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~2月最終日


京太郎「――お世話になりました、皆さん。特に監督は、なんやかんやで二ヶ月ほども」

雅枝「またこっちにも顔だしや。姫松でも千里山でもかまへん」

怜「え、監督ずるい」

浩子「私もどっちでもいいですわ」

泉「従妹ずるいですね」

セーラ「洋榎もそうやろけど……俺もプロなって、一軍上がったら移動もあるからな。近くにおるときは、指導行ったりできんで!」

竜華「ずる゙い゙ぃぃぃx~~~~~っ、ゼーラ゙ずるいぃぃぃっ、うあぁぁぁっっ!」

怜「……こっちは引くぐらい泣いてんな」

セーラ「こんな涙脆いとはなぁ」

京太郎「竜華さん、元気出してください」

竜華「む゙り゙ぃ゙ぃぃぃぃ~~~~~~~っっ」

泉「完璧駄々っ子ですね」

浩子「あんたも泣くか思たのになぁ……」

泉「先輩見てたら冷静になりましたわ……」

怜「……スガキョン、卒業式……明日まで、残ったりはできへんのん?」

京太郎「……引っ越しの日程もありますから……それに、まだどこに出席するか、決めかねてますし……」

浩子「優柔不断やなぁ」

雅枝「まあしゃーない。いくら悩んでも、京太郎の身体が一つやからな……どこに行っても、先輩らをちゃんと見送ったりや」

京太郎「はい……」

セーラ「まだ俺らは幸運なほうやで。一日早いけど、ここで見送ってもらえるしな」

竜華「ぞっ……ぞや゙けどぉぉぉ……うぐっ、うぅぅぅっ……京太郎っ、京太郎ぉ~~~~~~っっ!!」ビエー

京太郎「竜華さん……その、なんて言えばいいかわかりませんけど……」スッ

竜華「ぅんっ?」

京太郎「――きっと、また連絡します」ガバッ

竜華「ふぇ……」ギュゥ…

泉「!?」

怜「わお」

セーラ「だ、だいたんや……///」

雅枝「……写真撮ってうちの子に見せたりたい……」

浩子「オバちゃん、それは鬼畜すぎるで」


竜華「きょっ、きょきょっ、きょ……きょっ、たろうっ、きゅんっ!?」

京太郎「また会いにも来ますし……麻雀のご指導をお願いすることもあります」

京太郎「そのときに、また笑ってください……」

京太郎「ここで、涙はだし尽くしちゃってください……顔、見ないようにしてますから」

竜華「っっ……ん……わ゙がっだ……ぐすっ、京太郎……京太郎ぉっ……うぅぅっっ……」

京太郎「はい」

竜華「……っ……寂じい゙なるっ……」

京太郎「俺もです」

竜華「私のほうがっ、もっとやっ……」

京太郎「すみません……」

竜華「待ってるからなっ……」

京太郎「はい……」

竜華「もうちょい強く……」

京太郎「…………」ギュッッ

竜華「……ぐすっ……」

京太郎「…………」ポンポン

竜華「……なんか、言うてっ……」

京太郎「卒業、おめでとうございます……素敵な大学生に、なってください」

京太郎「そんな竜華さんに会えるのを、楽しみにしてます」

竜華「~~~~~~~~っっ! あ……あ゙ほぉぉぉぉぉっっ!」ビエー

怜「あーあ、せっかく泣き止みかけとったのに……しゃーないやっちゃ、ほんま」

セーラ「さすがにこんなん見たら……俺かてっ、我慢しとったのにっ……」グッ

泉「京太郎っ……くんっ……ふぐっ、うぅぅっ……」ボタボタボタッ

京太郎「セーラ先輩、泉……」


浩子「……京太郎くん」

京太郎「はい」

浩子「……私と泉は、予選抜けて全国行く。悔しいけど、三箇牧がおらんからな……それくらいはできる」

雅枝「全国までに、なんとか修正はするけどな……」

浩子「東京で、また会おな」

京太郎「はいっ……泉もな、エースだろっ」

泉「っっ……せやっ、私はっ……江口先輩、園城寺先輩に続いて……今年からの、エースやっ……」

京太郎「顔上げろよ、胸張れ」

怜「張るほどないけどな」

浩子「ブーメラン、楽しいですか?」

怜「ぶっささるわ……あー、胸痛いわ……なんか、泣けてきよった……」グスッ

京太郎「怜先輩、美少女の顔が台無しですよ」

怜「あほっ……美少女の、儚げな涙とか……最高やんっ……っ……」

京太郎「俺は笑顔のが好きです」

怜「この期に及んでっ、なんぼ口説いとんねんっ、あほっ……」

京太郎「――笑顔で、見送ってくださると嬉しいです。みなさん」

セーラ「っっ……わかっとるわっ……元気でな、京太郎!」

浩子「ほなまた……次の成長したデータも、楽しみにしとるからな」

怜「膝枕ソムリエの役目……忘れたらあかんでっ……」

泉「余計なもん押しつけたらあきませんてっ……」

京太郎「はい……俺だけの膝枕、探してみせますっ……」

泉「探すんかい!」

竜華「あかんっ! 私の、京太郎専用にしてもええからっ、そんなんっ……」

怜「」

京太郎「――竜華さんのは、怜先輩と共用ですから……だけど、素敵な膝枕だったことは、忘れません」

京太郎「また、昼寝させてくださいね……借りに来ますから」

竜華「っ……うんっ、待ってる……いつでも使てなっ……」

泉(……最悪なこと言うてる気がするんやけど……あれ、でもみんな泣いてはる……私だけ!?)

京太郎「一ヶ月、楽しかったです……誕生日やバレンタインのこと、忘れませんから……」

京太郎「またお会いしましょう。それまでお元気で!」

【2月末日】

 今日で、千里山での生活も終わりとなった。
 大阪には二ヶ月いたことになる。それだけ愛着も湧いた。
 見送られ、駅を発つ瞬間は、本当に慣れない。
 また先輩を泣かせてしまった。同級生も。

 こっちは泣くのは我慢していたつもりだけど、声が震えたかもしれない。
 そんなザマで笑顔で見送ってほしいなんて、いつもながら贅沢を言ってしまった。
 ――それでも、叶えてくれた皆さん、ありがとうございました。

…………

「京太郎っ……きょう、たろぉっ……」
「ふぐっ、あうぅぅっっ……りゅーかぁぁ……膝枕、ちゃんと貸してやぁ……」
「泣いてる理由がひどい」
「京太郎くんっ……ぎょう、だろっっ……ぐぅぅんっ……」
「顔えらいことなってんぞ、泉……ハンカチくらい持ち歩きや」
「も、もっでまずぅっ……」ゴシゴシッ
「はいはいっ、そろそろ切り替えや。テストも終わったし、戻って練習やで」
「……そうですね。泉、京太郎くんとの約束、守らなあかんやろ」
「っっ……はいっ!」グスッ
「俺らも行くかぁ……お前らほんま、そろそろ――」
「きょうだろぉぉ~~~~~っっっ!」
「スガギョォォォォッッ! うわぁぁ~~~~~っっ!」
「……はぁ、しゃーないか……すいません、こいつら泣き止んだら、連れて帰りますんで」
「任せたで」

「ほんま、京太郎は……女泣かせやなぁ……」グスッ



~2月末日、夜

京太郎「とりあえず実家に帰って、荷物置いて――さて、明日のことだ」

京太郎「卒業式……三年の先輩を送れるのは、この日だけだ……」

京太郎「並行世界なんてない、ルーラだってない……式の最初から最後まで、先輩の晴れ姿を見届けないとだめなんだ……」

京太郎「誰を見送るかも、俺が決めないといけない……そうじゃないと、先輩方が納得しないから」

京太郎「俺は――どこの卒業式に出たいんだろう」

京太郎「決めた、俺は――」


京太郎「――宮守の、卒業式に出席しよう」


~3月0日、朝

宮守女子高校卒業式~


夕焼けに染まる麻雀部室、久は一人涙に暮れていた。

「須賀君……」グスッ

そんな久の肩にふわりとかけられたストール。
そんなはずはないと頭では否定するものの、
心は期待に浮き立ち、肩に置かれた少年の手を掴む。

「――遅れてすみませんでした、部長。まだ冷えますから」

「グスッ ばか、どうして今更っ」

「今は言葉なんていりませんよ。胸、貸しますから。笑ってください」



~宮守女子高校、卒業式

シロ「…………ねえ」

エイ「シズカニ! シキ、トチュウ!」

シロ「……あ、うん」

シロ「…………」


塞「…………いや、ほんと意外だったわ……てっきり清澄に出席するとばっかり」

胡桃「私たち、五人とも卒業だから、気を遣ってくれたんじゃないかな」

豊音「ちょーうれしいよー」グスッ


京太郎「……なんか、すげー見られてるような気がする」

モブ子「そりゃ数ヶ月ぶりに男子生徒が戻ってきて、執事服で式に出てればそうもなるでしょ」

京太郎「お前はお前で、当然のようにいるしな」

モブ子「――っていうか、あんたはあんたで、なんで宮守に?」

京太郎「……先輩たちがいなくなったら、もうこっちには来られないからな。学校とか、先生方にちゃんと挨拶しておきたかったってのもある」

京太郎「それに――シロ先輩は来年からプロに入るからな。五人揃って、いつでも会えるわけじゃない……そうなる前に、先輩たちと果たしたい約束があったんだよ」

モブ子「ほほう、約束とな?」

京太郎「たいしたことじゃないけどな、先輩たちも覚えてるかわかんねーし」

「続きまして、卒業証書授与――」

京太郎「……来たか」ガタッ


「エイスリン・ウィッシュアート」

エイ「ハイ!」

「――以下、同文。おめでとう」

京太郎「先輩! 素敵です!」カシャカシャッ パシャッ

エイ「キョータロ!」フリフリ

「……あの、受け取ったらあっちから下りてね? 次の人、すぐ来るからね?」

シロ「…………まさか」

塞「……えっ、あれもしかして……私たちのとき、全部撮る気!?」

胡桃「……だろうね」

豊音「わーい。お母さんたちに送ってあげられるよー。ちょーうれしいよー」

「小瀬川白望」

シロ「…………はい」

「以下同文、おめで――」

京太郎「シロさん! 背筋伸ばして! ダルそうにしないで!」カシャカシャッ

シロ「…………すいません、部の後輩が……」

「き、気にしないでいいからね?」

京太郎「あ、こっち見ないでいいですから! 普通に下りてください!」

「……さっきから、写真撮りまくってるあれは、なんなのかしら……」
「執事? あのコ、お金持ちのお嬢さんなのかしら」
「でもさっき、外国の子も撮ってたわよ?」
「誰も止めないみたいですしねぇ……関係者だとは思うんですけど」

シロ(……嬉しいけど、恥ずかしい……)////

小瀬川父「あの害虫がっっ……可愛いシロちゃんの写真を、勝手にっ……」

小瀬川母「お父さん、騒がないのを条件に、卒業式に来るの許してもらったのよ?」ニコニコ

小瀬川父「ぐっ、ぐぅぅぅっっっ! 式が終わったら覚悟しろ、害虫めが!」


塞「……さすがに保護者席がザワついてるわね」

胡桃「うちの両親も知り合いだったと思うんだけど……」

豊音「胡桃の番が、楽しみだよー」ワクワク



「姉帯豊音」

豊音「はい!」

京太郎「先輩、可愛いです! あと帽子は脱いだほうがいいです!」カシャカシャッ

豊音「はわわ! す、すみませんっ……」ヌギッ

「あ、うん……おめでとうね」

豊音「ありがとうございます!」ニコー

京太郎「いい笑顔です!」パシャッパシャッ

豊音「ありがとー、京太郎くーん!」ブンブン


エイ「トヨネ! ウレシソウ!」

シロ「……まあ、うん……私も嬉しかったけどさ……」

エイ「フマン?」

シロ「そんなのないよ。でも……目立ちすぎ」

エイ「カッコイイカラネ!」

シロ「そうじゃなくて――いや、まあそうなんだけど……」



「臼沢塞」

塞「はい……」

塞「お願いだから、私のときはやめてくれますように――」

京太郎「塞先輩! 凛々しいです! 簪も似合ってます!」カシャッカシャッ

塞「う、うるさいっ!」

「あの……お、おめでとう」

塞「ぁ――す、すいません! ありがとうございますっ……」カァァッ

「いや、うん……いい後輩ですね」

塞「恐縮です……本当に、申し訳ありません……」

京太郎「先輩! 顔伏せないで! 堂々としてください!」パシャパシャッ

塞(誰のせいだと思ってんのよ!!!!)


エイ「サエ、マッカ!」

シロ「そりゃそうなるよね」

エイ「ハズカシ?」

シロ「消えたいくらいだろうね」

エイ「シャイガール!」

シロ「普通の反応だよ、たぶん」



「鹿倉胡桃」

胡桃「…………はいっ!」ヤケクソッ

京太郎「胡桃先輩! ご立派です! 大きく見えます!」カシャッカシャッ

胡桃「ひと言余計だよ!」

「……おめでとう」

胡桃「あっはい……すみません、ありがとうございます」

京太郎「こけないように、気をつけてください!」パシャパシャッ

胡桃「~~~~~~~~~っっ、そこうるさい!」カァァッ

京太郎「大丈夫っ、これで最後ですから!」


「……あの五人だけ、みたいねぇ」
「麻雀部の子たちみたいよ、テレビで見た気がするもの」
「全国行ったんでしょう? 立派ねぇ……」
「でもどうして男の子が?」
「さぁ……」


鹿倉母「やっぱりそうですよねぇ……あの子、前に家でお料理した子ですよ」

鹿倉父「……正直、お前の料理よりもうま――」

鹿倉母「なにかおっしゃいましたか、あなた?」ニコニコ

鹿倉父「い、いやぁ? お前の料理は最高だと思ってね、はっはっは」

鹿倉母「まあ、あなたったら……うふふふふ」



シロ「……はぁ、ようやく終わった……」

エイ「ザンネン!」

シロ「……式終わったら、ゆっくり話せるでしょ」

エイ「ソウダッタ! タノシミ!」

シロ「そだね……」ダル

シロ(塞と胡桃、あんまり怒ってなきゃいいけど……)


豊音「ちょーうれしいよー」ボロボロ

胡桃「えっ! もうそんな泣いてんの!」

塞「正直、京太郎くんがいなかったら、私たちもこれくらい泣いてた気がするけど――って、まさか……」

胡桃「……私たちが泣かないように、わざと道化になってくれてるってこと? 考えすぎだよ」

塞「……ま、そうよね」

胡桃「そうだよ! 京太郎くんは、そんなの深く考えないで……ただ、私たちの卒業式だから騒いでるだけだよ……」

豊音「そーかなー。京太郎くんはいつも、私たちのこと考えて、行動してくれてたよー」

塞「……ん、まぁ……そうかも……」

胡桃「か、考えすぎだって! あとで確認すればわかるよ!」

塞「……確認しても、あの子のことだから……つい騒ぎすぎましたって、素直に謝りそうな気がする」

胡桃「た、たしかに……」

豊音「京太郎くん、ちょーやさしいよー」エヘヘー


京太郎「……うん、いい写真が撮れた。さて、このメモリーカードは……塞さんにでも渡しておこう」

京太郎「まだ少し続くけど……いい卒業式だったな。笑顔で、嬉しそうにしてる」

京太郎「……怒られないといいなぁ、なるべく」

京太郎「あっ……皆さん! お疲れさまでした、それと――」

京太郎「ご卒業、おめでとうございま――」

塞「その前に、ちょっとそこに跪きなさい」

京太郎「はい!」スッ

シロ「……従順だなぁ」

京太郎「で、これになんの意味が――」

塞「ふぅ……卒業式でっ、なに恥ずかしいことしてんのよっ!」ゴスッ

京太郎「ありがとうございます!」

豊音「ちょ、ちょーいたそーだよー」

エイ「サエ、ツヨスギ!」

胡桃「あれくらいやんないと、わかんないからね……たぶん……」

シロ「やってもわかんないと思うけど」

京太郎「い、痛い……塞先輩、あの……お気持ちはわかりますが……」

塞「わかるんだったら、ああいうことしない!」

京太郎「……すいません。先輩方の卒業式だったので、ついテンションが……」

京太郎「そうそう、これさっきのメモリーカードです。よかったらお納めください」

塞「いらな――く、はないけど……どうせまだ撮るでしょ?」

京太郎「はい。でもそれ、いっぱいになっちゃったので」

塞「!?」

シロ「そんなに撮ってたんだ……」

胡桃「むしろ動画撮影してたんじゃ……」

豊音「でも、それだと京太郎くんの分は……」

京太郎「あ、もうコピーしてますから大丈夫です」

塞「!? 消せ!」

京太郎「そんな、ひどい……」

エイ「ダイジニシテネ!」

京太郎「もちろんです」

シロ「父さんが知ったら怒ると思うから、黙っててね」

京太郎「はい!」

京太郎「それでは――改めまして、ご卒業おめでとうございます!」

京太郎「よろしければ、これ……受け取ってください」フラワァ

塞「あ、ありがと……」

シロ「ブーケだ」

豊音「ちょーかわいいよー」

エイ「ステキ!」

胡桃「なんか、申し訳ないなぁ」

京太郎「お祝いのために来たんですから。遠慮なさらず」

胡桃「それじゃありがたく」

京太郎「では、それを持って皆さんで、校舎背景に並んでいただけますか? 五人揃ってるとこ、撮っておきたいので」

シロ「すっかりカメラマンだね……」

胡桃「豊音!」

豊音「りょうかーい」ガシッ

京太郎「えっ……あの、豊音先輩……!?」

エイ「イイカラ、イイカラ! トヨネヲ、シンジテ!」

塞「カメラこれ? 新しいメモカは入ってる?」

京太郎「あ、はい……じゃなくて! お、俺には、皆さんを撮影するという役目がっ……」

塞「ごめーん、ちょっとシャッターお願いできる? うん、私たち6人、校舎背景でよろしく!」

京太郎「えっ……」

シロ「宮守女子麻雀部は、私たち6人だからね」

豊音「京太郎くんもいないと、寂しいよー」

エイ「キョータロ、イッショ!」

胡桃「ここまでされて、二人を泣かさないよね?」ジロー

京太郎「……はい」

塞「よろしい。豊音、下ろしてあげていいよー。さ、並んだ、並んだ」

豊音「はーい! それじゃ私、右隣失礼しまーす」ギュッ

エイ「!! ワタシ、ヒダリ!」ギュゥッ

シロ「しまったっ……」

塞「……あ、私はその隣でいいから」

胡桃「仕方ないなぁ……シロ、前譲ってあげる」

シロ「前って……座るの?」

塞「じゃなくてー」

京太郎「……ああ、なるほど……すいません、エイスリン先輩、豊音先輩。掴まるの、肩までにしていただけると、助かります」

シロ「エー」

豊音「い、痛かったかなぁ……」オロオロ

京太郎「いえ、そういうことではなく……腕を自由にしないと、できないことがありますので」

京太郎「シロさん、こっち来てください」

シロ「…………?」トトト


京太郎「捕まえました」ギュッ

シロ「……ちょっと、大胆じゃない?」ドキドキ

京太郎「腰、失礼します」スルッ

シロ「わっ……あの……部屋に戻ったら、下着も換えるから……それまで待って……」

塞「なに口走ってんの!?」

京太郎「――で、このまま……こういうことです」ヒョイ

シロ「――っっ!? あ、ああ、そういう……」///

京太郎「お姫様抱っこ、初めてでしたっけ?」

シロ「どうだったかな……されたような、されてないような……おんぶのほうが多かったし」ポリポリ

京太郎「首に両腕回してください。はい、それで支えれば、軽いですから」

シロ「……みんな、いいの?」

エイ「ヨクナイ!」

豊音「私は隣にいていいなら、いいよー」

塞「なんだかんだ、京太郎くんと一番接点あったのはシロだからね」

胡桃「抱っこされてると、子供っぽく見えそうだし……」

シロ「……それじゃ、遠慮なく」ギューッ

京太郎「あ、顔は前に向けてくださいね。カメラ目線で」

エイ「シロ! アトデ、コウタイ!」

シロ「はいはい」

エイ「ハイハ、イッカイ!」

「撮るよー」

塞「ほらっ、ちゃんと立って!」

豊音「私、ちゃんと入ってるかなー?」

胡桃「大丈夫だいじょうぶ……って、しまった! 豊音の隣だと、低さが際立たつ!?」

「1たす1はー?」

胡桃「ちょっ、待っ――」

5人『ニー』

 ――パシャッッ!

京太郎「ありがとうございました……うん、綺麗に撮れてます」

シロ「モデルがいいからね」

塞「またそんなこと言って……」

京太郎「でも事実ですし。皆さん、お綺麗です」

豊音「え、えーっ、そんな……私なんて……」

京太郎「自信持ちましょう。あ、でも……」

胡桃「ん? なに、豊音を泣かせようっていうの?」

京太郎「いや、そうじゃなく……自信持って、その……東京で、色々と……あったら困るなと」

エイ「イロイロ?」

塞「……はっはーん」ニヤニヤ

京太郎「えっと……皆さん、女子校育ちだったじゃないですか」

胡桃「そうだね」

シロ「…………」

京太郎「で、春から大学なわけですけど……大学行ったら、色々環境が変わりますよね?」

豊音「う、うん! 東京だもん、人いっぱいだよー、ちょーたのしみだよー」ワクワク

京太郎「ええ、まあそれもなんですけど……で、その……人が多いってことは、人と会うことも多いですし……それに、人って二種類いるじゃないですか」

エイ「……カチグミト、マケイヌ?」

塞「そこは負け組でいいでしょ……や、そもそもそういうことじゃないし……」

胡桃「はっきり言って、京太郎くん!」

京太郎「だ、だから……~~~~~~っっ、ああ、もう! 大学行ったら、男子と知り合う機会も増えるじゃないですか! だから心配なんです!」

胡桃「…………へ?」

塞「……くふっ……ふっ、ふふっ……」プルプル

豊音「……えっと、男の子って……あれ、もしかして――」

シロ「…………京太郎」

京太郎「あーはい、嫉妬ですよ、ぶっちゃけた話。ただの男子部員のくせにって思われるでしょうけど、優しい先輩方が心配なのは当然です、いけませんか!」

エイ「……シット、カワイイ……ウレシイ!」

シロ「そこじゃなくて……ねえ、京太郎?」

京太郎「シロさんもですよ! 大学じゃないにしても、シロさんだって周りに男性プロだっているわけですし!」

シロ「えっ……あ、うん」

京太郎「だめですからねっ、変な相手がお世話してくれようとしても、ついていったら――」

シロ「……するわけないでしょ。私が面倒見てもらうのは、塞たちか京太郎だけだから」

塞「おい」

胡桃「もう知らないからね!」

シロ「えー……」

エイ「ハナシ、ソレテナイ?」

豊音「そうだよー。えっと、あのねー、京太郎くん?」

京太郎「なんですか……まさかっ、すでに男子の合格者と――」

塞「じゃなくて――ねえ、もう私から言っていい?」

胡桃「お願い」

塞「あの、京太郎くん? 落ち着いて聞いて欲しいんだけど――」


 少女説明中……

京太郎「」

塞「――ってことなの。つまり、私たちが通うのは女子大なわけ」

胡桃「それに、やりたいことがあって大学行くわけだからね……勉強優先!」

京太郎「で、でも、大学生って飲み会とか合コンとか、そういう誘惑が――」オロオロ

エイ「オサケ、ハタチ、ナッテカラ!」

豊音「村では子供も飲んでたけどねー。あ、内緒だよー。ちなみに私は飲んでないよー」

京太郎「……でも、その……断りきれなかったら、とか……」

シロ「京太郎」

京太郎「はいっ」ビクッ

シロ「私たちのこと……信頼してないの?」

京太郎「そんなことは……」

シロ「なら、ちょっとは落ち着いてて……あと、寮だって男女別な上、離れてるし……試合とか監督とかも違うから」

塞「プロの男性チームと女性チーム、同じ団体が両方持ってることって稀だしね」

塞(東京は両方あるけど、黙っとこうかな……)

京太郎「そうなんですか!?」

胡桃「男子の競技人口は少ないの。ほら、実力的に女子がすごいからね」

豊音「大沼プロとか南浦プロとかー、あの人たちはすっごい特別なんだよー」

京太郎「……そっか、あれくらいのレベルじゃないと入れないなら、そんなにいるわけないか……」

エイ「アンシン、シタ?」

京太郎「はい、少しは……すみませんでした」

エイ「イイ! シンパイ、ウレシカッタ!」ニコッ

京太郎「エ……エイスリンせんぱーいっ!」ガバァッ

シロ「っっ! こらっ……」

エイ「英)あらあら、大きな駄々っ子さん……よしよし、からかってごめんね。それに誰も言ってなかったなんて、思いもしなくって」

塞「エイスリン、甘やかしすぎ」

胡桃「根っこでは甘えん坊なんだよねー、京太郎くん……っていうか、男の子ってだいたいそうらしいよ」

豊音「ちょーかわいいよー」


 少年反省中……

京太郎「お騒がせして、申し訳ありませんでした……あと、皆さんに失礼なことを……」

塞「ほーんと。そんなに身持ちが緩いと思われてたなんて、ショックだわー」

胡桃「っていうかねぇ、その……私みたいな、言いたくないけど子供体型な子なんて、誰も相手に――」

京太郎「そんなことありません、先輩は魅力的です!」

胡桃「」

京太郎「マッサージしたときだって――」

胡桃「ちょっ……ストーップ!!!」

京太郎「あ……」

シロ「………………へえ、胡桃はしてもらったんだ。いつ? 前の合同練習?」

塞「? そういや、マッサージ得意って言ってたよね……で、それがなんかいけないの?」

胡桃「や、その……べ、別に……」カァッ

エイ「アカクナッタ!」

豊音「なにかあったのー?」

胡桃「なにもないから! もうっ、この話終わり!」

京太郎「そ、そうですよ! その……本当にすみません、変な疑いかけちゃって!」ドゲザー

塞「はあ……もういいわよ。こっちも言ってなかったんだから、お互い様ってことで」

シロ(……事情はあとで、詳しく聞いとこう……京太郎から。あと胡桃にも……感想聞かないと。永水の春にも教えてあげようかな)

エイ「デモ、リユウワカッタ!」

京太郎「理由?」

エイ「キョータロ、ココニキタ! キヨスミ、チガウ!」

豊音「清澄じゃなくって、私たちの卒業式に出てくれたのって……それを聞くためだったの?」

京太郎「ああ……いえ、この確認は別に……それとなく注意を促そうとしただけで――」

胡桃「全然それとなくなかったからね!」

シロ「じゃあ、どうして? 私たちが好きなの?」

塞「なんでそうなるの……」

京太郎「もちろん好きです、じゃないと来ませんけど――」

塞「!?」

京太郎「本当の目的は――お弁当です」

京太郎「いつだったか――みんなで、お弁当を食べましょうって約束したんですよ」

シロ「……覚えてるような」

塞「覚えてないような……」

胡桃「ケーキを焼くって話なら覚えてたかな」

エイ「ガッシュクデ、タベタ!」

豊音「わー、おいしそうだよー」

京太郎「お花見のお弁当を想定して、作ってみました。桜にはまだ早かったですけどね」

塞「東北だと、梅もまだもう少しってとこかしら」

シロ「まあ、外出なくていいのはよかった……コタツはいいなぁ」

胡桃「そういえば! まだ持って帰ってなかったよ、これ!」

エイ「シロ、シブツ!」

シロ「ああ、そうだった……どうしよ、いまから持って帰るの大変だしなぁ」

豊音「でも、今日で卒業だよー。この部室とも、もう――うっ、うぅぅっ……」ジワァ

京太郎「豊音先輩……食べましょう。今日は部室にも、お別れするんです……楽しく、笑顔でいましょう」

胡桃「そうだよ! お世話になった部室に、お礼しないとね!」

豊音「う、うんっ……いただきます!」

塞「で――実際、このコタツどうすんの?」

京太郎「寮には持って行きませんか?」

シロ「部屋に置いてたのを、引越し屋に頼んだから……」

京太郎「それじゃ、これは実家に戻すんですね。あとで、俺が持って行きますよ」

シロ「ん、任せた」

塞「まーた甘やかして……」

エイ「ズルイ!」

京太郎「あ……そういえば、引越し屋に頼んだって……エイスリン先輩は、もう荷物は……」

京太郎「――というか、皆さんは住むとこってどうなってるんです?」

エイ「モウ、オクッタヨ!」

塞「みんなで、一応女子大生向けの女性専用マンションに」

胡桃「部屋は隣にして、二人ずつでシェアするんだ」

豊音「入るのは来週かなー」

京太郎「遅かったですね……すみません、荷物まとめるの、お手伝いできなくて」

エイ「ホドクノ、タノシミニ、シテル!」

京太郎「……ぜ、全国大会のときなので、月末ですけど……」

エイ「ソレマデ、オイトク!」

胡桃「ダメ! ちゃんと整理して、京太郎くんは綺麗なお部屋に呼ぶんだから!」


京太郎「塞先輩と胡桃先輩が同室かと思ったんですが」

塞「エイスリンと豊音が一緒って、ちょっと不安でね……」

京太郎「ああ……わかります」

エイ「ヒドイ!」

豊音「私たち、京太郎くんより年上なんだよー?」

シロ「っていうか、京太郎は私たちが実家離れるっていうのが、そもそも心配そうだよね」

胡桃「親みたいだね」

京太郎「だって、俺も一人暮らし長いですからね……苦労も知ってますし、シロ先輩の例もありますから……」

塞「あー」

シロ「あー、じゃないよ」

胡桃「でも、あー、だよね」

エイ「アー、ダネ」

豊音「寮で、大丈夫かなぁ……」

京太郎「月末は、寮にいますよね?」

シロ「たぶん……全国大会中は仕事ある人もいるから、チームで動くことはないはず」

京太郎「時間があれば、そっちもお伺いします……」

シロ「待ってるね」

塞「こら、だからって散らかしたりしとかないのよ?」

シロ「わかってるよ……」

豊音「ふふー」

エイ「ドシタノ、トヨネ?」

豊音「ううん、ただね……京太郎くんがいてくれて、よかったなーって」

豊音「やっぱり京太郎くんがいてくれるから、私たちはいつも通りになってるなって……」

豊音「昨日までは、今日で卒業って思って……す、すごくっ、寂しかった、けど……っ」グスッ

胡桃「あらら、言いだしたら泣いちゃった」

塞「まったく、京太郎くんは……」

シロ「京太郎、反省」

京太郎「なんでですか!」

豊音「きょ、京太郎くんは悪くないよー! すごくね、寂しかったけど……いまはね、嬉しい!」

豊音「京太郎くんがいてくれて、みんながいてくれて……私、この学校に来てよかった!」

豊音「みんなに会えて、本当によかったよー」ニッコー

エイ「……ワタシモ」

エイ「英)留学して、日本のことよく知らないし、言葉もわからないし……どうなるかなって思ってたけど」

エイ「英)みんな優しくて、親切にしてくれて……麻雀も教えてくれて、そのおかげで、学校もすごく楽しかったわ」

エイ「英)いまでは、みんなといない自分なんて、考えられないくらい……この生活が、日常になっているの」

エイ「英)京太郎のことも……もっと日常にして、毎日一緒にいたいくらい、近くに感じてるわよ」

京太郎「エイスリン先輩……」


シロ「ちょっと、最後のも訳してよ。京太郎のこと言ったでしょ」

エイ「ダメ! ソレハナイショ! ネー?」

京太郎「――ということなんで、内緒で」

塞「……ま、京太郎くんが赤くなってるし、許してあげますか」

胡桃「英語ができたから、エイちゃんも京太郎くんにはベッタリだったもんね」

エイ「ダイジョブ! エイゴ、カンケイナイ……ミンナ、ダイスキ!」ニコッ

豊音「私もだよー、エイスリンさーん!」ギュー

エイ「トヨネー!」ギュー

シロ「……ほんと、色々あったね」

胡桃「二人が麻雀部に入るまで、三人だったもんね……」

塞「大会に出られる、それだけでも嬉しかったけど……全国まで行けて、後輩まで……」

京太郎「不肖の後輩ですが」

塞「……そんなことないよ。注意することも、怒ることもあったけど……」

胡桃「京太郎くんは、自慢の後輩だよ! どこにだしても恥ずかしくない!」

シロ「その証拠に、色んな学校でも褒められるでしょ? さすが私たちの後輩」

エイ「イイコイイコ」

豊音「評判を聞くとね、私たちも嬉しくなるんだー。だから……いつまでも、京太郎くんは京太郎くんでいてねー」

京太郎「はい……大丈夫、俺は俺ですよ」

塞「ん、そっか……ならよし」

胡桃「楽しいまま終わりそうだったけど……やっぱり、少しはしんみりしちゃうね」

シロ「四人は住むところ、近くになるのになぁ」

エイ「シロモ、アソビニキテネ!」

豊音「そーだ、サインちょうだいねー!」

シロ「あれって、誰が考えるんだろ……」

塞「自分じゃないの?」

胡桃「チームの広報とかじゃないかなぁ」

京太郎「誰かに聞いたほうがいいですね、詳しい人がいれば――」ケイタイー

シロ「待って。京太郎の知ってるの、トッププロばっかりじゃない。それより、先生に聞こうよ」

塞「あ、そうね。今朝ご挨拶はしたけど、京太郎くんはまだでしょ?」

胡桃「いいね、挨拶に行っとこう!」

豊音「うまくいけば、先生の涙が見られるよー」

エイ「レア! ミテミタイ!」

京太郎「あー……はい、そうですね……行きましょうか。サインのこと聞きに」

京太郎(俺も、式の前に先生方とは会って、全員にご挨拶したんだけど……まあいいか)

 少年少女移動中……

塞「――ということで、改めまして……お世話になりました、トシ先生」

5人『お世話になりました!』

トシ「はい、こちらこそお世話様……律儀ねぇ、みんなして二回も」

胡桃「へ……京太郎くんもですか?」

トシ「そうなのよ。式の前に職員室に来てね、ご指導いただいたお礼にって、大阪のお土産をみんなに配ってたわ」

シロ「……京太郎」

エイ「ソウイウコト、ハヤクイウ!」

京太郎「すいませんでした……」

トシ「あら、なにかまずかったかしら」

豊音「先生は悪くないですよー」

トシ「あらそう? でも、みんなには私のほうこそ、感謝してるわよー」

塞「でも、団体戦では……結局、二回戦で……」

トシ「いいのいいの。あれだけの魔物――って言ったら失礼かしらね、須賀くんの幼なじみに」

京太郎「へ……あ、ああ、咲ですか。まあ本人の前じゃないですし、大丈夫ですよ」

トシ「そう? とにかく――あれだけの相手なら、ギリギリの勝負になっただけでもよしとしないと」

トシ「それに豊音とシロは、個人戦で頑張ってくれたし……プロにもなってくれたものね」

シロ「……ありがとう、ございました」

胡桃「女子の後輩が見つからなかったのは残念ですけどね。麻雀部も、来年はもう……」

エイ「ドースルノ、センセイ?」

トシ「新入生が部を作るようなら面倒を見るわよ。目処が立たなかったら……別の学校で、コーチでもしようかしらねえ」

トシ「晴絵の代わりに、奈良で教鞭を――なんてのも、いいかもしれないわね」


京太郎「……長野にも、強豪ですけど顧問がいない、なんて学校がありますが」

トシ「ほほほほ、たしかに面白そうね。でも、あのチームにはコーチは必要ないでしょうし……それに、長野にはねぇ……」

豊音「なにかあるんですか?」

トシ「生意気なジジイがいてねぇ……あの口悪いのと顔合わせたくないから、行かないでおくわ」

塞「!?」

胡桃「な、生意気な……」

シロ「ジジイ……」

豊音「先生にあるまじき……」

エイ「ボーゲン!」

京太郎「珍しいですね」

トシ「まあ、たまにはこれくらいね。もしその人と会う機会があったら、更新の指導は大勢にするよう、伝えておいてちょうだい」

京太郎「はい……って名前とかは――」

トシ「言わないでおくわ。この人だなーって思う生意気なお年寄りがいたら、その人に言っておいて」

京太郎「はぁ……」

トシ「ふぅ、余計なことはこの辺にして……ともかく、みんな卒業おめでとう」

トシ「これから先も、みんなはたくさんの人と出会い、多くの経験をするはずよ」

トシ「どんなことであれ、それは成長の糧になるわ……大きく育ちなさい、ね?」

6人『――はい! お世話になりました、熊倉先生!』バッ

トシ「元気でおやりなさい。あと……須賀くん、ちょっと」

京太郎「はい?」

トシ「……誰を選ぶにしても、残りを泣かさないようになさい」ボソッ

京太郎「はい」

京太郎(……ん? どういう意味だ?)

理沙「助かった!」

煌「まあ、新道寺は伝統校ですから……監督やコーチは、そう入れ替わりませんよね」

姫子「ちゅーてもそんせいで、結果ばなかなかだせんゆうことも――」

まこ「うちはまた、顧問なしかい……」

憧「ハルエの代わりに熊倉先生が入って、それでうちらが優勝したら……」

玄「赤土先生の立場が……」

晴絵「!?」

灼「大丈夫、ハルちゃんは唯一無二」

穏乃「ですから心置きなく、札幌で頑張ってください!」

晴絵「……なんか、冷たいよぉ」

塞「さて、それじゃそろそろ……お開きにして、解散しますか」

胡桃「そうだね」

京太郎「それじゃ、お送りしま――あれ、そういえば寮のお二人は、いつまで部屋にいられるんですか」

シロ「引っ越すまでだっけ?」

エイ「ライシュウマツ!」

豊音「来週の頭には向こうに行くけどねー」

京太郎「なら、大丈夫ですか」

エイ「デモ、ニモツ、モウナイ!」

京太郎「あっ……そうじゃないですか! どうやって暮らしてるんです?」

豊音「一週間分の荷物持って、三人の家を泊まり歩くんだよー。ちょーたのしいよー」

シロ「私の部屋は、先月解約したから……いまは実家だしね」

塞「今日は胡桃の家?」

胡桃「だったねー。でもせっかく卒業式だったし……よかったら、みんなも泊まりにこない?」

京太郎「いいんですか!?」

塞「こら」

胡桃「女子だけだよ! 当然でしょ!」カァッ

京太郎「ですよね……言ってみただけです」

シロ「いいの?」

胡桃「もちろん――あ、でも先に……このコタツは、家のほうに持って帰りなよ?」

京太郎「あ、俺がお届けときますので、大丈夫ですよ」

シロ「お父さんに見つかると思うけど、平気?」

京太郎「シロさん、ご一緒してくださると心強いです(切実)」

シロ「しょうがないなぁ」ニヤニヤ

塞「それじゃ、私も一回家に帰って、荷物置いて着替え持って行くね」

京太郎「それじゃ、順番に送っていくことにしましょうか」

胡桃「……ごめんね。両親がいなかったら、来てもらってもよかったんだけど……」

エイ「…………エッ」

豊音「普通逆じゃないのー?」

胡桃「いや、ほら……うちの両親、前の料理のことで、京太郎くんのこと気に入っててさ……本気で泊まらせかねないんだよね」

京太郎「俺は構いませんけど」

胡桃「私が構うの!」

塞「私も構うよ!」

シロ「私はいいけど……いや、さすがに人の家はだめか」

胡桃「なにする気!?」

エイ「ニモツ、アッタラ……リョウ、トマレタノニ……」

京太郎「お気持ちだけで嬉しいです」

豊音「東京のほうには、泊まりに来てねー」ニコー

塞・胡桃『だから駄目だってば!』


~小瀬川家

小瀬川父「………………」

京太郎「……先輩が部室に置いてたコタツ、お持ちしました」

小瀬川母「まあまあ、重いのにわざわざありがとう」

シロ「それで今日、胡桃の家に泊まることにしたから」

小瀬川母「卒業式だものね。ええ、わかったわ」

小瀬川父「…………貴様は」

京太郎「は?」

小瀬川父「貴様も泊まる気かと聞いてるのだっ、破廉恥漢めが!」

京太郎「泊まりません! 俺は今日中に帰りますから!」

小瀬川父「そうか。ならさっさと帰れ、ぶっとばされんうちにな」

シロ「……父さん、京太郎をいじめない」

小瀬川父「ち、違うんだよ、シロちゃん! この男からシロちゃんを守ろうと――」

京太郎「そうですよ、先輩のことを心配されてるんですから……」

小瀬川父(……わかってはいるようだな……ふんっ、まあ庇われるのは気に入らんが――)

シロ「先輩なんて、よそよそしく呼ばないで。いつもみたいに、シロさんでいいよ」

京太郎「ちょっと!?」

小瀬川父「」

小瀬川母「あらあら」

小瀬川父「き、きき、貴様ァァァ――ッッッ!!」

京太郎「シロさん勘弁してくださいよっっ!」

シロ「母さんは、京太郎のことどう?」

小瀬川母「いいんじゃないかしら。かっこいい息子がほしかったのよ、母さん」

シロ「よかった」

小瀬川父「よくないよくないよくない! かっこいい男は俺だけで十分だ! こいつなぞ認めん!」

シロ「……自分で言わないで。そこまでかっこよくないから」

小瀬川父「ふははは! 聞いたか小僧、言われてるぞ!」

小瀬川母「そこまでかっこよくないのは、あなたのことですよ、お父さん」

小瀬川父「」

小瀬川母「私は、かっこいいと思いますけどね///」

小瀬川父「……か、母さあぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!」ガバァッ

シロ「はぁ……行こうか、みんな待たせてても悪いし」

京太郎「あ、はい。では、失礼します。コタツ、ここでいいですか?」

小瀬川母「あらあら。ありがとうね……気をつけてね、白望」

シロ「うん、行ってきます」

~臼沢家

塞「それじゃ、パパッと取ってくるから」


塞「……お待たせ」

京太郎「いえ、そんなには……どうしたんですか、疲れてますね」

塞「いや、あのね……ブーケ、どうしたのかって」

塞「後輩にもらったって言ったら、麻雀部に後輩いないでしょって……」

塞「で、式に出てたと思ったから、写真撮ってたあの子だって教えたんだけど――」

京太郎「あー……すみません、先輩のご家族を心配させるようなこと……」

塞「そ、そんなことないから! 大丈夫だよ、別に怒ったりとか怒られたりとかじゃないから」

塞「むしろ、逆でね……なかなか面白いやつだったから、今度ゆっくり紹介しなさい、って……」

京太郎「おおらかなご両親ですね。ありがとうございます」

塞「ほんと、恥ずかしい……」

胡桃「塞は生真面目すぎるよね」

豊音「胡桃も結構ねー」

エイ「アッタカイ、カゾク!」

シロ「どうしてうちはああなんだろ……京太郎、いい子なのにね」

京太郎「女の子の男親なんて、そういうもんですよ」

胡桃「……うちのが変わってるのかな」

塞「……うちのが変わってるのかしらね」

京太郎「あ……ま、まあ、人それぞれですよ!」

シロ「いい加減だなぁ……」

~鹿倉家

京太郎「さて――それじゃ、ここでお別れですね」

胡桃「……う、うん……なんか、ごめんね、ほんとに……」

京太郎「いえ、構いません。俺も明日から学校ですから、実際は泊まるわけにもいきませんでしたし」

胡桃「あ、そっか……そうだよね、普通は学校か」

塞「卒業、したんだもんね……」

シロ「はい、しんみりしない」

塞「し、してないわよっ」

エイ「ソレジャ、トーキョーデ!」

京太郎「はい……本当に、大きい荷物とかあったら、置いててくれても大丈夫ですよ。俺が片づけ、手伝いますから」

豊音「私がいるから、大丈夫だよー」ムンッ

胡桃「腕は細いけど、力あるもんね、豊音」

シロ「……塞、お別れの言葉、なにかあったら」

塞「えっ、なんで私!?」

シロ「部長でしょ?」

塞「ここでそれかぁ……んーと、それじゃ……」

塞「ありがとね、京太郎くん。さっきも言ったけど、あなたは最高の後輩だったわ」

塞「そんな後輩のいる学園生活、部活動を経験させてくれて……本当に、感謝してる」

塞「だから――なにか困ったことがあったら、いつでも頼ってちょうだい」

塞「私は……私たちは、いつまでもあなたの先輩だからね」

塞「とても楽しかった……ありがとう、次に会うまで元気でいてね! あと、派遣も頑張って!」

京太郎「――はいっ! こちらこそ、お世話になりました……」

京太郎「改めて頼らせてもらわなくても、先輩方にはずっと頼ってました……」

京太郎「麻雀のことを教えてくださって、俺自身のこともご指導くださって……」

京太郎「本当に、ありがとうございましたっ……皆さんも、最高の先輩です!」

胡桃「っっ……ほかの、学校の先輩もっ……そうなんでしょっ……」

シロ「それでもいいよ……負けてないならね」

エイ「英)京太郎が来てくれて、楽しかった日々がもっと楽しくなったわ……みんな、同じ気持ちよ」

豊音「ふぐっ、あうっ、うああぁぁぁっっっ! ぎょうっ、ぎょうだろっ、ぐぅぅぅんっ! まだっ、まだぁぁっ、うわぁぁぁんっ!」

京太郎「はい……泣かないでください、先輩」ギュッ

 背の高い先輩を下から抱き締めるのは、絵にならなかったけれど――。
 誰もなにも言わず、豊音先輩が泣き止むまで、静かに見守ってくれていた。

【3月0日 卒業式】

 三年生の先輩方、ご卒業おめでとうございます。
 直接伺えなかった学校はいくつもありますが、先輩方のご卒業、新たな門出を祝福する気持ちは、どこに対しても変わらず持っているつもりです。

 とはいえ、面と向かってお祝いできなかったのは事実です。
 失礼な後輩だと思われても、仕方がない。
 誹りは甘んじて受けます。如何様にも、お叱りください

 それでも俺は、先輩方への尊敬と感謝を忘れません。けして。
 本日まで、ありがとうございました。
 最後にもう一度、ご卒業おめでとうございます。

…………

『以下、元インハイチャンプからの怒りのコメントだ』
『そんなこと言わない、京ちゃんにも事情があったはずだから。それがなければ間違いなく白糸台に来てたのに、怒るなんてことしない』
『まあなんにせよ、京太郎は宮守に来たんだけどね』
『すいません、皆さん。大勝利させていただきました』
『まあ当然かな。私たちの後輩だからね』
『ちょーうれしかったよー』
『コレ、オベントウノ、シャシン』

 ※画像が投稿されました

 ――こんな新機能が。
 いったい誰が作ってんだろ、このサイト。

『う、うちらは前の日に祝ってもらえたし……』
『今月から清澄でしょう? 大阪から長野に行って、また戻るのだって大変でしょうし……九州は仕方ないかしら』
『っていうか、なんで清澄に出席せんかったんや?』
『……ちょっと、言い争いしたから……そのせいかも』
『あー』
『あったかくない……』
『あまり口を挟みたくはないが、全国を行脚させられる彼に、もう少し優しくはしてやれないのか?』

 ……まずかったか。
 あのあとフォローもせず、卒業式にも出ず、じゃあ……さすがに部長も、傷つくよな。
 こんなことなら、ちゃんと言っとけばよかった。
 ただの照れ隠しで、清澄に決まったとき――部長に会えるのも、楽しみにしてたって。

 ただ、それがなくても宮守への出席は変わらなかった……だから、俺にはなにも言えないな。

『はいはい、どうせ自業自得です。別に気にしてないから、こっちは』
『嘘です。会長は答辞を5回噛んで、そのたびに一年の席を見てため息ついてました』
『!? ちょっと、いい加減なこと言わないの!』
『事実です。私も見ていました。答辞以外を含めれば、ため息はもっと増えるはずです』
『……へー』
『やっぱりねぇ』
『あったか~い』
『な、なに勘違いしてるの! そういうんじゃないから! ほんとに!』
『……なんかゴメン、本気で』
『京太郎のことは叱っとくから』
『私らからも、注意入れとくな』
『横から口を挟んで済まなかったな。老婆心だが、そういうところを素直に伝えてやれ、とは言っておこう』
『だから違うって――あー、もう。どうすんのこれ、この空気。なんとかしなさいよ』

 すいません、俺も無理です。
 っていうか、そんなの気づくかよっ……あの部長が、そんなガチで俺を気にしてたなんて。
 そんなの聞かされたら……どんな顔して部長に会えばいいか、ますますわからなくなるだろ……


『……なんだか、皆さんのフォローが清澄の元部長さんに向いてるようなので、注意しておきますけど』
『彼に指導した三年は皆、直接祝ってもらう権利はありましたよ?』
『うちの元部長も、10や20じゃきかないくらい、一年参列席を見てため息ついてましたから』
『ちょっ!? な、なな、なに言ってるの!』
『でも、事実ですよねー?』
『うちの元インハイチャンプは、お菓子も喉を通ってなかった』
お姉ちゃんがっ……尋常じゃないですよ、そのショック!』
『……私も、来て欲しかったなって。近くの高校の元部長さんも、残念そうだった』
『まあ……うちとこも、うち含めて悔しかったわ』
『私らも……やけど、顔をだしてもださんくても、想てる気持ちに変わりないんやったら、かまへん……』
『ショックなのは、清澄だけじゃないんですからねー』

 んー? なんか流れが……まあ仕方ないか。
 宮守を選んだのは俺で、お叱り大歓迎って言ったんだし……おとなしく受け入れよう。

『つまり京ちゃんが悪いってことだよね』
『……そうですね、こればかりはさすがに京太郎くんの責任かと』
『全部に出席するべきだったんだじぇ、あいつは』

 はいはい、俺のせい俺のせい。
 あ、いつもの優希ならあの犬って書きそうなもんだけど……気ぃ遣ってやがるな、あいつなりに。

『……うん、京ちゃんのせい』
『京ちゃんは悪くない』
『いや、京ちゃんのせいだろ』
『せや、京ちゃんのせいやな』
『私知ってるー! 瞬間移動できるよ、キョータローは!』
『なんやて!? それやったら、それで全部顔だせたんちゃうんか!』
『――あの技は、彼の命を削っています。滅多なことは、おっしゃらないように』
『えっ』
『なにそれこわい』
『本当なら二度と使わないで、京ちゃん』

 長距離なら――なんだけど。
 その辺り伏せてくれるなんて、さすが師匠だ。
 っていうか、みんなして京ちゃん言いすぎ……誰が京ちゃんだ。

 あ、俺か。


『……まだ、彼と会ってすらいない学校もあるんでスヨ?』
『はははは、そのまま卒業ばする羽目んなるっちゃ、思わんかった……』
『こっちもそうだよ、もう忘れられてんじゃないかと……神は死んだ byニーチェ』
『それ、使い方間違ってるって言われるからね、あの子に……でも本当に、意地悪です……』


~3月第一週月曜

京太郎「岩手から強行軍で帰って、朝から学校か……あー、ダルい」

須賀母「いい加減起きなさいよー、咲ちゃん迎えにきたわよー」

京太郎「はぁっ!? マジかよ!」ガバッ

須賀母「なわけないでしょ」

京太郎「……ざっけんな!」

須賀母「っていうかあんた、朝からそんなで、よく一人暮らしなんてできたわね……遅刻とか大丈夫だったの?」

京太郎「まぁボチボチな」

カピー「キューキュー(おはようございますっ、ご主人様っ)」

京太郎「おー、おはようカピー。やっぱり朝からお前がいると、落ち着くなぁ」

カピー「キュキュゥ、キュー(ボクもそうです、ずっと一緒がいいですー)」スリスリ

京太郎「よーしよし、いい子だなー。さて、朝飯にするか」


京太郎「うぅむ……やっぱオフクロの飯は、どこか違う……」

京太郎「さて――とりあえず、今週の重視行動でも決めておくか」

京太郎「――週末は大会の予選だ。真面目に麻雀するとしよう」

京太郎「そういや、団体は出られないんだよなぁ、もったいない……で、えーっと……」

京太郎「個人戦は秋にお嬢さまたちが出てなかったから、とりあえず咲と、風越の猫みたいな人と、鶴賀の東横さんが出場枠、と――」

京太郎「予選次第では、優希と和もチャンスがありそうだな……春予選で、衣さんたちが出るならやばそうだけど」

京太郎「ま、人のこと心配してる場合じゃないか、なぁ?」

カピー「キュゥゥッ!(大丈夫です、ご主人様! ボクがついてます!)」

京太郎「よしよし、お前はいい子だなぁ」

須賀母「……ひとり言多い癖、そろそろ直しなさいよ」

京太郎「仕様だから仕方ないんだよ……」

京太郎「じゃ、行ってくる。カピー、いい子にしてるんだぞ」

須賀母「言われなくても、カピちゃんはあんたの五十倍はいい子にしてるわよ」

京太郎「くそっ、否定できねぇ……」

京太郎「しかし、昨日の件があるから……あんまり誰かと顔合わせたくないな」

京太郎「……げっ」

まこ「ほう、朝から先輩におうて、ひと言目がそれかい……」

京太郎「――っと……おはようございます、染谷先輩」

咲「京ちゃんっ、おは――」

優希「咲ちゃんストップだじぇ!」

咲「あぅっ、そうだった……」

京太郎「おう、咲と優希もいたのか。はえーな」

優希「はえーな、じゃないじぇ!」

京太郎「ん?」

優希「昨日……どーして卒業式に出なかったんだっ?」

咲「そうだよ……日誌のとこにも書いたけど、久さん待ってたんだよ?」

まこ「あんたら、その話はもうやめんさいて、久にも言われたろうが」

京太郎「いや、いいですよ、それは。俺も覚悟してたんで――っていうか、やっぱあの書き込みお前らかよ」

優希「……黙秘するじぇ。それより、さっさと答えるんだじぇ」

京太郎「って言われてもなぁ……どこに出てもいいって言われたから、それなら部の後輩がいないとこのほうがいいと思って、宮守にした」

咲「後輩が、いない?」

京太郎「部長には染谷先輩も、お前らもいただろ? ほかの学校もそうだ、後輩が大勢いる。けど――宮守は全員三年だ、俺を除いてな」

まこ「……ああ、そういやそうじゃったの」

まこ(わしと、和たちが入らなんだら……久もそうなっとったわけかの)

京太郎「同じ部でもないと、親しい後輩だっていないだろうからな。親しい後輩としては、行かざるを得なかったんだよ」

京太郎「本来なら、俺が宮守麻雀部を守らなきゃいけないのに……守れなくなるわけだしな。それくらいはしてあげたかった」

京太郎「責められるのは覚悟してるけど、謝ったりはしない。それはあの人たちに会いに行ったのが、間違いだって言うようなもんだ」

優希「う、うぅ……京太郎のくせに、人のために動いてやがるじぇ……」

京太郎「ひと言余計なんだよっ」

咲「そ、それならそう書いてくれたらいいでしょっ、日誌に! なんのための日誌なの!」

京太郎「……いや、それは、ほれ……宮守の先輩たちが、怒ったり泣いたりすると困るしさ」

まこ「書かんかったことで、久が泣いたり、一年トリオが怒ったりしとるんじゃが」

京太郎「あー……まあ、部長には……その前に電話でも、余計なこと言って怒らせましたし……そのうち、フォローしたいなとは思ってます」

まこ「――ほうか。ん、ならわしゃあもうなんもないわ」

咲「ちょっ……いいんですかっ」

優希「そうだじぇ。今日から同じ学校、同じ部室で過ごすんだし、ビシッと言ってやらないと――」

まこ「全国たらい回しされとうやつに、それ以上追い打ちかけられんけえ」

咲「ふぐっ」

優希「ぐっ、ぐぐぐぐ……う、運がよかったな!」


京太郎「染谷先輩……ありがとうございます。でも、俺は気にしてないですよ」

まこ「わしが言わんだけで、ほかが言うんは止めんからの。礼を言われるこっちゃないわい」

まこ「あと――部長はわしじゃ、一応のう」

京太郎「あ……すんません、どうも慣れなくて。部長って肩書きやっぱ、竹井久さんなんですよね、俺の中では」

まこ「……まあ、しゃーないわ」

京太郎「え、いいんですか!」

咲「ずるーい……」

優希「やっぱ贔屓だじぇ……」

まこ「じゃっかしいわ! まあとにかく、しばらくは先輩でええ」

京太郎「ありがとうございます……なるべく、部長って呼ぼうとは思いますので」

まこ「無理はせんでええけえの」

まこ(あんたに部長て呼ばれるんは、久のお気に入りだったけえ……)

まこ「――にしても、京太郎よ」

京太郎「はい?」

まこ「しばらく会わんうちに……その、なんちゅーか……」

まこ「逞しくなったのう、見違えたぞ」ニッ

まこ(……というか、なんちゅーか……めっちゃくちゃ格好よくなっとらんか!?)

まこ「………………お前、ほんとに京太郎か?」ジー

京太郎「いまさらなに言ってんですか……どっからどう見ても、須賀京太郎じゃないですか」

まこ(……どこがじゃあ)

優希(どこがだじぇ!)

咲「あははっ、そうだよねっ」

まこ「!?」

優希「!?」

京太郎「なー?」

咲「うんっ! 口が悪くって、いい加減な感じで」

京太郎「おい」

咲「でもほんとは優しくて、あったかくて、人のことばっかり考えて、行動してくれてる――」

京太郎「なっ――」

咲「私の知ってる、いつもの京ちゃんだよっ」ニコッ

京太郎「…………ばっ――」

京太郎「バカ言ってねーで、そろそろ学校行くぞっ」カァッ

咲「あ、赤くなった―、やーい、照れてるー」

京太郎「赤くなってねーよ! 照れてねーよ!」

咲「そういうとこも、ぜーんぜん変わってないよねー」ニヤニヤ

京太郎「くっっ……てめーこらぁっ!」

咲「きゃー、怒っちゃやだよー」タタタッ

まこ「…………うーむ、全部持ってかれてしもたの」

優希「うぐぐぐっ……無性に、悔しいじぇ……」


~3月第一週月曜、昼

京太郎「咲ー」

咲「んー?」

京太郎「テスト結果どんなもんだ?」

咲「い、いいじゃない、別に!」

京太郎「いや、赤点だったら全国大会出られないだろうが。見せてみ」

咲「だ――ダメーッ!」

京太郎「ふんふむ……おっ、なんだよ。結構……っていうか、かなりいいじゃん」

咲「もーっ、見ないでって言ってるでしょ!」

京太郎「和が心配してたからどうかと思ったが……感心かんしん。真面目に勉強してたんだな」

咲「してるよ、そりゃあ……それより、京ちゃんはどうだったのかなー?」

京太郎「俺、こっちで受けたんじゃねーんだぞ……まあ、成績確認のために、持ってきてはいるけどさ」

咲「仕返しだ、見てやるー!」バッ

京太郎「あっ、こら!」

咲「いいじゃない、私の見たんだし。お相子だよ」

京太郎「そりゃいいけどさ、減るもんじゃねーし」

咲「さーて、京ちゃんのテスト結果は――」

咲「……え」

京太郎「平均97だったっけか。なーんか異常にマニアックな問題だしてくる先生がいてなー。まあ千里山の監督なんだけど――」

咲「な、なにこれ! 私の知ってる京ちゃんじゃないよ!」

京太郎「お前……朝言ってたことはなんだったんだよ」

咲「ニセ者! 京ちゃんを返せ―!」ポカポカ

京太郎「いってーよ! あー、もういいから学食行くぞ、学食!」

咲「お弁当は? 得意なんじゃなかったっけ?」

咲「昨日なんて、宮守の人が自慢げに写真見せてたしー」

京太郎「オフクロがキッチンに入れてくれねーからなぁ。弁当はあったけど、あれだけじゃ足りねーんだよ」

咲「またレディースセット?」

京太郎「今日のもうまそうだったぞ」

咲「もー、しょうがないなぁ」


「半年ぶりなのに安定の夫婦」
「須賀爆死しろ」
「全国に嫁がいるって噂も」
「こっちが憤死しそうだな、先に」


咲「よ、嫁さん違います! (まだ)」

京太郎「落ち着けっての。ほれ、行くぞー」

京太郎「ふぃー、やっぱお得だな、レディースセットは」

咲「よその学校にはないの?」

京太郎「なかったな……いや、永水にはめっちゃ得なモーニングがあったっけ」

京太郎「それくらいかな。ほかの学校はなかったし、そもそも自分が納得できるくらい、弁当作ってもってけたしな」

咲「そっかー」

京太郎「それに、だいたい女子校だったからな。レディースセットの意味がねーんだよ」

咲「そういえばそうだね」

優希「ええい、レディースセットの話はいい! 肝心なのは、タコスだじぇ! タコスはあったのか!」

京太郎「そんなコアなもんがあるわけねーだろ」

優希「なにをー! この清澄学食の名物タコス、忘れたとは言わさないじぇ!」

咲「……急に出てきたね、優希ちゃん」

京太郎「忘れてねーけど……お、そうだ、ちょっと待ってろ」

優希「こ、こらー! せめてこれを一口食って――ああもう! あいつは、タコス普及委員としての自覚が足りないじぇ」

咲「ここは優希ちゃんがいるからいいけど、ほかの学校は、優希ちゃんほど食べる人はいないからね」

優希「それを食べさせるのが、あいつの仕事だじょ……」

京太郎「お ま た せ」

優希「ぬっ、戻ってきたか! いったいどこでなにを――」

京太郎「なんだ、いらねーのか? 学食の隅っこと材料借りて、タコス作ってきたってのに」

優希「!?」

咲「え、5分も経ってないんだけど……」

京太郎「ん? っていうかお前、よく見たら持ってるじゃねーか……いらなかったか。さっきのは、その要求だと思ったんだけどな……」

優希「ま、待て! その……い、いらないことはないじぇっ! このタコス普及委員会委員長としては、そのくらい食えないと話にならんじぇ」

京太郎「そっか、そりゃなにより。んじゃま、久々に味わってくれよ、俺特製タコスをな」スッ

優希「……はむっ、んぐ……んんんぅぅぅ――――っっ!! んまっ、んますぎるじぇ!」ピカーッ

咲「優希ちゃんの口から光が!?」

京太郎「どうだ、派遣で鍛えた俺の腕前は!」

優希「ぐぅぅっ……なかなかやるじぇ、腕を上げたな、京太郎……」

京太郎「ああ、だがまだまだこんなもんじゃねえ……もっとうまいタコスを、追及してってやるつもりだ」

優希「そうか……楽しみにしてるじぇ」

京太郎「おう、期待してろ」


咲「なんだろう、この……なに? 二人にしかわからないけど、わかりたくないなーっていう世界……ちょっと悔しいけど」


~3月第一週月曜、放課後

京太郎「しかしなんだな……俺って半年ぶりに戻ってきたわけだろ?」

咲「そうだね。すっごく久しぶりだよね、そんな感じしないけど」

京太郎「おう、俺もまさにそこを気にしたんだが……もっとさ、感動的に再開する方法はなかったのか?」

咲「先月は二回も会ってたからね……その前も、ちょくちょく会ってたからかなぁ」

京太郎「まあいいんだけど……半年ぶりに会っても、普通の反応だと……」

京太郎「『あ、いたんだー、忘れてたー』……って言われてるみたいで、ちょっとへこむ」

咲「……つまり、もっと懐かしがってほしいってこと?」

京太郎「久々に会えた感動、みたいなのは欲しいな」

咲「ふーん。まあそういうのを期待するなら、やっぱり久さんじゃないかな」

京太郎「部長の場合は、最低でも毎月一回は電話してたぞ?」

咲「でも一回も会ってないよね? たぶん会ったら、久さん泣いちゃうと思うけど」

京太郎「そんなタイプかぁ? いや、けど……日誌でのあれが本当なら、そうなのか……?」

咲「あれは本当だってばー」

京太郎「書いたのがお前や優希だと思うと、どうもな……」

咲「和ちゃんだって書いてたもんねー!」

京太郎「……なら、本当なのか……」

咲「むっ……なんで和ちゃんなら信用するの!」

京太郎「だって和だしな……お前も、俺と和だったらどっち信じる?」

咲「ど、どっちも信じるよっ」

京太郎「そういうのじゃなくて、どっちかだけ! 両方は無理!」

咲「それだったら……和ちゃんだけど」

京太郎「な? そういうことだよ」

咲「そっかぁ……って、騙されないよ! 書き込みの信ぴょう性なら、別に両方信じたっていいでしょ!」

京太郎「まあ、一緒ならそうだけど……違うことが書いてあったら、どっちを信じるかってことだよ」

咲「……それなら、やっぱり和ちゃんかなぁ」

京太郎「だろ?」

咲「う~……なんか言い包められた、悔しい……」

咲「京ちゃん、あっちこっちで女の子と一緒で……口が上手くなったんじゃないのっ? よくないよっ、そういうの!」

京太郎「人聞き悪いこと言うな……ほれ、そろそろ部室だぞ」


~部室

和「――っっ! 京太郎くんっ、お久しぶりですっ」パァァッ

京太郎「和……ああ、久しぶりだっ……見ろっ、こういうのだよ、こういうの!」

和「え?」

咲「あ、気にしないで。どうでもいいことだから」

和「はぁ……」

京太郎「どうでもいいって……まあいいか。しかし、久しぶりの部室だな……すっげー、懐かしい」

京太郎「部室の数が多かったり、自動卓の数が多かったりってのは見て来たけど、ベッドがあるのはここだけだったなぁ」

京太郎「それで考えると、阿知賀のほうが備品は少ないかもなぁ」

和「そうなんですか……阿知賀も、少数ですからね。うちと同じで」

咲「新入生が入るまで、団体出られないとこも一緒だね」

京太郎「新入部員はなしか、まあ途中ではなぁ……」

和「未経験で、全国優勝のチームに入るのは勇気が要りますから」

咲「丁寧に教えてあげるんだけどなぁ」

京太郎(……お前がなにを教えるってんだよ……)

咲「京ちゃん、失礼なこと考えてるでしょ」ジロッ

京太郎「さーて、そろそろ部長――染谷先輩と優希も来る頃だな。準備始めとくか」

和「言い直さなくてよかったのでは?」

咲「部長は久さんだけなんだって」

和「……そんなに思ってるなら、卒業式にいらしたらよかったのに……」

咲「色々複雑なんだって」

和「……く、詳しく聞きたいですね、そのあたり……」

京太郎「……和がじーっと睨んでるんだけど……ちょっと怖い」

京太郎「まあいい。全員揃ったし、そろそろ始めるか」

京太郎「清澄で部活か……あ、とりあえず買いだし行ってきますね」

まこ「……すまんかった、京太郎……」

咲「ご、ごめんなさい、京ちゃん」

和「すみませんでした……」

優希「別に、押しつけてたわけじゃないんだじぇ……」

京太郎「……?」

京太郎「………………」

京太郎「あ、ああ! いや、別にクセとかそういうんじゃないから! 普通に、よそでもやってることだっての!」

まこ「もうええ、もうええんじゃ……もう休めっ……」

咲「京ちゃんには休養が必要だよ……大丈夫、あとは私たちがやっとくから……」

和「お茶をお淹れしましょうか……あ、それとも仮眠しておきますかっ? よかったら私か、私のマイ枕をお貸ししますけどっ」

優希「落ち着け、のどちゃん」

京太郎「いや、だからほんとに――ん、ちょっとすんません。電話出ていいですか?」

まこ「ああ、かまわん! ゆっくり電話しとれ……」

京太郎「はい、すいません……うぉっ、大沼プロ!?」

和「――は?」

優希「なんでプロから電話が……」

咲「大沼プロ?」

和「昔、東京でスタープレイヤーだった男性プロです。いまはシニアリーグの、宮崎に所属していたかと……」

咲「へー、そんな人とも知り合いなんだ、京ちゃん」

京太郎「もしもし、須賀です。どうかされましたか、大沼プロ」

大沼「大阪で打って以来だな、元気にしていたか?」

京太郎「その節はご迷惑を……もうすっかり回復してますし、今日からは大会に向けての練習開始ですよ」

大沼「それなら好都合か……実はいま、長野に来ていてな」

京太郎「…………へ?」

大沼「トシから頼まれてな、昔馴染みと顔を合わせたところだ……」

京太郎「お、お疲れさまです」

大沼「まあそこで時間が空いてな。そういえば、須賀の今月の滞在先が長野だったと思いだしたわけだ」

京太郎「……ってことは、もしかして――ご指導いただけるんですか?」

大沼「そっちに問題がなければな……まあ、昔馴染みも連れて行こうとしたが、孫娘の指導があるからと断られた」

大沼「南場の鬼が、すっかり孫煩悩のジジイになりおってなぁ……」シミジミ

京太郎「はぁ……」

大沼「いかん、話が逸れたな……どうする、構わんならすぐに向かうが」

京太郎「あ、ありがとうございます! ぜひ、ご指導いただけましたら!」

大沼「わかった。では一時間ほどで向かう」


京太郎「――ということで、大沼プロがご指導くださるそうです」

まこ「あっさり言うのう」

和「お、お、お茶菓子の準備とか、ありませんよっ」

咲「お、おじいさんだったら緑茶のほうがいいかなっ。どうしよう、紅茶のパックしかないんだけどっ」

優希「た、タコスはだしても大丈夫か?」

京太郎「――とりあえず、落ち着け」

京太郎「その辺のことは俺が準備するから、とりあえず練習しといてくれ……染谷先輩も、いいですか?」

まこ「ふむ、わかったわい。それじゃあ、わしらはとりあえず打っとくとしょうかのう」

咲「は、はいっ」

和「いいんでしょうか……プロのプレイヤーがいらっしゃるのに」

優希「カツ丼プロが来たこともないじぇ」

京太郎「まあ慣れてるから、任せとけって」

まこ(プロに慣れとるとか……着々と、人脈も築いとるのう……これも、久の狙いだったんかいのう……)


京太郎「さて、それじゃおもてなし準備といくか」


京太郎「お待ちしておりました。本日も、お世話になります」

大沼「うむ……そう堅くなるな」

京太郎「では部室のほうにご案内します……あ、自動卓一台しかないんですが、大丈夫ですか?」

大沼「入るのがまずければ、手牌でもネトマでも構わん」

京太郎「はい!」


京太郎「こちらが大沼プロです。大沼プロ、左から順に、部長の染谷、あとはい一年の、原村、宮永、片岡です」

まこ「こんな狭いとこで申し訳ありません。今年からの部長、染谷です。よろしゅうに」

大沼「うむ……」

和「原村和と申します」

大沼「うむ……」

咲「み、宮永咲ですっ……」カチカチ

大沼「……ほう、なるほど」

京太郎(反応が違う……やっぱ、なんか感じるもんなのか?)

優希「か、片岡優希だじぇ……です」

大沼「……娘さん、あんたは特定の場に強そうだな」

優希「!?」

京太郎「わかるんですか?」

大沼「ああ、うむ……さっきまで会ってたやつと、気配がな……」

大沼「まあいい。では指導に入ろうか……卓が空いているなら、須賀をつかせたいが……構わないかな?」

まこ「は、はい。わしらはさっきまで打っとりまして……京太郎、はいりんさい」

京太郎「はい!」 (お茶とお菓子をだしながら)

大沼「あとは……宮永、それに片岡……だったか。二人に入ってもらおう」

和「…………」

大沼「残る二人は、どちらかといえば守備に向いていそうなのでな。攻めが得意そうな二人を選ばせてもらった。気を悪くせんでくれ」

和「いえ、そんな……」

大沼「俺の得意は守りなものでな……あとで、二人にも少しばかり、指南しよう」

まこ「恐縮です」

大沼「さて――始めようか」ゴッ

咲(……楽しく打てそう)ワクワク

大沼「うむ……なかなかいい判断だ。少し遅れがちではあるが、遅くはない」

京太郎「ありがとうございます」

大沼「だが甘い」

京太郎「へ?」トン

咲「カン」

京太郎「げっ」

咲「もいっこカン、嶺上開花」

京太郎「」

大沼「相手が悪かったな」

咲「た、たまたまですよ」

京太郎(本当にたまたまならどれだけよかったか……)

大沼「そう落ち込むな。練習で経験しておけば、本番での対応の糧になる」

京太郎「はい……」

大沼「さて、続けようか……娘さんたちは、キツければ交代するといい」

優希「ま、まだまだだじぇ」

咲「和ちゃん、交代しよっか」

和(……京太郎くんと打つ、いい機会ですね……)

和「わかりました。それでは、よろしくお願いします」

大沼「ああ……始めよう」


京太郎「お、お疲れさまでした……」

和「ありがとうございました」

咲「とっても楽しかったです!」

大沼「うむ……その調子で励むように。では、また機会があれば」


京太郎「充実した練習だったというか……濃密過ぎる……さすが……」

京太郎「いやいや、へばってる場合じゃない。部活はまだまだ続くんだ」

京太郎「さて、と……とりあえず掃除しておくかな」

まこ「……一応、掃除は毎朝しとるんじゃが」

和「だ、だめでしたか?」

京太郎「いや、んなことないよ。綺麗になってる……」 (和の目を見ながら)

和「き、きれ――」////

咲「……京ちゃん、それどーゆー意味で?」ジトー

京太郎「は? いや、綺麗に掃除できてるなって。ただ新しい派遣先で掃除するのは、それこそクセみたいなもんなんだ、気にしないでくれ」

優希「派遣先……じゃないじぇ、ここは……」

京太郎「まーまー、細かいことは気にすんなって。さて、始めるか」

咲「お、終わってからにしない? ほら、みんなも気が散っちゃうかもしれないしさ」

まこ「ほうじゃの。ほしたら、わしらも手伝える。みんなでやったほうが早いわい」

京太郎「いいからいいから。三人は個人戦出場だし、咲はもう全国決まってんだ。俺のことはいいから、練習しててください」

京太郎「んー、こんなもんか……いまいちだな」

まこ「なんと!? 止めとる間ぁに、掃除が……」

咲「ど、どうなってるのぉ……」

和「私たちのせいで、こんな……京太郎くんが、こんなことに……」

優希「どうやったら、京太郎は戻ってくれるんだじぇ……もう、どうにもならないのか……?」

京太郎(掃除うまいこと終わらせたのに、なんでショック受けられてるんだよ……)

京太郎「ま、いいか。掃除も終わったし、さっきの指導の復習を――」

まこ「……すまん、言いにくいが……そろそろ下校時間じゃあ」

京太郎「マジすか!? あ、ほんとですね……3月初週くらいじゃ、まだまだ暗いですね」

まこ「遅うならんうちに、出るとしようかのう」

京太郎「はい。それじゃ、片づけはしておきますので。お疲れさまで――」

咲「京ちゃん?」

和「まさか、本気じゃありませんよね?」

優希「京太郎こそ、掃除の分、早く帰っていいんだじぇ?」

京太郎「はいはい、わかったよ……さっさと済ませて、みんなで帰るか」

京太郎「ま、そもそもそんなに時間かからないしな。自動卓一台くらいじゃ……」

京太郎「――言っておくが、会話がなかったわけじゃないぞ?」

京太郎「その、当たり障りのない、他愛ない話をしてただけなんだ。みんなで」

カピー「キュー?(大丈夫です、みんなわかってますよ)」

京太郎「ならいいんだけどな……」

須賀母「どうでもいいけど、食事中くらいひとり言やめなさいよ」

京太郎「へいへい」

京太郎「なんというか、家事をしなくていい生活って……楽なんだけど、全然慣れないな」

京太郎「半年一人暮らしだもんなぁ……生活サイクル、こっちで変にならなきゃいいんだけど」

京太郎「さて、夜はなにするかな」

京太郎「電話か……まあ、電話でいいか」

京太郎「ただなぁ、家で電話してると……」

京太郎「……いまはいないか。あんまりオフクロに、色々聞かれないようにしないと」

京太郎「……あ、そうだ。昨日、あれからどうなったか、ちょっと聞いてみるかな」

京太郎「もしもし、シロさん」

シロ『ん、どしたの?』

京太郎「いえ、お泊り会はどうだったかなと思いまして」

シロ『楽しかったよ。京太郎のことで、色々盛り上がった』

京太郎「……日誌絡み、とかですか?」

シロ『ああ……うん、それもちょっとね』

京太郎「……やっぱり、俺が悪かったですか?」

シロ『なんで?』

京太郎「いえ、みんなそう言ってましたから……」

シロ『悪くないよ。私は嬉しかった、私だけじゃなく、塞も胡桃も、豊音もエイスリンも、みんな』

シロ『まあ……日誌のは、空気を茶化すためだと思う』

シロ『悩まないで。悩んだら、私たちも選んでもらいづらくなるから』

京太郎「はい……すみません、変なこと聞いて」

京太郎「俺も、悩んでるわけじゃないんです……先輩方に会いに行ったのは、間違いじゃなかったと思ってますから」

京太郎「俺が、そうしたいからしたんです」

シロ『うん……嬉しい』

京太郎「やっぱり泊まればよかったですね、俺も」

シロ『スケベ』

京太郎「深い意味じゃないですよ!?」

シロ『ならなおさらダメ。京太郎は男、私たちは女』

京太郎「はい……」

シロ『それがどういう意味か考えて、そういうことは言って』

京太郎「すいません」

シロ『改めて聞くけど、泊まりたかった?』

京太郎「はい」

シロ『…………ほんと、京太郎だね』

京太郎「だめでした?」

シロ『いや……もういいよ。私は、どんな形でも一緒に泊まれたら、よかったなって思う』

京太郎「シロさんとは、よく一緒に寝ましたからね……部屋でも、あと合宿でも」

シロ『京太郎はちっともドキドキしてなかったみたいだけど』

京太郎「必死で誤魔化してたんですけど」

シロ『そういうことは、誤魔化さないで見せていこう』

京太郎「……シロさんが、無防備すぎるからですよ……」

シロ『私のせい?』

京太郎「こう、意識されてないんだろうなって思って、だからあんまり、こっちも意識しちゃ悪いかと――」

シロ『……そっか、そういうパターンもあるんだ……』

シロ『つまり、それは私を意識してたって解釈でいいのかな?』

京太郎「そりゃ……素敵な女の人と同衾すれば、意識しますよ」

シロ『――――』

シロ『……ほんと?』

京太郎「っ……ほんとです……」カァッ

シロ『ちゃんと目を見て言って』

京太郎「だからほんとで――いや、目とかどうするんですか、電話で」

シロ『スカイプ繋ぐ?』

京太郎「ダルくないですか?」

シロ『全然。京太郎との電話なら』

京太郎「……そうですか」

シロ『また照れた?』

京太郎「……照れてないです」

シロ『京太郎ってそういうとこあるよね』

京太郎「そういうとこ?」

シロ『結構恥ずかしいことは言うのに、自分が恥ずかしかったり照れたり、赤くなったりすると隠そうとするよね』

京太郎「――そ、そんなことは……」

シロ『男だから――って思ってるから、かっこ悪いって思っちゃうのかは知らないけど、そういうとこね』

シロ『すっごくかわいい、想像するだけでニヤける』

シロ『嬉しいよ』

京太郎「」

京太郎「シ――」

シロ『ん?』

京太郎「シロさんのほうが……か、可愛いじゃないですかっ」カァァッ

シロ『』

シロ『え、う……いや、京太郎のほうが可愛いよ。照れてたり、寂しがりだったり、オープンスケベなのに微妙なとこでムッツリだったり』

京太郎「それ言うなら、シロさんだって……やる気なく見せて情熱的だし、ダルがりながらも人のために動いてくれるし、優しいし、髪綺麗だし、いい匂いだし――」

シロ『きょ、京太郎のほうが――』

京太郎「シロさんですって――」


須賀母「……これはさすがに、彼女相手よね?」

カピー「キュキュウ、キュ、キュー(それが違うのが、ご主人様のすごいとこです)」

須賀母「もう付き合っちゃえってレベルじゃないの……色々大丈夫なのかしら、京太郎」


京太郎「ともかく――俺は断然、シロさんのほうが可愛いと思ってます!」

シロ『私は京太郎だと思う。なんなら、アンケート取ってもいい』

京太郎「わからずやですね、シロさん」

シロ『そっちこそね』

京太郎「そういうとこも可愛いです」

シロ『――そ、そっちこそね』

~電話後

京太郎「……なにを言ってんだ、俺はああああぁぁぁっっっ!」ゴロゴロゴロ

シロ「……どうしよ、今日……寝られそうにない……////」ニヤニヤニヤニヤ

京太郎「はぁ――き、気を取り直して……と」

京太郎「長野に戻ってきたわけだし、近況メールを送っておこうかな」

京太郎「久々の地元で、少しのんびりしています。よろしければ、遊びに来てください。お待ちしています、と」

京太郎「……卒業式のことは、少しだけ触れておこう。またゆっくり話せるときに、話したいですね、と」

京太郎「こんなとこかぁ……近況メールって、難しいな」

霞「……ちょっと長野に遊びに――」

巴「いけません」

春「阻止」

霞「だ、だって、お誘いが……」

初美「社交辞令ですよー」

小蒔「行くならみんなで行きましょう」

怜「なぁ、竜華ー?」

竜華「どないしたん?」

怜「長野、遊びに行かへん? 空気綺麗やし、身体によさそうや」

竜華「!! い、きた、い……けど……旅費がなぁ」

怜「……そやんなぁ。月末なんか、東京も行かなあかんし」

怜「宿泊費、滞在日数考えるとえらいことなりそうや」

竜華「それは叔父さんが、泊まるとこ用意してくれるから大丈夫や」

怜「叔父さん? 東京におるん?」

竜華「うん。声優やったか、なんかの事務所やってて――」

~3月第一週火曜

京太郎「ふぁぁ……ん、怜先輩からメールが……」

『声優やってみーひん?』

京太郎「……えっ」


京太郎「なんで突然……ま、いまは師匠みたいな執事になることが優先だな」

京太郎「そういえば、長野にいるのに挨拶に行けてないよなぁ……龍門渕も、結構離れてるし、仕方ないんだけど……」

京太郎「――なんてこと、清澄で行ったらまた怒らせそうだ。発言には気を遣っておこう」

京太郎「おっ」

和「あっ……」タタタ

和「おはようございます、京太郎くん」

京太郎「おはようのどっち」

和「!?」

京太郎「……いや、なんでもない。おはよう和」

和「のどっちのほうが、呼びやすいですか?」

京太郎「可愛い響きではあるけど、和のほうがしっくりくるかな」

和「そ、そうですか……」

京太郎「あれ、ちょっとがっかりしたか?」

和「そんなことは……その、少しだけ……」

和「咲さんや咲さんのお姉さん、それに永水の滝見さんが、京太郎くんのことを京ちゃんと呼んでいますし……」

和「その滝見さんのことを、京太郎くんははるるって呼んでるそうですし……」

京太郎(……咲、いちいち広めるなよ……)

和「そういう呼び方を、したりされたりしてみたいなって……あ、ちょ、ちょっとです、少しだけ……そう思いまして」

和「でも和というほうが呼びやすいのでしたら、それで大丈夫ですから」

京太郎「のどっち、か……うーん、やっぱり和かな」

和「そうですか……」ショボン

京太郎「和の上品な雰囲気には、そっちのほうが合うだろ」ポンポン

和「はうっ」

京太郎「――ああぁっ! す、すまん、つい……悪かった」

和「……だめです、許しません」

京太郎「げっ……わ、悪かったって、ほんと……この通り!」

和「その……ば、罰として、もう一回してください!」

京太郎「――へ」

和「も、もう一回と言わず、したくなったらしてもいいんですよ?」

京太郎「…………悪かった」ポンポン

和「…………えへへ」

京太郎「……なんかさ、和……昔と雰囲気変わったよな」

京太郎「前も電話で言ったけど、俺は和と結構距離を感じてたんだけど……」

京太郎「いまは、親しみやすいって思ってるよ」

和「……私も、以前より京太郎くんが、親しみやすく感じてますよ?」

京太郎「そっか……ま、これからもよろしく」

和「はい!」ニコッ

京太郎「……じゃ、学校行きますか」

和「はい」

~3月第一週火曜、昼

咲「京ちゃんが起こしてくれないからー、遅刻するとこだったじゃないー」

京太郎「もう昼だぞ、いつまで言ってんだ……」

京太郎「っていうか、いままで起こしに行ったこととかねーだろ」

咲「べ、別に起こしに来なくてもいいよ! その……遅いなって思ったら、電話するとかあるじゃない!」

京太郎「ああ……けど、別に遅いって思わなかったし。いつもそんなもんだろ?」

咲「ひどいよ! 姫松の……えっと、愛宕さんには電話してたんでしょ!」

京太郎「まぁ、してたけど……絹恵さんは、寝起き悪かったなぁ。最近はちゃんと起きてるのかな……」

咲「ちょっと、誤魔化さないで! 話途中だよ!」

京太郎「お前が言いだしたことだろ……で、なんだ? 電話すりゃいいのか? 毎朝?」

咲「毎朝じゃなくてもいいけど……遅いなって思ったら」

京太郎「今日のでそう思わなかったからな。それだとたぶん、する機会はないぞ?」

咲「あっ、あっ! それじゃだめだ、えっと……わ、私が寝坊したって思ったら!」

京太郎「その時点で起きてるじゃねーか……あーもう、わかったわかった。適当に、気分で電話してやるよ。それでいいだろ?」

咲「むー……なーんかおざなり。京ちゃん、昔のほうが私に優しくなかった?」

京太郎「っっ! い、や……ンなこと、ないだろ?」

咲「そっかなぁ……」

京太郎「あーうっせ。いいから、そろそろ飯にしようぜ。さっさと食わねーと、時間なくなっちまうぞ」

咲「はーい」

京太郎(昔のほうが、か……自分では気づかなかったけど……そりゃ、好きな女子には優しくしてたんだろうな)

京太郎(……どうしたもんかなぁ、そんなにわかるほど、態度変えたつもりはないんだけど……)

咲「……ーい」

京太郎(振られたら急にぞんざいになったって言われるのもなぁ……いや、振られてもいねーけどさ)

咲「……おーいってばー」

京太郎(それだとまるで、好かれるために優しくしてたみたいだし……)

咲「ねー、京ちゃーん」

京太郎(――というか、優しくしてたかぁ? 普通のことしかしてないと思うんだが……うーむ)

咲「京ちゃん!」

京太郎「おうわぁっ!? って、咲!? なんで、おまっ……」

咲「やっと返事したー。ご飯食べ終わったら急に教室出て、どこか行っちゃうしさー」

咲「学食かと思って追いかけたのにいないし、キョロキョロしてたら嫁田くんに、旦那さんなら屋上行ったぞって言われちゃうし……」

京太郎「そいや、嫁田とあんま話してないな……モブ田とモブ子、清澄にはいねーし……」

咲「誰それ?」

京太郎「いや、こっちのこと……っていうか、それで素直に探しにきたら、また嫁さんって言われちまうぞ」

京太郎「……そう呼ばれんの、好きじゃないんだろ?」

咲「!! す、好きじゃ、ない……わけ、でも……ない、っていうか……その……」モジモジ

京太郎「?」

咲「そ、そうだよ! 困るの! だから……探さなくていいように、近くにいて!」

京太郎「それだとどっちみち、言われるだろ……」

咲「一緒にいないのに言われるくらいなら、いるときに言われるほうがいいよ!」

京太郎「そんなもんかね……まあいいや。よくわからんけど、わかった」

咲「なにそれ」

京太郎「わかったフリ――かな。そんなことより、咲……」

咲「ん?」

京太郎「さっき言われたの、ちょっと考えてたんだけど……俺、お前に優しくなくなったか?」

咲「……ううん。さっきはああ言ったけど……実際は、そんなに変わってないんだと思う」

咲「でも、京ちゃんって女の子の友達、増えたでしょ? それで……きっと、私のことだけ考えてる余裕が、なくなったんだと思う」

京太郎「……いや、そんなことは――」

咲「あ、違うよ? それで怒ってるんじゃなくて……ちょっと、寂しいなって……あ、これも違うか、うーん」

咲「でも、いいことだと思う。私のことばっかりじゃなく、京ちゃんの優しさは、色んな人にわけてあげないと」

京太郎「……俺は、優しくなんかないって」

咲「優しいよ。私がちょっとカッとなって言っちゃったことで、真剣に悩んでくれるくらいにはね」

京太郎「……べ、別に真剣じゃねーよ!」

咲「はいはい、そーですねー」クスクス

京太郎「くそうっ、咲なんかに……屈辱だ」

咲「な、なんかとはなによ! もーっ、京ちゃんのバカ!」プンスコ


京太郎(…………ま、けど……そう思ってくれるなら、みんなに優しくなってみるかな)



~火曜、放課後

京太郎「おっ……一番乗りだ!」

咲「私、二番乗りー!」

京太郎「そういや、ここの鍵ってどうなってんだ?」

咲「部長が一つ、和ちゃんがもう一つ持ってるよ」

京太郎「お前は? あと優希も」

咲「……失くしそうとか、色々言われて……」

京太郎「……すまん」

咲「謝らなくていいよ! 余計悲しいでしょ!」

京太郎「んー、けど空いてたってことは、どっちかが来てないか?」

咲「ベッドは空だし、閉め忘れてたんじゃないかな」

京太郎「そうなのかね。けど、俺も鍵欲しいなぁ」

咲「なに、仮眠でもするの?」

京太郎「閉まってても、掃除しに来られるじゃん」

咲「」

京太郎「自動卓のメンテもできるし、牌磨きもできるし、買い置きの食材もチェックできるし」

咲「そんなの置いてるの!?」

京太郎「いや、ここではまだ……よそではよく置いてるけど」

咲「怒られるよ!」

京太郎「と思うだろ? それが意外と、怒られねーんだよなー。いい人が多いよ、派遣先はなにかとな」

咲(……京ちゃんに甘いだけなんだろうなぁ)

京太郎「あ、けど俺だけじゃないぞ? 白糸台なんて、照さんと淡がお菓子置いてたし」

咲「恥ずかしいよ、お姉ちゃん……」


優希「のどちゃん急げー、やつらに先を越されるじぇ!」

和「もう越されてるじゃないですか……お疲れさまです、京太郎くん、咲さん」

咲「お疲れさま、のどかちゃん」

京太郎「おせーぞ、優希」

優希「うるちゃいうるちゃい! それより、メンツは揃ったしさっそく打つじぇ!」

京太郎「染谷先輩がまだだろ」

和「打ってるうちにいらっしゃいますよ。先に始めていましょう」


まこ「すまんすまん、ちょお遅れてしもたわ……お疲れさんじゃのう」

京太郎「ちーっす、お疲れさまです」

咲「そろそろ終わりますよ。いったん区切りますね」

和「お茶も冷めてきましたし、淹れ直しましょう」

優希「ぬぅ、タコスも切れそうだじぇ」

京太郎「ということで、ちょっと休憩だ――さて、いまのうちになにか、できることは……」

京太郎「――あ、そうだ」

京太郎「染谷先輩、今日ってルーフトップはやってますか?」

まこ「おう? まあ、そりゃのう……なんか用か?」

京太郎「いまから行ってきていいですか?」

まこ「はぁっ? そりゃあ構わんが……ああ、そうか……すまんのう」

京太郎「えっ」

和「あ、あのっ、やっぱり代わりましょうか?」

咲「私も、抜けてもいいよっ」アセアセ

優希「ちょ、ちょうどタコスも切れてきたからな……補充がてら、交代してもいいじぇ」

京太郎「…………あー、いや、ほんとに違うからな」

京太郎「ほら、ルーフトップってよく、藤田プロがいらしてるじゃないですか」

京太郎「なんで、その――」

まこ「練習になれば、っちゅうとこか……」

京太郎「久々に、カツ丼の味を見てもらいたくて。前とはちょっと、出汁の味変えてみたんで」

まこ「」

咲「麻雀しようよ、そこは!」

和「というか、お店のキッチンを借りるおつもりですか……」

優希「ついでにタコスも頼むじぇ。ダッシュでな!」

京太郎「淡みたいなこと言ってんじゃねーぞ……」


~ルーフトップ

京太郎「おお! 新しいバイトの子がいるじゃないか……メイド服、なかなかいい感じだな」

京太郎「さて、と――すいません、打たせてもらっていいですか?」

染谷母「いらっしゃい。その制服は清澄の子ね、サービスするわよ」

京太郎「ありがとうございます! じゃあさっそく……どこか空いてる席はあるかな?」

京太郎「あっ……藤田プロ、本当にいらっしゃるんですね」

靖子「ん? ああ、須賀くんか、久しぶりだな……そうそう、バレンタインチョコをありがとう。咏を介して受け取ったよ」

京太郎「いえいえ、どうしたしまして」

靖子「そろそろ大会だが……調子はどうだ?」

靖子「小鍛治プロや瑞原プロ、咏や良子、野依プロも期待してるみたいだぞ」

京太郎「どうでしょうね……昨日は咲に、してやられましたけど」

靖子「そうか……まあ相手が悪いということもある。地道に努力することだ」

京太郎「はは、大沼プロにも昨日、同じこと言われました」

靖子「大沼プロとも知り合いだったのか……というか、なぜ長野に……?」

京太郎「熊倉先生に言われて、知り合いに会いに来たとかなんとか」

靖子「……ああ、南浦元プロか、なるほどな」

京太郎「ご存知なんですか?」

靖子「ああ、まぁね。いまは引退して、お孫さんの指導に当たってるよ。夏の個人戦予選で、宮永たちとも当たったはずだが」

京太郎「……すいません、あのときは、その……相手の名前とか、覚える余裕がなくて」

靖子「そうか。今年も出るはずだ、機会があれば、会うこともあるだろうな」

京太郎「かもしれませんね。で、藤田プロは大会の解説、されるんですか?」

靖子「もちろんだ。まあせっかくなので、ここでカツど――んっ、んんっ、少し打とうと思ってね」

京太郎「席が空いてますけど、入っても?」

靖子「どうぞ。君と打つのは初めてだな……大勢のプロが期待する腕前、見せてもらうぞ」

京太郎「面子、足りませんね……カツ丼でも作って待ってましょうか?」

靖子「それは嬉しいな――と、言いたいところだが。すでに注文していてね。もうすぐ届く」

??「お待たせいたしましたー。カツ丼大盛り、もう一杯もすぐお持ちしますのでー」

靖子「ありがとう。うん、まこのものとは違うが、君のもうまいぞ」モグモグ

 ※この世界線のルーフトップのカツ丼は、出前ではなくまこさんお手製でした

??「ありがとうございます、光栄です」

久「……ちょっと靖子、店員さんを口説かないでもらえるかしら? 美穂子、大丈夫だった?」

美穂子「ええ、もちろんです」

靖子「人聞きが悪いぞ、久。そんなつもりはない」

久「どーだか。はい、カツ丼もう一丁お待ちっと。二杯同時なんて、正気じゃないわね」

靖子「一杯目と二杯目の間、待たされるのは精神衛生上よろしくない……さて、これでようやく打てるな、メンツが揃ったぞ」

久「あら、お客さんいらしたのね。奥にいたから気づか――」

京太郎「」

久「………………えっ」

美穂子「あら、たしか……清澄の、須賀くん……でしたか?」

京太郎「」


京太郎「ぁ――あ、え……部長、その……」

久「…………久しぶり、京太郎」

京太郎「……はい、お久しぶりです」

京太郎「あの、卒業式は、本当に――」

久「……や、やーねー。なに、まこたちになにか言われたの?」

久「それとも、あの日誌で誤解したんじゃないでしょうね。おあいにく、そんなヤワじゃないわよ、私はねー」

京太郎「……けど、派遣の電話のときも、俺――」

久「あれは私が悪いんでしょ、勝手に怒って電話切っちゃったんだから。京太郎は、気にすることないじゃない」

京太郎「……いえ、すいませんでした。部長にはお世話になってたのに、あんな態度を――」

久「……はぁ……はいはい、わかったわよ。それじゃ、どっちも悪かったってことで、手打ちにしましょ」

美穂子(……なにかあったんでしょうか?)

靖子(デリケートな問題のようだ、関わらないほうがいい)

京太郎「……はい。でも、一つだけ言わせてください」

久「なになに、文句? 苦情? いいわよ、その権利があなたにはあるわ」

京太郎「そんなこと言いません。その……電話で言ったことの、訂正をさせてください」

久「……ん、どうぞ」

京太郎「……俺、部長に会えるのも、楽しみでした」

久「――――――」

京太郎「けど、なんか……ああいう状況で、はっきり言うのも恥ずかしいっつか……そういうのがあって」

京太郎「忘れてた、みたいに言いましたけど……やっと戻れた、部長に会えるって……ちゃんと、思ってましたから」

久「…………そう」

京太郎「……出られなくて、言えなくてすみませんでした……遅くなりましたが、ご卒業おめでとうございます、部長」

久「っっ……一つだけって、言ったじゃない……」

京太郎「すいません」

久「あと……もう、部長じゃないんだけど」

京太郎「俺にとっての部長は、竹井久さんだけです。よその学校に行っても、そこの部長を部長とは呼んでません」

久「――――っ……バ、カッ……っっ……」

京太郎「失礼な後輩です、部長が怒るのももっともです……けど!」

京太郎「許されるなら、俺はこれからも――部長を、部長と呼びたいです」

久「……まこに、悪いでしょ」

京太郎「染谷先輩は、どっちでもいいって……たぶん、俺の気持ちを汲んでくれたんじゃないかと」

久「だから悪いって言ってるのに……まぁ、好きにしなさいな」

京太郎「ありがとうございます」

京太郎「……あ、もう一つだけいいですか?」

久「何個言うつもりよ、もう!」

京太郎「たぶんこれが最後です」

久「はいはい、んじゃどーぞ」

京太郎「メイド服お似合いですね」

久「」

久「~~~~~~~~~~っっっ」プルプルプルッ

美穂子「たしかに、上埜さん……久さんの給仕服姿は、とっても愛らしいですね」

靖子「馬子にも衣装とは言ったものだな」

久「うるさい! それに、きょ、京太郎! あ、ああ、あんたっ、いきなりなにをっ……」///////////

京太郎「すげー可愛いです」

久「///////////」カァァァッッ

京太郎「――言いたいことは、それだけです。それじゃ、打ちましょうか」

京太郎「っと、そちらの方……えと、風越のキャプテンさんでしたっけ。はじめまして。よろしくお願いします、須賀京太郎です」

美穂子「元キャプテンです。福路美穂子、4月からは久さんと同じ大学に通うことになっています。いまはこちらで、アルバイトを」

京太郎「福路さんも、よくお似合いです」

靖子「おい」

京太郎「えっ?」

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最終更新:2026年01月17日 13:31