<姫子と会話>
「京太郎!」
京太郎「おっと!」
森へ着てみると腹部にトンと衝撃が走る。
茶色い髪の毛に見覚えのある竹細工の髪飾り。
姫子が抱きついてきたのだとすぐさま判った。
姫子「ん~~~♪」
京太郎「よしよし」
ぐりぐりと頭を摺り寄せて来る姫子の頭を優しく撫でる。
姫子も気持ちがいいのだろう。
動いていた頭が止まり、うっとりするように表情を緩めた。
京太郎「異常なし?」
姫子「うん!問題なか!」
京太郎「こっちまでは来てないか」
姫子「ん~~っ、どうだろ。様子見?」
京太郎「下手に人を減らして食べる人が居なくならないように何かしてるのかもな」
姫子「かも!」
昨日の研究書の内容を思い出し、その様な事を言ってみる。
可能性としてもなくはなく、むしろ高かった。
姫子「と・こ・ろ・で京太郎~」
京太郎「うん?」
姫子「暇だよね!」
京太郎「えぇ……と、うん。暇……かな?」
姫子「なら膝枕!」
京太郎「ここで?」
姫子「だめ?」
京太郎「………」
結局逆らえず、姫子に膝枕をして朝を過ごした。
<器用を鍛える>
京太郎「よっほ」
暇だったので近くにあった空の瓶を手に取り、ジャグリングをしてみる。
以外にも上手く行き、才能を片鱗を見せた。
京太郎「大道芸で食っていこうかな……なんてな」
最後には全てを上に投げくるんとその場で周りキャッチした。
上に投げた3本の瓶を器用に手に取りポーズを決める。
中々に上手く行き見てた人が居ないのが勿体なかった。
<咏と頑丈を鍛える>
咏「ていっ、ていっ」
京太郎「………」
咏「とぉー!」
京太郎「………」
咏「ふっ……ふっ……」
京太郎「………」
咏「はぁ……疲れた」
京太郎「………本気でやってます?」
痛みに耐える為に咏にお腹を叩いて貰っていたのだが、痛みすらなかった。
むしろ咏が手を押さえ、息を切らしている。
そこまで貧弱だったのかと苦笑し手を差し出す。
咏「いやいやいや、京太郎が無駄に丈夫なだけだからねぃ!?」
京太郎「そうですかね?」
咏「なにこの鉄の様な腹筋」
京太郎「特に何もして無いんですけどね?」
咏「これもオカルトなんかねぃ」
京太郎「どうでしょう?」
咏「島から出たらどうなるんだろ。腹筋戻るのだろうか」
そんな事を言いつつ咏は扇子でお腹を押してくる。
特に痛みはなく、むしろくすぐったい。
暫しの間、そのまま咏に遊ばれ続けていった。
京太郎「……ということですね」
「………」
夜遅く、普段なら皆が眠りに就いている頃。
ホールに人を集め、研究書に書かれていた内容を知らせる。
全てを話し終えた頃には、皆が黙り込んでいた。
黙り込むのも無理はない、何せ山頂に神様モドキが居てそれが元凶です。
なんて言われて何も思わない方がどうかしている。
久「……まじ?」
京太郎「本気です」
久「………それで京太郎君達は――それを倒すと?」
久の疑うような視線を受けて京太郎が頷く。
今現在において問題が起きすぎている。
それを一挙に解決できる手段なのだ、乗らない訳にはいかない。
この現状が何時まで続くかも判らない状況なのだ、手段が解決方法があるならやって損はない。
京太郎「奴は明日に動くかもしれない。10年後かもしれない」
説得するように言葉を続ける。
こればかりは、新道寺のみでは成し遂げられない事だ。
ゾンビの大群に熊、更には『名無し』が動かないとは言い切れない。
いや、確実に動くであろうと核心すらある。
幾ら赤ん坊でも自分に危機が迫っていれば自分を守ろうと動くだろう。
京太郎「だが、このまま引き篭もっていても『未来』はない!」
ゾンビに熊に食糧問題、考える事はたくさんある。
今はまだ何とかなるが、この先はどうなるか判らない。
だからこそ、自分達で動くしかないのだ。
京太郎「奴は、十分に食事を取れてない状況だと判断できます。だからこそ今こそがチャンスです」
声を張り上げ、真剣に話す。全てを話し終え、ざわめきだす。それを辛抱強く待ち続ける。
次第にざわめきは大きくなり、1人が遂に手を挙げた。
塞「理由とかは良く判ったし、理解も出来た。けど……倒す方法あるの?仮にも『神様』だよ?」
やっぱりそう来るよなと京太郎は内心ため息をつく。
何度も何度も考えた。研究書も何度も読み返し、方法を考えていた。
拳銃は効くのか?武器は?体術は?魔法、オカルト……様々な方法を。
正直どれこれも資料が少ないうえに、実物も見たことがなく確証が出来ない。
でも……それでも……。
京太郎「……ある!!」
力強く答えた。
塞「その方法は――?」
京太郎「これです」
質問した責任もあるのだろう。
塞は腕を組み、様々な視線を受ける中で堂々と立っていた。
それに答える為に京太郎もまたしっかりと視線を合わせ、頷き、懐からある物を取り出す。
塞「弾丸?」
京太郎「はい」
取り出したのは一つの弾丸。
普通の弾丸と違うのは、色は金色と言う所以外だけだ。
塞「色が違うけど……何がどう違うの?」
京太郎「これはオカルトを封じる黄金で出来ています」
塞「……オカルトそのものを……でもそれだけで倒せるのかな?」
京太郎「………」
塞の疑問も確かな事だ。この小さな弾丸一発でどうにかなるのか?そればかりは判らない。
しかし、これしかないのだ。この弾丸に賭けるしかない。これを『用意した奴の執念』を信じて打ち込むしかない。
黙り込み、どう説明しようかと悩んでいると周りがざわめきだす。
これに籠められた想いは尋常じゃないのだ。それを伝えるのにどうすればいいのか。
『できます』
心配するようなざわめきを打ち消したのは一つの声だ。
全員が出した人物へと視線を向ければ『神代小蒔』が立っていた。
小蒔は顔を赤くし、泣きそうになるのを抑え真剣な目で見つめてくる。
塞「そこまで特別な物なの?」
小蒔「……はい。だってそれは……」
やはりと言うべきか、神代さん達にはこれが何か判るらしい。
『幾多の人を黄金に変えて作った物ですから』
小蒔の言葉で辺りが静まりかえる。
京太郎は、言いたかった事を言ってくれた小蒔に感謝をする。
ただの普通の高校生と神社の娘の小蒔では重みが違う。
塞「……幾多の人?」
小蒔「……はい、悲しい事ですが……それには凄まじい怨念が篭ってます」
周りの人がごくりと唾を飲む音が聞こえた。
そう、これを作った奴は、『ルフクトゥ』だ。
どう倒そうかと悩み、研究書を何度も何度も丁寧に読み返し探っていた時に気付いた。
研究書をわざわざ本にするだろうかと、読んでいた研究書は本になっていた。
普通は、研究書なんて本にしない。そのまま紙を束ね置いておくぐらいだろう。
疑問に思い調べれば、紙は古いのに表紙だけが新しい物であった。
それに気付き、慌てて表紙を取れば背表紙の空いている部分にこれが挟み込まれていた。
つまりは……知っていたのだろう。自分が倒れる事を、俺達が奴を討伐する事も。
奴の想いも、やり方も、性格も、全てが気に入らないが、執念だけは尊敬に値する。
京太郎「これは奴を倒すために『とある奴』が執念で作り出した物/者……」
「………」
京太郎「俺は……やり方とかは気に入らないけど、その執念だけは本物だと想う」
「………」
京太郎「だから、俺はこれに賭けたい。何より犠牲になった人達の為にも」
「………」
必死に呼びかける。もしかしたら通じないかも知れない。それでも……それでも賭けてみたいと。
シーンと耳が痛いほど沈黙が場を支配する。
もし、ここで断られたら、新道寺だけで行なわなければならない。
誰もが沈黙し、動かない中、1人だけが手を挙げた。
淡「はいはーい!白糸台は賛成します!」
菫「淡、お前なぁ……」
手を挙げたのは、淡だ。
個人でなく白糸台を名に挙げた性で菫が睨む。
淡「何言ってんの?ここでやらなきゃ何時やるの?」
菫「それは……だな。もうちょっと準備をかけて……」
淡「思い立ったら吉日!後回しにしてたら痛い目にあうかもよ?」
菫「……はぁ」
照「いいと思う。倒せばいいだけだし」
尭深「うん、私に出来る事は少ないかもだけど、手伝う」
誠子「辛抱強く待つ方が得意なんだけどなぁ、しょうがないか」
菫「お前等も……か。判った、判った私も賛成だ」
菫が心配するのも頷ける。
人を纏める立場としてリスクを考慮していたのだろう。
それでも淡達に背中を押されたら嫌とも言えない。
いや、菫の表情を見るに彼女も賛成であったのだろう。
玄「わ、私達も!賛成!」
次に手を挙げたのは玄、いや阿知賀全員が手を挙げている。
玄「頑張るよ!頑張らなくちゃ!」
穏乃「私がいれば山なんてへっちゃらだしね!」
憧「フォロー役も必要よね!」
灼「うん、色々とお世話になったし手伝う。……はるちゃんも心配だし」
宥「あったか~い。頑張るよ、うん、
お姉ちゃんも頑張る」
玄「ふふん、コモドさんにかかれば神様も一撃なのです!」
灼「……そのコモドさんは、神様に作られたものだけど……命令聞くのかな?」
玄「あっ………」
憧「50%?」
穏乃「30%!」
宥「あったかくない」
玄「た、たぶん!大丈夫!」
何時も見たく、明るく元気に、騒がしく見ていてほっとする。
全員が全員いやいやではなく、皆の為にと思っているのが良く伝わってきた。
勇気付けられて顔に笑顔が戻ってくる。
咲「私達も賛成!」
感化されたのか、否先を越されて些か不機嫌そうに咲が手を挙げる。
久「後輩が頑張ってるんだもの、私も頑張らないと……それに分の悪い賭け嫌いじゃないわ!」
咲「私にしか出来ない事もあると思うし」
和「まぁ……正直怖いですけど。好きになってしまったんですもの、しょうがないですね」
優希「優希ちゃんに任せとけ!」
まこ「まぁ、何時もの事じゃけん。後ろは任せろ」
美穂子「傷の手当ぐらいなら」
池田「にゃははは、華菜ちゃんにお任せだし!ってセリフ被ってないか?」
未春「気にする所そこなんだ。目立たないかもだけど頑張るよ」
なんというか、咲達らしい。
それでいてやっぱり心強かった。ありがたい。
ただ、部長は手に残っている傷を触り、和は意味ありげな視線で見ないで欲しい。
後ろが怖いです。
爽「なら私達も出動だ!」
そんな事を言いながら、爽がポーズを決めた。
ついでに由暉子も……。
誓子「うん、こうなるよね」
揺杏「だなー。でもしょうがないよな」
成香「しょうがないです」
由暉子「このポーズ良くありません?」
誓子「もうちょっと、こう?」
由暉子「こうですか?」
揺杏「いいね。このポーズであう、衣装は……」
成香「わ~良いですね!素晴らしいです!」
爽「……あはは、泣きたくなるほど普通通りだ」
いつも何処でも、自分達を前面に出す有珠山に苦笑が漏れた。
でも、その普通らしさが今はありがたい。
有珠山の空気に当てられてか周りも笑っている。
衣「京太郎!衣の力は必要か?」
京太郎「ええ、必要です」
次に手を挙げたのは衣だ。自分の事が必要かと聞かれたので本音で答える。
衣「そうか!そうか!なら手伝わないとな!」
純「おーおーお姉さんぶってるな」
一「しーっ!聴こえちゃうって!」
透華「ぐぬぬ、一番に手を挙げてれば目立ちましたのに!」
智紀「我慢、我慢。衣が手を挙げたがってたから」
透華「それは……そうですけども」
一「あーそだ。衣が賛成ならボク達も賛成ね」
衣「いいのか?」
純「今更だろ」
智紀「皆一緒」
衣「―っ。衣は幸せだ!」
5番目は――いや、順番なんて関係ない。
龍門渕の全員が衣を筆頭に立ってくれている。
それだけでもう十分だ。
怜「立たな、あかん。ここが踏ん張り時やろ、怜なだけに」
次に立ち上がったのは怜だ。
具合が悪いであろうにも関わらずふらふらと立ち上がる。
セーラ「まぁ、やらな、あかんな」
泉「うえー……まじですか」
浩子「肉体労働は任せましたわ」
竜華「うっ……。怜~立派になって……」
怜「竜華は私のオカンか!……ちなみに山に行くんわ、竜華やで?」
竜華「なんで!?」
怜「私はふらふらやし。怜ちゃんで行くしかないしなー」
セーラ「あはははは、気張れ!竜華!」
泉「頑張って下さい!」
竜華「えぇ~~!!?」
ギャグを挟まなければいけないのだろうか。
それでもこの状況で笑い合える千里山は本当に強い人達だと思える。
この人達が味方に居てくれるのだ、何も心配はない。
ゆみ「遅れたが、私達も賛成だ」
そう言ってゆみが、手を挙げ立つ。
桃子「まーそう言う訳っすね。折角の友達だし、死なれると困るっす」
ゆみ「それにライバルだしな」
佳織「ライバルと言っても……一度しか戦ってないような」
睦月「うむ」
ゆみ「それでもライバルだ」
桃子「友達っす」
智美「ワハハ、どっちでもいいような」
何時の間にライバルになったのだろうか。
というより、何のライバルか。疑問に思うも、すごくありがたい。
自分達と戦い破れたのにも関わらず、清澄の応援にも着てくれた。
とても頼りになる人達だ、彼女等に不甲斐ない姿を見せられない。
小蒔「私達も勿論参加です!」
先ほどから立っていた小蒔も返事を返してくれる。
巴「姫様、やる気十分ですね」
初美「しょうがないのですよー。あんな物を見せられた巫女が動かない訳にはいかないのです」
春「んっ、祓い清めるのが巫女の役目」
霞「京太郎君」
京太郎「はい?」
霞「これも持って行って?」
京太郎「これって……」
霞「あの人に渡されていたものね。こっちはあまり力はないけど……私達の力を籠めてるの」
そう言って手渡された物は、黄金に輝く鎖であった。
触ってみると弾丸とは違い、透き通ったような印象を受けた。
これには人が使われてないのだろう。霞から鎖を丁寧に受け取りお辞儀をした。
ネリー「私達も!」
鎖を哩に渡しているとネリーが元気良く立ち上がる。
明華「人を運ぶのにも私が必要ですしね」
ネリー「ぶっちゃけ、ネリーは既に加護あげてるし役に立たないけどね!」
智葉「お前って奴は、そういう大事な事は先に伝えとけ」
ハオ「ネリーですし」
ダヴァン「ネリーですシネ!」
ネリー「なにその反応、地味に酷い」
智葉「普段の行いが悪い」
明華「ですです。露払いは私達がしますので!……これ言って見たかったんです」
不敵に笑い合う姿は強者の証。
何を気取る事もなく、ただただ自然体で居る彼女達を見て勝ちを確信する。
何も問題はない、後ろには彼女達が居てくれるのだ。
洋榎「ウチ等も参加な~」
気軽に散歩にでも出るかのように手を挙げる。
絹恵「お姉ちゃん、もうちょっと……こうなにか」
洋榎「別にええやん。何時もの様にガースが勝ってお終いやし」
由子「何時もの様に支えてれば問題なしなのよー」
恭子「まぁ……そうですね。ウチ等に出来る事も少ないですし」
郁乃「漫ちゃんが頑張るからええやん」
漫「あっ……やっぱり私が頑張るんですね」
恭子「一匹でも漏らしたらデコにペンな」
漫「うわーん。やっぱりそれなんですね!」
漫が泣き、皆が笑い、恭子がペンを出す。
オカルト持ちも少ない、姫松。
それでもしっかりと立ち上がり、手を差し出してくれる。
彼女達の手を裏切らないように、ただ前に進む。
エイスリン「ワタシタチモ!」
最後にはエイスリンが手を挙げる。
エイスリンは向けられた視線に震えるも気丈に立っていた。
エイスリン「ミンナデ、ガンバラナイト!」
胡桃「怖いよ?痛いかもよ?」
エイスリン「ヤル!」
白望「はぁ……ダルいけど、賛成」
豊音「わー!シロも動いたよー!」
塞「まぁ……この空気で私等だけ不参加なのはね?」
エイスリン「ウン!」
豊音「うん、頑張ろう。皆一緒なら乗り越えられるよ!」
胡桃「ふふ……」
塞「やるか、私達も賛成。手段があるなら問題ないね」
最後に宮守も賛成してくれた。
これで全員、全員が賛成をしてくれた。
京太郎「っ……」
極度の緊張のせいか、安心して崩れ落ちも誰かに受け止めらた。
姫子「京太郎!」
哩「んっ、立派やった」
ふと見れば、姫子と哩が隣で自分を支えている。
煌「さー!大仕事です!」
仁美「気合入れすぎ」
美子「いいんじゃないか、これからが正念場だし」
京太郎「やるか!やりますか!」
姫子「うん!来っ、京太郎!」
哩「さぁ、立って……」
二人に支えられ、後ろを3人が押してくれる。
全員一緒に行くのだ、勝てない道理がない。
そんな事を思いつつ哩の言葉に頷き、立ち上がろうと……した
姫子「きゃっ!」
哩「っ―!」
京太郎「うお!?」
その瞬間、体が前のめりに倒れる。
ガゴン……ギギィ……と大きな音を立て船が大きく傾いた。
周りの人達も慌てて地面に座り込み、体勢を維持しようとする。
それでも船は、傾いたまま、動き進んだように全員が傾いてる方へと流される。
「なにこれ~~~!」「ちょ、そこ触らんといて!」「無理無理、何がなんだか……」
京太郎「ぐはっ!?」
全員がもみくちゃになり、混乱する。
京太郎自身も顔を地面に打ちつけ、大きく仰け反った。
暫く経ち、船の傾きが直り、何事もなかったかのような静寂に包まれる。
京太郎「何がっ……!」
哩「全員怪我は?」
姫子「う~大丈夫とです」
煌「頭がぐわんぐわんします」
仁美「ジュースが無くなった」
美子「ジュースの被害以外は……ないかな」
哩達の安否を確認するとすぐさま、立ち上がり、扉を開く。
先ほどの衝撃で少しばかり歪んだのか、ぎこちない開き方になっていたが無理矢理、開き飛び出す。
向かう先は、デッキだ。何があったのかを確認しなくてはいけない。
京太郎「っ……!!」
息を切らし、慌てて外へ飛び出し船の先端へと急ぐ。
後ろからも何人かの靴音が聞こえるが今は確認が先とばかりに急いだ。
全力で走った為、最後には柵に前のめりになるように抱きつく。
京太郎「―――」
そして、船の先端から何が起こったのかを確認して絶句した。
姫子「こいは……」
哩「参った、本当に参った」
暫く唖然とその光景を眺めていると隣に二人がやってくる。
どちらも息を切らし苦しそうだが、それを気にしている暇は無い。
目に映る光景に言葉が出ない。
京太郎「嘘だろっ!」
目の前には島が見える。
それは別に大したことはない。問題なのは、少し島から離して置いた船が砂浜に上がっている。
それと……この船に向かってやってくる幾つ物赤い目であった。
赤いゆらゆらとした目は何も移してないかのようで、ただただ虚空を見つめている。
京太郎「動いた……のか?」
唖然と呟いた言葉は誰にも届かず終わる。
久「戦闘態勢ーーーー!!!!」
即座に久が叫び、何人かが動き出す。
見れば既にゾンビや熊といった存在が砂浜を歩いている。
桃子「!!」
ゆみ「ふっ!!」
菫「っ!!――尭深!弓と矢を!!」
尭深「はい!!」
既に船に這い上がってきてる者も居る。
桃子に襲い掛かろうとしたゾンビをそこら辺にあったモップでゆみが蹴散らす。
鋭い、一閃が即座に放たれ、何人かのゾンビが落ちていく。
姫子「こいつら!」
哩「こっちにも!」
京太郎「美子さん!!武器を!」
美子「うん!」
それをのんびりと見ている暇はない。
砂浜から船をよじ登って来る者が多すぎる。
姫子が拳銃を撃ち、哩が鎖を取り出し、動けなくしていく。
京太郎自身も腰に有ったナイフを片手にゾンビを蹴り落す。
話し合いという事もあり、武器を所持していなかった者も多く、場は混沌する。
何人かは慌てふためき、指示を出す者、戦う者、と別れ大声が響き渡る。
京太郎「姫子は、熊のゾンビを――」
姫子「判った!!」
京太郎「哩はゾンビを鎖で固めて――」
哩「了解!」
京太郎「煌さんは、縛ったゾンビを海に流して、仁美さんは哩のサポート!」
煌「了解です!」
仁美「ん!判った!」
慌てつつも即座に判断し命令を出していく。
そこに余裕など無く、ただひたすらに目の前の敵を打ち倒す。
京太郎「咏さん」
咏「どした」
京太郎「こいつら燃やせますか?」
咏「出来るけど……時間稼ぎにしかならねーぜ?」
京太郎「………」
咏の言葉に唇を噛む。
それでも今は場を整えるべきだと判断し指示を出した。
咏「了解、了解。久々の本気だ、『精々華やかに散れ』」
タンっ!と京太郎の肩を足場にし飛び上がり、扇子を構える。
扇子を開き、砂浜に軽く振れば、ゴオゥ と音と共に砂浜は火の海へと変わる。
夜だというのに火の光が辺りを眩く照らし、光の壁を作り出す。
京太郎「っ――!」
咏「カードの力添えもないし、もって……10分だな」
京太郎「判りました!」
トンっと柵に降り立った咏にそう言われ、大声を出す。
10分……短いが生死を分ける今においては貴重な時間だ。
1秒も無駄に出来ないと即座に走り、久へと呼びかける。
京太郎「部長!」
久「そう呼ばれるのも久々な気がするわね」
京太郎「や、そういう場合じゃないですから」
久「わかってるわよ、既に各部長達に集まるように知らせてるから」
声を掛ければ、そのような答えが返ってくる。
相変わらずの周到さと思いつつも情報を交換し合い待っていると、30秒後には全員が集まった。
久「残り時間は10分だから、情報交換含め手短にやるわね」
菫「頼む」
久「まずは、敵の数だけどおかしいわね。数が多すぎる」
ゾンビの数が前の船員含め、合わないのだ。
幾ら数百人居ようが、日常的に排除したゾンビの数もそれなりになっている。
それなのにだ、一向に数が減る気配が無い。
塞「神様が増やしてる?」
久「それしかないでしょうね」
生物を生み出せるぐらいだ。
このぐらいの芸当なぞ簡単にできるだろう。
無限に湧いてくるゾンビの集団を思い浮かべ、全員が青い顔をする。
透華「それだけではありませんわ」
哩「他に……何が?」
透華「衣の話を聞くと『虫』の類も此方に突っ込んで来るとか……」
灼「玄も言ってた、爬虫類が言う事訊かないって」
即座に情報交換がなされていく。
どうやら生み出した生物を全て此方に向けているようだ。
と言うことは、問題はゾンビだけでなく、他の生物もとなった。
菫「……ってことは鳥も?」
竜華「可能性は……あるなー。夜やから動かないだけかも知れん」
霞「虫は天江さんがいる限り侵入して来ないとして……鳥は……」
ゆみ「打ち落とすにも矢も人も足りないか」
鳥は数も多い上に空から奇襲が行なえる。
今はまだ、問題ないが朝を迎えれば総攻撃が予測される。
タイムリミットは自然と朝方までとなった。
恭子「攻めるしか……ないんか」
誓子「それしか……生き残るには」
時間もなければ、余裕も無い。
誰もが沈黙をする中、心決めた目で久が皆を見渡す。
久「色々考えて穴もあるけど……これしかないわね。文句がある人も居るだろうけど……乗って頂戴」
それだけを言って、久は、最後の策を皆に聞かせていった。
砂浜の火が段々と勢いをなくしていく。
それを奇怪な連中は、何の意思も持たない目でただただ、見ている。
人を襲うだけに作られた存在だ。意識など持っていない。
「今だ!」
火が収まり、集団が動く直前、大きな声とキキィっと甲高い音が響き渡った。
砂を大量に巻き上げ、一台の車が甲高い音と共に砂浜を走り去る。
京太郎「っ――!」
車の中で全員が大きく体勢を崩すなか、京太郎だけが窓にしがみ付き船を見る。
全力で車を走らせている為、すぐに遠くなる船の上、其処に居る人達を見えなくなるまで見続ける。
様々な思いが胸を打ち、泣きたくなるほど、叫びたくなるが無理矢理抑えた。
残していく彼女達も大変だが、これからの自分達を考えればそうは言ってられない。
何より、自分達の成功に彼女達の命がかかっているのだ。
久「頼んだわよ……京太郎君」
久は、去っていく車をじっと見つめ続ける。
考えたのは策と言えないほどの物だ。
単純に船を守る者と討伐に出る者を分け同時に行なう。
ただ、それだけ、どちらになろうが死地しかないそんな物。
それでもこれしかない、守っても攻めても負けるのだ。
久「それじゃー!帰って来るまで各自奮闘!!」
手を大きく挙げ、号令をかける。
戦力を割いた今、先ほど以上の苦戦が待っているだろう。
それでもやり遂げなければ……ここを帰って来る場所を守り続けなければならない。
久の言葉が響き渡った瞬間、開始する合図のように一本の矢が飛びたった。
砂浜を走っていた車は急激に曲がり、森の方角へと向く。
エンジンを大きくふかし、思いっきり自殺行為のように森へと走った。
本来であれば、木にぶつかって終了であるが、この車は違う。
智美によるオカルトで出来た車を避けるかのように木々が避けていく。
故に、ぶつからず、ふらふらと蛇行しながらも山へと向かっていった。
穏乃「止まって!」
『!!』
山の直前となり、乗っていた穏乃が大声をあげる。
その声に従い急激にブレーキを踏んだせいで全員が前へと押された。
げほげほと咳き込む者も居る中、穏乃はぴょんと車から降りて山を見渡す。
暫くその行為を見守り、戻ってきた穏乃へと全員が視線を向けた。
穏乃「……此処から先は車で行けない」
穏乃の言った言葉に全員が固まった。
予定では、中腹辺りまで乗っていき、其処からは京太郎達は歩き、鶴賀は車を守る予定であった。
山の手前、始めの一歩でいきなり躓いたのだ、誰もが固まる。
京太郎「何とかならないのか?」
穏乃「崩れる」
真剣に穏乃に問い詰めればその様な答えが返ってきた。
じっと暫くの間、見つめ合い、どうしようもない事を悟る。
京太郎「……まじかよ」
視線を車に戻し、項垂れる。
周りを見渡せば木々が多く茂っている。
山の中腹とかであれば、何があってもすぐに京太郎達と合流できる。
そう踏んでの事であったが、ここは森の近く大勢の敵が来ることが予測された。
その中に鶴賀を置いていく、それはあまりに悲惨で残酷だ。
連れて行っても車を守る人が居なくなり、何かが合った時の為の足が無くなる。
此処に来てもまだ、非常な選択肢を突き告げられるようだ。
桃子「しょうがないっすね。ここでいいっすよ」
京太郎「……モモ?」
ゆみ「少しばかり予測とは違うが人生こんなもんだ」
京太郎「ゆみさん」
佳織「怖いけど……怖いけど……ここで私達が頑張らないとね?」
京太郎「っ――!」
睦月「うむ。気にせず行って来い」
京太郎「あぁ――っ」
智美「ワハハ、いざって時はモモの影に隠れるしな」
京太郎「………降りよう」
桃子達に笑顔で言われ、京太郎はそれだけを言うのが精一杯だった。
全員が降り準備をしていると、虫が襲ってきた。
どうやら余韻も何もないらしい。
淡「もう!しつこい!!」
襲ってくる虫を淡の防御で追い払い、残った鶴賀には明華が着く。
お互いに虫対策として連れて来た人物だ。
穏乃「こっち!」
姫子「うん!」
竜華「んっ……奇襲も虫以外なしや!」
怜ちゃん『オールオッケーや』
智葉「行くか」
京太郎「行って来る!」
ゆみ「行って来い」
穏乃を先頭に京太郎達は走る。
ゆみに背を軽く押され、京太郎は振り向かずに前へ前へと……。
桃子「ん~本番っすね」
睦月「う、うむ」
明華「虫は風で追い払うので……皆さんはあれを……」
佳織「うぅ……」
智美「ワハハ、早速か~」
視線をそちらへと向ければ何体かのゾンビが此方に向かってるのが見える。
赤い目をただただ不気味に此方に向けて……。
煌「今の所……不気味なぐらいに何も無いですね」
仁美「んっ……静か」
美子「下は……」
冷たい風が吹く中、美子の言葉に全員が下を見る。
遠くに見える船は、赤く光り輝き、激しく人が動いてるのが見えた。
それを全員が言葉を発さず、静かに見守る。
京太郎「行こうか」
穏乃「こっち、そっちは崩れやすいから」
智葉「おっと」
何時までも見てられず、黙々と歩いていく。
穏乃のお蔭で山もスムーズに進み、竜華と怜ちゃんのお蔭で奇襲もない。
たまに合っても、智葉が一刀の元切り伏せ終わりだ。
京太郎「ここは……」
ある程度歩いていくと、小屋の様な形をした物を幾つか見かける。
ここは、ルフクトゥが育った村だろうと予測を立て、少しばかり感傷深く眺めた。
姫子「……京太郎?」
京太郎「ここにも人が居たんだなって」
哩「………」
そんな事を思いつつも足は止めない、止められない。
ただただ黙々と歩き、たまに休憩を少し取って、また歩く。
それを何度も続け、だいぶ時間が経った頃だ―――見えた。
京太郎「あそこに……」
真っ白い神殿が見え、怒りが湧いてくる。
先ほどまで哀しみと空虚にまみれていた心に火が灯り、ぎゅっとスコップを強く握る。
智葉「やっぱりか」
京太郎「智葉さん?」
智葉「下」
一歩目を踏み出した時に智葉がため息をついた。
何事かと思い訊き、言われたとおりに下を見れば――。
赤々と蠢く集団が見える。
竜華「嘘やろー!」
穏乃「………」
淡「うげー……」
ここは山頂だ。
どうやら今まで襲撃を控えていたのは、この為だったらしい。
逃げ場も無いところに追い込む為に。
煌「ピンチ?」
仁美「やばかー」
美子「これは……もう」
全員が全員、相手の底なしの数に圧倒され、士気が落ちていく。
誰もが落ち込み下を見る中、1人京太郎だけが目を爛々と輝かせる。
京太郎「チャンスだ」
姫子「京太郎?」
京太郎「良く考えろ。生物を無限に作り出せるなら神殿の前に出せばいい」
哩「なるほど」
京太郎「それをしないで下からわざわざ呼ぶってことは――」
智葉「力が尽きたか、力を温存しておきたいか」
智葉の言葉に頷く。
他にも幾つか理由は存在するが、ここは士気を挙げておきたい。少しだけでも希望が見えるほうへと思考する。
下が追いつく前に京太郎達は足を進め直す。
勿論、周りにも気を配り、何も無い事を確かめ慎重に慎重に……。
淡「それじゃ、頑張ってね!」
京太郎「はっ?」
神殿前へと辿り着いたときにそんな事を言われた。
あまりあまり、呆気なく言われた為、ポカンとしてしまった。
淡「あれ……そのままにしとけないし」
京太郎「………」
そう言って、指差すのは下から向かって来る魑魅魍魎。
淡の言うとおりだ、このままアレを引き連れて戦闘は出来ない。
誰かが押さえ込まなければいけないのだ。
穏乃「なら……私も!」
竜華「二人じゃ辛いやろうし……私もかな」
姫子「大丈夫……?」
三人『問題なし!』
心配そうに聞けば笑顔で返される。それを姫子は何か言いたそうにするも顔を振り前を向いた。
そして、京太郎もまた3人をゆっくりと見渡し、前を向き扉を開ける。
目の前に広がるのは、手入れをされていないと一目で判るぐらいに荒れた神殿。
それでいても何処か神々しく白く光り輝き、地面には黄金色の液体が流れ絨毯のように見えた。
そんな神殿奥で、それが鎮座していた。
白い肌に赤子の出来損ないのような容姿、目が大きくギョロンギョロンと辺りを世話しなく見ている。
そんな生物が大きな黄金色の石版を抱き、石版から流れる液体を浴びている。
一瞬、その異様な光景に心が奪われそうになるが、手を痛くなるほど握り締め耐えた。
全員が武器を構え、慎重に歩く。
黄金の液体は、以外にも何も害も無い。
粘りつく事も無く、ただただそこにあるだけだ。
水のように感覚が有る訳でもない、目で視覚できるだけである。
ただただ黙々と進んでいると、柱から大きな影が飛び出てくる。
大きな盾を両手に持つ2Mを越える巨人。
所々腐敗しており、肉は殆どそぎ落ちている。
京太郎「………」
姫子「こいつはっ」
哩「まったく最後にこいか!」
『大盾の英雄』が姿を現し、カチンカチンと盾を揺らし音を立てる。
どうやら、ゾンビなどを置いておかなかった理由はこれらしい。
より大きな者を傍に置いておいたのだろう。
すぐさまスコップを取り出し構えた。
京太郎「時間がないのにっ!!」
仁美「なら先に行けばよか」
京太郎「へ?」
美子「倒すのは無理だろうけど……抑えるぐらいなら私達にもね?」
そう言って二人は武器を構え、大盾の英雄へと立ち向かう。
京太郎「皆で戦えば!」
仁美「時間なかね」
美子「うん、他の人もいっぱいいっぱいだろうし……ここで私達も頑張らないとね?」
二人は笑い、そう告げた。
どうやっても動く気もなく、残る気で居る。
二人を引き連れようとするも両肩を抑えられ足が踏み出せなかった。
両肩を見れば、哩と姫子がそれぞれ掴み、前へと押し出している。
姫子「先いかんと!」
哩「直ぐに戻いば問題なかよ!」
煌「押し返しますよ!!」
仁美「よろしく」
美子「うん!」
目の前に立つ大きな巨人を煌と智葉が駆け寄り、殴り切り付ける。
二人の攻撃は綺麗に盾へと当たり弾かれるも大盾の英雄を横へと追いやるのには成功する。
智葉「まったく、硬い盾だ!」
煌「いたたたたっ、一応大きな氷も砕く拳なのですが!」
大きく横にずれた隙に姫子と哩も走り通り過ぎた。
信じているからか、そこに憂いはない。
京太郎「あとでっ!!」
仁美「んー」
美子「うん」
色々と考えたが結局はそれしか言えなかった。
全てを振り切るように足を前へと進ませる。
仁美「銃効くかな?」
美子「ん~……頭狙えば問題ないと思う」
此方を敵と判断したのか大盾の英雄は、カチンカチンと盾を鳴らし近づいてきた。
それを二人は特に気負う事無く、日常を楽しむかのように話題を振り合い笑った。
美子「ねぇ?」
仁美「ん?」
美子「怖いね」
仁美「ん……怖か」
ゆっくりと大盾を振り上げる巨人にそんな感想を抱いた。
手が震える、足も震える。
それでも、それでも今は立ち向かわなければいけない。
二人はもう一度ニコっと笑い合い、前へと足を進めた。
『ッ―――――――!!』
京太郎「え?」
姫子「わっ!」
哩「くっ!」
智葉「―――」
走っていると突如、頭が痛み出す。
思わず、地面へと膝を付けば、頭の中を悪い想像ばかりが流れ心を砕いてきた。
船が燃える様子、みんなが食われる姿、皆が――皆が、
『私の出番ですね!』
京太郎「っ――はぁ、はぁ」
姫子「げほっ」
哩「今んは……!」
智葉「あぁ……強烈だな、これは」
心が砕かれる直前に現実に引き戻される。
痛む頭を押さえ、前を見れば煌が立っていた。
煌の前には『縫われた女性』が立ちふさがっており、声に聞こえない声を挙げていた。
それを煌が1人で受け止め、平然と見つめている。
煌「ここは私1人で問題ないです」
京太郎「………」
煌「ささ、前へとお進み下さい!すぐに追いつきますので!」
京太郎「判った!後で!」
煌「えぇ!」
一瞬だけ考えるもすぐに立ち上がり、前へと進む。
煌なら絶対に心を折られることもないとそう判断し京太郎は駆ける。
煌「さてと……無駄ですよ?私にはそれ効かないので」
縫われた女性『っ―――!!』
煌の脳裏に嫌な事がどんどんと溢れていく。
それでも煌は動じず、一つ一つを受け入れた上で前へと進む。
一歩、また一歩と確実に刻むかのように……。
智葉「ふっ!!」
『!!』
京太郎「智葉さん!」
智葉「はぁ……参ったな。久に京太郎を守るように言われていたのだが……」
突如、智葉が刀を振りかざし、虚空を切り裂いた。
いや、正確には相手の刃を弾き返した。
京太郎「こいつは……」
智葉「何と言うか……私にそっくりだな」
『………』
刀を持った影は智葉の形をしており、此方を目のない顔が見ている。
ゆらゆらと揺れているものの、その影は鋭く刀を差し込んでくる。
智葉「っ!!」
京太郎「まさか……人食刀岩とドッペルゲンカーか?」
上から左、左から下へと変化自在に刀を操るドッペルゲンガーに智葉も追い込まれていく。
手助けをしようも二人の剣戟は鋭く、既に他人が入れる間合いでもない。
智葉「あとは任した!……こいつは倒しておくさ」
姫子「任された!」
哩「よか、私らで終わしとく」
智葉「あぁ……私はこいつの相手で手一杯っ…そうだ!!!」
鋭い突きを刀の腹でいなし、大きく一歩踏み出すと相手の顔に刀の頭を当て、後退させる。
ドッペルゲンガーは顔を押さ、そこを迫撃するも手に持っていた刀が動き智葉を遮る。
智葉「あぁ……本当にやりにくい」
トンっと後ろへと一歩引き、走り去る京太郎達を見てそんな感想を抱く。
期待されているのだ、頑張らないといけないなと苦笑し、相手を見据える。
少しぐらいダメージを与えたかと思ったが、何事もないように立ち上がる相手に舌打をした。
智葉「もう一踏ん張り……だ」
『!!』
二人は剣戟を舞っていく。
『………』
京太郎「はぁ……こいつが元凶か」
姫子「怖か、がばい怖か」
哩「はぁ……寒かなんに空気が冷たか」
残り5Mの位置まで来て大きさにうろたえた。
遠めに見えていた分には判らなかったが……こうしてみるとだいぶ大きい。
『………おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
京太郎「くっ!」
姫子「……うるさっ!!」
哩「っ……」
ここまで来た怒りか、または餌が来たかと喜びか。
名無しは大きく口を開け、泣き叫ぶように叫びだす。
体ほどに大きな頭から見える口は大きく、これまた恐怖を呼び起こすような形相をしている。
京太郎「っ……やるか!」
姫子「んっ!!こいで終わり!」
哩「はぁ……ようやくか」
京太郎は、片手にスコップを持ち、もう片手に盾を構える。
姫子は、拳銃を取り出すと鍵と合わせ狙いを定める。
哩は鎖を幾つも取り出し、動きを止められるように鎖を垂らした。
最後の戦い、3人は打ち合わせも無く、同時に最初の一歩を踏み出した。
<千点棒のキーホルダーを使用>
京太郎「っ!」
パキンと音がしてキーホルダーが折れる。
折れた瞬間に、相手の戦闘時の次の行動が手を取るように理解できた。
姫子「京太郎?」
京太郎「大丈夫」
脳裏に浮かんでくる光景を見ていた時に頭を抱えていたせいだろう。
姫子が心配そうに此方を見ている。
京太郎「さてと……」
気合を入れなおし、相手を見れば、名無しは動かず。
ただただ此方を見ている。
動く気配も無ければ、此方を本当に認識しているのかさえ不明だ。
理解も出来なければ意思疎通も出来ない相手だ。
時間が惜しい今、行動をすべく、京太郎は一歩を踏み出す。
<姫子のstay!stop!shoot!>
姫子「当たれ!」
「―――」
ダンッ!!と大きな音をたて拳銃から弾丸が飛び出す。
飛び出した弾丸は、真っ直ぐ名無しへと向かい着弾する。
「―――」
姫子「うわー……」
京太郎「これは……」
着弾した瞬間に弾が体にめり込むも直ぐに体がぐにぐにと動き穴を塞いでいく。
その様は、まき戻しを見ているような光景で異様に気持ちが悪い。
それでも効果は発揮されたのだろう。
京太郎の攻撃などよりも大きく体を動かし、弾を体から取り出そうともがいている。
京太郎「くっ!」
勢い良く飛び込み、叩くもゴムを殴ったような感触に体を押し戻される。
衝撃がそのまま自分に返ってくる様に感じられ、スコップを落しそうになった。
「―――」
京太郎「今度はなんだよ!」
大きな声を上げる名無しに京太郎が怯み耳を塞ぐ。
哩も姫子も同じく音波の様な音を耳を塞ぎ耐え抜いた。
京太郎「超音波……か?哩、姫子、無事……」
姫子「―――」
哩「姫子?」
振り返り、二人が無事かを確認するも姫子の目が虚ろとなり返事もしなくなる。
先ほどの奴のせいかと哩が慌てて姫子に駆け寄り、肩を揺らし始める。
それでも反応しない姫子に焦りが募るも敵を前に全員が駆け寄ることは出来ず、京太郎は1人で敵を相手にする。
京太郎「しゃらっ!!」
「―――」
殴りかければ、名無しも触手のような物を使いスコップを逸らし攻撃を防ぐ。
そしてもう1本の触手で京太郎を貫かんばかりに突き出した。
京太郎「くっ!」
触手を横飛びで避け回避すると体勢を整え、もう一度スコップを振りかざした。
姫子「あい……?私……」
京太郎「姫子!良かった戻ったか!」
哩「よか!こっから…っ!」
「―――」
京太郎「またかよ!!」
姫子が戻り安心していると先ほどと同じような声が響き渡り、哩が先ほどの姫子のようになる。
それを姫子が慌てて肩を揺らすのも先ほど見たような光景だ。
京太郎「くそっ……すっげー厄介――な奴だな!!」
「―――」
迫り来る触手を1本1本、哩達に当たらないように捌き、叩き潰していく。
それでも数は減らず、ダメージも与えられない。
その事にイライラが募るものの、まだ数分ほどしか経って無いと自分に言い聞かせた。
京太郎&姫子「これで/こいで!!」
触手の隙間を抜け、京太郎が叩き込み、姫子が拳銃を畳み込む。
……ように見えたが、名無しが急に薄くなり、二人の攻撃がスカっと当たらずに通り抜けた。
京太郎「うわわわ!?」
姫子「え?」
これには二人も慌て、即座に背中合わせになり見えなくなった名無しを警戒する。
京太郎「うおっ!?」
姫子「京太郎!」
じりじりと辺りを窺いながら移動していると突如足元が爆発したかのように破裂する。
その事に驚き、後ろに飛ぶと京太郎が居た所が続けて破裂した。
哩「そこか!!」
京太郎「哩、良かった!」
見えない敵にどう対応しようとしていると鎖が京太郎の前へと巻きつき、名無しの姿を現せた。
哩が投げた鎖が名無しを縛り上げ、動きを封じる。
哩「リザベーションクリア!!」
京太郎「―――!」
姫子「―――!!」
バリンと音が鳴り、哩が巻いていた鎖が全てはじけ飛ぶ。
その瞬間、京太郎と姫子の脳裏が隅々までクリアになり、五感が鋭くなったのを感じた。
迫り来る触手が全て遅くなり、全て最小限の動きで避けて行く。
隙間と隙間を縫うように疾走し、駆け寄ると飛び上がりスコップを振り下ろす。
上から叩き潰す形になった為に、衝撃を押し殺せなかったのだろう。
名無しは痛み、苦しむようにもがき、暴れだす。
京太郎は、もう1個とばかりにナイフを腰から引き抜き、何度も何度も刺す。
姫子「京太郎!」
京太郎「おう!」
姫子の合図にナイフを引き抜き、飛び降りる。
無論、そのまま逃すわけも無く、怒ったように触手を何本も京太郎へと殺到させた。
京太郎「………」
姫子「バンっ!」
だが、それも京太郎を貫く数cmでビクビクと振るえ止まる。
何本も有った触手は姫子に打ち落とされ、地面に落ち消えていった。
哩「後は……任せた!!」
京太郎「!!」
これでお終いとばかりにありったけの鎖を放射し名無しを縛り上げる。
名無しも触手を伸ばし、防ごうとするも鎖の数の方が多く、あっという間に一部分を残し鎖に巻かれる。
そして、姫子が残された部分の『目』にありったけの弾丸を撃ち込んだ。
1発、2発、3発と断続的に発射される弾丸を名無しは何も出来ずにただただ、打ち込まれていく。
「―――!!!!!」
京太郎「これで終わりだ!!」
数多の弾丸を受け、ぐちゃぐちゃとなった赤い目に最後とばかりにスコップを力いっぱい振り下ろす。
「 」
無残にもそれを受けた名無しは、触手をあちら此方に動かすも次第に動きが悪くなり、最後には力尽きたように地面へと落ちた。
京太郎「終わったか?」
姫子「……終わった?」
哩「……動かんね」
3人は警戒しつつも近寄り、遺体を確認していく。
何度も突っついたり、動かすも特に動く気配もなかった。
京太郎「―――」
姫子「……はふ」
哩「はぁ~~~っ」
京太郎は声にならず泣き、姫子はペタンとその場で座り込む、哩は柱に背を預け大きくため息をついた。
既に力は使いきり、誰も動けず、誰も喋らない。
それでもやりきったと、倒せたと安堵感が3人に押し寄せてくる。
京太郎「よっしゃー!!!」
姫子「疲いた、がばい疲いた」
哩「お疲れ、二人共」
3人が3人それぞれ感想を言い合い、京太郎が座っている姫子へと近寄る。
京太郎「ほら、姫子」
姫子「うん」
哩「よかよか」
手を姫子に差し出すと、姫子は嬉しそうに手を重ね、立ち上がり……。
目の前で京太郎が貫かれた
姫子「へ?」
哩「―――」
それは一瞬の事であった。
白い物体が、京太郎を貫き、勢い良く地面へと叩き落す。
姫子の目の前が一瞬で赤くなり、手が染まった。
姫子「……あい?」
哩「姫子っ!」
呆然と立ち尽くす姫子を哩が引っ張り、抱きしめた。
その瞬間、姫子が居た所を何本物触手が駆け抜ける。
哩「あいつ!まだ動けっ」
姫子「……ぶちょー?京太郎が……」
哩「……姫子、戦闘開始やけん」
姫子「京……太郎が」
涙声で訴える姫子に哩は、唇を噛み答えない。
姫子が見る先には、京太郎が赤い海に沈み込みビクリともしていない。
哩が見る先には、『奴』が触手を蠢かせ、此方を狙っているのが見えた。
哩「姫子っ!」
姫子「っ!!!」
次の瞬間には、触手が哩達に殺到した。
それを防ぐように哩は鎖で姫子は拳銃で応戦を開始する。
なんとか防ぎきるも、次第に押され続け足を切り、手を軽く切られる。
手を足を顔を真っ赤にさせながらも二人はただただ、耐える。
哩「姫子……弾丸は?」
姫子「まだ、打ってなかです!!」
柱を盾にしつつも哩は、姫子へと問いかける。
それに対して、姫子は黄金に輝く一発の銃弾を見せ、拳銃へと装填した。
姫子「打ち込むにしても……こん中でどうやって!」
哩「………」
嵐の様な触手の攻撃に柱がガリガリと削られていく。
この中を出て相手に打ち込もうとすれば、打ち込む前に自分が穴だらけになる。
哩「――私が受けきっ」
姫子「……部長?」
じゃらりと黄金の鎖を取り出し、哩は諭すように姫子に言った。
姫子を見る目は優しい、ただただ優しい目であった。
哩「こん鎖ばアイツに巻きつけっ、姫子は何も考えず。鎖ば頼りに打てばよか」
姫子「だめ、駄目です!そいじゃ部長も!!」
哩「問題なかよ。生きて帰っけん」
ポンポンと姫子の頭を優しく撫で、哩が勢い良く飛び出す。
勢い良く飛び出すと、白い肌を真っ赤にさせた奴と目が合った。
哩「よくもっ!!」
一言叫び、怒りを表すかのように哩は思いっきり鎖を投げ放つ。
奴もまた、触手を哩へと向けた。
哩「っ……がはっ」
触手が、手を抉り、お腹を抉り、足を抉る、直ぐに体は真っ赤に染まり、片目が血で潰れた。
それでも残った目で、仇/名無しを見据え、鎖を操り巻きつける。
哩「姫子」
姫子「――っ、はい!!」
巻きつけたのを確認し小さく、優しく、自分の相棒/姫子を呼ぶ。
その声に姫子は、泣きながら答え、鎖を頼りに拳銃を放った。
放たれた弾丸は、鎖を辿り、1cmのズレもなくぴったりと吸い付いたように離れず辿っていく。
姫子「っ―――!!」
そして撃った瞬間に自分の真上を触手が通り過ぎたのが判った。
そこには、哩の顔があることも理解しており、惨状もまた理解した。
哩の収めていた飾りが千切れ、姫子の前に哩の髪の毛が舞う。
弾丸は鎖と触れ合い、火花を出すも勢いは薄れず、むしろ強くなっていく。
摩擦により黄金の弾丸は赤く染まり、熱を放つち迫る。それをなんとか打ち落とそうと奴もまた、動く。
だが、姫子は知っている、これは決して外れないと――。
姫子「ほんなこて……おしまい」
何の感情も載せてないような声を最後に名無しは、動きを止める。
弾丸が命中し、もがくも触手の先から塵と化す。
数秒の時間の内に名無しは本当に消え去った、経った数分で姫子は二人を失った。
姫子「―――――――っ」
全てが終わったことを今度こそ理解し姫子は一人泣いた。
「何時まで泣いてっ」
「しょうがないだろう」
姫子「ふへ?」
泣き続けていると上から声が聞こえてくる。
見知った男女/大事な人 の声が聴こえた。
姫子は、涙も鼻水も拭かずにそのまま上を向く。
京太郎「よぉ」
哩「ハンカチは……あぁ、真っ赤やね」
姫子「京太郎……部長……?」
姫子の目は、京太郎とボロボロになった哩の姿を確認した。
嘘ではないか、幻ではないかと姫子は何度も袖で顔を拭き、二人を見る。二人は消えない。
姫子「どうして……?」
京太郎「ネリーの加護かな……アイツこんな事してたんなら教えろって」
今なお、泣き続ける姫子に京太郎が説明する。
京太郎「お腹を貫かれた時にネリーの声が聴こえてさ」
『最初で最後の<加護>1度だけ、たった1度だけ運命を捻じ曲げる加護、それが[運命奏者/フェイタライザー]』
『まだ、立てるよね……京太郎』
京太郎「!!」
京太郎「起き上がった直後に哩を盾で庇って防いだんだよ」
哩「私ん怪我までオマケに治ってな」
京太郎「こうして無事でした」
姫子「き゛ょう゛た゛ろ゛う~~~!!!ぶちょ~~~~!!!」
泣き喚き、抱きついてくる姫子に京太郎と哩はお互いに笑い合い、優しく抱きしめ頭を撫でる。
京太郎「よく……やったよ。お前はよ」
哩「よーやった!」
姫子「無事で……よかった~~っ!」
姫子を褒めているうちに京太郎も哩も涙を流す。
3人がお互いに抱きしめ泣きあい、無事を祝う。
智葉「はぁ~……終わったか」
煌「些か遅かったですか」
仁美「全員無事でよか」
美子「……皆ボロボロだけどね」
入り口からよろよろと歩いてきた4人は泣いている京太郎達に呆れ、優しく見守った。
智葉「それで奴はいないな?」
京太郎「確認したけど何処にも」
仁美「私らが相手にしとった、奴も消えたし」
煌「問題ないと思われますね」
皆の事が気になるも、体力的にも精神的にもだいぶ参っていた。
全員が座り込み、情報を交換し合い、辺りを探る。
何処にも生物の気配はなく、本当に終わりを迎えたようだ。
姫子「うう~~~ぐすん」
哩「何時まで……もうよか」
美子「怖かったもんね」
哩に抱きつき泣き続ける姫子を美子が優しく撫でる。
智葉「それで……あれはどうする?」
京太郎「あれか……」
智葉の視線の先には黄金に輝く石版がある。
オカルトの源で皆にオカルトが宿った原因の物だ。
哩「あいば壊せば、オカルトは無くなっと」
姫子「ぐすん、壊さんなら、オカルトは消えなか」
京太郎「………」
一つの選択肢だ。
壊せば、オカルトは無くなり、島を脱出しないと生きていけない。
壊さなければ、当面は島で暮らしていけるだろう。
最終更新:2026年01月14日 21:59