菫「あ、う……す、すまないっ……」
京太郎「いえ、俺のほうこそ煽っちゃったみたいで……」
菫「――違う。ムキになった、ということは……少なからず、そういう部分がある、ということだ」
菫「自覚はないが、薄々と勘付いている、だからムキになって否定する――という心理なのかもな」
京太郎「……仮に、です」
菫「ん?」
京太郎「仮に、菫さんがそういう趣味を持っていたとしても――好きな相手がそういう、アブノーマルな趣味であっても」
京太郎「俺は受け入れて、理解して、丸ごと好きになりたいですね」
菫「京太郎……」
京太郎「菫さん、映画に誘ってくださって、ありがとうございました」
菫「えっ?」
京太郎「なんか、恋愛観が開けた感じです」
菫「ふふ、そうか……妙な方向には開かないようにだけ、頼むぞ?」
京太郎「はいっ! って……妙な方向?」
菫「……その、ほら……映画の、キョウタみたいな……」
京太郎「……あー、ボンデージとか縄とかムチとか、首輪とかですか?」
菫「~~~~~~~~っっ! そ、そう……いう、の……だ……」モジッ
京太郎「興味あるんですか?」
菫「ち、違うっっ!」カァッ
京太郎「そうですか。でも――」
京太郎「――もしそうなら、相談に乗りますから。打ち明けてくださいね?」ニコッ
菫「」ゾクゾクゾクッ
菫「あ、ああ……そう、しよう……」
京太郎「……もう一杯、コーヒー飲んでいきましょうか?」
菫「……うん」
京太郎「菫さん、お時間はまだ大丈夫ですか?」
菫「ああ。一人暮らしだし、寮も大学生の門限を厳しくは決めていない」
京太郎「じゃあ遅くなっても大丈夫ですね」
菫「おそっ――う、うん、問題ない」
京太郎「なら、もう少し一緒にいられますね。よかったです」
菫「…………わ、私も――」
京太郎「それじゃ、どこに行こうかな……あ、そうだ」
菫(き、聞いてない……)
菫「――そういえば、京太郎」
京太郎「はい?」
菫「試合はいいのか? まだ見に行ってないんだろう?」
京太郎「試合って……」
菫「照のだ。一戦目が完敗、二戦目が惨敗。三戦目次第で、照の評価はガラリと変わるぞ」
京太郎「……でも、今日は――」
菫「なら、私に付き合ってくれ。私は試合を見に行きたいんだが……チケットがなくてな。京太郎なら、どこかでチケットをもらっていそうだ」
京太郎「……まぁ、ありますけど」
菫(ほんとにあるのか……)
京太郎「……いいんですか?」
菫「美味しい料理をご馳走になって、映画に付き合ってもらって、大好きな麻雀の試合まで見られる……最高のデートだと思うが?」フッ
京太郎「……ほんと、女子にモテるわけですね、菫さん」
菫「あいにく、そっちの趣味はない……さぁどうする? 行くか、やめておくか?」
京太郎「――行きましょう」
菫「そうこなくては。試合開始は、あと30分ほどだが……会場がここから近い」
京太郎「菫さん、そこまで計算して……」
菫「この場所は、君が選んだんだぞ? もしかして、わかっていてやったんじゃないのか?」
京太郎「まさか。菫さんとデートってことに集中してて、そんな余裕はとても」
菫「……そうか」フフッ
菫「いまの言葉は、とても嬉しかった……さ、行こう」キュッ
京太郎「……この状態で観戦したら、照さん余計に動揺するんじゃ」
菫「あいつは単純だ。君の顔を見れば、それだけでやる気になる」
京太郎「…………たしかに」
~試合会場、入場口
「チケット拝見いたします~」
京太郎「すいません、えーっと……二人用だから、こっちのチケットか」
菫「何枚持ってるんだ……一応、プラチナチケットのはずだが」
京太郎「なんかすごいの一枚もらったんですけど……たぶんこれ、一人用なので」
「いえ~、これはペア用ですよ~。一枚で二名様、特別観戦室へご招待です~」
京太郎「……へー。それじゃ、こっちの普通のチケットで――」
菫「まぁ待て、京太郎。せっかくの特別チケットだ、いい部屋で観戦させてもらおうじゃないか」
「このチケットすごいですよ~。卓からも、こちらのお席が見えて、会話もできるんです~」
京太郎「……いや、やっぱまずくないですか?」
菫「最近、照と話していないからちょうどいい。自慢もできるしな」フフフ
京太郎「ちょっと楽しんでますよね!?」
菫「こんないい席で京太郎と、プラチナチケットの試合を見られる私は幸せ者だなぁ。さ、行くぞ」グイー
京太郎「ちょっ、まっ――菫さああああああああああああん!」
「二名様ご案内です~。ごゆっくりどうぞ~」
菫「まるでホテルだな。観戦用の窓はあるが、トイレ、シャワー、ベッド、冷蔵庫、ソファに……ルームサービスのメニューまである」
京太郎「調度も高価ですね、これ」
菫「仮にホテルだとしたら、一泊10万くらいしそうだ」
京太郎「逆に落ち着かないですね……」
菫「まぁともかく座ろう。隣にこい」ポンポン
京太郎「は、失礼します……おう、柔らかい……」
菫「こっちのモニターは、試合場やテレビで放映される映像が見られるのか」
京太郎「試合、もうすぐですね」
菫「いや……設備調整で、開場が遅れたらしく、もう少し時間があるようだ」
京太郎「そうなんですか?」
菫「で、だ――その間に、選手が挨拶に来るらしいぞ」
京太郎「えっ」
ドンドンッ
照「京ちゃん、いるのはわかってる! 開けて!」
京太郎「……なんか追い詰められた犯人みたいになってるんですけど」
菫「さてどうする?」
京太郎「……本日はお招き、ありがとうございます」
照「なんで顔見せてくれないの!?」
京太郎「なんとなくです」
照「ひどいっ! でもわかった、勝ったときのご褒美ってことだよね?」
京太郎「まぁそれでもいいんですけど……どっちみち、試合会場からこっち見えますよ?」
照「そうだった」
京太郎「どうですか、今日の調子は」
照「いいよ……と言いたいけど、あまりよくないかな。一試合目は稼ぎ負けだけど、二試合目は削られて、さすがにへこんだから」
照「でも――京ちゃんが来てくれたから、勝つよ。でも顔が見れたら、もっと確率上がると思うんだけど」チラッ
京太郎「…………」
菫「……いや、なんで開けないんだ」
照「!? 京ちゃん! いま聞き慣れてるけど聞き慣れない声がした!」
京太郎「え、そうですか?」スットボケ
照「したよ! いけ好かない泥棒猫の声だよっ!」
菫「なんだとこの野郎」
京太郎「菫さん、落ち着いて……」
照「……菫?」ピクンッ
照「菫といるのっ、京ちゃん!?」
京太郎(……なんか、浮気バレした亭主みたいになってきた。どうしよう)
京太郎「いますよ」
菫「素直だな」
京太郎「まぁ隠すことでもないですし」
菫「確かに」
照「京ちゃん! いるのに開けてくれないってことは――」
京太郎「ことは?」
照「菫に監禁されてるの!? 大丈夫、すぐに警備員さん呼んで、マスターキーで開けてもらうから!」
京太郎「違いますよ!?」
菫「むしろ私がここに連れ込まれたんだが」
京太郎「それも違います!」
照「じゃあどうして、菫と一緒なの……」
京太郎「むぐ……また難問が」
菫「ここも素直に言っておくか」
京太郎「……そうですね」
菫「えっ」
京太郎「菫さんとデートしてました」
菫「ちょっ――」
照「」
菫「お、おい、京太郎っ……照っ、落ち着け!?」
照「………………」
照「…………試合、始まるから行くね」
京太郎「えっ……あ、の……頑張ってください」
照「…………無理、かも」
京太郎「え――ちょっ、照さんっ!」ガチャッ
京太郎「照さんっっ!」ガチャッ
照「はい、あなたの照です。京ちゃん」ガバッ
京太郎「ぐふっ」
照「あんな冗談で私の気を惹こうなんて、京ちゃんかわいい」スリスリスリスリ
京太郎「ちょっ……て、照さんっ、落ち着いてっ……」
菫「…………照、京太郎が嫌がっているだろう。離れろ」
照「菫こそ、京ちゃんを連れ回して、しかもここまでついてくるなんて図々しいと思う」
菫「なっっ――つ、連れ回していないし、図々しくもない!」
菫「京太郎がここに招待してくれたんだ、なぁ、京太郎?」ギュッ
京太郎「ちょっ、ま、待ってくださいって、菫さんも!」
照「たとえそうだとしても、試合のチケットがなくて泣いてる菫を見かねて、京ちゃんが気を利かせてくれただけ」
菫「お前が不安がってるだろうと思って、ここに誘ってやったのは誰だと思っている!」
照「京ちゃん?」
菫「私だっ、バカ者ぉっ!」
照「京ちゃんでしょ?」クルッ
京太郎「いえ、菫さんです」
照「……本当?」クルッ
菫「…………まぁな」
照「それは……なんていうか、ありがとう」ペッコリン
京太郎「よくできましたね」ナデナデ
照「よくできました、じゃない。どうして」
京太郎「えっ」
照「どうしてチケットいっぱい送ったのに、今日になってやっとなの! しかも菫が言いだしたって、そうじゃなかったら来なかったの!?」
京太郎「えーっと……すいません、その……急を要する用事があったもので、どうしても……」
照「そうなの? なら仕方ない」テルーン
京太郎「すいません、半分は嘘です!」
照「どういうこと?」
京太郎「いえ、その……来週、菫さんの誕生日なのはご存じですよね?」
照「もちろん」
菫「それは安心したよ。プレゼントには期待している」
照「勝利をプレゼントするよ」
菫「もらい飽きたから、もっといいものをくれ」
照「強欲は嫌われるよ、京ちゃんに」
菫「そ、そうなのかっ!?」アタフタッ
京太郎「…………話、戻していいですか?」
京太郎「えっと、それで来週はお祝いする余裕がなさそうでしたから……ほら、引っ越し準備とかあるので」
照「そっか、もうそんな時期……」
京太郎「なので、今日はそのお祝いを兼ねて、食事や映画にお誘いを」
照「…………デートだ」
菫「さっき京太郎くんが言ったろう」
照「ずるい! 京ちゃん、私とも!」
京太郎「ま、またの機会に……」
照「やった! 聞いた、菫? 今度デートしてくれるって!」
菫「……お前がそれでいいなら、いいんだが」
京太郎「ただ――すいません、菫さん。少し失礼な話をしていいですか?」
菫「……構わない」
京太郎「ありがとうございます……あの、照さん?」
照「ん?」
京太郎「その……本当は、照さんの試合を見に行くか、ずっと迷ってました」
京太郎「怖かったからです。照さんが負けるのを見る、というのが」
照「――――そう」
京太郎「一日目は稼ぎ負けて、そのまま恵比寿は二位でした。その試合のあと、咏さんには『照さんはあんなものじゃないです』って言ったくせに――」
京太郎「俺が一番、照さんを信じていなかったんです、たぶん」
京太郎「そして二日目、照さんも削られ、他家はほぼゼロまで削られました……咏さんの本気の本気です」
照「……うん」
京太郎「次鋒が飛んで、そのまま終了――そのとき、もう照さんは勝てないんじゃないかって、思って……」
照「今日は、見に来るつもりがなかったんだ」
京太郎「きっと、初日からその可能性は考慮していたんです、俺。だから無意識に、試合を避けるように、別の大事な用事に向けた――そんな気がします」
菫「……それが、失礼なこと、かな?」
京太郎「っ……すいません、天秤にかけるようなことを……」
菫「意図してのものでないなら、気にしない。むしろそれは、照の試合より、私の誕生日を選んでくれたように思うよ」フフッ
京太郎「そう言っていただけると……」
照「でも、今日は見に来てくれた……菫のおかげで」
京太郎「後押ししてくれたんです、菫さんが」
菫「……私が見たかっただけだ。照が日本代表に勝つところをな。それだけだよ」
照「菫……」
菫「押しつけるつもりはないが……お前は私たちの代表だ。できることなら、宮永世代の代表として、日本代表に牙を突き立ててほしい」
照「菫は野蛮」
菫「……お前な」
京太郎「げ、激励ですよ、激励」
照「わかってる……ん、任せておいて。栄養剤も持ってきてくれて、言うことない激励だった」
京太郎「栄養剤?」
照「わかってるくせに」ギュー ズルズル
京太郎「ちょちょちょ、照さん!?」
菫「こら、どこへ行くつもりだ!」
照「え、控室だけど? 先輩たちもいるし、ここよりよく見えるし、解説もいるよ?」
照「それに控室に戻ったら、ずっと京ちゃんと一緒にいられるし」
菫「……そこまでは許可しない」
照「別に菫の許可なんて求めてない」
菫「………………」ゴゴゴゴゴゴゴ
照「………………」テルテルテルテルテル
京太郎「……あの、せっかくですけど、ここからの観戦がいいです」
照「!?」
菫「!?」
京太郎「いえ、だって……その、知らないプロの人たちに囲まれても、困るといいますか……」
照「シロの先輩にはご飯作ったでしょ?」
京太郎「あれはシロさんいましたし……照さん、いまから試合ですよね? その間、俺一人で先輩方のお相手じゃないですか」
照「…………あっ」
菫「試合開始を忘れるな」
照「京ちゃんがいたので、つい」
京太郎「ってことです……ここから、ご武運をお祈りしています」
照「…………ん。最後にもっかい」ハグハグ
京太郎「……頑張ってください、照さん」ギューッ
照「――行ってくる」ギュルルルルルルルル
他家A「もうプロやめる」
他家B「おうち帰りたい」
照「……はぁ」
咏「やれやれ……ま、こんなもんかねぃ」
京太郎「……だめ、でしたね」
菫「まぁこんなものだろう。一度直取りできたのは、今後の収穫になるだろうさ」
京太郎「強すぎませんか、咏さん」
菫「なにをいまさら……それに、これ以上に強い打ち手もいるんだぞ」
京太郎「……あぁ」
菫「プロで食っていくと決めたなら、照にしても止まってられないだろう。今後、何試合もするんだからな」
京太郎「そうですね……」
菫「やはりショックか?」
京太郎「まぁ、目の前で見るとさすがに……菫さんは、それほどでもないみたいですけど?」
菫「差は痛感しているよ。ショックもある……が、敗戦から得るものもあると、知っているからな」
京太郎「常勝無敗の白糸台の、元部長がですか?」
菫「忘れたか? 有終の美を飾れなかった代があるらしいぞ?」
京太郎「……なんか、すいません」
菫「責めてるわけじゃない。あのときの敗戦のおかげで、春は個人も団体も、母校が取れたと思っている」
京太郎「はい……」
菫「それに、素敵な出会いもあったしな」ボソッ
京太郎「え?」
菫「……いや、なんでもないよ」
菫「それよりどうする。うるさいのが来ると思うが」
京太郎「……とりあえず、お茶を淹れておきます」
菫「お茶菓子はどうする? 甘い物がないと、わめくぞ」
京太郎「……IHコンロが一ヶ所か……ホットケーキくらいなら、焼けますね」
菫「だが材料が――」
京太郎「えっ?」ザイリョウズラー
菫「…………手伝おうか?」
京太郎「では、小麦粉の量を計って、ふるいをお願いします。俺は紅茶の準備と、卵をしておきますので」
菫「了解した」
咏「で――結局、京太郎の前でも負けたんだけど、どんな気分?」ニヤニヤ
照「京ちゃんの甘い物も食べてたら違いました」キリッ
咏「かーっ、往生際の悪ぃ……」
照「ということで、たぶん用意してくれてるでしょうから、行ってきます」
咏「はぁ~? なら私も行くに決まってんだろ~?」
照「だめです。少なくなるじゃないですか」
咏「いーや! 京太郎なら私が行くことも予見してんね、これぜってーだから」
照「じゃあ賭けます?」
咏「おもしれー、乗ってやんよ!」
菫「……多くないか?」
京太郎「照さんヤケ食いしそうですし……もしかしたら、咏さんも来られるかもしれませんから」
菫「なるほど……」
~デート終了
京太郎「……遅くなりましたね、すいません」
菫「いや、楽しかった……また誘ってくれ、絶対だぞ?」
京太郎「はい、ぜひ」
菫「せっかく送ってくれたんだ、中でコーヒーでも……と言いたいが、この時間に男子は招けないかな」
菫「……あの三人が来たら、それこそ大惨事だしな」
京太郎「では、送り狼にならないうちに、帰ることにします」
菫「ああ、そうしたほうがいい……私も、送られ狼にならなくて済む」ボソッ
菫「……いや、むしろ送られ羊……とか」ブツブツ
京太郎「?」
菫「な、なんでもない……その、気をつけて」
京太郎「はい。では……今日はありがとうございました」
菫「ああ、またな」
~日曜、夜
京太郎「ふぅ……まさか試合見ながら、照さん、咏さん、菫さんと打つことになるとは……」
京太郎「でも、恵比寿は逆転で一位にはなれた……チームの力って、やっぱ大事なんだな」
京太郎「恵比寿の人たちも、すごい怖い人たちかと思ったら、優しい人でよかった……あれなら照さんも、怒られずに済みそうだし」
京太郎「……あ、菫さんの誕生日プレゼントは……まぁ、仕方ないか。手料理を振る舞えただけで、よしとしないとな」
京太郎「さて――」
京太郎「そうだな、来週の活動のこともあるし、監督に電話しておかないと」
京太郎「……夜遅いけど、大丈夫かな」
京太郎「――もしもし、監督ですか?」
アレクサンドラ「え、ええ。どうしたの、こんな時間に」
京太郎「あ、はい。来週で、こちらを離れることになりますので――」
京太郎「――で……」
アレクサンドラ「で?」
京太郎(……なんか、事務的な電話で夜中にかけたのも、申し訳ないな……)
アレクサンドラ「キョウタロウ?」
京太郎「……出来る限り、監督と話がしたくて」
アレクサンドラ「――――」
アレクサンドラ「あ、あの、あっ……えっ?」
京太郎「いま、大丈夫ですか?」
アレクサンドラ「あ――う、うん、オッケー、大丈夫。オールオッケーよ!」
京太郎「よかったです。いつも、このくらいの時間はなにしてらっしゃるんですか?」
アレクサンドラ「んー……仕事が残っていればしてるし、大会前なら資料作りや、相手の研究――」
京太郎「お疲れさまです……身体には気をつけてくださいね」
アレクサンドラ「こう見えても丈夫だから平気よ。あとは、そうね……シャワー浴びてるかも」
京太郎「」ガタッ
アレクサンドラ「いいから座ってなさい」
京太郎「監視カメラ!?」
アレクサンドラ「キョウタロウの考えくらい、わかるわよ……一ヶ月しかいなくても、キョウタロウはわかりやすいからね」フフッ
京太郎「う……い、いえ、その……別にシャワーシーンを想像したとかでは、けして――」
アレクサンドラ「セクハラで訴えるわよ?」
京太郎「勘弁してください!!!」
アレクサンドラ「ジョークよ……っていうか、私のシャワーとか楽しくないでしょ?」
京太郎「そんな自虐しなくても……」
アレクサンドラ「自虐とかじゃなく――いや、自虐かしらね」
アレクサンドラ「あの子たちが言うように、起伏が少ないから、女性としてのセックスアピールに欠けるのは、理解してるつもり」
アレクサンドラ「そのおかげで、この年まで――」
アレクサンドラ「……コホンッ、忘れなさい」
京太郎「はい」
アレクサンドラ「ともかく、君も男なんだし……その、あるほうがいいでしょう?」
京太郎「好みはありますけど――こだわりはないですね、あんまり」
アレクサンドラ「え……そういうものなの?」
京太郎「まぁ好きな相手なら――って、なんの話を!」
アレクサンドラ「まぁいいから、続けなさいって」
京太郎「ええええ……」
アレクサンドラ「でも好きは好きでしょ? 明華とかハオとか見てるし、押しつけられてニヤニヤしてるし」
京太郎「それはそうですけども!」
アレクサンドラ「そんななのに、ネリーと付き合ったりしても平気なんだ」
京太郎「平気って……まぁ、三人とも性格いいし、可愛らしいですからね。平気とか以前に、だいたいの男子なら土下座してでも交際申込みますよ」
京太郎「あと、胸がないと拒否反応が起きるみたいな言い方やめてください」
アレクサンドラ「なるほど……じゃあなに? 胸が大きいほうが好みだって言って告白断るのは、実は建前で、本当は本人が嫌いだったってこと?」
京太郎(なんだこの人、グイグイくるな……っていうか、妙にリアルだし)
京太郎「建前の可能性もありますけど、すべて好みのタイプじゃないと付き合わない、っていう人だったんじゃないですか?」
京太郎「そういうやつは、彼女ができても細かいところが気になって別れるか、注文つけてフラれるか、そもそも彼女できないですよ」
アレクサンドラ「……じゃあなに?」
京太郎(また、じゃあなに……か)
アレクサンドラ「そのこと気にして、気がついたらいい年になってた女は、どうしようもないおバカだってこと!?」ムキーッ
京太郎(なんか地雷に触れたっぽい!)
京太郎「い、いえ、そんな……好きな相手の好みに合わせようとする女性は、魅力的だと思いますよ」
アレクサンドラ「……そう?」
京太郎「まぁ、飾らない人が好きっていう人もいますし、悪いところだけは修正するっていうパターンも――」
アレクサンドラ「わかりにくいのよ!」
京太郎「すいませんっっ!」
アレクサンドラ「――で、どれ?」
京太郎「は?」
アレクサンドラ「参考までに! 君の好みはどれかって聞いてんの!」
京太郎(……酔ってんのかな、この人)
京太郎「うーん……ありのままの、素の自分で接してくれる女性でしょうか」
アレクサンドラ「ふむ、なるほど……そっちのパターンね、オーケー」
京太郎(どっちだよ……)
アレクサンドラ「ありがと、参考になったわ」
京太郎(なんのだよ……)
京太郎「いえ、お力になれてよかったです」
アレクサンドラ「惜しむらくは、もっと早くそれを知っていれば……ということだけれど」
京太郎「まぁ、それは……巡り合わせとかありますし。次の機会に、活かしてください」
アレクサンドラ「――そうね、そうするわ。存分に活用できそうだしね」
京太郎「っていうか、なんの話なんですか、本当に……」
アレクサンドラ「まぁまぁ、気にしないで……明日からも、よろしくね」
京太郎「はぁ……」
アレクサンドラ「……京太郎は、その人自身を見て、恋愛の可能性を探る子だとわかってよかったわ」
京太郎「そうですか?」
アレクサンドラ「ええ、とってもね……それじゃ、また明日」
京太郎「あ、はい。すいません、夜遅くに」
アレクサンドラ「子供にはそうかもね。でも大人にとって、夜はこれからよ……じゃ、おやすみなさい」
京太郎「おやすみなさい」
京太郎「……うーむ、なんともアダルティな。途中おかしなテンションだったけど、なんだかんだ、立派な大人だな」
アレクサンドラ「素のまま、か……あれ、素の私ってどんなだったかしら」
アレクサンドラ「……年下、すぎる……ってほどでもないわよね。某野球選手の奥さん、20だか30だか離れてたっぽいし」
アレクサンドラ「あと一週間じゃ、ほとんど無理だけど……彼が卒業するまでは、チャンスがあるわけだし」
アレクサンドラ「……学生と違って車があるのだって、色々有利だろうし……ちょっと、頑張ってみようかしら」
京太郎「――なんか妙な気配を感じる。まぁいいか」
京太郎「そろそろ派遣の時期だし、何人かにまた、連絡をしておこう」
京太郎「近くにいながら、顔もだせず、すみません。まだわかりませんが、来月次第で、よろしくお願いします」
京太郎「よく書き込んでくださってると、師匠に聞きまして……そちらに行くことになれば、よろしくお願いします」
京太郎「派遣の連絡は、なるべく早めにお願いします、と」
京太郎「さて、寝るか……」
~4月第三週日曜、終了
~4月第四週月曜
京太郎「――では、お世話になりました」
辻垣内父「こっちこそ助かった……またいつでも、働きに来てくれ」
辻垣内母「遊びに来てくれてもいいですからね」
京太郎「ありがとうございます」
追い回し「うっ、うっ、兄さんっ……寂しくなるっす……」
京太郎「泣くなって。次に来るときは、立派なとこ見せてくれよ」
智葉「――京太郎」
京太郎「あ、智葉先輩……ありがとうございました」
智葉「なぜだ?」
京太郎「いえ、こんな名店で働かせていただけたのも、智葉先輩のおかげですから」
智葉「……礼を言うのはこっちのほうだ。本当に助かった、ありがとう」
京太郎「お役に立てたかどうか」
智葉「立っていたさ。私が保障しよう」
辻垣内父「……そこは俺がするべきじゃないか?」
辻垣内母「野暮ですよ、あなた」
辻垣内父「むぅ……」
智葉「こっちにはあと一週間いるんだな」
京太郎「次の派遣が遠方なら、そうですね」
智葉「……長いようで、短かった。心残りがないよう、一週間を過ごしてくれ」
京太郎「はい!」
辻垣内母「智葉さんったら、先生みたいね。もっと色気のある言葉にすればいいのに……」
智葉「べ、別にいいでしょうっ」
京太郎「では……行ってきます」
京太郎「本当に、力になれたならいいんだけどな……おっ?」カガヤイテー ココイチバーン
京太郎「セーラ先輩だ……はい、京太郎です!」
セーラ『おっ、久々やな、京太郎っ! 元気にしとったか?』
京太郎「もちろんですよ。セーラ先輩も、プロでご活躍みたいで、なによりです」
セーラ『ははっ、まぁ試合出られたり出られんかったり、ボチボチやけどな』
京太郎「出てる試合では結果残してますし、これからも出番が増えるといいですね……期待してます」
セーラ『おう、任せとけ! ……って、もしかして成績見てくれてるんか?』
京太郎「ええ、知り合いの所属してるチームの戦績や、その日の得点、知り合いの得失点くらいは。牌譜が全部載ってないのが残念ですけど」
セーラ『週プ雀(週刊プロ麻雀)とかウィークリー麻雀トゥデイに載ってなかったっけ』
京太郎「あー……雑誌は、ほら。かさばるし、学生の一人暮らしでは置きにくくて」
セーラ『それもそうか。チームでは保管してるから、遊びに来たら見せたるで』
京太郎「ほんとですかっ? ありがとうございます!」
セーラ『いや、こんくらいは……ほら、あの……こんなすごいモン、もろてしもたし、な?』
京太郎「あっ、もしかして届きました?」
セーラ『おー、今朝一番にな。ビックリしたで、京太郎からってなんや、って思てなぁ。んで考えてみたら、俺の誕生日やん』
京太郎「はい。おめでとうございます、セーラ先輩」
セーラ『おう、おおきに! でも、なんでこれなん? ブレスレットとか、つけんの初めてやで』
京太郎「えーっと……」
京太郎「えーっと……似合うかな、と思いまして」
セーラ『ふーん、そうか? あんまこういうのつけへんから、ようわからんけど……』
セーラ『まぁ仕事のときんでも、つけてみるわ。サンキューな!』
京太郎「ぜひそうしてください(迫真)」
セーラ『え?』
京太郎「いえ……あ、今日もお仕事ですか?」
セーラ『試合はないけどな。練習と、関西ローカルの番組で撮影とかや』
京太郎「お疲れさまです」
セーラ『テレビはよう慣れんわ……洋榎がえらいペラペラしゃべるしなぁ。こっちは慣れへんスカートで緊張しっぱなしやのに』
京太郎「インタビューは、学生のときも多かったじゃないですか」
セーラ『やり取りだけやったらええけど、撮影されるとなると、下手なこと言えへんしな……』
セーラ『……っと、悪い。せっかくプレゼントくれて、お礼の電話やったのに、グチばっかやな』
京太郎「大丈夫ですよ。あまり言う機会がないなら、俺でよければ聞きます」
セーラ『はは、おおきに……けど、ほんまそうやわ』
セーラ『同じチームに同期の同い年がおらんから、普段はほとんどこんな話せんし』
セーラ『まぁ、洋榎とかと飯食いに行って、そこで話すくらいやな』
京太郎「なら、もっと電話したほうがいいですね」
セーラ『へ――い、いやっ、それはええって! さすがに……』
京太郎「そうですか?」
セーラ『そらそうやろ……そんなん、グチ聞かせるために電話させるとか、ほんまカッコ悪いやん』
京太郎「俺は気にしませんけど」
セーラ『俺が気にするねんって。これでも先輩やで?』
京太郎「それは知ってますけど……」
セーラ『まぁ心配せんでええって。いまもちょっと聞いてもろたし、またうまいことやっていくわ』
京太郎「慣れない仕事だからって、しないわけにもいきませんしね」
セーラ『そやな。ここまでやってこそ、やるからこそのプロなわけやし……』
セーラ『そういうとこ、洋榎とか宮永はほんまうまいわ……』
京太郎「方やそういうのが好き、方や別人格ですからね」
セーラ『正直、得意なやつに回したらええと思うんやけどな』
京太郎「若くて綺麗な麻雀選手が入ったら、宣伝になるでしょうし、テレビの仕事が多くなりますよね」
セーラ『コンパニオンとちゃうっちゅーねんなぁ……若くて綺麗?』
京太郎「はい」
セーラ『……誰が?』
京太郎「先輩がです」
セーラ『』
セーラ『あ、あ、ああ、アホかっっ! 誰がそんなっ……』
京太郎「……大丈夫、先輩が気づいてないだけで、周囲は気づいてますよ」
セーラ『そんなわけあらへんやろ、アホッ……こんな、髪も短いし、色々ガサツやし……』
京太郎「でも、現にテレビの仕事も増えてるみたいですし、チームもそういう方面でも、期待してるんじゃないでしょうか」
京太郎「それと――もしかしたら、先輩自身がそう思っているせいで、テレビのほうでも緊張するのかもしれませんね」
セーラ『そうって、どうやねん』
京太郎「その……なんというか、自分の容姿とかに、自信がないっていうんでしょうか。本当はもっと誇ってもいいはずなのに」
セーラ『だ、だからやなぁっ……』
京太郎「聞いてください。たぶん無意識でしょうけど、それで引け目を感じて、他の人ほどうまくできないのかもしれません」
京太郎「洋榎先輩は……その、自分に自信たっぷりですし、照さんも外面は完璧だって自負してますし」
セーラ『……そうなんかなぁ』
京太郎「だから――すぐには無理かもしれませんけど、自信を持ってください」
セーラ『けど、そんなんどうしたらええか……』
京太郎「服装や髪形を、少し気を遣うだけでもだいぶ違いますよ。先輩にオシャレな人がいれば、その人に相談するとかも、いいと思います」
セーラ『服装、髪型なぁ……まぁ年中執事服に言われたないけど』ハハッ
京太郎「執事服いいじゃないですか!」クワッ
セーラ『お、おう……すまん』
京太郎「コホンッ……あとは、先輩もほかのプロ選手で、綺麗だって思う方がいるんじゃないですか?」
セーラ『……まぁ、おるけど……戒能プロとか、めっちゃ美人やし』
京太郎「ドSですけどね……まぁそれはともかく。良子さんなら良子さんを参考にするとか、同じチームでなくても相談するとか、すればいいと思いますよ」
セーラ『うん……そうやんな。苦手や言うて、いつまでも愚図っててもしゃーないし……ちょっと考えてみるわ。サンキューな、京太郎』
京太郎「いえ、勝手なこと言っちゃって、すみません」
セーラ『……せっかく、こんなプレゼントまでもろてんし。ちょっと頑張ってみるわな』
京太郎「はい……頑張りましょう、セーラ先輩」
~西日本プロ飲み会
セーラ「――ちゅーことで、その……お……俺はどんな服が似合いますかねっ!?」
洋榎「くくっ……そんなんお前、なに着ても一緒やろ」
利仙「まぁまぁ、洋榎さん……セーラさんは、なにか好みの服はありますか?」
セーラ「えーっと……短パンとTシャツ。あ、ハーフパンツでもええで、あとスパッツ」
理沙「小学生!」
良子「しかも男子ですね……なるほど、話はわかりました」
良子「まぁ、どんなきっかけがあったか知りませんが、身嗜みを気にするのはいいことです。特にセーラは、西日本リーグの看板にもなりうる逸材――」
洋榎「ちょっ、うちはどうなんですかっ」
利仙「わたくしも……その、多少は……」
理沙「落ち着いて」
良子「それを言いだしたら、私や野依プロも候補に挙がります。まぁ二人は普段から、気を遣っていますし……磨けば光る、という要素を考え、まずはセーラです」
理沙「どうする?」
利仙「まずは髪型でしょうか」
洋榎「ちょっとまとめてみよか。うちのヘアゴム使て――」
良子「無理にまとめると、妙な跳ね方をしそうですね。伸ばしてゆっくり梳かしてもいいと思いますが……」
洋榎「クシは京太郎が通すんうまかった思いますけど」
良子「……ほう」
理沙「詳しく」
利仙「わたくしも興味が」ニッコリ
洋榎「……やば……」
セーラ「アホやな、お前は」
洋榎「ちゃ、ちゃいますて! その……登校中に、寝癖見つかってクシかけられただけで……」
良子「あとで説教しておきましょう……まぁともかく、伸びるのを待つ時間もないですし、この長さでできるアレンジをするのがいいでしょうね」
利仙「スタイリング剤でしょうか?」
理沙「妥当!」
良子「少々髪質は硬いですが、髪自体はとても綺麗ですしね……バラついた部分を揃えるだけでも、かなり印象が変わりますよ」
利仙「それと、目元もかからないようにしませんと」
洋榎「こっちは、その間に服装考えましょか」
理沙「……パンツ!」
洋榎「えーっと……スカートを無理に穿かせんと、パンツにするいうことですか?」
理沙「そう!」
洋榎「……うーん……そうかもしれんなぁ」
セーラ「ジロジロ見んなや」
洋榎「……ちなみに、スカートやとどんなんがええ?」
セーラ「あんなん女が穿くもんやろ」
洋榎「お前女やろ!」
理沙「……タイト!」
セーラ「……はい?」
良子「まぁ、フレアなものよりタイトなほうが、セーラの印象には合うでしょうね」
セーラ「タイト、フレア……どんなんや?」
良子「私がスーツで着ているものが、タイトなものです」
利仙「わたくしのは着物ですが……こう、裾がヒラヒラとなびくものは、フレアと言って差し支えないかと」
セーラ「ふんふむ……あ、せや! あの、これなんですけど……」
洋榎「お? なんやこれ、ブレスレット?」
良子「いいセンスですね。セーラの私物ですか?」
セーラ「えーっと……はい、まぁ。それで、これに合うような服やと、ええんですけど」
理沙「……なら、こういう――」
洋榎「絵、うまっ!」
良子「意外ですね……」
理沙「どういう意味!」
良子「いえ、驚いたというだけで……たしかに、長いよりは短いほうが、セーラの健康的な部分も魅せていけるでしょうから」
利仙「では、タイトなミニスカート、あるいはショートパンツなんかもよろしいのでは」
洋榎「短パン言うより、だいぶマシに聞こえるな……」
良子「では、ボトムにそれらを二枚から三枚、さらにパンツもいくつか用意して、それにトップスを合わせていきましょうか」
洋榎「インナーも選んだほうがええと思います」
理沙「アウターも」
利仙「……いっそ、アンダーウェアもこちらで用意してあげましょう」
良子「それ以外にも、靴やカバン、化粧品……美容室も、いいところを紹介しましょう」
セーラ(……あかん、なんか……大事になってきたで……)ゾゾッ
理沙「でも……本当に、いいデザイン」
良子「そうですね、このブレスレットは……これを選ぶセンスがあるなら、合う服装も自分で選べるのでは?」
セーラ「えっ、あー……まぁ、その……もらいもんなんで、これは……」
洋榎「なにぃっ!?」
利仙「あら、どなたに頂いたのですか?」
良子「ご両親でしょうか」
理沙「友達?」
洋榎「清水谷あたりが、選びそうではあるけど……」
セーラ「いや、その……男です」
四人「!?」
良子「な、なるほど……その男性のために、ファッションを見直そうというのですね……」
理沙「誰!?」
利仙「……わたくし、嫌な予感がするのですけれど」
洋榎「奇遇やな、うちもや……」
セーラ「……だ、誰でもええやないですか?」
良子「……伺っておきましょう。ピンときました」
セーラ「……京太郎です」
良子「はい、解散しましょう」
理沙「敵に塩は送らない!」
利仙「雉も鳴かずば撃たれまい……」
洋榎「アッホやなぁ、自分……さっきのクシの話で学習せいや」
セーラ「ちょっ、ま、待ってくださいて! 服の話はほんまっ、仕事のためなんです! お願いします!」
良子「……はぁ、わかりました。では私たちでいくつかコーディネートしておきますので、次のオフにでも見に行きましょうか」
理沙「了解!」
洋榎「んー、それやったらついでに、大分のあのうるさいんも誘ってええですか?」
利仙「銘刈さんでしょうか?」
良子「そういえば、大分はいまこっちにいましたね。構いませんよ」
セーラ「お前、自分のこと棚に上げて、よううるさいとか言えんな……」
洋榎「同じようしゃべるんでも、うちは気品があるやろ?」ドヤァ
~4月下旬某日
京太郎「そろそろ決定の時期か……いつもながら、緊張するなぁ」
モーイッポフーミダセルー ワターシマッテタヨー
京太郎「きたか……はい、京太郎です」
久『もしもし、私よダーリン、寂しかったわ』
京太郎「俺もだよ、ハニー」
明華「」ガタッ
ハオ「な、なななっ、なにを言ってるんですか、京太郎!」
ネリー「夢だよ、これ夢だよねっ!?」
アレクサンドラ「……これだから男って。もう男なんて信じない……」
京太郎「………………」
久『もしもーし? あれ、京太郎ー、聞こえてるー?』
京太郎「あ、はい。聞こえてますよ、部長」
明華「……ああ、清澄の」
ハオ「ということは、派遣先が決まったんでしょうね」
ネリー「うちになるかな」ワクワク
アレクサンドラ「男は信じないけど、京太郎は信じてた」
京太郎「で、どこになりました?」
久『ふふ、とっても素敵な学校よ。きっと京太郎も喜ぶと思うわ』
京太郎(ということは、有珠山か永水……清澄もあるか。いや、阿知賀でも……)
京太郎(しかし姫松も捨てがたい……待てよ、白糸台ということも……千里山? さすがに人妻はなぁ……)
京太郎(いや、よく考えたら同じ学校ってこともあるんだ……まだここでも、監督と明華さんにしか膝枕、してもらってないし――)
久『ちょっとー、聞いてるのー?』
京太郎「ええ、もちろんです。それで、どうなりました?」
久『うふふ、それでは発表しまーす♪ なんと、次回の派遣先は――』
久『長野県、清澄高校に決まりましたー!』
京太郎「……あれ、先月に引き続きですか?」
久『そうよー。あ、不正はないから、間違いなくね』
京太郎「その辺は疑ってませんよ。では来月、よろしくお願いします」
久『やーね、水臭い……にしても、なんか感動薄くない?』
京太郎「そう言われましても……」
久『まぁいいわ。あ、そうそう。まこの誕生日もあるから、忘れないようにね』
まこ『こら、余計なこと言うとらんで、用件伝えたら仕事に戻らんかい!』
久『はいはい……それじゃ、京太郎! みんな待ってるから……気をつけて帰ってきなさい』
京太郎「はい!」
久『それと、お世話になった学校にきちんとご挨拶、忘れないようにね』
京太郎「もちろんです。では、失礼します」
久『バイバーイ、名残惜しいわ、ダーリン』
京太郎「俺もだよ、ハニー。じゃ、切るよ」
久『全然名残惜しそうじゃないじゃない! あっ、こら――』
京太郎「ふぅ……」
アレクサンドラ「で、来月はどこ?」
ネリー「うち?」
京太郎「清澄でした」
ハオ「なんてことっ……」
明華「不正ではないにしても……なんだかやりきれません」
京太郎「そう気を落とさないでください。きっとまた、こちらに来ることもありますから……ね?」
アレクサンドラ「そうね――それじゃ、切り替えましょう」
京太郎(練習かな?)
アレクサンドラ「来月は大型連休が二回あるわ。とりあえず清澄に練習試合を申し込むか、長野で合宿できるように、計画を立てるわよ」
明華「了解です」
ハオ「すでに企画書はこちらに」
ネリー「合宿所もいっぱい調べたよ! お金かからないとこ!」
京太郎「」
【ミニ日誌】
来月は清澄に帰ります。
体育祭と、あと連休が二回ありますね。なにかできればいいんだけど……。
…………
なんか、実名オーケーの掲示板が増えてる。
なんでも入室時に、学校名が出る仕様だとか……ちょっと覗いてみよう。
『和、合宿しようよ!』
『まさか断らないよね~?』
『和ちゃんはそんな薄情な性格ではないのです』
『……どうしましょう、旧友からものすごくプレッシャーが』
『ふむ、まだ行ってない学校もあるのに二回目か……』
『もうこれは、ずっと清澄でいいんじゃないかな』
『はぁ?』
『和も優希も、そんな子ではないと信じてますよ』
『ま、まぁこういうんは仕方なか。そのうち全部回るやろし……』
『部長はいいですよねぇ……私たちなんて卒業しても、こっちに来てもらわないと会えないんですよ』
『なんもかんも政治が悪い』
『……北海道は、夏が一番過ごしやすいですし。6月で大丈夫ですよ』
『あ、いいかも~。私もハルちゃんも、ホームの試合多いし! ま、私は一回会ってるけどね~』
『卒業した先輩がすこぶるうっとうしいんだけどっ、マジで!』
『……爽は学校、出禁にしたらいいんじゃないかな』
『そ、それは少し、可哀そうでは……』
『ハルちゃん。どうしてハルちゃんって呼ばれてるの』
『私のせいじゃないんだけど……』
『新道寺ならすぐにでも駆けつけたのに……』
『他校ですよ、春センパイ』
『そうそう。福岡のことは、福岡の地元チームにお任せくださいな』
『……是が非でも、乗り込まないといけない理由ができたわね』
『か、霞ちゃん、怖いです……』
『来月は交流戦あるから、会う機会も増えますね』
『そろそろ、各県にマンション買おっかな☆』
『……私もそうしたいけど、どこかに家買っちゃったら絶対、実家追いだされるよね……困ったなぁ』
『スケールが違いすぎる』
『まぁ私は地元に実家あるからいいけど』
『佐久と試合はいつでしたか……』
『交流戦? なんだそれは』
『西と東のプロリーグが、その垣根を越えて試合を行うのですわ』
『各チームと試合できるように、結構長くなるんだけどね』
『長野には佐久があるから、当然、各チームのレギュラーも移動して来るってわけだ』
『……運が良ければ、どこかの雀荘でバッタリ、なんてことにも……』
『そう言うたら、長野には美穂子が働いとる雀荘があるって聞いたな』
『美穂子って、長野一位の福路か? おもろそーやん! 俺も行くわ!』
『そこ、私も働いてるんだけど』
『誰も聞いてないぞ、久』
『人気者だな、久』
『さすがひさです』
『清澄の元部長さん、さすがだよー』
『ソコニ、シビレル、アコガレル!』
『いや、皮肉だと思うんだけど……』
……知ってる人しかいない。
見なかったことにしておこう。
~数日後、4月最終日
京太郎「……派遣先が決まってからは、あっという間だったな」
明華「京太郎……本当に、行ってしまうんですか……?」
京太郎「はい……すいません、明華さん。こればかりは……」
ハオ「……寂しくなります」
ネリー「忘れないでね! すぐ会いに行くからね!」
京太郎「忘れないって……え、すぐ?」
アレクサンドラ「まぁ、細かいことは置いといて――」
京太郎「細かくないですよ!?」
アレクサンドラ「まぁ細かくないけど……それだけ会いたいのよ。一緒にいたいの、わかりなさい」
京太郎「……はい。で、あの、すぐって――」
ハオ「8月に全国大会がありますから、そのことじゃないですか」スットボケ
京太郎(絶対嘘だ……なにするんだ、合宿とかか?)
明華「ああ、離れがたいです……京太郎、少し抱き締めてもよろしいですか?」
京太郎「はい……って、ええっ!?」
明華「京太郎の温かさを忘れたくないんです……お願い」ジー
京太郎「……どうぞ、いくらでも」
明華「ありがとうございますっ」ギュウッ
ネリー「次、ネリー!」
ハオ「私が先です、後ろに並んでください」
アレクサンドラ「大学組も、したいなら並んでちょうだいね」
菫「……臨海って、こういう学校だったか?」
智葉「聞くな……後生だ、武士の情けだ……」
哩「まったく、困ったもんたい」
巴「まぁ、うちもお別れのときは、はるるが泣いて抱きついてましたから……他校のことは言えませんけど」
菫「そういえば、うちも淡がそうだったな……」
智葉「……そう言いながら、なにを並んでいる、お前ら」
メグ「智葉、並ぶなら私の後ろでスヨ」
智葉「メグ、お前もか!」
智葉「というかお前は、全国どこでも顔だせるだろう!」
メグ「だからと言って、母校の別れに顔をだせないのは納得いきまセン」
京太郎「ま、まあいいじゃないですか……」
菫「……あれ、こっちに顔をだしてしまったら、白糸台のときは顔をだせなくないか?」
巴「そうなりますねぇ。私も、永水は諦めてますから」
哩「新道寺まで帰ってられんばい」
菫「で、でも目と鼻の距離だし……」
明華「そっちは宮永照に任せておけば大丈夫です」
ハオ「どこにでも顔をだすなんて、随分と強欲です、白糸台の弘世菫は」
菫「私はいつまで、白糸台のと言われるんだろう……」
ネリー「たぶんずっとだよ。わかりやすいから」スリスリ
京太郎「ネリー、長くないか?」
ネリー「しっかり覚えてもらうためだよ」スリスリ
京太郎「ああ、忘れないって……よしよし」
ネリー「えへへぇ……」
アレクサンドラ「……は・や・く!」
智葉「……私の知ってる監督じゃない」
京太郎「……ありがとうございました、監督」ソッ
アレクサンドラ「……もっと強く、お願い」ギュッ
京太郎「あ、はい……こ、こうでしょうか?」ギューッ
アレクサンドラ「うん……ふふ、硬くなっちゃって」
明華「どこがですか!」ガタッ
智葉「緊張してるということだ!」ベシッ
京太郎「いや、なにしろ……よその監督で、こういう人はいませんでしたし……その、大人の女性に抱きつかれると、さすがに……」
アレクサンドラ「……やらし」クスッ
京太郎「そ、そういうことではっ……けして、監督にそんなこと――」
アレクサンドラ「ね、サンディって呼んでよ」
京太郎「!?」
アレクサンドラ「今日で、ひとまずは生徒と先生じゃないんだから……いいでしょ?」
京太郎「……一回だけですよ」
アレクサンドラ「オーケー」
京太郎「……楽しかったです、サンディ」
アレクサンドラ「~~~~~~~~~っ……ん、私もよ」
アレクサンドラ(っっ! 想像以上にっ……いいっ!)グッ
智葉「……ああ、私の知ってる監督は、もう死んだんだな」
メグ「なにが彼女をあそこまで変えたんでしょうね」
明華「愛ですよ」
ハオ「京太郎ですよ」
ネリー「おもちは変わらないのにね」
アレクサンドラ「……手厳しいから、あんたたち」
京太郎(言われても仕方ないことしてると思うんだけど……)
哩「ほれ、次は私やろ?」
京太郎「……また母校には行けませんでした。行くことになったら、色々とアドバイスお願いします」
哩「ん、わかっとるけん……元気でな、京太郎」ギュッ
京太郎「はい」
巴「……わ、私もいいかな?」
京太郎「もちろんです」
巴「……はぁ、そっか……はるるは、こんな気持ちだったんだね」
京太郎「も、もしかして巴さん、あのときはそんなに……寂しくなかった、とかですか……?」
巴「そういうことじゃないんだけどね……大丈夫、前も寂しかったよ。だから、東京でいっぱい会えて、すごく嬉しかった」
京太郎「……俺もです」ギュッ
巴(……あ、これまず……っ……)ジワッ
京太郎「……泣いてもいいです。隠してますから」
巴「っっ……バ、カッ……」ポロッ
智葉「………………」
菫「羨ましそうに睨むな。並べばいいだろう」
智葉「………………そうするか」
菫「!?」
メグ「ふふ、わかってましたよ……ウェルカム」
智葉「黙れ」
明華「見ましたか、ハオ」
ハオ「ええ、はっきりと……本当にいやらしいですね、智葉は」
智葉「お前らに言われるのは納得いかん」
ネリー「みーんなキョウタローが大好き♪」
明華(ときめきです)
アレクサンドラ(ときめいてるんだけど)
巴(と……ときめいて、ます……)
哩(ときめいとう)
菫(と、ときめいて……いるっ……)
京太郎「智葉先輩……お世話になりました」
智葉「……今朝も聞いた」
京太郎「そうでしたね」
智葉「それと……その……あ、あまり声をだすな……耳に、息が……」ゾクッ
京太郎「え?」フッ
智葉「んふぅっ!?」ビクンッ
智葉「お前、わざとやったろ!?」ゲシッ
京太郎「違いますっ、誤解です! やめっ、膝っ、変なとこ当たりますから!」
菫「……あざといな」
哩「ツンデレ気取りか」
巴「あ、あんまりそういうのも……」
明華「いーえ。最後を取ったのも戦略でしょう」
ハオ「これはしてやられましたね……」
ネリー「ああ、上書きされちゃう……」
メグ「なにをですカ……」
京太郎「はっ、はぁっ……ほんと、暴れないで、くださいっ……」ゼーゼー
智葉「お前が、悪いんだろうっ……お前がっ……お、前がっ……くっ……」グスッ
京太郎「――智葉先輩?」
智葉「っ……なんでも、ないっ……泣いてない……っ」
京太郎「……はい」ギュッ
智葉「……また、顔をだしに来いっ」ギュウッ
京太郎「はい」
智葉「……全国大会も、絶対に出ろ。優勝しろ、いいな!」
京太郎「……はい」
智葉「約束だ……忘れるなよ」
京太郎「はい」
明華「……はいはい、そこまでです!」
ハオ「京太郎っ……その約束は、私たち全員とです」
ネリー「今度は、ネリーたちと写真だから! 新聞トップだから!」
アレクサンドラ「京太郎は心配してないわ……こっちがそうできるように、努力はしておくから」
菫「……行く先々で女を誑かしてばかりだな、君は」
京太郎「ご、誤解では……」
哩「誤解?」
巴「じゃないですねぇ」
メグ「困った後輩デス……」
京太郎「」
智葉「ふふっ、そう思われたくないなら、思われないよう努力すればいい。わかったな?」
京太郎「は、はい!」
アレクサンドラ(あ、これわかってないな……)
明華「さて――それでは、そろそろですね。お身体に気をつけて」
ハオ「たまには連絡をください。できれば私に。近況は私から伝えておきますから」
ネリー「ネリーもほしいよっ!」
アレクサンドラ「ま――地元に帰るんだし、ゆっくりと休養を取るといいわ」
菫「交流戦で、プロが集まるだろうが……あいつを特別、甘やかす必要はないぞ」
哩「煌の後輩らにも、よろしく言うとってほしか」
巴「そろそろと言いながら、みんな挨拶しちゃって……ほら、京太郎くん。新幹線出るよ、乗って乗って」
京太郎「はい――皆さん、ありがとうございました」
巴「……それじゃ、私からもお餞別」
京太郎「えっ」
巴「ふふっ」チュッ
全員『!?!?!?』
京太郎「」
巴「あれ……ほっぺは海外では、友好の証なんじゃ……」
京太郎「ちょっ、巴さ――」
プシュー バタンッ
京太郎「ドアあああああああああああ! あ、ああ……」
菫「と、巴えええええええええええ!」
哩「怖か女! こいやから鹿児島女は!」
巴「てへっ♪」
アレクサンドラ「よよよよ、嫁入り前の娘が、なんてはしたない!」
明華「友好の証は、友好の感情と一緒にするからこそです!」
ネリー「明らかに違う意図だったよねー」ブー
メグ「これが真のあざとさ、賢しさでスカ……まだまだでスネ、サトハ」
智葉「わ、わわっ、私に、ふ……ふふふふ、振るな!」
ハオ「頬ならセーフ頬ならセーフ頬ならセーフ頬ならセーフ頬ならセーフ……」
京太郎「はぁ……さすが巴さん、最後にすごいことを……いい思い出になりました」
京太郎「臨海女子と、大学の皆さん……ありがとうございました――」
【4月最終日】
最後にお土産をいただきました、ありがとうございます。
お世話になった皆さんも、本当に――なんとお礼を言っていいか。
なにかあったら、いつでもおっしゃってください。
俺でよければ、力になりたいです。
留学生の多い臨海女子は、色々と苦労もありました。
それを助けてくれたのは、麻雀部の皆さんです。
恩に報いる――というわけではないけど、助けてくれたみんなになにかあれば、今度は俺が助けたいと、そう思っています。
そして、近隣の大学の先輩方も、なにかと気にかけてくださって、嬉しかったです。
麻雀だけでなく、仕事でもお世話をしてくださって、助かりました。
この一ヶ月、本当に充実していたと思っています。
またお会いできる日を、心待ちにして。
これで、失礼します。
………………
「……ふんっ」
「素直に泣けばよか」
「巴ショックで感動が飛んだんだろう」
「つ、つい、気持ちが盛り上がって……」
「誰か、永水に連絡できないんですかっ?」
「や、やめてくださいよっ……」
「ツテがないわね……」
「あそこは、言うなれば閉ざされた秘境ですから……」
「私の地元を妙な土地にしないでくださいっ!」
「お金溜め込んでそう……」
「そんなことっ――は、まぁ……なきにしもあらずと申しますか……」
「一応、私は永水に連絡できるが」
「――そ、そうでした、合同練習がっ……」
「すぐにしておきましょう」
「やめてください、菫さん!」
「……まぁ、やめておくか」
「さすが!」
「なぜです?」
「伝えた場合、巴以上の暴走を見せそうなやつが多いからだ」
「……なら仕方ない」
「ああ……京太郎の弱点、多かもんねぇ」
「結局そこなの、キョウタロウ……」
「ネリーもあと五年あれば……」
「石戸霞と……」
「神代小蒔……さすがに、あれには……」
(あとははるるも、なんですよね……はぁ、私はどうして……)ペタペタ
~5月0日、長野到着
京太郎「はー、帰ってきた……一ヶ月ぶりをすぐって感じるのは、派遣にもなれてきたのかね……」
京太郎「で――とりあえず家に帰りたいとこなんだけど、誰か迎えに来るって言ってたような……」
和「京太郎くん!」
京太郎「ん、おお、和! 久しぶり!」
和「はい、お久しぶりです……お帰りなさい。元気そうで、よかったです」
京太郎「ああ、ただいま……それに、まこさんも。わざわざ部長と副部長に迎えにきてもらうなんて」
まこ「なに、気にせんでええ……よく帰ってきたのう」
京太郎「どうです、新入部員は?」
まこ「まぁぼちぼちいうところじゃ。和と優希の後輩が来てくれたしの」
京太郎「へぇ……なら、来月の大会まで、しっかり打たないといけませんね」
和「そうですね……夏の二連覇を、奪われるわけにはいきません」
まこ「……ま、来月の話はまたにして、そろそろ行くか」
京太郎「今日は練習ですか?」
和「えっとですね……」
和「もちろん、みんな練習してますよ」
京太郎「そりゃそうだよな……それじゃ、急いで戻るか。部長と副部長が抜けてるってことは、優希か咲が仕切ってるんだろうし」
まこ「……いや、OGが来とるけえ」
京太郎「ああ……なら、安心ですね」
まこ「とはいえ、咲と打った一年になんかあっても困るけえな」
京太郎「±0とかやってないだろうな……」
和「あれ、本気でショックだったんですから」
まこ「久もおるし、全国大会も経験したし、なにより春に負けたし……ま、もうそんな打ち方はせんじゃろ」
京太郎「ならいいんですけど……とにかく、急ぎましょうか」
咲(あんまり差をつけないように、でもわざと負けないように……なら、これかなぁ?)
咲「ツモ、嶺上開花――これで上がり止めにしとくね」
一年A「ひぐっ、ぐすっ……」
一年B「ご、五連続±0……」
一年C「……私、才能ないんだぁ……はは……」
咲「」
久「さ~~~~~き~~~~~~?」
咲「ち、違うんです! みんなに自信持たせようとしてっ……」
優希「それでその選択が出るあたり、鬼としか言いようがないじぇ……」
和「」
まこ「」
京太郎「………………入りますか」
京太郎「失礼しまーす」コンコン
久「は、はーいっ……って、いまの声――」
京太郎「須賀京太郎、ただいま戻りました!」
咲「京ちゃん!」
優希「戻ったか京太郎!」
一年ズ「!!!!」シャキーンッ
一年A「あ……あれが派遣執事っ……」
一年B「ほ、本物だぁっ……清澄入ってよかったぁっ……」
一年C「生きててよかった……」
咲「…………三人とも、元気みたいだし、もう一回打とっか?」ニコッ
一年ズ「」
咲「麻雀って、楽しいよ――あたっ」
京太郎「こら、一年脅かしてどうすんだ」ペシッ
咲「ひ、ひどいっ! 先輩として指導してるだけなのに!」
京太郎「お前今後、±0禁止な。あと一年の指導も禁止」
咲「」
久「ごめんなさい、ちょっと目を離したすきに……」
京太郎「いえ、部長のせいじゃ……お疲れさまです」
優希「こらぁ! 私への挨拶はまだか!」
京太郎「へいへい……久々だな、優希。またちょっと縮んだか?」
優希「ふざけんじゃねぇじぇ! 毎日のどちゃんのおっぱい吸ってるからな、縮むどころかバインバインに――」
京太郎「そっちじゃねえし、バインバインになってねぇよ! っつかお前、そんな羨ましいことを――」
和「させてません!!」
和「そそ、それに羨ましいなら、あの……言ってくだされば、いつでも……」モニョモニョ
ムロ「……なに言ってるんですか、せんぱ――副部長」
ミカ「きっと私たちが知ってるのどちゃん先輩じゃなくなったんだよ……」
まこ「――あー、そろそろええかの?」
まこ「とりあえず、一年にも紹介せんといかんけぇ、全員手ぇ止めて、こっちに集合じゃ」
全員『はい!』
久「……まこもすっかり貫録がついて」ホロリ
京太郎「よかったですね、部長」
久「ええ……これで心置きなく、ここを離れられるわ」
京太郎「え……じょ、冗談ですよねっ!?」
久「もちろん。なにせ私、監督ですから」ドーン
京太郎「脅かさないでくださいよ……」
久「ふふ、ありがと……大丈夫よ。京太郎が卒業するまでは、ちゃんと面倒見てあげるから」
京太郎「ありがとうございます、部長」
まこ「……あんたらもじゃ」ビキビキッ
まこ「まぁ、もう知ってるようじゃけえ、簡単にな」
まこ「唯一の二年男子部員、須賀京太郎じゃ。監督のわがままで、全国に派遣されとる」
久「……わがままじゃないもん」
まこ「…………」ジロッ
久「ごめんなさい」フカブカー
まこ「まったく……京太郎、なにかあるか?」
京太郎「あ、はい……一年はこれで全員ですか?」
まこ「男子部員はとりあえず3人、女子は5人じゃな。寄付金で自動卓が一個入ったけえ、手積みも合わせて3卓で回しとる」
京太郎「わかりました。それじゃ、ひと言だけあいさつを」
京太郎「――改めまして。二年の須賀京太郎、一応、春の個人戦では優勝してます」
京太郎「まこさ――部長が仰ったように、諸事情であまりこっちにはいませんが、いるときは必ず部活に出ていますので」
京太郎「なにかあれば、気軽に声をかけてくれると嬉しいです」
京太郎「ひとまずは一ヶ月、短い間だけど、よろしく――以上です」
ムロ「…………」
ミカ「…………」
一年男子1~3「…………」
一年(女子)A~C「…………」
ムロ「背、高いね」
ミカ「私と同じくらいかな?」
女子A「か……」
女子B「かっこ……いい……」
女子C「彼女いますかっ?」
咲・和・優希・久・まこ「!!!!!!!!!」
京太郎「いません。募集中です」
女子C「なら私っ、りっこ――」
咲「…………」ニコッ
和「…………」ジー
優希「…………」ゴッ
久「…………」ニヤァッ
まこ「…………」ハァ
京太郎「え、なに、立候補っ?」
女子C「……いえ、なんでもないです……」
京太郎「……だよな」ショボン
男子1「元気だしてください、先輩!」
男子2「俺らマジ、先輩のことリスペクトしてますから!」
男子3「まだ人数足りないすけど、団体もエントリーしてみせますから!」
京太郎「……ああ、そうだな。男子団体戦に、初めて出られるかもしれないんだ……頑張ろうな!」
一年男子ズ『おおおおお――っっ!』
女子A「うっ、うっ……先輩方のガードが厳しすぎる……」
女子B「なんとか目を盗まないと……」
女子C「バレたら退部させられないかな……」
咲「そこまではしないんだけどなぁ……」
優希「どこまでやる気なんだじぇ……」
和「どこまでもなにも、その……恋愛は、自由ですし……」
久「そんな顔してなかったでしょ」
まこ「一年を脅すんじゃないわい」
ムロ「……全国の女子が、こんな感じなのかな」
ミカ「かもねー。まぁかっこいいのは事実だし、仕方ないかも」
京太郎「っと、そうだ――こっちに固まってるってことは、この2人が和たちの後輩か?」
ムロ「あ、はい! 室橋裕子、一年です! よろしくお願いします!」
ミカ「加藤ミカ、ムロとは中学、ここではクラスも同じです。どうぞよろしくお願いします」
和「室橋さんと加藤さんが、いまのところ団体レギュラー候補です」
京太郎「あとの3人は?」
咲「ルール自体は知ってるから、あとは経験とテクニックかな」
優希「全員、昔の京太郎よりはうまいじぇ」ニヒヒッ
京太郎「それを言うな……」
ムロ「私は以前、全国大会前の合宿にも呼んでいただいたんです。もう一人、高遠原の一年後輩と一緒に」
咲「あ」
和「む、室橋さん、その話は――」
ムロ「へ?」
久「……だ、だだ、大丈夫……わわ、私はもう、なんとも、もも、ももも……」
まこ「しっかりしんさい」
京太郎「……ああ、俺が行ってないからか……部長、大丈夫ですよ。しっかりしてください」
久「へ、平気よ、しっかりしてるから――」
京太郎「買いだしの荷物、届けたりしたじゃないですか。参加したようなもんですよ」
久「」
まこ「ひ、久ぁぁ――っっっ!」
優希「……なんて、残酷なんだじぇ……」
和「でも、私たちの自業自得ですよね……」
咲「京ちゃん、そのフォローはさすがにないよ……」
ムロ「すみません、私のせいで……」
京太郎「室橋さんのせいじゃないって。どう考えても俺が悪い」
ミカ「ムロは真面目だからね、色々抱え込みすぎよ」
ムロ「うっ……気をつける」
京太郎「まぁ真面目なのはいいとこだって。事務作業なんかは、真面目なほうがうまくこなせるしさ」
ミカ「花田先輩、和先輩、そのあとが室橋部長だったもんね」
京太郎「部長経験者か……その、加藤さんとレギュラー争いしてるとこに、頼むのは申し訳ないけど……」
京太郎「まこさ――部長や和が忙しそうなら、たまに手伝ってやってくれると助かる。頼めるか?」
ムロ「はい、そのつもりでした――あの、部長のことなら、まこさんで大丈夫ですよ」
京太郎「……いや、一年の前でそれはさすがにな」
ミカ「いえ、部長が仰ってたんです。京太郎先輩が名前で呼んでも、気にしないようにって」
京太郎「まこさん……」
ムロ「なにか理由があるんですか? 実は本当にお付き合いを――」
京太郎「そうじゃないけどな。ただ、その……俺にとっての部長は、久さんなんだよ。まこさんには失礼だと思うけどさ……」
京太郎「引継ぎのときにいなかったこともあって、なかなか切り替えられないっていうか」
ミカ「はぁ、なるほど……」
ムロ「仕方ない、かもしれませんね……でもやっぱり、部長に失礼かと思います」
ミカ「ちょっと、ムロ……」
京太郎「だよなぁ……まぁその、追々直していくってことで、しばらくは許してほしい」
ムロ「いえ、私が口だしすることでもないので……部長もああ仰ってるなら、大丈夫じゃないですか?」
京太郎「ならいいけど……ありがとな、室橋さん」
ムロ「はい……あ、ムロでいいですよ。和先ぱ――副部長以外は、そう呼んでますし」
ミカ「では私も、ミカでお願いします」
京太郎「んー、それじゃムロちゃん、ミカちゃんでいいか?」
ムロ「はい、よろしくお願いします」
ミカ「ちゃ、ちゃん……」
京太郎「あ、イヤか? けど、呼び捨てってのもなんだしさ」
ミカ「いえ、どちらでもいいんですけど……ほら、この背丈でちゃんはどうかなって」
ムロ「ミカおっきいもんね……」
京太郎「俺よりちょっと低いくらいか」
ミカ「あはは……すいません、かわいげのない一年で」
京太郎「いやー、んなことないって。もっと高い人も知ってるし、背丈とか関係なくかわいいって」
ミカ「えっ……」
京太郎「だから――必要以上に小さく見せようと、背中曲げないほうがいいぞ。胸張って、顔上げて、堂々と歩いてるほうが綺麗だからな」
ミカ「」キュン
ムロ「……あー、なるほど……そうやってきたわけですね、先輩」
京太郎「へ?」
ミカ「ム、ムロ!」
ムロ「はいはい」
咲「出たよ」
和「顔合わせて即日ですか。SOA」
優希「万年発情期がぁっ……」
久「人間なんてそうだけどね。年がら年中、子供増えてるし」
まこ「やめんさい、生々しい……」
京太郎「あ、そうだ――まこさん、今日の練習はいつまでですか?」
まこ「ん? いつも通りの時間までじゃ」
京太郎「なら……俺も少しだけ、参加できますね。よかった」
咲「ほんとっ? わーい、頑張っちゃうぞー」
京太郎「おいっ、やめろ、バカ!」
京太郎「それじゃ俺は、俺のできることを一年に指導しておきます」
咲「えー」
京太郎「あのな……これだって大事なことなんだぞ? みんながある程度のことをできれば、みんなが練習の時間を確保できる、いわば合理的な考えだ」
優希「うぬぅ、難しい理屈を捏ねおって……」
和「至極簡単な話ですけど……」
久「……ざ、雑用周りなら私がいるからっ」アワアワ
京太郎「慣れないことするより、部長は麻雀の指導したほうが、部員のためです……ってことで」
京太郎「掃除と料理、あと基礎的な勉強は俺が見てやる。なんでも聞くように」
一年A「……掃除はともかく」
一年B「料理……?」
一年C「勉強は、ありがたいけど……来月テストだし」
男子1「いや、料理は当然だろ。なにしろ執事だからな、先輩は」
男子2「あの派遣執事の料理がライブで見られるなんて……今日はツイてるな!」
男子3「先輩の教え、しかと目に焼き付けておきます!」
まこ「……なにを言っとる、あいつらは……」
ムロ「あいつら、あんな性格だっけ?」
ミカ「生の先輩みて、完全にやられちゃったみたいね」
ムロ「ああ、ミカと一緒か」
ミカ「ちょっ、だっ……ち、違うってば!」
京太郎「いいか、まず掃除の基本は――こうだ」シュンッ
一年ズ『』
男子ズ『さすが先輩! 勉強になります!』
一年ズ(ならんから!)
ミカ「」
ムロ「なにをやったか、まったくわかんない」
京太郎「で、料理だけど――そうだな、頻度が高いお菓子作りからにしよう。お菓子は感覚に頼らず、分量を正確に量るのがキモだ」
一年ズ(あ、こっちは普通っぽい……)
京太郎「できたのがこれだ」シュンッ
一年ズ(でもなかった)
男子ズ『なるほど……』メモメモ
ムロ「メモ取る要素、あったっけ?」
ミカ「え?」モグモグ
ムロ「なに勝手に食べてんの!」
和(っっ!? 京太郎くんの料理を食べて、平気でいるなんて……)
京太郎「勉強は――まぁテストが近くなったら、だな。宿題で困ってたら、聞いてくれていいから」
一年ズ(今度こそ普通だよね……?)
京太郎「とりあえず、中間の予想問題渡しとくから。ちゃんとテスト前までに終わらせて、テスト前には復習でもう一回するように」
一年ズ(知ってた)
男子ズ『これ友達に売っていいですか?』
京太郎「いいわけないだろ……」
男子ズ『す、すいません!』
京太郎「普通に見せてやって、欲しがったら俺に言ってこい。渡してやるから」
男子ズ『せ、先輩……』
一年ズ(……やっぱり優しいんだよなぁ)
ムロ「……うわ、緻密……解説、というかヒントがすごい……」
ミカ「本当にお金取れるレベルだね」
京太郎「――ふぅ、まぁ軽くだけど、今日はこんなとこか」
一年ズ(軽くないんだよなぁ……(呆れ))
咲「全然軽く見えないよ、京ちゃん」
京太郎「ん、そうか?」
一年ズ(言ったあああああああ! さすが魔王様!)
咲「なにか思ったぁ?」ニッコリ
一年ズ「」スマセン
~5月第一週月曜、朝
京太郎「カピー、おはよう」
カピー「ああ、おはよう……」ムニャムニャ
京太郎「……えっ」
カピー「キュウ? キュキュウ?」 (どうされました、ご主人様?)
京太郎「なんだ気のせいか」
カピー「キュッ、キュキュウッ!」 (疲れてるんですよ、今日は休みましょう!)
京太郎「そうもいかないからなぁ。後輩もできたし、出来る限り毎日、顔をだしたいんだよ」
カピー「キュウゥ……」 (そうですか……無理なさらないでくださいね)
京太郎「よしよし、ありがとうな」
須賀母「いいからさっさと行きなさい」
京太郎「うっす」
京太郎「……誰とも会わなかった」
咲「京ちゃん早すぎだからだよ!」
京太郎「人聞き悪いこと抜かすなぁっ!」
咲「なんの話よ!」
ギャーギャー
モブA「はいはい、夫婦夫婦」
モブB「これから暑くなる季節に、勘弁してくれよ……」
モブC「……ところで、クラス一緒なのは誰だっけ?」
京太郎「ほんと、変わり映えしないなぁ……」
咲「こっちのセリフだよ!」
京太郎「はぁ……せめて咲が、もうちょっと……」ジー
咲「……どこ見てるのかな?」ニコォッ
京太郎「じょ、冗談だから……」
咲「女の子にそういうの、ほんっきでセクハラだからね! 次やったら訴えるから!」
京太郎「はいはい」
咲「もっと真剣に聞いて!」
モブA「……ほんと、うんざりする」
モブB「なに、夏にいなければ、暑くなることもないさ」
咲「京ちゃんは夏も清澄です!」キッ
京太郎「……だといいけどな」ポンポン
咲「この一ヶ月、すごい大変だったんだよっ」
京太郎「わかったって。ちゃんと聞いてやるから、順番にな」
咲「うん。えっとね、まず――」
モブC「……言い合いしてたくせに、これだからなぁ」
モブD「犬が食わないどころか砂糖吐くレベルだな」
咲「でねっ、そういうことがあって……それに――」
京太郎「……悪かったな。俺がいないから、苦労させて」
咲「っ……京ちゃんが、悪いんじゃないよぉ……」ウルッ
和「……納得できません」
優希「安価は絶対だじぇ」
~月曜、昼
京太郎「――うむ、確実に俺のよりうまいな」
咲「うん、おいしいね」
京太郎「お前なに勝手に食ってんだ!」
和「咲さん、はしたないですよ」
優希「京太郎、タコスはどうしたぁ!」
京太郎「家だと台所入れてもらえねーんだよ」
咲「そのほうが、楽できるんじゃない?」
京太郎「馬鹿野郎! サボったらサボっただけ、料理の腕は鈍っていくんだよ!」
和「臨海ではそんなに……?」
京太郎「まぁな。夜は板場に入れてもらえたし、朝はちゃんと食って出たし、昼も大量生産だったからな」
優希「ほう、タコスの布教に励んでたようだな」
京太郎「……そういや、タコスは作らなかったな」
優希「なにぃ!」
咲「っていうか、大量生産ってなに……」
和「料亭のお手伝いで、朝が早いみたいですから……お昼はお腹が空くんじゃないですか?」
咲「ああ、なるほど!」
京太郎「いや、じゃなくてな。ネリーがよく食うんだよ、あればあるだけ。それをまた、うまそうに食ってくれるもんで、ついな」
咲「……ふーん」
和「そうですか」ツーン
優希「あのチビッコ……なかなかやるじぇ……」
京太郎「お前が言うな……って、あれ? なんか怒ってないか?」
三人『別に』
京太郎「そっか、ならいいけど……」
和(京太郎くんが、おもち以外に反応だなんてっ……SOA!)
咲(……あれ、でもそれって冷静に考えたら、チャンス……?)
優希(まずいじぇ……なんとかして、昼にタコスを作ってもらわねーとだじぇ……けど、楽しみにしてたっていうのも……うぅっ)
京太郎(……久々の清澄だし、昼のうちに色々調べとくか。掃除できそなとこあればいいけど)
京太郎「さて――久々の屋上は、相変わらずいいなぁ」
京太郎「……なにしてたんだっけ」
和「それはこっちのセリフですよ……」
京太郎「うぉっ!? 和か、どうしたんだ、こんなとこで」
和「急にいなくなるから、探してたんですっ」
京太郎「おお、そっか。なんか悪かったな」
和「いえ、そんな……それより、どうして屋上に?」
京太郎「えーっと……あ、そうだ。しばらくいなかったから、汚れてるとこがあれば、掃除しようと思って見回ってたんだ」
和「」
和「……はぁ、まったく……なにを考えてるんですか、京太郎くんは」
和「休めるときは休まないと、いざ動くときに動けなくなりますよ? 掃除する場所より、休める場所でも探しててください」グイグイ
京太郎「う、すまん……お、おいっ、どこ行くんだよ」
和「いいから、ついてきてください……」
京太郎「入口から随分離れたな」
和「あまり近いと、人が来たときに見られてしまいますし」
京太郎「えっ?」
和「……どうぞ。ここは日当たりもよくて、風も少し通るだけですから、いい気持ちですよ」ポンポン
京太郎「えーっと……その、それは?」
和「枕です」
京太郎「……マジで?」ジー
和「そっちじゃありません!」ガバッ
和「膝枕です! 無理に働こうとする京太郎くんは、ここで横になっててもらいますのでっ」
京太郎「……そっちはそっちで嬉しいんだけど、いいのか?」
和「究極の膝枕を探していると、風の噂に聞きましたので。よければお試しください」
京太郎「それでは、お言葉に甘えて……失礼します」コロンッ
和「ふふ、どうぞ」
京太郎「……おお、これは……いいものだ……」フニンッ
和「ありがとうございます」ニッコリ
京太郎(……見上げればおもちの山、頭の下には柔らかい太もも……最高やん」
和「……声、出てますよ?」
京太郎「マジで!?」
和「ふふっ、気をつけてくださいね? 私以外だったら、怒られちゃいますよ?」
京太郎「ああ、そうする……和以外? 和は?」
和「……京太郎くんに褒めていただいて、怒るわけないじゃないですか。むしろ嬉しいです♪」ニコッ
京太郎「……そっか」ドキッ
和「……顔、赤いですよ?」フフー
京太郎「気のせいだって」ゴロッ
和「はい、そういうことにしておきますね」ニコニコ
京太郎「リフレーッシュ! さ、部活行くぞ!」
咲「なんなのそのテンション……急にお昼いなくなるし、戻ってきてからずっとそんなだし……」
京太郎「べ、別になんでも……」
咲(怪しい……)
京太郎「そういえば、大事なことを決めるのを忘れてた」
咲「なに?」
京太郎「……そういうとこ、お前は常識人で助かるなぁ」
咲「へ? どしたの、いきなり……」
京太郎「照さんだったら、そういうとき『子供の名前? 大丈夫、男女五人ずつ考えてる、照だけに』とか言ってくるからな」
京太郎(まぁそこもかわいいんだけど、と言わないのは、俺の成長の証だ)フッ
京太郎「で――大事なことってのは、週間重視行動な」
京太郎「部室行くまでに、今週はなにに力入れるか、考えとこうぜ」
咲「普通に麻雀しようよ……」
京太郎「そうしたいのは山々なんだけど、色々とやるべきことがあるんだよ。お前だって、毎日うまいもの食べたいだろ?」
咲「そりゃそうだけ――ま、毎日!?」
京太郎「おう? そりゃ、毎日差し入れするんだし、執事重視ならお菓子だって気合入るだろ」
咲「……ああ、そういうことか……もう、まぎらわしいなぁ」ブツブツ
京太郎「なにがだよ……」
~放課後、部室
京太郎「さて、まずは食材の確認だな」
咲「そんなの置いてないから(呆れ)」
京太郎「いや、朝から置いといたから大丈夫だ」
咲「……朝から執事重視って決めてたでしょ」
京太郎「これは重視とか関係ない、普通の行動だから」
咲「京ちゃんがどんどん、私の知らない京ちゃんになってく……」
京太郎「……俺からしたら、お前が俺の知らない咲になったんだけどな」ボソッ
咲「? なにか言った?」
京太郎「いや……ま、こんだけあれば、全員の三日分の差し入れにはなるだろ」
咲「それだけあって、三日分なんだ……」
まこ「……京太郎や」
京太郎「あ、お疲れさまです」
まこ「うむ、お疲れ……それと、その食材のことじゃ」
京太郎「わかってますって」
咲(部長の注意だとちゃんと聞くんだ……)
京太郎「あとで調理室借りて、冷蔵庫に入れときますから」
咲(違う、そうじゃない)
まこ「わかっとるならええわい。ほいじゃ、部活始めるかの」
咲(そっちであってた!?)
和「おはようございます……どうしたんですか、咲さん。百面相して……リリアン女学園のロサ・キネンシスみたいですよ?」
優希「そういえば声が似てるじぇ」
咲「もう誰にどう突っ込んでいいか、わかんないよ……」
ムロ「……さすが高校、色々とレベル高いなぁ」
ミカ「そういうことじゃないんじゃないかな」
京太郎「そういや、部長は来てないのか……」
咲「もうちょっとしたら来ると思うよ。来ないときは大学か、ルーフトップでアルバイトだって」
京太郎「なるほど……まぁ部活してれば、気がつくといるわけだな?」
咲「そうだけど……妖怪みたいだから、そういう言い方すると」
京太郎「そんなつもり、微塵もないんだが……」
和「では、練習始めましょうか」
まこ「じゃの。ほいじゃ、三卓にわかれて始めんさい。手が空いとるもんは、レギュラーのとこで、牌譜取ってくれ」
京太郎「それは俺が――」
男子1「いえいえ、それは俺が」
男子2「先輩の手をわずらわせるなんてっ」
男子3「先輩は、先輩にしかできないことをお願いします」
京太郎「バカ、お前らが練習しないでどうすんだ。入部したての楽しい時期なんだから、いまのうちに練習の楽しさを覚えとけよ」
男子ズ「せ、先輩っ……」ウルウル
まこ「……耳が痛いわ」
和「だ、大丈夫ですよ。京太郎くんも入部当初は、練習できてましたから……」
咲「……はは、私が入ってから、できなくなったんだよね……あははは……」
優希「咲ちゃんのせいじゃないじぇ!」
京太郎「……ま、まぁいまは、新入部員がいるから、ちょっと思いだしてるだけだろ。すぐにいつも通り、気にしなくなるはずだな、うん」
京太郎「……俺も部活するか」
京太郎「――よし! なら練習するか!」
まこ「……ふむ、ほいじゃ、誰が入るかの」
咲「はい!」
優希「まぁ、私が入らんわけにもいかないじぇ」
和「あの……私も、久しぶりですから……ぜひ、一緒に」
ムロ「私もできれば」
ミカ「私も、京太郎先輩と打ってみたいですね」
まこ「モテるのう」カッカッカ
京太郎「大会近いですしね……じゃ、おとなしくくじ引きで決めましょう」
咲「用意いいね」
京太郎「対局相手決めるのに半荘待つの、疲れるからな……」
和「?」
優希「よくわからんが、大変だったみたいだじぇ」
ミカ「やった! やりましたよ!」
咲「……よかったね」
ミカ「」ヒッ
和「咲さん……」
咲「じょ、冗談だからねっ!?」
優希「シャレになってないじぇ……ふふん、まぁいい。久々に揉んでやるじぇ、京太郎!」
久「あら、私もだわ。なんか悪いわねー」
まこ「!? おまぁ、いつん間に……」
久「ま、いいじゃない」
京太郎「どうぞ部長、お疲れさまです」スッ
久「おー、ありがとう……んくっ、んくっ……ぷはぁっ!」
久「さーて、それじゃ始めましょうか」
まこ「飲み方がおっさん臭いんじゃ、わりゃぁ……」
久「自分の話し方を顧みてからいいなさい」
ムロ「それでは牌譜を――あ、半荘でいいですよね?」
京太郎「うん、それで大丈夫――で、いいよな?」
優希「東風戦でもいいんだじぇ?」
久「南場もないと、優希の練習にならないし」
ミカ「お、お手柔らかに……」
京太郎「ああ……まぁリラックスしてな。先輩二人も、空気くらい読んで――」
優希「はぐはぐ」
久「ん?」パチンッ
京太郎(なんかタコス食ってるし、髪留めてるし……やばいっぽいな)
ミカ「京太郎先輩?」
京太郎「すまん、ミカちゃん」
ミカ「へ?」
京太郎「ちょっと本気らしい、あの二人」
ミカ「えええええ!?」
京太郎「ま、まぁいい経験になるし」
ミカ「想像を絶する経験って、経験値にならないんですよね……」
京太郎「――ま、あとで指導するから、許してくれ」
ミカ「え、1対1ですか?」
京太郎「でもいいけど?」
ミカ「ぅわっかりました! 頑張ります!」
久「……ふーん。随分優しいのね、一年生に」ムスー
京太郎「いや、一年に指導するのは当然じゃないですか」
久「」
優希「対局前から煽っていくぅ!」
京太郎「そういうんじゃねーから!」
久25000→
ミカ25000→17000
優希25000→
京太郎25000→33000
京太郎(……やばいなぁ、すぐ出そうだ……上がっていいもんだろうか)
京太郎(上がらないと二人にやられるし……でも上がれば、二人に色々言われるし……)
京太郎「はぁ……」
ミカ「ど、どうしたんですか?」トンッ
京太郎「ああ、やっぱり……」
ミカ「え?」
久「……上がるならきちんと上がりなさい。失礼でしょ」
京太郎「――すいません。ミカちゃん、それロンだ」
ミカ「わひゃっ……あ、はい」
京太郎「8000点な」
ミカ「うぅ……いい感じだったんだけど……あれ、優希先輩? どうかされました?」
久「そういえば、調子出てないわね」
優希「う、こんなはずでは……い、いや、これからだじぇ!」
京太郎「優希が不調なら、ちょっと楽になりそうだな」
久「あらー、甘く見られちゃってるわー」
京太郎「……でもないですね、はい」
久25000→
ミカ25000→17000→1000
優希25000→
京太郎25000→33000→49000
京太郎「一本届かず、か」
ミカ「うぅ……またぁ」
京太郎「ご、ごめんな……倍満だ」
ミカ「いえ……やっぱり強いんだなって思います。頑張りますから」
京太郎「すごいな」
ミカ「え?」
京太郎「いや、俺の場合、優希や和に毟られまくって、かなりへこんだからさ……」
京太郎「そうやって前向きになれるなら、俺なんかよりもっと強くなれるだろうなって」
ミカ「……え、えへへ、そうですかね?」
京太郎「ああ、もちろん……さ、続けるか」
ミカ「はい!」
優希「うむぅ、おかしい……なんか、重たいじぇ……」
久(……東場なのに、優希の調子が悪いのか……それとも、京太郎がおかしなことやってるのか……)
咲「……京ちゃん、いつの間にそんな……」ゾクッ
和「咲さん?」
咲「ううん、なんでもない……」
まこ「そろそろ終わりかもしれんな……しかしまた、ずいぶん強くなりおったわ」
久25000→24000
ミカ25000→17000→1000→4000
優希25000→24000
京太郎25000→33000→49000→48000
京太郎「……うっ、三人で結託されてる……」
久「人聞きの悪い。協力して強者を押さえるのは当然の戦略よ」
ミカ「あははは……ありがとうございます、安全牌増やしてもらって……でも、なんでわかるんですか?」
優希「京太郎のクセというか、そんな感じだじぇ」
京太郎「ミカちゃんだけテンパイ、か……次でラストだな」
久「24000差か……三倍満、どっかから引っ張らないとダメなのねぇ」
優希「役満ならお釣りがくるじぇ」
京太郎「そんなあからさまな手、警戒するわっ」
ミカ「えーっと……直撃で、三倍満ですね、私は」
優希「役満ツモでもいけるじぇ」
京太郎「いかさねーよ!」
点数省略 京太郎トップ
京太郎「よし、ロンです! 意外ですね、部長の素直な捨て牌なんて」
久「なにそれ、失礼しちゃう」プンッ
京太郎「す、すいませんっ」
優希「裏の裏ってやつだじぇ」
久「裏の裏の裏ってされちゃったけどね」
久(……それだけじゃないみたいだけど)
ミカ「なんとか箱割れ回避できましたぁ」
京太郎「お疲れさま」
ミカ「はい、ありがとうございました」
京太郎「それじゃ、ちょっとだけ検討と――簡単に、実戦で使えるテクニック、教えておくから」
ミカ「ホントですかっ? やったぁ♪」
優希「て、テクニックなんて……やらしい男だじぇ」
久「ケダモノね」
京太郎「麻雀の話ですから(迫真)」
京太郎「しかし……優希のやつ、調子悪そうだったな。大丈夫かな……」
咲「京ちゃん、気づいてないんだ……」
京太郎「へ?」
咲「……ううん、なんでもないよ」
咲「それより、そろそろ休憩おしまいだよ?」
京太郎「おっと、それはいかん――急いで作ってこないと」
咲「じゃなくて! 部室戻ろうってこと! もう!」
咲「京ちゃん、京ちゃん! 次は私と!」
優希「待てい! 私のリベンジが先だじぇ!」
和「あの、私も……久しぶりに、京太郎くんと……」
「俺も打ちたいです!」
「京太郎先輩と、ぜひっ……」
ミカ「ムロは?」
ムロ「……打ちたいけど、先輩たち差し置くっていうのも……」
久「あら、それならまた、クジ引く?」
まこ「と、言われとるが?」
京太郎「すいません、電話出ていいですか?」
久「……マイペースよねぇ」
京太郎「でも、出ないのも失礼かと」
まこ「誰からじゃ?」
京太郎「咏さ――三尋木プロです」
部室『ざわっっ……』
咲「………………」
和「またさらっとすごい名前出てきますもんね」
優希「でもそれを逃す手はないじぇ! 京太郎、構わん! でるんだじぇ!」
まこ「……まぁ、出んわけにもいかんわな」
京太郎「はい。それじゃ、少し外しますね」
久「……そういえば、佐久と横浜だっけ。交流戦」
まこ「ほかにも2チームあるじゃろ……どこじゃったかの」
和「えっと、たしか――」
京太郎「お待たせしました。京太郎です、お疲れさまです」
咏『おう、お疲れ~。いやー、長野は寒いねぃ』
京太郎「え、そうですか?」
咏『んにゃ? 気分で言ってみただけ~』
京太郎「まぁ、この陽気ですから……えっと、いまどちらに?」
咏『ああ、佐久の練習場~』
京太郎「交流戦の前ですか?」
咏『だねぃ。まぁそれも終わるから、ちょっとそっちまで行けたらな~って思って。どうよ?』
京太郎「こちらとしては大歓迎ですが……いいんですか?」
咏『今日は出ないかんね~。んじゃ、すぐ行くから待ってろよ~』
京太郎「近くまで来られましたら、ご連絡ください」
咏『へいへーい。んじゃまた~』
靖子『いつまで電話してるんだ、お前は……』
咏『あ、靖子おつー。清澄行くけど、お前どう?』
靖子『私は用があって……それより、いまのでお前の後輩たちがすごい顔したぞ。何人か連れてってやれ』
咏『ん~、清澄は手狭だしねぃ。あんま連れてってもあれだし……じゃ、一人だけね~』
京太郎(……電話、こっちで切っていいのかな……あと、お二人くるって考えておくか)
京太郎「お待ちしておりました、咏さん」
咏「お~う。あ、先週は世話んなったねぃ」
京太郎「いえ。簡単なものしかご用意できなくて、申し訳ありません」
咏「いやー、あんなとこで、真面目にホットケーキ焼いた客なんて初めて見たって……ところでさ」
京太郎「はい?」
咏「あの……白糸台――いや、もう卒業してんのか……あの、弘世とは、その……」
京太郎「まぁ、照さんの応援です」
咏「……そんだけ?」
京太郎「さすがに、ホームゲームでしたから。咏さんの応援、というわけにも……」
咏「いや、そういうことじゃなくて……あー、まぁいいや。ま、そんだけわかりゃ、十分さね」
京太郎「はい……そちらの方は?」
咏「やー、それがさ。靖子も理沙さんも来られないっていうんで、代わりに――」
咏「で、代わりに後輩一人。あれじゃん、練習相手にいいだろ?」
京太郎「たしか、辻にもお越しくださいましたよね。ありがとうございました」
「お、覚えててくれたんですかっ!」
京太郎「もちろんです。お客様のお顔は忘れません」ニコッ
「」ポー
咏「……ったく、女の顔はすーぐ覚えやがって……」ブツブツ
京太郎「では、中へご案内します」
咏「あいよー」
最終更新:2026年01月18日 23:41