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~木曜、放課後

京太郎「――という電話がありまして」

アレクサンドラ「あっそ」

京太郎「冷たい!」

明華「本当ですよ、監督」ナデナデ

ハオ「京太郎が報告してくれているというのに」ナデナデ

京太郎「二人とも……」ジーン

アレクサンドラ(ダメ弟を甘やかす姉に見える……)

アレクサンドラ「卒業してプロになった子の行動なんて、こっちはわかんないの。また連絡するって言ってるんだし、それから判断しなさい」

京太郎「はい……」

ネリー「それより練習しよ!」

明華「あら、やる気ですね」

ネリー「ネリーはいつもやる気だよ!」

ハオ「まぁ、前半は京太郎がいないんですけどね……」

アレクサンドラ「一緒に移動できるかもしれないでしょ。あ、二人はまだなんだっけ」

明華「いまの言葉――」ゴッ

ハオ「我々への挑戦ですね」ゴッ

アレクサンドラ「日頃から私には挑戦的なこと言いまくってるのにねー」

ネリー「キョウタロー、早く練習!」

京太郎「あ、ああ、そうだな――」

京太郎「それじゃ、一年の指導に行ってきます」

明華「…………」ワクワク

ハオ「…………」キラキラ

ネリー「ネリーかな?」ジー

アレクサンドラ「……私も忙しいから、その……ちょっとだけよ?」

京太郎(選びづらい……)

京太郎「んー、そうだな……あ、そうだ」

京太郎「あの、監督。ちょっと考えてることがあるので、一緒に来ていただけますか?」

アレクサンドラ「……ん、仕方ないわね」

明華「もうなにも信じられない」

ハオ「夢も希望もありません」

ネリー「こんなの絶対おかしいよ……」

アレクサンドラ(……ま、あとでキョウタロウがなんとかするでしょ)

京太郎「監督?」

アレクサンドラ「はいはい、それじゃ行きましょ」


アレクサンドラ「しかし……君も物好きね。素直に明華かハオ選べばいいのに」

京太郎「へ?」

アレクサンドラ「いや、だって……もち、が……」

京太郎「?」

アレクサンドラ「あー、なんでもない!」

京太郎「はい!」ビクッ

アレクサンドラ「ごめん、大きな声……それで、考えてることって?」

京太郎「あ、前にネリーと一緒に行ったとき、それぞれの育成というか、勝手にランキングしちゃったので、その確認をお願いできたらなと」

アレクサンドラ「ああ……なんだ、それで私だったのね」

京太郎「え、それだけじゃないですけど」

アレクサンドラ「」

京太郎「監督の指導を近くで見られる機会って、あんまりないですから。できる限り、ご一緒したいと思ってるんです」

アレクサンドラ「」

アレクサンドラ「あ――そ、そう、なんだ……」

京太郎「はい」

アレクサンドラ「――まぁ、アレよね。君はよく、大学行ったり買い物行ったり、忙しくしてるから」

京太郎「あー、そうかもしれません……なんかすみません、真面目にしてなくて」

アレクサンドラ「……褒めてるのよ、おバカさん」

京太郎「へ?」

アレクサンドラ「ううん、なんでもない。さて――なら、前のを参考に、ちょっと指導していきましょうか」

京太郎「よろしくお願いします!」

アレクサンドラ「君も指導側よ、忘れないで」

京太郎「はい!」

京太郎「すげぇ……やっぱり監督の指導は、的確ですね」

アレクサンドラ「そんなことないわ。君とネリーが作ってくれた寸評のおかげ。よくできてた」ナデナデ

京太郎「おう……あ、ありがとうございます」

アレクサンドラ「……あっ、ごめん」パッ

京太郎「いえ、その……嬉しいっす」

アレクサンドラ「そ、そう? ならいいけど……」ナデナデ

明華「――いつまでやってるんです?」ジー

ハオ「とっくに練習時間です。集中を」ゴッ

ネリー「監督、キョウタローに甘い!」

アレクサンドラ「あんたらがてきびしーのよ」

京太郎「まぁ、でも練習は練習ですよね。真面目にやりますか」

アレクサンドラ「よしよし、偉いわね」ナデナデ

明華「」

ハオ「は、離れてください! 京太郎、監督は危険です!」

京太郎「なんでだよ……」

ネリー「ネリーも! ネリーも撫でる!」ピョンピョン

京太郎「ネリーはまだ届かないか……」

アレクサンドラ(あー、やっばい……あの子撫でたがる子の気持ち、わかってきたなぁ……撫で心地いいもの)


京太郎「さて、今日の予定は――と」

京太郎「じゃ、打つか」キリッ

明華「その意気です!」

ハオ「では私が」

ネリー「ネリーが!」

アレクサンドラ「はいはい。それじゃいつものね」

京太郎「……はい」 (そっと牌譜を手にする)

監督「はいトップ」

ハオ「今日は調子がよさそうです」

明華「危なかったですね……でも、やりましたっ」ニコッ

ネリー「なんで!」

京太郎「まぁまぁ、運が悪かったな。こういうこともあるさ」ポンッ

ネリー「でもー……」

京太郎「ま、今日はここで見てろ。俺がかたき討ちしてやるさ」キリッ

ネリー「キョウタロー……うん! 見てるねっ」ストンッ キュッ

京太郎「……くっつきすぎじゃね?」

ネリー「明華もこのくらいだったよ?」


明華「私、あんなでしたか?」

ハオ「ええ」

明華「そうですか……もう少しくっついたほうがよさそうですね」

アレクサンドラ「あ、そっちなんだ」

京太郎「では――よろしくお願いします」

ネリー「がんばって、キョウタロー!」

京太郎「おう、任せろ」

ハオ「……あれ?」

明華「もしかして、私たち……」

アレクサンドラ「敵役みたいねぇ……」

明華「……私も次から、あれで行きます」

監督25000→
ハオ25000→23400
明華25000→
京太郎25000→→26600


京太郎「ロン、1600点」

ハオ「――久々ですね、その独特のリズム」

アレクサンドラ「私か明華だと思ったけど」

明華「ええ。もう張ってましたし、私もそのつもりで」

京太郎「なら、うまく横取りできたな」

明華「むー、なんだか損しました」

京太郎「いや、そういうゲームですから、麻雀……」

アレクサンドラ「はいはい、切り替えて。けど、それもそれで厄介なのよね……どうやって止めようかしら」

ネリー「監督もお掃除してもらいたいの?」

アレクサンドラ「え――いや、ち、ちがっ……そういうことじゃなく――」

京太郎「あ、俺はいいですよ。負けたらお掃除に伺いますから」

ハオ「ほう……」

明華「まず監督には負けられませんね……」

アレクサンドラ(あー、なんか変なことに……けど、勝っちゃったら、その……不可抗力よね?)

監督25000→23500
ハオ25000→23400→24900
明華25000→23500
京太郎25000→→26600→28100


京太郎「よし、もらった!」

ハオ「……あーあ」

明華「それはフラグです、京太郎にとっては」

京太郎「いやいや、今回はガチで――」


京太郎「……テ、テンパイで……」ブルブル

アレクサンドラ「ふぅ……ノーテンよ」

ハオ「テンパイ」

明華「ノーテンです。残念でしたね、京太郎?」

京太郎「こ、これは……これはな、ちゃうねん」

ネリー「わっ、変な話し方になった」

ハオ「ですからフラグはよくないと」

アレクサンドラ「まぁ次はしっかりやりなさいね」

京太郎「はい……くっ!」

監督25000→23500→22500
ハオ25000→23400→24900
明華25000→23500
京太郎25000→→26600→28100→29100


京太郎「っしゃあ! ロン、1000点です!」

アレクサンドラ「っ……ほんと、油断できないわ……」

ネリー「でもそれじゃ飛ばないよ……」

京太郎「ま、まだラストがあるから……」

明華「それにいまのは、放っておくと監督が大きいのでしたね」

ハオ「満貫くらいでしょうか」

アレクサンドラ「ご想像にお任せ……いまのはバレないと思ったんだけどなぁ」

京太郎「ふふ、俺の嗅覚を侮らないでください」

明華「…………」スンスン

ハオ(大丈夫でしょうか……)スンスン

アレクサンドラ(…………うん、大丈夫ね)スンスン

京太郎「いえ、その……上がりへの、というか……本気に取らないでください。みなさん、いい香りですし」

アレクサンドラ「なっ、バッ……せ、セクハラよ!」

明華「今度、シャンプー変えてみます。気づいてくださいね?」

ハオ「私はソープを変えてみましょうか……」

ネリー「ネリーは?」

京太郎「……牛乳っぽい、いい匂いだな」

アレクサンドラ「やっぱりそういう匂いなの!?」

京太郎「聞かれたから答えただけですよ!」


京太郎「あー、なんか変な汗かいたっての……」

監督25000→23500→22500
ハオ25000→23400→24900
明華25000→23500→22500
京太郎25000→→26600→28100→29100→30100 トップ


京太郎「ロン――お疲れさまでした」

アレクサンドラ「……お疲れさま。今日はちょっと、打ち方変えた? 守備的っていうか」

京太郎「そんな余裕は……けど、明華先輩と監督の調子がよさそうなので、しっかり見ていたとは思います」

明華「全員から少しずつ摘んで上がりましたね」

ハオ「摘むだけで、食べたりはしないんですね……」

ネリー「味見するだけ?」

京太郎「人聞きが悪いよぉ!」

明華「なんの話でしょうか」クスクス

ハオ「料理の話なのですが……京太郎はなにを?」

京太郎「ぐっ……うぅ、ひどい辱めを……」

ネリー「そんなことより! 誰も飛んでないよ!」

京太郎「すまん、今日はちょっと厳しかった」

アレクサンドラ「そう簡単に飛ばないってば……」

京太郎「俺、今月中に誰かの部屋掃除、できるのかな……」

明華「監督が余計な提案をしていなければ……」

ハオ「今頃、私たちのお部屋で……」

ネリー「もったいない……」

アレクサンドラ「はぁ……はいはい、私が悪かったわー」

アレクサンドラ(こっちも後悔してるわよ、もう……)




~木曜、夕方

京太郎「あ――そろそろ下校時刻、ですね」

アレクサンドラ「そうね」

京太郎「……これって、俺以外守ってる人いるんですか?」

明華「寮生以外は、それなりに」

京太郎「それでもそれなりなんですか……」

ハオ「名残惜しい……そうだ、今日は私の部屋に泊まりませんか?」

京太郎「ほかの女子が困るだろうし、やめとくよ」

ネリー「大丈夫、みんな喜ぶよ」

京太郎「どっちにしろ、夜は仕事だしな……それじゃ、お先に」

明華「はい、お疲れさま……ああ、行ってしまいました」

アレクサンドラ「いいから集中しなさい」

ハオ「恋する乙女は傷つきやすいんですよ、監督」

アレクサンドラ「麻雀と恋は両立しないもんなの。そうでなきゃ、トッププロが売れ残ってるわけないでしょ」

ハオ「なんてことでしょう……」

明華「両立する前例になればいいだけです」

ネリー「売れ残りはいやだよね!」


京太郎「……なにか不穏な会話をしてるような気がするなぁ」

京太郎「……で、どうした?」

ネリー「途中までお見送りっ」

京太郎「ちゃんと言ってきたか?」

ネリー「うん!」

京太郎「ならいいけど。でも、大丈夫だぞ?」

ネリー「ネリーは邪魔になる?」

京太郎「ならねーってば」

ネリー「じゃあ一緒に!」ギュッ

京太郎「それ、疲れないか? 手、ずっと上げっぱなしになるだろうし」

ネリー「いまはね」

京太郎「いまは?」

ネリー「すぐおっきくなって、そうしたら手を上げなくても、普通につなげるから」

京太郎「気が長い話だなぁ」

ネリー「すぐだよ! だから待ってて!」

京太郎「はいはい、そうするよ……ならいまは、よっと」

ネリー「ひゃっ! きょ、キョウタロー!?」

京太郎「こういうの、お姫様抱っこっていうらしいぞ。ネリーは軽いから、こうすると抱きやすいな」

ネリー「」

ネリー「あ、う……あ、やっぱり……すぐには、おっきく……ならなくて、いいかな……」

京太郎「そうか? ならもうしばらくは、こうやって帰るか」

ネリー「う、うん……」

京太郎「――って、ダメじゃん! ネリー、もうそろそろ門だから。ここまでな。ちゃんと部室帰れよ!」

ネリー「うー……はーい」

京太郎「また明日な」

ネリー「ん、またね、キョウタロー!」



~木曜、夜

京太郎「あー、疲れた……今日はハードだったな、なんとなく」

京太郎「と、倒れてるわけにもいかないな。明日の準備して、それから――」

京太郎「……顔、だし辛いんだよなぁ」

京太郎「お、おはようございまーす」オソルオソル

京太郎「……智葉さんは、まだか」

追い回し「あ、京太郎さん! おはようございます!」

京太郎「うぁい! バカッ、声でけーよ! 静かに!」

追い回し「なんでっすか? いつも言ってるじゃないっすか、返事は元気にって!」

京太郎「だぁ! 気づかれんだろ!」

智葉「――誰にだ?」

京太郎「ひゅいっ!」

追い回し「お嬢さん! お疲れさまです! 今日もお綺麗で!」

京太郎「やめろバカァ!」

智葉「……はぁ」

智葉「おい京太郎」

京太郎「う、うぃっす」

智葉「……その、だな……なんというか――」

京太郎「…………」

智葉「……昨日は、悪かった……」

京太郎「……えっ」

智葉「いや……私も、大人げなかったと……」

京太郎「さ――智葉先輩は悪くありません!」

京太郎「俺のデリカシーが足りなくて……そのせいですから」

智葉「……とはいうが、な……私やシロの発言は理不尽だった。彼女や配偶者ならともかく、一先輩としての態度ではない」

智葉「その点については、詫びておく……だが、言ったことも事実だ。そのことだけわかってくれれば、私はもう、怒ることなんてないからな」

京太郎「……はい」

京太郎「俺こそ、すみませんでした……」

智葉「よし――なら、話はここまでだ。仕込みの続きに入ってくれ。時間がないだろう」

京太郎「……はい!」

智葉「うん。では、今日もよろしくな」ポン


京太郎「よし、やるぞ! 今日はやる気が十分だ!」

辻垣内父「ほう。普段はやる気が足りないか」

京太郎「」

京太郎「そ……そんなことは、けして……」

辻垣内父「冗談だ。まぁ……あれはなかなか、面倒なところがある。母親に似たらしくてな」

京太郎「はぁ……?」

京太郎(むしろ板長のほうでは……とは言えない)

辻垣内父「……お前さえよければ、よくしてやってくれ」

京太郎「あ、はい、それはもう……」

智葉「お、おお、お父さん! なんの話を――むぐっ!」

辻垣内母「まぁまぁ智葉さん。いいところですから、そっとしておいて……」

智葉「な、なにがいいところで……こら、京太郎! 話を――」

京太郎「……仕事、しますね」

辻垣内父「ああ、しっかり頼むぞ」

京太郎「そう、なにも特別なことはしない……いつも通り、丁寧に――だ」

辻垣内母「そろそろ開店ね。では――本日もよろしくお願いします」

全員『お願いします!』

京太郎「――いらっしゃいませ!」

照「京ちゃん、来たよ!」

京太郎「」

シロ「…………」

京太郎「シロさん……えっと、お疲れさまです!」

シロ「……ん、お疲れ、京太郎」ニコッ

智葉(さっきのメール、感謝しておけよ)

シロ(はいはい)

メグ「サ~ト~ハ~? シロとコソコソ、なにを話してるんデス?」

智葉「別に。それより久しぶりだ、メグ。少し痩せたか?」

メグ「ハハハ! プロは厳しいですかラネ、消耗もしマス」

照「京ちゃん! ケーキ焼いて、ケーキ!」

シロ「照、落ち着いて……」

京太郎「……皆さん、お揃いですね。今日はお休みですか?」

シロ「日程、見てないの?」

京太郎「えーっと……」

辻垣内母「今日は移動日で、オフなのよね」

メグ「その通りデス。ということで、新人だけで夕食をと、ここを予約しまシタ」

照「私のリクエスト」

京太郎「あ、ありがとうございます……」

照「嬉しい?」

京太郎「はい、もちろん」

照「ふふっ」ムフー

智葉「まぁこちらへ……そういえば、予約人数にはあと3人足りないな」

シロ「一人がなんか電話してたから、道知ってる人と、そのチームメイトは置いてきた。もう追いついてくる」


カラカラカラ
晴絵「ちょっと、本当に置いていくか! 普通!」

京太郎「ファッ!?」

シロ「あ、赤土先生、お疲れさま」

晴絵「先生はやめてって……あ、二人も入ってー」

爽「うは、高そうな店ー。あ、辻垣内がいる!」

智葉「ご挨拶だな……というか、我が家は皆、辻垣内だ」

辻垣内父「いらっしゃいませ」

辻垣内母「どうぞごゆっくり」

爽「あ、はい、すいません……」

晴絵「相変わらず人見知りねー……ほら、絃ちゃんも入りな」

絃「はい、失礼します」

京太郎「……晴絵先生、なにやってんですか!」

晴絵「おー、いい反応。いや、今日からってか明日から? 地獄のロードでねー。東京入りしたのよ」

絃「……あっ、すごい」

京太郎「え?」

絃「本物の派遣執事……初めて見た」

京太郎「あ、ど、どうも……えと……?」

智葉「千葉の霜崎絃だ」

京太郎「ああ! 憩さん、利仙さんのご友人の……それに阿知賀のメンバーともお知り合いだとか」

絃「私のこと、知ってるの?」

京太郎「お名前だけですが。お会いできて嬉しいです。どうぞ、ゆっくしていってください」ニコッ

絃「…………」

晴絵「うわ、出たよ」

爽「いやいやいや、私の紹介してって、ハルちゃん!」

晴絵「誰がハルちゃんか」

京太郎「そちらの方は――って、有珠山高校の、獅子原爽さん!?」

爽「おぉっ! やった、私有名人!」

照「そうじゃなくて、清澄と当たって、咲とも試合してたから知ってるだけ」

爽「照やん、それひどくね?」

シロ「どうして逆ブロックの照が把握してるのさ」

照「…………たまたま」

京太郎「照さん、咲大好きですからね……初めまして、獅子原さん。清澄の――あ、いまは臨海ですけど」

晴絵「そして前は阿知賀」

照「白糸台です」

シロ「宮守ね」

京太郎「……清澄の、須賀京太郎です。どうぞよろしく、お願いします」ペッコリン


絃「本当に、かっこいい……」

爽「イケメンオーラすげー」

京太郎「あははは……恐縮です」

照「デレデレしない」

京太郎「してないっす!」

照「してるよね?」

シロ「……ん、まぁ……」

照「どうしたの、普段ならもっと怒ってる」

シロ「え、別に……」

京太郎「……昨日はすいませんでした、シロさん」

シロ「……うん、私もごめん。ちょっと失敗したね」

京太郎「それじゃ、これで……仲直り、でいいですか?」

シロ「うん」

京太郎「よかったです」ホッ

シロ(愛い奴)

メグ「シロとケンカしてたのでスカ? もしかして、サトハの話と、なにか関係が――」

智葉「……どういうことだ?」

京太郎「え、それは……」

メグ「お昼に電話して、口ぶりから心配事を聞きだしまシタ」

智葉「お前というやつは……まぁいい。私のせいだからな」

京太郎「すいません……」

晴絵「全然話が見えてこない……けど、私が元担任として信頼されてないのはわかった」

京太郎「先生、俺の担任じゃなかったですけど」

晴絵「あれ、そうだっけ?」

爽「いい加減っすねー」

絃「爽が言う?」

京太郎(……絃さん、スレンダーに見えてなかなかの……爽さんは、あれだな……まぁ、うん)

爽「……不愉快な波長を察知」

照「奇遇だね、私も」

晴絵「……まーた病気か」

智葉「謝っておけ、京太郎」

京太郎「理不尽!?」

辻垣内母「賑やかねぇ……お座敷のほうがよかったんじゃないかしら」

智葉「私もそう思います。いいから突っ込んでおきましょう」

照「断固拒否」

シロ「京太郎と話せないじゃない」

京太郎「……板長、どうしましょう」

辻垣内父「俺に振るな……まぁ、カウンター7名様で回せないこともないだろう。これで回せないなら、元からやってられん」

京太郎「了解です」

照「京ちゃん、板前さんみたい……かっこいい」

京太郎「ありがとうございます」

絃「写真撮っていい?」

京太郎「えっ」

辻垣内母「構いませんよ。ほかのお客様の邪魔にならないようにだけ、お願いしますね」

京太郎「えっ」

絃「ありがとうございます」パシャパシャ

晴絵「じゃあ私も」

京太郎「大人として弁えろアラサー」

晴絵「あぁ?」

京太郎「」スイマエンデシタ

爽「っつーかさー、なんで有珠山来てくんなかったのー? 私の在校中にさー」

シロ「あれ、京太郎が選んでるんじゃないよ」

爽「えっ、マジで?」

メグ「そう書きこまれてましたし、申し込みにも書かれてましタガ」

照「京ちゃん、これ美味しいね」

京太郎「ぶれませんね、照さん。こっちもおすすめですよ」

照「じゃあそれも」

智葉「おい照、値段は把握してるんだろうな」

シロ「照は小金持ちだから大丈夫だよ。本と京太郎とお菓子以外、お金使わないから」

照「大事なのはその三つだけ」キリッ

京太郎「普段の食事にも、気を遣ってくださいね」

照「じゃあ京ちゃんが作って」

シロ「……前の試合の後、京太郎、うちの寮でご飯作ってくれたよね。ありがとう」

照「!?」

メグ「ほう……」

智葉「燃料が……」

爽「すげー、そんなこともしてくれんのっ? じゃあ北海道でもしてよ!」

絃「そっちは遠いし……千葉なら近いよね」

晴絵「若い子はすごいねー、グイグイ行っちゃって」

辻垣内母「晴絵ちゃんも、まだまだお若いじゃないですか」

晴絵「ははは……さすがに一回り近く差があると、どうも……」

シロ「まぁ詳しくは話さないけど、試合に呼んで、そのお礼にって反省会のご飯を」

京太郎「……そんなとこです」

照「じゃあ、次の試合で……」

京太郎「じ、時間がありましたら……」

晴絵「次って横浜、三尋木プロとでしょ? 余裕あるの?」

照「ありません。だから京ちゃんに来てほしい……来てくれたら、三尋木プロにも稼ぎ勝ちます」

絃「……すごい自信」

爽「ちょっと鳥肌きた」

メグ「やりそう――と思うあたり、さすがミヤナガテル」

智葉「……勝負には期待している。私たちの世代のトップとして、トッププロ、日本代表の鼻を明かしてみせてくれ」

照「京ちゃんが来てくれたらね」

京太郎「――金、土、日の三日ですよね?」

照「えっ」

京太郎「行けるかはわかりません。ただ、日曜はお店も休みですから、一応の確認です」

照「そ、そうだよ。週末三連戦」

京太郎「――応援してます、照さん」

照「……ん、頑張る」

晴絵「困ったって顔してるわね」

絃「大口叩いたから……」

爽「へいへいチャンプビビってるー!」

照「ビビってない……大丈夫、勝つからね」

メグ「ちなみにあと2チームは、この中ではありませんかラネ」

智葉「シロ辺りも絡めば、面白かったかもな」

シロ「……次鋒に回してもらおっかな」ダル

晴絵「全力三尋木プロとなんて、なかなかできないからやっといたほうがいいよー」

メグ「学校に来られるときは、さすがにないのでしょウカ」

晴絵「高校生相手に無双するプロとか、恥ずかしいでしょ」

絃「プロと打って気を失った学生がいたような……」

京太郎「あ、あれは俺がお願いしたので」

爽「へー、よく見てんね、絃」

絃「ファン、だから」ポッ

京太郎「へ――」

絃「あ、忘れてた……握手、して」

京太郎「えと……生物扱ってて、汚れてますし――」

絃「そう、残念……」

京太郎(静かだけど、グイグイ来る人だな……でもファンって、結構嬉しいかも)

晴絵「派遣執事、新人プロからファンと言われて、デレデレしてるなう……っと」

京太郎「そのへんにしておけよレジェンド」

爽「なんかさー、距離があるよね」

京太郎「はい?」

爽「学校で会ってる組、ファンとか言ってすげー情報量の人、知ってるけど距離感のある私」

京太郎「はぁ」

爽「なんちゅーか、私ももっと知り合いトークしたい」

京太郎(無茶振りするなぁ……)

照「あまり京ちゃんを困らせたらだめ」

シロ「照が言う?」

照「私は困らせたりしない……して、ないよね?」

京太郎「もちろん」

照「ふふんっ」ムフー

智葉「照にだけ甘すぎるぞ。菫に報告したら、呆れられるぞ」

照「あ、そういえば菫は元気にしてる?」

智葉「健康、健啖、ついでに説教までされた……良くも悪くも、弘世菫そのものだ」

爽「ねー、知り合いトーク!」

晴絵「そういうときはこれかな……ジャーン!」

メグ「なんです、それハ?」

晴絵「レジェンボックス!」

絃(どこに持ってたんだろ……)

晴絵「ここに、いくつかの話題を収納してますのでー……ほい、京太郎くん引いて?」

京太郎「いま手が離せないんで」スルー

晴絵「なんか私に冷たくない?」

京太郎「滅相もない。先生のことは尊敬してますし、いまでも感謝してます」ニコッ

晴絵「ならいいけどね」フフンッ

爽(ハルちゃんちょろ!)

シロ「じゃあ、私引くね」


シロ「――だって。なんですか、これ」

晴絵「えっ」

爽「ここからどうやって知り合いトークしろと!」

晴絵「あれー? 一枚忘れてたか……あ、これ実はね、合宿のときにでも、夜のレクリエーションでやるかなーっと思って作ったやつなのよ」

京太郎「また随分前のやつですね」

絃「合宿……11月、京太郎くんが阿知賀にいたとき、白糸台とした合宿ですね」

シロ「絃、詳しすぎ」

晴絵「そのとき聞こうと思って入れてたの、抜き忘れちゃったかー」

照「ほかにはどんなのがあったんですか」

晴絵「えーっとね……おもちは大きいのと小さいのと――」

京太郎「やめろおおおおおお!」

辻垣内父「営業中だぞ」

京太郎「」スマセン

晴絵「あとはねー、麻雀に関することとか、色々。でも今回はほら、これ引いちゃったわけだし」

京太郎「えっ」

爽「誰得すか」

晴絵「えー、私得かなーって」

京太郎「」イラッ

シロ「引き直す?」

メグ「ですね、ルールも決めていませんでシタ」

智葉「――いや、面白いかもしれないぞ」

京太郎「え?」

智葉「昨年のレギュラーが四人も残っている学校は少ない。そのうちの一つだ」

智葉「メンバーをどんな打ち手と見ているか、興味はある」

絃「なるほど……」

爽「えー、ちょっとつまんなくないか?」

シロ「ならあとで、女の子としての評価聞けばいいよ」

京太郎「ちょ!?」

晴絵「私的にはそっちメインかなー」

京太郎(地獄に堕ちろ!)

京太郎(――どんな打ち手、のほうならいいけど……問題は後半のほうだ)

京太郎(昨日のこともあるし、あまり深く掘り下げたくないな)

京太郎(それに営業中だし、あんまり騒ぐのも……ほかのお客様に、印象が悪――)

京太郎「……あれ?」

辻垣内父「どうした」

京太郎「いえ、ほかのお客様は……?」

辻垣内母「帰られた方もいらっしゃるけれど、何組かはお座敷よ」

京太郎「あ、ああ、なるほど……やっぱり騒がしいですもんね。なので、この話題はこの辺で――」

辻垣内母「じっくり見たいからって、あちらから見てらっしゃるわ。予約のお客様ももういらっしゃらないし、ゆっくり話すといいわよ」

京太郎「い、いやー、新規のお客様が、入りにくいかな、と……」

辻垣内父「……どのみち、お客様がよく食べてくださるおかげで、モノはだいたいはけてる」

照「おいひい」

京太郎「どんだけ食べてるんですか!」

照「?」

辻垣内父「おいしく召し上がっていただく、なにか問題があるか?」

京太郎「」ナイッス

絃「私は聞いてみたい。ほかの高校生の評価、派遣執事がしてるのを見たことない。強いとかそんなのばっかりで」

爽「おお、絃が饒舌に……じゃあ私も、せっかくだし聞いてみるか」

メグ「私と当たった、アラタのことを聞いてみたいでスネ」

智葉「ドラゴンロードのことが気になる」

照「私は憧。咲と同じ気配がしてた」

京太郎(似て非なるものだと思うけどなぁ……あ、妹だからか。でもそれなら、玄さんも……)

シロ「じゃあ宥のこと。誕生日でも、気になること言ってたし」

京太郎(マッサージのことはもう忘れてください!)

絃「……じゃあ、合宿中に三倍満当てられた、大将の話を」

京太郎「……よく覚えてますね」

絃「ファンだから……」

京太郎(照れる……)カァッ

晴絵「京太郎くんってあれよね、まっすぐ言われると弱いタイプでしょ」

シロ「なるほど」カリカリ

照「参考になる」カリカリ

京太郎「彼氏なしアラサーのセリフですよ」

晴絵「てめーは俺を怒らせた」

京太郎(こっちもあんたの箱のせいで怒ってんだよ!)

京太郎「……いま、なんか注文通ってましたよね?」

辻垣内母「焼いてくれてるの終わったら、もうないわよー」

京太郎(万事休すか……はぁ)

京太郎「はい、あがりました」

辻垣内母「ありがとう」

京太郎「……こんなの聞いて、面白いかわかりませんけど」

智葉「構わない。思えば対局以外で、麻雀のことを話した記憶が薄いからな」

照「まぁどうして阿知賀の子たちなの、っていうのはある」

シロ「そこは赤土先生が悪い」

メグ「印象が悪くなさそうなら、ほかも聞いてみまショウ」

絃「待って、レコーダーつけるから……」

爽「あ、これ引けてればなー。うちとの試合で、どの試合を一番注目してたか、だって」

晴絵「あ、こらー。勝手に引かないの」

京太郎(一人興味失ってるし……まぁそれなら、副将戦しかないよな)キリッ

絃「かっこいい顔してる……」ポッ

智葉「あれはロクでもないことを考えてる顔だ」

シロ「しかもエッチなことだよね」

照「じゃあ私のことだ////」

智葉「それはない」

京太郎「ゴホン! それじゃ、順番に……まず玄さんから」

メグ「ドラゴンロード、悪条件ながら頑張っていましタネ」

京太郎「まさにそれです。爆発力が合って、一番上がらせたくないですね。こっちの火力は削られますし」

京太郎「でもその分、一番隙があるんじゃないかって見てます……あのままなら」

シロ「というと?」

京太郎「先生が、なにか置き土産をしてます。それがうまく実を結べば、今年のトップ争いに食い込んできます」

爽「そうなの?」

晴絵「さぁ、どうだろねー」

京太郎「次鋒の――卒業しちゃいましたけど、宥さんは堅実です。でも、実際はかなり大胆で、攻めるのも上手い」

京太郎「次鋒という位置ではありましたけど、繋ぐとか守るとかではない、ポイントゲッターだったんじゃないでしょうか」

智葉「……たしかに、彼女はブロックですべてプラス収支だったな。菫もハオも、打ちにくそうだったように思う」

晴絵「一部以外も、よく見てたのねぇ」

京太郎「ひと言多いよ! まぁ、牌譜見て思ったことですよ。夏のときは、全然そんなの考える余裕ありませんでしたから」

晴絵「まぁハズレってほど遠くもないかな。オーダー組んだ私のお手柄だよね」ウンウン

京太郎「……そのせいで、和が憧でも穏乃でも玄さんでもない、初顔合わせの灼さんと当たりましたけどね」

晴絵「しょ、しょうがないのよ!」

シロ「話逸れてるよ」

京太郎「じゃあ、その憧ですけど。あいつこそ、実は次鋒とか副将向きなんじゃないかって感じの、守って繋ぐタイプですね」

照「守りよりは、繋ぐ意識が強いね。早上がりが上手いから、とにかく場を流せる。尭深相手だから、意識したのかもしれないけど」

京太郎「そこですよね。守れるけど、いざとなれば攻められる、攻撃にも防御にも、柔軟に打ち回せる機転。それがあいつの武器かと思います」

メグ「打点はどうでしょウカ」

京太郎「まぁそこは、セーラ先輩が言ってたように、低いですよね。俺は好きですけど」

晴絵「憧が?」

京太郎「――違います。小さい点でも、とにかく上がるっていうやり方。まぁ阿知賀では、ほとんどあいつから指導受けてたってのもありますけど」

爽「……顧問は?」

晴絵「(・ω<)」

智葉「……もう過ぎたことですが、なんのための派遣だったか、考えてみてください」

照「これはひどい」

シロ「糾弾するべきは阿知賀だったか……」

メグ「全力で拡散しまスカ?」

京太郎「やめてあげてください」

晴絵「きょ、京太郎くん……」ジーン

京太郎「阿知賀女子麻雀部の部員に、悪い子は一人もいませんから」

晴絵「」

シロ「自業自得です」

照「でも、それだと上がれなかったときのリカバリーが効かないね」

京太郎「俺もそれで困ってます。ラストまで気を抜かないか、途中で大量に取れれば――ってとこなんですけど」

京太郎「まぁ、憧のことはそんな感じで」

京太郎「次、灼さん」

晴絵「我が愛弟子!」

京太郎「よくわかりません」

晴絵「」

メグ「あまり露骨にやると、さすがに赤土プロがかわいそうデハ……」

京太郎「じゃなくて、灼さんの打ち方が、全然わからないんですよね……」

晴絵「――ん、まぁ灼の打ち方は、すごいわかりにくいからね。そしてそれが、武器でもある」

京太郎「千里山で、浩子先輩がなんか言ってましたが……そっちのルールに詳しくないと、かなり難しいでしょうね」

晴絵「へぇ……さすがだわ。白糸台じゃなくて千里山が決勝なら、もっと厳しかったかな?」

照「誠子のことを悪く言わないでください」

京太郎「言ってないですよ!?」

京太郎「ともかく――あるルールがあることはわかりますけど、気づかない、わかりにくい。副将じゃなく、大将で来られても、対しにくい相手ですよね」

京太郎「で、時々……なんか癪ですけど、晴絵先生らしい打ち方も見えます。その辺、やっぱり尊敬してるんだなと思いますよ」

晴絵「ふふんっ」

京太郎「本人より真面目でストイックですし、打ってるとこを見てても好感が持てますよね」

晴絵「そろそろ泣くわよぉ!?」

辻垣内母「晴絵ちゃん、はい、お酒」

晴絵「ありがとぉ、女将さぁん……」キューッ

智葉「深酒なさらないでくださいね。で、あとは……」

絃「高鴨穏乃……」

メグ「準決勝敗退とはいえ、その実力は現チャンピオンに並びマス……」

京太郎「あいつは結構気分屋だなーと。ムラがあるし、そう思えば三倍満当ててくるし……」

京太郎「その点だと、なんで大将なんだろうなって思いました。でも――」

京太郎「ある部員が、大将は穏乃しかないって言ってました。大舞台で燃える、お祭り女だからって」

晴絵「憧が言いそうなことねー」

京太郎「せっかく名前伏せたのに! だから――試合で見てると、すごく安心できるんじゃないかな、と。特に大将なら」

照「私が勝ったけどね」

智葉「おい」

シロ「照、空気読もうよ」

爽「……ん、あ、終わった?」

京太郎「寝てたんですか!? せっかくマジに語ったのに……」ガクッ

照「でも、実は真面目に部員のことも見てる、っていうのはわかった」

智葉「同じくだ。意外といえば、かなり意外だった」

京太郎「ひどい……」

シロ「京太郎、私は信じてたからね」

京太郎「ありがとうございます!」

絃「私も信じてました」

京太郎「ありがとうございます!」

メグ「もちろん私モ」

京太郎「恐縮です!」

晴絵「ま、私の教え子だしね」

京太郎「……オーダーのこと考えるに、晴絵先生の見る目は確かですよね。嬉しいっす」

晴絵「貴重なデレ!」

京太郎「そういうのが余計なんだよなぁ……」

爽「いよーし! それじゃ、真面目な話も終わったし、睡眠もタップリ!」

京太郎(やっぱ寝てたのかよ……)

爽「次は女子としてどうだったか、聞いていこうか!」

京太郎(来たか……さて――)

京太郎(……そうだな、昨日はあんな――女性を比較するようなことを言ってしまって、怒らせたんだ)

京太郎(そういうのは、軽はずみに口にしないよう、肝に銘じておかないとな)

晴絵「で、誰が好きだった? やっぱ宥? それとも憧? 玄?」

絃「……灼さんと、穏乃ちゃんは?」

シロ「基準があるんだよ」

照「なるほど、姉か妹がいないとだめなのか! やっぱり京ちゃんは(ry」

爽「どう考えても違わないか? そこにうちの由暉子乱入させれば、すぐわかるって~」

智葉「初対面にも悟られるとは、お前どれだけ……」

京太郎「まだなんにも言ってないでしょおおおおおおおおおお!?」

メグ「おや、素直に言う気になりましタカ?」ニヤニヤ

京太郎「素直に――というのであれば、誰がどう、ということは言いにくいですね」

智葉「ほう?」

京太郎「阿知賀のメンバーだけでなく、これまでお会いした方々は、みなさんそれぞれに魅力的でしたから」

シロ「……ふーん」ププッ

京太郎「……本当ですよ?」

シロ「はいはい」

智葉「せっかくだ、最後まで続けてみろ」ニヤニヤ

京太郎「くぅぅっっ……たとえば、シロさんはやる気なく見えても、チームや友人のことを常に思いやっていた、責任感のある人です」

シロ「!?」

京太郎「試合中に辛そうにしていたメンバーを励ましに、いち早く控室を出たりしたそうですから」

智葉「くくっ……なるほど」

シロ「ちょ、や、やめっ……あれは、おしょう――さ、塞っっ……」

京太郎「それで――智葉先輩は、家族思いでとても優しい方です」

智葉「は――なっ、なにを言ってっ……」

辻垣内母「あら、そうなんですか?」

辻垣内父「少し、興味があるな」

智葉「聞かなくていいですから!」

京太郎「お父さん――板長が無理をしないようにと、後輩の俺に、わざわざ頭まで下げてくださいました。自分が進学して負担をかけているから、なんとか店の力になりたいって」

智葉「そんっ、なっ……そんなこと言って――」

辻垣内母「智葉さん……」ポロポロ

辻垣内父「智葉……」ブワッ

智葉「あああああ……あああああああああああああああ!」

照「智葉が壊れてる」

メグ「どうしようもありませんね、そっとしておきまショウ」

京太郎「晴絵先生は、少しわかりにくいけど、信頼することと突き放すことを、しっかり見極めて、生徒に接していました」

晴絵「ふぇっ?」

京太郎「あのまま先生を続けていてくだされば、誰よりも生徒に好かれる先生になっていたと思います」

晴絵「な、そ……んな、こと……」

京太郎「メグ先輩は面倒見がいいです。顔を合わせたことなんて数えるほどしかないのに、何度も電話をくださって、心配してくださって」

照「へぇ……詳しく聞かせて。卓で」

メグ「いや、その、あれは……違うんデス、テル!」

京太郎「爽さんは今日会ったばかりですけど、俺と親しくしようとしてくれて、さっきみたいに話題を作ってくれました」

京太郎「絃さんは、突き詰めると細かな情報もしっかりと把握する、真面目さと繊細さが魅力です」

爽「……なんていうか、年下には……普通にいけるんだよなー」

絃「ファンだからね、当然」

照「…………」ワクワク

京太郎「照さんは……ひと言では語れません。これは、付き合いが長いからですけど」

照「…………」ウンウン

京太郎「こんな感じで、ここにいる人たちにだって、色んな魅力を感じていますから」

照「」アレー

京太郎「阿知賀だけでなく、全国の方々すべてが、人として大切なことを教えてくれてると思います」

京太郎「比べたり並べたりはできません。みなさん、大切な人ですから」

照「……思ってたのと違う」

シロ「いや、もう十分だから……」

智葉「最悪だ……」

メグ「ああああ、ハヤリにもバレてしまったらどうすれば……」

晴絵「……なんか、教師に未練感じちゃうじゃないのさー、どうすんの」

爽「ちょっと、差つけられてない?」

絃「まぁ、初対面だし……でもこれで、もこと藍子に自慢できそう」

京太郎(……っていうか、俺が一番恥ずかしい気がする……お座敷のお客様がなんか泣きながら見てるし……)

京太郎「――では、今日はありがとうございました」

智葉「最悪だ……明日から店に来るのが億劫だ……」

メグ「まだ立ち直ってないのでスカ?」

智葉「放っておいてくれ……」

照「私はもっと言って欲しかった」

シロ「照みたいなメンタルが欲しかった……」

晴絵「――って言うのよ、京太郎くんが。これどう思う、望~」

望『知らないっつーの』

爽「あ、そだ。派遣執事ー、これをやろう」

京太郎「へ、名刺、ですか?」

爽「そ、社会人の常識? みたいな。連絡先載ってるから、気楽に電話していいぞー」

京太郎「それでは、俺も……どうぞ」

爽「えっ」

京太郎「龍門渕で働いてたとき、師匠からいただいた名刺なんです……肩書は、執事見習いですけど」

爽「あ、うん……ありがと」

爽(……私よりも、社会人してる……高1から……うぅ……)

京太郎「絃さんも、よろしければどうぞ」

絃「ありがとう……大事にするね。額に入れて」

京太郎「えっ」

絃「はい、私のもどうぞ。その……口下手だから、メールのほうが嬉しいかな」

京太郎「頂戴します……なら、余計に電話のほうがいいですね」

絃「え――」

京太郎「話す練習になります。絃さん、素敵な方ですから、もっと色んな人と話して、魅力を知ってもらいたいです」

絃「京太郎、くん……」ポー

智葉「ナチュラルに口説くな、女たらし」ベシッ

京太郎「痛いっす!」



~木曜、終了


【4月第三週木曜】

 関東リーグの新人プロさんが、大勢いらっしゃいました。
 ほぼ顔見知りでしたが、知らない方もご紹介いただきました。
 はっきりとは口にされなかったけど、俺に会いに来てくださった方も、いたのではないでしょうか。
 そうだと嬉しいです。

 ……そうだといいなぁ。

…………

『……いまさら言わなくてもわかるでしょ?』
『そういう言い方はよくない。何度でも言ってあげる。京ちゃんに会いに行ったよ。毎日行きたいくらい』
『そこで、三尋木プロに稼ぎ勝つと公言した新人が一人』
『ほー? そいつぁ楽しみだねぃ、期待してんよ~』

 咏さんと照さんの本気、か……できれば、間近で応援してあげたいけど、どうなるかな。

『会えてよかったです。とても嬉しかった。大阪や奈良の知り合いが言っていた通り、本当にかっこいいです』
『私も会ったぞ! いやー、よかった。これで後輩たちに自慢できるしな!』
『……えっ』
『一人だけずるいよ……』
『新部長の引きが悪いせいでしょうか』
『というか、私って会える確率、絶望的じゃないですか?』

 北海道、有珠山高校……ぜひ行ってみたい。
 北の食材どうこうじゃなくて、有珠山高校に。
 そして――生で見たい(迫真)。

『へー、ようやっと会えたんやねーぇ、おめっとーぅ』
『どうして、愛知には来られないの……』
『会いたい会いたい会いたい! 一人だけずるい、プロだからって!』

『本格的に、関西からそちらに行く機会が必要ですね』
『ちょっと待って! そもそもなんで新人だけで行ってるの!』
『そういうときは諸先輩に声かけないと。高かったでしょ? 奢ってあげるよ?』
『そういうお店はお酒をだすし、大人も一緒のほうが、安心だぞ☆』
『大丈夫です。一人、新人の大人がいらっしゃったので』
『……誰?』
『北海道のアラサーでしょ』
『なんだその異名! 誰がつけた!』
『……まぁ、活躍してるようで、なにより……』
お姉ちゃんに変な電話しないでよ。さっきから、すっごいイヤな笑顔で見てくるんだけど』
『私たちも行きたいけど、敷居が高いよね……』
『一回の食事代で、うちの宿泊費、2~3回分になりそう……』
『すまないな。昼営業は、もう少しマシな値で提供できるが――』
『そのときは、京太郎くんがいないと……』

 ……昼の営業も、顔だせたらなぁ。
 まぁ土日くらいになりそうだけど。

――――――――


~阿知賀

望「んっふふ~。ね、どうする? 晴絵の電話の内容、聞きたい~?」

憧「……遠慮しとく」

灼「同じく」

望「え~」

穏乃「あ、私は聞きたいです!」

望「おー、よしよし。穏乃ちゃんはいい子だね~、どっかのツンデレ妹と違って」

憧「誰が!」

灼「憧、落ち着いて……」

玄「……あ、あの、私たちも……」

宥「聞きたい、です……赤土先生の、お話……」

憧「ちょっ、玄、宥姉!?」

望「晴絵のお話、ねぇ……むふふ、本命は京太郎少年情報でしょ?」

玄「え、そ、そのっ////」

宥「……は、はい……」カァッ

望「よーしよし、素直だね~。いいよ、おいで。三人だけ、とっておきのこと聞かせてあげる……京太郎少年の、恥ずかしエピソードを♪」

玄「は、恥ずかしっ……あうぅっ!」カァァッ

宥「ぜ、ぜひっ……お願い、しますっ……」キリッ

憧(宥姉って結構ムッツリだったんだ……)

穏乃「京太郎の恥ずかしいとこかぁ、なんか気になる! でも恥ずかしくっても、かっこよく切り抜けそう!」

望「いやいや、そういうのじゃなくって……ま、いいや。ほら、耳貸して~」

穏乃「はーい」

憧「………………」グググッ

灼「……興味あるなら、聞けばい……」

憧「別にないし!」

灼(必死で耳ダンボにしてるし……)

望「やれやれ……えっとね、それじゃまず、宥ちゃんから――」

宥「………………えっ……えっ、えぇっ! そ、そんなこと……あ、の、本当に……?」

望「まぁ要約だけどね。酔ってなかったし、たぶん本当だと思う」

宥「京太郎くん……あったかい……とっても、あったかいよぉ……」キュッ

憧(なに言ったのぉぉぉっっっ!)

灼(……なんか、気になってきた……)

望「次、玄ちゃん!」

玄「は、はい! お願いします!」

玄「………………っっ……ん、うん……はい……そう、だよね……私は、エースなんだもん!」

憧(……あれ、麻雀の話?)

灼(……っぽいね)

憧(灼、私の頭の中に直接……!?)

灼(いや、小声だから……)

望「それじゃ、最後は穏乃ちゃん」

穏乃「はい!」

穏乃「………………はい……は……えっ!? はいっ……そ、そうなんだ……京太郎……それに、憧も……あれ、憧だよね?」

憧(私!? えっ、なっ……なにっ、ほんとなにっ!?)

灼(……なんで私じゃないの……)

憧(え、灼?)

灼(……別に、なんでもな……)

望「ふぅ、こんな感じね。どうだった?」

宥「……インカレも、頑張ります……絶対!」ギュッ

玄「今年の夏は……負けません、誰が相手でも……」

穏乃「私も! 絶対テッペン取ります!」

憧「………………」

灼「……あの、望さん……私も、教えてください」

憧「うっ……」

望「いいよー。えっとね……灼ちゃんは、京太郎が一番相手しにくいんだって」

灼「え――」

憧「はぁっ? ちょっと、あいつがそんなこと言うわけ――」

望「それだけ打ちにくい相手で、阿知賀の強みだって言ってたみたい。穏乃ちゃんじゃなければ、大将が一番合うだろうなって」

灼「え、あ……ま、麻雀の話、ですか?」

望「もちろん。んで、晴絵に似てるって……で、晴絵以上に真面目だから、好感が持てるって」

灼「っっ……ぁ、う……そ、ですか……」カァッ

憧「………………」

望「ま、そんなとこかしら。それじゃ、うるさいお姉ちゃんは、母屋に戻りま――」

憧「まっ……待って!」ガシッ

望「ん~?」ニヤニヤ

憧「くっ……わ、私も……き、聞きたい……」

望「お願いします、は?」

憧「~~~~~~~~~っっ……お、お願いしますっ」ブルブルブル

望「はーい、よくできましたー♪」

憧(く、屈辱っ……)

望「えっと、憧はね――好きなんだって」

憧「」

玄「」

宥「寒い……」ブルブルブル

穏乃「……あれ、なんか……」チクッ

灼「みんな、落ち着いて……どうせ麻雀の話」

玄「あ、そ、そうだよ!」

宥「そそ、そうだよね~」

穏乃「……本当に、そうなのかな……」


望「そうなのよねぇ、残念ながら」

憧「なっ……ばっ、ま、紛らわしいのよ!」

望「どこでもやれる安定した打ち方、安手でもとにかく早く上がって、稼ぎ勝つ。そういう打ち方、京太郎少年も好きなんだって」

望「まぁそれで、勝ちきれずに最終局で捲られるのは課題らしいけど――それはともかく。阿知賀で一番、麻雀教えてくれたからってさ」

憧「……京太郎……」

望「教えられたことやってると、そうなっちゃうって……憧色に染まってる少年、いいわぁっ……」ゾクゾクッ

憧「へ、変な言い方しないでよ!」

望「とまぁ、阿知賀のみんなのことは、そんな評価なんだってさ」

灼「はぁ……恥ずかし……」

玄「照さんとかもいたのに、よくそんな話できたよね……」

穏乃「あの人……小瀬川さんとか、怒りそうですけど」

宥「シロちゃんは、優しい子だよ~?」

憧「っていうか、どういう話してたら、そんな話になるのよ……」

望「これほんとは、合宿のときに聞こうとしてたんだって、晴絵が」

穏乃「え、合宿って……」

玄「臨海の、ですか?」

望「じゃなくて、11月の。ここにいたときのあれ」

憧「はぁっ?」

灼「頭いた……ハルちゃん、なに考えてるの……」

宥「それがどうして、いまになって……?」

望「同期の、高卒ルーキーちゃんが、京太郎と仲良くトークしたいっていうから、話題提供に箱から話題の紙を引かせたらしいの」

憧「……あっ、あの……顔描いた箱!?」

灼「……恥ずかしすぎる……」

宥「赤土先生、それはさすがに……」

望「で、合宿のときに使おうとしてた紙が残ってて、阿知賀の面々をどう思うかっていう話だったみたい」

玄「ふぅーむ、なるほどなるほど、なるほど~」

穏乃「そっか……それで京太郎、ちゃんと答えてくれたんですね」

望「みたいねぇ……どう、嬉しい?」

穏乃「はい! 嬉しいです!」

玄「嬉しいです、とても……」

宥「とってもあったかぁい……」

灼「……うん、すごく……熱くなるよね……」

憧「……バカ……かっこつけ……き……」

望「ん?」

憧「かっこつけすぎ!」

望「はいはい」


望「さて――それじゃ、貴重な情報も与えたことだし、あとはそっちから情報提供ね」

憧「え?」

望「え、じゃないの。みんなが京太郎をどう思ってるか、順番に聞かせてもらうからね」

五人『え……えええええええ~~~~~~~~~っっっ!?』

望「当然でしょ! 世の中ギブ&テイクは基本よ! はい、穏乃ちゃんから!」

穏乃「うえぇえっ!? え、えっと、京太郎は、その……あ、あったかくて、おっきくて――」

憧「ふきゅっ!? なななな、なに言っちゃってんの、シズ!?」

灼「いや、憧こそなにいってんの」ズバァッ

玄「おおおお、お姉ちゃん、どうしよぉ……」

宥「だだ、大丈夫……なの、かなぁ……玄ちゃぁんっ……」


 ――といった感じで、あちガールズの夜は更けてゆく……。


~有珠山

「……プロはずるいですね」
「はい。こっちは、まだいらしてないのに……」
「爽はほんとさー、あれだよね! 賢しい!」
「いえ、別に賢しいわけではないかと……でもちゃっかりしてますね」
「ま、まぁ爽ちゃんも知らなかったわけだから」
「なんだっけ、一緒の……赤土晴絵?」
「阿知賀の監督だった人ですね」
「あの人に頼んでたんじゃないかなーって思うんだけど、そこんとこどうよ」
「それだったら……ちょっとずるいかしら」ニコッ ゴゴゴゴ
「ひっ……」
「誓子先輩、成香先輩が怯えてます」
「あ、大丈夫だよ、怒ってないから」
「いやー、絶対怒ってるっしょ~……あ、いえ、はい……なんでもないです」
「でも……男の人が来られることになったら、ちょっと不安ですね」
「え、そう? いいやつっぽいけど」
「でも、ほら……ユキちゃん、あまり拒否しないでなんでも聞いちゃいますから、その……」
「あー……なるほど、こいつスケベっぽいもんね」
「スケッ……揺杏、失礼よ」
「そ、そう露骨にはあれですけど……そういうことがあったら、ユキちゃんが困るんじゃないかと……」
「別に困りませんよ?」
「!?」
「な……そ、それはダメだって、ユキ! ユキはポストはやりんでアイドルになるんだから!」
「? それと、お掃除やお手伝いのお願いを聞くことの、なにが関係あるんでしょうか」
「…………大丈夫かな」
「本当に、不安になります……」
「ま、まーうちらで見てるし、大丈夫だって!」
「チカちゃんはいないですけど……」
「と、時々様子見にくるから、ね?」
「はぁ……」


~清澄

「あら楽しそう。いいわねー、なんか同窓会っぽくて」
「うちの店も似たようなことになっとるわ……」
「リーチだし! 店員さん、いまのうちにアイスティー頼むし!」
「はいどうぞ。華菜、こぼさないようにね?」
「キャ、キャプテン! いえ、キャプテンにお願いしたんじゃ……ああああ、ありがとうございます!」
「キャプテンは池田さん、あなただろう」
「風越のキャプテンは、吉留さんだったんじゃ……」
「蒲原さんと加治木さんが、間違われてたのと同じでしょうね」
「わはは……それくらいでは泣かないぞ」
「ルーフトップも随分賑やかになったもんだじぇ」
「ここに須賀くんもいたら、完璧っすけどね~」
「……モモ」
「はい?」
「はぁ……」
「京太郎くん……」
「来月は、帰ってきてくれるよね、京ちゃん……」
「だーかーらー、いちいちしんみりするなというに」
「でも、また新しくお知り合いが増えたみたいです。すごいですね、人気」
「赤土さんがいるなら、こっちは札幌の新人、獅子原爽か」
「あら靖子、いたの」
「オーナー、至極失礼な店員がいるんだが」
「あら申し訳ありません、あとで教育しておきますので」ホホホ
「ちょっと、靖子!」
「久の自業自得じゃけえ……」
「もう一人は……知らない人だじぇ?」
「たぶん、千葉に入った霜崎絃さんじゃないでしょうか。荒川さんや、阿知賀の皆さんともお知り合いのようですし」
「お詳しいですね、美穂子さん」
「当然だし! キャプテンは全国常連だから、知ってる顔もいっぱいだし!」
「ま、私も結構顔広いけどね」
「……でもたぶん、京太郎くんのほうが広くなってますよね」
「の、和ちゃん、顔怖いよ……」
「えっ、そ、そうですかっ?」
「……帰ってきたときの対応に困りそうだな、京太郎くん」

~4月第三週木曜、朝(出勤前、のはず……)


京太郎「お? こんな朝から――って、春!?」

京太郎「はい、もしもし……どうした、春?」

春『あ、ああ、あのっ! あっ……えっと、おはよう、京ちゃん……』

京太郎「ああ、おはよう。こんな早くから、どうした?」

春『その、うちは……早朝から必要なものを届けてもらったりするから、配達も早いんだけど……』

京太郎「――ああ! そっか、届いたのか?」

春『!! うんっ、届いた……ありがとう、京ちゃん……』

京太郎「いや、俺こそな。誕生日にあれだけしてもらったのに、そっちに行けなくて悪い」

春『ううんっ……すごく、嬉しいから……』

京太郎(……服だけど、大丈夫だったかな――)

京太郎「あーっと……」

京太郎「着たところ、早く見てみたいよ」

春『私も……見てほしい、京ちゃんが選んでくれた服……すごく、可愛いから……』

京太郎「ああ。春に似合うと思ってさ」

春『……むー』

京太郎「え?」

春『春のほうが、呼びやすい?』

京太郎「……あっ」

京太郎「はは、なんていうか、慣れなくてな……ほら、ずっと春って言ってたし」

京太郎「それに春……るも、京太郎って言ってることあるだろ?」

春『ん……それは、そうだけど……』

京太郎「まぁ、なんとか意識はするけど……たとえ春って呼んでても、はるるっていうのが嫌なわけじゃないからな?」

春『私も……京ちゃんって呼ぶのは、その……宮永さんに、対抗して、みたいな……だから……』

京太郎「咲ねぇ……そんな張り合わなくても大丈夫だぞ? 春は春、咲は咲だ。どんな風に呼ばれても、関係に差があるわけじゃないさ」

京太郎「どっちも俺の、大事な……友達で、麻雀部の仲間だからな」

春『京ちゃ……京太郎……京くん……』

京太郎「えっ」

春『どれがいいかなって』

京太郎「……京太郎でいいよ。呼び慣れた呼び方が、一番春らしくていい」

春『そう?』

京太郎「でも京くんっていうのは、ちょっと懐かしかったかもな。昔誰かに、そんな風に呼ばれてた気がする」

春『……もしかして、ごりょうし――あ、お義母さまとかが』

京太郎「なぜ言い直した……まぁそうかもな。あんまり覚えてないけど」

春『そっか……それなら、そう呼ぶのはまたにしておくね』

京太郎「ああ(またに?)」

春(京太郎の家族になったら……京くんって、呼びたい……呼べたらいいな)

京太郎「で――俺は、どうしようか」

春『はるる』

京太郎「」

春『……ふふっ、冗談。二人きりのときに、たまにそう呼んでくれたらいい……それ以外は、春でいい』

京太郎「いいのか?」

春『京太郎に春って呼ばれるの、好きだから』

京太郎「春」

春『……はい』

京太郎「誕生日おめでとう」

春『っ……ありがとう、京太郎……』

京太郎「で、そのプレゼントだけど……本当によかったか?」

春『うん、かわいい……こういう服は、あんまり持ってないから……』

京太郎「う……だよなぁ、ミニなんて……」

春『でも、京太郎はそれが似合うと思ってくれたん……だよね?』

京太郎「まぁ、はい……そうです」

春『ふふ、なんで敬語……でも、それは……その……』

春『私の、あ……し……が……あぅ……』///

京太郎「うぐ……」

春『み、見たい、ん……だよね?』カァッ

京太郎「――――」

京太郎「見たいです!」

春『……もうっ』フフッ

京太郎「すまん……」

春『ううん、嬉しい……素直でよろしい』

京太郎「いいのか? その……ちょっといい気はしないだろ?」

春『京太郎になら、そんなことない……ほかの人ならイヤだけど』

京太郎「そっか……」


京太郎(春からの熱い信頼を感じる……嬉しいもんだ)ジーン

春(……むー、なんとなくわかってない気がする)バカー



~数時間後、木曜、夜

京太郎「あー……やっぱ予約客の確認はしとかないとなぁ」

京太郎「おっと、そうだ。朝は途中になったから――」

京太郎「……もしもし、いま大丈夫か?」


春『うんっ、もちろん!』キラキラキラ

小蒔『どなたからお電話でしょうか』

霞『……京太郎くんでしょうね』

初美『顔を見れば、一目瞭然ですよー』

明星『えー、いいなぁ! 私にも代わってくださいよー、春センパイ!』

湧『それより手伝って、明星』

京太郎「……なんか忙しそうだな、あとにしようか?」

春『大丈夫! あの……誕生日の、お祝いをしてもらって……お片付け中だから』

京太郎「……片づけ……それなら、俺が……」グググッ

春『っ! い、いいから! ゆっくりして、休んでてっ……東京は遠いんだから……』

京太郎「なに、この程度の距離、なんてこと……」


小蒔『どうしたんでしょう』

初美『片づけと聞いて、執事の虫が騒ぎだしたんでしょー』

小蒔『きょ、京太郎さんがこちらにっ!?』

霞『それは嬉しいけれど……遠いし、負担をかけてしまうわよ?』

小蒔『はっ……そ、そうですね……残念ですけど、お休みいただくほうがよさそうです』シュン

明星『手伝ってもらいたーい、楽したーい』

湧『男性に貸しを作りたくないです』


春『どうしたの、すごく疲れてるみたい』

京太郎「ああ、いや……」

京太郎「いや、新人プロがさ……店に来て、なんかもう、知り合いばっかりで……」

春『そうだったんだ……あ、じゃあ藤原利仙さんも――』

霞『春ちゃん、ちょっと代わってくれる?』ニコッ

春『』

京太郎「いや、関西の人はさすがに……関東だけだよ。東京近辺と、北海道から」

霞『あらそうなの。それならいいわ』

京太郎「えっ」

春『ご、ごめん、なんでもないから』

京太郎「お、おう……」

春『なにか困らされた、とか?』

京太郎「いや、そんなこともないよ。さすがに店に迷惑がかかりそうなら、俺から注意するし」

京太郎「その……阿知賀の赤土晴絵、先生がいたもんで……なぜか阿知賀のことで、色々と質問されてさ。答えるので疲れたんだよ」

春『新子の……』

京太郎「ん、まぁ憧のこともあったかな」

春『……あ、あの、京太郎!』

京太郎「ん?」

春『……どんなこと、聞かれたの?』

京太郎「あぁ……ザックリいうと――」

京太郎「――阿知賀の感想、かな」

春『なんて答えたの!』

京太郎「え、いや……普通、かな。どこにも思い入れはあるし、出会った人たちは大事ですって」

春『ん……なら、大丈夫かな……』

京太郎「へ?」

春『あっ……な、なんでもないっ……』

京太郎「……永水のことも、思い入れあるよ。そこで会った人たちは、素敵な人たちばっかりだしな」

京太郎「春のことも、俺は大事に思ってる」

春『――――――』

春『あぅ、あっ……あり、が……と……』カァァァッッ

京太郎「春だって、そう思ってくれてる……と、思ってるんだけど。違うか?」

春『お、思ってる! 京太郎のことは、すごく大切……』

京太郎「ありがとな……色んな人がそう思ってくれてるから、俺はこれからも頑張るんだ」

春『うん……応援、してるから……これからも、見守らせてね』

京太郎「ああ、心強いよ」


霞『か、会話の内容が……気になるわ……』

小蒔『私も思ってます、京太郎さんのこと……とても、大切に……』

初美『まぁ、その……しょうがないですからねー、京太郎は。目を離すと危なっかしいというかー』

湧『皆さん、甘すぎます……』

明星『だってかっこいいし、優しいし、仕方ないってー』

湧『……それに、強いしね……』

明星『え?』

湧『な、なんでもない!』


京太郎「それじゃ、遅くに悪かったな」

春『ううん、平気……いつでもかけてきて。寝てても起きるから』

京太郎「そりゃだめだろ。寝不足は肌に悪いし」

春『大丈夫っ、ちゃんとケアしてるから!』

京太郎「はは、そうか。春もそういうの、きちんとしてるんだな」

春『だって、その……きょう、た……ろう、に……見て……ほ……』ボソボソ

京太郎「?」

春『なん、でも……ない……』カァッ

京太郎「まぁ時間には気を付けるけど……また電話するよ。じゃあな……誕生日、おめでとう」

春『うん……ありがとう』ニコッ


~4月第三週金曜、早朝

京太郎「ふぅ、春ともなれば、この時間でもかなり明るいなぁ……っと」ブィーン

京太郎「誰だ、こんな朝から――って、昨日もあったな、そんなことが……ん?」

京太郎「霞さんか、どうしたんだろう……はい、京太郎です!」

明星『……もしもし、須賀……京太郎センパイ、ですよね?』

京太郎「ああ、はい……あれ、霞さんじゃない?」

明星『あ、申し遅れました。従妹の明星です、おはようございます』

京太郎「明星ちゃん? おはよう……ああ、そうか」

明星『はい、その……今朝方、無事に確認しました』

明星『それで、お姉様にお電話を借りまして、お礼のご連絡を……ありがとうございました』

京太郎「うん、どういたしまして。それと……誕生日おめでとう」

明星『はい、ありがとうございます』

京太郎「……なんか感じ違うね。いつも、湧ちゃんといたときは、もっと砕けた話し方だったような」

明星『い、いえいえ、そんなっ』

霞『だめよ、明星。目上には敬意を払いなさいと、いつも言ってるのに』

明星『はいっ! すみません、お姉様っ……』

京太郎(ああ、そういうことか……)

京太郎「おっと、悪かった。あれは俺が頼んだから、そうしてもらってたんだっけ」

明星『え……』

京太郎「普段通り話してくれたほうが、俺も気持ちいいからさ。言葉遣いは気にしなくていいよ」

明星『あ……ありがとう、ございます……京太郎センパイ』

霞『はぁ……まったく、年下にも甘いんだから、京太郎くんったら……』

京太郎「そ、そんなことは……」

明星『あははっ。いいじゃないですか、センパイ♪ そういうところ、私好きです♪』

霞『』ゴッ

明星『』ヒッ

京太郎「ははっ、俺も好きだよ」

明星『え――』

霞『』

京太郎「そういう、明星ちゃんの気を遣わない、砕けた感じ」

明星『あ……あ、ああ、そっちですかっ!』

霞『……そ、そうよね、ふ、ふふっ、ふふふふっ……』

明星『』ヒッ

京太郎「そっちって?」

明星『え――い、いえいえいえ! なんでもありませんっ、どうぞご安心を♪』

京太郎「そ、そう? ならいいけど……あ、だけど、気にする人もいるから、そこだけは気をつけるように」

明星『はーい、心得ております。姫様、春センパイ、お姉様、初美様は元より、諸先輩方や一族の方々には、きちんと礼を尽くしておりますので』

明星『こういう話し方は、同い年か、より親しくなりたい相手にだけです♪』

京太郎「……えっ?」

明星『なーんて? 驚かれましたか?』

京太郎「あ、え……じょ、冗談、か?」

明星『さっきのお返しです。こっちも驚かされましたので』

京太郎「ああ……はい、驚きました」

明星『ふふっ、やりました♪』

京太郎「姉妹じゃなくて従姉妹だからか、霞さんとはかなり性格が違うんだな」

明星『顔や体型は近いと思うんですけどね。お姉様は、より血が濃く、育ちも私とは雲泥の差ですから』

京太郎(体型……いやいや、そうじゃなくて!)

明星『あ、変な想像したでしょ? いまの沈黙』

京太郎「してないから! いや、じゃなくて……育ちって、そんなに違うのかって思ってさ」

明星『いや、そこまででは……むしろ私は楽なほうで、お姉様がお辛かったのでは、ということなので――』

霞『明星……京太郎くんに、余計な心配をかけないの』

明星『あ、はい、すいません……』

京太郎「……従姉妹だけど、二人は本物の姉妹みたいだよな」

明星「え?」

京太郎「互いを大事にしてるよ。明星ちゃんは、霞さんを気遣ってるし」

京太郎「霞さんは、電話中もそうやって隣で、明星ちゃんを心配してるだろ?」

明星『あー……いえ、これは……心配というか、見張りというか――』

霞『明星?』

明星『ひぃっ! お、お姉様は裏表のない素敵な先輩です!』

京太郎「……大丈夫、実際にそうだと思う。明星ちゃんがいても、霞さんだって一人っ子だからな。お姉さんらしく、って考えて振る舞ってるんじゃないか?」

明星『そ、そうでしょうか……』

京太郎「優しいお姉さんだよ、霞さんは。俺が保障する」

明星『いや、センパイの保障されましても……まぁでも、優しいというのは同意です』

明星『誕生日プレゼント、枕元に置いてくださってましたし』

霞『ちょっと!?』

京太郎「なにかと勘違いされてるんじゃ……」

明星『あはは、だと思います♪ 可愛いですよね、お姉様のそういうところ』

京太郎「ああ、わかる……」

霞『っっ……も、もう知りませんっ! 電話が終わったら、部屋に返しに来てちょうだい!』

京太郎「あ……やべ、怒らせたかな」

明星『嬉しそうな顔でしたから、大丈夫ですよ。っと……それじゃ、お姉様もいなくなってしまいましたので――』

京太郎「ああ、それじゃこれで――」

明星『いえ、ではなく……改めまして、ありがとうございました、と』

明星『本当は入学に合わせてって思ったんですけど、色々忙しかったし、まだ使えてたので――』

明星『なので、新しい文房具セット……とっても嬉しかったです♪』

明星『私なんて、センパイのお誕生日になにもできませんでしたから……本当に、いただいてもいいのかなって、いまでも思ってます』

京太郎「ああ、気にしないでくれよ。永水では、少なからずお世話になったし……そのお礼、って思ってくれればいいから」

明星『それだと、ほかのセンパイ方に悪いですよ。春センパイにはお世話になって、その上、誕生日にはご奉仕してもらいましたよね?』

京太郎「うっ……そうか、その通りだ……ならやっぱり、直接そっちでご奉公を……」

明星『……まぁ、在校中からセンパイのお世話になってたみたいですから、いいと思いますけど』

京太郎「いや、俺の気が治まらない!」

明星『あー……まぁそれはともかく、私も、センパイのお誕生日の後祝いに、なにかしたいんですけど』

京太郎「気持ちだけで十分だって」

明星『では次のお休み、東京にお伺いしますね』

京太郎「いやいやいや!」

明星『あははっ、半分冗談です……ってことで、なにかできることがありましたら、なんなりと♪』

京太郎「ん?」

明星『なんなりと♪』

京太郎「…………あー、それじゃ――」

京太郎「じゃあ写真撮って! 姉妹ツーショットで!」

明星『』

京太郎「……はっ!」

明星『……あっ、だ、大丈夫ですっ! その……センパイも、男の人だなーって……再認識を……』カァッ

京太郎「ちゃ、ちゃうねん……」

明星『えと、写真ですね? 了解です♪ お姉様に許可をいただいてきますので、少しお待ちください』

京太郎「えと、その……無理しないで、くれよ?」

明星『いえいえ、無理だなんて、とんでもない』

明星『センパイが、誕生日プレゼントに私たちの写真を欲しがってくださるなんて、とっても嬉しいですよ?』

明星『では、お楽しみに……ふふっ、サービスしときますからね♪』

京太郎「なんの!? ああ、切られたっ……」

京太郎「……ふふふ、これはすごい……うん、すごいな……」

追い回し「京太郎さん、なに見てんす――っっ!?」

京太郎「おっと……いま見たものは忘れろ、いいな?」

追い回し「う、うっす……い、いや、けど……なんすかいまの、すげー美人二人で、しかもあの――」

智葉「……あの、なんだ?」

京太郎「」

追い回し「」

智葉「京太郎、携帯」

京太郎「か、堪忍してつかぁさい……」

智葉「いいから見せろ。別に壊すとは言ってない」

京太郎「う、うう……」

智葉「………………」

智葉「…………なるほどな」

智葉「……まぁ、仕事中はしまっておけ」

京太郎「う……はい」

京太郎「あああああああ! 誤解されたああああああ!」

追い回し「いや、おもっきし素直に受け取られたと思いますけど」

京太郎「んだとこの野郎!」

追い回し「まぁそもそも、京太郎さんの趣味なんて、ほぼ全員知ってらっしゃるんでしょ?」

京太郎「……まぁ、うん……そうだけど」

追い回し「なら問題ないじゃないっすか! それにお嬢もかなりの――おごっっ!」

智葉「――無駄口叩いてるヒマがあるなら、仕事しろ。もしくは学校に行け」ゴゴゴゴゴゴ

京太郎「……あ、え……と……では、その……そろそろ、学校に……い、行ってきまああああああああああああす!」

智葉「はぁ……しかし、永水の石戸……もう一人も、妹か? なにを食って育てば、あんな……」ブツブツ

京太郎「……朝からあんなプレゼントもらったら、そりゃテンション上がるし、仕方ないし! 俺は悪くねぇ!」

京太郎「俺は悪くねぇ……俺は悪くねぇ……」

菫「……君はどこぞの親善大使か」

京太郎「え――あ、菫さん! おはようございます!」

菫「ああ、おはよう……なにかあったのか? やけに悩んでいるようだが、智葉とトラブルか?」

京太郎「いえ、そんなことも。ただ、仕事中に携帯はよくないなって話で」

菫「ふむ、確かにな……まぁ理不尽なこともあるが、基本的には真面目なやつだ。助言に従って損はないと思うぞ?」

京太郎「はい、そうですね。ところで菫さんは、どうしてこんなとこに?」

菫「え――い、いや、えっと……そう! 散歩! 朝の散歩だよ、うん」

京太郎「健康的ですね。でもちょっと遠いですし、あまり無理しないでください」

菫「あ、ああ、もちろん……しかし、今日はいい散歩になったよ」

菫「時間さえあれば、お茶に誘いたいところだが……ふふっ、遅刻してしまうといけないな」

京太郎「お茶ですか? 構いませんよ」

菫「は――いや、さすがに開いている店もあまり……」

京太郎「どうぞ、お座りになってお待ちください」スッ

菫「!? ど、どこから椅子が……それに、テーブルまで!?」

菫「いや、それ以前にこんな往来でっ、なにを広げているんだ!」

京太郎「大丈夫です、この時間はあまり人もいませんから。すぐにお茶をお淹れしますので、おくつろぎください」

菫「あ、う……あ、ああ……」

京太郎「……実は、こうやってテーブルも一緒のティーセットをだすのは、初めてなんです」

菫(そりゃそうだろうさ!)

京太郎「ですから、それを菫さんにご提供できて、すごく光栄です」

菫「…………そうか」

京太郎「どうぞ。コーヒー派の菫さんに、紅茶はどうかと思いますが……今朝はセイロンのいいところを、ご用意いたしました」

菫「……うん、おいしい。落ち着くよ。ここまで歩いた疲れも、癒えてくるようだ」

京太郎「ありがとうございます」

菫(……もう、あれだ……テーブルがどうとか椅子がどうとか、細かいことにはこだわらないでおこう)

京太郎「これからもお会いできたら……お茶のご用意、してもよろしいでしょうか?」

菫「……いや」

京太郎「うっ、ですよね……さすがに何回もは……」

菫「紅茶もいいが……コーヒー豆も、用意しておいてくれ。私のために、ね」フフッ

京太郎「――っ! はいっ、よろこんで!」

菫「それと……せっかくのおいしいお茶だ、一緒に飲もう。一人では少し、落ち着かないからな」

京太郎「はい……失礼します、お嬢様」

菫(……想像したのとは違ったが、これはこれで……幸せな、朝のひと時だな) ※感覚がずれてきた


~金曜、昼


京太郎「――なんか、今日は朝から色々見られるんだけど」

ハオ「目撃証言が」

京太郎「なんて?」

ネリー「朝から知らない美人と、優雅にお茶してたって」

京太郎「ああ……菫さんとお茶してたんだよな。初めてテーブルセット運びしたから、嬉しくて、つい」

明華「なにを言ってるのかはわかりませんが、弘世菫が一緒にいたことは理解しました」

京太郎「いやー、偶然会いまして。あの人の学生寮から遠いのに、散歩してきたらしくて」

明華「…………はぁ」

ハオ「言い訳としてはありきたりですが、信じる人もいるんですね……」

ネリー「早起きはお金になるっていうよね」

京太郎「三文の得(徳)、か。いいことがある、っていう意味で使われることが多いかな」

ハオ「まぁ京太郎の登校時間は早いですからね。それだけでも早起きの価値はあります」

明華「私も昨日、お会いしましたものね」

ネリー「ずるい!」

ハオ「ネリーは毎時間同じ教室ではないですか、そのほうがずるいです」

ネリー「先生が決めたことだもんっ」

明華「京太郎の学力なら飛び級が認められて然るべきです――」

京太郎「まぁまぁ、落ち着いて……食後のお茶です。どうぞ」

三人『いただきます』


女子A「……今日も平和ねー」
女子B「なんか一人増えてない?」
女子C「麻雀部なら仕方ない」

京太郎「はー、いい天気……おっと、そうそう」

京太郎「すいません、お待たせしました」

メグ『わざわざ移動せずともよかったのでスガ……』

京太郎「まぁ校内、人目があるところで電話っていうのもなんですし」

メグ『そうかもしれませンネ。そうそう、昨日はごちそうさまでシタ。邪魔ではありませんでしタカ?』

京太郎「お客様が多いのはありがたいことですよ。ありがとうございました」

京太郎「こちらこそ、日誌に書いていいって言ってくださったので、書きましたけど――なにか、注意なんかはありませんでしたか?」

メグ『ええ、普段通りですよ……本当に、普段通りで……ハヤリには困ったものです……』

京太郎「そんなにですか?」

メグ『ええ……ですが、大変ということではありません。気にかけてくれているのも、わかっているつもりですカラ』

メグ『キョウタロウの料理と、ハヤリのシゴキに応えるためにも……今日の試合は、全力で挑みますよ』

京太郎「はい、頑張ってください」

メグ『それはそうと、恵比寿と横浜の試合は、どうするのデス?』

京太郎「ああ……まぁ、その……迷ってる、というところですね」

メグ『これは、高校生プレイヤーだった、先輩としての助言ですガ……』

京太郎「はい」

メグ『もちろん、一度見に行っているので、わかっているとは思いマス』

メグ『プロの試合をライブで見る、そこで得られる経験値は、けして少なくはありまセン』

京太郎「……はい」

メグ『昨年の女子チャンプ、ルーキー・オブ・ザ・イヤーの最有力候補――バーサス、日本代表エースの試合です、プラチナチケットでスヨ?』

京太郎「超満員でしょうね」

メグ『見に行ってあげては、いかがでスカ?』

京太郎「……前向きに、考えておきますから」

メグ『そしてあわよくば、私の試合にもぜひ、ネ?』

京太郎「なるほど、本命はそっちでしたか」

メグ『後輩にいいところを見せたいですかラネ。いつでも、お待ちしていまスヨ』

京太郎「では、そちらも前向きに」

メグ『ええ、ありがとう。それでは、マタ』


京太郎「プロになっても、しかもほとんど面識ない俺を、こんなに気にかけてくれるなんて……いい先輩だなぁ」ジーン

~4月第三週金曜、放課後

京太郎「さーて、お楽しみの部活の時間だ!」ガタッ

ネリー「ネリーが一番乗り!」

京太郎「温州みかんも――」

一年ズ「あ、お疲れさまです、ヴィルサラーゼ先輩、京太郎先輩!」

ネリー「」

京太郎「……まぁ、一年ってそういうもんだしな」

京太郎「っていうか、なんで俺は名前?」

一年A「ヴィルサラーゼ先輩は怖いからです!」

一年B「須賀先輩は響きが悪いからです!」

京太郎「お前ら本当は怖いと思ってないだろ」

ネリー「ネリー……怖い?」

京太郎「いや、別に。むしろかわいい」

ネリー「……う……ま、まぁ、それならいい……かな?」

京太郎(かわいい)

一年ズ(かわいい)

京太郎(お前らやっぱ怖いと思ってないだろ)

一年ズ(麻雀のときは怖いです!)

京太郎(……強い人たちは、だいたいあんなだよ)

一年ズ(そういった情報、もっとください!)

京太郎(はいはい、指導のときにな)

明華「……京太郎、一年と見つめ合ってなにを?」

ハオ「一年は早く散りなさい。京太郎を独占しないように、会話するときは一対一にならないように。家には押しかけないように」

京太郎「草摩由希ファンクラブかよ」

アレクサンドラ「……似たようなもんね」

京太郎「では、まずは指導……ですかね」

アレクサンドラ「そうね。今月はとりあえず、それで」

京太郎「今月は?」

アレクサンドラ「来月以降は、指導も行動選択の幅に入れようかと――ん?」

明華「監督、その……」

ハオ「大変言いにくいのですが、京太郎は……」

アレクサンドラ「……ああ、そっか。まぁ来月以降のことは、他校に任せましょ」

京太郎「……ありがとうございます」

アレクサンドラ「どうしてお礼?」

京太郎「いえ、俺がずっといてもいいって、そう言ってくれたみたいだったので」

アレクサンドラ「……私ね、育てがいある子とか、才能ある子が大好きなのよね」

京太郎「へー、そうなんですか」

京太郎「俺がそっちに入るには、もっと頑張らないといけませんね」

アレクサンドラ「……はいはい、そーね」

京太郎(あれ、急にぞんざいに……)

明華「京太郎、渾身のデレを華麗にスルー」

ハオ「これは効いています」

ネリー「こうかは ばつぐんだ!」

アレクサンドラ「別にデレじゃないし。それで、今日はなんの指導するつもりっ?」

京太郎「あ、はい!」

ハオ(思いっきり気にしてるじゃないですか)

明華(どれだけ京太郎スキーなんでしょうね)

ネリー(ちょっと引くね)

アレクサンドラ(鏡見て言ってこい)


京太郎「さて、今日は――」


京太郎「それじゃ、指導に行きます。誰か一緒に来てくれる人は――」

明華「」バッ

ハオ「」バッ

ネリー「」バッ

京太郎「挙手、を……」

アレクサンドラ「」スッ

京太郎「えーっと、それじゃ――」

京太郎「それでは……って、本当にいいんですか?」

アレクサンドラ「え、どうして?」

京太郎「いえ、だって監督ですし……レギュラーとか、二年三年の指導が大事なんじゃないかと」

アレクサンドラ「昨年夏、ネリーがレギュラーだったことを忘れた?」

ネリー「そうだよ!」

アレクサンドラ「言ったでしょ。才能を伸ばすのが好きなの、それを見つけるのもね」

アレクサンドラ「多少磨かないと見えないものもあるんだから、キョウタロウは気にせずついてきなさい」

京太郎「はっ、お供します!」

ハオ「……逆になってますね」

明華「一応、正しい形なんですけどね」

ネリー「キョウタローは年上好きって、本当だったんだ……」

アレクサンドラ「えっ、そうなの?」

京太郎「誤解っ――でも、ない……ような気がしなくもなくないですけど……」

明華「」ガタッ

京太郎「今回のは、年齢とか関係ないと思うんですけど……」

アレクサンドラ「……そりゃそうか」

ハオ「明華、座っていいですよ」

明華「」スッ

ネリー「いってらっしゃーい」

京太郎「おう、行ってくる」

アレクサンドラ「では――第一回、キョウタロウ・スガの魔物講座」

京太郎「えっ」

一年ズ「よろしくお願いします!」

京太郎「えっ」

アレクサンドラ「記念すべき第一回は、昨年世代の覇者、テル・ミヤナガについてです」

京太郎「えっ」

一年A「私知ってるよ、同卓の相手がおもらししちゃったって」
一年B「試合中に泣いてたって」
一年C「試合の後に倒れちゃったとかも」

京太郎(真実と誤解が入り乱れてる……)

京太郎「よし――では、解説しましょう! 照さんのすべてを!」

一年ズ「…………」ゴクリ

京太郎「えーっと……たしかに、麻雀では間違いなく、右に出る者はいないってくらいのモンスターかもしれません」

京太郎「けど、俺でも勝てることはあるし、努力すれば上がれない相手でもないです」

京太郎「あと、インタビューではクールな美人を気取ってますが、普段はちょっとお茶目でかわいいです」

京太郎「本も好きなのは確かですが、お菓子のほうが好きだと睨んでいます」

京太郎「借りた本に、お菓子のカスが落ちてたこともありました。普段は気をつけてますが、夢中になるとつい読みながら食べて、落としてしまうみたいです」

京太郎「で、対局相手の話ですが――」

~40分後

京太郎「――って感じで、皆さんが思うような怖い方ではけして――」

アレクサンドラ「……もういい」

京太郎「――はい?」

一年D「……はっ! お、終わりましたかっ!?」
一年E「寝てた……」
一年F「ここまで来てなんですが、対局で役に立つ情報をお願いします!」

アレクサンドラ「……私も同意」

京太郎「ツモらせたら負けです。捨て牌を絞って狙うか、上がられる前に上がりましょう。以上」

一年ズ(無茶振りぃ!)

京太郎「あと――」

一年ズ(おっ?)

京太郎「お菓子をチラつかせておくと、興味が引けるかもしれません。携帯しておくといいでしょう。焼き立ての洋菓子ならなおよしです」

一年ズ(ズコー)

アレクサンドラ「……次回は、その妹サキ・ミヤナガのことです。お楽しみに」

京太郎「続くんですか!?」

京太郎「なんだかよくわからないまま、一時間も過ぎてしまった……」

アレクサンドラ「次の、大丈夫なんでしょうね……」

京太郎「咲ですか? まぁだいたいは。あいつの麻雀は単純です」

アレクサンドラ「へぇ、そうなの? ちょっと気になる」

京太郎「カン材を集めます、カンします、上がります――俺はそれ聞いて、あいつと麻雀の話するのやめました」

アレクサンドラ「……対策の参考にはなるけど、まったく打ち方の参考にならない講座にはしないでね」

京太郎「はぁ、善処します……」

ネリー「あ、おかえりー」

ハオ「どうでしたか?」

明華「監督がひどく疲れているようですけど」

アレクサンドラ「最悪よ。キョウタロウがいかにテル・ミヤナガを好きか、延々と講座された」

ハオ「最悪ですね」

明華「お疲れさまでした……」

ネリー「お茶、淹れてあるよ?」

アレクサンドラ「ああ、ありがと」

京太郎「俺も淹れました。さ、皆さんもどうぞ」

ハオ「ありがとうございます」

明華「おいしいですね」

ネリー「ネリーが淹れたバッグのとは違うね」

アレクサンドラ「……謀ったわね」

京太郎「それじゃ、交換します?」スッ

アレクサンドラ「……あ、う……あ、あとでいただくわ!」ゴクゴクゴクッ

明華「……なけなしの理性ですね」

ハオ「よく交換しませんでしたね」

ネリー「キョウタローのお茶、おいしいなー」

京太郎「そりゃ嬉しい。お代わりもあるぞ」

京太郎「――っと、あんまりくつろいでる余裕もなかったな」

ネリー「練習!」

ハオ「差し入れでしょうか」ワクワク

明華「掃除かもしれません……」

京太郎「はは、まぁ席を外すことになるかもしれ――」

明華「それはいけませんっ」

京太郎「」ビクッ

ハオ「ここにいたほうが時間を無駄にしません、合理的です」

京太郎「や、けど、買い物とか――」

ネリー「それはネリーたちでするから!」

京太郎「ネリーたちこそ練習しなきゃだろ……さて――」

京太郎「んー……では、ちょっと気合入れてお菓子焼いてきます」

明華「楽しみです」

ハオ「洋菓子でしょうか」

ネリー「わーい♪」

アレクサンドラ「……あの、練習……」

京太郎「大丈夫ですって。差し入れが完成したら、ちゃんとしますから」

アレクサンドラ「ならいいけど……いや、いいの?」

京太郎「では、少々お待ちくださいませ」


京太郎「さて、今日のメニューは――」

京太郎「そうだな、ショコラノワールにするか……チョコ扱うのは久々? いや、そうでもないか……」

京太郎「さて、ショコラノワール――ザックリ言えば、チョコの羊羹って感じか」

京太郎「チョコレートとバター、卵の砂糖、これらを湯煎、撹拌――滑らかさを大事に、そこにフンワリ感を……」

京太郎「ああ、差し入れは毎日してる設定だけど、きちんと描写があるのは久しぶりだなぁ……」

京太郎「やっぱり俺の原点は、お菓子作りだな。師匠に最初に教わったのも――あ、それは掃除からだったか」

京太郎「とにかく、食べてくれる人のことを考えて、丁寧に、速やかに――正確に、だ」

京太郎「よし、混ぜ合わせはオーケーだ」

京太郎「粗熱が取れたら、冷蔵庫でよく冷やして――完成」

京太郎「プディング・オ・ショコラノワール、生クリームを添えて、彩にミントの葉」

京太郎「で、こっちには粉砂糖――それと、チョコソースで飾り付け」

京太郎「こっちには――」

京太郎「お待たせいたしました。本日のおやつは、プディング・オ・ショコラノワール――どうぞ、お好きな皿をお取りくださいませ」

ハオ「盛り付け……飾り付けが、全皿で異なっている……!?」

明華「あら素敵ですね。では私はこちらの、ベリーソースのものを」

ネリー「ネリーはこれ! クリームの♪」

京太郎「対局の際は、こちらをお使いください」カラカラカラ

アレクサンドラ「なのこの……細長いワゴンみたいなの」

京太郎「給仕台です。対局途中の方の邪魔にならないよう、横に置いておくために、今回からご用意しました」

アレクサンドラ「……人数分?」

京太郎「もちろんです」

アレクサンドラ「……もう、どうやって用意してるかは聞かないわ」

京太郎「お疲れのようですね……そういうときは、こちらのカモミールティーがよろしいかと」コポコポコポ

アレクサンドラ「ありがと……あ、いい香り」

京太郎「チョコとの相性も、悪くはないはずです。どうぞ」スッ

アレクサンドラ「……ん、おいし」

京太郎「皆さまもお茶を――どれになさいますか?」

明華「素直にダージリンを」

ハオ「今日はキーマンで」

ネリー「アッサム! 最近覚えたの!」

京太郎「どうぞ……ごゆっくり、おくつろぎくださいませ」

アレクサンドラ「……いや、対局中だからね?」

京太郎「では、俺のことはお気になさらず、続きを」

アレクサンドラ「はいはい。全員、卓に集中してー」

ハオ「はい」

明華「そうですね」

ネリー「続きつづき♪」

京太郎「………………」

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最終更新:2026年01月17日 23:45