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~2月第三週金曜、昼

京太郎「そんなこんなで、もうお昼か……」

泉「こっちはやっとお昼や思てるのに……」

京太郎「色々やってると、授業時間ってすぐ過ぎるよな」

泉「ちゃんと授業聞かな」

京太郎「すいません」

泉「で、なにしてたん」

京太郎「ちょっとラテアートの練習を」

泉「あのコーヒーくさかったんは、あんたのせいか!」

京太郎「ちょっ、誤解! 実際にコーヒーは淹れてないから!」

泉「へ、そうなん?」

京太郎「むしろその匂いがあったから、俺も練習始めたわけで」

泉「それはそれでどうやろ……っていうか、それなら誰が――」

モブ子「私だ」

泉京太郎『お前だったのか』

モブ子「暇を持て余した――」

泉「いや、授業中はヒマちゃうやろ」

京太郎「勉強しろよ、テスト前だぞ」

泉「あんたが言いな」

京太郎「はい」

モブ子「やー、喉渇いちゃってさー。つい豆から挽いちゃった(・ω<)」

泉「やりすぎやろ……はぁ、もう疲れたわ。ご飯にしよ」

京太郎「俺もー」

モブ子「私もー」

京太郎「――で、俺とモブ子はさっきまで、職員室に……」ゴロゴロ

竜華「そっかぁ。あかんでー、ちゃんと授業聞いとかな」ナデナデ

京太郎「すいません……」ゴロゴロ

竜華「反省したかー?」ナデナデ

京太郎「しました」ゴロゴロ

竜華「ならええよー、ええ子ええ子」ナデナデ

竜華「――でも、ほんまはラテアートだけとちゃうやろ?」

京太郎「うっ……さすが竜華さん、なんでもお見通しですね」

竜華「なんでもとちゃうよ。見通せることだけ……というか、実際ラテアートだけで四時間も、時間潰せへんやろ」

京太郎「ですね……いえ、問題の作り直しとか、思いついた問題を今日のノルマに追加してただけですよ」

竜華「泉のためかぁ?」

京太郎「半分は。残り半分の半分はモブ子のためで、あとは自分のためです」

竜華「人のことがほとんどかぁ……優しいなぁ、京太郎は」

京太郎「竜華さんほどじゃないですよ。こうやって、俺のこと甘やかしてくれてますし」

竜華「受験も終わって、余裕あるからな……このくらいはなんてことあらへんよ。私も、こうしてるん好きやからな」ナーデナデ

京太郎「ありがとうございます……ちょっと寝ていいですか?」

竜華「ええよー……けど、それで私も寝てしもたら、堪忍な」

京太郎「さきに起きたら、寝顔拝見しますので」

竜華「えー、恥ずかしいわぁ」

京太郎「大丈夫ですって。竜華さん、綺麗ですから」

竜華「それでも恥ずかしいのー。しゃーないから、寝やへんようにしとかな」

京太郎「じゃあ俺も起きてます」

竜華「……それやと、目ぇ合うたまんまやねぇ」

京太郎「それも、いいかと……思い、ま……」スヤァ

竜華「あらら、言うてるそばから寝てしもて……ゆーっくりおやすみやぁ」ナデナデ

竜華「……ふわぁ……私も、ちょっと眠いかも……」フワァ

京太郎(……ふふふ、作戦成功……)

竜華「んー、でも起きとかななぁ……寝坊して、授業遅れたらまた、京太郎が怒られてまうし」

京太郎(…………なんだこの……すごい罪悪感は……すいませんでした……)ギュッ

竜華「んー? 腰に抱きついてきて、どうしたんやろ……なんの夢見てるんやー? ふふ、なんてなー」ナデナデ


~2月第三週金曜、放課後


京太郎「昼に寝たおかげで、頭スッキリだ」

泉「もう、もうあかん……数式が追っかけてくる……逃げてー!」

モブ子「ここは私に任せて先に行け……なぁに、すぐに追いつくさ」

京太郎「うわ言と会話するなよ……授業もあとは明日だけだ、なんとか乗り切れそうだな」

泉「せやったな! よっしゃ、もうちょいで――」

京太郎「……来週はテストだからな? 忘れるなよ?」

泉「せやった……あああ、麻雀したい……」

京太郎「えっ、やってないのか?」

泉「部活禁止やろ、なに言うてんねん……」

京太郎「ネトマとかゲームとか、あるだろ?」

泉「テスト前に、そんなんやってられへんやん」

京太郎(ゲームでやってる、とは言えない)

泉「ネトマも、サイト潰れてからやってないし……」

京太郎「あ、泉もやってたのか」

泉「京太郎くんも?」

京太郎「ああ。あそこがなくなってから、ほかは見てないけどな」

泉「私も。あそこおったんは、強い打ち手がおったからやねん。その人がどこ行ったかわからんとなぁ」

京太郎「なるほどなぁ……」

泉「あかん、話してたら打ちたなってまう……」

京太郎「……勉強するか」

泉「はい……」

京太郎「――ってな感じで、泉の元気がないです。どうしましょう」

怜「あー、麻雀楽しいなぁ」ジャラジャラ

京太郎「鬼か!」

竜華「私らも三年間そうやったし、まだ一年やろ? 来年には慣れてるって」

セーラ「そうそう。麻雀部やったら、そうなるんは当然やし、ほっといたらええて」

竜華「わかるわー。それを乗り越えて、テスト明けの一局目……あれがまた、たまらんねんなぁ」

京太郎(……あれー? 俺、そこまでなってないんだけど……あ、家でやってるからかな? 一日三十分くらいだけど)

怜「まあ、うちはそこまでの症状出んかったけどな」

京太郎「仲間!」ヒシッ

怜「おおう、どしたんスガキョン、甘えんぼさんか?」

竜華「!! きょ、きょ、京太郎くん! 怜に負担かけたらあかん!」

怜「いや、こんくらい平気やって……」

セーラ「必死過ぎやろ……」

京太郎「さーて、始まっちゃったし勉強するかぁ……」

京太郎「と言いつつ、あんまり勉強してないんだよなぁ……いつも」

京太郎「勉強中の気分転換についてー」

怜「掃除」

泉「部屋の掃除」

セーラ「?」

浩子「掃除」

竜華「掃除」

京太郎「――ってことで、掃除しますね」

泉「えっ、いまから?」

京太郎「大丈夫だいじょうぶ、ちょっとだけ、迷惑かけないから」

怜「実際かからんやろなぁ……まあええんちゃう?」

竜華「手伝おか?」

京太郎「いえ、大丈夫ですよ、本当に。すぐ終わりますから、のんびり麻雀しててください。終わったら、お茶の準備しますから」

セーラ「ええんか?」

浩子「まあ、最近は部室の掃除もやらせてませんでしたからね……そろそろ限界なんやと思います」


京太郎「なるほど……みんなが麻雀に飢えるのに対して、俺は掃除に飢えてたのか……合点がいった!」

泉「いや、その理屈はおかしい」

京太郎「――よーし、終わりっと」

泉「ん……あ、すごい。部室とちゃうみたい」

浩子「相変わらずやな……」

竜華「ほかの部屋はどうするん?」

怜「さすがにそこまではやらんやろー」

セーラ「いや、京太郎やし、わからんで」

京太郎「あ、大丈夫ですよ。先に終わらせてましたから」

五人『』

京太郎「やっぱ掃除すると、気分もよくなりますよね。新しいパンツを穿いたばかりの、正月元旦の朝のよーによォ~~~~~~~~ッ」

京太郎「――ふぅ、気分転換もすんだし、やるべきことをやらないとな、さすがに」

京太郎「よし、勉強するか!」

浩子「えっ」

泉「ウソやん」

京太郎「なんで!?」

浩子「真面目に勉強とか、キャラとちゃうやろ」

泉「それじゃお菓子でも焼いてきます、って言うとこやろ」

京太郎「ひ、ひどい……」

京太郎「あと、お菓子はいま焼成中なんで……あとで様子見に行きます」

浩子「いつの間に……」

泉「完全に最後の選択肢やな、勉強……」

京太郎「ちゃ、ちゃんとやるだけマシだろっ」

浩子「まあなんでもええけど……ちゃんと見たってや」

泉「別に、船久保先輩のほう見てもええわけですし」

浩子「はっはっは、いらんいらん。もうほとんど準備は終わっとるしな、前にもろたテスト予想もやってみたし」

京太郎「ふふふ、一応俺にも、新しい準備はありますよ」

浩子「ほぉう……まあ、その気があったら見せてもらおやないの」

京太郎「今回のは過去のデータも参考にした、自信作ですよ」

浩子「データとな……私を前に言うとは、ええ度胸やで」

二人『ふふふふ、ふっふっふ……』

泉「やだ、この人ら怖い……」

京太郎「――って、散々前振ったのに……」

怜「うわ、えらい難しいな」

竜華「あほ言いなや、一年の問題やで」

京太郎「なんでお二人が隣についてるんですか……」

怜「そら、一年と二年があんたにもらった問題やってるからやろ」

竜華「その間、私らで京太郎の勉強見たるからな」

京太郎「はぁ……どうも」

怜「なにが不服なん」

京太郎「いえ、お二人に教えていただくのはいいんですけど……その煽りか、寂しそうに牌を持ってるセーラ先輩が不憫というか」

竜華「セーラー、休憩中だけやからー」

セーラ「さっきからずっと休憩やで……」

京太郎「……あの、やっぱり――」

怜「よっしゃ、ほんならここからここ、やってみよか」

竜華「いやいや、もうテスト間近やからな。ここは一気に、こっちの問題から――」

京太郎(せめて統一してください……)

京太郎「……ま、まあそれじゃ、順番にやっていきますよ」

怜「お、ほなこっちからやなー。じゃあ時間10分で。はじめー」

竜華「えー、結構あるで? 10分は厳しいんとちゃう?」

京太郎「はは……とりあえず、やれるだけやってみます」

~5分後

京太郎「できました」

怜「」

竜華「なんやて工藤!」

京太郎「須藤です」

怜「須賀やろ」

京太郎「そうでした……とりあえず、採点してもらっていいですか?」

怜「よっしゃお任せや。さーて、と……んー? あれー?」

竜華「……まさか、怜……」

怜「……はぁ、ちょっとしんどいわ……竜華、あとお願い……」

竜華「病弱アピールやめーや。はぁ、ほんまに……」

京太郎「それじゃ、俺は竜華さんの言ってたほう解きますので、採点お願いできますか?」

竜華「はいはい、やっとくわ」

京太郎「できましたー」

竜華「それも早いな! もうちょいかけてやぁ……」

京太郎「さっきの分はどうでしたか?」

竜華「ん、こんな感じ」

京太郎「お、全部できてましたね。ご褒美ください」

竜華「……よくできました」ナデナデ

京太郎「ありがとうございます」

怜「ようやったで工藤」ナデナデ

京太郎「須藤です」

竜華「須賀やろ」

京太郎「はい」

京太郎「浩子先輩はさすがですね。泉はもうちょっと頑張りましょうだな」

浩子「ふふん。まあ一年の作った問題くらいはな」

泉「ど、同級生の問題やからしゃーない(震え声)」

京太郎「ま、今月の頭くらいに比べれば、だいぶできてるよ。これなら、そこまで悪い結果にはならねーって」ポンッ

泉「へ、そうなん? ならなんで、こんないっぱい課題を――」

京太郎「すげー点数取ったほうが、気持ちいいだろ? 平均スレスレとかじゃなく、ぶっちぎりの」

泉「まぁ……」

京太郎「まあちぎれるかはわかんねーけど、やるだけやるからさ」

泉「お願いします……」

浩子「ふむ……さて、話ついたとこで、そろそろ帰りますか」

セーラ「こっちももう終わりや! ほれっ、ツモって跳満、これで終了やな」

怜「おうふ」

竜華「一位の親で、なんで最後に倍満やの」

セーラ「え、デカいの上がったほうが気持ちええやん」

竜華「早抜けでリスクなく逃げるっちゅーことをやなぁ、もうちょい――」

京太郎「まーまーまー、とにかく出ましょう。続きは帰りながらってことで」

竜華「むぅ……京太郎がそう言うんやったら」

セーラ(ナイス)b

京太郎(いえいえ)

京太郎「お疲れさまでしたー」

浩子「はい、お疲れさん」

京太郎「うーん、結構自信あったんですけどね、問題」

浩子「ああ、よかった思うで。面白い問題多いし、解きがいあったわ」

京太郎「作ってるとですね、先生方の気持ちがわかりますよ。こう、解かれたいようで解かれたくない、そんな微妙な教育者心」

浩子「ふーん、なかなか教師とか向いてるんかもわからんなぁ」

京太郎「進路ですか……」

浩子「二年の最初に、一回進路調査あるで――っていうても、ちゃう学校やったら変わるか」

京太郎「そうかもしれませんね。けど、そのくらいの時期に、ある程度は決めておきますよ」

浩子「そうしたらええ……いや、京太郎くんやったらあれか、執事になりたいとか?」

京太郎「理想ではありますけどね。ああいうのは、勤め先がないと話になりませんからね……」

浩子「龍門渕に頼んだらええやないの」

京太郎「師匠に迷惑をかけるようなことはできません」キッパリ

浩子「崇拝しとるな……そのほかで、使用人要りそうな家ちゅうたら……辻垣内か神代やろか」

京太郎「小蒔先輩の家……あそこは厳しそうですね。男は雇われないかもしれません」

浩子「あんたは仲良いみたいやし、どうとでもなるやろ?」

京太郎「どうでしょうね……」

浩子「さもなくば、料理人になればええやん。松実姉妹のご実家で、えらい気に入られてるて聞いたで」

京太郎「誰からですか!」

浩子「ご本人からや」

京太郎「松実妹ぉっ!」

浩子「はぁ、しかし努力の結果とはいえ……色々道があるようで、羨ましい限りやわ」

京太郎「先輩も、考えてるんでしょう?」

浩子「大学は一応、その先の研究室目当てで決めてみたけどな。まあそっちが無理そうなら、公務員にでもなって、適当に稼いだら嫁入りするわ」

京太郎「お相手がいらっしゃるんですか!?」

浩子「おらんわ、悪いか!」

京太郎「い、いえ、悪くは……いるのかと思って、焦っただけです」

浩子「そやなぁ……私が働いて二年ほどで、あんたも就職や。あ、大学行ったとしてな?」

京太郎「ですね」

浩子「その頃に相手おらんかったら、婿にもろたるわ」

京太郎「マジっすか!」

浩子「おらんかったらやでー」

京太郎「あー、そうか……先輩美人ですからねー。さすがにそのとき、先輩が独り身ってことには期待できません」

浩子「はいはい、そうやなー。ともかく、進路は真面目に考えやー」

京太郎「うい、了解です!」



~2月第三週金曜、夜

京太郎「明日は土曜か、今週ももう残り少ないな……あ、そういえば来週は咏さんの誕生日だ」

京太郎「い、いや、忘れてないけどな。ちゃんと巾着も買ったし、うん」

京太郎「とにかく、受験生も明日だ……えーっと、恭子先輩、由子先輩、巴先輩、菫先輩が明日本番だな」

京太郎「頑張ってください、先輩方……」

京太郎「そして俺は、どうしようか」

京太郎「勉強は大事だ――けど、だからといって、日課の鍛錬をさぼるわけにはいかないな」

京太郎「……その途中で、チラッとジムの様子を見るくらい、問題ないよな、うん」

京太郎「はぁーあ……空いてたとしても、もう来週くらいしか通えないんだよなぁ」

京太郎「ひとまず行こう……たまにはジムの施設で、ちゃんとトレーニングしたいし」

京太郎「お……おっ、おおぉぉぉっ! 開いてる!」


 少年受付中……

京太郎「やった、念願のジムが……あ、すいません。今日と、来週だけなんですけど大丈夫ですか?」

「構いませんよ~。そういう利用者さんも多いですから、どうぞ遠慮なく。短期間でも大歓迎です」

京太郎「ありがとうございます!」

京太郎「ようし、鍛えるぜ!」

京太郎「……しかしあれだな、時間のせいか人が少ない……ま、好きに機材使えるからいいんだけど」

「わからないことがあったら聞いてくださいねー。あと、あちらの女の子も詳しいですから。年も近いですし、よかったら聞いてくださいね」

京太郎「はい、どうも……って、その人も利用者じゃないのか? いいのか、それを任せてしまって……」

??「はーい、構いませんよーぅ」

京太郎「へ? その声は――」

憩「やっほー、憩ちゃんやでー」

京太郎「うおぅっ! 憩さん!? なんでここにっ……」

憩「リハビリトレーニングとかの勉強で、よう来てるんよ~。せやけど、こんなとこで京太郎くんに会えるとは思わんかったわぁ」ニッコー

京太郎「俺もですよ……というか、憩さんテスト勉強は――」

憩「気にしたらあかんよ~」

京太郎「まあ、俺もですからね……じゃ、とりあえず始めますね。憩さんも、利用者なんですよね?」

憩「半分はなー。残り半分は、ここのトレーナーさんのアシスタント、いうことで。利用料も安ぅしてもろとるんよ」

京太郎「ちゃっかりしてますね」

憩「大阪で生まれた、女やさかい~」

京太郎「あははっ。それじゃ、今週末と来週くらいしか来られないですけど、よろしくお願いします」

憩「はいなー」

京太郎「さて、まずは筋トレだな。機材があると、負荷もかけやすくていいなぁ」

京太郎「はぁーっ……いい充実感だ、これでぐっすり眠れそうだな」

憩「あははっ、ええのん? テスト前やで?」

京太郎「そうだった! ダメじゃん、ぐっすり寝てる場合じゃないじゃん!」

憩「ふふ、そうやでー。でもまあ、とりあえずはお疲れさまー……あ、シャワールームはこっちやから――」

京太郎「あ、ありがとうございます」

憩「…………」

京太郎「憩さん?」

憩「ちょいと失礼」グッ

京太郎「くひぃっ!?」ビクンッ

憩「ふむ、ふむふむ……ええ筋肉しとるねえ」モミモミ

京太郎「いやぁっ! ちょ、な、なにしてるんですかっ……」

「こらこら、憩ちゃーん? お客さんにセクハラはあかんでー」

憩「ちゃいますよーぅ。京太郎くん、自分でトレーニングはようしとるみたいやけど、ちゃんとストレッチできてる?」

京太郎「え……まあ、そりゃしてますけど、念入りに」

憩「ふーん、そうかぁ……ほな、ちょうどええ機会やな」

京太郎「?」

憩「正しいストレッチのやり方、教えたげるわなぁ?」ニコッ

京太郎「――――――」

京太郎「まずいやり方だったんですかね」

憩「やり方はええけど、できてないとこもあるかなぁて」

京太郎「なるほど……それじゃ、ご教授いただけますか?」

憩「ええよー。でも、ほかのお客さんの邪魔になっても困るし……あっちの部屋行こか」

京太郎「了解です」

憩「時間は大丈夫?」

京太郎「んー……まあ、帰っても寝るくらいなので」

憩「寝たらあかんって言うたやろ~」

京太郎「じゃあせっかくなんで、飯食ってしばらく勉強します」

憩「よろしい。ほな、やりましょか~」


 ――このあと滅茶苦茶ストレッチした。


憩「まずは足開いてー、あ、軽くでええよー。そのまま座ろかー」

 憩さんに言われて、木張りの床に座り込み、脚を開く。
 一応それなりに脚は開く、格闘家ほどではないので、股割まではできないが。

憩「じゃあそのままねー。後ろから押すから、ゆっくり身体倒してー」

 そこまでは普通のストレッチだろう――と思って身体を倒そうとする、その瞬間。

憩「……ちゃうちゃう。まずは床の、股間に近いところに手ぇついて……そこからゆっくり伸ばして行くねん」

京太郎「――っっ!」

 不意に響いた耳朶を震わせる吐息と声音に、思わずビクンッと身震いしてしまった。

京太郎「あ、あのっ、憩さんっ!?」

 声が裏返ったのがわかる。
 その反応と声が面白かったのか、変わらず耳元で、クスクスと憩さんの笑い声が響いてきた。

憩「どないしたーん?」

京太郎「あ、の……当たって……」

憩「なにが?」

 小さなおもちが、なんてことは言えない。
 黙って俯いていると、密着されて恥ずかしがっているとでも思われたのだろうか。
 からかうような笑いを響かせ、憩さんが密着してくる。
 トレーニング施設に来るだけあって、冬場とはいえ少々薄着だった。
 柔らかな感触と、汗に濡れたウェアの感触が背中に伝い、ジットリと湿った柔らかさが、押し潰れてくる。

憩「はい。最初の位置はここなぁ? ここから、指で歩くみたいにして……そうそう、それで身体倒すんよ」

 肘から二の腕辺りを掴まれ、肩越しにあごを乗せた憩さんが、ささやきながら身体を押してくる。
 抵抗すれば、なおさら彼女の胸元が押し潰れて、心地よい感触をもたらしてくるのは明白だった。
 けれど――それでムスコがのっぴきならないことになれば、彼女に恥をかかせてしまう。

 そうはさせまいと、背を反らすようにして腕を伸ばし、指示されたように指で床を辿りながら、身体を前方向に倒してゆく。
 だが――。

憩「はい、ストーップ。あかんよー。背中は反らすのでも、曲げるのでもなく、まーっすぐな?」

京太郎「は、はい……っ……くぅっっ……」

 これ絶対ワザとだろ(真顔)
 腋の下、それと脇腹を回るようにして背中が抱かれ、手の平を胸板とお腹に張りつけられた。
 スゥハァと、憩さんの整ったおとなしい呼吸が、胸の起伏と唇からもれる空気の音で感じられる。
 空気の流れ、吐いた息が頬や口元に感じられると、僅かに甘い香気が鼻腔をくすぐった。

憩「息を吐きながら、ちゃんと背中を伸ばして――ゆっくり倒していくよー? はぁい……倒してぇ……」

 匂いを意識したことで、濡れた彼女の身体から立ち昇る、甘酸っぱい汗の香りにまで気づいてしまう。
 同時に、身体の前に添えられた手の平が胸を押し、腹筋を支えて、背中にはおもちの感触がスリスリと這い回ってくる。

 要するに、抱きつかれて耳元でささやかれて、おもちを押しつけられている。
 着やせしているというほどではないが、制服やナース服の外見よりもふくよかな感触がムニュムニュとたわんで、背中に円を描いてでもいるようだった。
 しかもその時々で、憩さんがピクッと身体を震わせたかと思うと――。

憩「んっ……はっ……」

憩「ぁんっ……やっ……」

憩「ちょ……う、動いたらぁ……っ……かんっ……んっ……」

 なんて声をもらすものだから、触覚と聴覚を切り離したくなる。
 数式を思い浮かべても、血液の流入を阻止するのはかなり困難だった。


 だが、本当の試練はここからとなる。


憩「はぁ、ふぅぅ……もうっ、いたずらっ子さんやね……」

憩「次は、動くの禁止なぁ? ここまで曲げるんは、痛くないん?」

 45度くらい身体を曲げたところで、密着されたまま姿勢を固定される。
 正直、鼓膜に響くようなウィスプボイスと、背中を捏ね回すおもちのせいで、ほとんど声が入ってこない。

京太郎「はいっ……まあ、なんとか……」

憩「ほなぁ……こ・こ・か・ら、ちょーっと強くするで~」

京太郎「!?」

 身体が離れたと思ったのも束の間、なんと彼女の両脚がこちらの頭を挟み、そのまま腰を下ろせば肩車になるような体勢を取る。
 いや――ような、ではない。

憩「はい、座るよ~」

 揃えていた両腕を開かされ、二の腕を掴まれ、憩さんが肩に腰を下ろしてくる。
 両足を地面についての肩車は、そこから持ち上げなければ重さは感じない――が。

 柔らかな太ももが頬を潰し、お尻の感触がフニュゥッと潰れて背中を、肩を愛撫するようだった。
 座りにくそうに二度三度と彼女が体勢を変えると、そのたびにスパッツ越しの太ももとお尻、そして後頭部にも似たような湿った感触が伝わって、思わず身体が跳ね上がりそうになる。

憩「こーらっ、そのまま動いたらあかん。こけたらうちが頭打ってしまうねんよ~」

 その言葉だけでこちらの動きを封じて、抵抗しなくなったところで満足そうに腰を捩り、両腕を開きながら少しずつ体重を乗せてくる。

憩「さっきの背中のままやで……曲げんと反らさんと、まっすぐ倒してぇ……腕は開いて、足首に持っていくイメージで……そうそう、ゆっくりね」

 バランスを保ち、落ちまいとする憩さんの太ももが頭を締めつけ、蒸れた香りが顔を包み込む。
 頭が揺れ、倒れそうになるのを堪えて指示されるままに腕を伸ばし、足首の傍まで開く。

憩「掴んでええよ……掴んで、次は爪先に指を……」

 匂いに包まれながら、頭上からは命令するような言葉が次々と振り注ぐ。
 僅かにでも背中を曲げれば、その時点で憩さんが落ちてしまう、その姿勢をキープするために彼女が腰かけているのだとはわかる。
 けれど太ももで首を絞められ、頭を締めつけられて、しかも時々頬っぺたが擦られている。
 それでも動いてはいけない、彼女を支えるために。
 行動を支配されている、そんな感覚に背中が痺れさせられていた。

京太郎「――はぁっ、はぁっ……ふぅぅっ……はぁぁぁ……」

憩「動いたあとやもんねぇ、息も荒れるし、疲れてる……せやから、ゆっくりせなあかんねんで」

 この呼吸はそういうことではない。いや、鼓動を整えようとしてるから、間違いでもないか。
 女性の身体を意識して乱れた呼吸を整えると、自然と吐息は荒く乱れる。
 そしてそれだけ多くの、彼女の体臭を吸い上げてしまうということだ。

 整えようとすればするほど、むせ返るような甘酸っぱさに鼻腔が満たされ、鼓動は激しく波打つ。
 彼女の椅子になり、痛い、苦しい、結構辛い体勢を強いられるということが、妙に被虐的な感覚を呼び起こしており、頭の裏側が熱く痺れてくる。

京太郎「こぉ……れ、はぁっ……いつまで、このまま……」

憩「ん? 爪先掴めるならそこまでいってな~。続きはそれから」

 それくらいは届く、けれどいつも自己流でしていたから、この背中の状態を保っていたかはわからない。
 彼女を落とさないように身体を倒すと、それだけ時間はかかり、匂いと痛みと柔らかさがすべて、身体と感覚に刻まれていった。

憩「ええよ~。ほな、そのままキープはできるかなぁ? 10秒いけるなら、それでお願いするわ」

 太ももの付け根と膝の裏が痛みに軋み、筋肉の収縮膨張を感じる。
 いつもの何倍も時間をかけてのストレッチ、運動後に密着する暑さに汗がポタポタと落ちて、身体中に濡れたシャツが絡みついていた。

憩「うん、10秒は大丈夫……もう20秒、終わったら合計1分までいこか」

京太郎「――っ……は、い……」


 結構辛い感じだったが、言われるがままに承諾し、そのままの体勢をキープ。
 無限に続くかと思われた痛みは、しばらくして――。

憩「……はい、おしま~い。ごめんなぁ、痛かった?」

 背中から重みが離れ、肩から柔らかさが離れ、顔から息苦しさと心地よさが遠ざかる。
 少しの名残惜しささえ感じて顔を上げると、回り込んでしゃがみ込んだ、憩さんの笑顔があった。

憩「お疲れさんやね。よう頑張ったよ、エライエライ。ん~」ギュゥー

 そのまま首筋に腕を回して、労わるように抱擁してくれる。
 汗に濡れたまま、薄着のまま、身体を密着させて頭を掻き抱き、濡れた髪や背中を撫で回しながら。
 そして――。

憩「ほな――次のストレッチしよかぁ」

京太郎「っっ――ぁ……え、と……」

憩「もう無理かなぁ? いけるやろ?」

 ささやく声はいつもの憩さんと同じで、優しくおっとりとしているのに。
 妙な威圧感と圧迫感があり、否定することができない。

京太郎「――は……いっ……」

憩「ん~、ええ子やねぇ……それじゃ、次は太ももの後ろと、お尻の間のとこ伸ばしとこうかぁ♪」

 膝を抱いて脚を持ち上げるように意識し、後ろへ転がるように言われる。
 ダルマのようにゴロンと転がったところで、しっかりと脚を抱くよう、強く命じられた。

憩「そのまんまやで……ちょっと腰、上げるわなぁ?」

 服を着ているのに、恥ずかしい部分を見られているような体勢を強いられる。
 実際に、彼女の手は太ももの裏側と、お尻と呼べる部分を撫で回し、時々は指先で突いて、こちらが身体を震わせる反応を、愉しんでいるかのようだった。

憩「こ・こ……ちゃーんと張ってるの、感じてるぅ?」

 指で筋肉を押し込んで、往復するようになぞり、くすぐったい刺激が奔る。
 震えた声で肯定すると、指は円を描き、このストレッチ運動で伸びている部分が何度も撫で回された。

京太郎「はぅっ……はっ、くっ……」

憩「ええ声……はい、頑張ってなぁ」

 踵を持たれてお尻を浮かされ、それを真正面から見られながら、体勢の維持を強いられる。
 結構伸ばしていると思うが、それでもまだ、下ろしていいという声は聞こえない。

京太郎「ま、だ……ですかっ……」

憩「時間が大事やねんよ、こういうんは……負荷かけて、カチカチにして、ゆっくり解してトロトロにしちゃうんや……回復も早ぅなるからなぁ」

京太郎「――っっ!」

 膝立ちになった憩さんが、顔を真上から覗き込んで、ニッコリと微笑んだ。
 上気して、ほつれ髪の張りついた額から、ポタリと汗の粒が顔に落ちる。
 それが口元に伝い、思わず舌が伸びそうになった。舐めようとしたのではなく、あくまで反射として。

憩「……ふふ、かーんにん」

京太郎「――ぁ……い、え……」

 寸前で彼女の指がそれを掬い、綺麗に拭い取っていった。

憩「これも1分、そのあとは別のストレッチな……」

 返事を待たず、膝立ちの憩さんの身体が引いた。
 恥ずかしい体勢の解除は、まだ許されていない――。


~2月第三週土曜

京太郎「今日は一部の先輩方の受験日だ……ご武運を」

京太郎「皆さんにメールしとくべきかな……まず誰から送ろうか」

智葉「……別に必要ないが、私は」

哩「私ん名前もなかと」

京太郎「前の電話のとき、不安そうだったからな……」

京太郎「――どんな結果でも、俺が先輩を尊敬してるのは変わりません、と」


『まるで失敗前提みたいなメールだな』


京太郎「」

京太郎「ミスったああああああああああ!」

京太郎「やややや、やばばばば……なな、なんとかフォローを……お?」


『すまない、冗談だ。だけどおかげで、緊張はほぐれたよ』

『ついでと言ってはなんだが、もう少し励ましになる言葉を頼もうか』

『君の言葉があれば、いつもより頑張れる気がするんだ。ダメかな?』


京太郎「っっ!」

京太郎「よかった……けど、責任重大だな、どうするか……」

京太郎「先輩の努力は、実を結ぶ努力です……俺が保証します」


菫『後輩に保証されても――と言いたいところだが、君は別格だな』

菫『京太郎くんがそう言ってくれるなら、私も心配はしない……全力をだしてくる』

菫『朗報を待っていてくれ』


京太郎「よかった……さて、ほかの人たちにも、送っていくかな……」


~2月第三週土曜、昼~放課後

京太郎「これで、テスト前の授業はすべて終了……か」

泉「半分は体育やったしな」

京太郎「えっ」

泉「えっ?」

京太郎「……体育?」

泉「……ああ、そう言うたらいっつも、体育のときおらんなぁ。なにしてるん?」

京太郎「またかああああああああああああああ!」

泉「!?」

京太郎「どうしてっ……女子校での体育は、俺だけ隔離されるんだよっ……」

泉「……目が危ないからちゃう?」

京太郎「そんなっ! こんなに純粋な目なのに!?」

泉「隙あらば、女子の制服の裾とかほつれとか……直したそうに見てるやろ」

京太郎「純粋じゃん! 純粋な執事視線だよ!」

泉「まぁ――その目で体操着見られるんは、恥ずかしいし」

京太郎「……そ、そんな格好なのか」ゴクリ

泉「!? ただのスパッツとかジャージや! やらしー想像しなやっ!」

京太郎「ならいいだろおおおおおおお!」

泉「……なんでそこまで一緒にしたいんや」

京太郎「えっ……いや、ほら……女子と一緒のほうが楽しいし」

泉「目、逸らしな」

京太郎「……あわよくば、こう、おもちが当たったり……」

泉「……ヘンタイ」

京太郎「ぐふっ」

泉「あーあ、もうええわ……部室行こ」

モブ子「正直とは罪である――byニーチェ」

京太郎「ニーチェに全力で土下座しろお前」

京太郎「――ということなんですけど、なんとかならないでしょうか」

怜「妥当やろ」

セーラ「残当」

浩子「教師の判断か連盟の処置か知らんけど、GJですね」

泉「ですよね」

京太郎「なんで……」グスン

竜華「京太郎……」

京太郎「竜華さんっ……」

竜華「そういうんを口にする限り、一生無理やで。諦め」

京太郎「」

京太郎「う……うわああああああああああん! いいもんっ、共学だったらそんなことないもんねーっ!」


京太郎「ああ、白糸台が恋しい……あと清澄も、姫松も……」

京太郎「――いや、なんてこと言ってたら、お世話になってる学校に悪いな」

京太郎「竜華さんの言うことももっともだ、もう少しそういう発言と視線に気をつけてみるか」


怜「何日保つと思う?」

泉「2日」

セーラ「3日」

竜華「……6時間かな」

浩子「5分でしょ」

京太郎「もっと信用しテ!」


京太郎「くそう、俺だってやればできるってとこ、見せてやる……うぅぅ……」

京太郎「――となると、まずはやっぱり差し入れだよな、うん」

京太郎「さて、作るものはなににしようか」



京太郎「――よし、甘い物だ……最高の甘味で勝負する!」


泉「……なんの勝負やろ」

怜「勉強せんでええんかな」

竜華「燃えてるとこ、かっこいい……」ポワー

浩子「趣味悪いですね、先輩」

セーラ「人のこと言えるんか?」

京太郎「さて、なににしようか……そういえば、和菓子作ってなかったな、最近は」

京太郎「ふむ、今日はそっちにしてみるか……いいお茶もあるし、ちょうどいいな」

京太郎「――本日のお菓子、苺大福です」

竜華「わっ、おいしそう」

怜「おもちうにょー……」

セーラ「怜?」

怜「」

泉「園城寺先輩!?」

浩子「き、気ぃ失ってる……」

怜「あ、あほ、起きてるわ……えっ、なんこれ……えっ?」

セーラ「苺大福やろ?」

怜「――やなくて、その……レベルが……」

竜華「へー、そら楽しみ……あーむっ♪」

竜華「ほむほむ……ほはぁぁ……」トローン

セーラ「竜華まで!?」

浩子「なんや、どっかで見た流れですね……」

泉「皆さん慣れへんもんですね……」

京太郎「今日は少し、気合入れてみました。どうぞ、ほうじ茶と抹茶、ご用意しておりますので。お好きなほうをお申し付けください」

泉「ぐっ……ひ、久々に、そういう……本気なんは、ずるいんとちゃうか……」

京太郎「なにがでしょうか?」ニッコリ

泉「う、ううぅ……うぅぅぅ~~~~っっ! こ、こうなったら!」パクッ

セーラ「ヤケになんな、泉!」

泉「はぁぁぁ……しゅ、しゅごぉ……なんやこれ、苺と餡の、バランスと……おもちの、柔らかいのんが……はふっ」パタン

浩子「毎度すごいなぁ……で、この盛りつけの真ん中の綿飴は?」

京太郎「少し前にいただいた金平糖があったので、湯で溶いて綿飴風にしてみました。よかったら摘んでみてくださいね」

セーラ「お、フワフワ。懐かしい味やなぁ」

京太郎「ありがとうございます」

浩子「……っっ……これは、ほんまにおいしい……」モムモム

京太郎「浩子先輩は平気なんですね」

浩子「まあ……たまに、オバちゃ――監督が、うちにお土産くれたりするからな、ええもんを」

京太郎「なるほど――では、それに負けない品を、またお持ちしますので」

浩子「……ほ、程ほどにな」

京太郎「いい小豆を譲ってくださった、竜華さんご紹介のあの店に感謝しないと……やっぱり、和菓子の肝は餡子だよな」

京太郎「言葉の響きも、麻雀部らしくていいし?」

セーラ「…………ああ! なるほど!」

京太郎「さ、先輩もどうぞ」

セーラ「じ、自分で食うわ!」

京太郎「遠慮なさらず……どうぞ、お口を。あーんなさってください」

セーラ「うっ、くっ……」

セーラ(誰も、見てへんわな……)

セーラ「あ、あ……あー」

セーラ「……んむ、もぐ……」

セーラ「……んまい」

京太郎「ありがとうございます」

セーラ(くそぉっっ! 普段は変態やのに、悔しいっ……でも、うまいっ……)

浩子(ふへへ、いい画が撮れたわ)

京太郎「さて、皆さんが起きる前に、お茶のお代わりをご用意して――と」

怜「……んぅ……ふぁ、あれ……?」

京太郎「お目覚めでしょうか、怜お嬢様」

怜「誰がお嬢――あ、スガキョンか」

京太郎「どうぞ、お目覚めのお茶を。濃いめと薄め、抹茶とほうじ茶と煎茶でご用意しています」

怜「濃い目のほうじ茶で頼むわ……あー、びっくりした」

京太郎「苺大福、まだございますよ」

怜「あとでもらうわ……前のより、また腕上げたなぁ」エライエライ

京太郎「ありがとうございます」

怜「将来は、お菓子屋でも作るんか?」

京太郎「その予定はないですけども」

怜「もったいないなぁ。スガキョンが作って、人に売らせて、うちはネットでポチポチ流通広げて……大儲け間違いナシやで」

京太郎「怜先輩、なんか作業的に楽そうですけど」

怜「作業は楽でも、内容はごっつ厳しいで」

京太郎「まあ確かに……でも、そうですね――」

京太郎「大事な人にお作りするときじゃないと、上手には作れません」

怜「……大事なうちが売りたいから作る、大事な人のためにならんかなぁ?」

京太郎「……俺、結構いいこと言ったつもりだったんですけど」

怜「ふふっ、わかっとるて。照れ隠しやん、ただの」

京太郎「ならよかったです」

怜「……うちのことが大切なんは、否定せーへんな?」

京太郎「もちろん」

京太郎(大切な、麻雀部の先輩で……仲間ですから)

怜「……そ、そうか」

怜「ほな……その、上手にできたんをもう一つ、もらおかな」

京太郎「はい、どうぞ」

怜「……食べさせてくれたりは?」

京太郎「もちろん喜んで……さ、どうぞ」アーン

怜「あー……んぅ、おいひい」

京太郎「怜先輩、汚れてますよ。綺麗にしましょうねー」フキフキ

怜「むぐっ……そこはあれやろ、口で取るとこちゃうの」

京太郎「えっ……い、いや、それはさすがに……」

怜「そうやんなぁ……うちになんて、そんなんしたないわなぁ」

京太郎「そ、そういうことではなくっ!」

怜「なら、したいん?」

京太郎「……そんなことはないということも無きにしも非ずというか」

怜「ふむ、つまりしたいと」

京太郎「……ノーコメントで」

怜「……ふっふ、スガキョンは普段はどうしょもないスケベーやけど、可愛いなぁ。ういやつや」ナデナデ

京太郎「いたいけな後輩をからかわないでください……」

竜華「」

泉「なんすかあれ」

セーラ「おかしい、俺のときと展開がちゃうやん」

浩子「対応の差ぁですね。そのあたり、園城寺先輩はお上手ですわ」

京太郎「まったく、怜先輩には困ったもんだ……」

京太郎「しかし、やっぱり和菓子作りは時間かかるな。もうかなり、勉強時間が削られた……」

泉「あ、勉強する気あったんや……」

京太郎「そりゃあるっての! 当たり前だろ……」

京太郎「――あ、買いだし行っとかないと」

泉「やっぱ(勉強する気)ないやん……」

京太郎「あ、あるんだって、ほんとに……」

浩子「もうええかわ、行ってき……」

セーラ「土産は頼んだで」

怜「あ、外寒いで」

竜華「明日にしたらどうやろ」

京太郎「明日がもっと寒いってこともありますし……」

京太郎「それじゃ、行ってきますね。なるべく早く戻りますので」

竜華「……もうっ、しゃーないなぁ」

竜華「心配やから、私もついていくわ」

京太郎「いや、そんな……外寒いですし、悪いですよ」

竜華「ううん、ええよ。それに、今日使た小豆買い足すんやったら、前の店も寄るやん?」

竜華「私がおるほうが、サービスしてもらえんで♪」

京太郎「たしかに……けど、また色々と言われたりしたら――」

竜華「私は気にせーへん。京太郎は嫌なんか?」

京太郎「滅相もないです」

竜華「なら問題なしや。さ、行こか」ギュッ

京太郎(ナイスおもち!)

京太郎「わ、わかりました……それじゃ、寒いですしなるべく、くっついて行きましょう」

竜華「りょーかいや~♪」ギュー


京太郎「――ってことで、今度こそ行ってきます」

竜華「行ってきます~」


泉「……で、出遅れた……」

怜「最近の竜華は積極的やなぁ」

浩子「三年の中では頭二つ抜けてますね」

セーラ「お、俺は麻雀一筋やから……」

泉「一、二年足しても頭二つ抜けは変わりませんし……」

浩子「うっさいわ。まだ勝負はこれからやろ」

怜「どこで差がついたのか……慢心、環境の違い……」

京太郎「アーケード内はあったかくていいですね」

竜華「お店と屋根ある分なぁ……さ、行こか」

京太郎「今日はちょっと人が多いみたいですけど」

竜華「そやなぁ。はぐれんように、しっかりくっついとかんと」

京太郎「離れないでくださいね」

竜華「ん、大丈夫やで。せやけど――」

京太郎「?」

竜華「はぐれても、すぐに見つけてくれるやろ?」

竜華「私の執事さん?」ニコッ

京太郎「」キュン

京太郎「もちろんです。この俺にお任せください……片時も、離れませんから」

竜華「なら安心♪」ギュッ


(……バカップルが)
(地獄に落ちろ)
(Hell to You!)


京太郎「でも、実際はぐれるのも危ないですから、ゆっくり買い物しましょうね」

竜華「はーい」

京太郎「歩くのもゆっくりですよ?」

竜華「ん、わかったで」

京太郎「……帰るのもゆっくりですよ?」

竜華「~♪」

竜華「買い物、これでおしまいやなぁ」

京太郎「またいっぱいもらえましたね……あ、そうそう」

竜華「ん?」

京太郎「前から聞こうかと思ってたんですけど……竜華さんの家って、結構歴史があったりとか、あるんですか?」

京太郎「老舗と懇意にしてるものですから、気になって」

竜華「そうでもないと思うけどなぁ……親も普通の会社員やし」

竜華「ただ、お祖父さんが顔広かったみたいでな。トラブルの解決に人脈で対応したりしてて、それに皆さんが恩義を感じてくれてはるみたい」

京太郎「なるほど……でも、それで納得しました」

竜華「やろ?」

京太郎「はい。家のこともですけど……竜華さんが頼りがいあるのも優しいのも、いいご家庭で育たれたんだなって思います」

竜華「……ふふっ、そう思てくれたんなら、嬉しいかなぁ」

京太郎「でも、そういうのは関係なく……俺は竜華さんをしっかり守りますけどね」

竜華「はふっ……う、うん、おおきに……」

イチャコラ イチャコラ



 そうして、二人は、長い道中を――。
 ひたすらイチャコラしながら、帰りましたとさ……。


京太郎「ただいま戻りましたー」

竜華「はぁ、もうついてしもたなぁ……もうちょい一緒におりたかった……」

京太郎「また行きましょうよ」

竜華「そうやけどぉ……今日、もっと一緒にって言うことやん」

京太郎「竜華さん……」

竜華「京太郎……」


怜「あかんな」

泉「あ、あきませんっ」

セーラ「これは?」

浩子「手遅れです」

怜「完全にデキてる二人やん」

セーラ「で、実際は?」

浩子「まだだそうです」

泉「あの男、脳に欠陥あるんとちゃうか」


京太郎「そろそろ下校時間ですね。荷物片づけてきますから、皆さんお先にどうぞ」

竜華「あ、手伝うわ。二人でやったほうが、早いやろ?」

京太郎「申し訳ないですよ」

竜華「ええの。そのほうが、一緒におられるやろ?」


セーラ「付き合うってなんやっけ(哲学)」

泉「っていうか、清水谷先輩もちょっとおかしないですか?」

怜「そういうたら……さっきの大福、ちょっとお酒の香りしたような」

浩子「熱処理しますから、風味か匂いだけと思いますけど……え、まさか……」

怜「匂いだけで酔う可能性もあるからな……まあ、正気に戻ったら忘れとるやろ」

セーラ「けど、酔うと本心が出るってよう聞くで?」

泉「本人が意識してるかしてないか、いうのは大事ちゃいます?」

浩子「……ほっといてもええか、そんなら」


竜華「京太郎~」スリスリ

京太郎「はいはい。行きましょうか、竜華さん」


京太郎「それじゃ帰りましょうか」

竜華「はぁ~い」

雅枝「お? ちょうどええところおったなぁ、京太郎」

京太郎「監督、お疲れさまです」

雅枝「ヒロと絹が会いたそうにしとる、今日はうちに寄って帰り」

京太郎「…………は?」

竜華「!? お、横暴です、監督!」

雅枝「お前も顔赤いからな……ついでに送って行くわ。園城寺ー、清水谷車まで連れてっといてー。あんたもついでに乗っていき」

怜「はいはい。竜華ー、あんましつこうしとったら、スガキョンも怒るでー。こっちおいでやー」

竜華「そんなんないもん! 京太郎はええ子やもーん!」


京太郎「ああ、竜華さんが……って、赤い顔?」

雅枝「あんたの大福で酔うたらしいで」

京太郎「へ……確かに、イチゴにちょっとリキュールは漬けましたけど……」

雅枝「世の中には、すこぶるアルコールに弱いんもおる。勉強なったなぁ」

京太郎「はい」

雅枝「さて、酔うた教え子を家まで送って言い訳してくれる先生に、言うことはあるか?」

京太郎「……お嬢さん方は、お元気でしょうか」

雅枝「そうかー、会いたいかぁ、しゃーないなぁ。ええで、うちに寄っていき」

京太郎「はあ、お邪魔します……」

雅枝「ま、大福自体は老舗の和菓子屋のもんと遜色ないで。清水谷が、えらい弱かっただけやからな」

京太郎「味のことは、そこまで……先輩、大丈夫でしょうか」

雅枝「車の中で適当に相手したり。疲れたら寝るやろ、酔っ払いいうんは、そういうもんや」

京太郎「わかりました」

雅枝「あとは――絹恵の勉強がギリギリらしいから、面倒見たってんか」

京太郎「了解です!」

雅枝「よっしゃ、ほな帰ろかー」



~2月第三週土曜、夜回想

絹恵「あ、おかーちゃんお帰――京太郎くん!?」

洋榎「……なにしとんねん」

京太郎「はぁ、その……色々とありまして。あ、絹恵先輩のお勉強のお手伝いもできればと」

絹恵「ほ、ほんまに! えっと……と、とにかく上がってや」

洋榎「……あのことは言うてないやろなぁ?」

京太郎「もちろんです」

京太郎「――ってな感じで、洋榎先輩のメイド服姿は最高でした」

洋榎「これから言えっちゅう意味ちゃうわああああああああああ!」

雅枝「浩子まで、なにやっとんねん……」

絹恵「京太郎くん! 私も着る! 持ってないんっ?」

京太郎「ありますけど」ビラッ

洋榎「あるんかい!」

京太郎「一応、監督サイズも――」

雅枝「…………ん?」ニッコリ

京太郎「イエナンデモナイデス」

京太郎「ここの問題はですね……こう、こうやって……」

絹恵「あー、なるほど。さすがにわっかりやすいわぁ、おおきにな」

京太郎「いえ……あの、先輩?」

絹恵「もうっ、うちはさんやろ?」

京太郎「あ、はい……絹恵さん、あの……なぜメイド服を?」

絹恵「似合うて言うてくれたやん。せやから」

絹恵「……似合うてない?」タプンッ

京太郎「絹恵さんのために生まれた服です、それは」b

絹恵「ふふ、嬉し……あ、この問題もやねんけど――」グイッ

京太郎(谷間! 万歳!)



~回想終了

京太郎「――というようなことがあって、ようやく帰ってこれた……」

京太郎「……しかしこれは収穫だったな。絹恵さんのメイド服……いや、あれは相当やばい」

京太郎「永水のみんなの……特に霞先輩のは犯罪的だけど、絹恵さんのおもち眼鏡メイドも……甲乙つけがたいな」

京太郎「……写真、撮らせてくださったし……うん、これも家宝にしておこう」

京太郎「さて、遅くなったけど……今夜はなにをしようか」

京太郎「誰かに電話しよう……最近かけてない人か、よく電話する相手か、受験終わった人たちか……」

京太郎「清澄に入学した当時は、こんなに女の子の番号が入るなんて、思いもしなかった……」

京太郎「全部、師匠のおかげだな……師匠と、部長のおかげだ。感謝してます」

京太郎「あ、そうだ。今日はなにかと、竜華さんのお世話とかで手伝ってくれた、怜先輩に電話しておかないと……」


京太郎「もしもし、怜先輩? 須賀です、こんばんは」

怜『おろ、どしたん、珍しい』

京太郎「帰りにお世話になりましたので、お礼などを……いま大丈夫でしたか?」

怜『かまへんよー。ちゅーかなぁ、受験終わってからもう、ヒマでしゃないねん』

京太郎「だめですよ、大学は入ってからが勉強の本番なんですから。心構えはしておかないと」

怜『その辺は真面目に考えとるし、学校案内も見てるけど……引っ越しもないし、予習のしようもないからなぁ』

京太郎「そういえば、大学は実家から通うんでしたっけ」

怜『一人暮らしはなんかあったら危ないしなぁ。まあ、そのために近い大学選んだんやし』

京太郎「そうですか……あ、でもそれだったら、俺が千里山にいるときは、結構会えたりしますか?」

怜『……無理とちゃうかなぁ。うちも忙しなるやろし、スガキョンも二年か、三年やろ?』

怜『大会の結果次第では、注目される選手にもなってるわけやし……うちと会うたりしたら、騒がれたりもするで』

怜『そうなったら、困るやろ?』

京太郎「先輩は困りますか?」

怜『うちか? うちは別に……というよりスガキョン』

京太郎「はい」

怜『質問に質問で返すなァァ――ッッ!』

京太郎「!!!」

怜『一応、真面目に聞いたんやし、ちゃんと答えてほしいわ……まあ、困らへんいうことやな』

京太郎「はい……すいませんでした」

怜『ふむ……そういうことやったら、ちょっとくらいはええけど』

怜『一回生でそんなヒマあるとは思わんけど……部活の時間に、授業ない可能性もあるからな』

京太郎「怜先輩……」

怜『ま、言うてもまず、スガキョンが千里山におらななぁ……倍率高いから、大変やで』

京太郎「そうですね……」

怜『なんか裏ワザはないんか? こうやったら、絶対獲得できるっちゅうワザは』

京太郎「あればとっくに使ってます」

怜『そうやんなぁ……そらそうや――って、えぇっ?』

京太郎「? どうしました?」

怜『あれば使ってるって……どっか絶対行きたい学校でもあるんか?』

京太郎「えっ――」

怜『そういうことやろ? ほほう、ちょっと興味あんなぁ……』

京太郎「いえ、そういうことではなく――」

怜『誤魔化さんでもええって。まあ各地を渡り歩いて、最高の膝枕を探すんは、ある意味ロマンやからな……』

怜『まだ行ったことない学校に行きたい……その気持ちは、ようわかるで』b

京太郎(ふふ……話を聞いてくれません)

怜『ほんでどこなん? ここまで言うたら、もう言ってしもてもええやろ』

怜『あ、ちゃんと内緒にはしとくからな。安心しいや~』

怜『というわけで、行きたい学校の名前、張りきってどうぞ!』


京太郎(……困った、そこまで意識したわけでもないのに……)

京太郎(けど、無意識にどこかに行きたいって……俺は思ってたのか?)


京太郎「千里山です」

怜『はい、言うと思っとったわー』

京太郎「……やっぱりですか」

怜『スガキョンは、そういうときにはっきり言わんやろなぁ、思て』

京太郎「でも、千里山は好きですよ、本当に」

怜『どこも好きやろ?』

京太郎「……否定はできません」

怜『ふふ、正直モンめ……けど、これはある意味しゃーないと思うわ』

怜『竜華っちゅう最高の太ももがおるからな……まあ、本音かどうかは置いても、選択肢に入るんは当然の結果や』

京太郎「……たしかに」

怜『無意識にスガキョンの本能が、竜華の膝枕を求めたんや……恥じることないで』フッ

京太郎「はい……」

怜『けど、あれを最初に見つけたんはうちや……スガキョンも、もっと全国回って、自分だけの最高の膝枕――探してみ』

京太郎「っっ……はい!」

怜『ええ返事や……それでこそ、うちと並ぶ膝枕ソムリエやで』

京太郎「まだまだ、並んだなんて思ってません……」

怜『そうか……なら、越えてくれるんを待ってるわ』

京太郎「わかりました……色々な学校で、もっと経験を積みます!」

怜『楽しみにしとるで……ほなな』

京太郎「はい、お疲れさまです! ありがとうございました!」


京太郎「……あれ、なんの話してたんだっけ」

京太郎「しかも……竜華先輩の面倒見てくれた、お礼言い損ねてるし……」

京太郎「また明日、学校で言っておくかな」

京太郎「げっ、もう3時半過ぎてる……けど、起きてる人はいるかな」

京太郎「近況メール、ちょっとでも送っておこうか」

京太郎「……どうしてこの二人を選んだのか、理由は定かではない……」

京太郎「べ、別に家宝には関係ないんだからねっ、勘違いしないでよねっ」

京太郎「……俺って、やっぱりおもち好きなんだよなぁ……これも男のサガだよな、仕方ない」

京太郎「あとは清澄入学したとき、和を見たのも原因だよ、たぶん」

京太郎「……まあ、その前から持ってたの、おもち本が多かったと思うけどな」


~2月第三週日曜

京太郎「久々の休みだ……朝から勉強だけど」

泉「……ごめんな、わざわざ来てもろて……」

京太郎「いや、別にいいけど。どうせ家にいても、やること変わらないからな」

泉「けど、なんか悪いし……そ、そうや! 肩でも揉もか?」

京太郎「いいから問題やれって」

泉「ほ、ほな――あ、お茶淹れるわ」

京太郎「もう俺が淹れた。いいから問題しろっての」

泉「あ、う……ごめん、やるわ……」

京太郎「しかし、さすがに先輩方はいないな……あ、だったら図書館とかでよかったんじゃないか?」

泉「それは……その、ほら……なんか、抜け駆けみたいやん」

京太郎「抜け駆け? ……あっ」

泉「!! ちゃ、ちゃうねんっ、そういうことやなくて――」

京太郎「たしかに、一人だけ成績上げようとしてるみたいに見えるよな……なら、部室でこっそりのほうがいいか」

泉「…………はぁ……ソーデスネー」

京太郎「……あれ?」

泉「もうそれでええよ……とにかく、今日は感謝しとるからな。あ、できたで、こっち」

京太郎「おう。それじゃ交換して、こっちやってくれ。採点しとくから」

泉「はいな」


セーラ「……休みに呼びだされた思たら、なにしとんねん」

怜「しおらしいなぁ、泉」

浩子「人目なかったらこんなもんちゃいますかね」

竜華「うぅ……なんか、苺大福食べたあとの記憶が曖昧や……」

怜「やから、説明したやん。スガキョンとイチャイチャしとったて」

竜華「そんなんするわけないやろ!」

セーラ「……普段から、しそうなもんやん」

浩子「現にしてますけどね。自覚ないってタチ悪いですわぁ」

怜「静かにっ! 二人が動くで!」


京太郎「泉……」

泉「!! な、なんやっ?」

京太郎「俺、我慢できないんだけど……言ってもいいか?」

泉「な、なにをっ……」


京太郎「――あの、さっきからそちらで覗いてる方々は、なにやってるんですか?」

泉「………………は?」


セーラ「え」

浩子「あかん、バレてますね」

怜「なんでっ、完璧な偽装やのに!」

竜華「ちゃうねん、京太郎くん!」ガタンッ


泉「先輩方!?」

京太郎「あ、マジでいたんだ」

怜「なっ!?」

浩子「ブラフかい」

セーラ「くっそ、してやられた……」

竜華「気づいてなかったん!?」

京太郎「いや、確証はなかったですけど。微妙に物の位置が動いてるなーって。もしかしたら、誰か隠れてるかもとは思いました」

怜「こわいわー、執事」

泉「…………せ、先輩ら……なにしとったんですかっ!」

浩子「泉の甘酸っぱい青春を監視しとった」

竜華「ほ、ほら、二人とも若いし。間違いあったらあかんやん?」

セーラ「俺は呼ばれただけや……ふわ、眠……」

泉「ま、間違いてっ……そんなんあるわけないでしょ!」

京太郎「そうですよ。俺と泉でなんて、あり得ません。なぁ?」

泉「」

京太郎「あれ?」

竜華「……あーあー」

怜「これはスガキョンが悪い」

浩子「最低ですね」

セーラ「悪いこと言わん、謝っといたりや」

京太郎「なんでぇっ!?」

京太郎「――なんかよくないけど、泉を傷つけたらしい……ごめんな」

泉「ふんっ」ツーン

京太郎「……耳赤いぞ?」

泉「うっさい!」


京太郎「……女の子って難しいな」

京太郎「――ま、とりあえず勉強するか」

泉「はいはい」

京太郎「お、機嫌直ったか」

泉「」ギロッ

京太郎「」スマセン


怜「自ら地雷を踏み抜いていくぅ」

竜華「無意識に煽る子やなぁ」

セーラ「むしろ逆にわざとちゃうかと」

浩子「狙わずして狙う、っちゅうあれですか」


京太郎(うるせぇ……)

京太郎「さて――誰と勉強するかな」


京太郎「……ともかく、明日からテストだもんな。泉、不安なところか、明日の科目か、どっちからやる?」

泉「そやなぁ……不安埋めとくわ。明日の分は、午後とか夜にやったほうがええ思うし」

京太郎「そうか。なら、そっちの分はまた、帰りにでも渡すな。じゃ、苦手から埋めていこう」

泉「よろしくお願いします」

京太郎「わかりにくかったら言えよ。ゆっくりやっていくから」

泉「う、うん……」

泉(はぁ……普段からこう、真面目に落ち着いてたらもっとかっこええのに……)

京太郎「?」

泉「な、なんもないっ」

浩子「ちょお待ち、京太郎くん」

京太郎「はあ、なんすか」

浩子「あら、ぞんざいな態度やね」

京太郎「変な覗きのせいで、泉に怒られたんですから、当然です」

浩子「怒ったんは覗きとは別や思うけど……んー、でもそれやったら、やめとこか」

京太郎「なんです?」

浩子「いや、聞きたい問題があったんやけど……まあええわ。もうちょい考えてみる」

京太郎「……いいですよ、見せてください」

浩子「あ、かまへん? やー、おおきにな。頼りになるわぁ」

京太郎「調子いいんですから……」

浩子「――照れなしで言うと、ほんまに頼りにはしてるで。できれば、今月終わってもおってほしいくらいには」

京太郎「……そういう直球は、浩子先輩にしては珍しいですね」

浩子「まぁ……せやから、二度は言わへん」プイッ

京太郎「あはは、わかりました……それじゃ、勉強しましょうか」

泉「…………」クイクイッ

京太郎「お?」

泉「こっちが、先とちゃうの……?」

浩子「ほう、先輩に譲らんか」

泉「っ……せ、先輩でも譲れんもんは譲りませんっ」

京太郎「落ち着けって、先輩もです。順番に見ていきますから」

泉・浩子『どっちから?』

京太郎「う……」

京太郎(時間かかりそうなのは……言っちゃなんだけど、泉のほうか……量も多いからな)

京太郎「悪い、泉。一問だけだし、先に先輩からでいいか?」

泉「……うん」

浩子「あら、素直やん」

泉「いえ、先輩やし……無理に朝から学校に来てもろて、ワガママ言えへんと思て」

京太郎「そうか……すまん。けど、来たのは俺の意思だからな、お前が引け目を感じることはないって」ポンポン

泉「!? ちょっ、頭!」

京太郎「おっと、そうだった……女子は嫌がるんだった、ついな」

泉「い、嫌がってはおらんけど……」

浩子「……」ニヤニヤ

泉「~~~っっ! と、とにかく、そっちはよ済ませて……私のん見てや」

京太郎「おう、ちょっと待ってろ」

京太郎「それじゃ、先輩のほうから済ませましょうか……教科書の問題じゃないですよね?」

浩子「そらなぁ。これ、この問題集やねんけど――」

浩子(わりと難易度高いし、すぐは無理ちゃうかな……)

 ~五分後

京太郎「――という感じで。ここまで解せば、あとは先輩だったら問題ないと思いますけど」

浩子「」

京太郎「先輩?」

浩子「は――」

京太郎「?」

浩子「はやすぎやろっ、京太郎くんっ!」

京太郎「はやくねぇよ! 人聞き悪いな!」


泉「? そこは褒められて、それほどでもっちゅうとこちゃうの……」

京太郎「男には色々あるんだよ……あ、向こう終わったし、お前のほうやるか」

泉「はやいなぁ」

京太郎「はやくねぇよ!」

京太郎「――ふぅ、こんなとこかな。一区切りするか」

泉「お疲れ……京太郎くんはすごいな、なんでもできて」

京太郎「……なんもできなかったからな、最初は。いまだって、教えられたことを、ただやってるだけだし」

泉「そう、自分で思ってるだけかもしれへんで。周りは誰も、そんな風に思ってなかったんとちゃうかな」

京太郎「……それでも、自分のことなんて、自分で認めないと意味ないと思わないか?」

泉「そうかもしれへんけど……」

京太郎「……ま――泉がそう言ってくれたことは、ちゃんと嬉しく思ってるぞ」

泉「なら私も、京太郎くんが教えてくれてることには、ちゃんと感謝してるで」

京太郎「よしよし」ポンポン

泉「こらっ、頭やめーて」

京太郎「嫌じゃないんだろ?」

泉「嫌じゃなくても、ええときと悪いときがあるんや!」

怜「いい怜悪い怜普通の怜」

竜華「金のオノ?」

浩子「欽ドンでしょ」

セーラ「古いな!」

怜「おとんもおかんも、好きやからなぁ」

京太郎「ふぅ……ほんっと、マジで久々に勉強した気分だ……」

京太郎「さて、と……一段落ついたし、俺は買いだし行ってきますね」

セーラ「またかい!」

怜「昨日も行ったやん」

竜華「そうなん?」

浩子「あ、先輩酔っぱらってましたっけ」

竜華「そんなわけないやろ……」

泉「すごいですね、全然覚えてないですやん……」

怜「これまでのお菓子では、お酒いっさいつこてなかったん?」

京太郎「昨日のリキュールは、初めて使ったんで……今後は使いません。特に千里山では」

竜華「なにコソコソ話しとるん?」

京太郎「いえ、こっちのことで――」

京太郎「ともかく、今日の買い物は、お昼の用意です。皆さん、食べますよね?」

セーラ「食う!」

怜「がっつきな」

浩子「ええの?」

京太郎「もちろ――あ、家でご用意されてますかね」

竜華「食べて帰ろ思てたよ。日曜はだいたいそうしてるしなぁ」

泉「作ってくれるんなら、ありがたく」

京太郎「了解、それじゃ行ってきます」

怜「……いま気づいたんやけど」

竜華「?」

怜「作ってもらうの当たり前で、まるで手伝う気ぃない発言ばっかりやったな」

泉「あっ……」

竜華「ちゃ、ちゃんと手伝うしっ」

浩子「これも効率化ですから」

セーラ「作るん上手いやつが作る、そんでええやん」

泉「それでええんでしょうか……」

五人『………………』

京太郎「……あれ? しまった、マフラーを……取りに戻るか」

 少年移動中……

京太郎「すいません、マフラー忘れて……あれ?」

怜「おや、お帰り。はやかったなぁ」

京太郎「はやくないですよ!」

怜「?」

京太郎「いえ、なんでも……マフラー忘れたので、取りに戻っただけですよ」

京太郎「みなさんは?」

怜「追いかけていったわ」

京太郎「は?」

怜「……ま、ええやん。しばらく戻らんやろうし、買いだし行ってきたらええんとちゃう?」

京太郎「はあ……それじゃ、とりあえず行ってきます」

怜「……うちも行ってええ?」

京太郎「大丈夫ですか?」

怜「前も買い物しとったやろ? 大丈夫やって」

京太郎「……わかりました。それじゃ、一緒に行きましょう。調子が悪くなったら、すぐ言ってくださいね」

怜「すまんなぁ」

京太郎「いえ、俺でもできることは、それくらいなので」

怜「ほな、ゆっくり行こか」

京太郎「はい。お昼までまだ時間ありますからね」

京太郎「なににしようかなーっと」

京太郎「あ、誰か食べられないものってあります?」

怜「前も言うたっけ……たぶん大丈夫や思うで」

京太郎「ふむふむ……あ、好きなものとかは?」

怜「肉」

京太郎「具体的には」

怜「牛肉……いや、豚も捨てがたいか……けど鶏も……」

京太郎「……脂肪分は、気をつけたほうがいいですかね?」

怜「そやなぁ。鶏の皮と、ほかの脂身は控えてるわ。肉自体の脂は、量減らしたらええと思う」

京太郎「なるほど……それじゃ、牛にしましょう。で、タタキに仕上げます。あとはそれに合わせて、色々と」

怜「えっ、タタキって普通に作れるもんなん?」

京太郎「ええ、家庭でもおいしく作れます。楽しみにしててください」

怜「あ、味噌汁飲みたい」

京太郎「わかりました。具はなにがお好きですか?」

怜「じゃがいも」

京太郎「結構珍しいですね」

怜「おかしいか?」

京太郎「スープの具材としても多いですし、おかしくはないですよ。それじゃ、じゃがいもと人参、たまねぎで作りましょうか」

怜「お菓子買うていい?」

京太郎「俺のお菓子じゃだめだったんですか!?」ドバーッ

怜「そ、そこは泣くんや……えと、スナック菓子は作らへんやん?」

京太郎「俺のお菓子は……スナック菓子よりも……」

怜「いや、毎日高級寿司やと、たまには牛丼が恋しくなるいうか……」

京太郎「はぁ……そうですよね、俺のお菓子なんて、そもそも……」

怜「……じょ、冗談やで?」

京太郎「なんだ冗談ですか。脅かさないでくださいよ」

怜「ははは、スガキョンはからかいがいあるなぁ」

怜(案外めんどくさいねんな……でも可愛い)

京太郎「さて、メニューも決まったし、材料回収に行きましょう」

怜「うん」

京太郎「特に問題なく買えましたね」

怜「目当てのモンが品切れで、色んな店回って遅うなるパターンは?」

京太郎「怜先輩が疲れるじゃないですか」

怜「それもそやな……」

京太郎「じゃ、帰りますよー。遅くはないですけど、作る時間も考えて、まっすぐ帰りましょうねー」

怜「はいはい。あ、荷物は?」

京太郎「量が多くないですし、一人で持てますよ」

怜「……むー、気ぃ遣てるやろ」

京太郎「献立も決めてもらっちゃいましたし、これくらいはさせてください」

怜「うまいこと言うて……まあええわ。うち、病弱やしな」

京太郎「見た目、儚げな美少女ですもんね」

怜「見た目……?」

京太郎「失礼、内面もです」

怜「いちいち引っかかるなぁ」

京太郎「さっきの冗談のお返しですよ」

怜「冗談……あ、ああ、あれな、うん」

怜「まぁ……ほな、これでお相子やで?」

京太郎「はい」ニコニコ

怜(スガキョンの前でスナック菓子はあかんな……うん)


京太郎「ただいま戻りましたー……あれ?」

怜「あら、みんなまだ帰ってへんのか」

京太郎「え、どこか行ってるんですか? お出かけ的な?」

怜「あー……いや、なんでもないで。すぐ戻ってくるやろうし、ご飯作って待ってようや」

京太郎「はい、そうしますね。それじゃ、少しお待ちください」

怜「……あの、スガキョン?」

京太郎「はい」

怜「一緒に、作らへん? あ、言うても難しいことできへんから、指示してほしいんやけど……」

怜「……や、やっぱりええわ。めんどいやろうし」

京太郎「……野菜の処理から、やっていきましょうか。手伝ってくださると、助かります」

怜「あ……うん、やろか。おおきに」

京太郎「お礼を言うのはこっちのほうですよ」

怜「はぁ……ほんま、スガキョンのくせにイケメンやなぁ」

京太郎「なんで罵倒される流れに!?」


~その頃の彼女たち

竜華「……お、おらへん、なんでや……」

セーラ「ほんまにこっちの商店街なんか?」

浩子「近くにスーパーありますし、そっち行くでしょ……」

泉「ここ遠いですし……」

竜華「そんなことあらへんもん! こっちやもんっ……」

セーラ「駄々っ子か……あー、もうええ。帰ろや」

浩子「電話忘れて行こったせいで、連絡もできへんかったし……」

泉「あ、園城寺先輩からメールきてますよ」

セーラ「あ、俺もや」

竜華「私も……みんなに送ってるみたいやな」

浩子「で、文面は――」

 そこには、おいしそうな牛タタキ定食の写真がありましたとさ。


~午前の部、終了


~2月第三週日曜、午後

京太郎「おいしく作れたと思ったのに……なぜか皆さんには怒られた」

京太郎「しかし、携帯も忘れてたのか……これからは気をつけよう」

京太郎「さて、午後はどうしようかな」

京太郎「午前中頑張ったし、ちょっとくらい息抜きしてもいいよな、うん」

京太郎「いい加減、ゲームの麻雀も飽きたし……対人対局がしたい!」

京太郎「ということで、この雀荘にやってきたわけだけど――空いてる席は……」

健夜「あーっ! 不良少年発見!」

京太郎「げっ……健夜さん」

健夜「げってヒドくないかな」

京太郎「すいません……」

良子「まあ……私たちも雀荘で小鍛治プロに会えば、そうなりますが」

理沙「残当!」

健夜「」

京太郎「良子さん、それに理沙さんも。どうして大阪に?」

良子「諸事の打ち合わせが済んだので、その打ち上げです」

健夜「それにここは、地域でも優良なお店だからね。部活禁止中にやってくる不埒な学生さんがいないか、見張ってたっていうのもあるんだけど――」

理沙「めっ!」

京太郎「……すいませんでした」

良子「まあまあ、お二人ともその辺で……まあ、部活は禁止ですが、個人の娯楽を禁止するわけではありませんからね。京太郎くん、気にしないで」

京太郎「良子さん……優しい……」ジーン

理沙「!!」

健夜「良子ちゃん、恐ろしい子っ……」

京太郎「あ、もちろん注意してくださったお二人にも感謝してますよ」

理沙「ならよし!」

健夜「ほっ……」

京太郎「だけど、そういうことなら……俺は帰ったほうがいいですよね」

三人『!?』

良子「……先ほども言いましたが、娯楽は禁止ではありませんし」

健夜「午前中は勉強してたんだよね? なら、いいと思うけどなぁ」

理沙「息抜き!」

京太郎(結局どうすればいいんだ……)

良子「三人打ちも飽きてきましたし……」

健夜「二人から毟り取るのも疲れてきた……」

理沙「すこやん鬼!」

京太郎「……えーっと、その……卓についてもいいですか?」

健夜「いいよー。さ、入って入って」

京太郎(なら最初の注意はなんだったのか……)

理沙「マスター! あつしぼ!」

京太郎「ありがとうございます。では、お手柔らかに」

良子「? 痛くなければ覚えないでしょう?」

京太郎「」

良子「ジョークですよ。もちろん、加減はします」

健夜「前みたいに倒れられたら、大変だもんね」

理沙「まったく!」

京太郎「すいません、虚弱で……」

良子(むしろ本気の小鍛治プロと座って、一局もったのがおかしいのですが……)

理沙(自分の頑強さを基準にして、後輩を軟弱扱いしないか不安だなぁ……)

健夜(本気はダメかぁ……ちょっと残念)

良子「さて、半荘にするか、風戦にするか……京太郎くん、決めていいですよ」

京太郎「そうですね――」

京太郎「では半荘で――よろしくお願いします」

良子「よろしく」

健夜「張りきっちゃうぞー」バリバリ

理沙「やめて!」

健夜25000→13000
良子25000→
理沙25000→
京太郎25000→37000


京太郎「ロンです、跳満。12000ですね」

健夜「は~い」

京太郎「……わざと振ってません?」

健夜「見え見えのには振らないよ~。ちゃんと努力してるから、相応しい結果を見せたんだよ」

京太郎「つまり……わざと?」

良子「説明が難しいですが……このくらいの実力の選手が相手なら、振り込んでしまうということです」

理沙「なりきり!」

京太郎「……大会で、俺が当たりそうな実力の相手を演じている、ということですか」

健夜「そういうことかな。もちろん、不満だったら全力をお見せするけど」ゴッ

京太郎「ま、またの機会に……」カタカタ

健夜「残念だな~」

良子(……そのうち、本気になりそうですね……)

理沙(いざとなったら、良子に押しつけて逃げよう。京太郎くんと)


健夜25000→13000→12000
良子25000→
理沙25000→
京太郎25000→37000→38000


健夜(……次でツモっちゃうなぁ、どうしよう)トンッ

京太郎「ロンです。1000点」

健夜「!!」

良子「どうされました、小鍛治プロ?」クスクス

理沙「ハトマメ!」

健夜「……いまのは、わざとじゃなかったなぁ。お見事だね」

京太郎「恐縮です。でも――普段の健夜さんだったら、逆に呑まれてましたね」

健夜「……ううん、そんなことない、きっと。京太郎くんの強さは、きっと本物だからね」

京太郎「ありがとうございます。本当にそうなれるよう……本気の健夜さんにも勝てるよう、頑張ります」

健夜(~~~~っっ! 嬉しいっ……)

良子(京太郎くん、それ以上いけない)

理沙(……実際、京太郎くんがすこやんに勝てるくらいになったら……世界大会の男子は、日本の黄金期かな)


健夜25000→13000→12000
良子25000→
理沙25000→24000
京太郎25000→37000→38000→39000


理沙「~♪」

京太郎「……ロンです、1000点で」

理沙「偉い!」ナデナデ

京太郎「大丈夫ですって。一回上がったからって、気を緩めてませんから」

健夜「どゆこと?」

良子「自分の教えを確認して、京太郎くんが応えたから喜んでるんですよ。『師匠として』」

健夜「……なにが言いたいのかなぁ?」ゴッ

良子「いえいえ。最初の跳満が、私の教えの体現だとか……先ほどから野依プロの教えを忠実に守っているとか、そんなことは一言も」

健夜「そうだよねぇ。うふふふふふ」

良子「HAHAHAHAHA」

京太郎「……あの、理紗さん……」

理沙「無視!」

京太郎「アッハイ」


京太郎(……健夜さんが静かすぎて怖い)

健夜「……ロン」

理沙「」ビクッ

健夜「はい、これで逆転だね」バララッ

良子「……おとなげないですよ、小鍛治プロ」

健夜「ノンノン、これも指導だよ。トップ親は逆転されないように、早めに流さないとね」

京太郎「うぐっ……はい、すいません」

健夜「謝らなくてもいいからね。次からは気をつけて」

京太郎「はいっ」

良子「ほんと、麻雀のこととなると人が変わりますね」

健夜「えっ、そ、そうかな……ごめんね、厳しかった?」

京太郎「はい。でもそれがありがたいです」

健夜「そ、そう? えへへ~、ほらー」

良子「……社交辞令」ボソッ

健夜「ん?」

良子「いえ、なにも」

京太郎「…………」ハラハラ

理沙「大丈夫」

京太郎「本当ですか?」

理沙「二人はなかよし!」

京太郎「アーノルド・ローベルですか……」


健夜:トップ
京太郎:2位


京太郎「お三方がお疲れでなければ、このままお願いします」

理沙「いける!」

健夜「私もだよ」

良子「一番若い私がへばるわけにもいきませんね、一番若いですから」

健夜「」イラッ

理沙「」イラッ

京太郎「」ハラハラ

良子「ジョークですよ、ジョーク。ブラックジョークです」

京太郎(笑えない……)

京太郎「……あー、けど……お二人も、お若く見えますよね」

京太郎「こういっちゃなんですけど、健夜さんは童顔ですし、理紗さんも小さくて学生みたいですし……」

良子「」ワクワク

京太郎「……良子さんは、その……大人っぽいですよね」

良子「」ガーンッ

健夜「よかったね、良子ちゃん」ニヤニヤ

理沙「大人!」ニコニコ

良子(これで勝ったと思わないでください)

健夜(もう勝負ついてるから)

理沙(……まあ、京太郎くんは気を遣ってくれただけだろうけどね)

京太郎(……事実、そう思ってるんだよなぁ……まあ、良子さんの大人っぽいは、いい意味でだけど)


健夜25000→24000
良子25000→
理沙25000→
京太郎25000→26000


京太郎「っ……ロン、です……」

健夜「うーん、ツモはだいたい潰されちゃうなぁ」

良子「そろそろ別のパターンで検証してみましょうか」

理沙「どっちか!」

良子「そうですね。私たちの出上がりを防いでほしいところ」

健夜「まあ、そう難しくはないよね」

京太郎(加減してても、おっそろしく強いのになぁ、この人たち……無茶ばっかり言ってくれる……)

京太郎(……燃えるじゃないですかっ!)


京太郎「んー……」

健夜(ふふふ、悩んでる悩んでる)

良子(そんな顔も可愛いです)

理沙(……というより、あの表情は……うーん、これかなぁ……)トン

京太郎「! ロンです!」

理沙「はい!」

良子「……ああ、そういえば。そういう打ち方をしてましたね」

京太郎「! 覚えててくれたんですか!」

良子「ええ、もちろんです。私が初めて京太郎くんと打ったとき、君が見せてくれた打ち方です……そう、私が君の師匠になったときの」

理沙「……はい!」チャラッ

京太郎「あ、はい、どうも……あの、なにか怒ってます?」

理沙「いつも通り!」

健夜「たしかにいつも通りだね」

良子「でも嫉妬ですよね」

理沙「し、してない!」

京太郎「……ともかく、これでなんとか出上がり阻止しての上がり、成功ですね……」

健夜「次はツモが見たいなー」

良子「できますよね?」

京太郎「……ど、努力します」

理沙(……可哀想だったかな? 次上がったら、褒めてあげよう)


健夜25000→24000
良子25000→
理沙25000→22400→19400
京太郎25000→26000→28600→31600


理沙(上がれそう……上がっちゃっていいかなぁ?)チラッ タンッ

京太郎「? あ、ロンです」

理沙「!?」

京太郎「あー、これで次がラストか……さっきのがあるんで、すげー不安なんですけど」

良子「おとなげないプロがいますからね。注意してください」

健夜「私を悪者にしないで! それよりツモは?」

京太郎「……や、その、狙ってはいるんですが……」

良子「次はよろしくです」

京太郎「はい……厳しいなぁ」

理沙(……まさか上がられるとは思ってなかったな……手加減してたのは事実だけど、ちょっと驚き……)

健夜「あれ、理沙ちゃんどうしたの?」

京太郎「すごい睨まれてるんですけど」

理沙「ち、違う!」

理沙(……でも、見惚れてたとは言えないし……)

良子「どうやら見惚れていたみたいですよ。罪な男ですね、京太郎くん」

理沙「!? 違う!」

京太郎「……ですよね」

理沙「そ、それも違う!」

健夜「もういいから京太郎くん、早くツモってね」

京太郎「おっと、俺の親でした……」

理沙「あぅぅぅぅ~~~」


京太郎「……す、すみません、ロンです……」

良子「ふぅ……がっかりです」

京太郎「」グサッ

良子「なんてね、ジョークです。トップのラス親で、そんな無茶は言いません」

健夜「っていうか、跳満ってなに! 粘りすぎ!」

京太郎「ツ、ツモれるかと思って……」

良子「ああは言いましたが……無難に安手でいいですよ?」

京太郎(ひどい人たちだ……)

理沙「っ……っっ……よ、よくやった!」

京太郎「えっ」

理沙「頑張った!」ナデナデ

京太郎「あ……ありがとう、ございます……」ヘヘッ

理沙「~♪」ナデナデ

良子(……はっ! こ、このままでは、鬼畜師匠という認識をされてしまうっ……)

健夜(まあ、出上がり得意っていうのもいいものだけどね。無理にツモらなくて、困ることは……時にはあると思うけど。そのときに修正してあげればいいか)

京太郎:トップ

京太郎「それじゃ――今日はお世話になりました」

健夜「ううん、こっちこそ楽しかったよ」

良子「また打ちましょう。テストも直に明けます、そのときには指導に呼んでください」

理沙「待ってる!」

京太郎「はい、では」

京太郎「……あの、これから三人はどうされるんです?」

良子「一度ホテルに戻って、着替えてから食事するか……その前にどこかでお茶でもするかもしれませんね」

健夜「えぇ~、のんびりしようよ~」

良子「若さが足りませんね……」

健夜「」

理沙「観光は……しない!」

京太郎「みなさん、大阪だったらよく来てるでしょうからね……では、うちでお茶でも飲んで行かれませんか?」

良子「!! い、いいのでしょうか」

健夜「お勉強するなら、邪魔にならないかなぁ」

理沙「遠慮……」

京太郎「今日のお礼くらい、させてください。勉強は勉強でやっていますから、心配いりませんよ」

健夜「……うーん、でも――」

良子「……そこまで言ってくれるなら、少し寄らせていただきます」

健夜「!?」

理沙「よろしく!」

京太郎「狭いところですけどね。こっちです、ついていらしてください」

健夜「……わ、私も行くぅ~!」ダダッ

 まぁそんなこんなで、楽しくお茶をしましたとさ



~2月第三週日曜

京太郎「……夕食、作るべきだったか……いやでも、あんまりお引止めしてもなぁ」

京太郎「テスト勉強あるからって、気を遣わせるのも悪いし……うん、お茶だけにしておいてよかった」

京太郎「さて、今日の夜はなにしようかな――」

京太郎「忙しい人も多いだろうし、メールにしておくか」

京太郎「メールなら、気づいたときか手の空いたときだけ、返信してもらえばいいし」

京太郎「んー、誰にメールしようか」


京太郎「あ、そうそう。昨日の竜華さんのこと、メールしとかないと……」

京太郎「昨日のこと、覚えてないようでしたけど、大丈夫でしたか?」


『そやねんなぁ。みんな、私が酔ってたて言うんやけど、ウソやん?』

『お酒とか飲んでないし、これは確実に』

『でも記憶はないねんなぁ。京太郎くんの大福食べて、気ぃついたら家におってん』

『しかも、その……学校とか、買いだしで……人目もはばからず……』

『い、色々してたって……あれはさすがにウソやろ!?』


京太郎「……どっこい、現実っ……これが現実ですっ……」

京太郎「さて、どうやって伝えよう」


京太郎「――そうだな、ここは真剣に答えないと。竜華さんも不安だろうし」


京太郎「大福の苺を漬けたリキュールで、酔っちゃったみたいです。いつもより濃い目の味だったからかと」

京太郎「ただ、そこまでおかしなことはしてません」

京太郎「少し積極的に、俺にくっついてきてくれてましたね」

京太郎「普段のしっかりした竜華さんとは違って、新鮮で可愛かったです」

京太郎「まあ、あの四人と――あとは、商店街の……ほら、前に連れて行っていただいた、あの店とかです」

京太郎「その辺りでも、そういう態度のままで……すごくベッタリでした」

京太郎「俺はむしろ嬉しかったですけど、そのことで、商店街やご近所では色々言われるかもしれません。すみませんでした」

京太郎「なにかあったら正直に、お菓子のリキュールで昂揚してたって言うか、罰ゲームだったとか言い訳してもいいかなと」


『』

『そ、そう、なんや……』

『えっと、まずは……えらい迷惑かけてごめんな』

『そんで、京太郎くんは気ぃ遣て嬉しかった言うてくれてるかもしれんけど、困るんやったらそう言うてな』

『そのときは、私が勝手にしたことやて、説明しとくし』

『でも――私は、周りになんや言われても、気にしやへんよ』

『……聞いた内容は、その……私が、してみたいて思ったこと、そのものやから……』

『京太郎くんが許してくれるなら、また……お願いできたらって思てる』

『ほなね。迷惑やったら、ほんまにすいませんでした!』


京太郎「……迷惑なんかじゃありません、絶対に」

京太郎「今度は酔ってない状態で、見せてくださいね」


京太郎「……そうだ、エイスリン先輩……大学の、下宿の準備とかは大丈夫かな」

京太郎「みなさんも手伝ってくださってるとは思うけど、一人だけ留学生だし、不安とかもありそうだからな……」


京太郎「英)――と思ったんですけど、なにか困ったことはありませんか?」

京太郎「英)来月、もし東京に行けたら……そのとき、手伝えることはお手伝いしますので」

京太郎「英)なんでもおっしゃってください」


『ン? イマ、ナンデモスルッテ、イッタヨネ?』

『英)このスラングは、こういう使い方でいいのかしら』

『英)そうね、いまはないけれど――ううん、ウソ。困ったことはあるわね』

『英)京太郎に会いたくてたまらないの。それと、荷作りで重いものを運ぶのが大変ね』

『英)荷解きで男手が必要かもしれないから、そのときに手伝ってくれると嬉しいわ』

『英)そのときは、お礼に――なんでもしてあげる♪ ふふっ、なーんてね』


京太郎「ん? いまなんでもするって言ったよね?」

京太郎「――じゃないですよ、ほんと……」


京太郎「ふむ――」

京太郎「お礼、期待しています」

『!?』

『イイノ!?』

『オモチナイケド、イイノ!?』

『ガンバルネ!』


京太郎「……あれ?」

京太郎「おかしい、お礼に……エイスリン先輩の手料理でも、とか思ってただけなのに……」

京太郎「ほら、力仕事のあとってお腹空くし、ねぇ?」

京太郎「……また、誤解といとかないとなぁ……」

京太郎「エイスリン先輩、無防備でちょっと不安だな……」

京太郎「大学で変な人に引っかからないよう、えーっと……豊音先輩、は……迫力があるけど、あの人も純粋だし……」

京太郎「やっぱり塞先輩……けど、あの人も強引な押しに弱そうだし……胡桃先輩、なんとか守ってあげてください……」

京太郎「でも、そういう趣味の相手だったら、胡桃先輩も人気出そうだし……うわ、いまさらだけど、あの人たち……大丈夫かな」

京太郎「都合よく、女子大だったらいいなぁ……マジで」

京太郎「あー、やめやめ! ネガっても仕方ない、何事もないって信じよう、うん」

京太郎「さて、近況メールでも送るか。時間あるし」

~2月第三週日曜、終了!



~2月23日

京太郎「……あ、咏さんの誕生日だ。巾着はちゃんと届いたかな……」

京太郎「――お誕生日おめでとうございます」

京太郎「以前、選んでおいた品をお贈りしておきました。お気に召しましたら、使ってくださると嬉しいです」

京太郎「それではまた、ご指導の際など、よろしくお願いします」


京太郎「うーむ、この社交辞令感……逆に失礼かな?」

京太郎「あ、反応早い……意外だ」


『おー、バッチリ届いてんよー』

『扇子以外、道具とかカバンとか持ち歩かんからねー、正直ありがたかったよん』

『これで財布持ってけるから、お昼とかでえりちゃんにたからずに済むよー』

『あはは、ウソウソ。本気にした? さすがにカードくらいは持ち歩いてるってーの』

『あ、えりちゃんっつーのはね。私とコンビ組んでるアナウンサーで、すっげー美人』

『京太郎好みのおもちじゃないけど、ほんとお人形さんみたいにきれ――』

『須賀京太郎くんですね、三尋木プロから話はよく。アナウンサーの針生えりと申します』

『この人の、私についてのコメントは、話半分に聞いておいてください』

『では、今後とも三尋木プロをよろしくお願いします。あなたと接するようになって、だいぶこの人もまともになりました』

『本当にありがとうございます』


京太郎「……携帯を取り上げられただけ、かな?」

京太郎「針生アナか、知ってるぞ。テレビでたまに見たっけ、綺麗な人だ」

京太郎「巾着、気に入っていただけてよかったです。ほつれたら言ってください、修繕しますから」

京太郎「このメール、ちゃんと咏さんに見せてあげてくださいね」


『いやー、えりちゃん怖いわー』

『あ、修繕助かるよん。たぶんどっかしら引っかけて、すーぐボロボロにしちゃいそうだし』

『なるべくそうならんよう、大事には使うけどねぃ、知らんけど』


京太郎「あ、取り上げられてただけみたいだな。下手に針生さんに返事する感じだったら、怒らせてたかも。危ないあぶない」


~2月活動日程、終了


~2月四週?曜日

京太郎「――はい、須賀です」

久『もっしー? 私でーす』

京太郎「そろそろかかってくる頃だと思ってました」

久『それは結構……もう溜めはいらないわね? では発表しまーす』

久『来月の派遣先は――』

京太郎(思いっきり溜めてる……)

久『清澄高校でーす! イェーイ、拍手~』

京太郎「…………えっ」

久『こらこら、なんなのよ、その反応は。清澄よ、清澄。あなたの母校、昨年夏の団体戦全国優勝校、長野県清澄高校への派遣が決まったの!』

京太郎「……俺、長野に帰れるんですかっ」

久『そうよ、嬉しい?』

京太郎「めちゃくちゃ嬉しいです!」

久『そ、そう……ふふっ、そうよね。なんてったって、清澄にはみんなが……私が――』

京太郎「いやったああああああああああ! カピーに会えるっ、上手くいけば師匠にも会える! やったあああああああああああ! バンザーイ!」

久『いる、も……の――はぁ?』

京太郎「あ、それに清澄のみんなにも会えるのか。やー、久々って感じ……でもないか、今月の頭に会えたわけだし。でもやっぱ、懐かしいかな」

久『………………』ブルブルブル

京太郎「ん? そういや染谷先輩と部長には会ってませんでしたね、それはちょっと楽しみです」

久(ちょっと……っっ……このっ――)

久『か――勝手にしなさいっ、このバカ!』ブツンッ

京太郎「えっ――ちょっ、あのっ、部長!?」

京太郎「切れた……えーっと、部長の番号は、と……」

『電波が入っていないか、電源が――』

京太郎「…………しまった。無神経に、騒ぎ過ぎたな……」

京太郎「――しかも、部長は卒業するんだ、だから……」

京太郎「派遣された清澄に、部長は――」


久「…………バカ……誰のせいで、こんなことになったと思ってんの……あーあ、最低の先輩だわ、私……」


 運命の卒業式まで、あと○日――。

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最終更新:2026年01月17日 13:31