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【11月第一週金曜】
 ひとまず、俺の旅館修業は今日までとなる。正確には、明日の朝、明後日の朝もだが、それはひとまず置いておこう。
 明日は学園祭、まずはクラスの出し物だ。そして明後日が麻雀部の出し物――旅館での修業を、しっかりアピールしたい。

 そういえば、今日は灼先輩にご指導いただいた。さすがレジェンドの愛弟子、実にわかりやすい。
 そのとき、少し込み入った話を聞かれたが、あの人はとても理知的な人だった。
 わかっていただけてなによりだと思う。

 その後、久しぶりの買いだしに行ってみたが、専門店への道が曖昧だったこともあり、やや時間がかかる。
 いや、言い訳はよくないな。今後の反省にしよう。

 しかしここはいい街だと思う、治安もいいし。
 ただ、そのせいか小中学生が、暗くなってからも出歩いているように思う。
 夜遊び、というわけでもないから、誰かに家で遊んでいて、夢中になってしまったというところだろう。
 近くの大人が、警戒してあげればいいな。あ、それで通報されたんだった。

 そんな小中学生も、実は同じ麻雀部の知り合いたちだったらしい。
 元はレジェンドの麻雀教室のメンバーだという、縦の繋がりが濃いようだ。
 上下関係が厳しいのではなく、非常に仲がいい。年上相手に敬語を使わないのは、そういう流れからか。
 あ、でももう一人は敬語だな……撤回、やはりあいつが特別なだけっぽい。

 …………

 明日は大丈夫、焼き菓子と紅茶はいつでもできるし、クラスメートにも基本は教えた。
 問題は――メイド服だ。しかもそれを、憧が着る。テンションが上がらないわけもない。

 「ま、ンなこと本人には言わねーけどな。また罵られるし」

 『メイド服にテンション上がって、失敗しないでよー、明日は』

 おう……なんだこの女、エスパーか。

 『私もクラスに行くからね! サービス、約束だよ! クラスのみんなには、内緒だよ、ウェヒヒ』
 『オッケー、あたしから言っとくわ。お客様は平等にって』
 『ひどいっ、友達でしょ!』
 『可哀想、友達ならサービスするべき。京ちゃんは私にもサービスするべき』
 『だよね! 誰かは知らないけど、言ってやってよ! ……京ちゃん?』
 『……え、あの子? いや、まさか……じゃあ、あの人? えっ、マジで! くるの!?』

 サラッとまぎれてるインハイチャンプ……え、っていうか照さん来るのか? 学校は?
 あぁ土日か、なら仕方ない。時間が合えば、案内しよう。

 『……私も行きたい、けど……お勤めがあるから、どうなるかわからない……行けたら、着いたら連絡するね』
 『うぅ、受験生には厳しい時期なのよねぇ……旅費もかかるし、行きたいのは山々なんだけど……』
 『卒業旅行の、積み立てをこっちに回せば……』
 『ナイス、アイディア!』
 『卒業旅行できなくなるよ! 目を覚まして!』
 『……そう、ですよね……これは小学校の友達に会うためですから、ええ……不自然ではありませんよね』

 なにやら色々な思惑があるみたいだが、無理はしないでください。
 そういえば、学園祭時期って違うんだな……でもなぜか、俺がいる学校はこの第一週土日になる気がする。

――――――――


~清澄

「……土日は貴重な練習時間が確保できます、でも……携帯アプリなんかを使えば、麻雀はできますし……た、旅先でも打てるはずですし……」
「ねえ、あれ止めないの?」
「……わしゃなんも聞いておらんわ。本人の判断に任せとるけえ」
「うふふ、奈良って遠いのかなぁ、楽しみだなぁ」
「……あれ、止めないと絶対迷うわよ。すごくやばいわよ」
「ほ、本人の判断に任せとるけえ(震え声」

~白糸台

「私は行かないぞ。週末はなるべく、勉強の時間を確保したいからな」
「別に頼んでない。一人で行くから安心して」
「……行けるならな。土産を楽しみにしておこう」
「岩手まで行った私を、甘く見ないでほしい」
「あ、ならさー、私がついてってあげるー! キョータローと会うんでしょ?」
「だめだめ、淡は練習だよ。週末は先輩方も来られないし、私たちは絶対出席だからね」
「えーっっ! そんなのってないよ、あんまりだよー!」
「……先輩についていったほうが、移動でいい練習になるかも……」
「!! それだよタカミー!」ガタッ
「尭深、話をややこしくしないで……」

~宮守

『え……無理なの?』
『やっぱりさぁ、旅費もないし……うん、私たちは勉強するから』
『そう……わかった。あぁ、そうだ――』
『なに?』
『この前、京太郎から電話あったよ』
『っっ! へ、へー、そうなの……なにか言ってた?』
『ううん、私のことばっかり話したかな……でも……』
『みんなが会いたがってるって言っておいたから。そのうち、電話くるかも』
『――っっ!』
『一つだけ言っとく……声聞いたら、絶対会いたくなるから』
『な、ならないわよ、そんな誘惑には乗らないからね!』
『なおこの話は、三人に伝えないと不幸に――』
『言いません! もう切るわよ!』
『いいよ、あとで三人に、私からかけておくから』
『や・め・な・さ・い!』

~永水

「――計画を立てましょう」
「もう散々立てましたし練りましたよー……どうすんですか、絶対無理じゃないですかー」
「さすがに三人が抜ける時間は、捻出できませんよ……せいぜい一人です」
「それも日曜日だけ、でしょうね……土曜にしっかり頑張って、ですけど」
「……仕方ない、私が行く……」
「じゃんけんしましょうか」
「それしかないですねー」
「……じゃあ、私と姫様が勝ったら、誰も抜けないということで。残ったメンバーの負担を考えると、本当はあり得ないんですから」
「!?」
「!?」
「!?」
「わ、私もですか? 私も行ってみたいんですけど……」
「修学旅行ならまだしも、私的な旅にお付もなしで行かせられません。名目だけなら、新子への挨拶というものが用意でき――ぁ」
「それにしましょう」
「見落としていましたね、それがありましたー」
「…………お勤めなら、仕方ない……」
「だめです! だめですからね! 許可しませんからね!」


~阿知賀A

「えー……チャンピオンくるのかー、だったら麻雀喫茶にしてもらえばよかったぁ……」
「えっ!? これチャンピオンなの!?」
「たぶんねー。うーん、けど学祭終わってから、付き合ってもらえば――あー、だめだ。月曜、代休はうちだけよね」
「じゃ、じゃあ! 私らがあっちに――」
「無理。お金もないし、ただでさえ練習時間減ってるのに、移動考えたら非効率的」
「……ならさー、出し物終わってから、麻雀部で相手してもらえば? 午後は空いてるでしょ?」
お姉ちゃん!? だからさぁ、ノックしてよー!」
「なーに言ってんの、あんたが私の部屋来るときなんて、ノックもしないで甘えた声だしてるじゃない」
「憧はお姉ちゃん大好きだよねー、玄さんと一緒で!」
「玄ほどじゃないわよ!」
「あぁ、ちょっとは好きなんだ、嬉しいなー」ニヤニヤ
「~~~~~~~~っっ! もう知らないっ、シズもはやく帰りなさいよ!」
「えー、泊めてよー」
「そうだよー、泊めたげなよー」
「お姉ちゃんの部屋に泊めればいいでしょ」イライラ
「おー、いいね。じゃあそうする、穏乃ちゃん?」
「はい、お願いします!」
「そんときさー、あれ……京太郎少年と憧が、学校でどんなか教えてよー」
「いいですよ!」
「よくなあああああああああああぁぁぁぁいっっっ! あぁっ、もうわかったわよ、あたしの部屋に泊まればいいでしょ!」
「やったー、憧大好きー!」ギュゥッ
「ちょろいぜ、我が妹ながら」
「」イラッ

~阿知賀B

「……そっかー、そんなことが……京太郎くん、優しいね」
「うん、と~っても、あったかいんだぁ……えへへ」
「いいよねぇ……あんな人が、うちでずっと働いてくれたら……」
「ご飯作って、いつも一緒にいてくれたら……」
「楽しいだろうなぁ、毎日……」
「あったかいだろうなぁ、毎日……」
「ねぇお姉ちゃん」
「なぁに、玄ちゃん?」
「が、頑張ろうね! 私でも……私は、お姉ちゃんでもいいから、絶対!」
「……うん、だけど……急がないで、ゆっくり……ね?」
「ちゃんと気持ちを確かめれば……お姉ちゃんでもいい、なんて思わなくなるから」
「そのくらい大事に思ってから、ね?」
「う、うん……うん! わかったよ、おまかせあれ!」
「うふふ、本当に大丈夫かなぁ?」ナデナデ
「大丈夫だよ~、お姉ちゃ~ん」スリスリ

~金曜昼、部室、灼遭遇

京太郎「失礼しまーす……って、誰もいるわけ――」

灼「あれ、京太郎? どうしたの」

京太郎「えっ、灼さん? いえ、俺は調理室の食材が減ってたので、買いだしのチェックを……」

灼「それでなぜ部室に……」

京太郎「ついでだから、部室の分も買いだしできればと思って、在庫を確認に……」

灼「……働きすぎ。お昼は休むように……今度から憧に言っとくから、ちゃんと見張っといてって」

京太郎「確認だけですよ。それで、灼さんは?」

灼「部長だからね、色々な書類を作らないと……」

京太郎「教室はアレですし、資料とかもいりそうですからね」

灼「そゆこと……ふぅ、ちょっと休憩」

京太郎「どうぞ、お茶です。緑茶でよかったですか?」

灼「ん、ありがた……」

灼「おいし……そういえば、なんで緑茶? こっちのが好きだけど……言ってたっけ」

京太郎「………………ほ、ほら、あれですよ。先輩、和風のイメージがありますから」

灼「……あっそ。座敷童? それともこけし?」

京太郎「すんませんでしたぁぁぁぁっ!」

京太郎「けどそれだけじゃないです! 黒髪が綺麗だったからです、嘘じゃないです!」

灼「……ま、いいけど」

灼「髪……褒めてくれたし、許してあげよう」

京太郎「恐縮です!」

灼「だからいいって……それより、なにかないの? 甘い物とか」

京太郎「どうぞこちらに! 先日の買いだしで調達した金平糖が!」

灼「ご苦労……うん、甘い」


日誌おまけ

~阿知賀C

「うぅぅぅぅぅっ……あ、あんなこと言っちゃうなんてぇ……」
「変な格好なんて言って、絶対失礼な子って思われたよぉ……それに、かっ……かかかか、かっこ、いいって……ふきゅぅぅぅぅぅっっ!」ボシュッ
「もういやぁぁぁ……」ジタバタ

カガヤイテーココイチバーン デンワヤデー
「あっ……もしもし、よし子? うん私、元気だよー」
『夏以来だもんねー。そだ、明日の学祭、友達誘って行く予定なんだけど、大丈夫?』
「えっと、男の子はチケットいるけど……」
『あははっ、あたしにそんなのいるわけないでしょ? じゃ、行くからねー、お昼くらいに』
「うん。私も午後は空いてるから、案内するねー」
『よろしくー。あ、そういえば……さっきの友達誘うっての、男子って発想するの、綾にしては珍しいよね?』
「そ、そうかな?」ドキッ
『……声も上擦ったし、あやしい……なに、彼氏できたの?』
「でで、できてないよ! うち女子校だし!」
『んー、まぁそりゃそっか。綾だもんね、男と並んでる姿って想像できないなー』アハハッ
「むっ……」
「そ、そんなことないよ? 彼氏……では、ないけど……そう! こ、高校生! 男子高校生と、仲良くしてるもん!」
『えー、綾がー? うっそくさいなー』
「ほ、ほんとだよ! 今度、えっと……が、学園祭では無理かもだけど、その……機会があったら、紹介するから!」
『へー、本当なんだ。わかった、楽しみにしてるね。ってことで、とりあえず明日は案内よろしくー! んじゃまた!』
「うん、また明日ね」

「――やっちゃった……」
「ああぁぁぁぁあっっ! どうしよ、どうしよぉ……」
「……うぅ、どうやって誤魔化そう……明日とか、色々聞かれちゃうかもしれないし……」
「っっ……い、や、でも……」
「……それしか、ないよね……うー、だけど……」
「……憧ちゃんかシズちゃん、連絡先知ってるかなぁ……知ってても、勝手に教えたりできないよね……」
「どこかでバッタリ、会ったりしないかなぁ……」ハァ

~11月第一週土曜

京太郎「……さて、とにもかくにも朝の仕込み行かないとな」


A「おう、京坊。今日は学園祭だろ、早めに上がっていいからな」

B「今日の夜も無理だろ、まぁ楽しんで来い。その代わり、明日の朝だけはしっかり頼むぜ」

京太郎「日曜ですもんね、了解です。けどすいません、土曜の夜に」

板長「学生が気にするなってことよ。よし、さっさと始めんぞ!」

京太郎「ふぅ、こんなとこですかね……じゃあ賄いを――」

A「もうできてるぞ」

京太郎「えっ」

板長「京太郎が配膳に回ってる間に、俺らで作っといたぜ。ま、今日くらいはな」

B「板長自らやってくれたんだ、しっかり味覚えていけよ!」

京太郎「うっす! ありがとうございます!」


京太郎「――でだ。学祭当日ってことで、玄先輩、宥先輩もさっき出たらしい」

京太郎「すぐに出れば追いつくか? とりあえず俺も行かねーとな」


晴絵「おっ? おーい、須賀くん。必死に走ってんねー、乗ってくかい?」

京太郎「ん? なんだレジェンドか」

晴絵「……憧から変な影響受けないでよね、ほんと」

京太郎「冗談ですって、おはようございます、赤土先生。っていうか、車通勤だったんですか」

晴絵「まーねぇ、教師ともなると、持ち帰らなきゃいけないもんも多くて、徒歩は疲れるのよ……阿知賀女子なんて、山の上だしさぁ」ハァ

京太郎「年ですね」

晴絵「……あんたそれ、小鍛治プロや瑞原プロの前でも同じこと言えんの?」

京太郎「言えるわけないでしょ! まぁ、なんていうか……あの二人は可愛いですからね」

晴絵「えーっ、じゃあ私はー?」キャッ

京太郎「……キツッ」

晴絵「あんたね、私が教師だってこと忘れてない? 成績すっごいことにするわよ」

京太郎「冗談っす。まぁあれです、赤土先生は可愛いっていうか、美人系ですよね」

晴絵「おっ、わかってんじゃん。よしよし、その姿勢に免じて、乗せてってあげよう」ガチャッ

京太郎「いやー、ありがとうございます」ガチャガチャ ドン ドサドサ

晴絵「……いや、待って。なにその荷物」

京太郎「お菓子作りしますからね、やっぱ慣れた道具が一番ですよ」

晴絵「そっちじゃなくて。あんたのことだから、学校に置いてるとばっかり」

京太郎「……さすがに置き場に困りまして。先生から、持って帰れとご指導いただきました」

晴絵「なら仕方ない」


~クラス

「きゃー! やっぱ憧のメイドかわいー!」

憧「はいはい、そりゃどうも」クルッ ヒラヒラ

京太郎「………………」

憧「っ!? ちょっ、京太郎、あんた! いつの間にいたのっ、っていうか見てたの!?」

京太郎「……あ、あー、うん……なんつーか、うん、見惚れてた、悪い」

憧「!?!? い、いいからっ、そういうのいいからっ、ほんとに!」

「これはアレですかね、夫婦認定しても……?」
「許可しよう。だがいかんな、そうなるとメイド服を須賀くんに着せるのはしのびねぇな……」

モブ子「かまわんよ」

京太郎「俺が構うわ! いや、ほんとやめてくれって……それにお菓子焼くなら、執事服のがいいんだよ、動きやすくて」

憧「あれ? そういやあんた、今日ってお菓子焼くだけなの? 接客は?」

京太郎「あのなぁ、メイド喫茶で執事が接客してたら、客からブーイングだろうが」

憧「ほかのクラスの女子が、あんた目当てで来る可能性――あー、ごめん、ないわね」

京太郎「うぐっ……はっきり言うな、これでも傷つきやすいお年頃なんだぞ」

「――って言ってるけど、実際は?」
「お前のクラスの執事を見せろって、すげー言われたし」
「憧もかなり言われてたのにね」

モブ子「ぐへへへ、こいつぁ客寄せパンダになりますねぇ(ゲス顔」

憧「……まぁ確かに? そういう声もあるから、接客も適度に任せたいとこなんだけど――」

京太郎「いや、だけど力仕事とかもあるだろ? 俺はそっちのがいいと思うけどなぁ」

憧「判断は任せるわ。京太郎の好きにしてくれたらいいから」

京太郎「悪い、後半だけ聞き取れなかった」

憧「へ? だから、京太郎の好きに――って、なに言わせんのよ、ヘンタイ!」ベシッ

京太郎「お前が最初に言ったんだよ!」

京太郎(ちっ、惜しい……)


京太郎「――さて、どうするかな。俺はどっちでもいいんだけど」


京太郎「んー、それなら給仕もさせてもらうわ。追加のお菓子が必要になったら、焼きに戻るってことで」

京太郎「あ、けど力仕事もあれば、遠慮なく言って――」

憧「はいはい、それはこっちで手分けするから。前も言ったでしょ、なんでもかんでもやりすぎるなって」

京太郎「……言われたか?」

憧(……あっ、あれって家でシズたちに――)カァァッ

憧「い、いっ、言ったわよ! いいからとにかく、お菓子焼いてきて! ある程度焼いたらあっちのケースで、保存しとくから!」

京太郎「いてぇ! ったくなんなんだ、いきなり……あ、何人か補助してくれるか? 焼けた分から運んでくれればいいから」

「へーい、じゃあ私行くねー」「わたしもー」

モブ子「憧は行かなくていいの?」

憧「い、いいわよ、あたしは。こっちの開店準備もあるしー?」

モブ子(だいたい終わってるようにしか見えない……ま、言わないでおいてやろう、武士の情けだ)


京太郎「さて、と……んじゃ早速焼いていくか。お昼は客減るだろうし、朝にそれなりに焼いて、お茶の時間くらいにもう一回チェックでいいかな」


~午前10時30分

京太郎「……よし、これでラスト! 前の五回分、持って行ってくれたかー?」

「……お、おう、バッチリよ」
「ってかさー……これ、売り切れんの?」
「まぁ……憧と須賀くんの二枚看板だし、いけるでしょ、たぶん、おそらく……メイビー……」

京太郎「ん……? おわっ、もうこんな時間か! 外部客、もう入ってるよな?」

「うん、私たちも着替えて行くから、先行っててー」
「なんで執事服汚れてないの? エプロンしてたって言ってもさぁ……」

京太郎「慣れだよ、慣れ。それじゃ先行ってるわ」


「おかえりなさいませ、ご主人様」
「本日の紅茶はこちら、他にもポットでのご提供にこちらの茶葉を――」
「焼き菓子、こちらが大変おすすめでして――」

京太郎「ほうほう、なかなかの盛況……そして、なによりも――」

ヒラヒラ フワッ キャッキャ

京太郎「いい……なにがいいってこのメイド服、膝丈やミニなどではない、踝丈なのだ……」

京太郎「さらにはヘッドドレス、袖のカフスまで凝っている……誰の仕事かしらんが、実にすばらしい」

モブ子「まぁな。一応、龍門渕のを参考にしてる、アレンジはしたが」

京太郎「ああ、道理で見覚えが――お前が作ったの!? すげぇな、ガチで……」

モブ子「ふふ、恐れ戦いたかい? ま、どうしてもって言うならあんたの分も――」

京太郎「それはいらん」

モブ子「ひどぉっ! ちょっとー、憧からもダンナに言ってやってよー」

憧「そんなヤドロク知らないわよ。それより、あっちのテーブル! 制服はだいたい内部客だから、あんた目当てが多いのよ、よろしく!」

京太郎「かしこまりました」

憧「……なんかもう、豹変するって感じね」


京太郎「お帰りなさいませ、お嬢さま。お疲れでございましょう、すぐに紅茶をお持ちいたします」

京太郎「茶葉はこちら、焼き菓子はこちら――組み合わせですと、こちらとこちらなど、大変相性がよく……」

「じゃ、じゃあ、これ……」
「わ、わたしこっちで……」

京太郎「かしこまりました。それでは、ゆっくりとお寛ぎくださいませ」ニコッ

憧「………………」

京太郎「ん? 憧、どうしたー?」

憧「んーん、べっつにー。さて、仕事仕事っと!」

京太郎「……変な奴だな。さて、俺もほかのテーブルを――」

京太郎「お帰りなさいませ、おじょ――ぉ……」

シロ「……ただいま、京太郎」

京太郎「シロ先輩!? えっ、なんで、ちょっ……こ、ここ奈良ですよ!」

シロ「知ってるよ。だから来たの……はぁ、ダル……」

京太郎「申し訳ございません、どうぞこちらへ。すぐにお茶をお持ちしますので」ニコッ

シロ「ん、ありがと……久しぶりだね、それ」

京太郎「俺も懐かしいですよ……では、少々お待ちくださいませ。ごゆっくりお寛ぎを」

シロ「あれ、メニューは?」

京太郎「シュークリームとアッサム、ミルクと砂糖は二杯目――で、お間違いありませんよね?」

シロ「――さすが」

京太郎「変わってなくてよかったです。すぐにご用意しますね」


憧「……ちょっと、あれ誰よ。すっごい美人、どことなくあんたに雰囲気似てるけど、お姉さん?」

京太郎「宮守の先輩だよ」

憧「みやっ!? い、岩手からわざわざ来たってこと……?」

京太郎「らしいな、まぁ……進路も決まったし、勉強しなくていいから、ヒマなのかも」

憧「にしたって、お金とかあるでしょうに……ふーん、けど推薦ってことは、頭いいんだぁ」

京太郎「ちげーよ、あの人はプロ入り。東京五位指名の、小瀬川白望さん」

憧「あっっ! そうだ、日誌に書いてた、あれが……強いの?」

京太郎「団体の先鋒で、小蒔先輩より稼いだ」

憧「!? 神代小蒔よりって……うわぁ、そりゃ東京も欲しがるわけだ」

「こらー、そこの夫婦サボってんなー!」

憧「夫婦じゃないから! けど、忙しいのは事実かぁ……ね、残ってくださるようなら、あとで話させてよ」

京太郎「了解、言っとくわ。じゃ、またあとでな」


京太郎「お待たせしました、お嬢さま。お茶のご用意が整いました、こちらお注ぎいたしま――」

シロ「………………」ムスー

京太郎「えっと……どうかしました?」

シロ「いまの子、誰? 仲良さそうだけど」


京太郎「ああ、クラスメートです。名前は新子憧」

シロ「一年か……仲良いよね? 付き合ってる?」

京太郎「ははは、それはないですね。っていうか、俺がそんなにモテないのくらい、知ってるでしょ?」

シロ「……そうだね。京太郎がどれくらいモテるかっていうのは、把握してる」

京太郎「ですよね」

シロ(……わかってないのは、本人だけなんだよなぁ……まぁ、だからこそ誰も落とせてないんだけど)ヨカッタヨカッタ


京太郎「それじゃ、俺もまだ仕事あるんで……すみません、案内とかできなくて」

シロ「いいよ、明日もあるし……そのとき時間が合えば、案内してよ」

京太郎「今日はもう帰られます?」

シロ「ここでちょっと休んでく……どこか、休めるとこあったら教えて」

京太郎「はは、相変わらずですね……じゃあ出るとき言ってください、座り込んでても怒られなさそうな展示、教えますから」

シロ「ありがと」モグモグ

京太郎「――それと、よかったらあとで、さっきの……憧と話してやってもらえませんか? プロ入りの話、聞きたいみたいで」

シロ「いいよ……まぁ、違う話だと思うけど」

京太郎「? まぁいいや、それじゃ、失礼します」

~午後2時

京太郎「……おかしい、客足が途絶えない……なぜだ……」

憧「休憩、30分しか取れてないんだけど……」

モブ子「誰だぁ! このシフト表を組んだヤツは!」

憧「あんたでしょ……っていうか、これ。よく見たら、京太郎が休憩入ってないんだけど」

京太郎「まぁ、それは慣れてるからいいんだけどさ……」

憧「いいの!?」

京太郎「焼き菓子の在庫、ギリギリだな……どうする、追加するか?」

憧「いやー、どうだろ……でも、このあとまだ増えそうだし……外部締切が、17時だから……」

憧「いいや! 追加で! でも朝ほどもいらないから、一回分で十分! 余ったらシズにくれてやるわよ!」

京太郎「オッケー、任せろ! すぐ持ってくるから、そっちも頑張れ!」

憧「了解!」

「いやー、さすが夫婦、いいコンビですなー」
「ああいう関係っていいよねー、信頼あってー、適度に甘くってー」

憧「甘くないから! あんたたちも、いつまで休んでんのよ!」


京太郎「さて、それじゃ……」

京太郎「よし、完成だ……さっさと持って帰らないと」


京太郎「待たせたな、在庫大丈夫か……って、大丈夫か?」

憧「んー、まぁねー」グテー

京太郎「……すまん、待たせたな。しばらく俺が入るから、休んでろ」

憧「ごめん、十分だけお願い……」

京太郎「大丈夫だって。時間も時間だし、休んでる客が多いから、そうそう新規の客もこないだろ」

京太郎「これくらいなら俺一人で回せるから、集中して休んでてくれよ」

憧「……男の子って、やっぱ体力あるわよね……いや、あんたが異常なだけか、あははっ」

京太郎「異常とかひどい……」


京太郎「うぐ、席が空いちまった……あ、どうぞ次のお客さま、お入りください」

京太郎「お帰りなさいませ、お嬢さま……あれ、あなたは確か――」

初瀬「えっと、ここって新子憧のクラスで――!? あ、あなた、前の……」

京太郎「自転車の鍵の方!」
初瀬「須賀京太郎くん!」

京太郎「え――」
初瀬「え――」

「んー? なんだなんだ?」
「執事が客と騒いでるぞ?」

京太郎「……っと、失礼いたしました、どうぞお席へ」

初瀬「は、はい、すいませんっ……」カァァッ

京太郎「いえ……ようこそお帰りくださいました、お嬢さま。こちらメニューでございます」

初瀬「あ、じゃあ……こ、このセットを」

京太郎「はい、かしこまりました。それでは、少々お待ちくださいませ」


初瀬「……びっくりしたぁ。まさか須賀くんに会うなんて、しかも……憧と同じクラス? だなんて……」

憧「こっちこそ驚いたわよ。初瀬が京太郎と知り合いなんてね……なに、ナンパでもされた?」

初瀬「憧! うわ、かっわい! メイド服似合うじゃない!」

憧「でっしょー、いぇい♪」ポーズッ

憧「んでー? ほんとにナンパ?」

京太郎「失礼なこと言うな、お前は……お待たせしました、お嬢さま。こちら、フィナンシェのセットでございます」

初瀬「――!! あ、ありがとう、ございます……」ポー

京太郎「いえ、とんでもございません。先日は大事がなくて、なによりでした」

初瀬「その節は、お恥ずかしいところを……でも、おかげで助かりました……」

憧「………………」ムッスー

憧「……で、なにがあったかは話せないわけ?」

京太郎「まぁ……ちょっと俺が困ってるのを、助けてもらったっていうか」

憧「ダウト、助かったの初瀬だって言ってるじゃない。初瀬~、なにしてもらったわけぇ?」ニヤニヤ

初瀬「自転車の鍵、なくして困ってたのよ。それを見つけてもらっただけ……」

初瀬「あっ、だ、だけなんて、失礼ですよね。ほんとに助かりました、えと、それで――」

京太郎「はい?」

初瀬「も、申し遅れました! 私、憧の中学時代の友達で、いまは晩成に通ってます! 岡橋初瀬です!」

京太郎「岡橋さん、ですか」

初瀬「初瀬でかまいません、それに敬語もいいですからっ……えっと、いつも日誌見てます!」

京太郎「ありがとうござい――いや、ありがとう、だな。そういえば、俺も名乗ってなかったっけ……んじゃあらためまして」

京太郎「須賀京太郎、派遣執事をやっています。よろしくな、初瀬。そっちも敬語なし、名前でいいから」

初瀬「う、うん、よろしく、京太郎くん」

憧「…………ふーん」ジー

初瀬「うっ……な、なによぉっ」

憧「べっつにー? 乙女だなーって思っただけー」

初瀬「ああぁ~~~こぉぉぉ~~~~?」

憧「うーわ、ヤブヘビだった。ごめ、休憩戻るね、もうちょいだけ」テッシュウ

初瀬「もう!」

京太郎「仲良いんだな、二人とも」

初瀬「あはは、高校は別れちゃいましたけどね……えっと、その、京太郎くん?」

京太郎「おう、どうした?」

初瀬「せ、せっかくだし、さぁ……け、携帯の番号、こ……交換、しない? かな?」

京太郎「……お客様、当店の店員は、そういったサービスを提供しておりませんので」

初瀬「あっ……ご、ごめんなさい、そうだよねっ……」

京太郎「――もう少しで休憩だから、そのときでいいか? フロアでそういうことすると、クラスの女子とかお客さんに怒られちまうし」

初瀬「――う、うん! ありがとう!」

憧「…………おつかれ、お話は盛り上がった?」

京太郎「なーんか棘ないか?」

憧「そう? いつも通りだけど」

京太郎「まぁいいや。ちょっと休憩入って、その間に連絡先交換だけしとくからさ」

京太郎「悪いけど、ちょっとだけ代わりに入ってくれるか?」

憧「なによそれ……まぁいっか、そこそこ休めたし」

京太郎「……あ、やっぱいいわ。無理すんな、ちょっと足にきてるぞ」

憧「っ! 平気よ、これくらい。どうせあと一時間ほどで締めるんだし」

京太郎「……とは言ってたけど、心配だな……」

初瀬「どうかしたんですか?」ニコニコ

京太郎「いや、あいつ……ちょいフラフラしてるの、わからないか?」

初瀬「いえ、普通に見えますけど……もしかして、二人付き合ってます?」

京太郎「ないって。んー、まぁ友達がそういうなら、大丈夫なんだろうけど――あ?」


「だからさー、ちょっとくらいいいじゃん。もう閉店近いんだろ? 案内してくれよー」
「いえ、その、困ります……そういうのは……」

憧「あーあ、最後の最後に……あのー、お客さま。あたしたちも、学校の行事でやってまして、そういうのは他を当たってもらえますと――」

「おっ、こっちも可愛いじゃん! なに嫉妬?」
「ひゅー、さすがレベルたっけー! じゃさ、こっちのコと君と俺ら、四人でさ――」

憧「……ですから、そういうのは受け付けてないんですよ。失礼しますねー。ほら、行こっ」
「う、うん……」

「そうつれなくしないでさー、いいでしょ? そのカッコだって、チヤホヤされたくてしてるんでしょ?」
「するよー? 俺らちょーするよー、チヤホヤさー」ギュッ

憧「」ゾワッッ
憧「ちょっと、触んないでよ汚らわしい!」パンッ

「いって……なにその態度、俺ら客だよ?」
「あーあー、こりゃ大変だ。赤くなって、骨でも折れてんじゃね? 病院まで付き合ってよ、保健室でもいいけど」ゲラゲラ

憧(っちゃー……しまった、やっちゃった……)

憧(いつもだったらうまいことやるんだけど、ちょっと疲れてるしなぁ……最悪ッ……)

憧「……大変申し訳ございません、お客さまお詫びに飲食代はサービスさせていただきますので――」

「そんなんで誠意のつもり?」
「ちゃんと態度で示してよー、金銭じゃなくてさー」

憧「……ですからっ、こうして頭を下げて――」

憧(なんなのよ……こっちは疲れてんのに、あのバカは初瀬と遊んでるとこ働いてんのよっ)

憧(……あー、もうっ、そうじゃない! あいつはあたしの三倍働いてるんだし、そこじゃなくて……)

憧(ほんっとめんどくさい、これだから男って――)

「なー、ちょっと付き合ってくれればいいんだってさー」
「そうそう、これから夜まで――あ、なんだったら朝まででも」

憧「っ……いい加減に、しなさいよっ……」

「……あ? なんだって?」
「よく聞こえなかったけど、文句言った? 人叩いといて?」

憧「だから――」


京太郎「…………」

京太郎「――申し訳ございません、お客様」

憧「――え」

「あ? んだよ、てめー……ほんとになんだ!?」
「執事!? いや、っていうかここ、女子校じゃねぇの?」

京太郎「はは、そこは色々と事情がございまして……まぁそれはともかく」

京太郎「当店のメイドが、なにか粗相を致しましたでしょうか」

「お、おう、そうだよ。いきなり人の手ぇ叩きやがってさぁ」
「これだよ、赤くなって、骨までイッちまったんじゃねーかと――」

憧「あ、あたしは――っ……いいから、京太郎、ここは――」

京太郎「お前は黙ってろ……左様でございますか。少々拝見……ふんっっ!」メキメキッ

「っっ!? いででででででぇぇえっっっ!? なな、なにすんだてめぇっ!」

京太郎「ああ、申し訳ございません。なにぶん、無作法なもので……おっと、手の腫れが随分ひどいようですね」

「てめぇがやったんだろうがぁぁぁぁ! おい、これ折れてんぞ、ヘタしたらマジで折れてんぞぉぉぉっ!?」

京太郎「――では、責任を取って保健室へご案内いたします。それと、病院の手配のほうも」

「あ――」
「い、いや、元はと言えばそっちの女が――」

京太郎「まさか。女性のか弱い手で、こんな事態にはならないでしょう。私を庇って下さらずとも結構です、痛み入ります」

「いやっ、ちげーから! おい、やめろっ、は、放せっ……すげえ腕力だぞコイツ!」
「おおおお、俺は関係ねーから! いやっ、大丈夫だって!」

京太郎「いえいえ、お怪我をされたのですから、保健室での治療すべきです。万事、私にお任せくださいませ」

京太郎「ほかのお客様方も、大変お騒がせいたしました。ただいまのオーダー分は、こちらの負担させていただきますので」

京太郎「居心地悪くお思いでなければ、どうぞこのあとも、ごゆっくりおくつろぎくださいませ、それでは――」

「いやあぁぁぁぁあっっっ! やだっ、やめぇぇぇえっっっ!」
「だから俺は関係ねぇぇえっっ……お、お前のせいだぞ!」
「そもそもここの学祭は、お前がっ」
「いやお前がっ」


憧「………………」ポカーン

「あ、憧! 大丈夫っ、ごめんね! 私のせいでっ……」
「ほら、奥で休んでなよ、交代するから!」

憧「あ、うん……ううん、大丈夫――」

「いいから! あ、そっちのあなた、憧の友達でしょ? 悪いけど、バックヤード付き合ってあげて!」

初瀬「わ、わたし!? えっと、いいなら……うん、それじゃ……憧、歩ける?」

憧「うん……大丈夫……大丈夫よ、あははっ、平気へいき」

憧「ちょっと前ならいざ知らずね、男くらいでそんなに――」

初瀬「――京太郎くん、かっこよかったね」

憧「――ッッ!」ドキッ

初瀬「……って、思ってるでしょ。顔に書いてある」

初瀬「客のことも、疲れのことも忘れて、危ないとこを助けられたことだけ、全意識集中してるでしょ」

初瀬「変わってないわよねー、あんた。麻雀のときも、本当にギリギリだと一つのことしか考えないんだもん」

憧「……べ、別に、そんなこと……」

初瀬「あ、そう? まぁそれならそれで、いいんだけど……」

初瀬「――あとでちゃーんと、お礼は言っときなさいよ?」ボソッ

憧「!? わわ、わかってるわよ、そのくらい!」カァッ

初瀬「ふふー、かわいいなぁ、憧は。やっぱ晩成に来てほしかったよ、目の保養になるしさー」

憧「ちょっ、人を観賞用にしないでよね!」


~その頃の保健室

京太郎「骨には異常ございませんね。では、軟膏を塗って、包帯で固定だけしておきますので」

「お、おう……あれ、普通の治療?」

京太郎「あくまで応急処置ですので……すぐに病院の方へ向かえますよう、タクシーの手配はしております」

「……いや、大丈夫だろ。別に折れてないし」

京太郎「いえいえ、念には念をと申しまして。ご安心ください、腕は確かですし、治療費は私が負担しますので……」

京太郎「いい病院ですよ、ハッテン病院といいまして……」

京太郎「ふぅ……なんとか担任と、学年主任に怒られただけで済んだ……」

京太郎「これで麻雀部にまで迷惑かかったらまずかったけど……うむ、結果オーライ!」

憧「なにがオーライよ、このバカ!」ビシッ

京太郎「おうっ! おお、憧か……もう大丈夫か?」

憧「……なにがよ」

京太郎「いや……まぁ、平気ならそれで――」

憧「平気なわけないでしょ。どんだけ心配したと思ってんの、あんたのこと」

京太郎「――へ?」

憧「ニコニコしてるくせに、変な迫力あってさぁ……あの二人、ボッコボコにするのかと思っちゃたわよ」

京太郎「ま、関節鳴らしただけだからなぁ。強めに握ったから、圧迫で赤くはなったけど。そのあと病院も紹介したし、大丈夫だろ」

憧「……あ、あのさ……」

京太郎「ん?」

憧「あ、あ……ありっ……」

憧「あり――」

憧「……すぅ、はぁ……」

京太郎「?」

憧「……ありがとう、京太郎。すごく嬉しかった」

京太郎「!?」

憧「その、見えないかもしんないけど、あたし……男の人とか、怖いっていうか、ちょっと苦手で……」

憧「あのときも、強がってたけど心臓バクバクだったし、正直――泣きそうだった」ウルッ

京太郎「ちょっ、お、おい! 大丈夫か、憧!」

憧「んっ、平気……ちょっと、安心して……」グスッ

憧「だから、ほんとに……あんたが、京太郎がいてくれて、よかった……」

憧「ありがと、あたしのこと助けてくれて……初瀬と話してるとこだったのに、ちゃんと見ててくれて……」

憧「心から、感謝してます」フカブカー

京太郎「……い、いや、その……な、なんてことねーから、マジで……」

憧「……ごめん、最後にちょっとだけ、頼んでいいかな」

京太郎「お、おう! なんでも――」

憧「じゃあ……失礼します、ご主人さま」ダキッッ

京太郎「!?!?!? ああああああああ、憧っ、憧ぉっ!?」

憧「っっ……ごめっ、ん……ほんとっ、すごく怖かった……っっ……あ、ありが……とっ……ありがとぉっ、京太郎っ……」

憧「うぅっ……うああぁぁぁぁ――……あぁぁぁっっ、うぅぅっ……ぐすっ、ひっくっ……」

京太郎「――気にすんなよ、憧」ポンポン

京太郎「お前が無事でなによりだ、それでいいじゃねーか」


~学園祭初日、終了 ※夜行動は行います


~土曜夜

京太郎「……中夜祭もなかなかだったな、うん……」

京太郎「さすがに憧は、赤土先生から話聞いた、お姉さんの迎えで帰ってったけど……」

京太郎「だめだ、なんつーか……メイド服の憧に抱きつかれたことしか覚えてねー……」

京太郎「はっ! あれってもしかして、抱きつけばよかった流れかっ?」

京太郎「――なんてな。憧があれだけ怯えてたんだ、俺と接するのも怖いだろうし、控えるようにしねーと」

京太郎「今日はシロ先輩と初瀬が来てたけど……憧も気になるよなぁ」


京太郎「……永水からも、誰かが来てる可能性が……」

京太郎「動向を探ってみよう、誰か……春とかから……」

京太郎「今日は学園祭でさ、色々あったよ……っと」


『知ってる。日誌見てるから』

『まだ明日もあるんでしょ? 疲れが溜まってたら、無理しないで』

『私はいつも、京太郎のこと心配してるから……忘れないでね』


京太郎「……すまん、動向を探るなんて、俺はなんて馬鹿なんだ……」






京太郎「ありがとう、その言葉で疲れも吹っ飛んだ」

京太郎「明日も頑張れるよ、ありがとうな」

京太郎「春も、疲れが溜まってるなら無理するな」

京太郎「なにかあったら言ってくれよ」


『……嬉しい、そんな風に言ってくれて』

『私は大丈夫、だけど――』

『京太郎に、会いたい』

『会って、話したい』

『手を握ってほしい、頭を撫でてほしい』

『ごめんね、わがまま言って』


京太郎「あぁ、そっか……」

京太郎「俺の服の裾掴んで、一緒に帰ったりしたもんな……」

京太郎「それを思いだしたら、恋しくなる」


『……泣きそう』

『泣いちゃったら、京太郎のせいだから』

『霞ちゃんや姫様に、そう言っとく』

『京太郎のバカ』

『そういうことは、会ってから言って』

『でも、会ったらちゃんと……手を繋いでね』


京太郎「……合宿とかできねーかなぁ……」

一つだけ言っとく、クラスメート決定も安価、クラス出し物も安価、ゾロ目も安価、以上

京太郎「……ほかの人も色々、大丈夫かな、心配だ」

京太郎「……ネトマサイト、残念だったな。また別の機会作って、一緒に打とうぜ」

京太郎「驚いたことに、シロ先輩が学園祭に来てました。奈良にまで足を運ぶなんて、成長したと思います」

京太郎「まさかこっちに来ようとしてませんよね? ちゃんと案内つけてください、そのつもりなら」

京太郎「……その、早いとこ忘れたほうがいいぞ。すぐにとは言わないけど、いつもの憧に戻ってくれればなによりだ」


京太郎「おうっ、もうこんな時間か。明日も松実館だ、さっさと寝よう」


~11月第一週土曜、終了

【11月第一週土曜】
 今日は学園祭初日、クラスでメイド喫茶をする。菓子を焼き、紅茶を淹れ、ホール(教室)をかなり歩き回った。
 自分は慣れてるからいいが、ほかのクラスメートはよく最後まで動けたと思う。女子ってすごい。

 最後に、ちょっとしたことはあったが、出し物自体は成功したと言えるだろう。
 驚くようなお客さんも来ていて、非常に嬉しかった。

 明日の麻雀部のほうも、必ず成功させる。
 それはともかく、明日は午前だけ、午後はなにもないからありがたい。
 誰かと回れればいいが……あるいは、誰かの案内をすることになるのか。
 こういうとき、女性と縁遠いというのは物悲しいものだ。

 そういえば、肝心のお客さんの反応をあまり確認できていない。
 帰ってしまわれたお客さんの反応はもうわからないが、内部客の方には、お菓子やお茶の感想を聞けたらよいのだが。

 …………

 『相変わらずだったね。でもお茶の味は変わってなかった、嬉しい限り』
 『とてもおいしかったです。これを毎日飲んでる阿知賀女子のメンバーが羨ましいな。お菓子も最高だったよ、個人的に焼いてほしいくらい』

 反応早ッ! いや、嬉しいなぁ、こう言ってもらえると。
 来年は茶店とかいいかもな、緑茶と和菓子と……袴の給仕さんか、うん、いけるじゃん。

 『京ちゃんごめん、明日は絶対行く。頑張るから。お土産にはちんすこう買ったからね』
 『私もごめんね、京ちゃん。お土産には白い恋人買ったから。白い恋人、恋人だよ』
 『すみません、人数が足りなくて、土曜日は練習に充てることにしました。明日はなんとか、時間を作ります。部長を説得しています』
 『……大丈夫、お勤めはだいたい終わった……明日は、上手く目を盗めれば大丈夫だと思う』
 『そう、上手くね……』
 『いまのあのコは、阿修羅をも凌駕する存在ですよー』

 いったいなにが起こってるんだ……。

 『やはり無理だったか。まぁ予想はしていたよ。そちらに行くようなことがあれば、面倒を頼む』
 『だーかーらー、私も行くって言ったのにー、もー!』
 『なんとなく、共感を覚えるのう……そちらさんも大変じゃな』
 『やっぱり姉妹なのよねぇ……』
 『あぁ……いや、私は慣れたからな。そちらも、同学年の誰かが上手く手綱を取ってあげればいいさ』
 『一人の騎手を取り合ってるからねえ、そう上手くはいかないのよ』
 『――その原因は、誰にあるのかな?』
 『あらら、痛いところを射抜かれちゃったわね、退散しましょ』
 『あんまり先代をいじめんでやってくれんか、反省はしとるようじゃけえ』
 『ああ、冗談だと謝っておいてくれ。ではな』

 よくわからないが、チャットでわかりあってるみたいだ……すごい人たちだな。

 『うちらも学校から、すぐそっち行けるんやけどなぁ』
 『監督がよう見張ってますから、遊びは無理ですわ』
 『あのふにゃけた目ぇで、よく見張ってるもんですね』
 『あはは~、そらそうやで~? せやけど、まぁええやん。うちに来てもろたら、いちいち行かんでええやろ~?』
 『っていうか、三年は行ったらええやんか。ま、うちは練習あるのみやけどな、開幕一軍のためにもな』

 『まーたお前かい。まぁオレかてそうや。ほかの三年は、行ってきたらええと思うけど』
 『勉強もせなあかんしなぁ、そのこと考えたら、一日だけ見に行くより、一ヶ月いてもろたほうがええやん?』
 『言うて、先輩らが残ってるのんも、あと二、三ヶ月ですよね』
 『まーた空気読まんと……』
 『い、いや、その間にうまいこと当たればええなぁと! ほんまですって!』

 『うーん、どうしてそんなに会いに行きたいのかな、やっぱりお金?』
 『違うと思うぞ……まぁ、だいたいが興味本位だろう。我々はこの日誌で見ていれば、十分楽しめるさ』
 『そ、そうですよね……』
 『も、もちろんデス……』
 『オファーには監督の許可もいりますし……』
 『――それならだしたわよ?』
 『おい……誰だ?』
 『わたしじゃありませんよ?』
 『わ、わたしもデス……』
 『私のわけがありません』
 『……まぁいいさ。専属で些事を引き受けてくれるなら、お前たちも集中して打てるだろう』
 『そうですよね、私もそのほうが効率がよいと思います』
 『まったく同意見でスネ』
 『あくまでこれは、練習の質を向上させるためで――』
 『お前ら……』
 『お金いらないの? なら来てほしいかなぁ』
 『ああ、もうそれでいい。私は知らん』

 そういえば見てなかったけど……過去ログもこれ、最後は雑談に流れていってるんだな。
 こうして見ると、知らない学校に人たちも見ててくれてるってのが、よくわかる。
 ますます、下手なことは書けないよなぁ、ふぅ……。

――――――――


~清澄

「いやぁ……まさか夜のうちに出発しとったとはのう」
「だから方向を間違えたんですね……ですから、一人で行かないように念を押したんです!」
「仕方ないじぇ、お姉さんも行こうとしてたみたいだし……」
「それで南北に分かれるあたり、仲の良い姉妹だこと」
「あー、それで和よ……明日は――」
「――はい、わかってます」ニッコリ
「……まぁ、あれじゃ。今日は咲がおらんけえ、無理して出てもらったしの……明日も判断は任せるわ」
「ありがとうございます、部長」
「はぁぁ……和だけじゃのう、わしを部長と呼んでくれるんは」
「? 咲さんも呼んでるはずですが」
「あいつはたまに、混ざってまこ長とか呼びおるけえ」
「ぶふっっ! くっ、まこちょ……ふふっ、受けるっ……」
「わ、私も努力はしてるじぇ……その、春までには……」
「あー、かまわんかまわん。もう好きに呼んだらええ……あんたはいつまでわろうとるんじゃ!」ベシッ

~白糸台

「照がいないと静かなものだな」
「つーまーんーなーいー!」
「ならさっさと寝なよー、淡。明日も練習なんだから」
「なんでこんな集中してるのー? いっつも緩いのにー」
「秋大会で関東チャンプなら、そうはならなかったかもね」
「ふぐっっ! ぐぐぐぐっ、あの留学生~~~~っっ! いいもん、次は100回倒すから!」
「101回じゃないの……?」
「101回倒すよっ、じゃあ!」

~永水

「いやー、今日も忙しかったですよー、さー、お風呂お風呂ーっと」
「そうねえ、もう肩が凝っちゃって大変だわ、うふふふふ」タプーン
「……早く休んで、明日に備えないと……(意味深)」

「……姫様は、私を裏切りませんよね? ね?」
「は、はい! もちろんです、巴ちゃん!」

~宮守A

『まさか行ってるとはね……で、どうだった? 極度に疲れてるとか、無理してるとか、そういうのは……』
『いや、大丈夫そう。でも……三連続女子校はさすがだね、女の子が周りにいっぱいだった』
『そっか……って、そんなこといいのよっ。それより、迷惑かけてないでしょうね?』
『うん、喫茶店だから普通に給仕してもらっただけ……相変わらずおいしかったよ、京太郎のお茶は』
『ぐぐぐぐっ……べ、別にうらやましくないしー』
『あとは……阿知賀の中堅と、少し話したよ』
『どんなこと?』
『まぁ、無理しすぎないように、見ててあげてって感じのこと……かな』
『無理させてたあんたが言うには、まともなことねぇ』
『やっぱり、負担だったかなぁ……』
『そりゃそうでしょ。でもそう感じないのがあのコでしょ、だからこっちで気をつけてあげるの』
『うん、そだね……明日も、ちゃんと見ててあげないと』
『また行くの!? あー……もういいわ、お土産話だけお願いね』
『了解、ツーショット写真も取ろうか?』
『い・り・ま・せ・ん!!!!』

~宮守B

「――でねー、シロが来てたんだってー。ほら、このメールでー」
「ウラヤマシイ!」
「それメールが? それともシロが?」
「ドッチモ!」
「えへへー、久しぶりにメールもらっちゃったー」
「エイちゃんももらったって言ってなかった? ネトマで清澄のあのコに勝ったって」
「ソウ! ショウリホウコク!」
「いいなぁ! まぁ私は、その悔しさを勉強に向けるけどね! 次に会ったとき、浪人生だったらカッコ悪いもん!」
「あー、そうだよー。勉強会、忘れるところだったー」
「ガンバロ!」


~阿知賀A

「憧ー、大丈夫ー?」コンコン
「ん……平気。別になにもされてないし、明日にはいつも通りだから」
「ならいいけどさぁ……なにかあったら、ちゃんと言うのよ。言いづらくてもね」
「はーい……はぁ……そっちは、平気なんだよね……問題は――」

「うっわぁぁぁ……うわっ、うわうわ……あたし、ほんっと恥ずかしいっ……抱きついて、ワンワン泣いちゃって、もうなに!? 少女マンガ!?」
「ああぁぁあぁあぁぁっっっ! やばい、明日どんな顔すればいいのよっ! っていうか、あいつがどんな顔してくるか――」
「――いや、あいつは普通に、なーんも意識してない顔で接してきそう……うわ、想像しやすっ……」
「……けど、それが……あぁっ、もう! なんでそんなっ……嬉しく思えるのよ、ほんっと……」カァァッ

~阿知賀B

「……出番が」
「……なかったね」
「……うん」
「あ、明日がありますよ!」
「穏乃はまだ可能性あったからね……」
「それに玄たちは、明日こそメインだし……」
「あ、灼ちゃん、しっかりして!」
「午後から、一緒に回れるよ、たぶん……」
「他校の人の可能性もあるのに?」
「……ら、来週がありますよ!」
「修学旅行で、三日も……」
「お土産、奮発すれば大丈夫だよ!」アセダクッ
「……そだね」
(く、空気が重い!!!)
「あったかくない……」ブルブル

~11月第一週日曜

京太郎「おお、おはようごっ、ござい、まーっす!」

板長「落ち着け、とりあえず仕込みからだ」

A「あんまり意識するな、いつものようにやればいい」

B「そうそう、硬くすんのはアレだけで――あ、や、なんでもねっす」


京太郎「だ、だよな、よし……落ち着いて、目の前の仕事からこなそう」



京太郎「ふぅ、よし……完成です、これで終わりですか?」

板長「おう、お疲れさん」

B「やっぱ身体動かすと、自然体になるなぁ、おめーは」

A「根っからの職人、仕事人気質なのかね。苦労性だな」

京太郎「はは、けどまぁ、緊張も取れたしよかったっす」


京太郎「さーて、朝飯も食った、準備は万端! 学校行くか!」



京太郎「あ、あのマフラーは……宥先輩!」

宥「ん……あ、京太郎くん。おはよ~」

京太郎「おはようございます。今日はゆっくりですね、昨日と違って」

宥「うん、うちのクラスは昨日、劇の上映で終わったから……」

京太郎「今日はなにもないってことですね」

宥「ううん、違うよ……」フルフル

京太郎「えっ?」

宥「今日は麻雀部の出し物だからね、京太郎くんを待ってたんだよ」

京太郎(そういえば、バスがさっき通り過ぎたような……って!)

京太郎「有先輩、さ、寒くないんですか! こんな外で待たなくてもっ……」

宥「だって家から一緒に出ると……お、お父さんが……」ブルブル

京太郎「あぁ……すみません、気を遣っていただいて」

宥「ううん、平気へいき。でも、せっかくだから……」ギュウ

宥「うん、手袋越しだけど、あったか~い」ホコホコ

京太郎「ありがとうございます、行きましょう」

宥「落ち着いてね? いつもの、あったか~い料理が……うちの味だと思う」

宥「誰かの味じゃなく、京太郎くんが作ってくれる料理が、一番だよ……ね?」

京太郎「はい、頑張りますっ……」


~午前10時

京太郎「――っていうか、麻雀部の出し物なのに、調理教室借り切っていいんですか?」

晴絵「おうよ! 私のコネと交渉で、ガチっとね!」バチコーン

灼「じゃなくて、本当は京太郎のおかげ……」

京太郎「へ、俺ですか?」

玄「京太郎くん、使った後に最初より綺麗にしてくれるからねっ! 先生が、全部そうしてくれるならありがたいって」

穏乃「えー! それ大変じゃないの、京太郎?」

京太郎「いや、全然?」

憧「ほんっと、呆れるわね……いつか倒れても知らないわよ」

京太郎「おう、憧。はえーな、そっちも」

憧「……はよ……」

憧「……もう、ほんっと変わんないんだから……あったまくるわねぇ」フフッ

宥「なんだか、憧ちゃんあったか~い」ギュゥ

憧「ひゃわうっ! ちょ、宥姉、あついっ、あついから!」

京太郎(俺のときは手だったのに、憧にはハグか……う、うらやましくなんて、ないんだからね!)

穏乃「?? どうしたんだろ、真剣な顔して……」

灼「あれは、心底くだらないこと考えてるはず……そっとしとこ……」

玄「そろそろ始まるね、大丈夫かな、京太郎くんっ?」

京太郎「バッチリですよ、まぁ見ててください」キリッ

灼(……不安だ……)


京太郎「――というわけで、こうして飾り切りしたものを、崩さないよう煮込みます」テキパキ

京太郎「出汁の材料はそちらのレジュメ通り、先ほど取っていますね。そこにこちらの調味料を加えて――」テキパキ

京太郎「一人は必ず、鍋のほうについててください。火加減は逐一伝えますから」テキパキ

京太郎「慌てないで、噴きこぼれだけ注意をお願いします。では、次は残りの方に、焼き物のほうを――」テキパキ

灼「……私の予感って、すぐ外れるんだよね……」

憧「ほんっと、何者よ、あいつ……普通に板前に見えるんだけど」

穏乃「うーっ、おいしそ~!」

玄「……落ち着いてるね、京太郎くん」

宥「そうだね。各調理台のお客さんたちも、きちんと指示通りできてるし……」

灼「それにこの手順表、すごいよね……これだけ見れば、なにをどうするかすぐわか……」

穏乃「あ、あははー、まぁわかるんだけど……私には、難しいかな~って」

憧「あのね、あんたも女の子なんだから、料理の一つもできないと、お嫁の貰い手がないわよ?」

穏乃「えーっ! だったらいいよ、お料理上手のお婿さんもらうからっ、京太郎みたいな!」

四人「!?」

玄「どど、どっ、どうしよう、お姉ちゃ~んっ!」ブワッ

宥「大丈夫、まだ大丈夫だよ、落ち着いてね~」アタフタ

灼「はぁ……例として挙げただけ、もっと落ち着けばい……」

憧「そ、そういう灼こそ、顔が引きつってるわよ?」ヒクヒクッ

灼「これは、元から表情、薄いだけで……」アセアセッ


京太郎「……あっちの麻雀部テーブルは、なにを騒いでんだ、さっきから……」

「きゃっっ!」「あっ、大丈夫?」

京太郎「! なんだ、トラブルか?」

京太郎「大丈夫ですかっ? 火傷とかは――」

??「い、いや、平気だ! 問題ないっ……くっ、私としたことがこんなにわかな――」

京太郎「……ちょっと赤いですね。一応、冷やしておきましょうか。えっと、冷やした濡れタオルが――」

春「……はい、これ」

京太郎「おう、サンキュ、春……春っ!?」

春「久しぶり」ニコッ

京太郎「あ、う、お……」

春「……その人の火傷、いいの?」

京太郎「おう、そうだった! すまん、また後でな! 大丈夫ですか、これ――」

??「んっ……はぁ、うん……平気よ。ありがとう」

京太郎「このまま続けていただいてもいいですけど……そうですね、あっちと一人入れ替えましょうか」


灼「あれ、なにかあったみたいだけど……」

京太郎「すみません、あっちのテーブルでちょっと……この人が火傷しちゃったんで、どなたか代わってもらえませんか?」

玄「!! じゃあ、私が!」

憧「そうね、適任かも。この中じゃ一番できるだろうし……跡取り娘だもんね~」ニヨニヨ

玄「おまかせあれ!」ドヤァ

京太郎「えっと、無茶はしなくていいですからね?」

玄「ふっふ、心配無用だよ、京太郎くん」

京太郎(……不安だ、けど……こっちが先だな)

京太郎「火傷なんで、タオルが温くならないうちに、流水で冷やしてあげてください」

灼「ん、りょうか――あれ、この人……」

??「!? ひ、ひとっ、人違いだから!」

灼「いや、その顔と特徴的な髪型……忘れるわけな……」

穏乃「あぁっ! 晩成の、小走やえさんじゃないですか!」

やえ「違うっ、私はそんな、王者の風格漂う名前じゃない! 火傷するようなにわかなんだぁ~!」

灼「わずらわし……」

京太郎「……まぁ、この人がどなたかは置いときましょう。ひとまず、痕が残らないようにきちんと冷やしましょう、それから治療をします」

やえ「あっ……」

やえ「あっ……ちょっと、あの、本当に平気だからさっ……」

京太郎「だめです! 女性が肌に、それも綺麗な指に痕を残すなんて、以ての外ですから!」

やえ「――っっ!」

京太郎「晩成ってことは、麻雀されるんでしょう? それなのにマメ一つない綺麗な指なんですから、火傷なんて残したくありませんよ」

やえ「はっ、うっ、あうぅ……」カァァッ

京太郎「ってことで、俺のわがままですけど、冷やさせていただきますね……よし、これで」

京太郎「あとは、これ、包帯と――で、冷やしながら、保健室のほうで――」

やえ「あ、の……」

京太郎「はい?」

やえ「あり、がとう……迷惑をかけて、すまない……」

京太郎「いえ、麻雀部料理教室の大事なお客さまですから」ニコッ

やえ「…………」ドキィッ

灼(にわかだ……)

穏乃(にわかだ……)

憧(にわちょろい……)

宥(あったかくない……)ブルブル


春「………………」ポリポリポリポリポリ

玄「わわっ! りょ、料理中に黒糖なんて食べてちゃいけませんのだ!」サッ

春「……返して」バッ ポリポリポリ

玄「う、うぅっ、だ、だめなのにぃ……」


京太郎「さて――すみません、作業を中断してました。ええ、捌けましたら、こうして串を通して――」

京太郎「では炭火にかけてください。全体見て回りますので、返す頃合いになったら指示します」


京太郎「……こら、春」

春「な、なにっ?」パァッ

京太郎「料理中は黒糖禁止」

春「……み、見てたの?」

京太郎「まぁな、玄先輩にも失礼な態度取ったろ?」

春「――!!」

京太郎「あれはだめだぞ、ちゃんと謝らないと……たとえ、勝手に黒糖を取られたんだとしても」


春「ごめんなさい……」シュン

玄「い、いえ、こちらこそ! 勝手に黒糖没収してごめんなさい!」

京太郎「はい、じゃああらためて――久しぶりだな、春」

春「う、うん!」

京太郎「会いたかったぞ」

春「~~~~~っっ/// わ、私も! 会いたかった!」キラキラ

玄「」

京太郎「よしよ――おっと、手は汚れてるから、頭はまた後でな」

春「べ、別にいいっ……」

京太郎「いや、さすがに……春の髪、綺麗だからなぁ。汚すのはしのびないっていうか」

春「京太郎なら平気、撫でてっ……」

京太郎「俺が気にするの。また後でな」

春「……ん、わかった」ニコニコ

玄「」

玄「」

玄「お……」

玄「お姉ぢゃぁぁぁぁぁ~~~~~~~んっっっっ」ブワァッ

京太郎「ちょっっ! どうしたんですかっ、玄先輩!」

春「……そういえば、その人は?」

京太郎「阿知賀女子の先輩。インハイの決勝で、チャンプと打ってただろ? 知らないか?」

春「……あっ、ドラゴンロード」

玄「ふぇ……? そ、そうですのだ! 阿知賀のドラゴンロード、松実玄です!」ドヤァ、ズビッ

春「永水女子、滝見春……よろしく」

京太郎「んー、それじゃ、俺はちょっとほかのテーブル回るからさ。あとはお任せします、玄先輩」

京太郎「春も、またあとでな」

春「あ、あっ、あのっ……完成、したらっ……」

春「味見、してっ!」///

京太郎「本当なら、そのテーブルごとで食べてもらうんだけど……ま、いいか。春が作ったの、食わせてもらうよ」

春「~~~~~っっ!」パァァッ

京太郎「じゃあな。玄先輩、よろしくお願いします」

玄「おまかせあれ!」

京太郎(それが一番不安……だとは、言わないでおこう、うん)

京太郎「さて、ほかのテーブルもほぼ完成だ。あとは料理の盛りつけだけ――」

京太郎「けど、和食の粋は見た目の美しさにある……と、俺は少なくとも思ってる」

京太郎「盛りつけこそが、最重要な要素……ここは失敗できないぞ!」

京太郎「――よし、完成だ……さすがに、板長のには及ばないけどな」

京太郎「こちらが、参考の盛りつけになります。参考にしつつ、映えるように盛っていただければ」

京太郎「……ただ、料理を見栄えよく、というだけではありません」

京太郎「食べる方が、それをおいしそうと思い、気持ちよく箸が取れるように――」

京太郎「召し上がる方のことを常に考える、それが松実館の味だと思っています」

京太郎「本日はありがとうございました。どうぞ、盛りつけましたら、お召し上がりください」


京太郎「はぁ……緊張した……」

穏乃「京太郎、お疲れさま!」

京太郎「おう、そっちは……うん、上手くできたな、偉いぞ、穏乃」

憧「……ん、まぁ、穏乃も頑張ったわよね。和菓子とかに馴染んでるせいなのかな、盛りつけの美的センスがいいのよね、意外と」

穏乃「意外は余計! でも憧も上手だったよね、切るのも焼くのも」

京太郎「へー、そっちは意外だった」

憧「うっさい! わ、私だってねぇ、それくらいちょっとは、その……練習、してんのっ……」

宥「灼ちゃんも、包丁上手だよね~」エライエライ

灼「ちょ、宥さん、やめ……」///

やえ「うぅ、すまない、にわかな私で……」

京太郎「えっと、小走さん、でしたっけ……先ほどは――」

やえ「いや、やえで構わない! それより、ええと……京太郎くん、だったね。さっきはありがとう、本当に嬉しかったよ。世話をかけた」ニコッ

京太郎「手のほうは大丈夫でしたか?」

やえ「うん、なんともない。すぐの処置がよかったと、先生も褒めていらっしゃった。心から感謝するぞ」

京太郎「傷が残らなくてよかったです。それでは、こちらのテーブルでお食事をお楽しみください」

灼「……箸、持てる?」

やえ「平気だ。利き手じゃないほうだからな……あっ、でも洗い物を――」

憧「いいですよ、それはこちらでやっておきますから。小走さんはどうぞ、お食事を楽しんでください」

穏乃「あははっ、憧の敬語、久しぶりに聞いたよ!」

憧「黙ってなさい! まったく、さすがに初瀬の先輩だもの、礼儀は弁えないと」

やえ「ああ、初瀬の知り合いだったな。壮行試合でもそう聞いた……うちの後輩を、これからも頼む」

宥「それじゃ、食べましょうか……食材と、作った方への感謝を込めて、手を合わせましょう」

全員「いただきます」


京太郎「春、どうだ?」

春「食べて!」

京太郎「お、おう……うん、さすがだな。上品に盛られてる、おいしそうだぞ」ナデナデ

春「~~~~~~~っっっ///」

京太郎「それじゃ……いただきます」

春「…………」ワクワク

京太郎「…………」モグモグ

京太郎「うん、うまい。これだけ作れれば、春はいいお嫁さんになれるな」ヨシヨシ

春「はぅっ、あ、うっ……」カァァァァァッ

春「あ、あり、が……とっ……」モジモジ

京太郎「けど、これじゃ春のがなくなっちまう……よし、ちょっと待ってろ」

京太郎「俺のと交換だ。マナー違反だけどな……内緒だぞ?」

春「っっ! うん、内緒にする……ん、おいしい……」

春「やっぱり京太郎の料理……おいしいね」

京太郎「……そういえば、お弁当はよく食べられてたもんなぁ」

春「ひ、ひどい、食いしん坊みたいに……あれは、京太郎がくれた」

京太郎「いや、まぁ、そうだけど……春がうまそうに食うから、ついな」

春「だって、それは……おいしかったから……」

ハハハ エヘヘ

玄「」

玄「」

玄「ぐすっ、うぐっ……うぅぅぅっ、うわぁぁぁぁんっっ!」

京太郎「すいません、玄先輩、ちょっと意識して意地悪してました。申し訳ございません」フカブカー

玄「うぅぅぅっ、ひどい、ひどいよぉっ……」ボロボロ

京太郎「ご、ごめんなさい、本当に! ほら、機嫌直してくださいっ、焼き物おいしいですよ! あーんしてください」

春「!?」

玄「うぐっ、ひっぐ……うぅ、いいの?」

春「だ、だめっ……」

京太郎「どうぞ、お口開けてください」

玄「あ……あーん……もぐ、もぐ……」

京太郎「どうですか?」

玄「お、おいひいよぉ……」フニャフニャ

春「…………うー」ムスー

京太郎「……じゃあ、その……春も、口開けろー、あーん」

春「はむっっ」

京太郎(あっ、これだめなパターンだ)

玄「京太郎くん、次はこっちだよ~」

春「次は、こっち……」

京太郎「……はい(諦観)」

宥「……ほっ。よかったね、玄ちゃん」

憧「宥姉、どうしたの?」

宥「ううん、なんでもないよ。あったかいな~って、ね」

穏乃「そうですね! 出来立てで、あったかくて、おいしいです!」

~午後

京太郎「さて、昼も食べて、片づけも済んで、掃除も済んで――麻雀部の料理教室は終了だな」

穏乃「なんか、ややこしいね……」

憧「っていうか、誰に説明してんのよ……」

京太郎「で、こうなるとあとは自由なんですよね? 部長?」

灼「そうだね、もうやることないし……」

京太郎「それじゃ……どうすっかなぁ」


玄「…………」

春「…………」

灼「…………」

シロ「…………」


京太郎「なんかすっげえ見られてる……っていうか、シロ先輩、来たんですか」

シロ「うん……京太郎の料理、食べ逃したなぁ……」

京太郎「夜もこっちならお作りしますけど」

春「!?」

シロ「いいの?」

京太郎「いつものことじゃないですか、もう慣れましたよ」

玄「!?」

憧「ど、どういうことなの……」

シロ「そっか……うん、でも……さすがに、明日は学校だから帰らないと……」

京太郎「ですよね……」

シロ「まぁ、時間があったら案内して。それでチャラにするから」

春「わ、私も――」

灼「そういえば京太郎、学校内、まだ全部案内してなかったよね」

玄「わわ、私と一緒に回ろうよ!」

京太郎(なんだろう、これは……はっ、これがモテ期ってやつか!?)

京太郎(……ははは、言ってて辛くなってきたな。まぁ便利ですからね、いつでもお茶淹れられますし)


京太郎「――さて、どうしよう」


京太郎「それじゃ、玄さん――」

玄「ふぁっ、ふぁい!」

京太郎「あとは春――」

春「…………っっ!!」パァッ

prrrrr
春「あ……」

京太郎「ん? 出なくていいのか?」

春「い、いいっ……それよりも――」

京太郎「ちょっと貸しなさい……あ、もしもし? 霞さんですか?」

霞『!? あ、あら、京太郎くん、お久しぶり……ということは、やっぱりそっちにいるのね』

京太郎「――その反応、まずい感じですか?」

霞『ううん、奈良にいるのはいいのよ。ただ、そちらの神社にご挨拶を終えてないから、そっちを優先してもらう必要があって――』

京太郎「……すでに遅れてたりします?」

霞『まぁ、ね……』

京太郎「すみません、ちゃんと言い聞かせます」

霞『ごめんなさいね。春ちゃんも、不真面目なわけではないの、ただ――』

京太郎「いえ、俺ももっと構ってやることにします。では」


京太郎「春……俺に会いに来てくれるのは嬉しい。でも、やらなきゃいけないことは、やってからにしてくれ」

春「……ごめんなさい、あの……怒って、る……よね」

京太郎「俺が怒ることじゃないさ。春が反省してるし、後悔もしてるなら、安心して送りだせるしな」

春「…………っ……」グスッ

春「行ってくる、それで……今日は、そのまま帰るね」

京太郎「……いいのか?」

春「もう、京太郎には会えたし……散々、甘えたから……これからは、滝見の娘として動く」

春「ありがとう、京太郎……ますます、その……す……ぅっ……う、ううん、なんでもっ……」カァァッ

京太郎「あ、あぁ? まぁ、その……元気でな、また連絡する」

春「うん、またね、京太郎」


京太郎「えっと、それじゃ……シロ先輩、行きましょうか」

シロ「……不満、余った選択肢みたいで」ムスー

京太郎「うっ……そ、そういうわけでは……」

シロ「……冗談」クスッ

シロ「だけど、お詫びしてくれるなら……」スルッ ムニュッ

京太郎「!? あ、あの、ししし、シロ、先輩!?」

シロ「このまま案内して」ジー

京太郎「……わかりました」

シロ「よろしい」

玄「わ、私も!」ガバッ

京太郎「おうっっ! く、玄先輩、わかりましたから、落ち着いてっ……」

玄「ああ、案内役、仕りましたのだ!」

京太郎「あっ、はい……じゃあお願いします、玄先輩。行きましょうか、シロ先輩」

灼「……シロ玄コンビ……あれ、私は……」

憧「…………」ポンッ

穏乃「ま、また来週がありますよ!」

宥「頑張って~、玄ちゃ~ん」ズキッ

宥「…………? あれ、変……だね、なんだろ……」ズキズキ

玄「お姉ちゃん、どうかしたの?」キョトン

宥「! う、ううん、なんでもない、いってらっしゃ~い」フリフリ

玄「はい! がんばってきます!」ムンッ


憧「……にしてもさー、結局チャンピオンこなかったねー」

穏乃「そういえば和もだよー。メールでは、行くかもって言ってたのにね、ざーんねん」

 ※選ばれなかった人たちは来ません、残念でした


京太郎「それじゃまずは――シロ先輩、食事はされました?」

シロ「いや……そういえば、朝から食べてない……かも」グゥー

京太郎「!? く、玄先輩! なにか食べ物の――模擬店の場所、案内してください!」

玄「おまかせあれ! えっとね、中庭と校舎横にあって――」


シロ「……そういえば、その人は?」

玄「おぉっ! そういえば私も知らないよ、京太郎くん!」

京太郎「あっ……」

京太郎「すんません、失念してました。えーっと……こちら、宮守女子麻雀部、先鋒を務めていらっしゃいます、三年の小瀬川白望先輩です」

シロ「よろしく」

玄「先鋒! 私もです、奇遇ですね!」

シロ「そうなの?」

京太郎「はい。えーっと、阿知賀女子麻雀部のこちらも先鋒、二年の松実玄先輩です」

シロ「……あぁ、阿知賀のドラゴンロード」

玄「はい! 人呼んで、阿知賀のドラゴ――」

京太郎「それはもういいですから」

玄「」ショボン

京太郎「で――えーっと、シロ先輩は春から、東京のプロチームに所属予定です」

玄「ほえっっ! す、すごい、生のプロ……初めて見ました!」カンドー

シロ「まだ、違うけど……あ、でも契約はしたかな」

京太郎「そうなんですか! おめでとうございます!」

シロ「うん、まぁ……細かいことは、トシさんがやってくれたし……あとは、毎日のトシさんのしごきがキツい……」グデー

玄「熊倉トシ先生ですね! 赤土先生から、時々お噂をお聞きしてます!」

シロ「そっか、知り合いだったね……あ、思いだした」

京太郎「?? どうかしましたか、これ……」

シロ「先生から、赤土さんにって……お土産と、昔の資料とか色々だって……」

京太郎「どうしましょう、探すにしても、先生がどこにいるかわかりませんよ」

玄「預かっておいて、また渡せばいいんじゃないかな。途中で会えば、そのとき渡してもいいし」

シロ「そうして……それより、そろそろご飯を……」グゥー

玄「はい、それじゃ到着です、こちらでお好きなものをお買い上げください!」

京太郎「……まぁ、こうなりますよね」

シロ「ん、ごめん……」ダラー

玄「あ、あの、そんなにお腹が空いて動けない感じですか?」

京太郎「いや、そういうことじゃなくて……」

シロ「んー、ちょっとダルくて……動くの、めんど……」ダル

玄「」

玄(お、お姉ちゃんがさらに動かなくなったみたいな……)カタカタ

玄(でも、可愛いっ……お世話したいよぉっ)ウズウズ

玄「で、では、不肖松実玄! 小瀬川さんのために、お買いものしてまいります!」

京太郎「いや、そんな――俺が行きますって」

玄「大丈夫! ここは阿知賀女子学院、私のホームグラウンド……」

玄「あらゆる施設は私の庭! どうぞこの松実玄に――」

玄「おまかせあれっっ!」ドヤァァァッ


シロ「……そこはかとなく不安だけど……どうするの?」ダル

京太郎「……そう、ですね……」ウーン

京太郎「すみません、シロ先輩……一緒に買ってきますので、待っててもらっていいですか?」

シロ「んー……ちょいタンマ……ん……んー……うん、そうだね……仕方ないかぁ」

京太郎「ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」

玄「えっ、い、いいのっ?」

シロ「いいよ。その代わり、早めにお願い」グギュー

玄「わわっ、わっかりました!」

京太郎「それじゃ急ぎましょう」



京太郎「しかし、色々売ってますね……あっ、タコスだ」

玄「ふふん、お祭りの定番はもちろん、そのほかにも色々ありますのだ――」

京太郎「なんで玄先輩が偉そうなんですか……じゃあ、適当に見繕いましょう」

京太郎「フランクと、焼きそばとたこ焼きと――お米もありだな、ならおむすび屋で……天むす!? おお、あんこ入りとかもあるのか、すげーラインナップ……」

玄「そ、そんなに食べられるの?」

京太郎「余ったら俺が食いますって。お昼少なかったんで、まだ余裕ありますから」

玄「そっか、それなら――あっ」

京太郎「え……あっ」

玄「ご、ごめんなさい! あれは――わ、私と春ちゃんが、食べちゃったせいだよね!」

京太郎(……しまった、迂闊っ……というか、玄先輩なのに察しがいいだと!?)

京太郎「そんなことないですって、あれ全部食べてても、普通に足りませんでしたから」

玄「うっ、や、やっぱりぃぃぃぃっ……ただでさえ少ないのに、取っちゃってごめんなさぁぁぁぃっっ!」ブワァー

京太郎「泣かないでぇぇぇえええぇぇえっっ! 大丈夫です、平気ですから、ねっ? これだけ買えば、十分ですから! 戻りましょう、早く!」

玄「うっぐ、うえぇぇぇ……うん、うんっ……ごめんねっ……」

京太郎「なんでそんなマジ泣きしてるんですか! なんか、昼から涙腺緩くなってませんか……?」

玄「そ、それはぁっ……京太郎くんが苛めるからだよ! 京太郎くんのせい!」グスッ

京太郎「俺ですかっ……いや、まぁそうか……すいません、反省します」ペッコリン

玄「……ううん、いいよ。私も迷惑かけたし、お相子にしよう」

京太郎「はい。それじゃ、早く戻って食べましょう。シロさんも待ち侘びてそうです」

玄「うん、そうだね! 急ごう!」


京太郎「お待たせしましたー……って、あれ? シロさん、なに食べてるんですか?」

シロ「……イカ焼き……さっき、赤土先生が来て、少し話してたから……」モッチモッチ

玄「……それは、プロの話とかですか?」

シロ「……まぁ、それも含めてね。だけど大丈夫、春までは先生、こっちだっておっしゃってたよ」モグモグ

玄「そう、ですか……ありがとうございます」

京太郎「あ、お土産も渡してくださったんですね」

シロ「うん。喜んでらしたよ」

京太郎「イカ焼き、おっきめですけど……これ食べられますか?」

シロ「まぁ、お腹空いてるから……京太郎が作ってくれたのだったら、全部食べられるけどね、絶対」

京太郎「すみません、さすがに食材が……」

シロ「いいよ、別に。昨日は焼き菓子もらえたし、それで十分。ほら、座って」ポンポン

京太郎「それじゃ、座りましょうか。玄先輩も、どうぞ」ハンカチ

玄「はぅっ! え、えへへ、照れますのだ……」テレテレ

シロ「……相変わらずだよね。私にもだしたし……何枚ハンカチ持ってるの?」ジトー

京太郎「まぁ、執事の嗜み程度には持ち合わせてます……十枚くらいだったかな」

シロ「」

玄「」

京太郎「じょ、冗談ですからね!? と、とにかくほら、食べましょうよ!」



京太郎「焼きそばどうぞ、はい、あーんしてください」

玄「!?」

シロ「あー……うん、おいしい。京太郎に食べさせてもらうと違うね」モグモグ

京太郎「口元にソースが……」スッ

シロ「ん……」ハムッ

玄「!?!?」

シロ「んちゅ……れろ、んぅ……ぷぁっ……はい、綺麗になった」

京太郎「じゃ、二口目いきますねー」

玄「」

シロ「はむっ」

京太郎「ソースが」

シロ「んっ、れりゅぅ……ちゅっ、ちゅぷぅ……んぁ、ふぅ……次」

玄「お……」

玄「お姉ぢゃぁぁぁぁ~~~~~~~んっっっっ!」ブワァッ

京太郎(かわいい)

シロ(……こんなにサービスしてるのに、全然反応ないなぁ)ツマンナイ

シロ「……ちゅっ……もういいよ、自分で食べるから」

京太郎「そうですか?」

シロ「……今度は、京太郎の料理がいいなぁ」

京太郎「……そうですね。俺もご馳走したいです」

シロ「よろしくね」


京太郎「あのあと、外部客は帰る時間になり、シロ先輩は帰って行った――赤土先生が送ってくれたし、途中で倒れたりはしないだろう」

京太郎「あと、玄先輩はあのまま泣き止んでくれず、麻雀部と合流したら、憧にすごい勢いで蹴られた」

京太郎「痛かった(小並感」

憧「だから誰に説明してんの! あと蹴られるようなことするほうが悪い!」

宥「そうだよ、玄ちゃんを泣かせるなんて、だめ……メッ!」

京太郎「ふぐぅっ……す、すみませんでした、宥先輩!」フカブカー

宥「……うん、わかればよろしい」ナデナデ

京太郎「」キュン

憧「こら! 正気に戻りなさい!」

穏乃「おーい! 校庭でファイアー始まるってさー! 行こうよー!」

灼「フォークダンス、やるって……」

京太郎「へー、懐かしいなー……って、あれ?」

京太郎「ここ、女子校ですよね。で、フォークダンスですか?」

灼「そう」

京太郎「女子が女子と?」

憧「なに言ってんの、男子ならいるじゃない、こ・こ・に~?」ニマー

京太郎「……冗談だろ?」

宥「冗談じゃないよ~。みんながね、男子と踊ってみたいっていうからぁ、赤土先生が提案してくれたんだって~」

京太郎「なにやってんだレジェンドおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!」

晴絵『無茶しやがって……』キラン

京太郎「キランッじゃねーよ! 無茶したのそれお前のほうだろ! そしていままさに無茶しそうなのは俺のほうだよ!」

穏乃「なに騒いでんのさっ、京太郎! ほらっ、行こうよ!」

京太郎「――しゃーねな、おっし! 行くか、穏乃!」ギュッ


~11月第一週日曜、学園祭二日目、終了 ※夜行動は入れます、健夜誕生日です、一応


~夜行動

京太郎「うーむ、あのあとつい、ファイアーの後片付けまでしてしまった……」

京太郎「まぁ、フォークダンスどころか社交ダンスも教わってるから、ダンス自体は問題なかったが……」

京太郎「全員と躍るのは、マジできつかった……掃除で回復しないと、マジで瀕死だったぞ……」

京太郎「さすがに散歩は無理だな、やめとこう」

京太郎「さて、遅くなったけどメールしとかないとな、健夜さん」

京太郎「学園祭で遅くなりました、お誕生日おめでとうございます」


『本当にメールくれたんだね、ありがとう』

『もしかしたら忘れられちゃったかなって、少し不安だったんだ』

『覚えててくれて、すごく嬉しい』

『今年は、いままでで一番の誕生日になったよ』



慈悲はなかった、上げて堕とすとはこのことか


京太郎「……いままで、どんな誕生日だったんですか」


『あ、聞いちゃう? そっかぁ、えっとねぇ……』

『ほんとにね、たいしたことないよ? 小学校までは、家族とかクラスの友達が祝ってくれたかなぁ』

『中学以降は、そういうのより麻雀漬けでね、気がつくと誕生日が過ぎてたっていうか……ね』

『で、大学は行ってないから、プロになったんだけど、それでもやっぱり試合とか打ち上げとか、なんやかんやで……』

『気がつくと25も越えて、そうなるとみんな気遣うようにして、誕生日の話題避けてさぁ……うん、あれがきつかったなぁ』

『だからね、今日は最高だよ。絶頂のときの絶頂より、どん底からの絶頂のほうが、幸せだからね』フフフフフ


京太郎「」



京太郎「次にお会いしたら、お祝いにケーキ焼きますよ。約束します」


『わっ、嬉しいな』

『そうだね、奈良には行けないから……京太郎くんが、こっちに来るか』

『また別の学校に行ったときになるね』

『ありがとう……あ、そうだ』

『京太郎くんの誕生日は、欲しいものなんでも買ってあげるからね』

『遠慮せず、なんでも言っていいよ』

『これも約束だから。じゃあ、またね』

『おやすみなさい』

京太郎「……そこはかとなく、重いような……でも、可愛いんだよなぁ、あの人」

京太郎「さて、あとは誰にメールしておこうか。もう遅いし、手短に――」

京太郎「無事に帰れましたか? まだだとしたら、道中気をつけてください。来てくださって、ありがとうございました」

京太郎「春のこと、叱らないでやってください。本人も反省してるようでしたから。その、偉い人に怒られるなら、なるべく庇って――」

京太郎「いえ、すみません、出過ぎたことでした。ともかく、許してやっていただけると、幸いです」

京太郎「霞先輩にもメールしましたが、春のことは――俺にも責任があります、すみませんでした。本人も反省してるはずです」

京太郎「春からなにか聞いたら、俺が心配してたと伝えてください。あと、怒ってはいないってことも、です。すみません、伝言ばかりで」

京太郎「……大丈夫かな、春のやつ……」

~11月第一週日曜、終了

【11月第一週日曜】
 学園祭が終わった。無事に終わってなによりだ。そして、料理教室の参加者からも、賞賛をいただいた。
 松実館の旦那さん、板長さん、兄さん方、姐さん方には特別に謝辞を述べたいと思います。
 ありがとうございました。

 また、遠方より来てくださった方にも感謝を。
 そしてもちろん、楽しい学園祭を共に過ごした阿知賀女子の皆さん、麻雀部の面々にも。

 楽しい思い出の提供をご提案くださった阿知賀のレジェンドには、さらに特別な感謝を。
 絶対に許さない、絶対にだ。まぁ冗談ですけど。
 学園の女性全員とフォークダンスなんて、マンガかアニメでしか起こらないことかと。
 腕が上がらなくなったときは、どうしようかと思った。
 ファイアーの片づけで、ある程度の疲労を回復できなければ、かなり危ないところだったはず。
 やっぱり反省しよう、レジェンド。

 …………

 『その割にはデレデレしてたじゃない、バーカ』

 してねーよ! いや、たしかに三年のお姉さま方はあれだ、立派なおもちの方が多かったが……。

 『楽しかったよ、京太郎! また踊ろうね!』
 『……できれば、一緒に回りたかった……午前はお疲れ、ありがと』
 『すごーく楽しかったよ! 宮守の先輩さんにもよろしくね!』
 『ファイアー、あったかかった~』
 『ふむ、この反応……いやー、企画してよかったっぽいねー、あははっ』

 そこまでにしておけよ、レジェンド。

 『――いや、マジな話だと心から反省してるんだ。ごめん、須賀くん。かなり調子に乗ったと思ってる』
 『企画が通るとは思わなかったっていうのもあるけど……必ずお詫びはするから、本当に悪かったね』

 許した。全力で。記事追加しておくか。

 …………

 レジェンドの件は冗談です。とても楽しい経験を、ありがとうございました。

 …………

 ――あれ、これって全校女子と踊れた俺が、すげー軽薄みたいにならねえ? ま、いいか……。

 『楽しかったよ、ありがとう……でもダメだね、一回会うと毎日会いたくなる……涙腺、こんな脆いとは思わなかった』
 『……私は反省してる。今度会うときは、誰にも迷惑かけないよう、堂々と会いに行くから。今日はありがとう、京太郎』

 あの二人だな……どっちにも申し訳ないな。
 それと、あいつのフォローだけ頼んじゃった人たちには、あらためてメールしておこう。

 『ごめんね、京ちゃん……いま白糸台に帰ったから』
 『ごめんね、京ちゃん……清澄に着きました』
 『すみません、京太郎くん。そういうことですので、練習を優先しました。京太郎くんを見習い、部のためにできることをしたかったんです』
 『すまんのう、京太郎。あんたも会いたかったじゃろうに……ま、機会を見つけてこっちに来るとええ』
 『そのときはリベンジするじぇ!』

 なにやってんだ、あの二人は……結局、沖縄と北海道に旅行しただけか? なんだ、いい週末じゃないか。

 『遅くなりましたけど、土曜日はお世話になりました。かっこよかったですよ、とっても』
 『先日は後輩が、今日は私が世話になってしまったな。とても助かったよ、本当にありがとう』

 晩成の二人、だよな? こちらこそありがとう。

――――――――


~清澄

「……おいしいですね、白い恋人」
「ほんと、紅茶とも合うわよね」
「ごめんなさい……」
「まぁ……反省しとるなら、わしからはなにもないわ」
「咲ちゃん、気を落とすなだじぇ……」
「ありがとう、優希ちゃん……和ちゃんも、ごめんね。意地張って、一人で行こうとして……」
「いえ、もういいんです。だけど次は、一緒に行くか、一緒に待ちましょうね。帰ってくるのを」
「っ……うん、そうだね!」
「いいはなしだじぇー」
「丸く収まってよかったわね、部長?」
「わしが旅行に行く前に片付いてよかったわ、うむうむ」
「そういえば、まこの修学旅行先――奈良も入ってたわよね」
「!?」
「!?」
「……ぐ、偶然じゃ。その目はやめんさい」

~龍門渕

「――お疲れさまでしたね、須賀くん」
「なるほど、よい出来ですわね。これならばどこか、龍門渕の旅館を紹介してあげられるのではなくて?」
「……そうですね。彼が望むのであれば、そうした修行先も必要になるかと」
「萩原さん、自分が教えたいって顔してるよ?」
「ふふっ、そうかもしれませんね、国広さん。ですが今頃、松実館の板長たちも、そう思っているでしょう」
「しっかし、女だけじゃなく男にも好かれるやつだな。オレたちは、顔知ってるって程度だけど、そんなにいいやつなのか?」
「ふふん、純はまだまだだな! 衣ほどにもなれば、顔を見ればわかる! あれの器はなかなかのものだぞ!」
「……少なくとも、顔は及第点以上……」
「まぁ萩原さんには及ばないかな?」
「当然ですわ! ハギヨシは龍門渕の筆頭執事、すべてのおいてパーフェクトですもの!」オーッホッホッホ
「光栄の至りでございます」ニッコリ

~白糸台

「もー! 沖縄行ってまっすぐ帰ってくるって、なにしに行ってきたのさ、テルー!」ポリポリ
「帰ってこられたのは重畳だ、しかしこれで、岩手のことは奇跡だと証明できたな」ポリポリ
「……うるさいなぁ。それに勝手に食べないで、それは京ちゃんへのお土産なの」
「次に会う頃には傷んでますから、みんなで食べちゃったほうがいいと思いますけど……」
「どうぞ、お茶が入りました……」
「ありがと、タカミー! うーん、渋いお茶がうまい!」プハーッ
「お前、先輩のために自分で淹れようとか、そういう気はないのか……?」
「まったくもって!」
「呆れ果てたやつだ……」ハァ
「平気ですよ。こう見えて、一年のまとめ役もしっかりしてくれましたから、ご褒美です」ナデナデ
「なによりうちのエースですからね、練習漬けにしたらその分、甘やかしてあげたいですし」ナデナデ
「えっへへー♪ ごめんねー、スミレ? 私は愛されキャラだから、スミレにだけ甘えるわけにはいかないんだー♪」
「はいはい、わかったよ……おい照、いつまで拗ねてるんだ」
「……京ちゃん……ぐすっ……」
「マジ泣きするな! ああ、わかった……次に行くときは、ついて行ってやるから」
「ほんとに!? ありがとう、菫大好き!」
「現金なやつだ……だがその代わり、旅費は持ってもらうぞ」
「大丈夫! 恵比寿との契約金があるから!」
「……くれぐれも、無駄遣いはするなよ?」
「京ちゃんに会うためのお金はムダじゃない」キリッ


~永水

「京太郎くんにまで迷惑をかけて……悪い子ね」
「……ごめんなさい」
「ま、まぁまぁ、春ちゃんも反省してますから……」
「姫様は甘すぎますよ。でも……はるるならそうなると思ってましたから、一人で行かせてしまった私たちの落ち度でもありますね」
「やっぱり二人で行くべきでしたかねー、もしくは三人で――」
「明星と湧の負担を大きくするのもね……これが限界よ」
「……本当に、ごめんなさい。反省してます……」
「まぁ、新子の取り成しもあったから、上の方々もお目こぼしくださったわ。きちんと反省してくれれば、私たちからはなにも」
「あちらの娘さん――望さんでしたか、しっかりした方ですよね」
「小蒔ちゃんも負けていられないわね」
「はい!」
「そういえば、新子の次女さんが阿知賀女子の麻雀部だそうでー。望さんのほうは、チームが10年前に、小鍛治プロと対戦したそうですよー」
「へぇ、なんというか、奇妙な縁ですね」
「……新子、憧……仲良さそうだった」
「あら、そうなの……ん? ごめんなさい、電話が……あら」
『春のことばかり頼んですみませんでした。一人こちらに来たということは、そちらは忙しかったのでは?』
『よければ労いのお茶を、淹れさせていただきたいです。お疲れさまでした、また折を見て、電話しますね』
「…………/////」ニヘー
「霞ー? 顔がドロッドロですよー?」
「!? なな、なんでもないわっ、ええ、まーったく!」カァァッ
「あやしいですね……あ、すみません。私も電話が……あっ」
『今回の件では、きっと巴さんが一番、気苦労を負担されたのではないかと。なにかあったら、いつでも言ってください』
『マッサージでもお茶でも料理でも、駆けつけてお世話させていただきますから』
「…………も、もうっ……えへへっ」///
「あ、あの、巴ちゃん?」
「――はっ! い、いいえ! なんでもないです!」

(あやしい……)
(……きっと、京太郎だ……やっぱり、優しいなぁ……///)
(どうしたんでしょうか……?)

~宮守

「ただいま、これお土産」
「――随分と楽しかったみたいね。なに、このメール」
「ツーショット写真、せっかく腕組んで歩いたから、ついでに」
「いいなー! 私も京太郎くんと、腕組んで歩きたいよー」
「(大学のキャンパスを歩く京太郎とエイスリン)」カキカキ バッ
「!! そうか! 京太郎くんも同じ大学なら、三年と四年の2年間、一緒なんだよね!」
「……まぁ、京太郎くんが同じとこ行ってくれるかわからないけど……そうなれば、楽しいわよね」フフッ
「なにそれ、ずるい……」
「その分、2日間楽しんだでしょ?」
「2日と2年……うん、平等だね!」
「トウカ、コウカン!」
「理不尽だなぁ……でも、うん……たまにそこに混ざれるなら、わるくないかな……」
「えー、たまにじゃやだよー! もっともーっと、6人で過ごそうよー!」ニコー
「……そうね。ならまずは、私たち全員が合格することよ、頑張りましょ!」
『はーい!』


~阿知賀A

「いやー、大変だったわよ、今日は」
「なによ、こっちだって忙しかったんだけど……主に、京太郎が、だけど」
「んー、なんかね。鹿児島の神社から挨拶の方が来られたんだけど、一時間以上遅れられてさぁ、事故かと心配したんだけど――」
「えっ、大丈夫だったの?」
「ま、無事は無事よ。その挨拶の方って高校生だったんだけどね――しかも、あんたと同じ一年生」
「へー、立派ね」
「憧も見習いなよー」
「あんたがそれ言う?」
「わ、私は土産物屋も和菓子屋も、手伝ってるよ!」
「そう? たまに用があって行くと、山ばっかり行って手伝ってくれないってぼやいてらっしゃるわよ」
「」
「そう思うなら、あんたもちょっとは手伝いなさいよ、年末年始だけじゃなくってさぁ」
「えー、だってお姉ちゃん頼れるし、いいじゃん」
「甘えないのっ……おっと、それでね。その一年生、遅れてた時間……阿知女の学園祭に行ってたらしいのよね」ニヤニヤ
「へー、そうなんだ! なら私らとも会ってたのかな」
「そりゃそうでしょ。麻雀部の出し物、顔だしてたみたいだし……京太郎少年狙いで」
「!? ふ、ふーん、そうなんだ……でも、初対面なら別にどってこと……」
「彼女、永水女子の生徒らしいから。かなり親密なんじゃない? 挨拶のあと、ちょっと話題に振ってみたら、すっごい笑顔だったけど」ニマー
「あー! そういえば、いたよ! そんな感じの女の子! 玄さんと一緒に、京太郎からお昼、食べさせてもらってた!」
「なぁっ!? シ~ズ~? あんたねぇ、それ黙って見てたのっ?」
「ぅ? そ、そうだけど……えっ、なにかおかしかった?」
「うっ……い、いや、別に……そういう、わけじゃない、けどぉ……」モジモジ
(クククッ、効いてる効いてる)ニヤニヤ
「まー、あれだよね。来月には彼も移動だし、次は永水かもしれないのよねー」ボソッ
「――!!」
「えー、それはやだなぁ……来月も、その次も、京太郎と遊びたいよ! あとお菓子焼いてもらいたい!」
「うんうん、そうだよねぇ。欲望に忠実なのも、女子高生の特権よ。シズちゃんは素直で可愛いわねー」ナデナデ
「え、えへへー? そうですか?」
「……ふーんだ、あたしはどうせ、可愛くありませんよーだ」プイッ
(かわいい)
(かわいい)

~阿知賀B

「今日はすごかったね~。京太郎くん、板長さんたちみたいだった~」
「そう、だね……ねえ、玄ちゃん……午後からは、どうだったの?」
「うーんとねぇ……宮守の先鋒さんと、模擬店行ったりしたよ! あ、でも……」シュン
「二人とも、とっても仲良さそうだったよぉ……ぐすっ」
「!! あっ、あっ、ごめんねっ、玄ちゃん、大丈夫だよっ」ナデナデ
「宥さん、甘やかしすぎ……玄も、いちいち泣かないの。あっちは一ヶ月いたんだから、仲良くて当然」
「こっちも残りで、それ以上に仲良くなればいいだけ」
「でもぉ……来週は、修学旅行が……」
「言わないで。わかってるから……」ズーン
「あったかくない……」ブルブル
「……まぁ、決まったことで悩んでも仕方ない。その前に連休もあるし、うまく活用しようか」
「あ、明日は代休もあるし……もしかしたら、一緒に過ごせるかもしれないよ?」
「そっかぁ……うん、頑張るよ!」
「玄はあれだよね、沈みやすいけど立ち直りも早い」
「それが玄ちゃんのいいところだよ~」ニコニコ






~某居酒屋

「小鍛治プロ、2――」
「年齢はださないでいいでしょ! お祝いだけしてよ!」
「ともかく、おめでとうございます……ふぅ」
「あれ~? どうしたのかな、良子ちゃん☆ 元気がないぞ☆」
「ああ、いえ……久しぶりに京太郎くんからメールが来たのですが、従妹のフォローを頼まれまして」
「いいんじゃないの? 認めてないけど、仲を取り持とうとしてるんでしょ☆」
「……まぁ、そうなのですが……女性として、こうも意識されていないかと思うと、その……矜持が傷つくといいますか……」
「横文字!」
「良子ちゃんが英単語使わないなんて、だいぶ素だね……疲れてる?」
「まぁ、多少は……」
「そういや、すこやん落ち着いてるよね! いっつも誕生日付近はピリピリしてるのに」
「してないよ! まぁ、でも……今年はねー、京太郎くんからメールもきたしー、次に会ったらケーキ焼いてくれるらしいしー」ニヘヘー
「うわっ、すこぶるうざいかなっ★」
「黒いの飛んでますよ、瑞原プロ」
「あれ、この中では藤田プロと……三尋木プロも、まだお知り合いではないのでしたか?」
「そうなんだよー、えりちゃーん、わっかんねーけどさー」グビグビ
「十分わかってらっしゃるじゃないですか……」
「まぁ会っていても、こうして一喜一憂するのは面倒ですからね。却っていいと思ってますよ、私は」
「わかります……前に仕事で一緒したときの、野依プロの落ち込み具合ときたら……」ハァ
「……落ち込み具合、わかるんですか……」
「失礼!」
「はぁ、すみません……(いつも怒ってるようにしか……とは言わない)」
「まーまー、野依さんは口下手なだけだからねい。表情というか、感情は豊かだと思うよん」
「で、良子ちゃんはいつまで黙り込んで――あれ?」
「…………ふふっ、まったく……」
『すみません、久しぶりのメールにあんなことを。良子さんはお変わりありませんか?』
『よければまた、ご指導いただきたいと思います。幸い、愛媛と奈良でしたら、さほど距離があるわけでもないですし』
「はぁ、いけませんね……独り身をこじらせては、嵌まり込んでしまいそうです」
「なにそれ、イヤミかな★」
「急に飲みたくなってきたなぁ……でも、やっぱりウーロン茶で」
「約束!」
「……律儀ですね、みなさん」
「基本真面目ですもんねー、あ、唐揚げにレモンかけていいですかっ?」
『おいふざけんな』
「あははっ、冗談ですよ!」

~11月第二週月曜(代休)

京太郎「今日は学校も、そして午前の部活も休み……つまり全休だ」

京太郎「午後からはなんでもできるが――そういえば、今週末に部長の誕生日があるな」

京太郎「来週は熊倉先生、それに利仙さんの誕生日か。連休に合宿か旅行があるなら、プレゼントは今日しか買えないだろう」

京太郎「とはいえ、送られても驚かれるだけかもしれない、無理に買うこともないな」

京太郎「余計なことは考えず、久々に麻雀でも打とうかな」

京太郎「さて、誰と打つか……悩ましい」

京太郎「――というわけで、よろしく」

憧「……まぁいいんだけどさ。翌日でよく疲れてないよね、腕は?」

京太郎「家事してたら治った」

憧「」

玄「ああ、よくあるよね! 私も、お姉ちゃんのお世話してたら、いつもより動きやすくなるんだ~」

京太郎「世話好きあるあるですね、これは」ウンウン

憧(……オーケー落ち着こう、きっとこいつらが特別なだけ、私はおかしくない……)

晴絵「いや、一応代休は部活禁止――」

憧「……京太郎が打ちたいんなら、いいんじゃない? 連盟のお墨付きだし、知らないけど」

晴絵「ダメだった場合、怒られるの私なんだけど……まぁいいか。無茶させたお詫び、これってことで」

京太郎「はい、お願いします」

晴絵「んで、私はどうすればいいのかな?」

晴絵「オッケー、ならわりとマジで打つからね」ゴッ

憧「うっわ、本気すぎ……あーあ、疲れるのよねー」

玄「ふっふっふっ、いつまでも赤土先生に負ける私じゃありませんのだ!」

晴絵「なら疲れてるだろうし、東風戦ってことで。こまめに休憩して、メインは検討ね、それでいい?」

京太郎「了解です。憧、悪いな、疲れてるところ。玄先輩もありがとうございます」

憧「んー? 別にいいわよ、たまたまヒマだったしさ」

晴絵「たまたま、ねぇ……望はそんなこと――」ニヤニヤ

憧「黙ってなさいよ、もう!」

玄「き、気にしないでいいよ、京太郎くん!」

玄25000→24200→18400 四位
晴絵25000→24600→30400 一位
憧25000→26600 二位
京太郎25000→24600 三位


晴絵「はい、ラストでまくり~ しゅうりょ~」ドーン

憧「くっっ、稼ぎ負けた!」クヤシイッ

玄「うぅぅぅ、狙われてるよぉ……」

晴絵「ドラ抱えてるからやりやすいんだも~ん、教えてるコントロール法、まだできてないねー」フフン

京太郎「さすがレジェンド……ちょっとだけ見直した」

晴絵「――とまぁ、いまの分はこんな感じで。憧はもっと打点意識ねー」

憧「はいはい、わかってますって」

晴絵「ドラに頼らず、だよ? まぁ玄がいるから、意識はしてるだろうけど」

玄「ふふんっ」ドヤッ

京太郎「先輩、俺にも負けてますからね……」

晴絵「じゃあ、このまま続けていいかな?」



京太郎以外テンパイ

玄25000→23700→24700 三位
晴絵25000→24300→25300 二位
憧25000→27700→28700 一位
京太郎25000→24300→21300 四位

晴絵「あらら、捲り損ねた……やるじゃない、憧」

憧「打点は改善できなかったなー。ま、あたしの持ち味は速さってことで♪」

京太郎「」

玄「ド、ドンマイだよ、京太郎くん!」

晴絵「須賀くん、ちょっと疲れ溜まってるみたい?」

京太郎「自覚ないですけどね……まぁ気をつけておきます。ありがとうございました!」

~代休夜行動なし、代休終了


京太郎「……まぁ、電話くらいは……」

久『はーい、もしもし、須賀くん? 愛しの久よ』

京太郎「あー、はいそうですね……お誕生日おめでとうございます、ハニー」

久『あら嬉しい。そんなの忘れちゃってるかと思ってたわ。ありがとうね、わざわざ』

京太郎「――お世話になった先輩の誕生日ですから、忘れるわけありません」

久『……っ……あ……あはは、言うわね、須賀くん。すっかり嫌味も上手になっちゃって――』

京太郎「嫌味じゃありません、本心です。その……プ、プレゼントは買い損ねましたけど」

京太郎「部長には本当にお世話になったと思ってます。俺が麻雀と出会えたのは、部長が麻雀部を作っててくれたからですし」

京太郎「こうして色んな学校で、色んな人に会って、こうして成長できたのも、すべて部長のおかげです」

京太郎「感謝しています……ありがとうございます」

久『――――』

久『ばっ……ば、かっ……っっ……』グスッ

久『――っっ……あーあ、本当にお人好しね、須賀くんは! そんなんじゃこの先、もっとひどい目に遭うわよ?』

京太郎「望むところですよ。俺は逆境でこそ、燃える男ですからねっ」

久『あらそう? なら次は、なにをしてもらおっかなー』クスクス

京太郎「あっ、やっぱり部長なんですね」

久『えっ?』

京太郎「この先もっとひどい目に遭う――じゃなくて、遭わせるってことでいいんですよね?」ニヤッ

久『あぁ……ふふっ、そうね。まぁ悪い女につかまったと思って、諦めなさい』

久『ひどい目に遭わせる相手が知り合いなら、まだ許せるでしょ? なんてねっ』

京太郎「ま……美人相手なら、仕方ないですね」

久『……あーあ、ほーんと。可愛くない後輩になっちゃったわねぇ、口ばっかり上手くなって』クスクス

京太郎「これも本心ですから」

久『……いいわ。なら、これからもこのいい女が騙してあげる、ひどい目に遭わせてあげるからね』

久『諦めて、しっかり付き合ってもらうわよ――京太郎!』

京太郎「!! はっ……はい! よろしくお願いします!」



~久誕生日終了、連休活動選択へ続く

晴絵「――というわけで、明日からの連休は麻雀部強化合宿を行うわよ! 三年も参加だからね」

宥「えっ?」

憧「ちょっと、いきなりっ!?」

穏乃「いやったーっ! ダンベルとー、プロテインとー、準備大変だなー」

京太郎「お風呂に浮かべるアヒルさんも忘れんなよ」

穏乃「あっ、そうだった! ありがと、京太郎!」

京太郎「マジで持って行くのかよ!」

灼「っていうか、そんなの聞いてな……」

玄「どっ、どっ、どこに行くんですか?」

晴絵「場所は松実館――って聞いてるけど、予約客になかった? 4部屋借りたって言ってたよ?」

玄「えーっと……」

京太郎「……ん? あっ! ありましたよ、確か4部屋予約、11名のお客さま! 渋谷って――」

京太郎「渋谷……?」

憧「色々聞きたいことはあるけど……なんで偽名? っていうか、松実館に泊まる必要ないじゃない、ここでやるんだったらさぁ」

灼「っていうか、なんで伝聞……」

宥「赤土先生が借りられたんじゃ、ないんですか……?」

晴絵「ふっふーん、そういうこと♪ まぁでも、一緒に泊まるっていうのは先方の提案なのよね。許可したのは私だけどー」

穏乃「うはー! 松実館泊まるのって、実は初めてですよね! ご飯おいしそう、楽しみ!」

憧「落ち着きなさいってば! で、先方ってことは……そっちの合宿に、うちらが混ざるってこと?」

晴絵「んー、近いような……まぁ合宿+合同練習って感じよね。向こうは夏のインハイメンバーで来るっていうから、こっちもそれでお迎えしようってこと」

玄「それで、その渋谷さんっておっしゃる方は、いったいどちらの――渋谷?」

憧「あれ、なんか聞いたような……あっっ!」

灼「白糸台……渋谷、尭深……?」

京太郎「やっぱり、ですよね」

晴絵「ご明察、その通り! 合宿相手は夏のインハイ団体戦準優勝っ……」

穏乃「あぁ……宮永さんの嶺上ツモ親被りで、捲られて三位転落したんだ……ごめん、みんなっ……」

憧「過ぎたこと悔やんでも仕方ないでしょ……そもそも、あたしがラス親のあの人止めらんなかったから……」

晴絵「……あー、続けていい? ま、そういうのも踏まえての強化なんだけど……準優勝校で、個人優勝の大エースを抱える白糸台に、お越しいただくってこと」

晴絵「提案はあちらから、ありがたいことよね」

灼「腑に落ちぬ……白糸台なら練習相手に事欠かないはず、わざわざ阿知賀に来る必要ある?」

玄「そうだよね……あ、でもお客様になってくださるならありがたいかな~」

宥「もう、玄ちゃんってば。ところで、4部屋ということは、インハイメンバー以外も来られるんですか?」

晴絵「ううん、あっちは5人、それでこっちも泊まれるようにって、お金はだしてくれるんだって」

晴絵「さすが恵比寿、せっかく交渉権掴んだ一位指名逃がさないように、契約金は規定いっぱいまでつけたみたいね!」

京太郎「生々しいこと言わないでください、教え子の前で……っていうか、照さんが首謀者ってことですか」

晴絵「いやぁ、ありがたいことで……色男はつらいねぇ、須賀くん?」

憧「………………」

穏乃「? どしたの、憧?」

憧「べ、べつにー?」


京太郎「でもいいんですか、照さんはともかく、宥さんと……あっちの弘世さんは、受験勉強もそろそろ本腰を入れないと――」

宥「わ、私は構わないけど……たしかに、弘世さんはそういうのに厳しそうだよね」

晴絵「んー? 本人は渋ってたみたいだけど、宮永さんが行くからやむなく、だとか」

晴絵「向こうの部長からは、引率の監督代わりに弘世前部長が同行するって聞いてるわ」

京太郎「お守りか……すみません弘世さん、お察しします」

晴絵「あぁでも、勉強という点ではいいかもね。宥と一緒にすればいいわけだし、あと――須賀くんもいるんだから。色々見てあげればいいじゃない」

京太郎「――そうですね。お詫びとお礼も兼ねて、なるべくそうします」

晴絵「はーい! じゃあもう不安はないわね、全員二泊三日の用意して、明日は松実館に集合!」

玄「えーっと、私たちはどうすればいいのかな。自分の家があるんだけど……」

宥「一緒でいいんだと思うよ。あちらのご厚意だし、たまには羽を伸ばしてのんびりすればいいよ、玄ちゃんも」ニコニコ

玄「そ、そうかなぁ……じゃあ、お言葉に甘えるよ!」

京太郎「連休だし、玄さんもいないとなると忙しそうだな……で、学生が11人――あれ?」

灼「あっ……ハルちゃん、どういうこと? 11人だとお互いの学校の部員だけ、ハルちゃんは――」

憧「ふきゅっ!? ちょ、ちょっと待って! 普通は女子部員とハルエでしょ!?」

穏乃「えーっ! 京太郎も赤土先生も、一緒がいいよ!」

晴絵「いやー、私もそうしたかったんだけどさぁ……ほら、未成年がいっぱいだと、おいしい料理でも飲めないじゃない? で、せっかくだから望の家でも泊まろうかなーって」

憧「それうちのことじゃないの!」

憧「――ってそうじゃない! じゃあ京太郎も一緒に泊まるのっ、正気!? かか、仮にも、男と女でっ……ひっ、一つ屋根の下って――」カァァァァッ

京太郎(シロ先輩とほぼ同棲だったことは……内緒にしておこう)

穏乃「へ、なんで? 憧は京太郎と一緒、嫌なの?」ウキュ?

憧「そ……そう、は、言ってない……じゃなくて、そ、そういうことじゃなく――あぁ、もう!」

穏乃「ぅ?」

灼「……シズには難しいから、そっとしといてあげてほし……」

穏乃「はーい」

灼「それじゃ、ハルちゃんは練習のときだけ顔をだす。旅館は私たちと京太郎、白糸台のチーム虎姫が泊まる、とりあえずはそれでいい?」

晴絵「うん、問題なし! いやー、部長がしっかりまとめてくれて、助かるわー」ナデナデ

灼「……///……あっ、まだだ! 自動卓どうするの、旅館のはたしか一つだけ……」

晴絵「まぁそれは、ここにあるのを持って行ってもらおうかと。須賀くん、お願いしていいかな?」

京太郎「わかりました。帰りに松実館に寄りますから、持って行っておきます」


晴絵「……いや、荷運び用の車借りてるから、そこまででいいんだけど。あと、運ぶのはみんなも手伝うからね、一応」

京太郎「……そうですか」シュン

宥「残念だったね、京太郎くん……」ヨシヨシ

京太郎「うぅ、宥先輩、ありがとうございます……」スリスリ

憧「宥姉から離れなさい、ヘンタイ! っていうか普通、そこは安心するとこでしょ、なんでがっかりするのよ! それに宥姉も、慰めるとこじゃない!」

穏乃「忙しいねー、憧」

憧「あんたはさっそく荷造り始めない! っていうか、なんで学校に筋トレグッズがあるのよ! いつの間に!」

京太郎「あ、俺のもあるわ。おい穏乃、そっちの20kgウエイトバッグは俺のだぞ」

穏乃「あー、道理で重いと思った、あははは!」

憧「……おぉ、もう……」

玄「憧ちゃん、大変だね……」

憧「そう思うなら、玄もツッコミ側に回ってよぉ……」グスグス

玄「そういえば京太郎くんも、うち泊まるのは初めてだったよね?」

憧「ふっきゅ!?」

京太郎「あー、はい。でも本当にいいんですかね、そっちの赤くなってるのの言うことももっともですし、俺だけ家に帰っても平気ですけど」

憧「はぁっ!? べべ、別に赤くないしー? あたしは、ほかの子とか白糸台の人たちを心配しただけだもん!」

晴絵「だめだめ、一緒に泊まるのも条件のうちなの。大エースさんと新エースさんのね」

晴絵「二人とも、須賀くんが一緒ならおいしいものがいっぱい食べられるって、期待してるみたいよ」

京太郎「朝晩は主に、板長のですけど……まぁお昼と差し入れは、腕を振るいますよ」

灼「期待してる……それと、また面倒をかけ……」

京太郎「気にしません! みなさんが麻雀しやすい環境を作る、それが俺の仕事です!」

宥「だめっ……京太郎くんも麻雀するの、それが合宿だよ……わかった?」

京太郎「はい」

灼「うわ、あっさり」

憧「……なーんかさぁ、宥姉の言うことだけはしっかり聞くわよね、京太郎。からかったりもしないしさぁ、ひょっとして、その……そういう、関係なの?」

宥「~~~~~~っっ!? ちち、違うよっ、なに言ってるの~」ブンブン

京太郎「そういうって……あぁ、それは違う。勘違いすんなよ、憧。俺と宥先輩に限って、そんなことは――ねぇ?」

宥「…………」ムゥー

京太郎「……宥先輩?」

宥「……知らないっ、京太郎くんの……ば、ばかっ……」

京太郎「アルェー」

憧「……ほっ」

玄「……お姉ちゃん、そうなのかな……だとしたら、私は……」

晴絵(ほっほう、これはこれは……望と飲むときの、いい肴ができたわー)

灼「ハルちゃん、すっごいゲスいよ……呆れるからやめて……」ハァ

晴絵「愛弟子にため息吐かれた……めげるわ……」

穏乃「合宿楽しみだなー、大星さんには負けないぞー♪」


~合宿編初日『虎姫到着』へ続く

『虎姫到着』

菫「やれやれ、ようやく吉野か……さて、ここから――」

照「京ちゃん!」ダッシュ

菫「――亦野」

誠子「宮永先輩落ち着いてください! 弘世先輩の指示を聞いてから動いて!」ガシッ

淡「ほーんと、テルーは落ち着きないよねー。キョータローのこととなると特に!」

尭深「そういう淡ちゃんこそ、足がウズウズしてるよ。早く行きたいって、急いてるみたいに」

淡「それは仕方ないかなー、だってキョータローいるんだもん。そしてお菓子の山があるんだもん!」

菫「淡、あくまで須賀くんは――」

誠子「京太郎くんは阿知賀の部員だから、あまり無茶言うなよ――ですね」

菫「――ということだ」

淡「ぶー! わかってるもーん。だけど私は信じてる、夢いっぱいの砂糖菓子を作ってくれるって」

照「もちろん京ちゃんのお菓子は楽しみ、だけど淡はまだまだ甘い。奈良の甘味は幸いにも、京ちゃんだけじゃない」

淡「えー、なんでさー」

尭深「……さすが宮永先輩、お詳しい……」

照「当然、旅先の名物は必ずチェックしてる」キリッ

菫「辿り着けるかは別物だがな、チェックするだけなら自由だ」

誠子「えーっと、つまりどういうこと?」

尭深「この奈良の地、特に吉野には、有名な和菓子の老舗があるの……メジャーではないけれど、知る人からは味と品格なら日本一とも言われている」

照「その名も――高鴨堂」

淡「おお! タカカモ!」

菫「なんだ、淡も知っているのか」

淡「ううん、まったくもって! あれー、でも……うーん、どっかで聞いたような……」

誠子「まあいいじゃない。とりあえず、現地に行けばわかるんでしょ? お土産の時間は最終日に取りますから、まずは……ロープウェイでしたっけ」

菫「そうだな。駅はあっちのようだ、急ごう」

~~

~~

京太郎「……心配すぎる、どうしようか……赤土先生、やっぱり駅まででも迎えに行きませんか?」

晴絵「あのねぇ、迷いやすいったって相手は高校生、駅からはまっすぐだよ?」

玄「そうなのです! さこや――じゃない、松実館のよいところは案内いらずの良宿というところ! もちろん、お迎えもおだししますが――」

宥「奈良の山地の、四季折々の風景をお楽しみいただき、散策しながらおいでいただけます。お客さまの来宿、心よりお待ちいたしております」ペッコリン

 ※イメージです。さこやは今月末に行く予定なので

憧「お~、さっすが松実館の看板姉妹♪ 跡取り娘らしいわね」

京太郎「では続いて、巫女新子憧によります、よしみ――じゃない、新子神社の参拝経路紹介です、どうぞ」

憧「はぁっ!? え、えーっと……駅からまっすぐ、ちょっと遠いかな? 石段も長くて、結構毎日キツいのよね……脚が太くならないよう、気を遣うのも大変です」

京太郎「ネガティブ情報満載だな、おい。いい神社だと思うぞ、石段も鍛えられそうだし」

憧「いや、悪いとはあたしだって思ってな――待ちなさい、京太郎」

憧「――なんでうちの神社……いや、そもそもなんでうちが神社だって知ってるのかっていう疑問はあるけど、なんでその場所まで知ってんのよ!」

京太郎「毎朝夕のロードワークコースだから。石段の前通るから、ちょっと気になって、買い物先のスーパーやらで聞いた結果、判明いたしました」ペコリ

憧「優雅な物腰はらたつ! なにそれ、ストーカーじゃない、やめてよ!」

京太郎「どう考えても偶然だろうが、それで会いに行ったり奥まで行ったりすりゃ、ストーカー認定でいいよ」

憧「……そこまでしたなら、遊びに来てくれたってさぁ……」ブツブツ

穏乃「え? なんだって?」

京太郎「ナイスタイミング、いい使い方だ」

穏乃「えっへへー、でしょー♪」

憧「ちょっとシズに変なこと教えないでよ!」

京太郎「んで、なんて言ったんだ?」

灼「京太郎に遊びに――んぐっ」

憧「ちょまっ……や、やめなさいよっ、そういうのぉ……」ボソボソ

灼「素直に物も言えない、憧が悪いと思……京太郎がかわいそ……」

憧「……うー、わかってるわよー……」

玄「それにしても、遅いなぁ、白糸台の皆さん……」

誠子「あのー……」

宥「もうすぐだって思ったんだけど……さっき弘世さんから、ロープウェイに乗ったってメールが……」

菫「いや、申し訳ない。こちらもまっすぐに行く予定だったんだが――」

宥「ふぇ?」

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最終更新:2026年01月15日 23:11