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京太郎「もし俺が姫松高校に通っていたら」

  • 京太郎が大阪出身だったら、という妄想の上で成り立つスレ

  • 基本的に非安価。たまに取るかもしれません。(その時は事前に報告します)

  • 時系列はグチャグチャ。

  • 最近、咲にはまったニワカです。

  • 筆は遅いですが、勘弁を。




俺には一人の幼馴染がいる。


そいつは傍から見たらちょっと特殊な奴だった。


周りのみんながヒーローや魔法少女。はたまたスポーツ選手やアイドルに憧れて、真似事や遊びをしている中、一人だけ麻雀という遊びに没頭していた。


そして、みるみる内に実力をつけて全国区でもその名をとどろかすようになる。


そんな彼女の妹と一緒に運動をしていた俺だったが、時々つき合わされ、気が付けばそれなりの力を身に着けてしまっていた。


多分、俺も彼女が言うところの麻雀の魅力に取りつかれてしまったんだと思う。


同じ小学校、中学、高校と通い、今は麻雀の名門姫松高校に通っている。


そんな俺と洋榎と――姫松高校麻雀部の日常のひと時。

『いやー、まさか京太郎が姫松に受かるなんてなー。しかも、うちと同じ推薦で』


『これでも男子の中なら、まぁまぁの成績を残していたからな』


『うちらでやると3位かラスばっかやのになー』


『愛宕家がおかしいんだって』


『うちはおかんも強いからなぁ。でも、その荒波にもまれたおかげで今の京太郎があるわけや! な?』チラチラ


『……うん、まぁ、それは感謝してる』


『せやろー? じゃあ、何か言うことあるんちゃうかー?』 


『雅恵さん、ありがとう』


『うちは? え、うちは?』


そんなやり取りをしたのがもう一年前。


この全国常連校である姫松に入って二年生になった俺達。


いつもつるんでいる麻雀部の面子はみんな同じクラスになり、今は目的地へと向かっている途中だった。


恭子「いやー珍しいこともあるもんやな。こうやって四人が揃うなんてな」


洋榎「うちは楽でええけどな。京太郎もおるし」


京太郎「洋榎の相手は面倒くさいからパスで」


由子「右に同じなのよー」


洋榎「ひどっ! 恭子―、二人がいじめてくるー」


恭子「絹ちゃんに慰めてもらい」


洋榎「お前ら全員嫌いや!!」


脱兎のごとく走り去っていく洋榎。いつも通りの対応で俺達は放置することに決めた。


距離はぐんぐんと離れていくが歩みのスピードを変えることなく、進んでいく。

京太郎「帰りどうする? 今日は終わるの早いだろ?」


恭子「アイス食べに行かへん? 美味しい店できたらしいで」


由子「賛成なのよー」


京太郎「あ、一人、後輩も誘いたいんだけどいいか?」


恭子「……別にええけど? なに、彼女?」


京太郎「違う違う。洋榎の妹だよ。幼馴染だから」


恭子「あ、なんや、洋榎の妹かいな。それやったらはよ言いやー、もう!」


バシバシと背中をたたいてくる末原。イタイ、いたっ、いてぇよ! 叩きすぎだろ!?
だが、一瞬冷たくなった態度は一転。元気が溢れ出ていた。


由子「恭子ちゃん、完全に乙女なのよー」


京太郎「由子も見てないで助けてくれよ……」


由子「あ、部室着いたのよー」


京太郎「お前も本当に遠慮なくなってきたよな……」


談笑している間に、部室の前まで着いていたらしく由子が扉を開ける。
見てみると、そこには慰めてもらっている洋榎と眼鏡をかけたおもち少女――絹ちゃんがいた。

洋榎「あー、絹はうちの癒しやで」


絹恵「はいはい、お姉ちゃんはええ子やなー」


洋榎「絹ぅぅぅぅぅぅ!」


由子「あ、洋榎いた」


京太郎「お、絹ちゃんも来てたのか」


絹恵「あ、京にぃ!」


洋榎「ふごっ!?」


洋榎を慰めていた絹ちゃんが実の姉をほっぽり出してこちらへと近づいてくる。
そのまま体重を預けるように飛び込んできた。


絹恵「京にぃ!」


京太郎「おー、絹ちゃんは相変わらず元気がいいなー。でも、あっちで姉ちゃんが悲しんでるぞ」

洋榎は椅子に頭をぶつけた後、患部を手で押さえて床でゴロゴロと転がっていた。
涙目で『うぅあぁぁ』と声を上げている。


絹恵「はっ! お姉ちゃん!?」


洋榎「もうみんな嫌いじゃぁぁぁぁ!!」


部室中に洋榎の怒りの声が響き渡る。
なんだかんだで、今日も部活動が始まるのであった。







須賀京太郎(姫松高校二年生)



中学時代 

ハンドボール部所属。麻雀はあくまで趣味程度。だが、地方の大会ではそれなりの結果を残していた為、特待で入学に成功。


高校時代 

突然の力の目覚めにより覚醒。一年ながら姫松高校麻雀部・男子部門においてエースとしてインターハイ団体戦準優勝に導く。
それだけでなく、個人戦でも実力を遺憾なく発揮。高校麻雀界に新風を巻き起こす存在となる。




京太郎「お邪魔しまーす」


洋榎「邪魔するんやったら帰ってー」


京太郎「はいよーって、なんでやねん!?」


Uターンした直後、腰をひねり、ツッコミを入れる。表情も理不尽さを出し、手もしっかりスナップを利かせた。玄関で応対した洋榎は『うんうん』と頷くと、廊下を歩いていく。


そして、リビングへと姿を消した。


京太郎「……放置プレイかよ……!?」


絹恵「なに叫んでんの、京にぃ……?」


ふわぁ、とあくびをして階段を降りてきたのは絹ちゃん。今、起きたみたいで可愛らしい水玉模様のパジャマ姿だった。
うんっと背を伸ばしているせいで豊かに育った胸がかなり強調される形になっていて、いやはや実に素晴らしい。

絹恵「ん? なんや、うちをジ~っと見て」


京太郎「いや、絹ちゃんはよく寝るなぁ……って」


絹恵「昨日、家でめっちゃ麻雀打って疲れたからなぁ。それでも12時には寝たんやけど」


となると、今は朝の10時なわけだからもう10時間も睡眠していることになる。寝る子は育つとよく言ったもんだがあながち間違いでもないな……。


絹恵「それで京にぃはこんな朝からうちに来てどないしたん?」


京太郎「ああ、今日はここでみんなと麻雀する約束しててさ」


絹恵「へー、誰が来るん?」


京太郎「由子に末原。ていうか、聞いてなかったの?」

絹恵「うん。お姉ちゃん、いっこもそんな事言ってなかったよ? って、そんなんやったらうち、不味いんちゃうん!?」


京太郎「なにが?」


絹恵「だって、先輩方が来るのにパジャマ姿のままやで!? 恥ずかしいわ!」


??「ほー、絹ちゃんはこんな時間まで寝てるんかー」


??「でも、ちょっとサイズが小さいのよー」


絹恵「それは京にぃが買ってきてくれたお気にいりやから――って先輩!?」


絹ちゃんの渾身の二度見。さっきから後ろにいたのに眼鏡をかけてないせいで気づいてなかったらしい。
さらに言うならば二人とも私服で、恭子に関しては髪を下ろして大きな赤リボンまでつけている。わからないのも仕方がないだろう。

絹恵「すみません、先輩! こんな見苦しい姿お見せして」


恭子「ええよ、ええよ。可愛いもん見れたし、それに面白いことも聞けたしなぁ」


末原はニヤニヤと意地の悪い表情をしていた。遊びがいのある玩具に出会った子供みたいに。


恭子「ちょうどええわ、絹ちゃん。うちとちょっと上でお話しようや。大丈夫、怖くない。すぐ終わる」


絹恵「で、でもうち着がえへんといかんし」


恭子「それも手伝ったるがな。ほな行こうか」

絹恵「あー、京にぃ! 真瀬先輩助けてー!!」


ずるずると引っ張られる形で絹ちゃんは末原に連行されてしまう。
助けを求めるもどっちにしろ着替えないといけないわけだし、ああなった末原は止められない。ごめん、ごめんよ!


京太郎「絹ちゃんの骨は必ず拾うから……!」


由子「あなたの犠牲は無駄にしない……! ……のよー」


絹恵「そんなぁぁぁあ」


俺と由子は涙をぬぐう(フリをする)とリビングへと入っていく。
そこには見慣れた景色があり、テーブルには四つの席が用意されていた。


もうすでに山が積み上げられていて、どっしりとやる気満々の洋榎が座っている。



洋榎「遅いわ、三人とも! ってあれ? 恭子は?」


由子「絹ちゃんと楽しい楽しい話し合いなのよー」


洋榎「あっ」


それだけで何かを察したらしい。さっきの末原に負けないくらいの笑みを浮かべた洋榎が肘で脇腹を小突いてくる。


洋榎「なんやモテる男は辛いの~」


京太郎「俺には洋榎がいるから関係ないけどな」


洋榎「なにゃっ!?」


一気に頬を髪色のように真っ赤にさせる洋榎。あたふたする様子はえらく可愛い。
洋榎はみんなのムードメーカーだ。体を張ったギャグをして、笑いを取って、人気者になる。

そのせいか告白と言うものをされたことがない。愛宕姉妹の面白い方と呼ばれる始末。

だから、こんな冗談には弱い。

洋榎「な、なんや急に……。う、うちも別に京太郎のことき、嫌いじゃ――」


京太郎「冗談だ。俺も嫁にもらうなら絹ちゃんがいいし」


洋榎「おう、はよ卓つけや。速攻でとばしたる!」


由子「洋榎ってば燃えてるのよー」


由子はクスリとお嬢様らしい笑みを浮かべて、俺の対面に座る。
となれば、自然と空く一つの席。恭子と絹ちゃんはまだ下りてくる気配はない。


京太郎「どうする? 三麻?」


洋榎「なんでもええわ。とりあえず、京太郎。お前だけは絶対にヤる」


それが決闘の合図。ツモり、切って、ツモリ、切る。

京太郎「ふ……この俺に勝てるのかな?」トン


洋榎「おーおー、偉そうになりよって。去年、インターハイでいい結果出したからって調子のりくさりやがって」トン


京太郎「実力だよ、実力。いやー、あれ以来、俺も忙しくなっちゃってさー」トン


洋榎「私にトばされまくってたやつが何いうとんねん」トン


由子「あ、それロンなのよー」


洋榎「由子、貴様―!!」


由子「あっはっは、集中してない方が悪いのよー」


由子は実に満足気だった。してやったり、という顔をしている。


京太郎「洋榎は弱いなー」


洋榎「なにわろとんねん! い、今のはあれやし? わざと差し込んだだけやから! ハンデや、ハンデ!」


京太郎「へー、そうかい。なら、俺も次に由子に振り込んでやるよ。弱い子にはハンデがないとなぁ?」


洋榎「そんならうちはもう一回、由子に振り込む!」


京太郎「なら、俺三回!」


洋榎「うち四回!」


由子「……二人とも、流石に私もキレるのよ……」


京・洋『ひっ!?』


由子ちゃん、怖い。去年の女子インハイチャンプくらいに怖い。


そんな感じで打ち進めていると楽しい会話を終えた二人が下りてきた。

恭子「お、もう始めとるんか?」


絹恵「京にぃは共有財産共有財産共有財産共有財産共有財産共有財産……」ブツブツ


洋榎「……うちの妹が壊れてるのは気のせいか?」


恭子「気のせいやで。それよりも次はうちも混ぜてーな」


京太郎「あ、なら、ついでだし俺も変わろうか、絹ちゃん?」


絹恵「ううん、京にぃはみんなのものやから座ってて」


洋榎「やっぱりおかしくなってるって! 斜め45度チョップ!」


絹恵「いたっ!? ……って、あれ? うちは……さっき起きて、いつ着替えたんやろ? あ、先輩方、こんにちは」



恭子「こんにちは、絹ちゃん。それよりちょっとうちとお話」


洋榎「もうえーよ、その流れ! それより絹! 由子と変わって入り! 一緒に京太郎潰すで!」


絹恵「ええっ!? どないしたん、お姉ちゃん!?」


洋榎「こいつ、さっきうちに冗談半分で告白してきたんや!」


絹恵「それはこらしめなあかんなぁ。姉妹の絆、見せたろうか!」


洋榎「それで嫁にもらうなら絹がええとかぬかしよったんや!」


絹恵「ごめん、お姉ちゃん。うちは京にぃの味方やわ」


洋榎「絹ぅぅぅ!?」


恭子「安心せい、洋榎。うちが混ざったるわ」


絹恵「よし……これで二対二のタッグ戦や。絶対に負けへん! うちと京にぃの明るい将来のためにも!」


京太郎「はっ!? 絹ちゃん、なんで腕組んで……ちょっ、洋榎も末原もなんで鋭い目をしてんの!? 怖え!! 怖えよ!?」


洋・恭・絹『この勝負、絶対にうちらが勝つ!!』


かくして、俺の未来(?)が掛かった半荘が始まった。














由子「全く意味がわからんのよー」


愛宕絹恵は幼馴染二号である。


とは言っても、彼女は愛宕洋榎の妹なので自然と知り合い、自然と仲良くなり、自然と同じ高校に入学してきて、自然と同じ部活に入部した。


そんな彼女だが中学校まではサッカー部に所属しており、麻雀は俺達にたまに付き合う程度だったのだ。


当然、実力は並々。レギュラーを取るには程遠い。


なので、俺はよく放課後や休日に雀卓のある愛宕家にて彼女と特訓をしていた。


本日も末原たちと激戦を繰り広げ、みんなが帰った後にその時の実戦を参考にして練習している。

京太郎「――で、ここをこうすれば――ほら、一気に状況が変わるだろ」


絹恵「ほんまや! 流石、京にぃやね!」


京太郎「お、おう……」


彼女は洋榎の真似なのか、よく抱き着いてくる。
洋榎ならそこまで意識しないので問題ないのだが、絹ちゃんは主張の激しすぎるおもちもちが当たる。


そうなると、自然と柔らかい感触で幸せいっぱい、最高おっぱい。


絹恵「……う~ん。なんかこうしてると落ち着くわ~」


京太郎「小学校まではよく抱き着いてたからな、姉妹揃って……。でも、もう高校生なんだからやめような」


そう言って彼女を引き離す。男の力には逆らうことはできず、不満げな絹恵は頬を膨らませた。

絹恵「……京にぃのケチ」


京太郎「聞こえてるぞ」


絹恵「京にぃのヘタレ。変態」


京太郎「ちょっとそれは言いすぎじゃないか」


絹恵「私の胸、チラチラ見てるくせにー!!」


バレてた!? 


まさか気づかれているとは思わなかった俺が呆気にとられているうちに絹恵は階段をドタバタと上がっていく。
きっと自室に戻ったんだろう。

入れ替わる形でやってくる洋榎。
着替えたらしく楽そうなジャージ姿だ。色気のない大きなあくびをして、胸を張っても特に感じるものはなかった。

洋榎「お、なんやなんや、京太郎。うちのこと見つめて。惚れたか?」


京太郎「……いや、なんというか洋榎の前では自然体でいれるからいいなと思って」


洋榎「それ褒められてるんかわからんけど……まぁ、ええわ」


そのまま洋榎は冷蔵庫から炭酸ジュースを二つのコップに注いで、こちらへと運んでくる。
俺の隣に椅子を持ってきて、座ると、「ん」と差し出してきた。


洋榎「おつかれさんさんさんころり。絹に教えてくれてたんやろ?」


京太郎「気にするなよ。もう何年もの付き合いだろ」


洋榎「……それもそうか」


彼女はニコリと笑って、ジュースを一気に飲み干す。そして、到底女の子がしてはいけない声を出した。



洋榎「カー! やっぱり疲れた後にはこれやな!」


京太郎「……やっぱ、お前ってやりやすいわ」


洋榎「せやろー? 流石やろー?」


京太郎「……おう。流石だよ」


自信満々な笑みを浮かべると彼女はドンと胸を叩く。それを見ると何故か胸が温かくなった気がして……。

そして、苦笑すると俺も真似するように一気にコップを傾けるのであった。

















恭子「メゲるわ……」


俺の対面に座っている末原は最近、この言葉が口癖になっている。


洋榎と卓を囲んでは。

『メゲるわ……』


俺と卓を囲んでは。

『メゲるわ……』


真瀬と卓をか(ry

『メゲるわ……』


……と、まぁ、連敗が続いたのが原因なわけだが。



絹恵「メゲたいのはこっちですよ、先輩。うちなんかずっと最下位やん……」


恭子「絹ちゃんはまだ伸びしろあるよ。それに始めたばっかりでここまでできたら上等やで。……むしろ、二年にもなって焼き鳥食らった私の方が不味いわ……」


京・絹「「あ、あははは」」


乾いた笑い。なんともフォローのしにくいこと。
ちら、と俺達と同じように卓を囲んでいた洋榎に視線を送った。

彼女はニィと笑い、立ち上がる。サムズアップは余計だったが、よかった、これでなんとかなる……はず。
相手が洋榎というだけで心配度マックスだが、やっぱり根は仲間想いの良い子だ。

真剣な表情で末原にアドバイスを授けていた。


洋榎「恭子は考えすぎやねん。一回、肩の力抜いてやってみ?」


恭子「そんなん言うてもうちは主将みたいに強いわけやないですし……」


洋榎「ええから、ええから。練習なんやし、いっぺんやってみ? なにか変わるかもしれへんで」

絹恵「そうですよ、先輩! うちも『心構えはしっかりしぃや」っていつも言われてるから気ぃつけてますもん!」


京太郎「俺もだな。そういう気持ちも大切だと思う」


とりあえずの便乗。

末原はこちらをチラと見ると、しばし考え込んで、顔を上げた。


恭子「……わかった。一回やってみるわ」


『おおっ』と嬉しい声があがる。これで彼女が強くなればまた姫松の底上げにもなるし、一石二鳥。
それに俺や洋榎も否定はしないが、末原の考えは『もったいない』とも思っていた。

強気でなおかつ最善の一手を選択する。これができれば彼女の実力はもっと飛躍するはずだ。

洋榎「その意気やで、恭子!」


恭子「よし! じゃあ、一丁打ちますか!」


絹恵「あ、なら、うちは変わりますんで真瀬先輩どうぞ」


由子「それではお言葉に甘えるのよー」


京太郎「うおっ、いつのまに……」


由子「今ちょうど来たところなのよー」


そんな感じで揃ういつもの面子。組み上げられた山から手牌を取っていく。

京太郎「おおっ……」


いきなりのリャンシャンテン。かなり運がいい。ついてんなー、俺。
でも、こんなところで運は使わなくていいから出会いが欲しい。

もっとおもちが大きい子と出会いたい。具体的には千里山の清水谷さんとか、牌のお姉さんとか……。
そういえば、この前見てたインターミドルチャンピオンも相当のおもちだったような……。


……グヘヘヘ


絹恵「京にぃ、京にぃ」


京太郎「ん? なんだ?」


絹恵「遠慮せずにうちの使ってええねんで?」


京太郎「え? なにを?」


絹恵「こ~れっ」


そう言って絹ちゃんは抱き着くようにして、その兵器を押し付けてきた、


柔らかい  ああやわらかい  ヤワラカイ  

                       ―京太郎―

京太郎「――って、そうじゃねえ! なにやってんの、絹ちゃん!?」


絹恵「なにって……京にぃが『おもち』とか言い出したから願い叶えたろうかなーと思て」


なんて、ええ子や…………じゃないっ!


京太郎「な、なんで俺の考えてることが筒抜けに!?」


絹恵「そりゃうちらの仲やん? ――って言いたいところやけど……普通に漏らしてたよ?」


京太郎「なっ!?」


慌てて視線を同級生メンバーへと向ける。

全員が自分の胸を抱きしめ、絶対零度の目をしていた。

まるで感情がない。ゴミを見ているかのようだ。

恭子「……変態」


京太郎「ぐふっ」


由子「……発情猿なのよー」


京太郎「がはっ」


洋榎「絹のアホ!」


京太郎「ごわぁ!?」


絹恵「なんでうちなん!? ていうか、京にぃもなんで倒れとんねん!」


この後、不覚にも変態と言うレッテルが張られそうになった俺は全員にアイスを奢ることで青春の危機を乗り越えた。

ちなみに、麻雀は三人に狙い撃ちされてトバされたのは言うまでもない。







恭子「……あれ? うちのターンやったはずやのに……なんか絹ちゃんがメインヒロインっぽくなっとる……。メゲるわ……」




茜色の夕日が射し込む教室。たまにカーテンを揺らしながら吹き込む風が冷たい。冷えてきたなと思うと同時に冬が近づいてきていると肌で感じた。時計を見ると五時過ぎ。日が沈むのも早くなったものだ。


「ふぅ……」


一息つき、そっとノートパソコンを閉じた。うんと背を伸ばして固まった筋肉をほぐす。

もう残り一週間と迫った宮守高校の文化祭。共学化してからこれで3回目の祭りになる。

文化委員の仕事を果たした俺は隣で悪戦苦闘を繰り広げている相方に声を掛けた。


「なぁ、エイスリン。大丈夫か?」

「…………」


だが、一向に反応は帰ってこない。いつものことではある。

留学生の彼女は日本語がお世辞にもうまいとは言えない。なので、首にぶらさげているホワイトボードに絵を描いて意思疎通を図るのだ。

「……俺はもう帰ろうと思うんだが、エイスリンはどうする?」


彼女は首を左右に振る。どうやらまだ仕事が完成していないらしい。

……まいったなぁ。これじゃあ例のサプライズは行えない。


「じゃあ、俺も手伝うよ。貸して」

『ブッブー』


可愛らしい効果音でも出そうな×印。


「いや、でも帰るのが遅くなるぞ?」

『ブッブー』

「疲れてきただろ? 俺に任せておけって」

『ブッブー』

「……ふむ」


どうやら意地でも自分でやりきるつもりらしい。

……これは困ったなぁ。早く帰らないと我が家でスタンバイしている部活仲間に申し訳がつかない。

「………………」 


じっとエイスリンを見つめる。

イラストを描く時、彼女はいつも表情豊かだ。透き通る碧眼は人の視線を自然と吸い寄せる。

日の光に照らされて輝く金色の髪。そよ風に揺れ、絵画のように完成された美しさが彼女からあふれ出す。

そんな魅力に満ちたエイスリンが俺は好きだった。


「…………」

「……キョウタロ?」


小首を傾げて彼女は話しかけてくる。

自分の名前を呼ばれたのが、なんだか嬉しくて身を乗り出してしまう。

「なんだ?」

「ソノ……ズットミラレテタラ、ハズカシイ……」

「あ、悪い! 嫌だったよな?」

「ア……ウウン!」


否定するようにブンブンと彼女は首を振る。

すると、急にピタリと動きを止めておろおろとして、俯いてしまった。


「……どうかしたのか?」

「……ゴメンネ?」


唐突に彼女の口から紡ぎだされた言葉は謝罪だった。

「ソノ……ワタシ、ワガママイッテ……」

「……いや、それなら気にしなくていいぞ。俺だってエイスリンの嫌がること言ってごめんな?」 

「チ、チガウノ! ワタシハ……ソノ……」


エイスリンは上手く言葉が見つからないらしい。

あたふたとして、ボードに絵を描いては消して、描いては消すを繰り返す。やがて、彼女は手を止めて。

そして、ポタポタと水粒が零れ落ちた。


「エ、エイスリン!?」


予想外の展開に思考がついていけない。

とりあえず、ハンカチを取り出すと彼女の双眼から滴り落ちる涙をぬぐった。

すると、自然と二人の距離は近くなって――エイスリンが抱き着いてきた。

「っっっっ!?」


言葉にならない叫び。好意を寄せる少女が突然抱擁をしてきたら誰だってそうなると思う。腰に回された腕の力は強く、他人の温かさを直に感じる。


「エ、エイスリン……?」

「…………ワタシ、ネ? サミシイ……」


たったその一言が彼女の心境を如実に表していた。

彼女は交換制度でやってきた留学生。つまり、来年には向こうへ帰ってしまう。国内ならばどれだけ良かったか。

彼女が戻るのは外国だ。学生がそうやすやすと通える場所じゃない。

そう思うと、彼女が急に遠くまで行ってしまうような気がして、いてもたってもいられなくて、その華奢な体を抱きしめた。

「ッ…………キョウタロォ……!」


泣くな、泣くなよ。

俺がいつまでも一緒にいるから。

頑張って働いて、金稼いで、お前に会いに行って、思い出作って、昔話に花咲かせて、それでそれでそれで!

溢れ出てくる気持ち。もうそれを止めることはできなかった。


「エイスリン…………俺、俺さ……お前のことが――」


消える言葉。ふさがれる唇。

数秒を経て、視界一杯の金色が小さくなっていく。

柔らかな感触は一瞬で失われたが、きっと忘れることはない。

そんなキスだった。


「キョウタロ……」


そして、その相手は見事に俺のすべてを奪っていったのである。






――ダイスキ!





??「去年のインターハイで先輩のファンになりました! よかったら、その……ここにサインください!!」


差し出されたのは水性マジック(黒)と彼女の広いおでこだった――。


……うむ、わけがわからない。


思考をまとめるためにもしばし回想する必要があるようだ。確か……あれは朝の事――。

桃色の花が咲き誇り、新たな出会いを祝う時季も過ぎた。代わって新緑が芽吹きだすこの頃。


『須賀京太郎先輩へ

お話があります。放課後、屋上へ来てください』と書かれた手紙を見つけたのが数時間前。


洋榎に自慢し、末原にスルーされ、由子に罵られる。


そうしてやってきた約束の時間。


屋上に着くと、そこには黒髪のロリ巨乳ちゃんがいた。


圧倒的おもち! 圧倒的おもち!


しかし、表情には出さない。ついこの間、絹ちゃんに怒られたばかりなんだ。

同じ過ちを繰り返してはいけない。

京太郎「えっと……君がこの手紙をくれたのかな?」


漫「は、はい! 私、上重漫って言います! 麻雀部に所属してます!」


上重さんか……。手紙を見るに一年生だろう。


顔は年齢にそぐわず幼さが残っていて、身長も小柄なため、まだ中学生といっても疑われないと思う。


だけど、一部分は年相応、いやそれ以上に成長していた。


……正直に言おう。好み直球ど真ん中である。

京太郎「…………」


漫「……須賀先輩?」


京太郎「っ、ああ、何でもない。それで話って何かな? いきなりで悪いけど俺も部活があるから、なるべく急いでもらえるとありがたいんだけど」


漫「そ、そうですよね! ……ええぃ!」


上重さんはペチンと自分のおでこを叩いた。そこは頬っぺたじゃないんだ……。


漫「す、須賀先輩!!」


京太郎「お、おう」


彼女は俺の名前を叫ぶと息を吐いて、一気に吸い込み、思い切り頭を下げた。


漫「去年のインターハイで先輩のファンになりました! よかったら、その……ここにサインください!!」

――で、今に至るわけだが……。

どうすればええんじゃい!?

漫「す、須賀先輩? 遠慮せずに書いてくださっていいんですよ?」


京太郎「いやいやいや! 普通は、こう色紙とかにさ!」


漫「持ち合わせがないんです! だから、ここで勘弁してください!」


京太郎「じゃあ、なぜ今日を選んだ!? と、とにかく明日にしよう。教室に来てくれたらいつでも書くからさ」


漫「書き心地いいっていつも褒められてるんですよ! だから、よろしくお願いします!」


京太郎「わ、わかった! わかったから肩を揺らさないで!」


漫「ありがとうございます!」


ぱぁっと笑顔を咲かせるた彼女はズイズイっとおでこを突き出してくる。瞳はランランと輝いていた。


もう……引き下がれないっ!

キャップを外し、たくさん練習した自分のサインを彼女の丸っこい額に書いた。

ポケットから取り出した鏡で確認すると、嬉しそうに笑顔を浮かべる。


漫「あ、ありがとうございます、先輩! うち、感激です!」


京太郎「お、おう。なら、よかった」


漫「はい! あ、それでは失礼しますね! 先輩も部活、頑張ってください! では!」


それだけ言い残すとダダダーっと爆発的な加速力で上重さんはこの場から去っていった。


京太郎「……面白い逸材がいるもんだなぁ」


このことを話せば洋榎はあの子を捕まえようとするだろう。

いや、もしかしたら麻雀部だし、すでに知っているかもしれない。


京太郎「……帰りにちょっと聞いてみるか」


そう呟いて、俺もその場を後にした。


その帰り道、洋榎に尋ねると何故か末原が自慢げに上重さんのことを語りだしたり、あの罰ゲームは洋榎が仕組んだことだったり、そのせいで俺と末原から折檻をくらったりするのは、また別の話である。




恭子「ロン。これでまた漫ちゃんの負けやな」


漫「あうっ! こ、今度はどんな罰ゲームを……」


洋榎「んー、あらかたやりつくした感はあるからなぁ。……せや、京太郎、巻き込も」


漫「す、須賀先輩ですか?」


洋榎「そやで。あー、でも普通なら乗ってくれへんやろうし……恭子―、なんかないー?」


恭子「はぁ……またしょーもないこと考えて……あるけど」


洋榎「流石、恭子や! で、何て頼むんや!?」


恭子「サインをおでこにください言うたらええねん。あいつも女の子好きやから余裕やろ」


漫「ええっ!? そんなん無理ですって!!」


恭子「んー、じゃあ、なんか理由つけとくか?」


漫「た、例えば……?」


恭子「せやなー…………うん。その、インターハイで最後まであきらめなかった京太郎は、か、かっこよかった……とか? も、もちろん、他にもいいところいっぱいあるけどな!? 漫ちゃんならこの辺かなって!」


洋榎「あっ」


漫「……なんで末原先輩は顔を赤くしてるんですか?」


恭子「な、なってないわ、アホ! も、もうええやろ! アイデア出したんやから!」


洋榎「おう、サンキュー! とりあえず漫ちゃんは明日、京太郎に頼むことやで! ええな!」


漫「ええ、そんなぁ……」








主に女子が使用する麻雀部の一号室。

この春からすでに主将となっている洋榎と打ち合わせがしたかったため、普段より早めに訪れたのだが、そこに目的の人物はいなかった。


代わりと言っては失礼だが、由子と上重さんがいた。珍しい組み合わせである。


由子「おー、京太郎君。お疲れなのよー」


漫「お疲れさまです、須賀先輩!」


京太郎「おう、おつかれさんさんさんころり~」


由子「まったく似てない上に、ちょっと気持ち悪いのよー」


由子は仲良くなるにつれ、遠慮がなくなっていた。


今までオブラートだったものが一気に鋭くなっているのだ。


……ただ本当に嫌いなだけというのは勘弁してください。


まぁ、何度か家に上がらせてもらったりしているのでそんなことはないと信じたいが。

京太郎「うっせ。それより洋榎見なかった?」


由子「主将と恭子は善野監督に呼ばれてたからまだだと思うのよー。京太郎は副部長の仕事?」


彼女の言う通り、俺は去年の全国での実績を買われて麻雀部の副部長を務めさせてもらっている。

事情を聞けば、来年の為に教育をしておく為だそうだ。


京太郎「そんなとこだ。なら、行き違いになるのもいやだから……よし。久々に三麻しようぜ、三麻」


由子「別にいいのよー。もう一人は?」


京太郎「上重さんに決まってるだろ?」


漫「ええっ? 私ですか!?」


京太郎「おうおう。実は恭子が気にかけてるって言ってたからさ。どんなもんか気になって」


俺がそう言うと由子は合点がいったとポンと手を叩き、上重さんは首を傾げた。


……もしかして、末原の奴……あんだけ周りに『今の一年に結構面白い子がおるんよ』話しておきながら何もしていないのか……?

俺は先に準備を始めようとしていた由子の手伝いをする……フリをしてこっそりと疑問の答えを聞き出した。


京太郎「……由子。ちょっと質問なんだけど」


由子「恭子ちゃんはいつも漫ちゃんをしごいているのよー」


京太郎「やっぱり……?」


由子「わざと直撃狙ったりしてガミガミ文句言ってるのよー。……でも、愛の鞭ということで皆放っているけど」


ちらりと目線を後ろの上重さんへ。


漫「末原先輩が……うちを? え? あれ?」


……末原、お前の愛は届いてないみたいだぞ……。


『メゲるわ』。そんな空耳が聞こえた気がした。


なにはともあれ、準備もできた。ずっと首を左右に傾けていたおでこ少女を呼び寄せ、席につく。

由子「サイコロ回して頭もまわすのよー」


京・漫『あ、末原(先輩)の口癖』


組み上げられた山から牌を取り、与えられた手からどのような上がりがあるかを考える。


その途中で由子が声を上げた。


由子「せっかくだし、最下位は罰ゲームでもするのよー」


漫「うえぇ!?」


上重さんはさっとおでこを隠す。
普段からもそこをいじられてんのか……。わからんでもないけど。俺もやりたい。


こう……唐突に肉とか書きたくなるような、そんな感じ。


京太郎「……魔性のおでこだな」


漫「須賀先輩も何言ってるんですか!」


由子「のよー。なら、最下位は一位の言うことを聞くってことで始めるのよー」


京太郎「大丈夫、大丈夫。おでこに落書きなんかしないから」


漫「棒読みですよ!?」


そんなこんなで始まる三麻。終始、ほのぼのとした空気で談笑しながら打つ、打つ、打つ!

そして、結果。


漫「や、やりました! 二位です!」


由子「の、のよー」


京太郎「由子はちょっと運が悪かったな」


俺と上重さんの当たり牌が見事に由子ばかりに直撃。


僅差で俺が一位、二位に上重さん、ラスは由子で決着がついた。


由子は残念な結果だったとはいえ、このおでこちゃんはなかなかに面白い逸材だ。


末原が爆発とかなんとか言っていたが、まさか本当だったとは……。

漫「じゃあ、罰ゲームですね!」


由子「……えらい嬉しそうなのよ、漫ちゃん」


漫「いつもやられる側だったから新鮮ですもん!」


由子「一位は京太郎なのよー」


漫「それでもですっ!」


キラキラと目を輝かせる上重さん。それだけで普段、どんなに不憫な状況に置かれているか良く理解できた。


なんか、こう……褒めてあげたくなるような、構ってあげたくなるような、そんな雰囲気を持った子だな。


まるで小動物だ。


京太郎「よく頑張ったな、上重さん」


漫「うぇぇぇえ!? す、須賀先輩、何して……」


京太郎「何って……頭撫でてるんだけど」


由子「……普通は女の子の頭を撫でたりしないのよー」


ジトーと白い目を向けてくる由子。


そ、そうなのか。絹ちゃんはいつも喜ぶからてっきりいいものかと……。洋榎も嫌がるそぶりは見せないし。

京太郎「ごめんな、上重さん」


漫「あっ、いえ、その別に嫌ではなかったので……続けてもらってもいいですか?」


京太郎「……この場合はいいのか、由子?」


由子「知らんのよー。まぁ、なにはともあれこれで解散なのよー」


そう言って、由子は席を外そうとする――が、上重さんがその細い腕をしっかりとつかんでいた。


漫「先輩? 逃げるのは許しませんよ?」


由子「ひっ」


普段、やられている分、上重さんの笑顔はどこか闇深さがあった。由子も踵を返してちょこんと席に座る。

漫「さ~て、なにをしますか、須賀先輩? 思う存分やっちゃってください!」


由子「……漫ちゃん、ノリノリなのよー」


漫「す、すみません!」


京太郎「こらこら、由子、睨まない、睨まない。……そうだな。上重さん、こんなのはどうだろう?」


上重さんに俺はある提案をした。


それはふとした疑問だったあることだ。


由子とは一年以上の付き合いになるが、一つ不思議なことがあったのだ。


それをもう一度聞くためにも今回の罰ゲームを使わせてもらう!


漫「へぇっ! すごくいいですよ、先輩!」


上重さんも賛同してくれた。ならば、これでいこう。


京太郎「んじゃ、由子。罰ゲームの内容だが」


由子「あまりきついのは勘弁してほしいのよー」




京太郎「一か月間、お嬢様の喋り方な」




由子「のよっ!?」


由子の血の気がサーと引いていく。


由子はこんな変哲な語尾を付けるが、実はお嬢様である。


自宅もお屋敷だった。何も知らずに招待された時は、今までの行動を思い返して『真瀬お嬢様』と呼んでしまったレベル。


それで何よりも驚いたのが由子は家の中では『のよー』と伸ばさずに『ございます』と話していたことだった。


本人に聞いたところ、固いのは面倒だったとのこと。


だが、しかし、敗者に口なし。やると言ったからには受けてもらおう。


由子「ほ、他のでお願いするのよー」


漫「ダメですっ! 先輩も諦めてください!」


由子「あ?」


漫「ひっ」


京太郎「やめーや」


由子「いたっ」


凄む由子の頭にチョップを入れる。後輩を可愛がる(意味深)は禁止だ。

京太郎「というわけだから、洋榎とかにも伝えておくから」


由子「うぐぐぐぐ……!」


由子はそれからもしばらく唸っていたが、どうやら観念したみたいでため息を吐いた。


由子「……わかりましたわ。これでいいのでしょう?」


京太郎「そうそう。そっちの方が女の子らしくて可愛いんだから、大人しくしておけって」


由子「なっ、かわっ!?」


顔を真っ赤にして由子はうつむく。隣で上重さんも『あわわわ』とあたふたしていた。


……二人してなにしてんだ? 


由子「……ズルいですわ、この色男」


京太郎「はっはっは。負けた自分を呪うんだな」


由子「次は覚えておくの……覚えておきなさい……!」


キッと涙目で睨んでくる由子。その頬の朱色はまだ引いてはいなかった。






私には昔から手塩にかけて育ててきた男の子がいる。


郁乃「きょーたろー君」


私はその子の名前を呼んで後ろから抱き着いた。


わざとらしく胸を押し付ける。


そうすると彼は面白いくらいに慌てふためくのだ。


京太郎「あ、赤阪先生っ!?」


顔を真っ赤にしながら狼狽える彼の姿は初心でそそるものがあった。


こんなやり取りをするのも二桁になるのに反応が面白い稀有な子である。

京太郎「赤阪先生、何してるんですか!」


郁乃「えー、ちょっときょーたろー成分補充しよう思うて~」


京太郎「また意味わからんこと言って誤魔化そうとしないでくださいよ!」


郁乃「ええやん、ええやん。ほら、私はきょーたろー君の先生やし……」


京太郎「コーチなんだから当たり前でしょうが!」


郁乃「んっふっふ~、違うやろ~?」


ふぅーと耳に息を吹きかける。


郁乃「専属のコーチ……やろ?」


京太郎「っっっ!?」


郁乃「それにいつも通り、下の名前で呼んでーなぁ」


京太郎「……家でしか呼んだことないけど? 郁乃姉さん」


郁乃「きょーたろー君のイケズ~」


さらに体を密着させる。彼の体温がどんどん上がっていくのが感じられた。


……んー、ええ匂いやわぁ。


男の子って感じで、ちょっと汗が混ざっているけど嫌じゃない。どこか安心できる匂い。


……でも、ちょっと昔とは違うなぁ。


いい匂いやけど今はいろんなのが混ざってる。昔は私の好み一色やったのに、残念……。

恭子「何してるんですかっ!!」


そして、こうやって私がきょーたろー君に構っていると必ず噛みついてくる女の子が一人いるのだ。


郁乃「嫌やな~、末原ちゃん。うちはきょーたろー君と仲良くしてるだけやで~?」


恭子「仲良くするならもっとええ方法があるでしょ! コーチならコーチらしく指導してください!」


この子もわかりやすくて面白い。そんなに好きなら離さないようにすればいいのにな~。


……でも、私も寂しいのは本当やし~。今日はうちに彼の時間ちょうだいな?


末原ちゃんをからかう魔法の言葉を口にした。


郁乃「指導は自宅でしてるし~」


恭子「はぁっ!?」


想像通り、末原ちゃんは食いついてくる。信じられないものを見る目をしていた。開いた口が閉じないみたい。

郁乃「あれ? 知らんかった? うちってきょーたろー君の師匠やから」


恭子「し、師匠!? それ、どういうことや、京太郎!」ユサユサ


京太郎「うおうあうおおおおお!?」


郁乃「あかんで~末原ちゃん。きょーたろー君には優しくしたりや~。じゃないと~」


私は末原ちゃんから奪うようにして後ろからきょーたろー君を引っ張る。


揺さぶられていたせいでバランスを崩した彼はそのままこちらへと倒れるわけで。


身長差もある。そうすればその頭はどこへ着地するか。私の胸だ。


ん~。


郁乃「……ぎゅ~」


恭子「んなっ!?」


京太郎「いいいいいいい郁乃姉さん!?」


郁乃「ほら~、やっぱりきょーたろー君もこっちがええやろ~? 結構大きいからな~。何がとは言わんけど~?」


ペターン。そんな効果音が聞こえてきそうな末原ちゃんのリアクション。


そんなに手をかざしても胸は見つかれへんと思うけど~。

恭子「……くっ!!」


京太郎「あ、おい! すえはるぁっ!?」


郁乃「は~い、ダメ~。今日はうちのきょーたろー君やで」


しっかり力を込めてガッチリホールド。去った末原ちゃんを追いかけようとした彼を離さないように。


郁乃「も~、うちじゃ不満~?」


京太郎「そうじゃなくてですね!」


郁乃「……いいやん? うちも寂しかったのは本当やねんで? だって、きょーたろー君……インターハイ終わってからなかなか私のところ来てくれへんかったやん」


京太郎「そ、それは忙しかったからで」


郁乃「うちはもう用済みな女なん?」


京太郎「うっ」


若干、涙ぐみながら見上げる。そして、甘えるようにささやく。きょーたろー君を落とす必勝の組み合わせ。


これを受けた彼の反応は決まって一つ。

京太郎「……今日、うちで教えてもらっていいですか?」


郁乃「うん。お母さんによろしく言っといてな~」


京太郎「了解です。……今日は泊めませんからね?」


郁乃「わかってるって~」


泊まりはせえへんよ。……徹夜で麻雀講座やるだけで。


いや~、本当に良かったわぁ、きょーたろー君のお母さんがうちのおかんの親友で。


おかげで有利に物事が進めるからなぁ。


きょーたろー君は子供の頃からの知り合いで、ほんまええ男に成長して、麻雀も強くなって……どんどん理想の男の子になっていくわ~。


郁乃「えへへ~」


覚悟してな、きょーたろー君。


うち、悪い女なんよ?




どうしてこうなった。


俺は今、頭を抱えていた。悩みの種は隣を歩くお姉さん。


仕事帰りで滅多にお目にかからないスーツ姿のせいで体のラインがはっきりと浮き出ており、正直に言えばエロい。普段の彼女からは感じられない色気が出ていた。


それで腕を絡めてくれるのだから、もうたまったもんじゃない。


郁乃「久しぶりやな~、きょーたろー君に来るのも」


京太郎「郁乃姉さんも忙しいからな。仕方ないと思うけど」


郁乃「もう~きょーたろー君は冷たいわ~」


京太郎「自分の行動を思い返せば原因はわかると思うんだけど?」


郁乃「ん~……」


郁乃姉さんは口に人差し指を当てて首を傾げる。

郁乃「わからんわ~」


京太郎「……はぁ」


あれは絶対理解している顔だ。面白がって笑っている。


くそぉ、今日は末原は口を聞いてくれなかったし、理由は分からなかったが洋榎たちも一緒に帰らなかった。


こんなのは去年の『サイゴノ・ファンタジー』発売日以来の事件。


きっと郁乃姉さんとのやり取りが末原の口から女子部員に伝わっているんだろうなぁ。


通算33回目(4か月ぶり)だから、もう慣れているだろうけど。一年の初めとかはひどかったよなぁ……。


郁乃「ため息するなんてひどいな~」


京太郎「いや、こう、昔はもっと素直で面倒見のいいお姉さんだったのに……。大人になるってこういうことなのかなって……」


郁乃「ええやん、大人になって魅力増えたやろ~」


京太郎「どこが?」


郁乃「ほら、こことか?」


郁乃姉さんは両腕で下から抱え込むように双丘を寄せ上げる。


プルンと音が聞こえてきそうなボリュームと弾むような柔らかさ。――って、いかんいかん!

京太郎「強調しなくていいから! ここも外なんだから他の男の視線ぐらい気にしろよ!」


郁乃「でもでも~」


京太郎「……でもいいから」


郁乃「ん? なんて~?」


京太郎「そんなことしなくて郁乃姉さんは魅力的だから!」


そう言うといつもニコニコしている郁乃姉さんが目を開いた。


だけど、それも一瞬で、またいつものにへらと笑った表情に戻る。紅潮した頬を除けば……だが。


ああ、もうこっちまで恥ずかしくなってきた! なんでこんなこと言わなきゃならないんだよ……!

郁乃「えへへ~、きょーたろー君は優しいね~」


京太郎「優しいじゃなくて、諦めですよ」


学校から我が家までは実は歩いて行ける距離だったりする。気が付けば、馴れしたんだ自宅まで来ていた。


カバンから出したカギで施錠を解き、ドアを引く。


すると、玄関には無人でなく、エプロン姿の同級生がいた。


出かける際には、ほとんど装着する赤リボンがぴょこぴょこと揺れている。

京太郎「ただいまー」


恭子「おかえりなさい、あなた」


京太郎「おー、末原。これ持ってくれる?」


恭子「うん、任せといて」


京太郎「いやー、俺はいい奥さんをもらったなぁ」


恭子「ありがと」


京太郎「…………」スタスタ


恭子「…………」ニコニコ


仲良く隣に並んで廊下を歩く。長年連れ添った夫婦のように、違和感なく。


違和感……なく……?


京太郎「……ちょっと待て、末原」


恭子「なに? おかしいところでもあった?」


京太郎「おかしな点しかないんだけど!? いつものクールで常識人なお前はどこにいったんだよ!?」


恭子「気づいたんや、京太郎……! 普通のままやったら負けるって!」


末原の言葉の端々には力強さが感じられた。かなり感情がこもっている。


よくわからないが、思わずうなずいてしまう、そんな強さが!

恭子「というわけで、負けへんで! 赤阪コーチ!」


郁乃「わたし~?」


ひょこっと背後から顔を出す郁乃姉さん。また小首を傾げる。


こうやって姉さんが首を傾げている時、これはわかっていて敢えて理解していないフリをしている際のクセだ。


ずっと手玉にとられている俺だが、そこは長年の付き合い。俺しか知らないことだってたくさんある。


恭子「そうや! 京太郎は渡さんで!」


郁乃「そんなん言うてもきょーたろー君、うちの違うし」


恭子「なら、手を出さないでください!」


郁乃「それは嫌やな~」


恭子「ぐぬぬ……!」


郁乃「んふふ~」


片やしかめっ面、片や気の抜けた顔。睨みあっているようには全く思えない。


けど、間違いなく二人の間には火花が散っている。争っている原因は話を聞く限り、俺なわけだが……うん。


どこか重い空気。それを消しとばす明るい声がリビングから響いてきた。

絹恵「あー、京にぃ、おかえりー!」


洋榎「はよ入ってこいやー」


由子お嬢様「私たちお手製の唐揚げが待っていますわよ」


漫「う、うちのお好み焼もありますよ!」


……なぜか複数。


郁乃「……末原ちゃん?」


恭子「……うち一人やったら敵わんからなぁ。当然、助っ人呼ばしてもろうたわ。残念やったなぁ、コーチ。こんだけ生徒居ったら好き放題できひんやろ?」


まさにしてやったり。末原は得意気な顔でそう告げる。


郁乃「……やる気やな、末原ちゃん?」


恭子「……絶対に負けませんよ」


郁乃「そっかそっか」


恭子「ええ、そうです」


郁乃「うふふふふ」


恭子「あはははは」


互いに笑いあっているが、目は笑っていない。


だけど、握手はしているし、問題はない……かな?


恭子「さ、京太郎。夕ごはん食べよ。今日はお義母さんに頼んで、うちらに作らせてもらったから」


郁乃「あ~、ええ匂いするな~。うちもお腹ペコペコや~」


恭子「はいはい、コーチの分もありますから、はよ入ってください」


末原がぐいぐいと姉さんの背中を押していく。全員いるってことは、騒がしい食事になりそうだなぁ。


楽しそうではあるけど、今日の夜は長くなるかもしれない。


恭子「……あ、そうそう、京太郎」


京太郎「ん? なんだ?」


恭子「今日、うちら泊まるから」


京太郎「……はぁぁぁぁぁ!?」


前言撤回。今日の夜は眠れなさそうだ。


恭子「よろしく、頼むで! 京太郎!」



  • カンっ!-(大嘘)



恭子「洋榎!」

洋榎「ん? どうしたきょうこぉぅぉぅっ!?」

恭子「ええから! 京太郎の家に電話かけてくれや!」

洋榎「わかったから! 揺らすのやめーや!?」

恭子「あ、ご、ごめん。ちょっと頼みたいことがあって」

洋榎「別にええけど……どうしたんや、急に……。あ、もしもし? 可愛い方の愛宕やねんけどー」

恭子「今日、京太郎の家に泊まってええか聞いてくれへんか!?」

洋榎「わかったわかった。あ、京太郎のおかん? ちょっと今日宿泊したいねんけど……はっ!?」

恭子「っ」ビク

洋榎「あ、ちゃうちゃう、ちょっとこっちのことや。うんうん、ごめん、またかけなおすわ。あと、うち絹ちゃうからなー。んじゃ、切るでー」

恭子「ああっ!? なにしてんの、洋榎!」

洋榎「それはこっちのセリフじゃ! いきなりどうしてん?」

恭子「……女には、な。負けられない戦いがあるんやー!!」

洋榎「も、燃えとる……! 恭子が燃えとるで……!」





想像通りの楽しい夕餉を過ごしたあと、各自それぞれが風呂に入り……何故か俺の部屋に集まっている。


一人部屋に計七人いることになるので狭い。ぎゅうぎゅう詰め。


京太郎「悪いな、末原。ベッドなんかに座らせて」


恭子「う、ううん! 別に気にしてないから!」


洋榎「そやで、恭子。京太郎なんか気にせんでええって」


絹恵「京にぃのベッド、相変わらず気持ちええなー」


京太郎「お前らはもっと気を使え」


洋榎と絹ちゃん、末原。


椅子には上重と由子が半分ずつで、郁乃姉さんは勝手にテーブルを片づけて寝転がっていた。


俺の周りに自由人が多すぎる件。

京太郎「……コーチ。ほら、生徒もいるんだから」


郁乃「自宅でまで先生なんかやってられんよ~」


京太郎「ここ須賀家だけどな」


郁乃「気にしたらあかんて。ここには着替えもあるし、私物もあるから第二の自宅や~」


洋榎「それならうちの家でもあるな!」


絹恵「うちも、うちも!」


京太郎「三人だけ外に放り出すぞ! ……はぁ。もういいからコーチ。そろそろ指導始めてくれませんか?」


郁乃「…………」


京太郎「コーチ?」


郁乃「……つーん」


京太郎「……郁乃姉さん」


郁乃「はいはい~。じゃあ、始めようか~」


『よっこらしょういち』と声を出して、郁乃姉さんは立ち上がると雀卓のある一階の洋室へと会談を降りていく。


……と、その途中。ある話題を投下した。

郁乃「あ~、後でマッサージしてな~?」


絹恵「……マッサージ?」


食いついたのは絹ちゃん。


彼女も長年、付き添っているが耳にしたことがないことだから、だろう。


郁乃「そ~そ~。折角やからやって~」


京太郎「……えー」


郁乃「嫌な顔せんといて~な~。今日はこの後、付きっきりで指導してあげるわけやし~」


京太郎「うっ……なら、仕方ないか」


恭子「それはええな。うちもお願いしていい、京太郎?」


洋榎「おっ、京太郎のマッサージか! うちもしてもらおか!」


京太郎「じゃあ、練習付き合えよ」


洋榎「やっぱパス」


熱い手のひら返し! 


洋榎はふわぁ、とあくびをするとそのままベッドに飛び込んだ。


その様子を見て、珍しく髪を下ろしている金髪少女も辞退の旨を伝える。

由子お嬢様「私も遠慮いたしますわ。夜更かしは美容の天敵なので」


絹恵「うちはやりたいです!」


漫「う、うちはちょっと遠慮しますわ」


便乗したのは麻雀に熱心な二人だった。


他のみんなはどこから持ってきたのか、各々自由に布団を引くと雑魚寝を始める。洋榎に限っては俺のベッドを使っていた。


……今日は寝るなというメッセージか? だとしたら、なんて嫌な応援だ。


郁乃「まぁまぁ、いいから始めよか~」


絹恵「よっしゃ! 今日はがっつりやるでー!」


恭子「うちも頑張るでー」


京太郎「よし、じゃあ四麻でやるか!」


郁乃「うちも力入れてやるから、ついてくるんやで~」

三十分後


絹恵「あかんて、京にぃ……。そんなところ触ったらあかん……むにゃむにゃ」


郁乃「えへへ~きょーたろー君~……くぅくぅ」


恭子「いくらなんでも早いわ……」


京太郎「これは俺の目をもってしても見抜けなかった」


恭子「なんや、それ」


苦笑して、末原は体重を椅子にかけた。はぁ~と息を吐くと卓に突っ伏す。


京太郎「お疲れみたいだな。もう一回、風呂入るか?」


恭子「……ええのん?」


京太郎「おう、その後、マッサージもしてやろう。約束してたしな」


恭子「至れり尽くせりやな。なら、頼むわ」


京太郎「じゃあ、俺はこの二人を別室に連れていくから。また、この部屋に集合な」


恭子「オーケー」


末原は右手でオーケーサインを作ると、部屋を出ていった。


……今、思えば風呂上がりの女の子と二人きりになるわけだが……まぁ、問題は起こらないだろう。


俺さえ我慢することができれば。


京太郎「さて……と」


俺もこの二人を運ぶとするか。


寝言を漏らして、幸せそうに眠るおもち少女二人を起こさないように抱きかかえる。


絹恵「らめぇ……らめなのぉ……」


郁乃「どや~…………」


京太郎「……一体どんな夢を見てるんだ、二人とも」





「(……うちは今、幸せの絶頂におるんやないか?)」


うち――末原恭子はそわそわしていた。他人が見たら怪しむくらいに落ち着きがなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁ! なにやってんねや、うちはぁ!!」


コーチに乗せられ、洋榎に頼み、好きな男子の家に宿泊することになった。


それだけに終わらず、『新婚ごっこ』にマッサージまでしてもらおうとしている。


過去の自分が聞いたら正気を疑うレベルの行動力。


「へ、変なとこないかな……?」


これでシャワーを浴びてから五度目の身だしなみチェック。


パジャマも水玉模様で、ボタンもしっかり留めている。髪もちゃんと梳かしている。


汗もかいていない。変な匂いもしない。……し、下着も気合いを入れてきた。


い、いや、ここまで力入れる必要はないかもしれへんけど! 


もしかしたら! もしかしたらがあるかもしれへんし!?


「えへ、えへへへへ」


「どうした、変な笑い声あげて」


「うひゃぁいっ!?」


突然、後ろからかけられた声。私はびっくりして飛びあがってしまう。見ればジャージ姿の京太郎だった。


手にはタオルのかかった底の浅いバケツを持っている。



「……なんや、それ?」


「ああ、これか? 温水とタオルだよ。マッサージするって言ったろ?」


「へぇ。えらい本格的やな」


「これでも中学までハンドボール部だったからな。体のケアには気を使ってたんだよ」


彼は私の横に膝をつくと温水に浸したタオルを絞って渡してくれる。


「これで5分くらい温めてくれ。首に巻く感じで」


「ん、りょーかい」


うちは彼からそれを手に取り、髪をかき上げて言われた通りにしようとしたところで気が付いた。


京太郎の視線が集中している。


え、え、なに? うち、変なことした?

「……京太郎?」


「……えっ、どうかしたか?」


「い、いや、そのなんでうちのことジッと見てるんかなーって。あ! き、気のせいやったらごめんな!?」 


「……あー、その、言いにくいことなんだけど……」


ポリポリと頬をかいて、彼は目をそらす。そして、ぽつぽつと言葉を漏らし始めた。


「その……末原の髪をかきあげる仕草が艶めかしいというか……魅力的だったから」


魅力的だったから、魅力的だったから、魅力的だったから……。


頭の中で何度も反芻されて、染み込んでいく。


それは、ううう、うちが綺麗っていうこと……やんな……?


「……えと、ありがと」


「ど、どういたしまして?」


「…………」


「………………」


どこか気まずい雰囲気になり、静寂が訪れる。カチコチと秒針が進む音が大きく聞こえた。


結局、5分経つまで、うちらが喋ることはなかった。


「あ、5分経った」


「じゃあ、もう外してええ?」


「おう。じゃあ、末原はそのまま楽にしていてくれ」


「寝転がらんでええの?」


「今日はもう夜遅いし、肩だけだからな。椅子に座ったままでいいよ」


「ほーん。ま、先生の言うことに従おうか」


私は言われた通り、椅子にもたれかかる。



「じゃあ、いくぞ。痛いところがあったら言ってくれよ」


「う、うん。うちも初めてやから……優しくしてな?」


「わかってるよ」


恭子の言葉もあり、まず京太郎はほとんどゼロの力で彼女の肩周りを撫でまわす。


こうやって徐々に力を入れていき、凝っている箇所を探すのだ。


「っう、あっ……」


「ごめん? 痛かった?」


「あ、ううん。そうじゃなくて……」


恭子は思わず声をあげてしまった。


自分の意中の相手とはいえ、男子に体を触られるのにわずかながら緊張があったからだ。


だけど、あんなこと言っておいて、ここでやめてとは言えない。だから、とっさに誤魔化そうとする。

「京太郎も服の上からやったらわかりにくいやろ? だから、その……ほら」


そこまで言うと恭子は突然、第一ボタンを外した。そうして肩口の部分だけ繊細な肌を露出させる。


「直接……さわってええよ?」


「お、おう……」


頬を朱に染めた恭子と同じくらいに顔を真っ赤にさせた京太郎。それもそのはず。


ボタンを外したせいで恭子のはだけた襟元が見えるのだ。


白い首筋の肌。


浮き出した鎖骨と窪み。


その先の小さな膨らみに続く。


風呂上がりで上気しているせいで、誰よりもずっと控えめな彼女の胸がすごく魅力的に映る。


さらに欲望を呼び寄せるのは肩にかかる黒いヒモ。これはもしかしなくてもブラジャーのものだ。

「(く、黒!? 黒なのか、末原!?)」


「んっ……どうしたん、京太郎? 続けてかまへんで?」


「お、おう」


そうは言うもののこんなにも女の子として意識してはやりにくい。


だけど、ここで変に動きを止めてやましいことを考えているとバレたくもない。


無心でやろう。そう決意した京太郎は両手を動かす。


「んっ、あっ……そこ、もうちょっと強く……っっ!」


京太郎がマッサージを再開した途端、恭子の体に電流が走る。


生とではこんな違いがあるのか、と彼女は早速後悔していた。


快感が違う。さっきまでとは大きく異なる。急に体温がポカポカと温まってきた。


「(な、なんや、こんな気持ちええのがずっと続くのん……? へ、変な気持ちになってきたで……)」


だが、そんな状態になっているとはつゆ知らず、彼は手を動かし続ける。

「これなんかっ……どうだ?」


ぐにぐにとほぐしてから、肩全体に覆い被さるように手を置くと、一気に掴み上げる。


女子特有のやわらかい肌が吸い付くように引っ張られ、固まった筋肉を揉み解いていく。


「あぁっ! くぅ……んんっ!!」


甘い声を出して恭子は椅子にもたれかかった。意識ここにあらずと、うっとりした表情だ。


赤く染まった目元が色っぽい。


ほつれた後ろ毛や、うっすら涙を滲ませた瞳が普段の彼女とは違った魅力を与えているようで。


「(煩悩退散煩悩退散!)」


もう色々と我慢の限界だった京太郎は一気に攻める。確実に恭子のツボを指で押し出した。


肩の端から首の根元まで徐々に移動していき、優しく、それでいて的確に恭子の弱い部分を突いていく。

「ひゃっ、ぁ……ぁ……!」


「もうちょっとで終わるからな、末原!」


手は首裏から鎖骨周りへ。ギリギリ胸に触らない辺りを押していく。


ピリピリとした刺激が恭子の体に何度も放たれた。


「(あ、あかん、これ……。なんかじ焦らされてる気分で……でも、心地いいから止められへん……!)」


そして、すぐに溜まってしまったそれは一気に快感となって解放された。


「う、うん、がんばりゅっ!? んぁ、ひゃうぅぅっっっん!!」


ビクンと椅子の上で跳ねる恭子。だらしなく開けた口からは透明な液体が垂れていた。


服も乱れ、あと少しでも捲れてしまえば、ツンと尖った桃色の突起が露わになってしまうだろう。


「(あ、あかん……。気持ちよすぎて、もう何も考えられへん……。今もこんな格好で……でも、嫌じゃない不思議な感覚。)」


「はぁ……はぁ……。……ごめんな、末原。大丈夫か?」


申し訳なさそうに感想を求めてくる京太郎。


ちょっと頭を回してから、経過を思い出し、彼女は答えた。

「う、うん。また……またしてもらたいくらいや」


「……そっか、良かったよ。なら、また今度な」


また、今度か……。


それはいつなんやろうか。明日? 一か月後? それとももっと先?


……あかん、そんなん待たれへん。こんな気持ちええの、なんやったら……いっそのこと……。


「……なぁ、京太郎」


「ん? なんだ?」


「今から……もう一回やってくれへん?」


今日くらい存分に味わおう。

この後、めちゃくちゃマッサージした。

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最終更新:2026年01月04日 20:57