだ。これ以上、京ちゃんから受け取るわけにはいかない。プラマイゼロが得意な咲ならきっと。

「京ちゃん。咲を……妹をお願い。あの子ならきっと」
「……分かりました」

 そして私と京ちゃんの関係はこれで終わった。



 高三。最後のインターハイ

「がんばれー!清澄ー!」
「!?」

 決勝戦スタート前。観客席から京ちゃんの声が聞こえた。
 来て、いるんだ。あんなことをしたのに。
 いよいよ開幕。ダメ、平常心で打たなきゃいけないのに。いいところを見せたいって思ってしまう。

「大丈夫か?白糸台。咲ちゃんから話は聞いてるじぇ」
「私に妹は居ない……」

 そうだ。私は京ちゃんを不幸にした。咲は京ちゃんのオカルトが効いていない。私と咲は無関係。咲にこんな姉は居ない……

「よろしくおねがいします!」
「よろしく頼む」


 結果は2位で最後のインターハイが終了した。

「ん?」

 その夜。携帯にメッセージが入る。

「!?」

 京ちゃんから親の仕事で来るから、この夏に会えないかというものだった。

「……」

 迷った末にOKを出した。どうやら自分の中で会いたいという方に天秤が傾いたらしい。
 当日、東京の私の家。お母さんは仕事で明日まで帰ってこないらしい。そして私は寮生活、京ちゃんの仕事の方は午前中で終わり。二人とも夕方まで時間がある。

「照さん。遅くなりましたが準優勝おめでとうございます。これ、差し入れです」
「ありがとう」

 お礼を言いつつ、お菓子を受け取る。京ちゃんは友達の所に行くとだけ伝えてきたらしい。

「ありがとう。咲を決勝まで連れてきてくれて」
「俺は何も……ただサポートに回っただけです。3年の部長も引退。次は君の番だって言われて」
「応援にいく」
「それは心強い。でも、あれウソになりましたね」
「?」
「俺のオカルト」
「うーん」

 いろいろと推察はある。まだ返ってきていないか、ハンドとは違い正式に期間限定でサポートに回っていたからか。

「まぁいいじゃないですか。何もなければそれで」
「そうだね。でも、京ちゃんに良い所みせられなかった」

 そういって彼に体を寄せる。京ちゃんの心臓の音が聞こえる。

「照、さん」
「京ちゃん……好き。あの時からずっと寂しかった」
「俺もです」

 自然と唇が重なる。二度、三度とだんだん深く。

「京ちゃん。まだ、時間あるよね」

 コクリと頷き見つめる彼の手をとり胸に当てた。

「照さん。あの」
「結構、大きくなった」

 愛のなせる業と耳元で囁きながら手を服の内側へ。

「京ちゃん……お願い、好き」

 高校生だ。それが分からない筈はないだろう。

「大丈夫ですかね。もし、一緒になったとしてこの先照さんの言う俺のオカルトが不幸を与えないとは」
「なら、私も与えればいい」

 現に京ちゃんの店や家族に不幸がないのは需要と供給が上手く巡っているためだろう。同じようにすればいいだけだ。

「てる……さん」
「きょう……ちゃん」


 それから4時間後

「いつ買ったんです?ゴムなんて」
「京ちゃんに会う前。ドラッグストアで」

 お互いタオルケットに包まったままで話す。
 私服だったし変装もしていたから大丈夫だったと告げる。辺りには結ばれた近藤さんが5人ほど。

「今更だけどプロの方がみなさん望んでいるんじゃないですか?」
「咲の受け売りだけど、やっぱり麻雀は楽しくなきゃ。プロだと賭け事、勝負師ってイメージがあるし。京ちゃんはどうするの?」
「俺は……」

 私の方は決勝後に家族の仕事がひと段落したら別居を解消しようという流れが出てきた。家族がまた一つに戻れる。あとは京ちゃんだ。

「俺は、実家を継ぎますよ。麻雀はゲームっていうイメージがあるし、負けてばっかりだし。料理しかできない」

 改めて私はどうするか聞かれた。

「京ちゃん。私、経済学部か商学部に入るつもり」
「インターハイの結果があるから大丈夫ですよ、きっと」

 でね。と私は続けた。

「料理は京ちゃんに任せるから、お店の経営戦略は私が治めるというのはどうかな」
「京ちゃんに返すっていったし。また……ううん、もっと京ちゃんの料理食べたいし。もちろん、私も作りたい」
「…………わかったよ、女将さん」

 日々は巡り、幸不幸は順にやってくるだろう。でも、支えていけばきっと大丈夫。


カンッ

照「と、まぁこんな感じで京ちゃんをオトしにいくから。咲、そしてみんな。協力よろしく」
咲「お年玉やお菓子だけじゃなく、京ちゃんの籍も取り上げてやろうか?あの時のように……!」(ゴッ魔王モード
菫「お前、インターハイを何だと思ってる!」
淡「テルーがヒロインなんてズッコイ!」
ネリー「パトロン、せめて広告塔。あわよくば、妻になってお金を」
優希「てゆーか私の出番これだけか!?」
久「私なんて……」
和「胸は天然で私の方があるのに……」


モイッコカン



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最終更新:2021年06月25日 22:25