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「お母さんも、自分に正直に生きて良いと思う」


自分の娘に、思わぬ言葉を掛けられて。

愛宕雅枝は、言葉を失った。


「……気付いとったんか」

「何年オカンの娘やっとると思ってんねん」

「お父さんが亡くなってから大分経つけど……うちも、お姉ちゃんも。もう、大丈夫だから。お母さんも、頑張って?」

「アンタたち……」


雅枝は眼鏡を取ると、滲んだ視界を拭い。

二人の娘を、強く抱き締めた。


「……ごめんなぁ、駄目なお母ちゃんで」

「そんなことない!」

「せや! オカンは宇宙一のオカンやで!」


母の温もりを感じながら。

洋榎と絹恵は、雅枝の体が意外と小さいことに、少しだけ驚いた。




そして後日。



「……で。この人が――あんたらの、新しいお父ちゃんの」


二人は、あんぐりと開いた口が閉じなかった。

無理もない。

なんせ――


「京太郎です。よろしくお願いしますね」


「オカンの連れて来た新しいオトンが……年下やった……」

「……イケメンさんやん……」

「そっちか!?」


……それぞれ抱いた感想はあれど、驚きの感情が胸を締めていたことに、違いはなかった。





須賀京太郎改め、愛宕京太郎。

二人の出会いは麻雀を通してのものだったそうだが、京太郎の実力は全然大したことがないようで。

京太郎は雅枝の、人としての強いところに惹かれて。

雅恵は、京太郎の人としての優しさに惹かれて。

互いに互いを意識していたけれど、二人の娘の存在から、更なる一歩を踏み出すことはなかったけれど。

しかし、娘に背中を押された雅枝からアプローチを仕掛けたことにより――こうして、結ばれることになったのだと言う。


「むー……」


だけどやっぱり、娘の洋榎としては心配になるもので。


「オカン、騙されてたりせんかな……?」

「んー、お母さんのことだから心配はいらんと思うけど……」

「せやかてなぁ」


……もし、ロクな男じゃなかったらウチが叩き出したる!

最初はそんな気持ちで、洋榎は京太郎を愛宕家に迎え入れた。




結論から言えば、洋榎の不安は杞憂に終わった。

二人で出掛けた時は道の車道側を歩いたり、エスカレーターに乗った時は自然と下に乗ったり。

そういった気遣いだけではなく、母の言う京太郎の『人としての優しさ』も、一緒に暮らしていく中で感じ取れた。


「はぁ……」


だが、洋榎の口から零れる溜息は止まらない。

京太郎への不安が取り除かれた今、何が悩みの種となっているのかと言うと――



「お義父さん、うちの眼鏡知らんー?」

「ああ、それならテーブルに――ぶっ!?」


下着姿で家の中を徘徊する絹恵に、京太郎が吹き出す。

目が悪い絹恵には分かっているのかいないのか、フラフラと覚束ない足取りで、際どいところが見えそうになっている。


「ほ、ほら……コレだよ」


しかしこのまま放って置く訳にもいかず、京太郎は極力絹恵から視線を逸らしながら、テーブルの上の眼鏡を取って絹恵に握らせた。


「あー、これでよう見える! ありがとなお義父さん!」

「んなっ!?」


視界が戻った瞬間にピョンと京太郎に飛び付いて抱き着く絹恵。

勿論、下着姿の彼女が力一杯抱きつけばその感触がダイレクトに伝わるわけで――非常に、京太郎の理性に悪い。


「えへへ、お礼に――好きにしてええよ? 私のこと」

「な、何言って……」

「最近、ご無沙汰なんやろ? お母さん、忙しいみたいやし」


耳にそっと、囁くように。


「だから、ええよ? 私の体を、好きにしても」


その声音は、娘が義父に向けるものとは、到底思えなかった。














肩を押さえ付けるように、雅枝が京太郎を布団に押し倒す。

大きな音を立てて、二人の体が沈む。


「ま、雅枝さん? 明日も早いんじゃ――」


口を口で塞がれて、台詞が遮られる。

たっぷりと、京太郎を味わい尽くすように時間をかけて、やがて雅枝の方から離れていく。


「……だからこそ、や」

「え?」

「だからこそ。京太郎を感じてから、行きたいんや」

「雅枝さん……」


部屋の灯りが消えて、二人の肌が重なる。

やがて室内の様子を探ることが出来るのは、暗闇の中に響く声だけになるが――


「……」


部屋のドアに僅かな隙間が出来ていたことに、京太郎は気が付かなかった。



人間的に強いらしい雅枝の方はドアの隙間に気が付いてるのかな? ww
しかし、京太郎、ヤリたい盛りで適度に溜められつつ女の方から大義名分与えられているわけか
まぁ優しい京太郎だからこそ、雅枝が気を使っている面もありそうだけど
勿論、熟れた体が若い京太郎を短い時間を惜しまず感じたがっているのも事実なんだろうがww
そいや、あちらが上なら騎乗位? ww

「お母さん、今日から出張なんやて?」

「ああ、ちと一週間ほど家を開けるわ」

「そっか――まぁ、『安心して』行ってきてな? 私らにはお義父さんがいるし」

「ああ、私もちゃーんと京太郎に毎朝のモーニングコール頼んどるからな。『心配ご無用』やで?」


そう言って腕を絡ませてくる雅枝に、照れ臭そうに頬をかく京太郎。

二人を微笑ましく見つめる絹恵。

どこからどう見ても順風満帆な新しい家族の光景。


「頼むでホンマ……」


だというのに――洋榎は、口から零れる溜息を、止めることが出来なかった。





【新・愛宕家の日常】







京太郎は、タコスの売店という普段中々目にしない物の珍しさに引かれて。

ネリーは、お腹が空いたので何を食べようかと迷いながらぶらぶらと道を歩いて。


「ん?」

「お?」


そうして、たまたま道ですれ違っただけ。

互いに名前も知らない、普通なら通り過ぎて終わるだけの、出会いとすら呼べないもの。

ただ、この二人にとっては。


「んー?」

「むー?」


お互い、何か。

感じるものが、あったようだ。




「じゃ、キョータローは引っ越してきたんだ?」

「そうだな。親の仕事の都合で、家族で纏めてこっちに来たんだ」

「ふーん……」


小さな口でタコスを一生懸命に頬張るネリーを横目で見ながら、京太郎は既視感のようなモノを覚えていた。

この少女――ネリー・ヴィルサラーゼと自分は勿論、初対面である。

だというのに、何処かでネリーに会ったような気がするのだ。

ネリーもこれが初対面だと言っているし、そんなことは有り得ないのだが――例えるならば、前世からの因縁のようなものを感じる。

……こんなことを言ったら電波扱いされるので、口に出すことは絶対に出来ないが。



「むぐむぐ」


そして、京太郎にタコスを奢ってもらったネリーも、似たような感覚を小さな胸に抱いた。


――何だろ、胸のあたりが……。


デジャヴュとでも呼ぶべきか、自分はこの男に昔に出会ったことがあるような。

何となく、ザワザワする。


「あぐあぐ」


だけど、このざわめきは、それほど嫌なものではない。

このタコスも中々に美味しいし。むしろ良い。


「じゃ、またね」

「おう。またな」


一緒のタイミングでタコスを食べ終えて、ベンチから立ち上がる。

約束をした訳じゃないし、メールアドレスも互いに知らない。

それでも、きっと、また会える。

そんな確信めいた予感を、互いに抱いた。

ネリーの口いっぱいにチーかまを突っ込みたい



――参りました。まさか、こんなに降ってくるなんて……。


降りしきる雨の中、傘も差さずに帰路を急ぐ少女。

郝慧宇。中国からの留学生である。


「天気予報、見とけばよかった……」


後悔しても、雨脚は弱くなるどころか時間が経つにつれて段々と勢いを増していく。

走っているうちに、人がいないバス停を見付けて、ハオは一先ずそこで雨宿りをすることにした。




小さいが屋根の付いたバス停。次のバスが来るまでにはまだ時間がかかる。

気休め程度ではあるが、このままズブ濡れで走って帰るよりはここでバスを待った方がいいだろう。


「ふ……くしゅっ」


冷えているせいか、くしゃみが出た。

ぶるりと身が震える。帰ったらしっかり温まらないと。

ポタポタと髪から垂れる雫を鬱陶しく感じて髪を払うが、水気を拭い去ることはできい。


「あの……これ、使いますか?」


そして、不快感に眉を寄せながらバスを待っていたら。

いつの間にいたのかは分からないが、見知らぬ金髪の少年が、バックからタオルを取り出して差し出してきた。


見知らぬ相手だが、この状況ではその好意が素直に有り難い。

礼を言ってタオルを受け取り、顔を埋める。ふわりとした柔らかい感触が心地良い。

「良い匂いがしますね……」

「そ、そう?」

続けて髪を拭き、垂れてくる雫を払う。

さっきまでバックに仕舞われていたのだろう。この雨の中でありながら程良く乾いていたタオルは、水気を十分に吸い取った。

「ありがとうございます。この礼はいつか必ず」

「いや、そんな大したことは」

「いえ。かなり、助かりましたから」

中国美人。顔の整っているハオの今の状態は、まさしく文字通りに『水も滴る良い女』というものである。

そんな美少女にまっすぐ見詰められて、金髪の少年は頬を少し赤く染めて。

その様子を見たハオは、もしかして風邪を引いてしまったのだろうかと、少し心配に思った。


「あの、ハオさん?」

「呼び捨てで構いませんよ。同じ年齢のようですから」


帰りのバスの中。

バスを待っていた二人は、短い時間の間にすっかり打ち解けていた。

そして時間帯に加えて、このような雨の中では客も少ないのか、バスの乗客は京太郎とハオの二人しかいなかった。

「あ、あぁ……それじゃ、ハオ」

「はい?」

「その……近く、ないか?」

「そうですか?」

だと言うのに、吊革を掴んで立って並ぶ二人の距離は、肩と肩が触れ合いそうな程に近い。

京太郎がそっと一歩だけ横にズレると、無意識にハオも同じ分だけ横にズレる。

そんな事が何度か繰り返されて、いよいよ少し恥ずかしくなった京太郎が声をかけたのだが、ハオは特に気にしていないようだった。

「あぁ…すいません、濡れてしまいますね」

「あ、そういうわけじゃないんだけど。もうそんな水気はないし」

「……では、このままで」

どうやら、目的地に着くまではずっとこの距離感のようである。

悪くはない、むしろ京太郎にとっては喜ばしい状況だが、何処となく恥ずかしい。

妙に良い匂いがするのは、すぐ隣にいるハオのせいだろうか。

京太郎は、なるべくハオの顔を見ないようにしながら、帰りのバスの中で揺られていった。

「……」

そして、ハオも。

京太郎と同じようなことを、考えていた。

さっきのタオルも良い匂いがしたが、彼の「匂い」もどこか安心する。

このまま離れるのが勿体無い。

ハオは、京太郎から受け取ったタオルを、ぎゅっと握り締めた。






「……眠れん」


京太郎は深夜に、目を覚ました。

布団を被り直し、目を閉じて眠りに着こうとしても――


『良い匂いがしますね』


はっきりと鮮明に覚えている微笑みが、眠気を覚ましてしまう。

オマケに布団で悶々としていると空腹感まで出て来た。

再び寝付けるようになるまでは、かなりの時間がかかるだろう。


「……よし」


京太郎は布団から出ると、ジャケットを羽織り、財布を掴んでこっそりと家を抜け出した。




手軽なものでも食べて気を紛らわせようと訪れた近所のコンビニ。

ちょうど、棚の上で最後の一つとなっていたカップラーメンを手に取った京太郎だが、


「オゥ……マイガッ……」


すぐ後ろから聞こえた声に振り向くと、自分と同じように手を伸ばしていた外国人の女性と目が合った。

しかもまるで、この世の終わりのような顔を浮かべている。


「あの……」

「……ハイ?」


「コレ、いりますか?」





――なんで、こんなことに?


「これが同じカマのメシを――というヤツでスカ」

「いや、違います。絶対」


この女性が突然、「ナイスアイディア!」と叫び出したから、一体何かと思えば。

コンビニの隅の食事コーナーで、一つのカップラーメンを二人で食べるという状況。

恥ずかしい、というよりわけが分からない。


「限定品とか何トカ。やはり、二人で食べた方が美味しいでスネ」


しかし、このキラキラ光る目をを前にしては、席を立つという選択も選びにくい。


「~♪」


余程カップラーメンが楽しみなのか、目の前の女性は鼻歌まで口遊んでいる。

これがカルチャーギャップってやつか?

京太郎は少しズレた思考を浮かべて、割り箸を割った。





――美味しそうでスネ、本当ニ。









――♪


何もない休日に京太郎が散歩をしていると、ほんの一瞬だけ強い風を感じた。

不自然な強い風に煽られ、立ち止まって乱れた髪を手で整えていると、微かに歌声のようなものが耳に届いた。


「……何だろう?」


疑問符が頭上に浮かぶ。

どうせ用事もないのだし――ということで、京太郎は声の聞こえてくる方向に向かって歩き出す。




声のする方へ歩いていくと、小さな公園の真ん中で一人、雨も降っていないのに傘を広げている女の子がいた。

傘をクルクルと回して、大きく口を開けて歌を歌っている。

遠目から見ても可愛らしい容姿をしていて、ほんの一瞬見惚れたが――


――Ah! ça ira, ça ira, ça ira!

――les aristocrates à la lanterne!

――Ah! ça ira, ça ira, ça ira!

――les aristocrates on les pendra!



「……見た目によらず、随分と……」


聞き慣れない音から察するに英語ですらないようで、歌詞の意味は分からない。

が、可愛らしい容姿に反して、非常に勇ましく歌い上げている。


「――!」


京太郎が呆気にとられていると、女の子がクルリと振り向いて。

京太郎と、目が合った。



――その時、突風が吹いた。


「うわっ!?」


砂埃が巻き上げられて視界が封じられる。

強烈な風を全身て感じて、立っていられずに体勢を崩す。

そのまま受身も取れずに地面に叩きつけられそうになって、


「大丈夫ですか?」

「……え?」


さっきまで歌っていた女の子に、支えられた。


「怪我はないみたいですが……」

「あ……あ、うん」


背中からじっと、顔を覗き込まれている。

……冷静に考えれば、京太郎と女の子の位置関係からして、この状況は不可解なものがあるのだが。

突然のことで頭が上手く回らなかった京太郎には、目をパチクリさせることしか出来なかった。


「ご、ごめん。すぐに――あれ?」

「まぁ」


腰が抜けてしまったようで、力が入らず立ち上がれない。

それどころか、女の子に自分から寄り掛かるような体勢になってしまった。


「ほ、本当にごめん! わざとじゃないんだ!」

「……ふふ」

「腰が抜けちゃったみたいで、悪いんだけどそこのベンチまで――」


ぎゅっと、母親が子供を抱きかかえるように。

両腕を回されて、胸に抱きかかえられる。


「……へ?」

「――Ah! ça ira, ça ira, ça ira!」

「えぇ!?」


身動きの取れない京太郎を抱きかかえて。

そのまま、それが当然であるかのように、女の子は再び歌い始めた。





私の歌。

この人の声。


――Ah! ça ira, ça ira, ça ira!


風の音。

この人の心臓の音。


――les aristocrates à la lanterne!


風の涼しさ。

この人の温かさ。


――Ah! ça ira, ça ira, ça ira!


それでいい。

それだけでいい。


――les aristocrates on les pendra!


今は、他には。

何も、いらない。


一目、見た瞬間から。


きっと、この気持ちが。

母が、亡き父の話をする時の――



京太郎が特等席でたっぷりと歌を聞き終えた頃には、日もすっかり暮れて。


「――ふふ。ごめんなさい、熱くなっちゃっちゃいました」

「あ、いや……」


どうせ用事もなかったのだから、と言いたくても、呆気に取られたままの京太郎は上手く言葉にできない。


「今度は、あなたも一緒に歌いませんか?」

「へ? ええ!?」


そう言われても、自分はこの少女の名前すら知らないのだが。

目を輝かせて迫るどこまでもマイペースな少女に、京太郎は圧倒されっぱなしだった。




お年寄りに道を聞かれたので、付き添って案内してあげた。

途中でお年寄りが苦しそうに胸を押さえて蹲ったので、急いで救急車を呼んだ。

後日、我が家を訪れたそのお年寄りがどうしてもお礼がしたいと言ってきたので、着いて行ったら――


「帰りてぇ……」


広い和風の屋敷に連れて来られて、案内された先はだだっ広い和室。

廊下ですれ違ったグラサンスキンヘッドのお兄さんや、服の隙間から刺青が見えているおじさんたち。

京太郎の想像が正しければ、あのお年寄りの正体は、間違いなく。

ついイメージしてしまったビジョンに、ぶるりと背筋を震わせる。


「……む? そうか、君が祖父が言っていた」

「え?」


がらりと、背後で襖の開く音。

振り向くと、そこには――




「ふむ、中々に男前だな」

「え?」


凛とした雰囲気の、対面するだけで背筋がピンと伸びてしまうような少女。

何となく、長ドスとか持たせたら似合いそうだ。


「ん、ああ。すまない、私は辻垣内智葉という。先日は、祖父が世話になったようだな」

「祖父? ……ってことは――」

「そう、ここの一人娘だよ。年が近いもの同士、話もし易いだろうとのことでな」


……いや、一人娘ってことは、智葉さんはこの家の跡取りってことで。

もし仮に、この場で智葉さんに何かあったら――


「ふふっ」

「……え?」

「いや失礼。君は随分と分かりやすいな」

「分かりやすいって……」

「何も、取って食おうというわけじゃないんだ。そんなに緊張しないでくれ」

「はぁ……」




本当に分かりやすい男子だ、というのが智葉の京太郎に対する印象だった。

『お前のイイ人を連れてきたぞ』なんて、祖父に言われた時には心底驚いたものだが。

こうして彼と対面してみて、智葉はそれが祖父の冗談だということにようやく気付いた。

確かに彼の見てくれは悪くはない、むしろ好みの方だ。

幾つか話をしてみて、性格も好感が持てる。

だが、明らかに一般人の彼が、自分の連れ合いになれるとは思えない。

まぁ、もしも、彼の方から――


「いや……何を考えているんだ、私は」

「?」


失礼、と智葉は咳払いを一つして。


「まだ時間はある。何か暇潰しでもしようか」

「えっと、それじゃあ――」







「――どうも、ありがとうございました。食事、美味かったっす」

「そう頭を下げないでくれ。礼をしたのはこちら側だからな――だが、君の気が向いたらいつでも来てくれて構わない。歓迎するよ」

「はは……」


リムジンで家の近くまで届けられた京太郎は、智葉に頭を下げてその場を後にする。


「三代目とか……冗談でも勘弁してほしいなぁ」


智葉の言うとおり、見た目は怖い人たちだらけだったが、話してみればなんて事はない、気さくな人が多かった。

ジョークのセンスが少しズレているのは気になったが。


「……にしても、麻雀かぁ」


暇潰しとしてお互いの趣味やら何やらを話している最中に出て来たキーワード。

智葉が最も得意とするもの、らしい。

二人しかいないので実際に打つことはなかったが、智葉の口振りからするに、かなり自信があるようだった。


「……俺も、始めてみるか?……なんてなぁ」


背伸びをしながら夜道を歩く。

見上げた月は、少しだけ欠けていた。






「――へぇ。君が、ネリーの言っていた」

「……へ?」


後日。

京太郎が学食でうどんを啜っていたら、テーブルの真向かいにスレンダーな女性が座って声をかけてきた。

服装から察するに明らかに生徒ではない。


「成る程、成る程」


指を組んで、京太郎をじっと見詰めてくる。

次に、女性の口から出て来た言葉は――




「欲しいな、君」

「ぐっ!?」


予想していなかった言葉に、うどんの具を喉に詰まらせる。

慌てて水を飲み込み、ゲホゲホと咳き込む。


「な、なんすか一体……」

「いや、ネリーが妙に気にしている男子がいるからね。私も気になって」

「ネリーが……? ってことは――」


「そう。私はこの臨海高校麻雀部監督のアレクサンドラ・ヴィントハイム」

「監督……」

「ねえ、君」


その口調は、問いかけるものだけど。


「部活やってないようだけど――麻雀部に、来てみる気はない?」


その視線は、絶対に逃がさないと、告げていた。




【臨海出会い編 了】









――しゃーない、京ちゃんも男の子やからなぁ。けど、部長にはナイショやで?



「京くん、大丈夫? 顔色悪いよ?」

「ああ……いえ、そんなことは」

「嘘ついたらあかんよ。うちじゃなくても気付くわ」

「いえ……いや、確かに。そうかもしれません」

「せや、正直が一番!」


彼女が、自分の膝をぽんぽんと叩く。

恋人にしてあげる膝枕のサイン。

どんな時でもこうしてあげると、彼は喜ぶのだが――


「……すいません。少し、早退します」

「むぅ……そうか、無理はせんといてな?」

「はい……」


部室から出て、フラフラとした足取りで男子トイレへ向かう。

喉の奥から込み上げてきたものを押し留められず、便器へと吐き出す。


「あぁ……っ」


喉がヒリヒリする。胸が気持ち悪い。

吐き出したい。何もかもを。


「ごめん、なさい……」


その謝罪は、誰に対するものか。

床にへたり込む自分にさえ、分からなかった。




【もし彼が打ち明けられなかったら】





――もし、この吊橋を渡っている途中に、大きな揺れが来なければ。


その場に蹲って顔を伏せる透華に、京太郎は掛ける言葉が見つからなかった。

無理もない。自分の家族とも言い換えられる親友が、目の前で吊橋から落ちてしまったのだから。

出会って間もない京太郎ですら直ぐに仲良くなれた彼女。

長い付き合いの透華にとって、彼女を失った痛みは相当のものだろう。

京太郎にしてみれば、咲や両親が目の前で死んでしまうようなものだ。


「透華さん……」


だが、いつまでもここにいる訳にはいかない。

また先程のように大きな地震が来れば、今度はこの吊橋自体が耐え切れない可能性がある。

そうなれば、次は自分たちが奈落の底に転落することになる。


「そうですね……行きましょう」


透華は、慰めの言葉など無くとも、自らの足で立ち上がった。

その瞳は真っ直ぐに前を、京太郎を見詰めている。


「ここも、もうすぐ崩れるかもしれません。急がなければ」

「……はい」


悲しむのは、立ち止まるのは、全てが終わってからだ。

絶体絶命の状況にいながらも、彼女は強かった。

こんな状況でありながら――いや、こんな状況だからこそ。

京太郎は、彼女に惹かれる自分を自覚した。





【吊橋効果】

絶体絶命都市からの生還後の修羅場を書こうとしたら前のレスの吊橋効果と混ざって変なものが出来てしまった
リクと全然違うものになって申し訳ない。また今度書き直します


でもあのゲーム、ほんとぽんぽん死にますよね


リクとは違いますがこれもこれで良いと思います
普通に大きな揺れが来ただけなんだろうけれど
タイトルと、物語外の、スレのこれまでの流れ的にちょっと不穏さを感じてしまうww

京太郎の方が吊り橋効果にかかっちゃったか
しかし落ちたのは誰だろ、親友だからまず衣は除外で、
すぐに仲良くなれたってことは歩、智紀も除外して
一か純かな




「俺が、照さんを追って麻雀部に入らなければ」




――京ちゃんに、触らないで。

――彼は、私のものだ。

――人の獲物に、手を出さないで下さいよ。

――須賀くんは、あなたたちのことが、嫌いだから。

――あそぼーよ、きょーたろー。



「俺が、俺さえ。いなければ」


――大丈夫。京ちゃんを泣かせるヤツは、もういないから。

――お前は、私だけの言うことを聞いていればいい。

――逃がす気はないんだ。悪いね。

――少し、間引くから。

――バッカみたい、だね。



「俺がいなかったら」

「きっとみんな仲良くやっていたんだろうな」

「俺が」

「俺が」


「俺が、いるから」



――何かが、落ちた音がした。



【全員ゾロ目 白糸台】






朝の通学路。

大勢の生徒たちに混ざって京太郎も登校していると、何処からか視線を感じる。


京太郎「……ん?」


軽く辺りを見渡すが、知り合いの顔は見当たらない。

気のせいか、と結論付けた京太郎が曲がり角で出会ったのは――




「あっ」

「おっ」


朝の通学路で遭遇したのは、チーム虎姫大将の大星淡。

京太郎が照に気にかけてもらっていることが不思議なのか、よく突っかかってくる同学年の女子。

と言っても嫌味なものではなく、子どもっぽい振る舞いなので京太郎も淡のことを悪いようには思っていない。


「ふっふー。今日こそ私が真の金髪だってことを思い知らせてあげるからね」

「互いに地毛だし真も偽もないだろ」

「いーの、そういうものなんだから」

「そうかぁ……?」


京太郎には今一理解出来ない、というか理解出来てはいけないような気がする淡の思考回路。

下らない会話をしながら一緒に歩く通学路。

登校中の生徒たちに混ざって、お揃いの金髪頭が二つ並んだ。



「きょーたろーってさー」

「ん?」

「こーしてよく見ると、イケメンさんだね!」

「お、おう……」


真っ直ぐに見詰めながらの台詞に戸惑いながら、少し照れる。

麻雀の際にはナチュラルに相手を見下すことも多い淡だが、日常生活ではこういった素直な面が目立つ。

この台詞にも特に深い意味はなく、恐らくは思ったことをそのまま口にしただけなのだろう。


「で!」

「ん、ん?」

「きょーたろーはどう思う? 私のことー」

「えっ」


そして、こう続くことも予想していなかった。

このまま、淡と同じように正直な感想を述べなければならないのか。


「……」

「わくわく」


……正直、可愛いと思う。

少しアホっぽいが、間違いなく淡は美少女である。

だが、それをそのまま口に出すのは恥ずかしい。


「えっと……」


キラキラした目で次の言葉を待つ、淡に対して京太郎は――







「なんつーか……目が離せない?」

「どゆこと?」

「あー、あれだ……手のかかる妹的な」

「ふーん?」


実感がないと言うか、今一理解出来ないのか小首を傾げる淡。

しかし不満はないようで、淡に深く追求されることはなかったが――


「あ、じゃあ」

「なんだ?」

「きょーたろーはお兄ちゃんだね!」

「……は?」


ピン!と頭上に豆電球を浮かべた淡がこれまた変なことを言ってきた。

お兄ちゃん、きょーたろーお兄ちゃん、アニキ、にーちゃん、と考え込むように顎に指を当ててブツブツ呟いている。

やがてしっくりきた答えが見つかったのか、ポンと手を叩く。


「うん、いいかもコレ。同じ金髪だし。しっくりきたかも」

「いや、ちょっと待て」

「なに? お兄ちゃん」

「さすがにそれは、ちょっと」

「えー? 変なお兄ちゃん」


……こうして、淡が飽きるまでの間。

一人の手間のかかる妹が出来上がったのだった。







――どうして俺は、麻雀部で美味しいお茶の淹れ方を真面目に研究しているんだろう。

そんなことを考えたのも今は昔。

ドキドキしながら淹れたお茶を先輩に差し出す。


「不味い」

「はー……駄目、ですか」

「うん。少しぬる過ぎたかも」

「成る程……」


メモを一生懸命に取る京太郎と、駄目出しした緑茶を啜る尭深。

この光景だけを見れば、誰もここが強豪校白糸台の部室とは思わないだろう。


「……でも」


緑茶を啜りながら、尭深は――



「……嫌いじゃない、味かも」

「え?」

「お茶の淹れ方は、相手への気遣いが大事なの」

「はぁ」


ズズッと、さらに一口京太郎の緑茶を啜る。

不味い。さっきも言った通りぬる過ぎる。


「……だから、須賀くんのお茶はある意味正解。宮永先輩、猫舌だから」

「……あ」



不味いが、嫌いじゃない味。

その味の理由は、京太郎がお茶にハマり始めた理由でもある。


「まぁ、それにしても、やり過ぎだけど」

「はい……」


湯呑のお茶を飲み干した尭深は、一息吐いた。


「……いいなぁ」


京太郎に聞こえないように、小さく呟く。

お茶が好きだけど、こうして覚えた知識を誰かに教える機会は中々ない。

だから、こうやって一生懸命に自分の言うことを聞いてくれる後輩は彼ぐらいのもので。

最初は、何となく教え始めたことだったのに。

いつしか尭深自身、京太郎にお茶の淹れ方を教えるのが楽しみの一つになっていた。


「……それなのに」


京太郎が見ているのは、目の前の自分ではない。

そのことが、小さな棘のように、チクリと尭深の胸の奥を突つく。


「……もしも」


私が、須賀くんの一番の好みで。

他に、須賀くんの好きな人がいなかったら。


「……」


尭深はじっと、急須に残った茶葉を見詰めた。





――なぁ、須賀てさ。


――いつも、先輩につるんでない?



――ちょっと、生意気っていうか


――調子乗ってるよね






尭深は京太郎に好みを考えた上で、つまりその人の事を考えた上でお茶を淹れて貰える照が羨ましいか
菫辺りが京太郎が照好みのお茶を淹れてることに気付いたらどう思うやらww

――女子会をしよう!


突発的な淡の提案と、何をするにしてもお菓子が無ければ始まらないという照の言葉で。

京太郎と淡と照の3人で、一つ先のコンビニまで買い出しをすることになった。


「……にしても、女子会だと俺はいない方がいいんじゃ?」

「いーじゃん、お兄ちゃん女子力高いし」

「女子力って、お前――」


と、淡が京太郎の言葉を遮ってその背中にぺとりと張り付く。

両手がお菓子の袋で塞がった京太郎には淡をどかすことは出来ない。


「あつい!」

「なら離れろ」

「それは勿体無い!」

「意味わからん」



「……淡」




「京ちゃんから、離れて」

「……テルー?」


怒るわけでも飽きれるわけでもなく、ただ淡々とした照の声音。


「それに、お兄ちゃんってなに?」

「なにって――」

「京ちゃんに、妹はいない」


反論を許さない強い言い方。

淡も京太郎も、こんな照の様子は始めて見る。

睨まれたような気分になって、淡はゆっくりと京太郎から離れた。


「京ちゃん」

「は、はい!」

「ちゃんと、強く言わないと駄目。淡はすぐに調子に乗るから」

「いえ、でも」

「駄目、だから」

「……はい」


京太郎を真ん中にして、三人で歩く帰り道。

照も京太郎も、そして淡も。

部室に戻るまで、口を開くことはなかった。





「むむーっ」

「どうした?」

「テルーにお兄ちゃん禁止令出されちゃったから、次は何て呼ぼうかと思って」

「あぁ……」


机に突っ伏して唸っているから何を悩んでいるのかと思えば、それはとても下らないことで。

万が一にもと、ほんの一瞬だけ深刻な事態を想像した京太郎はホッとした。


「これは重大なピンチだからね。きょーたろーがお兄ちゃんじゃなくなっちゃったもん」

「んなこと言ってもなぁ」


そもそも淡は京太郎の妹ではないし、京太郎にも妹はいないし、それに。

――京ちゃんに、妹はいない。

あの時の照は、少し様子がおかしかった。


「……もしかしたら」

「きょーたろー?」


――妹。


「おーい」


咲のことが、なにか――



「きょーたろー!」

「うわっ!?」


思考に沈みかけた京太郎を、淡が揺さぶって引っ張り出す。


「ちゃんと考えてよー。新しいきょーたろーの呼び方ー」

「えぇ……?」

「ほら、きょーたろーは何て呼ばれたい?」




――京ちゃん。


「……京ちゃん」

「え?」


照や照のことを考えたせいか、ぽろりと口から零れた言葉。


「あ、いや。やっぱり今のナシで」


だけどそれは、あの二人以外が呼ぶには余りしっくり来ないような気がして。

慌てて取り消そうとする京太郎だが、


「京ちゃん……きょーちゃん……うん!」

「あー……」


何度も口の中で反復する淡を見て、手遅れだと悟った。


「京ちゃん! 何だか幼馴染みたい!」

「まー、そうだなぁ……」


それに、目を輝かせる淡に否定の言葉をかけるのも忍びない。

こうなったらまた、淡が飽きるまでトコトン付き合ってやるしかないだろう。

京太郎は、小さく苦笑した。



――幼馴染みたい、との理由で淡が朝に起こしに来るのは、また別の話である。








――知ってる? 須賀ってさ――


――え? まじ? それキモくね?


――他にもこんな話があるんだけど――







――京、ちゃん?


「京ちゃん、ここで切るべき牌はそっちじゃなくて――」

「照、少し話がある」

「あ、部長」


部活動の指導中。

照が京太郎の手を取った時、菫が割り込んで話かけてきた。


「……菫?」

「すまない、須賀くん。また後で埋め合わせしよう」

「いえ、気にしないで下さい」





「……京ちゃん、が?」

「ああ、悪い噂が流れているようだが……知らなかったようだな、その様子だと」


情けない、と菫は溜息を吐いた。


「彼のことを見ていないから、そうなるんだ」

「ちがう、私は」

「なら、暫くは彼から離れるべきだな」

「……」

「お前はここのエースなんだ。少なくとも噂が晴れるまでは、部活中は彼から離れろ」




「嫌……」

「照……それで、彼を苦しめたいのか?」

「……」


駄々をこねる子供に言い聞かせるような呆れた口調で、菫は照に問いかける。

照は、何も答えられない。


「……私は、噂の出処を探す。その方が、彼の為になるからな」

「……」

「何をするのが彼の為になるのか、彼が何を見ているのか。よく考えろ」


話は以上だ、と菫は照に背中を向ける。

残された照はただ一人、廊下の隅で立ち尽くす。


「……京ちゃん」


縋るように呟きに、答えは返ってこなかった。




「知ってる? 一年の真屋ってヤツ、カラダ売ってるって話」

「え、ウソ」

「いやホント。先輩がその手のサイトで見たらしいんだけど――」


特に深いことは考えず、ただ知ったことを垂れ流す二人。

話の中心人物となっている『真屋』という少女についても、彼らは知らない。

ただ、何となく知ったことでその場が盛り上がれば、それでいいのだ。


「……おい、お前ら」






「いてて……」

「もう、バカなことして。取っ組み合いの大げんかだなんて、真っ青になっちゃいましたよ」


絆創膏の貼られた頬を摩る京太郎を、由暉子は頬を膨らませながらも心配そうに見詰める。

京太郎の頬に貼られている絆創膏も、知らせを聞いて真っ先に駆け付けた由暉子によるものである。


「だってよ。アイツらユキのこと――」

「どうでもいいんです。そんなことは」


由暉子が京太郎の手を握り、上目遣いで怪我の残る痛ましい顔を見詰める。

細くひんやりとした由暉子の指先と、少しゴツゴツした京太郎の指先が絡み合う。


「誰が何て言ったって。京太郎くんが私の隣にいてくれたら、それで……」

「ユキ……」


夕日の沈む帰り道。

大きな影が、小さな影に目線を合わせるように屈んで。

そっと、二つの影が、重なった。

「お熱いねぇ」

「先輩」


京太郎と別れた由暉子に声をかけたは、有珠山高校2年の岩館揺杏。

先程までの一部始終を見ていたのだろう、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべている。


「大変だったんだってね、京太郎も」

「ええ……ありがとうございます、先輩」

「……ん?」

「先輩のお陰で、より愛されてるって。実感できましたから」


二人の間の空気が、ほんの一瞬だけ凍り付く。

由暉子も揺杏も表情が消える。



「……ま、よくわかんないけどさ。上手くいったなら良かったんじゃない?」


沈黙を破ったのは、揺杏からだった。

怪訝な表情で頭をかいている。


「ええ。ですから、心配ご無用ですよ? 先輩は、何もしなくてもいいですから」


対して由暉子は小首を傾げながら、満面の笑みで答える。

可愛いらしい童顔にその仕草は良く似合っており、健全な男子高校生なら直ぐに骨抜きにされてしまうだろう。


「……ハ。そうやって誘惑したんだ、京太郎のことも」

「京太郎くんも好きですから、こういうの。仕方ないですね」



「……ビッチ」

「何もないよりは。ずっと良いですよね」



七夕の夕方が、曇り空に覆われていく。

ポツリと、小さな雫が、二人の頬に当たった。












「見てて、くれますか……?」


――何を、と問いかける前に。

成香はそっと、自分の手の平にカッターナイフを走らせた。

血が滲み、白い手首を伝う。


「っ!」


相当な痛みがあるのだろう。涙目になり、震えている。

だというのに、成香の手は止まることなく、カッターナイフを更に深く手の平に食い込ませる。

赤い雫が、ポタポタと廊下に垂れる。


「す、すてき……です!」


痛みに声を震わせながら、視界を涙で滲ませながら。

成香は京太郎の手を取って、心から微笑んだ。


「こうすれば……京太郎くんが……見てくれるって……!」


「お洒落しても、お料理を頑張っても駄目だったけど……」


「は、初めて……上手くいきました……!」



想い人の温かさを直ぐ側で感じる。

誰よりも何よりも、自分のことを見てくれている。

この瞬間、成香は世界で一番、幸せだった。







「見事に降られちゃったなー」

「そっすねぇ」


誠子の提案で二人でボウリングに行くことになった日。

滝のような雨が降りしきる外。

とてもではないが、遊びに行ける天気ではない。


「さっきまでこんなんじゃなかったのに」

「あっという間でしたね、ホント」


二人並んで溜息を吐いても雨が上がる気配はない。

運良くボウリング場に向かう途中の喫茶店で雨宿り出来たのは良いが、後どれだけ待てば降り止むのだろうか。


「まー……しょーがないか」


やれやれと肩を竦めてメニューを広げる誠子に習って、京太郎もメニューを覗き込む。

窓ガラスを強く叩く雨音が、耳に残った。



降り止むどころか、時間が経つに連れて強くなる雨音。

遠くで鳴り響いた雷の音と共に、ドアのベルを鳴らして喫茶店に入ってきたのは――




「あーもービッショビショー!」


飛び込むように入店してきたのは、淡だった。

店中に響き渡る大きな声に多くの客が振り向く。

勿論、その中には京太郎と誠子も含まれていて、


「あっ!」


淡とバッチリ目が合った。






店員が持ってきたタオルに包まり、京太郎の隣に座る淡。


「ずずーっ……ほっ」


温かいカフェラテを啜り、ホッと一息吐く。

先程の水を払う仕草は犬のようであったが、こうして温まって目を細める姿は猫のようである。


「災難だったなぁ、淡も」

「ホントだよー。映画見る予定だったのに」

「まぁ、時期的にはしょうがないっすよね」

「きょーちゃん! 今すぐ晴れ乞いだ!」

「何だそれ」


こんな雨模様でも変わらない淡の様子に、誠子が小さく笑う。


「そーいや先輩はなんで? デート?」

「あー……」



「よく分かったな」

「え……?」


驚いたのは淡だけではなく、その隣の京太郎も同じである。

確かに二人で出かける訳だから、デートと呼べないこともないが――


「どういうこと? きょーちゃん浮気者?」

「いや、違うから」


真顔で聞いてくる淡にさらっと答える京太郎。

そもそも京太郎と淡は恋人でも何でもない。


「浮気じゃなかったら何なのさ!」

「まず浮気自体が成立しないからな」


その様子を見て、誠子はくつくつと笑った。


「大変だなぁ、幼馴染も」

「あーもう、分かってたならからかうの止めて下さいよ」

「え? え?」


京太郎は未だ理解していない様子の淡の頭にポンと手を置き、わしゃわしゃと撫でる。


「わっ、わわっ」

「冗談ってことだよ。先輩の」


気安い二人のやり取りは、学校でも良く見られる光景だ。

誠子は目を細めて、京太郎と淡のじゃれ合いを見詰めた。







「……チッ」









――京ちゃん。

その呼び方は、私だけものだったのに。


「あーそーべー!!」

「いや、これから部活だからな!?」


どうして、淡が隣にいるの?



――お前は、ここのエースなんだ。

私は、ガマンしているのに。


「だってつまんないんだもんー」

「ほんとーにお前ってヤツは……」


どうして淡は京ちゃんにベタベタしているの?



どうして?

どうして、京ちゃんはソイツに笑いかけてるの?

どうして、淡は、京ちゃんと一緒にいるの?


どうして、どうして?


「どう、して……?」



「……ああ、そっか」


京ちゃんは、優しいから。

私を追って白糸台まで来てくれたけど、優しいから。

迫ってくる淡や菫を、拒めないんだね。


だから、京ちゃんは、悪くない。


「わかったよ、京ちゃん……」



悪いのは――













――須賀のやつ、今度は亦野先輩に媚び売ってたってさ


――宮永先輩や部長も弱み握られてるって



――大星のヤツも、何か――



――え?


――宮永、先輩?













――今日はとても機嫌が良さそうですね


「ええ。とても、良いことがあったので」


――何があったのか、お聞かせ願っても?


「はい、勿論。聞かれずとも、そのつもりでした」


――おお、それはとても期待出来そうですね!


「それでは、話しますね。彼は、数少ない男子部員で、頑張ってくれるマネージャーでもあるんですけど――」



花開くような微笑みで、記者のインタビューに応える照。

後日、雑誌のメイン記事として取り上げられたタイトルの名前は――





【白糸台 日常編 了】






突撃!隣の麻雀部!
~全員ヤンデレ~

長野県から全国に広げて行こう(提案)

――舌を入れてキスされている。

突然のことにフリーズした京太郎が状況に気付いたのは、顔を離した爽との間に透明な橋がかかってからだった。

ペロリと舌で唇を拭う爽に、京太郎は間抜けに空いた口が塞がらない。


「……先輩、どういうつもりですか?」


代わりに、静かな怒りを含ませる声で由暉子が爽に問い掛ける。

京太郎の彼女である由暉子には、例え冗談でも目の前で行われた行為を見逃すことはできなかった。


「んー。どうっていうか、ちょっと京太郎を寝取ろうと思って」

「……はぁ?」


「その様子だとヤッてないんでしょ? まだ」

「だから、私が先に。ちょっと既成事実作っちゃおうかなって」


口調こそ軽いものだが、決して冗談ではない。

彼女と似たような目をした女を、由暉子は後3人ほど知っている。


「……なるほど」


つまり、この女も――


「許しません、絶対に」

「いいよ、別に」


――敵、だ。



私は弱い時にこそ強い!

コレってつまりNTRが強いってことですよね


というわけで先生編宮守パート、次のレスからやっていきまっしょい






……誰かに、見られている?


駅から出てから、目的地へと向かう途中。

正確には電車から降りた瞬間から、背中に視線を感じる。


「……誰だ?」


この地、宮守での知り合いは自分を招いた熊倉トシだけの筈。

そして彼女なら、じっと尾けてくるような真似はせずに話しかけてくるだろう。


「……」

気のせいなら、それに越したことはないが。

意を決して、京太郎が振り向くと――


――白い髪の少女と、目があった。


「……」

「……」


互いに見詰め合って固まる。

普通なら会釈なりなんなりして片方が立ち去るものだが、妙にタイミングがズレてしまった。

京太郎がどう声をかけようか迷っていると、白い髪の少女の方からゆっくりと近付いてくる。


「……あの」



「コレ、落としましたよ」

「へ?」


白い髪の少女が差し出してきたのは愛用の名刺入れ。

恐らく駅のホームの辺りで落としてしまったのだろう。

そして、彼女はそれを届ける為に追いかけてきてくれたようだ。


「あ、あぁ……ありがとう」

「……」


名刺入れを受け取ると、白い髪の子はぺこりと頭を下げて立ち去っていった。

親切心で送り届けてくれたのに、変に疑心暗鬼になってしまったと、京太郎は自分を恥じた。





「……須賀、京太郎」


見覚えのある男性を見かけたと、感じた疑念は彼の落し物から確信に変わった。

彼の名刺。須賀京太郎。たまにテレビ越しに見かけたプロ雀士。

トッププロの一人だったが、最近はめっきり見かけなくなった人。

その程度の認識だった。


「……ダル」


今、この時までは。


「ダル……ダル……」


初めて、胸の中に生まれた感覚。

ざわざわする。落ち着かない。

思わず口癖を連呼してしまう。

だけど、この感覚は。


「……」


悪くは、なかった。














「よく来てくれたねぇ」


トシに先導されて校内を歩く。

ヒソヒソと話す声があちこちから聞こえた。


「色々とお世話になりましたからね、あなたには。しっかりやらせてもらいますよ」

「それじゃあ、期待してみようかね。トッププロの手腕ってやつを」

「元、ですけどね」


昔を懐かしむように、目を細めて会話をする二人。

やがて通りがかった3年生の教室の戸が、ガラリと開いて――





「熊倉先生、少し話が――」

「えっ?」


教室から出てきた長髪の少女に驚いて、思わず一歩後退る。

自慢ではないが自分の身長はそれなりに高い方だと京太郎は自覚している。

だが、今出て来た少女は更に背が高い。下手すると2mはあるのではないか。


「……えっ?」


その少女は京太郎を見るなり、目を見開いて固まる。

ぺちぺちと自分の頬を叩き、瞬きを繰り返して、何やらブツブツと呟き始めた。


「……夢? 夢だよねー?」

「夢なものかい。この人はね、今日からあんたたちの指導を受け持つ――」

「須賀京太郎です。よろしくな」


「え」




目を見開いて震える名前も知らない少女の姿には、激しく見覚えがある。

そう。ちょうど大阪で出会った時の洋榎が、このような表情を浮かべていた。

だとすれば、この後の展開も、容易に想像が――


「け、ケッコンして下さいっ!」


――付かなかった。



「ひっ」


思わず情けない声が零れたが、無理もない。

目をグルグル回す、自分よりも背の高い少女に強い力で肩を掴まれて。

力にはそれなりの自信がある京太郎でもビクともしない状態で、段々と少女の顔が迫ってきているのだから。


「お家は白い屋根で! いっぱい人が来れるように広い庭が――」

「はいない、そこまでだよ」


暴走する少女を、トシが間に入って制止する。

少し辺りを見渡せば、騒ぎを聞いた生徒たちが何事かと、チラチラとこちらを覗き見ていた。


「ちょっと場所を変えよう。豊音も来ておくれ」

「あ、はい!」


別に聞かれて不味い話をするわけではないが、このままでは落ち着かない。

京太郎は豊音と呼ばれた少女と並んで、トシに案内されて宮守麻雀部の部室へと歩いて行った。



「……あの時の」


その後姿を、白い少女が見送った。





「ご、ごめんなさい……」


先程とは打って変わり、しょげ返った様子を見せる少女――姉帯豊音。

身長で言えば182cmの自分が見上げる程に大きな子だが、こうしてしょんぼりする姿は小動物のようだ。


「ま、まぁ。確かに驚いたけどさ」


話によれば、豊音も現役時代の自分の大ファンらしい。

デビュー当時のビデオも持っているとか何とか。

そして、ついに画面越しではなく、『本物』を真近で見たものだから、ついテンパってああなってしまったそうな。


「……そうだ。サインとか、いる?」

「えっ!?」


豊音とは出会ったばかりであるが、この少女には放っておけない雰囲気というか、オーラがある。

その顔を曇らせたままにしておくのは、何となく忍びない。


「い、いんですかっ!?」

「まぁ、現役ではないし……うん、多分問題はないよ」

「そ、それじゃあ……」


おずおずと、豊音が財布から差し出してきたのは、一昔前のプロ雀士カード。

誰のカードなのかは、最早言うまでもない。


「はい、それじゃ……」

「わあぁ……っ!!」


それにサインをして返してあげると、豊音は大事そうにカードを持って、文字通り小躍りし始めた。

一目見た時の印象とは全く違って、可愛らしい仕草がよく似合う。

その様子を見守っていたトシは、年長者らしい穏やかな微笑みを浮かべた。


「まぁ……仲良くやってるようで良かったよ。これから先生になるわけだからね、豊音の」

「……え?」

「何だい、聞いてなかったのかい?」


「えぇーっ!?」


本日二度めの大きな声が、校舎中に響き渡った。





――いる、よなぁ。


宮守のメンバーへの紹介も終わり、概ね好意的に迎えられた日の帰り道。

ちらっと後ろを振り向くと、ささっと電柱に隠れる大きな黒い影。

隠れ切れずにトレードマークの帽子がはみ出しているのはご愛嬌。


「あー、姉帯さん?」

「っ!」


ビクリと影が震えて、こちらの様子を伺うように電柱の影から姿を現した。

想像した通り、豊音は恥ずかしそうな表情を浮かべている。


「どうしたの?」

「えーっと……」


「は、恥ずかしくて……」


帽子を胸に抱え、ツバで口元を隠す豊音。

もじもじと視線が泳いでいる。


「恥ずかしい?」

「その、須賀プロの隣に私なんかがーって……」

「お、おう……」


短い中でも自分の大ファンであることはこれまでのことで伝わってきたが。

ここまでのレベルだと、京太郎も少し照れる。

だが。


「いやまぁ、ホラ。これから指導とかやってくわけだし。少しはその、慣れて? 貰わないと」

「うう……」





「……ダルい、なぁ」



くしゃみが止まらない




放課後に京太郎が部室の戸を開けて真っ先に目に着いたのは、ソファでダラけているシロの姿だった。

見渡す限りでは他の部員の姿は見えず、どうやらシロが一番乗りだったようだ。

うつ伏せでソファのクッションに顔を埋めていたシロは、ちらりと京太郎を一瞥した。


「こんにちは」

「おう、こんにちは――制服、シワになるぞ」

「ダルい……」


ダラけて他の部員を待っているのかと思えば、室内をよく見ると卓の準備やPCの起動は既に済ませてあり、いつでも部活が始められるようになっている。

京太郎が感心して息を漏らすと、シロがすくっと立ち上がった。


「指導。お願いします」

「うん、よろしくな」


意外にも、やる気を見せるシロ。

ダルいダルいと言いながら、肝心な所はしっかりしている少女。

それが、京太郎の小瀬川白望――シロに対する、印象だった。


「ダル……く、ない」


いつもなら口癖のように出て来る言葉が。

今は、違う形になって出て来る。

どうしてなのかは分からない。


「……」


さっき、先生が入って来た時。

恐らくは無意識なのだろうが、うつ伏せになっている私の胸に一瞬だけ目線が止まった。

普段なら、何とも思わないのに。


「……」


どうしてなのかは分からない。

胸がざわざわする。この前、先生を駅で見てからずっとだ。

生まれて初めての感覚に、迷うけれど。


「……あぁ」


この感覚は、悪くない。

先生が、私の手牌を後ろから覗き込んで――



「センセイ、チョット、イイデスカ?」

「お、了解。なんだ?」

「コレ、ナンデスケド――」





――ダルい、なぁ。



――本当に、熊倉先生には頭が上がらない。


京太郎の指導を受けながら、麻雀部部長の塞はそんな感想を抱いた。

今まで3人しかいなかった宮守の麻雀部に豊音を連れて来てくれて。

その時にエイスリンも一緒に入部して、やっとスタートに立った宮守麻雀部。


「お疲れ様です」

「お疲れ様」


実力で言えば自信はあるが、部としては無名の宮守の麻雀部。

そこに、今は一線から退いているとはいえ、トップレベルのプロを連れて来てくれたのだから。


「ほい、お茶淹れたよ」

「あ! すいません、本当ならこっちが……」

「気にしないで。俺も好きでやってるから」


京太郎に頭を下げて、塞はカップに口を付けた。




「……ん?」

「あれ、もしかして苦手な味?」

「いえ、そんなことはなくて……むしろ、美味しいんですけど……」


京太郎と二人で飲むお茶。

何故だろう、既視感がある。

どう考えても、あり得ないことなのだけど。


「先生……」

「ん?」


――前にも、どこかでお会いしましたか?


「……いえ。何でも、ないです」

「そっか。なら、いいけど」


その言葉ごと、飲み込むように。

塞は、カップのお茶を一気に飲み干した。




「……あつっ」

「ああ、そんなに急ぐから……」




非常に手堅い守備を見せるプレイングが特徴的な中堅。

聴牌気配の分かりにくさも強みの一つでもある。

日常生活では、ちょっと毒舌気味なところが目立つ少女。

それが、京太郎の鹿倉胡桃に対する印象だったが――


「んー……っ!!」


必死に棚の上の本に手を伸ばす姿は、どう見ても小学生にしか見えない。

シロ曰く、身長130cm。京太郎とは実に52cmの差である。


「よっと」

「あっ!」


すっと、胡桃の目当ての本を手に取って差し出す。


「これだろ?」




「あ、ああ……」


――ぼふっ。

そんな効果音が聞こえてきそうなぐらい、一瞬で胡桃のほっぺたが茹で上がる。


「ありがとう、ございます……」


力無く本を受け取る。

続けて、ヘロヘロと空気が抜けた風船のように、テーブルに頭を抱えて突っ伏した。


「見られたぁ……」

「え、えーっと……」


これもある意味で、善意が裏目った形になるのだろうか。

彼女にとって、今の光景を京太郎に見られることは、非常に恥ずかしいことだったようだ。


「油断したぁ……うぅ……」


気にするな、とは言い難い。

それに、京太郎が言ったところで、身長の差から嫌味のようにしか聞こえないかもしれない。




「こんにちはー……どしたの、胡桃」

「見られた……私の恥ずかしいとこ……」

「……先生?」

「誤解だ、間違いなく」



「……ダルい。ダルい」






「ん、これは」


放課後、部活を終えて生徒たちが帰るのを見送った後。

一人部室に残っていた京太郎は、椅子の下に薄い板のようなものが落ちているのを見付けた。


「ああ、あの子の」


よく見ると、小さな画板であることが分かる。

そして、宮守麻雀部のメンバーで画板を持ち歩いている子と言えば、一人しか思い当たらない。

恐らくは帰る時に落としてしまったのだろう。

きちんと明日に返してあげようと、京太郎が画板を拾い上げると――



画板には、宮守のメンバーの集合イラストが描かれていた。

可愛らしくデフォルメされたイラストだ。

全員が強気な表情で描かれており、背景には燃え上がる炎のようなものがある。

全国大会に向けた彼女なりの意気込みを強く感じる。


「……よし!」


こんなものを見せられては、短期の指導員とはいえ京太郎にも気合が入る。

京太郎の立場だと、全国大会という場においては宮守高校だけを強く応援することはできない。

しかし、彼女たちにとっては初めての全国大会を、悔いの残らないものにしてあげることはできる。


「俺も、もっと頑張らないとな」


京太郎は頬を緩ませて、そっと画板についた埃を払った。



エイスリン・ウィッシュアート、麻雀歴半年未満。

塞たちや豊音と違い、この部の中では一番麻雀の経験が薄い。

彼女自身の特性は非常に強力なものだが、その経験のなさを突かれると途端に脆くなることもある。

故に、京太郎の指導も彼女に集中することが多い。


「♪」


そして、彼女とよく接していて気付いたことなのだが。

このエイスリンという少女、小動物的で可愛らしいだけではなく、中々に『いい性格』をしている。

やや毒がある、とでも言えばいいのか。


「? ナニカ、ツイテマスカ?」

「いや、何でもないよ。練習を再開しようか」

「ハイ!」


だが、こちらの教えたことは素直に受け入れてくれるし、不満も言わない。

そして先日の画板に描かれたイラストは、嘘偽りない彼女の心を描いたもの。

教える立場としても、力が入る。




「アリガトウゴザイマシタ!」


徐々にだが、自分の実力が上がっていることを実感しているのだろう。

キリっとした眉と力強い眼差しからは、強い満足感が伝わってくる。

そして差し出された画板には、ムン!と力こぶを作って他校の生徒をやっつけているデフォルメされた彼女のイラストが描かれていた。


「はは、でもこれで満足しないようにな」

「ハイ!」


勢いよく頷く彼女が可愛くて、ついポンポンと頭を撫でてしまう。


「ア……」

「あ……ごめん!」

「イエ……チョット、オドロキ、デシタ」


慌てて手を離すが、ふるふると首を振るエイスリン。

目を閉じて、自分から頭を差し出してきた。


「オネガイ、シマス……」

「お、おう……?」


妙な空気になるが、京太郎とエイスリンは10以上も年齢が離れている。

『そういうこと』ではない筈だと京太郎は自分を納得させて、今度は出来るだけ優しくエイスリンの頭を撫でた。

――いいなぁ。私じゃ、駄目だよね。こんな大きいんだもん。





――少し、面倒だな。




――う、羨ましくなんか、ないし。あんな子供っぽいの!




――あれ、何だろう。この感じ……。

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最終更新:2026年01月05日 19:50