~9月第一週土曜、夜
京太郎「平日は一回行動、土曜は二回行動、日曜は一回行動+昼行動――ひとまず、2年時の行動はこれで決めよう」
京太郎「ということで、明日は日曜だから、一回行動と昼行動……そういえば、入学式が終わった一年も、すでに麻雀部に決まってる子は入ってくるんだよな、明日」
京太郎「一年の世話なんて不安だけど……やれる限りのことをやろう」
京太郎「清澄に行ったら、和たちの後輩に会うかもしれないし、永水だと湧ちゃんや明星ちゃんとも会うわけだからな。面倒見られるところは見てあげたい、うん」
京太郎「さて、方針も定まったところで……今日はどうしよう」
京太郎「シロさんとは連休の初日にデートする……けど!」
京太郎「俺はもっと、多くの女の子と仲良くなりたいんですっ、すいません!」
京太郎「だ、誰か誘ってしまおう……まぁ、さすがに誰かが彼女になったら、そんなことしないけど……」
京太郎「俺と付き合ってくれる子なんて、そうそういないしな……これはあくまで、ガールフレンドとのデートだ。なにもやましいことなんてない」
京太郎「ということで、俺と遊びに出かけてくださりそうな、優しい天使たちはこちら」
京太郎「――そうだ、巴先輩……」
京太郎「なんていうか、その……袴、袴って、しつこく言って不快にさせちゃったかもしれないし……うん」
京太郎「お詫びに、どこか遊びに誘ってみようかな」
京太郎「もしもし、巴先輩? よろしければ俺と、どこかに遊びに行きませんか!」
巴「」
京太郎「……あの、巴先輩?」
巴「……袴でってこと?」
京太郎「そうしていただけると最高ですけど、今日はそんなつもりで連絡したのではないです」
巴「――ああ、なんだ夢か」
京太郎「現実ですから!」
巴「どうしちゃったの、京太郎くん!? しっかりして!」
京太郎「……俺、そこまででしたか……?」
巴「いや、袴のことだけじゃなくて……だっておかしいじゃない。私なんて、その……特別、目立つところもないし……おもちもないし……」
京太郎「――そんなことありませんよ。巴さんはいつでも優しいし、控えめで、周囲を気遣える注意力もあって、なにより理知的で、話していても楽しいです」
京太郎「とても魅力的ですから……俺じゃなくても、遊びに誘いたいっていう男は、大勢いると思います」
巴「……そうかな?」
京太郎「そうだから、誘ってるんです」
巴「そっか……えへへ、そっか」
京太郎「それで、いかがでしょう」
巴「うん、嬉しい……もちろん、大丈夫だよ」
京太郎「よかった……なら、日程を決めておきましょう」
京太郎「――善は急げです! 明日なんてどうでしょう!」
巴「!?」
京太郎「……やっぱ、予定埋まってますよね」
巴「え……う、ううん、そんなことはないけど……」
京太郎「じゃあぜひ!」
巴「は、はい! わかりました……」
京太郎「ありがとうございます! それじゃ、明日のお昼に……それで、待ち合わせは――」
巴(やっぱり男の子だなぁ、京太郎くん……ちょっと強引で……でも、そんなのも新鮮で素敵かな)////
~第一週土曜、終了
【4月第一週土曜】
明日は新一年生の入学式。
ということで、明日には入ってくるであろう一年にいいとこを見せるため、今日は真面目に練習した。
監督にも初めて相手をしていただいたが、自分の麻雀は見せられたように思う。
臨海で打ったあとは、OGの先輩から声をかけていただいて、大学生と打ってきた。
そのとき、一人の先輩が、珍しく嬉しそうだったような気がする。
おそらく一緒に行った後輩に会えた、そのおかげだろう。
練習後は、いつも通り真面目に労働。
春先は山菜の天ぷらがよく売れる、焼き方は大忙しだ。
別の仕事もあるから、ずっと見ていなくても料理できるよう、音だけで揚げ具合を測らなくては。
かるた名人やクイーンではないが、耳は大事にしておきたい。
…………
『京太郎、かるた始めるの?』
『これからは麻雀より、かるただよね』
『百人一首か。意味を調べるのはもちろん、そのときの政治情勢を知っておくと、なお面白いものだぞ』
『いやいやいや、かるたするわけちゃうやろ』
もちろん。というか、なぜかるたを始めるって流れに……耳の話なのに。
『そんなことより山菜の天ぷらの写真は……?』
『見てるほうからも貼れるんだっけ……? あ、貼れた』
『今日は三人で食事してきたからね。お酒は抜きで』
『大将さんは、お酒を頼んで欲しそうでしたけどね』
お酒も合うらしいので、ぜひ頼んでください。
と言いたいところだけど、俺との約束を気にしてるなら、そうも言えないな。
量を抑えるなら、飲んでくださって大丈夫なんだけど……。
一緒に食事に出かけたら、気にしないで飲んでもらえるよう、言ってみるか。
『……あんたはお菓子じゃなくても涎垂らすのか』
『ご、ごめん……』
『まぁ仕方ない。おいしそうだし』
『和食はあんまり作ってもろたことないっけ……?』
『揚げ物はないかも』
『私はカツ丼作ってもらったよ』
『私もだな』
『うちとこは唐揚げや!』
――たしかに、天ぷらはあんまり作ってないな。
『それ以外だと、焼きとか和え物とか。でも基本、洋食が多いはず』
『さすが執事……』
『コックとちゃうん……』
『そこはさすが京ちゃんでいいと思う』
『せやな』
『さすが京ちゃん』
『さすが京ちゃん』
『さすが京ちゃん』
京ちゃんやめて……いや、誰が言ってるかわかるようにしてください、お願いします。
――――――――
~清澄 in ルーフトップ
「……すっかり板前さんなんですけど」
「タコス魂はどうしたんだじぇ!」
「それは最初からもっとらんじゃろ……」
「ま、麻雀もしたって言ってるし」
「――っていうか、この……嬉しそうな先輩って……」
「間違いなく、京太郎くんが来たからでしょうね」
「だが珍しく、と書いている。京太郎くんのおかげなら、普段からそうならないか?」
「確かにそうですね」
「なにか心境の変化でもあったんじゃない?」
「変化ですか?」
「そう……たとえば、きっかけがあって、より身近になったとかね」
「きっかけ……身近……」
「まぁたとえばよ。違うかもしれないし?」
「一緒に職場で働くようになれば、少し印象が変わるかもしれないですしね」
「……暗に、辻垣内さんのことじゃというとらんか?」
「べつにー?」
「辻垣内さん、そういうタイプに見えなかったけどなぁ」
(……こと、恋愛絡みの案件で、咲さんの予想は当てになりませんし……)
(あのヤクザメガネ、油断ならんじぇ……)
~白糸台
「えっ! 料亭って高校生でも入れるの!?」
「保護者がいないと、たぶん無理」
「お酒も提供するお店だから、その辺りは厳しいと思うよ」
「じゃーだめじゃん!」
「なに、会いに行きたかったの?」
「愛だね」
「そ、そういうんじゃないから!」
「そうなの? それじゃ、今度計画してた、臨海女子との合同練習は白紙に――」
「待った!」
「なぁに?」ニッコリ
「う……」
「どうしたのさ、淡」ニヤニヤ
「うぐぐ……べ、別になんでもないし! ふーんだっ!」
「あ、行っちゃった」
「ひと言言ってくれれば、協力するのになぁ……」
「本人には素直なのに、周りには意地張るっていうのも、珍しいパターンだよね」
~臨海女子
「明華、大学では一緒に打たなかったんですか?」
「永水の狩宿、新道寺の白水、それに智葉がいましたから……見ているほうが楽しめましたよ?」
「で、キョウタローはどうだった?」
「もちろん勝ちました。本人は無自覚のようですが、あの能力は狩宿と非常に相性がいいようで、飛ばして終了です」
「京太郎の能力……違和感はあるのですが、正体が掴めませんね」
「まるで自分を見せられているようで、落ち着かなくなります」
「難しいことばっかりー」
「……ネリーは、能力未定ですもんね」
「そのうち本編で判明すれば、影響出ますよ」
「そこまでこのスレ続くの?」
「さぁ……」メソラシ
「案外5人くらいエンドを見て終了かも……」
~臨海側大学
「そうか、今日も来ていたんだな」
「菫はなにしとったと?」
「バイトの面接だ」
「!?」
「菫さん、バイトするんですか?」
「ああ。一人暮らしで出費も多い、その上で遊ぶ金まで家にはねだれないからな」
「……そ、そうですね」
(……私、思いっきりねだってますよね……京太郎くんだって、働いてるのに、私ときたら……)
「巴もバイトしてみないか?」
「えっ……む、無理です!」
「そうか? 実家では巫女のアルバイトをしているはずだろう」
「あれはバイトじゃなく、本職です!」
「ちなみにどんなバイトにしたと?」
「ああ、いくつか回ってみた。事務や経理もいいが、せっかくだし学生らしい仕事をしたくてな。喫茶店や雀荘は感触がよかったぞ」
「学生、らしい……?」
「喫茶店はともかく、雀荘って……」
「まぁ特技を活かせるからいいと思うが……打ち子になったときは、客を射抜くなよ」
「するか!」
「……ストッパーに、巴も行ってみたらよかよ」
「哩さんは働かないんですか?」
「ん? 私は一応、居酒屋で働いとーよ」
「初耳だぞ」
「初めて言うことやけん、当然ばい」
「いいことを聞いた、ぜひ来年まで続けてくれ」
「どうしてですか?」
「来年には私たちも成人だからな」
「ふむ、そういうことなら、しばらく頑張ってみっとよ」
(でも、アルバイト……そうだよね。明日には間に合わないけど、こ、これからも……一緒に出掛けるなら、軍資金は必要だし……)
~宮守勢
「――ということで、私たちもアルバイトしてみるのはどうかな」
「そうだよね。実家からの仕送りに頼るのも、限度があるし」
「ハタラカザルモノ、クウベカラズ!」
「ちょーたのしそうだよー」
「ふっふっふ、そう言うと思って――はい、情報誌もらってきたよ!」
「準備いいね、塞」
「どういうところがいいかなー?」
「エ、カケルトコ!」
「そういう仕事はプロがやってそうだね……」
「それじゃ、ここまでの経験を活かして、雀荘とか?」
「練習にもなるし、いいかもね」
「それ以外だと、どこか――」
「リョウテイ!」
「あー……そういうとこは、敷居高いなぁ……」
「ダメ?」
「京太郎と一緒に働きたいねー」
「募集があればね……違う店なら募集あるみたいよ?」
「ソレハ……」
「まぁそうなるよね……とりあえずは雀荘、それ以外は?」
「コンビニ多いねー」
「本屋ってどうなんだろ」
「ベーカリー!」
「東京じゃ結構珍しいねー」
――十分後
「よーし、それじゃここでいいよね?」
「ダイニキボウ、コッチ!」
「バイト先がわかれても、泣かない」
「ぼっちはやだよー……」
~永水
「巴ちゃんかしら」
「巴だったらいつもニコニコしてますよー」
「うん、巴さんも京ちゃん大好きだから……」
「もうすぐときめきですよね」
「なんなの、その好感度ランクみたいなのは……」
「わ、私はどれくらいでしょうっ」
「小蒔ちゃんも大好きよ」
「そ、そうなんですかっ///」
「ちなみに霞と春はときめいてますよー」
「……そ、そこまで入れ込んでるわけではないのよ、本当よ?」
「負けない……」ゴッ
「……うわ、湧まだ友人じゃない。もっと仲良くすればいいのにー」
「別に須賀さんとどう接しようと……って、だからなんなの、そのランク!」
「明星ちゃんは、どのくらいですか?」
「あ、はい……普通に好き、という感じです。言うなれば、お兄ちゃんみたいな」
「従妹でも、従姉の相手はお義兄さんでいいのかしら……」
「なに言ってやがるんですかー」
「――あれ、でも……巴さんじゃないなら、笑顔な人って……誰なのかな……」
~阿知賀
「ま、今回は学習したわけだし? キーボードにカバーしてましたー」バーン
「おー、さっすが憧!」
「さっすがじゃなくて、反省しなさいっ」
「ウェヒヒ、ごめんごめん」
「まぁまぁ、憧ちゃん、その辺で……」
「お待たせなのです! いただきものの桜餅があったので、持ってきたよ!」
「ありがた……あ、そういえば」
「なになに?」
「北海道行ってから、ハルちゃんがここに登場しなくなった」
「プロのとこでしゃべってるんじゃない?」
「…………」フルフル
「……ほ、本当だっ」
「え、出番なくなるの?」
「あったかくない……」
「京太郎が北海道行けば、出てくるとか?」
「かもねー」
「そんなの困る! 京太郎、次はこっちに来てほしいし……」
「せっかく私たちの誕生日だったのに、東京だもんね……」
「そうね……ハルエには悪いけど、私たちのために、犠牲になってもらいましょうか」
「……あの、あんたらいっつもこんな会話してるの?」
「きょ、今日はたまたまだよ~」
「元顧問は、敬わなきゃだめよ?」
「大丈夫だよ~。みんな赤土先生大好きだから、つい遠慮なく言っちゃうだけだと思うなぁ」
「ならいいけどね」
~姫松
「そういうたらそうか、明日入学式やし、一年も入ってくるんですよね?」
「目ぼしい子はなぁ~。ほかはオリエンテーションしてからになるで~」
「先輩ら抜けて、層も薄ぅなったし、即戦力の子に来てほしいんやけど」
「そやなぁ。漫ちゃんも一年でレギュラー入ってたし、そういう子期待や」
「あはは……私の場合は、あんまり活躍出来てなかったし、そこは同じにならんとってほしいけど」
「一年に期待するんもええけど、お二人さんもレベルアップしてや~」
「わ、わかってます……今年の夏も、全国に行くんや!」
「京太郎くんと学校ちごても、会えるようにな!」
「……なんや、動機が不純やけど……ま、まぁええかな。やる気になるならそれで~」
~千里山
「層が薄い」
「知ってますて……」
「荒川並の魔物、入ってこんかいな……」
「そんなんおったら、よそでスカウトされてますて」
「そのレベルの魔物がまるで手つかずどころか、つい最近までド素人やったん忘れたか?」
「えっ……あ、ああ……」
「あれは例外中の例外ちゃいますか」
「そういう例外中の例外に来てほしいんや」
「監督必死ですね」
「まぁ私らが頼りにならんからやろ」
「そういうことちゃう。ただ、二人ではやっぱり戦力的に厳しいから、三本目の柱が欲しいいうことや」
「野球でも三本柱、裏ローテにも最低二人は欲しいですしね、ピッチャーは」
「なんの話でしたっけ……」
「先発取って、それまでの先発をリリーフにするんはどうなんやろな」
「自転車操業に見えますもんね……」
「完全に野球の話になってますやん!」
~関西大学組
「ほーう」
「メール?」
「東京の知り合いからな。大学の授業も決めて、そろそろバイト決めよう思てるらしいわ」
「バイトか……私らもなんかやろか」
「そやねー。せっかくやし、四人で行けるとこ探そか」
「うーん、そうなると怜基準で決めんと……」
「あ、うちはええで。ほら、竜華に紹介してもろた店、まだ続けさせてもろてるし」
「え、怜バイトしてたん?」
「せや。これでも勤労少女やで……生きるんて辛いわぁ」
「バイトくらいで知ったようなこと……けど、働いてない私らにも言えへんなぁ」
「やっぱりなんかしてみるのよー?」
「そうやなぁ……あっ、そや!」
「どしたん、竜華」
「もう決まってしもたかもしれへんけど、新しいできたホテルに入るカフェが、従業員探してたらしいわ」
「へー……って、なんでそんなん知ってるん?」
「もしかして竜華の家の?」
「うちやなくて、うちの知り合いの方の、やねんけど……そこ聞いてみて、三人入れそうなら頼んでみる?」
「カフェか、ええんとちゃうかなー」
「ほな、お手数やけど、お願いするわ」
「はいはい、任せといてー」
「……あの、うちもそっち……」
「あかんあかん。一緒に働きたいとは思うけど、色々と重労働やし……」
「そか……まぁしゃーないな」
「あれ、でも怜、わりとようなってきてるんとちゃうかった?」
「身体はな……けどこの子、そのせいで体力落ちてるから」
「合宿で走り込みとかもしたけど、麻雀できる程度の体力つけただけやからなぁ……」
「しばらくは体力作りや。それが終わって、お医者さんから診断書もろてから、働けるか見てもらお」
「先は長いなぁ。まぁそれまでは、カフェでサービスしてもらおか」
「まだ働けるて決まってへんのに……あと、サービスとかせんからな」
「はぁ……世知辛いなぁ。なんもかんも政治が悪い」
「それ別の人なのよー」
~関東プロ
「……なんとなく、教え子が余計なこと言ってる気がする」
「元、だよね?」
「いいじゃないですかっ、元でも可愛い教え子なんですから」
「で、京太郎くん?」
「ではなく、阿知賀の子たちです……ほんと、生意気に育っちゃって」
「先生がよかったんだね」
「皮肉ですか」
「まさかー」
「あっちのアラサーテーブル、盛り上がってんねー」
「三尋木プロ、危うい発言は控えてくだサイ」
「おっと、いまの内緒ね。口止めにこれ、ここの特製ミニラーメン。結構イケるっしょ?」
「ほほう、これは……魚介出汁、それに醤油……オーソドックスで、昔懐かしの和ラーメンのようデス」
「昔懐かしって……メグ、日本に来て四年ちょっとでしょ?」
「食の変化は早い。四年もあれば、体系そのものが変化することもある。ラーメンにおいては顕著」
「さすがチャンピオン……むむっ、これは素晴らしい!」オカワリ
「食べるのはや……」
「いいね~、言い食べっぷりだね~」
「……三尋木プロ、ちょっといいですか」
「ん~、どったの?」
「いえ、こういう会合なんですけど……どうして、辻でやらないんですか?」
「高いから」
「……だけじゃないですよね?」
「まぁねぃ。知り合いばっかで押しかけたら、間違いなく京太郎に迷惑かかっしね~」
「京ちゃんが困るなら、しないほうがいいですね」
「ん、まぁ……」
「まー、ひよっこがホイホイ行ける店でもないしねぃ。あんまいいもん食べて、舌が肥えても困るっしょ?」
「大丈夫です。京ちゃんの作るご飯に勝るものはないから」
「それには同意。京太郎のご飯は、身体に自然と入ってくる……言うなれば、おふくろの味」
「お二人は手料理を食べた経験があって、うらやまシイ……」
「私と京ちゃんはいわば夫婦だから。それくらい当然」
「私と京太郎は半ば同棲してたから、それくらい当然」
「!?」
「詳しく」
「聞かせてもらうぞ☆」
「高校生でさえ、そんな経験してるってのに……私ときたら……」
「出たなっ、アラサーテーブルズ!」
『誰がアラサー(なの!)(かな☆)(だ!)』
(シロ、その話はだめ)
(照が悪い。変なこと言いだすから)
~関西プロ
「大阪ダービー、お疲れさま」
「やみのま!」
「熊本弁ですよ、それは」
「直接当たらんでよかったなぁ、洋榎」
「はぁ? そらこっちのセリフや。当たっとったらうちがセーラ飛ばして、天王寺が勝ってるっちゅーねん」
「……一位は、私たち博多ですよね?」
「勝利!」
「もう一歩でしたが、二位に入れたのは大きいです」
「セーラと当たっとれば……」
「洋榎と当たってたら……」
「はいはい、麻雀でたらればは禁止ですよ」
「仲がいいですね、お二人は」
「はぁっ?」
「別にようないわ! これは……お前と石戸みたいなもんやろ!」
「……それだと、相当深い因縁になりますが、そうなのですか?」ニッコリ
「や、そ、そこまででは……」
「そういうことやったらあれや、仲ええっちゅーことでええわ……」
「怖い」
「利仙と石戸さんになにがあったのか……」
「聞かないほうがいいかと思いますよ?」ニコニコ
(気になる……でも怖い)×4
~4月第一週日曜
京太郎「入学式と説明会が、朝から10時まで。希望する新入生は、そこから部活参加……と」
ハオ「今年も留学生がいますから、参加者は多いと思いますよ」
明華「今年は京太郎もいますから、なおさらですね♪」
ネリー「キョウタロー、楽しみだね」
京太郎「ああ。後輩、新一年生……実に初々しい、いい響きだよな」キリッ
明華「…………」
ハオ「京太郎……」
京太郎「……ハッ! ち、違うっ、ただ普通の感想であって――」
アレクサンドラ「そのわりには目が本気だったけど。頼むから、問題とか起こさないでよ」
京太郎「だ、大丈夫ですよっ」
ネリー「ホントかなぁ……」
明華「まぁ、おもちの有無で反応が割れそうですけど」
ハオ「一年でも、ある人はあります。油断はなりません」
京太郎(……そう、一年でも……それにここは、留学生が多い……海外の子は、発育がいいからな)グッ
京太郎「いやぁ、楽しみですね」
ネリー「むー……」
ハオ「要警戒ですね」
明華「本当に一年の指導も任せるんですか?」
アレクサンドラ「よそに行って、それができないと臨海の指導力を疑われるからね……これも経験なのよ」
京太郎(なるほど、派遣で身につけるべきスキルだったのか……そっちも怠らないようにしなければ)
京太郎「これまで俺を指導してくれた先輩たちのことを、思いだして頑張ろう」ムンッ
明華「あら、少し雰囲気が」
ハオ「真面目になってくれて、なによりです」
ネリー「キリッとしてるね」
京太郎「元からしてるよぉ!」
アレクサンドラ「それはない、かな」
一年合流
京太郎「ちょっと早くないですか?」
アレクサンドラ「私立なんてこんなもの。式典よりも、成果重視なのよ」
明華「それでは、名簿のAに名前がある人はこちらで。Bはあちら、Cは京太郎に面倒を見てもらいます」
ハオ「男子が相手になりますが、彼はいたって紳士的なはずです。怯えなくても大丈夫ですよ」
京太郎「……その説明、いるのかなぁ」
ネリー「いるよっ。キョウタローはおっきくてこわいからね」
京太郎「ああ、そうかも……」
明華「なにが大きいのですか?」
京太郎「背丈ですよ!」
京太郎「――まったく……えーっと、それじゃ。君たちの指導は、半月ほどになるけど、俺が見ることになりました」
京太郎「まずはみんなの実力を見たいので、簡単なルールで打とうか。経験者はこっちの二席に、未経験者はこっちで。そちらには俺がつくから」
京太郎「なにか質問があれば、遠慮なく言ってほしい。それじゃ始め――」
一年A「はい! 質問です!」
京太郎「お、どうした?」
一年A「須賀先輩は、彼女いるんですかっ?」
B「よくやった!」
C「いい仕事、あとで満貫振り込んであげる」
D「で、先輩! お答えは!」
京太郎「……八百長はやめような。あと、麻雀に関係ある質問で頼む……」
明華「ですが気になるところです」
ハオ「ここで、実はいましたー、なんてことになったら大問題ですからね」
ネリー「全員の前で宣言しておこうよ」
京太郎「そっちの指導はどうしたぁっ!」
京太郎「……いません」
明華「」グッ
ハオ「」グッ
ネリー「」フフーフ
A「じゃあ立候補します!」
先輩方「」ギロッ
A「……やっぱやめます」
B「残当」
C「なに機会はまた来る。そのときを逃さなければ……」
D「ちなみに初対面判定はなしです。どうせ全員ときめくし……」
京太郎「……そういうの、モブ子の役割だったのになぁ」
明華「彼女は二軍と三軍の間を揺蕩って、非常に楽しそうですからね」
京太郎「三年になったらレギュラー取るって、どこでも言ってるからなぁ……」
ハオ「どこでも?」
京太郎「ああ、いや……こっちの話だ」
京太郎「さて、それじゃもういいか? 練習始めるぞ――」
一年「よろしくお願いします!」
京太郎(……基本的には真面目、なんだよなぁ?)
アレクサンドラ「――ふむ」
明華「監督、京太郎の様子は?」
アレクサンドラ「むしろこっちのが向いてるんじゃないかっていうくらい、的確ね」
明華「それはなにより」
アレクサンドラ「まぁ……ときどき、おもちのすっごい子をガン見してるけど」
明華「最低ですね」
アレクサンドラ「一部は恥ずかしがって隠すけど、極一部はむしろ強調してるわ」
明華「クビにすべきでは?」
アレクサンドラ「問題が起きたら対処しましょう」
明華「京太郎に目隠しをさせるのも手でしょうか」
アレクサンドラ「いいわね、考慮しておくわ」
京太郎「……恐ろしい相談をされている気がする」
一年A「せんぱーい、これはどれ切るべきですかー?」
京太郎「ん? 好きなのでいいよ」
京太郎「ミスったほうが覚えるからな」
一年B「先輩の指導、すごくスパルタです……」
京太郎「打って、検討して、そこから学習して上達するんだよ。そのおかげで見ろ、ド素人から男子インハイチャンプだぞ」
一年C「すごいです。素直に尊敬します。電話番号教えてください」
京太郎「ああ、そうか。相談事とかあったら、気軽に連絡くれよ……これ、メアドな」
一年C「言ってみるものです……」
一年D「ずるい! 私も!」
一年E「私も、ご迷惑でなければ……」
ギャーギャーワイワイ
明華「……監督?」
アレクサンドラ「ドクターストップ。明華、キョウタロウ回収」
明華「了解しました」
京太郎「な、なんですか、いいところだったのに……」
明華「それはそれは、後輩にモテモテでさぞ気分がよろしかったでしょう」ニコニコ
京太郎「そ、そういうことではなく……」
ハオ「私たちがベッタリというのもよくありません。各チームにリーダーを作って、彼女たちに仕切りを任せるんですよ」
京太郎「ああ――なるほど、そういうやり方もあるのか」
ネリー「それ以外はコーチたちも見てくれるよ、ヘーキヘーキ」
京太郎「で――俺たちも俺たちで、練習しないといけないんだな?」
明華「そういうことですね」
京太郎「さて、時間は残り少ないけど……どうしようか」
京太郎「そうだな。たまには自分の麻雀を見つめ直すってことで、指導していただこう」
京太郎「――ということを考えて、昨日ちょっと連絡してみたんですよ」
明華「へぇ」
ハオ「それで、こちらですか」
ネリー「見たことある、すごい大きい人と一緒にいたよねっ」
シロ「……小瀬川です、よろしく」
アレクサンドラ「開幕から調子はいいみたいね、小瀬川プロ」
シロ「まぁ、それなりです……京太郎、ちょっと」
京太郎「はい、なんですか?」
シロ「……私は嬉しいからいいけどさ」
京太郎「はい」
シロ「その……臨海はスタッフも多いし、わざわざ私を呼ばなくてよかったでしょ?」
京太郎「いえ。今回は、俺の麻雀を見つめ直す機会にしたかったので。そのためには、俺の腕をずっと見てきてくれた人がいいと思ったんです」
シロ「私じゃなくても、いると思うけど」
京太郎「でもシロさんもその一人ですから」
シロ「……そこから、私を選んだの?」
京太郎「はい。シロさんに見て欲しくて」
シロ「そう……」
京太郎「えっと……ひょっとして、ご迷惑でしたか?」
シロ「嬉しいからいいけど、って言ったでしょ」
京太郎「よかった……」
シロ「それじゃ、普通に打とうか。それと――」
京太郎「はい?」
シロ「……いや、別に……」
京太郎「はぁ……」
シロ(連休の予定忘れないで、とかは……あとでいいよね)
京太郎「――どうでしょうか」
シロ「うん……大丈夫だと思う」
京太郎「なにがですか?」
シロ「自分でどうって聞いておいて……まぁいいけど」
シロ「京太郎らしい、まっすぐな打ち筋だと思う。変な小細工もない、だけど読みは鋭い。降りるべきところ、勝負すべきところ、緩急も見極めてる」
京太郎「えと……その、シロさんから見て、違和感とかそういうのは……?」
シロ「………………いや、ないかな」
京太郎「そうですか……わかりました。ありがとうございます」
シロ「うん……もう少し時間はあるから、最後一回打って、終わろうか」
京太郎「はい。よろしくお願いします」
シロ(……途中で、長考したとき……すごい違和感があった……)
シロ(いつもなら、悩んだ先に答えが見えるけど……今回はどれを選んでも、京太郎に捉えられそうだった)
シロ(でもそれは、京太郎に違和感があったじゃなくて、自分に……)
シロ(……間違いなく、京太郎は京太郎らしく……強くなってるなぁ)
シロ(また勝ちにくくなったし……はぁ……)ダル
~練習終了
京太郎「通常行動一回減ると、かなり楽になりますね……」
明華「その分、会話シーンの厚みが減りますけどね」
シロ「なんの話してるの……」
京太郎「あ、シロさん! お疲れさまでした!」
シロ「うん、お疲れ……午後はどうするの?」
京太郎「えーっと……今日はちょっと予定が」
シロ「そう……それじゃ、またね。たまには試合見に来てよ、頑張るから」
京太郎「シロさんが、頑張るっ……?」
シロ「……ぶつよ?」
京太郎「すいませんでしたっ!」
シロ「……負けてられないなって思ったから、うん……」
京太郎「……応援、してます」
シロ「それを聞けてよかった。今日も勝つからね、それじゃ」バイバイ
明華「…………」
京太郎「明華先輩、どうされました?」
明華「それです!」
京太郎「」ビクッ
明華「小瀬川プロのことはシロ先輩でなく、シロさんと呼びました! 私もそれがいいです!」
京太郎「あー……そう言ってくる先輩、結構多いんですよね……なんでなんですか?」
明華「それは……その、なんというか……と、特別な感じがしまして……」テレッ
京太郎「……いまのところ、10人くらいそうですけど」
ハオ「結構な人数ですね」
ネリー「その中に一人になっても、特別感ないね」
明華「そ――それでもいいんですっ! 明華さんって、さんって呼んでくださいな!」
京太郎(なぜそんなにこだわるのか……)コレガワカラナイ
ハオ「どうします?」
京太郎「えっと……すいません。さすがに、出会って一週間の先輩を、さん付けにするのは失礼かな、と」
明華「私は気にしませんよ」
京太郎「まぁ、自分の心情的なものなので……そのうち、そう呼びますから」
明華「むぅ……わかりました。約束ですよ?」
京太郎「はい」
ネリー「めでたしめでたし、だね」
アレクサンドラ「なにが……まぁいいわ。今日の練習はここまで、一年生は初練習だしね。明日からは、もう少し厳しくします。以上」
全員『お疲れさまでした!』
~午後の予定行動、巴とデート
京太郎「――さて、と……うおおぉぉっっ! まさか昨日の今日で予定を空けてくださるとは、思ってもみなかった!」
京太郎「巴先輩とデートっ……テンション最高潮だ!」
京太郎「とにかく服を……さすがに執事服で行くわけにも――いや、待てよ……」
京太郎「先輩が袴なら、旧家の令嬢を支える執事ということで、うまくはまるんじゃないか……?」
京太郎「――なんてな。はいはい、ありえないよな、うん……」
京太郎「………………」
京太郎「あ――もしもし、巴先輩ですか? 京太郎です!」
巴『う、うん、わかってる……その、約束のことだよね? もうそろそろ、私も出るところだけど――』
京太郎「俺もです。ただ、服装でちょっと……」
巴『ああ、私も結構悩んじゃったかな。でもあんまり気取ってもいけないし、普段通りの格好だよ』
巴(……す、少しくらいは、おめかししたけどねっ……)
京太郎「それは――袴ではありませんか?」
巴『』
京太郎「……袴では――」
巴『ありません』
京太郎「あ、はい」
巴『それだけ?』
京太郎「ええ、ありがとうございました。袴だったら、それに合わせて執事服を、と思って――」
巴『合わせられてないよねっ、それ!?』
京太郎「意外と合うと思うんですが……」
巴『合ってないから! もうっ、変なこと言いださないで……これでも京太郎くんの私服、楽しみにしてるんだから』
京太郎「――わっかりました! この須賀京太郎、先輩のためにきっちり準備してまいります!」
巴『はいはい、それでよろしく……それじゃ、遅れないでね?』
京太郎「もちろん、女性をお待たせするなんて、とんでもないことです(フラグ)」
巴『ふふ、ならいいけど……じゃあ、またあとでね』
京太郎「はい、失礼します!」
京太郎「それじゃ、こっちの服で決まりだな……しかし、そうか……」
京太郎「つい袴に気を取られるけど、巴先輩は私服も可愛いからな……これは楽しみだ」
京太郎「よぉし、そうと決まれば全力で行っとくか! 先に待っておいて、あのテンプレをやってやるぜ!」
京太郎「――よっし、時間15分前、完璧だな」
京太郎「俺にはわかる、巴先輩ほどの奥ゆかしい方なら、俺が待っているのを見れば第一声は間違いなく――」
巴「あっ……ごめん、待たせちゃったかな?」
京太郎「――だろうから、俺が返す言葉は……」
巴「……? あのー、もしもーし?」
京太郎「いえ、平気です。先輩を思って待っていたので、あっという間でしたよ」
巴「――――そ、そっか……えへへ、なんだか照れるね」
京太郎「――しか、な……い……えっ」
巴「?」
京太郎「巴、せん……ぱい……?」
巴「うん、お待たせ」
京太郎「うあおぉぉぉっっ!」
巴「」ビクッ
京太郎「あ――す、すいませんっ、ちょっと考え事をしててっ」
巴「もう、それはさっき聞いたよ……その、わ……私の、ことをって……」カァァッ
京太郎(ぬわああああああああああああっ! 言うつもりなかったのにっ! ってかもうちょい軽く言うつもりだったのに、ガチで言っちまったあああああああああああ!)
巴「どうしたの?」
京太郎「――いえ、なんでもありませんよ。それに、先輩も早く着いてくださったんですし、むしろ俺が待たせるところでしたね」
巴「ふふっ、なんだか楽しみで、待ちきれなくって……あっ」
京太郎「……ありがとうございますっ」ニコッ
巴「わ、わわっ……忘れてぇぇぇ~~~っ!」
巴「ふぅ……はぁ……」
京太郎「落ち着かれましたか?」
巴「うん、なんとかね……」
京太郎「それじゃ、改めまして――今日はよろしくお願いします、巴先輩」
巴「はい、こちらこそ」ペッコリン
京太郎「……いいですね」
巴「えっ?」
京太郎「ワンピースドレス、先輩によくお似合いです……清楚で可憐で、そして知的で」
巴「~~~~~~~~っっ/////////」
巴「あ……あ、あり、がとっ……きょ、京太郎くんも、かっこいいよ!」
京太郎「そう言ってもらえてよかった……では、参りましょうか」スッ
巴「うんっ」キュッ
巴「………………」
巴「…………あぁっ! ごめん、これなしで!」サッ
京太郎「いいじゃないですか、せっかくの機会なんですから」ギュッ
巴「だ、だけど……東京って、知り合いいっぱい来てるし……だ、誰かに見られたら……」
京太郎「俺は気にしませんけど……先輩がお嫌ならやめておきましょうか?」
巴「――いいの?」
京太郎「はい、もちろん……」
巴「……ん、それなら……このままで、いいかな」ギュゥ
京太郎「はい……では、今度こそ行きましょう」
巴「まずはどこに行くの? その、恥ずかしながら、私……こういうの不慣れで……ルールとか、お約束みたいなのがわかんなくて……」
京太郎「……先輩、可愛いです」
巴「なっ……か、からかわないで!」
京太郎「ははっ、すいません……でもからかってません。事実です」
京太郎「いいんですよ。デートにお約束なんてありませんから。好きな場所、行きたい場所に行って、そこで楽しんだり楽しまなかったりすればいいんですから」
巴「えー、楽しいほうがいいじゃない」
京太郎「楽しくなかったときは、そのことを話題に盛り上がればいいんですって。雑誌で見ました」
巴「お約束見てるじゃない!」
京太郎「あ、あくまで一例ですって……えと、先輩はお昼、済ませてこられました?」
巴「もう、誤魔化さないのっ……食べてないけど」
京太郎「なら、まずはそこですね……なにか食べたいものはありますか?」
巴「……じ、実はね、一度行ってみたい店が……」
京太郎「あ、もしかして今日のために、リサーチしてくれてたんですか?」
巴「そ、そうじゃないんだけど……えっとね、ここ……」
京太郎「どれ――こ、ここはっ……」
巴「……おかしいかな?」
京太郎「――まさか。ちっともおかしくないです……・意外ではありましたけど、それはそれで嬉しいですし」
巴「嬉しい?」
京太郎「はい。巴先輩の、見知らぬ一面って感じで……お好きなんですか、辛い物?」
巴「うん、わりと……でも永水にいたときは、やっぱり和食とか、あっさりの味付けが多くて、あんまり食べる機会もなくてね」
巴「東京に来たら、少し食べ歩きなんかもしたいなって思ってたの」
京太郎「こちらのお店は、その一つなんですか?」
巴「そう。でもね、一人だと入りにくそうだから……男の子が一緒なら、おかしくないかなって」
巴「ごめんね、なんだか利用してるみたいになって……」
京太郎「先輩と一緒に行けるなら、どこだって行きます……いや、俺が行きたいんですよ」
巴「京太郎くん……ありがとう」
京太郎「それじゃ、ここに行ってみましょうか」
巴「うんっ♪」
京太郎「――ちなみに、評判的に、ここってそんなに辛いんですか?」
巴「辛いけど、こう……味もわかんなくなっちゃう辛さじゃなくて、あくまで味としての辛さらしいよ」
巴「それ以外の味付けもしっかりしてて、本当においしいんだってさ」
京太郎「なるほど……それは楽しみです」
京太郎「実は俺、最近は中華の勉強もしてましてね……ここの味も参考に――」
巴「……こーらっ」
京太郎「えっ」
巴「今日はデートでしょ? お仕事は禁止、普通に料理を楽しんでくださいね~」
京太郎「……はい」
巴「ふふっ、ごめんね。でもお仕事じゃなくって……」
京太郎「え?」
巴「……いつか、私に食べさせてくれるために、研究するっていうことなら……」
巴「それなら、まぁ……いいかな?」チラッ
京太郎「巴先輩……ありがとうございます! もちろん、上手くできるようになったら、先輩にもご賞味ただきますっ」
巴「ん、楽しみにしてるね」
少年少女移動中……
~中華料理、紅鈴
京太郎「佇まいからして、本格的ですね」
巴「楽しみだなぁ……さ、入ろっ?」
京太郎「すごいですね、カウンターじゃなくて鉄板が置いてあるじゃないですか、あそこ」
巴「ほんとだ……あの、そっちの席大丈夫ですか?」
「ええ、どうぞ」
京太郎「なるほど、鉄板料理はここで調理して、目の前の席ならそのままだしてくれるのか……」
巴「すごい迫力……」
京太郎「さすが中華料理、調理からして魅せますね……どうぞ、メニューですよ」
巴「うん、ありがと……あぁ、すごぉい」キラキラ
京太郎(あ、目に星が)
巴「定食……ううん、せっかくだしここは、単品でいくつか……ご飯はキープしておくにしても、色々と試しておきたいし……」
京太郎(猟犬の目になってる……こんな真剣な巴先輩、初めて見るぞ)
巴「ねっ、京太郎くんはどれにする?」
京太郎「そうですね……んー……これとこれ、あとはこれってとこですけど……」
京太郎「巴先輩が食べたいものあれば、それを頼んでください。それに合わせて、品数調整しますので」
巴「あははっ、ごめんね……なんか気を遣わせちゃってる」
京太郎「そんなことないですよ。俺は先輩と出かけられるだけで楽しいですから、先輩にはそれ以外の部分で、しっかり楽しんでほしいんです。食事はその最たるものですし」
巴「ふふっ、ありがと……だけどね、京太郎くんは一つ勘違いしてるよ」
巴「私も……京太郎くんとお出かけできて、とっても楽しいからね……」
京太郎「巴先輩……」
巴「だからね、京太郎くんにもここでの食事を、ゆっくり楽しんでもらいたいかなって」
京太郎「……はい、そうしましょう。それじゃ、一緒にメニューを選びましょうか」
巴「あ、私はこれとこれ、あとこれにしたいんだけど――」
京太郎「………………あ、はい。それじゃ、追加でこれと、これで……いいですか?」
巴「うん♪」
京太郎(……ま、まぁ先輩が嬉しそうだし、よしとしようか)
京太郎「先輩、大学生活はどうですか?」
巴「楽しいよ……って、それは京太郎くんも見てるし、わかってるんじゃない?」
京太郎「俺が見てるのは、部活の光景だけですからね……授業とか、そういう部分はどうなのかなって」
巴「そうだね……永水にいたときには見えなかった、知らなかったものが、いっぱいあるって気づけたのが大きいかな、まずは」
京太郎「視野が広がった、ということですか」
巴「うん、ざっくり言っちゃうとね。場所だったり、人だったり、知識だったり……自分の常識の外にあったものがいっぱい、ここにはあるんだって思える」
巴「いつかは鹿児島に帰るつもりだけど……それまでに私は、なるべく多くのことを見て、聞いて、知って――
霞さんたちに伝えるために、持ち帰りたいんだ」
巴「そのために、私はここに来ることを許されたんだって思ってる……」
京太郎「…………」
京太郎「――なるほど……先輩は、そういう役目もあったんですね」
巴「まぁね。外に出るっていうのは、そういうことだから……」
京太郎「……あの、少しいいですか?」
巴「ん、なに?」
京太郎「先輩がおっしゃることは、確かにそうだと思います……でも、俺も永水のみんなを知っているから、言わせていただきますけど――」
京太郎「家の方や親戚の方がなにをおっしゃっても、小蒔先輩や霞さん、初美先輩に春……明星ちゃんや湧ちゃんも、それだけを先輩に課しているとは思いません」
巴「京太郎くん……」
京太郎「むしろ、そんなことを求めてないかもしれません……ただ、巴先輩が東京の大学で、楽しく過ごすっていう……そんな時間を得ることを、嬉しく思っているんだって……」
京太郎「そういう風に思うんです、俺は」
巴「……うん……そう、かもしれないね……」
京太郎「きっとそうですよ……ですから、巴先輩」
京太郎「もっと自由に、謳歌してください。その上で得られた経験や知識のほうが、無理に責任を背負って吸収したことよりも、数倍役に立つはずですから」
巴「…………うん」
京太郎「そのためなら……俺も、協力したいって思います……これからも、なにかあったら遠慮なく言ってください」
京太郎「先輩のためだったら、辛い物の一つや二つ、ペロリですから」
巴「……ふふっ、ありがとね。最後で台無しだったけど」
京太郎「ええええ……」
巴「冗談だよ。ありがとう……京太郎くんの言う通りだと思う。姫様も霞さんも、私に色々と預ける人じゃないから……ちょっと気負いすぎてたかな」
京太郎「だけど、その真面目さが巴先輩の素敵なところなんだって、思います」
巴「京太郎くん……」
京太郎「……ちょっと、恥ずかしいこと言っちゃいましたかね?」
巴「……うん、とびっきり恥ずかしいかな」
京太郎「ちょっ、そこは否定するところじゃ……」
巴「――だけど、とびっきり……嬉しいかな」フフッ
京太郎「……それなら、よかったです」
~お料理到着
京太郎「あふっっ……はふっ、はっ……か、辛いっ……そしてうまい!」
巴「こっちの蒸し鶏も、すっごく味が……はぁ、幸せ……」
京太郎「ご飯にも合いますね、やっぱり」
巴「濃い味で進むし、辛さを軽減するのにもやっぱり進む……本当に相性いいよね」
京太郎「肉、魚、貝、野菜――全部あるっていうのもポイント高いです」
巴「うん、そうだね……あ、京太郎くん」
京太郎「はい?」
巴「口元、ついちゃってる……ん、取れたよ」
京太郎「あ、ありがとうございます……」
巴「それに汗もすごいね……ちょっとジッとしてて、拭いちゃうから」
京太郎「ああ、それなら――」
京太郎「………………」
巴「それじゃ、失礼して……」フキフキ
京太郎(やっぱり甲斐甲斐しいなぁ、先輩……あれだ、良妻賢母ってタイプ)
京太郎(自然にハンカチ出てくるし、拭き方もハンカチを当てて、吸わせるやり方で痛くないし)
京太郎(しかも面倒かけてるのに、嫌そうな顔どころか笑顔で、優しい手つきで……お、おおっ、額から首筋にぃっ……)
巴「ん、こんなとこかな? すぐにまた噴きだしちゃうだろうけど、とりあえずはね」
京太郎「あ――お、終わりました?」
巴「うん」
京太郎「どうも、お手間をおかけしました……」
巴「気にしないで。それよりほら、まだ残ってるから、あったかいうちに食べちゃおうよ」
京太郎「そうしましょうか。あ、そうだ」
巴「なに?」
京太郎「いえ……汗を拭いてくれたお礼にと思って。はい、あーん」
巴「」
京太郎「あ、あーん……」
巴「……や、やらないからねっ」
京太郎「あーん……」
巴「やらないってば……」
京太郎「あー……」
巴「…………」
京太郎「あ……」
巴「………………あむっ」
京太郎「やったぜ」
巴「こ、今回だけだからねっ……あ、おいしいっ」
京太郎「あれ、まだこれ召し上がってませんでした?」
巴「あ、そうかも……へー、こういうのもあるんだね」
京太郎「俺はそっちの、まだですね」
巴「……それじゃ、お返しに……はい、あーん♪」
京太郎「っっ!」ガッツポ
京太郎「あーん……」
巴「なんちゃって」パクッ
京太郎「」
巴「ご、ごめん、冗談……はい、あーんして?」
周囲の客「(#^ω^)」
京太郎「うまかった……けど、やっぱ暑くなりますね」
巴「それが四川のいいとこだからね」
京太郎「巴さんも、結構汗かいちゃってますよ」スッ
巴「えっ……ちょ、ちょっと待って、そんな近づいたらっ……」
京太郎「汗拭くだけですよ、ちょっとジッとしててください」
巴「や、その……汗、かいたから……臭いが……」
京太郎「――大丈夫、気になりませんよ」フキフキ
巴「あぅっ……んっ……」ビクッ
京太郎「はい、綺麗になりました。まぁ元からですけど」
巴「なっ……ば、バカなこと言ってないの!」
京太郎「すいません……」
巴(……そ、の……本気、なら……いいんだけど……)
京太郎「さて、お昼も食べましたし、どこか行きましょうよ。巴さんは、どこかリクエストありますか?」
巴「中華だし、鉄板が近くって、匂いついちゃってるかもしれないからね……」
京太郎「そっか……なら、あんまり人がいないとこ……というか、屋内じゃないほうがいいですね」
巴「ね」
京太郎「なら――近くに、広めの公園があるみたいですし、散歩しませんか?」
巴「あ、いいかも。お腹いっぱいだし、ちょっと動きたいもんね」
京太郎「はい、それじゃ行きましょうか。それに、この時期ならまだ……」
巴「え?」
京太郎「いえ。では行きましょう」スッ
巴「…………んっ」キュッ
京太郎「巴先輩の手、小さくてかわいいですよね」
巴「!?」
京太郎「というか、指が細いのかな……あ、でも」フニフニ
巴「ちょ、ちょちょちょっ、なにしてるのっ!」カァッ
京太郎「いえ、指の関節のとこが……」コリコリ
巴「んぅっっ……そ、それは、あれっ……麻雀で、できたマメのあと――んっ///」
京太郎「あっ……す、すいませんっ」
巴「う、ううん、大丈夫……」
京太郎「にしても、随分長く麻雀してるのに、やっぱりマメってできるんですね」
巴「どこかの選手は、小3からマメ一つできないみたいだけど、集中して打つと、硬くなってきちゃうかな」
京太郎「ああ……神社のお仕事が、なくなったから時間が……」
巴「まぁその分、勉強や本を読む時間もあるけどね。それでも、前よりはよく打ってるかな」
京太郎「――でも、やっぱり綺麗な手ですよね」
巴「またぁ……マメがあると、さすがにカッコ悪いでしょ?」
京太郎「いえ……それも含めて、巴さんの実直な性格が出てる気がします。素敵な手ですよ」
巴「そうかな……ふふっ、ありがとね」
京太郎「いえ」
巴「京太郎くんの手は……おっきくて、ゴツゴツしてるね」
京太郎「えっ」
巴「ちょっと緊張してるのかな、硬くって熱いし……ちょっとほぐしてあげようかな?」モミモミ
京太郎「ちょ、ちょちょっ、巴さんっ!?」
巴「ふふ、お返しでーす。強張ってて、カチカチだし……えいっ、こうしちゃおう」クニクニ
京太郎「」
巴「お、ほぐれてきたね」ニコニコ
京太郎(別の部分が硬く……)
少年少女移動中……
京太郎「こ、ここです……」
巴「へぇ、こんな場所があったんだね……って、どうしたの、京太郎くん? 息が荒いけど……」
京太郎「いえ、なんでも……ふぅ……」
京太郎(よくぞ耐えた、俺の精神……)フッ
京太郎「入口が四か所あって、それぞれに通じるルートが、散歩のコースみたいになってるんですよ」
京太郎「ってことで、ちょっとオススメのほうに行きましょうか」
巴「オススメ?」
京太郎「はい。たぶん大丈夫だと思うので――」
京太郎「ほら、この道ですよ」
巴「わぁ――すっごい、桜並木……」
京太郎「散る前でよかったです。どうですか?」
巴「綺麗……あ、私のほうが、とかそういうのはなしだよ?」
京太郎「言いませんよ、そんなこと」
巴「うっ……なんか、自意識過剰みたいで恥ずかしい……」
京太郎「当然のことですし、言う必要ないじゃないですか」
巴「っっ、だからぁ!」
京太郎「ははっ、すいません……それじゃ、少し歩きましょう」
巴「もうっ……」
京太郎「桜のトンネルみたいですね、これだけ咲いてると」
巴「うん……ふふっ」スルッ
京太郎「っ……と、巴先輩?」
巴「なんとなくね、こっちのほうがいいかなって……手を繋ぐより、腕のほうが、ね」
京太郎「……あ、あんまり近いと、その……臭いとか……」
巴「うーん、中華の匂い……」クンクン
京太郎「やめてぇっ!」
巴「あはは、冗談だよ……京太郎くんの匂いだね、落ちつく……」
京太郎「……ありがとう、ございます……あの……先輩も、いい匂いです……」
巴「それはよかった……」
京太郎「えっと……このまま、手も握っていいですか?」
巴「……そうしたい?」
京太郎「はい……できれば」
巴「ん……いいよ」キュッ
京太郎(いやっふぉおおおおおおおおおおおお!)
巴「……ふふっ、すごい格好になっちゃった……腕に抱きついて、手も繋いで……」
巴「人に見られたら、そういう関係だって思われちゃうね」
京太郎「う……あの、巴先輩が困るなら、離れてくださっても……」
巴「……ううん、私は平気。京太郎くんが気にしないなら、このまま歩こ?」
京太郎「ぜひ」
巴「うん、素直でよろしい……はぁ、なんかビックリしてる」
京太郎「どうしてですか?」
巴「この状況だよ。誘われたときは、こんな風にするとか考えてなかったんだけど……」
巴「いざ待ち合わせて、手繋いで、食事して、こんな綺麗な場所歩いて――」
巴「二人きりなんだって思うと、自然と……こうなっちゃったから」
京太郎「ご迷惑ですか?」
巴「怒るよ?」
京太郎「……それは、好意的に解釈していいですよね?」
巴「……いちいち、言わせないの。嫌だったら帰ってるし、こんなことだってしないよ……」
巴「とってもね、幸せ……楽しいよ、散歩してるだけなのにね」
京太郎「よかったです。俺も嬉しいですよ」
巴「はぁ……なんだか、色々考えちゃうなぁ」
京太郎「なにをです?」
巴「今後ね、京太郎くんが永水に行っても……私はそこにいないじゃない?」
京太郎「はい」
巴「そうなったら寂しいだろうから、ずっとこっちにいて欲しいって思っちゃう……だけど――」
巴「それはそれで、姫様や霞さん、はるるやはっちゃん……湧に明星も、寂しがるだろうから」
巴「複雑だなーって」
京太郎「行き先が選べないですからね、俺の自由には……」
巴「そういえばそうだったね……ね、もし選べたら――」
京太郎「…………」
巴「……ううん、なんでもないや」
京太郎「……その、確約はできないですけど……」
巴「ん?」
京太郎「なるべく、そうしたいと思います……」
巴「ん……そっかぁ、ちょっと残念かな」
巴「確約してくれると嬉しいんだけど?」
京太郎「そ、そこは、ほら……俺にも色々と、事情がありまして……」
巴「まぁそうだよね。色んなところでお世話になってるんだし、一ヶ所にだけっていうわけにもいかないか」
京太郎「東京は大勢集まってらっしゃいますから、そうなるかもしれませんけど……」
巴「うん……まぁ、ここにいてくれる頻度が高いっていうなら、それで満足しようかな?」
京太郎「そうしていただけますと」
巴「ふふ、ありがとね……気を遣ってくれても、正直な京太郎くん……いいって思うよ」
巴「さて、それじゃ続けよっか……公園デート♪」
京太郎「はい……本当に、綺麗ですね」
巴「うん……ずっと歩いてたいな」
京太郎(……いまの綺麗は、巴先輩のことですよ……)
京太郎(……やっぱり、年上っていうだけで……敵わないよなぁ)
~駅前、夕方
京太郎「なんか、歩いてるばっかりになっちゃいましたね……疲れてませんか?」
巴「うん、平気。神社のお仕事で、動くのは慣れてるから……それに、ベンチで休憩もしたしね」
京太郎「あー、すいません……膝枕、借りてしまって」
巴「京太郎くんこそ、疲れてたんだね……よく眠れた?」
京太郎「ええ、とても……毎日お借りしたいくらいです」
巴「ふふっ、それは大学に来てくれたらね……あ、遊びにじゃないよ? ちゃんと入学してってこと」
京太郎「巴さんの大学、最難関校じゃないですか……」
巴「京太郎くんなら余裕でしょ?」
京太郎「そんなこともないと思いますけど……」
巴(実際、京太郎くんが無理なら入学者いなくなっちゃうよ……)
京太郎「けど、いい時間になっちゃいましたし……そろそろ、解散ですかね」
巴「……えっと、それ……なんだけど……」
京太郎「はい?」
巴「あ、あのねっ……今日、その……用事で、夜までいないって言ったから……あの三人、お食事に行ってるみたいなんだよね……」
京太郎「へぇ……辻も、今日は休みですからね。いいんじゃないでしょうか」
巴「じゃなくて! だから、その……帰っても、しばらくは一人になっちゃって……ほら、危ないじゃない?」
京太郎「…………けど、俺が行くのも問題ですよね?」
巴「うん、だから……」
巴「よ、よかったら、どこかで……食事、していこう?」
巴「できれば、ゆっくり落ち着けるとこで……あんまり、人がいないほうが……」チラッチラッ
京太郎「――よろしければ、俺の家に来ませんか? 夕食、一緒に作りましょう」
巴「っっ! い、いいのっ?」
京太郎「ええ。三人が帰られる頃に、お送りしますよ」
巴「それじゃ……お邪魔、しようかな」
京太郎「ええ、歓迎します……それでは、帰る前に夕飯の買い物していきましょうか」
巴「うんっ」
京太郎「お昼が重たかったですし、軽いものにしますね」
巴「あっさり目のパスタとかどうかな」
京太郎「あまり脂を使わず、作ったほうがいいですね……」
~デート終了
~おまけ、別れ際
京太郎「――では、ここでいいですか?」
巴「うん……送ってくれて、ありがとう」
京太郎「さすがに前までは行けませんけど……」
巴「もう100mくらいだし、見えてるから大丈夫だよ」
京太郎「一応、入られるまでここにいます。なにかあったら戻ってきてください……っていうか、俺が駆けつけます」
巴「心配性だなぁ……でも、ちょっと嬉しい」
京太郎「そりゃ心配しますよ……大切な先輩ですから」
巴「…………ねえ、京太郎くん?」
京太郎「はい?」
巴「シロさんとか、霞さんとか……照さんのこと、さん付けで呼んでるでしょ?」
京太郎「あー……はい、まぁ」
巴「私のことも、それでお願いしていいかな? ほら、卒業しちゃったし、いつまでも先輩っていうのも、あれかなーって」
京太郎「俺は構いませんけど……それじゃ、巴さん」
巴「はぅっ……」キュン
巴「は、はいっ、なにかな?」
京太郎「今日は、ありがとうございました……おやすみなさい」
巴「うん、おやすみ……こちらこそ、ありがとう。それじゃ、またね」フリフリ
京太郎「ええ、また――」
巴(ふっわぁぁぁあっぁっっ……////)タタタッ
巴(やっばい……さんって、なんだか……こ、ここ、恋人みたいで……)
巴(あああああ……やっぱり、もう……私、完全に――)
巴(完全に、京太郎くんの、こと――)
巴「…………京太郎、くん……」
~おしまい
~4月第一週日曜、夜
京太郎「無事にマンションに入るのは見届けたし、これで一安心だな……あ、メールが」
京太郎「巴さんからメールか……こっちも無事です、そろそろ家です、と……」
京太郎「心配性だなぁ。男子なんだから、帰り道が暗くても平気ですよっと」
京太郎「……京子ちゃん? 知らない子ですね……」
京太郎「さて――今夜はこれからどうしようか」
~夕食時の二人
京太郎「それじゃ、巴先輩はパスタのほうお願いします。あと、俺は貝の処理しておくので、フライパン見ておいてください」
巴「はい、任せてください」
京太郎「……敬語?」
巴「私もそれなりにお料理はしますけど、やっぱり京太郎くんが料理長ですからね……今日はなんでも、言うとおりに動きますよ」
京太郎「ん?」
巴「え?」
京太郎「……いえ、なんでも……で、では、とりあえずそんな感じで」
巴「わかりました」
京太郎(オーケー落ち着こう……巴先輩に限って、そんなこと言いだすわけがない、よな?)チラッ
巴「ふふーん♪ 時間はー……あ、かわいいキッチンタイマー」カチカチ
巴「で、フライパンに火を――いや、まだ早いか。もう少ししてから、だね」
京太郎(うん、言いだすわけがない……しかし、手際いいなぁ。それに……)
巴「塩を軽く……うーんと、京太郎くんがパスタ仕上げてくれるんだし、私はお野菜を……」
巴「京太郎くん? 貝、もういいんじゃない?」
京太郎「おぅわっ! はい、もう……それじゃ、少ししたら貝に火を通して、パスタは茹で上がったら使いますね。巴先輩は、休んでてくだされば」
巴「二人で、って言ったでしょ? サラダか、おひたしでも作ろうと思うんだけど。あ、それともスープのほうがいいかな」
京太郎「そうですね、それじゃ――」
京太郎(……真面目だなぁ。料理も上手、美人、かわいい……これは世の男性が望む、大和撫子の姿じゃないかな?)
京太郎(しかも――しかもだ)
巴「それじゃ、水場お借りします。野菜洗わせてねー」
巴「…………」ジャバジャバ
京太郎(…………野菜を洗う手つきが、やばい……あと、その……お尻振ってるのも、やばい……)
京太郎(って、あああああああああああああ! そんなとこばっかり見るな、失礼だろうが!)
巴「…………?」
京太郎(い、いや、けど……これは先輩にも非があるのではないだろうか?)
京太郎(思わず部屋に呼んじゃったけど、さっきの……まだ、帰りたくない、みたいな言い方とか……完全に誘ってましたよねっ?)
京太郎(俺だったからいいけど、普通の男だったら色々大変だったぞ……もっと警戒してもらわないと)
京太郎(……俺も相当、あれ……なんていうか、キテる感じだしさ……)
巴「京太郎くーん、お皿なんだけどー」
京太郎「はいぃっ! なんでしょう!」
巴「サラダのお皿と、パスタの皿……それっぽいの、だしてきたけど――よかった?」
京太郎「あ……はい、ではこっちもらいますね」スッ
巴「っっ!」ビクッ
パリーン
巴「きゃっっ……」
京太郎「大丈夫ですかっ?」
巴「う、うん、平気……それより、ごめんっ……お皿……」
京太郎「いえ、すいません、指が……」
巴「う、ううん! 指が触れたくらいで、ごめんね……ちょっと、緊張しちゃってて……ふふっ、おかしいね」
巴「デート中は、あんなに手を繋いでたのに……や、やっぱり男の子の部屋だから、かな?」
京太郎「……お怪我は、ありませんか?」フニフニ
巴「うん……あ、あの、あんまり触るのは……」
京太郎「先輩の綺麗な指が、怪我したら大変ですからね……大丈夫みたいです」
巴「ん、ありがと……それじゃ、片づけようか」
京太郎「破片は拾いますので、そこの棚から袋を……それと、ガムテープをお願いします」
巴「はい」
京太郎(……だよな、先輩も……男子の部屋なんて、女子校育ちなら縁がないに決まってるんだから……)
京太郎(あー、なんか落ち着いてきた……まぁ、普段通りにしておこう)
巴「掃除機、かけ終わったよー」
京太郎「ありがとうございます。それじゃ、片づけて手を洗って、食事にしましょうか」
巴「京太郎くんのお料理、久しぶりだね」
京太郎「こんなのでよければ毎日でも」
巴「それはみんなに悪いよ……でも、毎日食べられるようになったら、幸せだろうね」
京太郎「――っっ!」
巴「それじゃ、いただきまー……どうしたの?」
京太郎「い、いえ、なんでも……」
巴「ふふっ、変な京太郎くん……さ、手を合わせて」
京太郎「あ、はい」
巴「いただきます」
京太郎「いただきます……」
京太郎(あれは
プロポーズなのか!? そうじゃないのか!?)
巴(あぁぁ……お昼あんなに食べたのに……おいしい、おいしいなぁ……)
巴(袴、着れなくならないように……気をつけなきゃ……)
~夕食時の二人、終了
京太郎「――はぁ……巴さんは、あれだ……無防備で危ういけど、内心では色々考えてるみたいだな」
京太郎「変な意識をさせないように、俺のほうで気を遣っておこう、うん」
~日曜、終了
とある日の光景
京太郎「――なるほど、そうだったのか……」
ハオ「なにを見てるんです、京太郎」
ネリー「だめだよ、ハオ。男の子がビデオ見てるときは、声かけちゃ」
ハオ「あ……す、すいません、京太郎……」
京太郎「余計な気遣いいらないから!」
京太郎「ったく……去年の夏の、準決勝のビデオだよ」
ハオ「準決勝、清澄とうちが初めて当たったときですね」
ネリー「いまどこ?」
京太郎「次鋒戦、終わったとこだな。昼休憩前だ」
『――いくらと数の子が好きになったそうです』
『じゃあたぶんキャビアも好きだね』
京太郎「……麻雀の、実況解説……?」
ハオ「まぁ終わったところですし」
京太郎「そうかぁ……和菓子は聞いてたけど、それなら……そういうのも作っていかないとな」
ハオ「……」ピクッ
ネリー「むー」
ハオ「京太郎、私も実は――」
ネリー「ネリーもね、好きなものあって!」
京太郎「え、ど、どうした急に」
ハオ「いいから!」
ネリー「黙って聞く!」
京太郎「……はい」
京太郎「――本日は、ちょっと変わった差し入れです。カナッペをご用意しました」
明華「あっ……」
京太郎「どうぞ、先輩。イクラと、あまりいいものではないですけど、キャビアもありますよ」
明華「ど、ど、どこでそれを?」
京太郎「夏のビデオを見ていたら。当時は、試合が終わったらテレビ見てなかったので」
明華「~~~~~っっ////」
京太郎「え、恥ずかしがることですか?」
明華「み、みんなにはいいですけど……京太郎には、その……ちょっと……」
京太郎「ええええ……なんか、すいません……」
明華「い、いいえ! その……嬉しいですよ、とても……」
明華「お礼に、あとで一曲披露しましょうね」
京太郎「ああ……そういえば、対局中にも歌っていましたね。とても綺麗な声……まるでローレライでした」
明華「……あ、あり……がとう……嬉しい」ニコッ
~4月第二週水曜、学校
京太郎「それじゃ一年、俺からは、今日はここまで。あとは一年同士で、切磋琢磨するように。リーダー、任せたぞ」
一年Aリーダー「はい! お疲れさまでした、須賀先輩!」
一年A1「先輩! 今日の夕方の予定はどうなってますか!」
一年A2「空いてるなら、個人指導をお願いしたい所存です!」
ハオ「………………」ゴッ
ネリー「………………」ゴゴゴゴゴゴ
明華「………………」ニコニコ
京太郎「今日は無理かな……まぁ時間があれば、付き合うから」
一年A3「言質いただきました!」
京太郎「時間があればな……お疲れさん、ハオ、ネリー。お疲れさまです、明華先輩」
ハオ「……まったく、一年に甘すぎます、京太郎」
ネリー「痛くないと覚えないよ」
明華「まぁまぁ二人とも。京太郎が無理なら、私たちが寮で教えてあげればいいだけです」
京太郎「たしかに……寮住まいは、そういうとき便利ですよね。白糸台もそうだったなぁ」
ハオ「白糸台では、寮だったんですか?」
京太郎「ああ、だって白糸台は共学――あ、れ……」
明華「白糸台は女子校ですよ、京太郎」
京太郎「そう、でしたね……それじゃ、俺はあのとき……?」
ネリー「女子寮に住んでたっ? それじゃ、ここでもいいと思うんだけど!」
ハオ「問題はありませんね」
明華「さっそく監督に掛け合いましょう」
アレクサンドラ「――三人が在校生全員がときめいたらいいわよ。それよりキョウタロウ」
京太郎「はい」
アレクサンドラ「お客さん。お通ししたから、行ってらっしゃい」
京太郎「お客さん……? わかりました、行ってきます――」
明華「監督、どなたが?」
ハオ「智葉ですね」
アレクサンドラ「違うから……まぁ、あとでこっちにも来てくれるわよ」
ネリー「ふーん、知ってる人かな……」
アレクサンドラ「たぶんね」
京太郎「お待たせしました、須賀です――」ガチャ
良子「京太郎くん、こんにちは」
京太郎「良子さん!? え、あれ……いまはシーズン中ですし、関西じゃ……」
良子「今日はローテーションから外れて、試合は休みです。練習に参加して、そのままこちらに来ました」
京太郎「どうしてまた……」
良子「……それを聞くんですか、京太郎?」
京太郎「はい?」
良子「もうっ……今日は、私の誕生日です。その……朝から、これを届けられて……」キラッ
京太郎「……あぁっ! そうです、そうでしたっ……すいません、誕生日おめでとうございます!」
良子「忘れていたんですか?」
京太郎「う……い、いえ、その……ちょっと、一年生の指導とか、慣れないことが多くて……」
良子「忘れていたんですね?」
京太郎「な、なにかあったなとは思ってて……良子さんの顔を見て、ますますそう感じましたし――」
良子「でも、忘れていた――」
京太郎「すいません許してくださいなんでもしますから!」
良子「――――――本当に?」
京太郎「はい! 俺にできることなら、なんでも――」
良子「」
良子(おおおおおお落ち着きなさい戒能良子! これはあれです、できることならやるという誠意というだけです)
良子(本当に京太郎くんがなんでもしてくれるわけではない、ええそうですそのはずがない)
良子(なぜならなんでもということはなんでもということになってしまい、それはつまり京太郎くんは私のあのそのなんというかそれになってしまうと――)
京太郎「なんでもおっしゃってください!」
良子「」
良子「で……でし、たら……その――」
京太郎「はい!」
良子「………………」
良子「~~~~~~~~~~っっ……いえ、その……いまは、大丈夫ですっ……」
京太郎「そう、ですか……でも、なにか思いついたら、すぐに言ってください!」
良子「ええ……そう、しますっ……」ググググッ(伸ばそうとした手を必死に押さえている)
良子「あ、ありがとう、京太郎くん」
京太郎「いえ、そんな……ド忘れしていて、すいませんでした……」
良子「それにしても、珍しいネックレスですね……まぁ、私はあまりアクセサリーをつけるほうではありませんけど、あまり見かけないデザインです」
京太郎「あっははは……すいません、安物で。社会人の、トッププロの麻雀プレイヤーに、そんなのはどうかと思ったんですけど」
良子「値段にはこだわりません。いいもの、あるいは大切な人がくれたものなら、それはなによりの贈り物です」
良子「とても嬉しいですよ」
京太郎「そう言っていただけると、作った甲斐がありました」
良子「そう、作って――作って?」
京太郎「はい。近く――ではないですけど、ちょっと離れたところに、そういうのを作れるジュエリーショップがありまして」
京太郎「もちろん既製品もあったんですが、どうせならデザインからしてみようと思って――良子さんをイメージして、デザインしてみました」
良子「わ、私の……イメージ……」
京太郎「はい、綺麗で、強くて、それでいて親しみがある良子さんですから」
京太郎「その印象が引き立つように、あくまで抑えたデザインです。つけてくださいとは言いませんが、一ファンの――あと、弟子の贈り物ってことで、受け取ってもらえると嬉しいです」
良子「――ありがとう。大切にします……」
京太郎「よかった――そうだ」
京太郎「お茶でも――いかがですか? ほら、それだけっていうのもなんですし、こうして、せっかく来てくださいましたから」
良子「……そうですね。では、いただきます」
京太郎「かしこまりました。少々お待ちください……」
良子(……はぁ、危なかった……危うく、条例に引っ掛かるようなお願いをしてしまうところでしたが――)
良子(手作りのプレゼントに、お茶……うん。こんな誕生日は、二度とないでしょう……いえ、もしかしたら来年も……)
良子(……ありがとう、京太郎くん……)
良子(………………どう、でしょうか)パチッ
良子「…………ふむ」クルンッ
良子「おかしな目立ち方はしませんね、それに……つけている感覚も、悪くない……」ニコー
良子「ふふっ……」サスサス
京太郎「失礼いたします、お茶をお持ちしました」ガチャッ
良子「あ――」
京太郎「……お気に召して、いただけましたか?」
良子「……え、ええ、まぁ……」カァッ
京太郎「よかった」ニッコリ
良子「そ、それより京太郎くん! 私の送った懐中時計は、まだ持っていますか!?」
京太郎「えっ……あ、はい、もちろん。仕事中以外は、肌身離さず」チャラッ
良子「それなら、構いません……」
京太郎「どうぞ、お召し上がりください」
良子「ええ…………ふぅ……」
良子「…………あの、見ましたね、さっきの――」
京太郎「……見てないほうが、よかったですか?」
良子「……いえ。むしろ、見てもらえてよかった……私が、本当に喜んでいると、わかってくれましたか?」
京太郎「はい」
良子「ならよしです……さて、お茶を飲んだら、久しぶりに練習しましょう」
京太郎「う……」
良子「なんです、その反応は。ああ、女子校だからですか。私より、女子高生相手のほうが楽しめますか」
京太郎「じゃなくて! いえ、良子さん、そういう顔のとき……嬉しそうなとき、すごく厳しいので」
良子「……痛くなければ、覚えないでしょう?」
京太郎「それはやってるんですか……っていうか、痛くなくても覚えますし」
良子「でも覚えやすい」
京太郎「……はい」
良子「では決まりですね。大丈夫、多少は優しくします。あなたは大事な――私の、弟子ですから」
京太郎「恐縮です……」
良子(大事な――とても、大事な……京太郎くんですから……)
~4月第二週土曜、夜
京太郎「お――電話? って、灼先輩……?」
京太郎「珍しいな……もしもし、京太郎です」
灼『も、もしもしっ、あのっ――灼、だけど……京太郎?』
京太郎「はい。どうされましたか、まだ誕生日には少し早いですけど」
灼『~~~~~~っっ!』
京太郎「あれ……もしかして、前日なのに届いちゃいましたかっ?」
灼『や、やっぱり……これ、京太郎の……』
京太郎「送り主がそうなってるはずですけど……」
灼『うん、そうなんだけど……その、本当に、いいのかなって思って……』
灼『だってほら! あの、えっと……く、クリスマスにも、私に……だけ……』カァッ
京太郎「あー……ブローチのこと、ですよね」
灼『うん……それだけでも、すごく嬉し――』
京太郎「はい?」
灼『や、なんでも――』
灼『…………』
灼『ううん……嬉しかったのに、誕生日にまで、こんなすごいの……』
京太郎「気に入らなかったですか?」
灼『その逆! すごく……嬉しい……お母さんもおばあちゃんも、喜んで……あと、お父さんが怒って……』
京太郎「!?」
灼『あ、それはいいんだけど――』
京太郎(よくなくないですか!?)
灼『なんか、こうして見ると……京太郎にあげた、マイボールとシューズとグローブと、鷺森ボウルの無料券じゃ、釣り合わないなっておも……』
京太郎「それは違うよ!」
灼『ダンガンロンパ?』
京太郎「いえ、そうじゃなくて……釣り合わない、とかじゃないです」
京太郎「ボウリング関連のものは、灼先輩が俺に、心をこめて用意してくださったものですし――」
灼『そ、そこまでじゃな……』
京太郎「クリスマスのも、今回のも、俺が灼先輩のために用意したものです……もちろん、心をこめて」
京太郎「ですから、そこに差はありません。十分釣り合ってますよ」
灼『ほ……ん、とに?』
京太郎「はい」
灼『でも……京太郎、まだ一回もボウリングしに来てないし……シューズもボールも磨いて、待ってるのに……』
京太郎「う……そ、そこは、その……機会が、なかなか難しいといいますか……」
灼『うん、わかってる……阿知賀に来るとなったら、うちにも遊びに来てくれるんだよね?』
京太郎「もちろんです……そのときに、ブローチとタイピン、どっちもまだ使っていてくださったら、とても嬉しいです」
灼『ん、わかった……使う……っていうか、使ってる……毎日、ブローチはカバンにつけてるし……』
灼『これも、毎日つけるね……大事にする』
京太郎「よかったです、喜んでいただけて」
灼『……ねぇ、京太郎』
京太郎「はい?」
灼『その、えっと――』
京太郎「――誕生日、おめでとうございます」
灼『っっ……ち、ちがっ……まだ、早いし……』
京太郎「時計見てくださいよ。日付、変わりました」
灼『あっ!?』
京太郎「おめでとうございます。また一つ、離されちゃいましたね」
灼『京太郎は、同級生とか年下のほうが好き……?』
京太郎「いえ、そういうのは……どっちかというと上ですかね」
灼『そか……なら、よかったかも』
京太郎「まぁ、年は追いつけませんけど……麻雀は、負けないように頑張ります」
灼『……ばか、もう追い抜かれてるよ』
京太郎「そんなこと――」
灼『だから……そっちは、私が追いつく。それまで、落ちたりしないでね……インハイチャンプ』
京太郎「……灼先輩が応援してくだされば、負けません」
灼『また、調子のいい……』
京太郎「だめですか?」
灼『――そんなわけな……応援する。ずっとしてるから……これからも、よろしくね』
京太郎「はい――それじゃ、おやすみなさい」
灼『うん。朝、寝坊しないようにね』
京太郎「ありがとうございます。では」
灼「はぁ……参った、京太郎でいっぱいになる……持ち物も、気持ちも……はぁ……」
~4月連休初日
京太郎「今日も朝から練習だ、気合入れて行こう!」
京太郎「ん、メール……?」
京太郎「あ、シロさんか……はい、もちろん覚えてますよ……っと」
京太郎「にしても、シロさんは練習とか……あと試合とか、大丈夫なのかな……」
京太郎「まぁいいか。とりあえず学校に行くとしよう」
~連休初日、学校
アレクサンドラ「――さて、それじゃ練習開始」
京太郎「あれ……一年の指導は?」
明華「なにを聞いてたんですか。あれは平日だけですよ」
ハオ「しっかりしてください、京太郎」
京太郎「……そうでしたっけ……」
ネリー「そうだよ、キョウタロー。こまかいことは気にしないほうがいいよ、ハゲって聞いたよ」
京太郎「また髪の話してる……」
一年ズ「先輩たち、すごい迫力で……」
一年ズ「あんな風に言われたら、どうしようも……」
一年ズ「平日見てもらえるだけで御の字だよ、諦めよう……」
京太郎「あの、一年がすごいこっち見てるんだけど……」
ハオ「それは、いまは気にしないでいいでしょう」
明華「私たちは、夏に向けて強くならないといけないんです。京太郎も、しっかり協力してくださいね」
京太郎「はい……」
ネリー「ガンバロー」
アレクサンドラ「必死ねぇ、あんたたち……ほんと、しっかり麻雀もしてよ」
京太郎「それじゃ、部活始めるか……俺の仕事は麻雀だけってわけじゃないけど、どうするかな」
京太郎「まぁ――いまはとにかく麻雀だな。夏の大会に向けて、練習するっていうなら、俺も一緒に強くなりたい」
ハオ「その意気です、京太郎」
明華「前は対局できませんでしたから、今日は私の番ですよね?」
京太郎「――ってことなんですけど」
アレクサンドラ「じゃあキョウタロウが決めていいわよ」
京太郎「え゙っ」
ネリー「選んでね、キョウタロー」
ハオ「はいはい、ちゃっかり卓につかない、ネリー」
明華「よろしくお願いします」
京太郎(困った……)
京太郎「……じゃ、まずは監督確定で――」
アレクサンドラ「あら」
明華「どうしてですか!」
京太郎「い、いえ、その……夏の大会に向けての練習、ですよね?」
ハオ「もちろんです」
京太郎「なら、監督に直接見てもらうのが一番じゃないですか」
ネリー「ネリーは京太郎と打ちたいの! 監督じゃないの!」
アレクサンドラ「泣くよ?」
京太郎「コホン――まぁそういうわけなんで、監督には入ってもらいまして、あとは……」
ネリー「…………」ジー
明華「…………」キラキラ
ハオ「…………」チラチラッ
京太郎「あー……それじゃ、前入れなかった明華先輩と、あとはネリーで」
明華「はいっ」パァッ
ネリー「やったー!」
ハオ「…………」ドヨーン
京太郎「ハ、ハオ、あんまり気にしないでくれると助かるんだけど……」
ハオ「京太郎は意地悪です……」
京太郎「うっ……」
ハオ「……でも、仕方ないですね……その代わり、後ろで見ていていいですか?」
京太郎「ああ、それくらいなら」
ハオ「では、失礼します」ピトッ
京太郎「ちょっ、近い!」
明華(……なるほど、今度からは外れたらそういうので……)
ネリー(むーっ……いいもん、勝ったらネリーもあれしよっ)
アレクサンドラ(……私は外れても、あれしなくていいわよね?)
京太郎「それじゃ、よろしくお願いします――」
京太郎「さて、前はなんとか勝てたけど……今回はどうなることか」
明華「お手柔らかに」フフッ
ネリー「明華はいいよね、単行本で色々明らかになったし」
アレクサンドラ「そういえば、キョウタロウは明華の歌を知ってるの?」
京太郎「試合は見てましたから」
明華「目の前で歌うのは、やっぱり恥ずかしいですね」
京太郎「欧州選手権以外は、あんまり歌えないみたいだし、歌わないで打つのも練習しないとですよね」
ネリー「そうかもねっ」
アレクサンドラ「まぁ、最後の大会だし、今回はめいっぱい歌えばいいわ」
明華「まぁ……元より、流れを寄せるものでもありますから。旗色が悪そうなら、遠慮なく歌わせていただきます」
明華(……とはいえ、京太郎の未知の能力を考えますと……歌わないほうがいいかもしれませんね)
監督25000→
明華25000→
ネリー25000→23700
京太郎25000→26300
京太郎「ロン――1300」
ネリー「むぐぅっ」
明華「あら残念……調子はよかったのですが」
監督「こっちは助かったわね」
ネリー「こ、これくらい、まだまだだよっ」
京太郎「うーん、打点が上がらない……」
監督「ここから段階的に上がるんじゃないの?」
京太郎「そんなどこかのインハイチャンプみたいなことはできません」
明華「京太郎、あなたもチャンプですよ」
京太郎「そうでした……」
監督25000→31400
明華25000→
ネリー25000→23700
京太郎25000→26300→19900
京太郎「…………あっ」
アレクサンドラ「お、気づいたのね……でも残念。ロンよ」
京太郎「えーっと……6400ですか」
アレクサンドラ「はい、よろしく」
明華「さすがに手強いですね。調子はいいのに、なかなか上がれません」
ネリー「お歌は?」
明華「いま歌うと、逆に流れが引きそうで……」
アレクサンドラ「うーん、一位になったらなにしてもらおうかしら」
京太郎「えっ、なんですかそれ」
アレクサンドラ「ほんの余興よ。気にしないで、続けましょう」
京太郎(聞いてないし……っていうか、これは負けられん!)
監督25000→31400→-600 ハコ
明華25000→
ネリー25000→23700→
京太郎25000→26300→19900→51900 トップ終了
アレクサンドラ(おー、調子いい……けど、なーんかあっちが……)チラッ
京太郎「………………」ゴッ
アレクサンドラ(なんだっけ、カウンターみたいなことしてくるのよね……上がりから遠のいて、様子見かな)
明華(あら、監督が……上がる気配がありましたが、上がれず……いえ、上がらず?)
ネリー(ふっふー、チャンスだよね。ここで上がって、キョウタローになに作ってもらおっかなー)
京太郎「――っ……」トンッ
アレクサンドラ(あら、違った……ま、いいわ。それなら私がこっちで……)トンッ
京太郎「ロン」
アレクサンドラ「――――shit」
京太郎「緑一色、32000です。ありがとうございました」
ネリー「また負けたぁーっ!」
アレクサンドラ「まいったわ……それじゃ検討。こっち捨ててたら、どうだった?」
京太郎「えーっと、ホンイツのみ、ですかね」
アレクサンドラ「深読みが裏目ったぁ……」
京太郎「さて――それじゃ、俺はなにしてもらいましょうか」
アレクサンドラ「えっ? あれ、冗談だけど?」
京太郎「いやいやいや、いまさら通りませんって!」
アレクサンドラ「――だって。どう思う?」
ネリー「キョウタロー……」ジトー
明華「まぁ、監督になにをしてもらうつもりなんです? 京太郎はおもち大好きと聞いてましたけれど」ニコニコ
ハオ「それ以上なにかするなら、このままあなたを羽交い絞めする必要がありそうです」ギュッ
京太郎(ふぉっ!? せ、背中に柔らかいのが……)ムニュゥッ
京太郎「…………ま、まぁ、冗談なら……は、ハオ、牌譜見せてもらっていいか?」
ハオ「それはよかった……どうぞ、ご覧になってください」スッ
明華「……ちなみに、監督はなにをさせようと?」ヒソッ
アレクサンドラ「特になくてね……そうね、お弁当とか作ってもらうのはどうかしら」
ネリー「私も!」
明華「それは勝者の特権ですよ、ネリー」
ネリー「キョウタローに勝つの、難しいね」
京太郎「――ここの監督の上がりのとき、後ろで見ててなにか変だったか?」
ハオ「いえ、特には。私は少しクセがありますから、違う形になったと思いますが、出来上がりの形として、京太郎の捨て方はよかったと思います」
京太郎「なら、監督がうまかったってことか……」
ハオ「でもそのあと、しっかり役満で返したじゃないですか。かっこよかったですよ、とても」
京太郎「お、そうか? いやー、照れるな」
ハオ「本当のことです。次は、私と打つときにも見せてくださいね」
京太郎「俺が上がるってことになるけど?」
ハオ「ええ……京太郎に上がられるなら、悪くないかな、と……」テレテレ
明華「ちょっと目を離した隙に、なんですか、あの蜂蜜空間は」
ネリー「楽しそうにしてるー」ブー
アレクサンドラ「対局できてなかったんだし、少しくらい許してあげたら?」
明華「前の私はこんなことしてませんっ」
アレクサンドラ(似たようなことはやってたような……)
ネリー(お腹空いた……)グー
京太郎「上がられる前に上がりきる、ってのは難しいかぁ、やっぱり……多少は運も絡むよなぁ」
ハオ「運を引き寄せるのは実力ですよ、京太郎。強靭な雀力が、牌を引き寄せるんです」
京太郎(雀力ってなんだろう……)
京太郎「ふぅーむ……よし、ちょっと聞いてくる」
ハオ「はい?」
京太郎「あ、すいません、監督! いま大丈夫ですかっ?」
アレクサンドラ「なに、役満ぶち当てた相手に追い打ち? 性格悪いわね」
京太郎「違います! さっきの、監督が俺から上がったとこで――」
アレクサンドラ「そんなとこより、その次の役満のほう検討しときなさいよ……」
京太郎「上がりよりも、防御のほうを磨きたいですし……」
京太郎「それと、よく考えたら監督にちゃんと見てもらったこと、ほとんどありませんから」
アレクサンドラ「まぁ……監督だし、一人だけずっとってわけにもねぇ」
京太郎「ということで、ぜひ。どうぞ、こちらお座りください」
アレクサンドラ「あ、こらっ、ちょっと……」ストンッ
京太郎「お茶はキーマンでよろしいですか?」
アレクサンドラ「まだやるとは言って――あ、いい香り」
京太郎「こちら、本日ご用意しました生チョコのプチトリュフです。フォークで召し上がれますので」
アレクサンドラ「――はいはい、わかったわよ。牌譜見せて」
京太郎「ありがとうございます」スッ
アレクサンドラ「どれ……あー、やっぱりか。いい? まず私の手牌がこう、河がこう、それでキョウタロウのが――」
京太郎「ふんふむ……」
明華「どうしてこうなった」
ネリー「胸もお尻もお肉ついてないのに……」
ハオ「ネリーがそれを言いますか」
アレクサンドラ「………………」イラッ
京太郎「監督?」
アレクサンドラ「……続けるわ。ちょっとそっち寄っていい?」
京太郎「あ、はい。どうぞ」
明華「きぃーっ!」
ハオ「本性を現しましたよ!」
ネリー「逃げて、キョウタロー!」
京太郎(なんか向こうが騒がしくて集中が乱れる……)
アレクサンドラ「――ちょっと、聞いてるの?」
京太郎「はい、聞いてます。この流れだと、ここが分水嶺でしたか」
アレクサンドラ「そうね……このときたぶん、私はこっちに牌を入れて、これをここに置いて、それからこうしてた」
アレクサンドラ「見逃してなければ、対応できたと思うけど……動きも小さくしてたし、わからなかったでしょうね」
アレクサンドラ「結果、キョウタロウはそこに気づかないで、私に振ってしまった……まぁ私も、そうなるようにある程度は仕込んでいたわけだけど」
京太郎「なるほど……くぁーっ、結局はミスってことですよね」
アレクサンドラ「ミスをするな、と言うのは簡単だけど、実際しないのは難しいわ。そこをあとからどうフォローするかが大事なんだけど」
アレクサンドラ「その点、キョウタロウは見事だった。まさか役満を直撃されるとは、考えもしなかったし」
京太郎「でも、逆だったらあそこで俺が飛んでましたからね……ありがとうございました。本番でそうなる前に、練習で見せてくださって」
アレクサンドラ「――本当なら、見せずに勝つつもりだった」
京太郎「はい?」
アレクサンドラ「だけど、見せなければ負けそうだったから、そうせざるを得なかった」
京太郎「…………はい」
アレクサンドラ「で、見せたのに結局負けた――どういうことか、わかる?」
京太郎「運が良かった?」
アレクサンドラ「おばかさん」
京太郎「なんて暴言!」
アレクサンドラ「……私の上を行ってたってことよ。やっぱり強いわね、インハイチャンプ」ポンッ
京太郎「いやー、まだまだです」
アレクサンドラ「さらに上を、か……いいわね、しっかりやりましょう」
京太郎「はい!」
アレクサンドラ「……結構、いい顔で笑うわね、キョウタロウ」
京太郎「えっ?」
アレクサンドラ「――なんてね。はい、練習戻りなさい。それと、トリュフはみんなにも配って」
京太郎「はい! ありがとうございました!」
アレクサンドラ「お茶もね」
京太郎「かしこまりました!」
アレクサンドラ「終わったら、私にはおかわり」
京太郎「お任せください!」
アレクサンドラ「いい子ね。はい、行動」
京太郎「了解しました!」
明華「あああ……京太郎が、悪女に躾けられていきます……」
ハオ「ドSと聞いていたのに、そういう扱いも好きなクチなのですか……」
ネリー「おいしそう……」
アレクサンドラ「誰が悪女か」
~練習終了後
京太郎「――では、お疲れさまでした!」
明華「お疲れさまでした、みなさん」
ハオ「一年は部室と備品の掃除を忘れないように」
ネリー「打ち足りない人はネリーが遊んであげる」
京太郎「よし、掃除担当は俺についてこい!」
アレクサンドラ「――キョウタロウは、今日は当番だったかしら?」
明華「いいえ。今日どころか、しばらくはシフトを離れるはずです」
京太郎「そ、そんなぁ……」
ハオ「仕方ないでしょう。掃除や片づけの手際も魅力ですが、いまの京太郎は指導に時間を割いてほしいのです」
ネリー「指導も掃除もはできない、わかった?」
京太郎「はい……」
アレクサンドラ「普通は掃除免除って、喜ぶとこなのよ……」
京太郎「そんな! あんなに楽しいのにっ……」
明華「日本人は綺麗好きなのですね」
ハオ「京太郎は、では?」
ネリー「京太郎だけ特別なんだよ」
京太郎「こうなったら、日本全国に掃除の楽しさを伝えるしか……」
アレクサンドラ「はいはい、壮大な野望はともかく。掃除の邪魔だから、部室から出なさいねー」
京太郎「アッハイ」
明華「では、また明日……それとも、午後からご一緒しますか?」
京太郎「んー、いえ。ちょっと用事がありますので、これで」
ハオ「残念です。では、また明日」
ネリー「おつかれー! チョコおいしかったよ、元気出た!」
京太郎「そりゃよかった。それじゃ、お先に」
京太郎「――ふむ、どうしようか……予定より時間ができたけど」
~某スーパー
京太郎「――うちでお昼食べたいなんて、さすがシロさんだな……」
京太郎「けど、シロさんのために料理するのも久しぶりだし、ちょっと張り切ってしまってる……」
京太郎「ふふ、せっかくだし料亭で磨いた焼きの腕を披露するとしようか」
京太郎「なら魚と――お、いい山菜がある。これを揚げ物にして、あとは汁物と……」
京太郎「あ、確認してないけど、和食でいいかな……シロさん、俺が作ったものは、だいたいおいしいって食べてたけど……」
京太郎「午前は練習って言ってたし、お腹空かせてるだろうな……よし、気合入れるか!」
京太郎「――うん、上出来」
京太郎「とはいえ、辻の板長のものには遠く及ばない……満足してもらえるか、心配だな」
シロ「なにが?」
京太郎「いえ、シロさんのお口に合うかどうか……プロになって、色々おいしいもの食べてそうですし」
シロ「まぁ多少は。だけど、京太郎の料理が一番だよ」
京太郎「ならいいんですけ――」
シロ「実際、おいしそうだよ」
京太郎「……シロさん?」
シロ「ん、おひさ」
京太郎「……いつから?」
シロ「ちょっと前に。鍵、開いてたから」
京太郎「ひ、ひと言くらい――」
シロ「お邪魔するねって言ったよ。でも夢中みたいだったし、かと言って外で待つのも暑いから、勝手に上がらせてもらった」
京太郎「ああ、今日はなんか、夏並みの気温らしいですよね」
シロ「そうみたい……白色着るんじゃなかった。汗で透けちゃう」スケー
京太郎「………………」ジー
シロ「……スケベ」
京太郎「はっっ……ゆ、誘導尋問だ!」
シロ「なにも誘導してないよ……」
京太郎「そ、それより、えっと……すいません、気づけなくて」
シロ「ううん。こっちも、声が小さかったかもだし……改めて、お邪魔します」
京太郎「どうぞ……あ、そっちのテーブルに運びますね。好きなクッションでも椅子でも、使ってください」
シロ「ん、ありがと」
シロ「………………」
シロ「……京太郎は、いつもどこで食べてる?」
京太郎「はい? そうですね……」
京太郎「いつもは適当なんで、シロさんの向かいにしますよ」
シロ「そう……まぁいいや。それじゃ、ここにする」
京太郎「はい。それじゃ並べますね……あ、いまさらですけど、和食でよかったですか?」
シロ「うん……もし聞かれてたら、それ頼むつもりだったから、大丈夫」
シロ「辻で働いてるって聞いて、驚いたけど……それなら京太郎のが食べたいって、思ってたから」
京太郎「シロさん……ありがとうございます」
京太郎「普段の修行の成果です。焼き物と揚げ物は、お客様にも喜んでいただいてますから……それなりの自信を持って、提供させてもらいますよ」
シロ「それは期待……では」パチン
京太郎「はい……いただきます」パチン
シロ「いただきます……んっっ!」
京太郎「えっ、ど、どうしましたっ」
シロ「……おいしい。前よりも、なんていうか……味が、濃い……濃厚?」
京太郎「味付け、ということじゃないですよね?」
シロ「うん、たぶん焼き方の問題だと思う……比べ物にならないくらい、おいしくなってる」
シロ「京太郎……こっち」クイクイ
京太郎「はい?」
シロ「頑張ってるね……偉いえらい」ナデナデ
京太郎「……ありがとうございます」ニヘッ
シロ(かわいい)
シロ「うん……やっぱりおいしい。これが辻の味?」
京太郎「うーん、どうなんでしょう……シロさんはどう思います?」
シロ「前に、二人で行ったときのとは、また違うよね」
京太郎「前の脇板さんの、ですね。俺も覚えてます。板長のまでは無理でも、そこまでは近づけないとと思ってるんですけど……」
シロ「板長さんは、これでいいって、だしてるんでしょ? 実際、お客さんも満足してるんだろうし」
京太郎「それにしても、少し違うんだろうな、とは……もう少し修行がいるみたいですね」
シロ「大丈夫……私は、この味好きだよ」
京太郎「そうですか?」
シロ「うん……私の好みをわかって、私がおいしく食べられるように、してくれてるんだと思うから……だからおいしい。下手したら、店長さんのよりおいしいよ」
京太郎「そ、それは言い過ぎですって……」
シロ「……なら、はい」
京太郎「えっ」
シロ「あーんして」
京太郎「ちょ、えっ……だ、誰かに――」
シロ「誰も見てるわけないでしょ……いいからはい、あーん」
京太郎「……んぁー」
シロ「ほい」
京太郎「んむ……もぐ……」
シロ「どう?」
京太郎「うまいです……」
シロ「師匠さんの料理より?」
京太郎「それはないです」
シロ「私が食べさせてあげたのに……」
京太郎「そ、それとこれとは別ですっ……」
シロ「でも、いつもよりはおいしいでしょ?」
京太郎「……まぁ、それはもちろん」
シロ「同じように感じて、私は店長さんのよりおいしいって思ったよ……だから大丈夫」
シロ「京太郎がお客さんのために料理すれば、もっとおいしく作れるようになる……」
京太郎「……はい」
シロ「ん。冷める前に食べよう」
京太郎「……シロさん」
シロ「なに?」
京太郎「ありがとうございます……シロさんに食べてもらえて、よかったです」
シロ「……こっちこそ、ありがとう。私のために、作ってくれて」
京太郎「いつものことですよ」
シロ「そうだった……」
シロ「――ごちそうさま」
京太郎「お粗末さまでした」
シロ「はぁ……やっぱり京太郎と食べるとおいしいよ」
京太郎「俺も、シロさんと食べるとおいしいです……」
京太郎「考えたら、誰かと食事するのって、一人暮らしだとあまりないですから……」
京太郎「宮守で、先輩と一緒に食事できてたときは、すごく救われてたんだって思います」
シロ「……そ、そう?」カァッ
京太郎「今日も、そのときの感じが思いだされて……嬉しかったです」
シロ「なら――また一緒に住む?」
京太郎「女子寮は男子禁制でしょう?」
シロ「……京太郎が来てくれる感じだったんだ」
京太郎「まぁ、そうなりますよね……俺は一ヶ月で移動ですから、そのときにシロさん一人残したら、大変そうですし」
シロ「ああ、そういう……その場合は、こっちから各地に通えばいいと思う」
京太郎「いや、さすがに無理ですって……まだ」
シロ「まだ?」
京太郎「いえ、こちらの話で……」
シロ「そう……でも、そうか……男子禁制……」
シロ「…………あ、女装……」ボソッ
京太郎「しませんから! っていうか、こんな身長で女装は――」
シロ「それ豊音の前でも同じこと言える?」
京太郎「――まぁ、背の高い女性もいいですよね」
シロ「ならやっぱり女装……」
京太郎「しません! 勘弁してくださいっ……」
シロ「残念……なら、私が寮を出ないとだめかぁ」
シロ「ここの家賃、いくら? 隣空いてる?」
京太郎「隣は空いてますけど、家賃は知りません。連盟負担なんで」
シロ「そうだったね……でも、久しぶりに一緒に住みたいなぁ、切実に……」
京太郎「あの……ちゃんと生活できてますか?」
シロ「…………できてるよ」
京太郎「目、逸らしましたよね?」
シロ「してないよ?」
京太郎「してますって!」
京太郎(……これは、行くしかない……)
シロ「どうしたの?」
京太郎「シロさん……あの――」
――いまから、シロさんの部屋に行ってもいいですか?
最終更新:2026年01月17日 23:44