~6月第一週月曜、夕方
京太郎「――あ、放送が」
由暉子「下校時刻です。まぁその予鈴という感じですけど」
成香「それじゃ、片づけて掃除を――」
揺杏「掃除……?」
「あの、申し訳ありません、先輩……」
「どこをどう掃除すればよいか、わからないので……」
「よろしければ、ご指導いただけないでしょうか」
京太郎「いいよ、任せな」
「あ、ありがとうございますっ」
京太郎(……だよなぁ。お嬢様だと、そういうとこがわからなかったりするよな、うん)
揺杏(絶対勘違いしてるぞ、あいつ)
成香(この状態から、さらにお掃除できるんですか……)
由暉子「私たちは、牌を磨いておきましょう。京太郎さん、それでいいですか?」
京太郎「ああ、頼んだ。明日の朝、練習の前に台はメンテしておくから」
揺杏「……いま、なんか妙なことを聞いたような」
成香「朝練……したことありましたっけ」
由暉子「爽先輩が、するわけありません」
揺杏「だよな……んー、まぁ私から京ちゃんに言っとくわ」
成香「うん、お願いします」
京太郎「掃き掃除の基本は上から、そして四角いところは丸く掃かないよう、端を意識して――」
(ピカピカにしか見えない……)
(でも、覚えないと……)
(京太郎さま、真面目で素敵……)
(同じクラスの先輩方が羨ましいです……)
京太郎「――こんなとこかな。それじゃ、遅くならないうちに帰ろう」
揺杏「だな。よーし、忘れ物すんなよー」
成香「真っ先に立ちましたね」
由暉子「飽きてたようですから……」
京太郎「まぁ地道な作業だからなぁ……いいよ、途中ならメンテと一緒に続きやっとくからさ」
由暉子「そういうわけにも……」
京太郎「いいからいいから……あ、先輩。鍵は先輩が?」
揺杏「ん、ああ。私と、合い鍵は由暉子な」
京太郎「ほかにあれば、俺にも……」
揺杏「残りは……チカセンと爽だっけ?」
成香「私も持ってますけど……」
揺杏「そっか、去年からの持越し分か……」
京太郎(なんで五本も……)
由暉子「でしたら、私の分は京太郎さんが持っててください」
京太郎「いいのか?」
由暉子「はい。あ、でも用事があるときは、一緒に来ていただくかもしれませんけど……」
京太郎「ああ、それくらいなら喜んで」
由暉子「よかったです……では、お願いします」
揺杏「おーい、イチャつくのもいいけど、急げー。そろそろチャイムなるぞー」
京太郎「……じゃ、帰るか」
由暉子「はい」
由暉子(否定されませんでした……ちょっと嬉しいです)
京太郎「……ああいう学校だと寮っぽいんだけどなー。みんな自宅とは……」
揺杏「寮生もいるけどな。麻雀部だと、一年の二人だけか」
京太郎「へー……って、なんでここに! 駅まで送ったじゃないですか!」
揺杏「いやいや、京ちゃん家ってどんなとこかなーって思って……学校から近いねー、これは危ない香りがする……」
京太郎「なにがだよ……」
揺杏「……一応クリスチャンの学校だから、そういうの禁止だからな? クラスメートとかユキ連れ込まないように」ボソッ
京太郎「!? しねーし!」
揺杏「……ならいいけど。そんじゃ、また明日――あ、朝練とか考えなくていいからな?」
京太郎「しないんですか?」
揺杏「んー……たまにならってことで。ただ、うちはミサとか色々で朝時間ないし、空いてる人だけで、っていうほうがいいと思う」
京太郎「なるほど……わかりました。ありがとうございます」
揺杏「うん! ま、いいってことさ……じゃ、お疲れー」
京太郎「……送らなくて大丈夫なのだろうか」
揺杏「あ、うち近所だからへーきへーき」
京太郎「……本当かなぁ」
~夜
京太郎「――ま、今度送っていく機会があれば、確認しておこう」
京太郎「お隣さんは……まだ帰ってらっしゃらないな。会社勤めの方かな? お疲れさまです……さて」
京太郎「北海道ではなにをするべきかな……」
京太郎「判定関係ないのも含めて、4ゾロが3回か……大丈夫かな」
京太郎「まぁ初対面はあと一人だし、そこで4ゾロってことはないだろ。うん」
京太郎「とりあえず今日は、誰かに電話しておこう……初日だしな」
京太郎「……久しぶりに巴さんに電話しておこうかな」
京太郎「たぶん先月も、初日に巴さんにかけたな……あのときは、色々あったからな」
京太郎「……あ、もしもし、巴さん。京太郎です。夜分にすみません」
巴『はい、こんばんは。北海道はどう?』
京太郎「いやー、まだ着いたばかりでして、なんとも」
巴『おいしいものがいっぱいだと思うけど、外食ばっかりしないようにね』
『誰に言ってるんだ……』
『むしろ自分たちが注意すべきだ。特に間食……』
『体育がないせいで、ここまで……迂闊やったと』
京太郎「……改めましょうか?」
巴『あはははは、大丈夫だよ。追いだしておくから』
『なんか恐ろしいことを言ってるが』
『そんなことになったら、永水の連中に情報をリークしてやる』
『私らを追いだして、二人でこっそり電話しとった言うだけで、大惨事待ったなしばい』
巴『ちょっと、本当にやめてくださいよ!?』
京太郎「……仲良くやってらっしゃるみたいで、なによりです」
巴『遠慮がなくなったっていうのはあるよね……あと、三人の本性も見えてきたよ』
『ほう、それは興味深い』
『巴が私たちをどう見ているか、か……ふむ』
『意外と可愛い、意外とエロい、意外とズボラ、この辺りやなかか?』
京太郎「そうなんですか?」
巴『全員に全部が当てはまってるような……』
京太郎(マジか! 智葉先輩、エロいのかっ……)
巴『京太郎くーん?』
京太郎「お、おっす!」
巴『いまの無言でなにを考えてたか、当ててあげようかー?』
京太郎「ヒェッ」
京太郎「ぜひお願いします!」
巴『はぁ……』
京太郎「……あの」
巴『智葉さんは、下着がわりと派手だよ』
『!?』
京太郎「ブフォッ!?」
巴『サラシやめて、下着買うようになったみたいだから……で、店員に勧められるままに買ったせいだろうね』
『お前っ……や、やめろぉっ!』ガタガタッ
『哩、手伝え』ガシッ
『面白うなってきたと』ワクワク
京太郎「そ、そうなんですか……」
巴『まぁ趣味っていうわけじゃないから、厳密には京太郎くんの期待した答えじゃなかったと思うけど』
『きょうっ……お前っ、そんなことを聞きたがるとは……覚えていろ!』
『だが内心喜ぶ智葉であった、か』
『自分だけ興味持たれて調子乗っとるんやなかか』
京太郎「後ろ大変じゃないですか……あと、俺も」
巴『聞きたがるのが悪いんだよ、反省しようね?』
京太郎「すいまえんでした;;」
巴『まったく……永水にいたときは、そういう部分はこっそりしてたのに、どうしてそうなっちゃったかなぁ……』ハァ
京太郎「あ、あっちはほら、神聖な空気というか……その、小蒔先輩もいらっしゃいましたし……」
巴『確かにね。姫様の前でそんなだったら、
霞さんのお仕置きが飛んでたと思うよ。一日動けなくなるやつ』
京太郎(こえええええ!)
巴『いい子にしててよかったね?』クスクス
京太郎「い、いまもしてますって。こっちもキリスト教系の学校ですから」
巴『ふーん、本当に?』
京太郎「本当ですよ」
巴『あの子……えーっと、副将の……』
京太郎(ドキッ)
『真屋だ』
『真屋由暉子』
巴『そうそう、真屋さん……あの子とは、どんな感じかな?』
京太郎(怖いよぉ、ふえぇ……)
京太郎「すっごいです。俺は人類の神秘を見ました」
巴『』
京太郎「巴さんも一度見たらわかると思います」
巴『あのさぁ……』
京太郎「わかってくださるはずです」
巴『……霞さんより?』
京太郎「霞さんは、背丈も考えれば良バランスです。でも由暉子はやばいです」
巴『ああ、身長か……なるほどね』
京太郎「こういう子っているんだなって……いや、本当にびっくりしますよ、ガチで」
巴『……で、それは私へのあてつけだと思っていいんだよね?』
京太郎「なに言ってるんですか、違いますよ」
巴『……そうなの?』
京太郎「いい機会なので、誤解を解いておきたいんですけど――」
巴『誤解じゃないでしょ?』
京太郎「う――と、とにかく! えっと……確かに! 嗜好としてはそういう傾向があります、それは認めます!」
巴『ほら』
京太郎「でも、それがすべてとは思ってません!」
巴『……あ、うん……うん?』
京太郎「仮に好きになった人が、ノーおもちだったとするじゃないですか」
巴『わかった、ケンカ売ってるんだね』
京太郎「ち、違いますって! その……それでも好きになってるってことは、俺が重視してるのはそういう点じゃないってことですよ」
巴『でも大きいほうがいいんだよね?』
『……なんの話をしてるんだ、さっきから』
『口を挟んだらまずい、というのはわかる』
『青筋浮かんどるばい……』
京太郎(……どうやら地雷を踏み抜いたらしい)
京太郎「一緒にいて落ち着ける相手がいいです、俺は。そこが体型よりも、なによりも重要です」
巴『……すぐ怒る相手はイヤってことだね、ゴメンね』
京太郎「!?」
巴『あはは、うそうそ。いまのは冗談だよ』
京太郎(笑えねえええええええええ!)
巴『まぁ、その……いまさらだしね、京太郎くんの好みについてはわかってるから、別に怒ってないよ』
巴『そもそも私に、怒る……理由とか、ないからね』
『……怒ってたよな?』
『間違いなくな』
『理由も明らかやろ……』
巴『ないからね!』
京太郎「――いえ。俺のほうは、怒られても当然ですよ」
巴『そんなことないでしょ……』
京太郎「ありますって。せっかく久しぶりに巴さんに電話したのに、智葉先輩や由暉子の話するなんて、不機嫌にさせて当然の、失礼な行動です」
京太郎「すいませんでした……ただ、その……」
巴『なに?』
京太郎「いえ、いつもニコニコしてて、怒ってもメッて感じだった巴さんが怒ったのが珍しくて……少し、楽しんでしまいました」
京太郎「そのことも、申し訳なかったなって……」
巴『はぁ……いいよ、もう。京太郎くんが小学生男子だってことは、よくわかりました』
京太郎「そ、そこまでですか……」
巴『女子の嫌がることして、怒らせて楽しむ子は、小学生だよね?』
京太郎「……返す言葉もございません」
巴『反省しなさい』
京太郎「しました……」
巴『なら――ほかの子には、しないようにね。わかった?』
京太郎「――はい! ほかの子だけじゃなく、巴さんにもしません!」
巴『うん、よろしい。じゃあ次の電話のときは、楽しい話題でお願いね』
京太郎「心得ました!」
『なんとかなったようだな』
『我々の勝利だ』
『なんもしとらんやろ……』
巴『……まぁ実際、それですべてが決まるなら、とっくに霞さん大勝利だしね』ボソッ
京太郎「はい? あの、なにか――」
巴『ううん、なんでも。じゃあ、新しい学校だけど……予選まで、無理しないようにね』
京太郎「――はい。ありがとうございます」
巴『うん。じゃあ、またね。おやすみ』
京太郎「おやすみなさい、巴さん……ありがとうございました」
京太郎「……はぁ、なんとか許してもらえたって感じか。反省しておこう」
「北海道だけど、結構暑いな。けど湿気は少なくて過ごしやすいかも、春も来てみるといい」
「札幌のルーキー二人が最悪です。次のカード、咏さんの応援に命かけます」
「これすごくね? 普通のスーパーにこの食材、さすが北海道だ。なにか食べたいのあれば、クール便で送るぞー。一品だけな」
京太郎「――よし、こんなもんかな。寝ようねよう」
~6月第一週月曜、終了
【6月第一週月曜】
到着は昨日ですが、そのことは考えないようにします。
そして今日は登校初日、キリスト教系お嬢様学校ということで、やや緊張。
とはいえ、やはり同年代の方々というだけあって、快く受け入れていただいたように思う。
本日は部員の皆さん、一年含めて7人に挨拶し、掃除を行う。広い学校は、なかなかやりがいがある。
あとは、休憩の時間に軽めのモノを振る舞わせていただいた。次はもう少し、凝ったものにしよう。
清澄でアシスタントに頼っていたのを実感、早めに勘を戻す必要がある。
ともあれ、明日からも頑張ろう。
…………
――と、こんなとこか。
あとは生活もだな、料理と掃除と洗濯を自分でやるのも久々だし。
『やっぱ男子がいると違うな。男の目を意識すると、女が磨かれるっていうし』
『意識していたようには見えませんでしたが』
『私は……まだちょっと、怖いです……あ、でもそういう怖いではないです』
そういうってどういう……まぁ、女子校ならそういうこともあるよな。気を遣っていこう。
『京ちゃんなにしたの』
『京ちゃんはそんなことしない。きっと誑かしたのがいる』
『残ってるのって、去年の一年と二年でしょ? つまり……あっ』
違うから! 関係ないから、変な憶測しないで!
『まぁ京太郎に限って、誑かされてつい……は断言するけど、ねーですよー』
『ですよね。それだったらうちにいたとき、大変なことになって婿入り決定ですし』
『ちょっといらっしゃい』
『あ、違うんですお姉さまゆるくぁwせdfgyふじこ』
『京太郎は優しいから、きっと誤解があっただけ。すぐにわかってもらえる』
……俺ってやっぱりそういうイメージなんだな。これでも隠してるつもりなんだけど。
『隠せてると思っとるようやけど、全然やで? 具体的には、うちが太もも見る目と同じ目ぇしとる』
マジかよ、俺最低だな。
『私はまったく気にしないので構いませんが、見られる人によっては気にされると思いますし、控えるべきではないかと』
『私もまったく気にならないしむしろアピールしたいとこだけど、気にする人はいるから、確認したほうがいいと思う』
『私も全然気にしないしむしろ誇らしいくらいだけど、気にする人のは見ないほうがいいんじゃないかな』
『うちも全然平気やけど、見られて困る子もおるやろし、見やへんほうがええと思うで』
『私もまったく気にしませんが、執拗に見られて委縮する方もいらっしゃいます。気をつけてくださいね』
『私も気にしないので存分に見ていただきたいですが、コンプレックスに思っている子もいるでしょう』
『私も気にしませんが、学生時代には色々あります。気を遣うのがジェントルマンのマナーでしょうね』
うーん、誰が誰やらわからん……とりあえず、常に気をつけておけば問題ないか。
『もうちょい育ったら見せてあげるねー。次はEだよ、E!』
『私はもうこの辺で……あんまり育つと、色々……』
『大丈夫、私が毎日成長を見守ってるからね!』
『ちょっとこっちおいで~』
『ち、違うのですお姉ちゃくぁwせdrftgyふじこ』
玄さん、自重。あと練習中にメールで写真要求すんのやめてください。
――――――――
~清澄
「はぁぁぁ……」
「ふぅ……」
「おぉぉぉぉぉ……」
「しゃきっとせんかい!」
「大丈夫でしょうか、予選……」
「そうねー。これで突破できなきゃ、再来月東京で会えないわねー」
「さぁやるよ、優希ちゃん! 和ちゃん!」
「当然です。龍門渕は春に出場しましたし、夏はこちらに譲ってもらわないと」
「ここから先……東二局は来ない!」
「わかりやすいですねー、先輩方……ってことで、ムロ勝負!」
「……いいよ、やろう。そろそろレギュラー決定だしね」
「あらあら、みんなやる気になったわねー、青春ねー」
「……まぁやる気ださせたなら、別にええわい」
~永水
「……あの、霞さま……明星は?」
「平気よ、寝てるだけだから」ニコニコ
「明星ちゃんも、夜が早いんですね。私もそろそろ……」ウトウト
「姫様ー、寝るならお布団に入るですよー」
「突然だけど、明日北海道行ってもいい?」
「いいわけないでしょ……どうしたの、春ちゃん」
「京太郎が北海道はいいところだから来てほしいって」
「社交辞令ですよ、普通に」
「行ってどうするんですか、春」
「わっ、姫様起きましたよー」
「当然……鹿児島のよさを伝えて、鹿児島に連れ戻してくる……」ゴッ
「許可します」
「私も協力します」
「いやいやいや、ダメですって……霞さま、姫様! 正気に戻ってください!」
「……私はなにも聞いてないですよー」
~宮守卒業組
「これ、一人はシロね……」
「まったく京太郎くんは!」
「トヨネ、サエ、カカナイ?」
「わわ、私は別に……ちょ、ちょっと恥ずかしいよー」
「そうね、私も普通に恥ずかしいわ……」
「……見られてたのは気づいてたんだね」ペタペタ
「クッ、コロセ」ペタペタ
「それ別々のだよー。くっは如月千早さんだよー」
「っていうか、あの頃はかなり露骨だったからね、視線……いまも変わんないのかなー」
「有珠山って、あの子でしょ? 副将の――」
「ユッキ!」
「それ姫川友紀ちゃんだよー。有珠山は、真屋由暉子ちゃんだねー。ファンサイトもあるよー」
「あの子を新世代アイドルにするために、頑張ってたんだってね、去年は」
「そういう不純な目的はどうかと思うなぁ」
「……ナニカ、リユウ、アルノカモ……」
「う……まぁそうだけど……」
「エイスリンは、色々鋭いわよね」
「由暉子ちゃんのためだったとしたら、今年も頑張るのかなー。北国勢として、応援したいよー」
「まぁうちは潰れちゃったっぽいし、地元の別高校ってのも、ピンとこないしね……そっちでもいいかな」
「謎の上から目線だね」
~阿知賀
「宥さん……あの、玄は……?」
「ちょっと疲れが出たみたいで、寝てるよー」ニコニコ
「そう……まぁいいけど。最近練習中の視線がヤバくなってきてるし」
「……どうやって育てたか、聞かせてほし……」
「はぁっ!? え、いや、えっと……ふ、普通に食事と運動に気をつけてただけだけど……」モジモジ
(……ほんとなにやってたんだか、憧……)
「穏乃ちゃん、携帯どうしたの~? ずっと見てるけど――わっ」
「」ダバァ
「ちょっ、シズ! 涎洪水じゃない!」
「大丈夫、こんなこともあろうかと……洗面器」
「サンキュ、灼!」
「だめだよ、穏乃ちゃ~ん。女の子がはしたないのは」メッ
「ったく……なにがあったのよ」
「お……おいしそぉ……」ダバー
「……ホタテ?」
「京太郎くんからだね~。北海道だから、おいしそうなのあったのかなぁ」
「………………」スッスッ ポチポチ
「いや、チェックしてもメール来てたりしないから。圏外に行ってもいないのに」ズバァッ
「う、うっさいわねっ、わかってるわよ!」
~白糸台
「淡ちゃん、そんなに育ったの?」
「すっごいよ! 原作でもおっきくなったって読者から称賛の声が!」
「憧ちゃんはあれだけどね、賛否あるって噂も……」
「ジャージの矛盾が出ちゃうからね……まぁ大会中の急成長ってことでいいんじゃないかな」
「私も育つよー、グングン成長中! 困っちゃうなー」
「……けど、どうすんの? Eになったら見せんの?」
「ふぇ?」
「見せるって言ってるよね、じゃあ見せなきゃ(使命感)」
「………………ええええええっっっ!? だ、ダメダメダメ、絶対ダメッッ!」
「けど言っちゃったし」
「そうだね、見せないと嘘吐きになっちゃうね」
「う、あ、う……み、見せるとはいったけど、なったらすぐ見せるとは言ってない! つまりその気になれば十年後でも二十年後でも――」
「そうなったら誰かのお婿さんになってるだろうから、見せられないね」
「やっぱり嘘吐きかー。チャンピオンなのになー」
「ぐっ、あっ、うっ……うわああああああああああん! 部長たちがいじめるうううううううう!」バンッ
「な、なにかあったんですか、大星先輩!」
「お菓子を持てい! 丁重におもてなしせよ!」
「須賀先輩の残したレシピが!」
「寄越せ、私が作る!」
「無理だった!」
「はええ!」
「……慕われてるねー」
「まぁ誰が言ったか、っていうか書いたかわかんないから、バレないんだけどね」
「正直者だからねぇ、淡ちゃんは」
~姫松
「んーで、今年は勝てそうなんですか?」
「大丈夫やで~。大将絹ちゃん絶好調、中堅漫ちゃん自在に爆発や~」
「ほかのメンツも、安定してるっぽいのよー」
「せやろせやろ~、頑張ってんで~」
「ちゃんとやったら真面目なんですけどねぇ、代行は……」
「イケズ言わんとって~」
「はぁ、疲れた……あ、代行ちょっと――って、末原先輩!?」
「お疲れさん。頑張ってるみたいやん、漫ちゃん」
「どうしたんですか、由子先輩まで……」
「絹ちゃんもお疲れなのよー」
「まぁ今月予選やし、激励でもと思てな」
「あわよくば連休に北海道で合宿させて混ざろとか考えてないのよー」
「バレバレですやん……」
「で、企画はしてるんですよね、代行?」
「え」
「え、やないです。言うてたやないですか、私らで」
「そうです。予選突破の鍵は京太郎くんやから、なにがあっても予選前に会わせてくれるて」
「…………も、もちろんやで~」
「ならええです。頑張ろな、絹ちゃん」
「当たり前や、今年は……決勝まで行くからなっ」
(そこは優勝でええやん……)
「……代行、大丈夫なんですか?」
「……どないしょ~、忘れてたわ~」
「二人のことやから、最悪ビデオレターでも誤魔化せそうやけど……振れ戻しが怖いのよー」
「末原ちゃ~ん、あと任せてもええ~?」
「お断りします」
(っていうか、うちらも当て込んできたのに、なんちゅうことや……)
~千里山
「――というようなことがあったらしいわ、姫松では」
「絹……うちでも頑張っとる思たら、そういうことかい……」
「まぁ乙女の恋愛パワーは侮れませんからね。うちもそういうんを活かしたらどうでしょ」
「ふむ……泉、どうや?」
「なんで私なんすか! 大丈夫ですて、私もめっちゃ調子ええですし、最近!」
「最近より三週間後や。そこで荒川に勝てんならおしまいやで」
「うぐっ……か、勝ちます……たぶん……」
「なんやそら、泉あかんなぁ」
「――特打ちやな」
「清水谷先輩とですか?」
「当たり前や。私に勝てんようやったら、憩ちゃんなんか夢のまた夢やで」
「はぁ……」
(……いや、言うても先輩かて、大学では打ってへんて言うてたし……これ案外いけるんちゃうか?)
「――ええですよ、やりましょう。私が去年までとちゃういうとこ、見せたります!」
「ほなうちも入るわ~」
「大丈夫なんですか?」
「めっちゃようなってるから、半荘一回なら余裕やで~」
「ほな私も入るわ。それでトップ取ったら、連休にご褒美考えたる」
「やって。気張りや、泉」
「や、やりますよ! 打倒荒川憩、打倒三箇牧ですし!」
「……いや、あの……三箇牧に練習に来といてそれは、どうなんやろか……」
「すいませんねぇ、うちのエースと顧問とOGが」
「練習になるからいるのはええんやけど、身内だけで打つんは……っていうか、Qちゃんも煽りまくってたやんか~」
~臨海
「あー」
「あー」
「あー」
「あー」
部長「同じネタで通すのやめてください! 苦情来ますよ!」
部員「っていうかそろそろ真面目に練習してください……」
「……仕方ありませんね。出場できなくて、京太郎と観客席からご対面なんてごめんですし……」
「はい、それじゃ三人は別々の卓ついて。それぞれでトップ取ってくること。他はそれの阻止、始め!」
「京太郎との甘いひと時のため……全力で行きます」
「京太郎の甘いお菓子のため……全力でやるね」
「監督もランク外に落ちましたし、頑張らないとですもんね」
「てきびしーって、だから」
「落ちた瞬間、部室に『打倒三尋木プロ』って張り紙するから何事かと思いましたよ」
「ランクインしてもしなくても、ときめき状態なら条件同じなのにね」
「失った者の気持ちはわからないわよ。最初から持ってなかった人たちにはね」
「……言いましたね」ゴッ
「その卓で待っていてください。トップを取ったらそちらに入りますので」
「五分後に会おうね」
9人『ひ……ひいぃぃぃぃ~~~~~~~~っっっ!』
~東京大学組
「……で、そもそもいつ見たんだ?」
「前にお茶しに行ったら、不用心に干してありましたから。タオルで囲ったりしておきました」
「サラシのときは、そのまま干してたからな……うっかりしてたんだ」
「いや、けど下は前から穿いとったやろ」
「だからうっかりと言っただろ! 下は……そもそも室内に干すしな」
「なおさら、ブラを干すときに気づくだろ」
「どうやって干したものか考えていたせいで、気が回らなかったんだ」
「ご実家のお母様にお伺いすればよかったのに……」
「……言ってないから無理だ」
「は? なにをね」
「だから……その、ランジェリーを買ったことをだ」
「……なるほど、サラシと違うものを買ったことがバレて、余計な詮索を受けたくなかったと」
「言っておけば、色々と協力してくださると思いますけど」
「なんの協力だっ!」
「……そりゃ」
「なぁ?」
「決まっとるやろ」
「っっ……か、仮にそうだったとして、そうなったとして、困るのはお前らだぞ!」
「別に困りませんけど?」
「まぁ智葉ならな」
「色仕掛けも媚びもせんち思うし、脅威でもなんでもなか」
「き……貴様らぁぁっ! いい度胸だ、卓につけ!」
~有珠山
「いやー……実際どうよ、二人とも」
「一年生には聞かないんですか?」
「一年は、ずっと日誌見てて、毎日祈ってましたし……」
「実際に来ると、なんていうか……緊張するよな?」
「そうですか?」キョトン
「揺杏ちゃんは、そうは見えませんけど……」
「してるし! いや、舐められないようにって頑張ってるけど、普通に緊張しっ放しだから!」
「しかもさー、来るかと思ったのに爽来ないし、チカセンも来ないし! なにしてんだ三年!」
「三年は揺杏先輩ですよ」
「でも、確かに……チカちゃんはともかく、爽さんは意外でしたよね」
「そうですね。初日から会ってるくらいはありそうですけど――あっ」
「どうしたー?」
「……京太郎さん、初日のことは……みたいに書いてますけど」
「……あっ」
「爽、なにしたんだよ……」
「まだわかりません。もしかしたら、赤土プロかもしれませんし」
「どっちもっていう可能性も……」
「……京ちゃんもあれだねー、嫌なことあったっぽいし……うん! なるべく触れないようにしよう!」
「そうですね。いい判断だと思います」
「揺杏ちゃん、優しいですからね」
「ま、まぁそういうのじゃないけど……ほら、突っついてこっちに飛び火したら、これからやってくのに困るじゃん?」
「……はい、そうですね」フフッ
「じゃあ、そういうことにしましょう」フフッ
「や、優しく笑うなー!」
~西日本プロ
「うちらは、7月に来年の予選と――」
「すでにリーグ突破している場合は、挑戦者リーグですね。タイトル戦は秋から冬」
「ああああああ、今年から参加できんのかー、歯がゆいわー」
「一歩ずつ、ですよ。セーラさん?」
「わかっとるわ……えーっと、野依さんと戒能さんは、挑戦者リーグすか?」
「もち!」
「とはいえ、このリーグ戦が地獄ですからね……」
「西を勝ち抜いても、東の突破者と挑戦者決定戦でしたね」
「三尋木プロは代表選でリーグ不参加でしたが……」
「瑞原プロおるんかー。これは鉄板やな」
「あの人はテレビの仕事に集中してたんですが、昨年急に、予選に入って……今年のリーグ入りです」
「化物!」
「原因は――」
「言うまでもないわな」
「あらあら」
「いいところを見せたい、というのはわからなくはないですが……野依プロに続いて瑞原プロもとなると、心してかからないといけませんね」
「良子」
「はい?」
「あっ……」
「戒能さんの煽りが出た……」
「さ、離れましょうか」ソソクサ
「勝てるの?」
「負けるつもりで打つ者はいません。先輩だろうとなんだろうと、目的のためには全力でぶっ潰しますよ」
「いい度胸」
「……ピリピリしてんなー」
「同じ理由で争っとるからなぁ」
「罪なお方です……さ、我々はとりあえず、予選での健闘を誓って――」
「後輩たちの健闘も祈ったるか、しゃーないなー」カンパーイ
※オレンジジュースです
~東日本プロ
「えー、咏ちゃん今年も予選出ないの?」
「面倒っすからねー、予選日程。あとタイトルなんて取っちゃったら、そこらでのタッションもできないっしょ」
「はしたないぞ☆」
「野球選手だったか、国民栄誉賞がどうこうっていう話で」
「私としては、三尋木プロが出場されないのは残念です。リベンジの機会を逃しました」
「あっはっは、言うね~、小童。ペナントで勝ってから言いな~」
「チームとしては勝ってます」
「なら満足じゃね? リベンジなんてする必要ないっしょ、勝ったんならさぁ?」
「っっ……」グヌヌ
「これは三尋木プロがうまい」
「ですが、テルの気持ちもわかりマス」
「三尋木プロと、個人で当たってみたかった……」
「私とは当たりたくないのかな☆」
「瑞原プロは、どこかでタイトル取りそうだし」
「来年は当たらなさそうです」
「あはっ、褒めてもなにもださないぞ☆」
「20台最後の大仕事でスネ」
「……へぇ」ゴッ
「」
「……ダヴァンは勇気があるな。蛮勇気味ではあるが」
「歯に衣着せないタイプですからね。お国柄でしょうか」
「私も予選とリーグ出られたらなー、赤土さんとも打てるのになー」
「一つは出られるんじゃないですか? 永世、一つ足りませんし」
「なんかねー、一部目指してたら、プロ協会から通知がきてー」
『新人とはわけるから、当たり前だろ、jk』
「まぁ……そうですよね。で、赤土プロは新人枠ですから」
「そうなのー。当たれるのだいぶ先になるし、それならペナントに集中したほうが楽だなーって」
(……そんなんでタイトル放棄とか、どんだけすごいんですか……)
(やろうと思えばいつでも取れるよ、的なのが腹立つぞ★)
(京ちゃん、私を守ってね)
(残念、京太郎が守るのは私)
(わりーけど、今回は私が守る番。なんか赤土さんと爽にお灸据えろって言われたから、全力で行く)
(なにしたんでしょう、あの人たち……)
(知りたくないデス……)
~6月第一週火曜
京太郎「うーん、鍛錬しながら家事も終わらせる方法、なにかないもんかな……」
京太郎「なるべく効率よく、行動したいもんだけど……部屋で鍛錬してると、お隣さんやご近所に迷惑だしな」
京太郎「ま、とりあえずはいただきますっと!」
京太郎「さて、学校だ……まぁいつも通り、偶数なら朝練にしとくか」
京太郎「とりあえず俺は、自動卓のメンテもあるから行くけど……皆さんはどうですか、と」
京太郎「……けど、朝のミサとかだった場合、俺も行く必要あるんだよな。メンテどうしよう……」
京太郎「……返事がない」
「……し、失礼します」
「おはようございます、先輩」
「朝練とお伺いしましたが……部長たちはいらっしゃらないんですか?」
「私たちにだけ指導するために、お呼びくださったのでしょうか」
京太郎「そういうわけでもないんだけど……まぁ来てくれてよかった。メンテナンスも終わったし、試し打ちしておこう」
京太郎「全員の打ち方を見て、最後に解説するからな。時間かかるかもしれないし、とりあえず東風戦で」
『はい』
京太郎(気迫はないんだけど、お淑やかな感じでまたいいもんだな……それに結構うまい)
京太郎(来年ももしかして安泰なのか……?)
~6月第一週火曜、昼
由暉子「――今朝はすみませんでした」
京太郎「朝から謝り通しじゃないか……もういいって。昨日のうちに連絡しなかった俺が、悪かったと思うし」
由暉子「でも……」
京太郎「大丈夫だって、一年には色々教えられたしさ」
由暉子「……色々、ですか」
京太郎「ああ。一年は結構筋がいいな、来年も楽しみだぞ」
由暉子「筋が……来年も……」ブツブツ
京太郎「…………? おーい、由暉子ー?」
由暉子「あ、はい。大丈夫です、だいたいわかりましたので」
京太郎「ん、それならいいけど…… (だいたいわかった?)」
由暉子(……つまり、一年生に近い背丈の私は、京太郎さんの好みなんでしょうか?)
京太郎「まぁいいか……とりあえず昼飯にしよう。あとで学食とかもチェックしとかないとなぁ」
由暉子「各校でメニューを増やして回ってるんですよね」
京太郎「そんなことして――なくはないけど、意図してじゃなく、結果としてだから」
由暉子「ここにも作りましょう。京太郎丼とか須賀ラーメンとか、京ちゃん定食とか」
京太郎「頼みたくねぇなぁ……食欲なくなりそう」
由暉子「売れると思うんですけど……」
京太郎「京太郎丼ねぇ……」
由暉子「京太郎さんが好きなものを乗せるか、好きな丼にしましょう」
京太郎「……ハンバーグだな、とりあえず」
由暉子「ロコモコ風にしてみましょう、それで」
京太郎「目玉焼きを乗せるか、なるほど……うまそうだな」
由暉子「須賀ラーメンはハンバーグラーメン、京ちゃん定食はハンバーグ定食ですね」
京太郎「……全部統一は飽きるなぁ」
由暉子「好きなものでも毎日は飽きますか?」
京太郎「さすがにな……札幌らしく味噌か、北海道の海鮮だしベースの塩か……」
由暉子「海鮮だしで味噌はダメなんですか?」
京太郎「味噌が濃い味だから、海鮮の繊細な味をだすにはコツがいりそうだ……」
京太郎「ラーメンはそこまで熟練してないから、詳しい人に聞くまでは無理だな」
由暉子「難しいんですね」
京太郎「名前を冠するわけだし、本格的な味にはしたい」
由暉子「ラーメンはそのどちらか……最後は定食ですね」
京太郎「ふーむ……なんか、俺の好きなものばっかりってのもなぁ。由暉子はなにが好きだ?」
由暉子「私の好みを入れたら、京ちゃん定食がユキちゃん定食になっちゃいます」
京太郎「由暉子がもっと有名になったら、ユキちゃん定食売れると思うぞ」
由暉子「京ちゃん定食のほうが売れますよ。私が毎日頼みます」
京太郎「俺だってユキちゃん定食毎日食うぞ?」
由暉子「毎日同じものは飽きるって言ったじゃないですか」
京太郎「うっ……そ、それならユキちゃん定食は日替わりにしよう! 好きなものローテーションだ」
由暉子「仕入れがかさんで値段が高騰しそうですね……」
京太郎「なんか詳しいなおい」
由暉子「授業でやりましたから」
京太郎(どんな授業なんだ……)
由暉子「現実的なのは、ロコモコ丼ですね。京ちゃん丼として、売り出しましょう」
京太郎「けど、由暉子が有名になったらそっちもなにか出したいしなぁ……」
由暉子「大丈夫ですよ、私は目玉焼きが好きですから。京ちゃんユキちゃん丼として、後々改名すれば」
京太郎「略して京ユキ丼か……」
由暉子「いいですね」
京太郎「明日、試作してみるかな……忘れてなかったら、食べてみてくれるか?」
由暉子「はい、構いません」
京太郎「よしっ……考えてみると、ちょっと面白くなってきたな」
由暉子「はい、頑張りましょう。京ユキ丼のために」
~放課後
京太郎「京ユキ丼……ロコモコならやっぱりグレイビーソースか……」
京太郎「いや、照り焼きもよさそうだな……あるいはデミグラス……大量に作るならそっち系か……」
京太郎「和風の餡かけでも……おお、いけそうだな……」
揺杏「色々突っ込みたいけど、なにその卑猥な単語」
京太郎「へ?」
揺杏「京ユキ推しなの?
エンディング迎えちゃうのか? それとも誰かが両刀で、京ちゃんとユキ両方ペロリなのか?」
京太郎「意味がわからないんですが……学食の新メニューを考案中でして」
由暉子「京太郎さんの好物と私の好物と取り入れた丼物なので、深い意味はないネーミングです」
揺杏(……由暉子、もしやわざと……い、いや、考え過ぎだよな?)
由暉子(はい、考え過ぎです)
揺杏(!? こいつ、頭の中に直接っ……)
成香(そ、そろそろ練習始めないと……時間が、もったいないです……)
京太郎(……なんか先輩たちが無言で語り合ってる。お茶でも淹れて来ようかな?)
(わ、私たちで淹れてみたんですが……)
(どうぞ、ご賞味いただければと……)
(至らぬ点がありましたら、遠慮なくおっしゃってください……)
(まずかった際の罰には、鞭打ち百回も覚悟していますから……ハァハァ)
京太郎「――練習しましょうか」
揺杏「んぁ? お、そうだなっ」
由暉子「せっかくいらっしゃるんですから、京太郎さんと打ちたいですね」
成香「私も……強くなれるなら、お願いしたいです……」
京太郎「もちろん。お付き合いします、いくらでも」
成香「ひぅっ」
揺杏「京ちゃんイエロー、次で退場だから」
京太郎「俺がなにをしたんですか……」
京太郎(――さて)
京太郎(俺一人の指導では限界があるし、できればどなたか、できれば指導経験がある人に、見てもらいたいとこだ……)
京太郎「だが獅子原レジェンド、てめーらはだめだ」
揺杏「!?」
由暉子「どうかしましたか、京太郎さん」
京太郎「いや、なんでもない……」
成香「怒ってる、みたいですけど……大丈夫ですか?」
京太郎「はい、ありがとうございます」
成香「う、ううん、それならいいんです……」
京太郎(で――スケジュール的に、こっちに来られそうな人はいないかなーっと)
京太郎「――げ、マジか」
由暉子「どうしたんですか、さっきから」
京太郎「い、いや、なんでもない……ほんと、大丈夫だから」
由暉子「はぁ……」
成香「でも、浮かない顔に見えます……」
揺杏「これは女に振られたな」
由暉子「そうなんですか? もしかしてチャンスですか?」
京太郎「いや違うから……あと仮に誰かに振られてても、麻雀弱くなったりしないから……」
由暉子「そういうことではないです」
京太郎「お、おう、そっか……あ、ちょっと電話してくる。なにかあったら、戻ったときに頼むな」
成香「はい」
揺杏「おうおう、先輩相手にタメ口かぁ?」
京太郎「由暉子に言ったんですよっ!」
成香「ひんっ! ご、ごめんなさいっ……」
京太郎「あああ、大丈夫ですっ、なんなりとお申しつけくださって大丈夫です、本内先輩もっ」
成香「う、うん……ありがとう、ございます……」
揺杏「今年の後輩怖いわー」
京太郎「ああもう! とにかく電話してくるんで!」
京太郎「ったく……もしもしはやりさん、京太郎ですけど――」
はやり『オッケ、すぐ行くぞ☆ ついでにそこの小童どもも、リーグ戦前の勢いに乗って潰しちゃうぞ☆』
京太郎「やめたげてくださいぃっ! あの、なんか三人にも事情があるようなので、穏便に……」
はやり『京太郎くんは優しいからなぁ……うん、でも了解☆ そういうことなら、優しくしてあげちゃうからね☆』
京太郎「……というか、一応試合前ですけど、大丈夫ですか?」
はやり『うん、大丈夫☆ あ、爽ちゃんとか晴絵ちゃんも連れて――』
京太郎「それは結構です(迫真)」
はやり『あ、うん……わかりました』
京太郎「――ということで、俺一人だと三人か四人しか見られないので、見られない人を見てくださる、プロ雀士をお呼びしました」
揺杏「おぅふ……ぶっ込んでくるなぁ」
由暉子「本物は初めて見ました……」
成香「すごい、牌のお姉さん……」
はやり「やっほー☆ 有珠山のみんな、はやりんだぞーっ☆ 今日はぁ、みんなのことメッタメタのボッコボコに指導しちゃうからね☆」
揺杏「やばいじゃん、めっちゃ怒ってんじゃん! 京ちゃんが無理やり連れてくるからー!」
京太郎「おおお、俺のせいっすか!? あ、でもそうかも――すいません、はやりさん!」フカブカー
はやり「えっ、えっ!? そ、そんなことないぞっ、うん☆ ちゃ、ちゃーんと優しく指導するからね☆」
由暉子「ありがとうございます。本日はアイドルというのがどういうものなのか、お傍で勉強させていただきます」ペッコリン
はやり「よ……よろしく、ね★」グギッ
京太郎「ああっ、カメラに映せない健夜さんのウインクみたいになってる!」
はやり「そこまでヒドくないぞ☆」
揺杏「しかしこの対決ムード! これは、勝ったほうがアイドル活動辞める的な――」
はやり「泣いたり笑ったりして麻雀できなくしちゃうぞ★」
揺杏「そ、そういうのはよくないっすよねー、知ってましたんでー」
京太郎(……レジェンドがそうなった卓にこの人がいたことを考えると、笑えないなぁ)
成香「あ、あのっ……私、みんなの足を引っ張らないよう、強くなりたいんですっ……よろしく、お願いしますっ」
はやり「……うん、任せておいて☆ キタローちゃんは、まだまだ伸び代いっぱいあると思うから、教えがいありそう☆」
成香「き、キタ……あの、成香……本内、成香っていいます……」
はやり「よしよし、それじゃナルちゃん! 京太郎くんのあとで、練習しようね☆」
成香「……はい!」キュッ
京太郎(ほっ……本内先輩のおかげで、場の空気が和んだ……このまま――)
揺杏「由暉子はあれだね、カメラ映りのいい表情とか、カメラ向けて研究だな」
由暉子「わかりました」スチャッ
京太郎「おいカメラ止めろ」
京太郎「はぁー……はやりさんと打つのも、やっぱ大変ですね……」
はやり「久しぶりだからそう思うだけだぞ☆ プロはいっつも一緒だけど平気そうだし、要は慣れじゃないかな?」
京太郎「毎日打っても、プレッシャーは変わりませんし……一巡ごとに頭フル回転なんで、もしプロになったら一ヶ月で脳焼き切れる自信ありますよ」
はやり「またまた☆ 京太郎くんは打つたびに上手くなってるから、こっちも打ってて楽しいし、疲れることも減っていく頃だと思うよ」
京太郎「つっても、まだまだ全然ですから……見ていただいてる間に、ちょっとでも多く伸ばしていきます。がんばります」
はやり(はぁぁぁぁ~~~~~☆ 頑張ってる京太郎くん、かっこいいよぉぉ……)キュゥン
京太郎「あの……? 続きは――」
はやり「はややっ! や、やるよっ、もちろん☆」
はやり「ところで、京太郎くん?」
京太郎「あ、はい」
はやり「牌のお姉さんって――実は、おもちが大きくない子のほうがいいんだよ、知ってた?」
揺杏(なにぃ!?)
京太郎「なん……だと……」
はやり「ほら、ちっちゃい子たちのお姉さんなわけだから、色々と配慮が必要なんだよね」
京太郎「なるほど……でも、はやりさんは――」
はやり「はやりもねぇ、苦労したんだよ……昔は育たないようにって、一生懸命押さえつけたり――」
咲「ギルティ」
照「訴訟も辞さない」
はやり「まぁそんな感じで、育ってもなんとか許してもらってるんだけど、大きい子よりは控えめな子のほうがいいと思うんだよね~」
揺杏(これはまずい……)
由暉子(牌のお姉さんに、こだわらなければいいんじゃないでしょうか……)
成香(でも爽さんたちは、ポストはやりんって言ってましたから……)
京太郎「けどはやりさんは、和のこと推してたような……」
はやり「まぁ体型は差し置いて、麻雀の型や理解度、説明の上手そうなデジタルよりの子だったら、和ちゃんかなーって。一番は晴絵ちゃ――」
京太郎「…………」
はやり「――コホン。まぁそういうことだけ、一応、知っておいてもらおうかなーと思うんだよね☆」
京太郎「なぜ俺に……まぁわかりました、と」
はやり「で、ここからが本題なんだけど」
京太郎(まだ続くのか……)
はやり「お姉さんが大きい分、バランスと取るにはお兄さん役が必要かなぁって、はやりとしては――」
揺杏「そこまでだはやりん!」
由暉子「いい加減、私や後輩も待ちくたびれています。京太郎さん、はやりさんに指導をお願いしてもよろしいでしょうか」
京太郎「おっと、そうだった……はやりさん、そういうことですから――」
はやり「チッ……うん、そうだね☆ それじゃ、さっきの――ナルちゃんと、あと二人寄っといで~☆」
由暉子「……京太郎さん」
京太郎「ん?」
由暉子「牌のお兄さん、やるんですか?」
京太郎「いや、無理だと思うぞ?」
由暉子「そうでしょうか……私は、京太郎さんがテレビで牌のお兄さんをやっていたら、素敵だと思います」
京太郎「そ、そうか?」
由暉子「はい……もしされるのでしたら――私は、頑張ってお姉さんになりたいです」
京太郎「……その、さっきはやりさんから聞いたんだけど――」
由暉子「私も聞こえていました。それでも、です」
京太郎「……そうか。なら、俺も応援するし、協力するよ。お兄さんはともかく、なりたい子がなろうとするのは、お姉さんっていう役にとってもいいことだと思うしな」
由暉子(……京太郎さんがお兄さんなら、なんですけど……でもそうですね。どうしてなりたいか、というのは……考えたほうがいいかもしれません)
京太郎「さて、練習に戻るか」
由暉子「そうですね」
京太郎「で――俺はなにするかなぁ」
揺杏「そろそろお茶を……」
京太郎「揺杏先輩、練習しましょうよ……付き合いますから」
揺杏「うーん、京ちゃんみたいになれるかっていうと、なれないしなぁ……って思うと、やる気がだしにくい」
京太郎「なれますよ……っていうか、してみせますから」
揺杏「ノーセンキュー」
京太郎「やる気になれば伸びると思うんだけどなぁ……」
京太郎「……言ってるそばから電話だよ」
はやり「――っっ!」
由暉子「どなたですか?」
京太郎「えーっと……」
京太郎「咏さ――三尋木プロだ」
はやり「へぇ……」
京太郎「……今日は、どういうカードでしたっけ」
成香「札幌、大宮、横浜――あとは新潟、だったと……」
揺杏「めっちゃ大荒れしそうだね~」
はやり「そう言えばねぇ……咏ちゃんがメール見てたなぁ、嬉しそうに」
京太郎「へ、へぇ……」
はやり「死ぬ気で応援するんだよね、京太郎くん☆ 死なないように気をつけてね★」
京太郎「お、押忍……」
由暉子「電話出ないんですか?」
京太郎「で、出るって……はい、もしもし」
咏『おーっす、そっちはやりさんいんじゃね? よくそれで電話出られたね~、知らんけど』
はやり「いるよ! すっごい聞こえてるよっ、空気読んでよ!」
咏『うっは、はやりさん声でけ~。まぁそういうわけなんだけど――はやりさんって、予約かけた?』
京太郎「なんのですか?」
咏『なるほど、まだだったんかい……オッケー!』
はやり「わーっ、わーっ! ノーカンッ、違うよ! ちゃんと指導終わったら予約入れようと――」
由暉子「予約?」
京太郎「なんなんですか、いったい……」
咏『ダーメダメ、早いモン勝ち、もしくは京太郎に言われたほうって約束っすよ~? っつーわけで京太郎、今夜はうちのマネージャーな?』
京太郎「えっ」
揺杏「ああ、あれか~。なんかプロの人たちが、遠征先やらホームやらで、京ちゃんのお世話を奪い合ってるって噂。爽が言ってたっけ~」
京太郎(獅子原ァ!)
由暉子「そんなこともしてるんですか……」
成香「すごいです……はやりんを呼んだだけじゃなくて、三尋木プロからもなんて……」
はやり「ダメだよっ、京太郎くん! 断って~」ウルウル
京太郎「う……あの、咏さん……」
咏『あ~ん? 先に頼んだのは私だけどねぃ……それともなにかい? 私の頼みは無碍にして、傍にいるおもちを取るってそういうことかねぃ?』
京太郎「め、滅相もない……」
咏『んじゃよろしく、タクシー回してチーフ乗せてっから、詳しく聞いといてねぃ。そういうことで、はやりさん、また~』
はやり「F○○○!!」
京太郎「牌のお姉さんらしからぬ単語を!!」
京太郎「……えっと、はやりさん、その……」
はやり「うぅ、失敗したぁ……先に言っとけば、こんなことにはぁ……」
キキーッ ガチャッ バタンッ ダダダダダッ
揺杏「ん、なんだぁ?」
成香「こ、校門のほうから……でしょうか……」
京太郎「あ、これいつものパターンだ」
由暉子「パターン?」
はやり「すぐわかるよ……」
ガチャッ バーンッッ
揺杏「!?」
成香「なな、なんですかっ、いったいっ……」
チーフ「失礼、怪しいものではありません」
由暉子「スーツにサングラスって相当怪しいと思いますけど」
京太郎「こちら、チーム横浜のチーフマネージャーさん。敏腕のキャリアウーマンさんで、2○歳でいらっしゃいます。最近の趣味は茶道とか」
チーフ「そして彼氏募集中、旦那募集中です――まぁそれはともかく、お疲れさまです須賀さん。本日はよろしくお願いします」
京太郎「あ、はい……じゃあ行きましょうか」
由暉子「待ってください、どこへ行くんですか」
揺杏「うちのジャーマネ連れてこうっていうなら……ここにいる全員倒してからにしてもらおうか!」
成香「わ、私もですかっ……頑張りますけど……」
咏「ほう……んじゃあ、軽く相手してやろうかねぃ」パタパタ
揺杏「!?」
はやり「あはっ、咏ちゃん来たんだ~」
咏「はやりさんもいたんでしたっけ~、あ、頭数入ってます? まとめて相手しますけど~」ヒラヒラ
はやり「うふふ、相手しちゃうぞ☆」
咏「いっすね~、試合前の肩慣らしにさせてもらいますんで」パチンッ
揺杏「げっろ……」
由暉子「大変なことになりましたね……」
成香「トッププロ二人と対局なんて……れ、練習には贅沢すぎないかな……」
京太郎(この人、意外にもすげー度胸なんだよなぁ……)
チーフ「須賀さん、いまです……さ、お早く」
京太郎「チーフさん!? いや、けど――」
チーフ「無事にお連れするための、三尋木プロの策ですので……気づかれないうちに、さぁ」グイィッ
京太郎「ちょっ、待って――え、意外にパワフルですね!?」
チーフ「鍛えてますから。そうそう、最近の趣味はジム通いに変わりましたので」
京太郎「鍛えすぎぃ!」
~チーム横浜、控室
京太郎「なんということだ……なんということだ……」
チーフ「ではよろしくお願いします。こちら、契約書のほうになってますので、サインと印鑑――なければ拇印を」
京太郎「はぁ……向こうは大丈夫だったかな」
咏「ん~? 大丈夫だいじょぶ、ちゃーんと全員飛ばしてきたからさぁ。はやりさん以外ね」
京太郎「咏さん!? いつの間に……」
咏「あとからハイヤーでね。いやー、有珠山はあのおっぱいちゃん、結構やるねぃ。ま、あとはまだまだかな」
京太郎「あの、はやりさんとの順位は……」
咏「負けたら寄越せって言われたしさー、まぁ頑張ったよ。んでも、そのせいでちょーっと疲れた……」
京太郎「どうすんですかっ、試合前ですよ!?」
咏「まーまー、そうかてーこと言うなよ~」
京太郎「一応俺は、雇われマネとして選手のコンディションを良好に保つ義務があるんですが……」
咏「そうそう。だから頼んだぜぃ」
京太郎(マジかよぉ……)
京太郎「――わかりました。なんとかしましょう」
咏「おー、さっすがー」
チーフ「須賀だけに」
京太郎「……チーフさん、空いてる部屋をお願いします。できれば横になれる部屋で、防音も聞いてると理想的ですが」
咏「………………は?」
チーフ「なるほど。男女でリラックスとなれば、それしかありませんね」
咏「ちょ――」
京太郎「まぁただのマッサージですけどね」
チーフ「なんだ……」
咏「あ、ああ、当たり前だろっ、なに考えてんの!」
京太郎「で、お部屋は?」
チーフ「少し離れた休憩室が、スポーツで使われるときは医務室になるらしく、防音が聞いています。ベッドもありますね」
京太郎「では使用許可をいただけますか」
チーフ「ええ。すぐに鍵をお持ちします」
咏(…………んー? なんか、京太郎の雰囲気が――)
~休憩室
作り自体は他の部屋とも変わりない、ドア、ソファ、テーブル、テレビ。
そこにデスクやチェア、冷蔵庫や薬品棚の並べられた、医療室と言われれば納得する部屋の模様。
ホテルの一室に、オフィス要素を加えた感じだろうか。
咏「――で、マッサージってどこですんの? 座ってりゃいい?」
いつもの調子で――けれど、僅かに声を上擦らせて、咏さんが口にした。
こちらを見ず、入室するやソファに飛び込んだ彼女を抱え、そっと横抱きにする。
咏「っ!? ちょ、ちょっと待ちなって! 落ち着――」
京太郎「試合まで時間がありませんからね。会話するより、まず行動です」
暴れる小さな身体を押さえるようにし、けれど優しくベッドに横たえる。
そのまま帯に手をかけると、さすがに慌てたように咏さんが四肢をバタつかせた。
咏「こらぁぁっ!? そこはアウトだろっ、おい!」
京太郎「下がないってことはないでしょうし……襦袢までで結構ですから。なんでしたら、肌蹴るのをお任せしますけど」
咏「――あぁ、そうかい」
そこで落ち着いて手を引くと、少し落ち着いた様子で――ジロッと不機嫌そうにこちらを睨む咏さん。
からかわれているとでも思われただろうか、おそらくそのようだ。
挑発のように受け取った咏さんは、身体を起こし、売り言葉に買い言葉のような態度で帯に手をかけると、そのままスルスルと解き、着物を肌蹴させる。
京太郎「すいません、お手間を取らせてしまって」
咏「試合前だし、リラックスが目的だかんな? あと、さっきのはやりさんとの激戦の疲労解消、わかってんよねぇ?」
解いた帯の端を握ってブンブンと振り、前を肌蹴た着物の隙間から、白い襦袢をチラチラと覗かせて笑う。
季節柄、薄手とはいえ着物なんて着ていれば、さすがに汗ばみもするだろう。
女性らしい甘酸っぱい体臭をほのかに漂わせ、張りついた襦袢には咏さんの幼げなボディラインがくっきりと浮かんでいるようだった。
京太郎「はい、もちろん。失礼のないよう、かつ心身ともにリラックスいただけますよう、精いっぱい務めさせていただきます」
頭を下げて、執事服のジャケットをハンガーにかける。
こちらが焦ったり、戸惑ったりするところを見せなかったためか、咏さんはきょとんとした顔で、目を丸くしていた。
不機嫌さがなくなったのをいいことに、彼女の帯を受け取り、それから着物――咏さんが来ることも想定されているのだろう。
部屋に置かれた着物用のハンガーにしっかりと、皺や折り目のつかないよう着物をかけ、袖を伸ばす。
京太郎「では、うつ伏せで横になってください。腰から上、上半身をメインにやっていきます」
咏「あ、うん……んじゃ、お手並み拝見」
毒気を抜かれたような表情で、コロンと横になった咏さんは、宿で寝所に飛び込む子供のように無防備に見えた。
が、気になった部分を目の端で捉えてしまい、やむなくそれを手にする。
京太郎「失礼します」
咏「んひゃっっ!? ちょっ、なにっ……あぁっ!」
足袋を脱がせ、それも丁重に、ベッド端の籠に乗せておく。
足先は汗も掻きやすく、靴を履いていれば熱や汗がこもって蒸れ、臭いや湿り気が集まるものだ。
咏「あああ、あんたねぇっ!? ちょ、それは――」
京太郎「すいません。では始めます」
それを素手で取られたことで、さすがに羞恥を覚え、狼狽した咏さんが真っ赤な顔で抗議するが、本気で時間が惜しいので、押し切って手を伸ばす。
大丈夫、草履のおかげでそこまで蒸れてはいませんでした――と告げるタイミングは、いつにしておくべきか。
咏「は、話を聞けっての! 勝手に靴下を、ってか足袋を――んくっっ……ぁっ……」
考えながら、まずはいつも通りに身体の凝りや血行の具合、筋肉の張りを触診する。
着物という重装備のため、一部の身体の重みとは関係なく、肩は相当に凝っているようだ。
腕はすでに慣れているのだろうか、高校生のような負担を受けている様子はない。
京太郎「柔らかいですね、咏さん」
咏「~~~~~っっ!? だ、だかっ……らぁっ、んっ……は、話、をっ……あぁっ……」
肩の念入りな確認のために、少し強く指で押し込むと、ビクッと小さく身体が跳ねた。
そこを押さえつつ、次は背中――。
咏「んぁっ……ふっ、くぅぅっっ……あ、これっ、結構っ……ぅっ……んんんぅっっ……」
京太郎「着物が様になるだけあって、姿勢がすごくいいんでしょうね……背中の歪みがほとんどない、綺麗なラインをしてるわけです」
咏「ばっっ……な、なに言ってっ……んっ、ひぃっ……あっ、はぁっっ……」
ベッド端から横に見下ろし、今度は優しく揉みながら背筋を撫で下ろしてゆく。
身震いするように彼女が身を捩ったが、逃がすことなく手の平は腰まで達した。
咏「んぁうっっ! あ、いまっ――」
京太郎「うん……腰も大丈夫ですね。でもちょっと疲労が溜まっていそうですから、背中から腰も、ゆっくりと見て行きましょう」
まずは肩から――ということで、失礼しますとひと言かけ、ベッドに乗り上がる。
ギシッとベッドが軋んだ瞬間、咏さんの身が強張り、シーツに少し身体が沈み込んだ。
咏「ぁ……うっ……そのっ……」
京太郎「動くのも声もいいですが、なるべく暴れないようにだけ、気をつけてください」
咏「ぇ――」
京太郎「上に乗る格好なので、俺も落ちかねませんし……咏さんが落ちても危ない。だから押さえつけるかもしれないってことです」
ピクンッと肩が跳ね、僅かに頭が浮くのが見えた。
が、すぐに全身の力が入って身体が沈み、開いていた手の平がキュッと握られる。
京太郎「あまり力を入れないほうが、リラックスできますよ――」
咏「わ、わかって――ふっっ、ぐぅぅっっ……んっ、ふぅっ……」
首筋に手の平を添え、指先で押し込み、僅かに襟から忍び込ませ、素肌を擦る。
小さな身体がますます縮むように竦み、跨った真下にある小振りのお尻が、ツンと上空を擦るように突き上げられた。
咏「お、いっ……んぁっ……襦袢っ、無視いっっ……し、してぇ……あっ、はあぁっ……」
京太郎「すいません、ちょっとだけ――はい、もういいですよ」
血行の把握のために触れただけ。
すぐに指を抜いて襟元を正し、今度は布地越しに手の平を宛がい、円を描くように推し擦ってゆく。
咏「そう、いうぅっ……もんっ、だい、じゃ……んぁっ、はっ……ぐっ、くぁうぅっ……」
なおも苦情が溢れるようだったが、それを遮るように、愛らしい喘ぎ声が響きだした。
疲労が解れる快感というのは、本能に訴える媚薬のようなもの。
それを布地越しとはいえ、密着する手の平――つまり他人の肌に与えられると、その快感の瞬間は本人が予想することはできない。
咏「んふぅぅっっ! あっ、はぁっっ……んくっ、うぅぅっ……」
一瞬にして耳が、襦袢の下の肌が桃色に上気し、羞恥からか咏さんは口を閉ざそうとする。
京太郎「声だしても大丈夫ですから。そのほうが俺も、状態がわかりやすいので」
咏「んなっ……ふ、ふざけ――ひゃうっっ! あっ、んぅっ……」
肩甲骨に沿って筋肉を指圧し、首筋と肩の中間にも別の指を押しつけていく。
反論を叫ぼうとした声のままに甘く呻いてしまい、桃色どころか真っ赤になって枕に顔を埋めると、小さな手の平はベッドシーツを握り締めた。
咏「はぁっ、ふぅぅっ……んっ、ふっ……ふぁっ、あぅっ……」
押し込んだ指を、血行の流れに沿って滑らせてゆく。
堪えきれない声を枕に押しつけながら、けれど肉体の弛緩は感じるらしく、時折小さく身体を跳ねさせながら、その動きでシーツを乱れさせていた。
咏「んぁうぅっっ……だ、めっ……それ、だめっ、そこぉぉ……んくぅぅっ! あぁぁっ、くぅっ……」
だめ――と言われても、手順なら仕方ない。
腋に近い部分、それに二の腕を優しく撫で擦ると、ビクンッと大きく腰が跳ね躍った。
小振りとはいえ、女性らしい膨らみを感じるヒップの形を浮かばせ、襦袢がクネクネと躍る。
小さな身の捩りは襦袢の合わせを乱れさせ、シーツに押しつける身体の前面が、徐々に服を乱れさせているようだ。
軽く整えるために、ちょうど浮いた腰を支えて脇腹を掴むように腕を滑らせると、ほんの少しの時間だけ、お腹の下あたりで手を交差させる。
咏「あはぁんっっ! はっ、んぅっ……んくぅぅっ……~~~~~っっ!」
京太郎「すいませんっ……」
ボソッと耳元にそうささやいたが、咏さんは赤くなった顔を埋めて、ブンブンと顔を振るばかりだった。
と――そこで気がついたが、髪をまとめ忘れていた。
京太郎「ちょっと、髪の毛失礼します……」
咏「やっ、だめっ……あっ、んふぅぅぅっ……」
艶めかしい声で喉を震わせ、僅かに顔が跳ね上がった。
上気した頬、濡れた瞳が視界の端に映る、それを咏さんの手が懸命に覆って隠している間に、髪留めでまとめた髪をアップに整えられる。
白いうなじも朱色に染まって、少々汗を掻いているその部分から、女性特有のミルクのような匂いが着物の香気と相まって、甘く鼻先に漂った。
咏「~~~~~~っっ! ばっ……か、嗅ぐ、なっ……んぁうっ、あっ……はぁぁっ……」
思わず鼻を鳴らしてしまった、そのほんの僅かな音に気づいた咏さんが怒るのを、謝るように背中を撫でて応える。
抗議のように腰をくねらせたが、少し浮かせた拍子に、お尻がこちらの身体に触れたことで、その動きも収まった。
咏「ち、かいっ……よぉっ……んふっ、あっ……あぁぁっ……」
縮こまり、やや顔を俯けたことで浮いた首筋、そこから肩を念入りに擦り、そこからは本格的なマッサージに入ってゆく。
咏「んぁうぅっっっ! あぁうぅぅっ……そこっ、はっ……あぐぅっ……だめっ、早くっ、あぁっっ……ゆっくり、だめだってぇぇっ……」
力強く肩や首筋を揉みしだきつつ――その動きはゆっくりと、筋肉の具合を確認しながら、血行の波を広げてやるイメージだ。
遅さが気になるようではあるが、気を遣って行えば、それだけ身体への負担が大きくなる。
咏「や、めっ……首っ、ほんと弱っ――うっ、はうぅっ……んぁっ、くふぅっっ! あぁっ、あぁぁっ!」
咏「声っ、出るっ……絶対、出るからっ、出てるからぁぁっ! あんっっ、んぁぁぁっっ!!」
苦情と喘ぎから耳を塞ぎ、徹底してスローな手つきで肩を揉みほぐしてゆくと、枕にしがみつくように両腕を引き寄せた咏さんが、やがてビクンッと大きく跳ね――。
咏「んぃっっっ……ふっっ、くあぁぁぁぁっっ! あぁっ、あうぅぅっ……はっ、はぁぁっ……ふぅぅっ……」
やがて諦めたように、ぐったりとベッドの上で弛緩した。
京太郎「……あの、咏さん?」
咏「っっ……ちょ、待て……っ……い、ま……話し、か……ぁっ……けん、なぁっ……」
小さく、痺れてでもいるような震えを見せつつ、腕に力を入れて起き上がろうとする咏さん。
無理をする必要はないと、それを押し止めるように首筋を撫でると、猫のように声を上げて、再び彼女の身体がベッドに落ちた。
咏「んにゅっ……ひゃっ、ふっ……」
京太郎「大丈夫ですよ。動かなくて、そのまま……まだ時間もありますから、続きやっていきますね」
咏「んぅ……えっ――」
ビクッッと肩を竦ませるような動きで、大きく肩が震えた。
引きつった涙目がチラリとこちらを見上げ、時計を窺う。告げた通り、まだまだ試合開始は遠い。
京太郎「背中と腰は、軽くで終わりそうなので――次は、時間がありそうなら、脚も診ておきます」
咏「っっっ……ま、待って、わたっ……わた、しっ、あの――んきゅっっ、ひぁぁぁっっっ……」
ツゥッ……と指でなぞるように背筋を優しく擦ると、理想的な脱力具合で、咏さんの身体はベッドに横たわった。
そこから背中を包むように両手の平を添え、力加減に注意しながら、負担をかけすぎないよう、優しく揉み捏ね、ミリ単位の速度で下方へ滑ってゆく。
咏「だっ……ぇっ……ほんっ……あっ、んぅっ……だめっ、んぁっ……ぁふぁぁっ……」
身体の負担を第一に考え、その上で心身のリラックスと、全身の快癒――。
繊細な音を奏でる楽器のように、咏さんの身体を丁重に扱って、指先は小さな身体の柔らかな肌を、包み込むように刺激していった――。
京太郎「……そろそろだな。着物も着付けないとですし、準備始めましょうか」
咏「…………っ……ぁ……ぅん……」
京太郎「……一人で着られますか?」
咏「……りっ……に、きま……だ、ろっ……んくっ……」
京太郎「……えっと、では……僭越ながら、お手伝いを……?」
咏「…………っっ……」コクン
京太郎「では――」
シュルシュル スルッ
京太郎「えと、歩けますか?」
咏「無理……」
京太郎「……腕で――」
咏「抱いて」
京太郎(誤解しそうなことを……)ヒョイ
咏「……っ……はぁっ……んっ……」ビクッ ビクビクッ
~控室
京太郎「失礼しまーす。えっと、咏さん戻りました……」
チーフ「どこいってたんですかあああああああ! もう始まりますっ、早く準備を!」
京太郎「す、すいません! 咏さん、そういうことなので――」
咏「……ぁい……」フラフラ
京太郎「」
チーフ「………………なにをしたんですか」
京太郎「ま、マッサージっす(迫真)」
「咏さん、なんか気怠そう……」
「というか、エロい(直球)」
「……これはアウト? いや、条例的に咏さんが」
咏「ぁっ……ぐっ……きょうっ……手、貸せっ……」ガクンッ
京太郎「支えるだけで、いけますか?」グッ
咏「い、イケる、とかっ……くふぅっ……」ガクガクッ フラー
京太郎「……とりあえず、入場口までお連れします」
咏「んぅ……はぁ……ふぅ……」
京太郎「では、失礼します」ヒョイ
咏「ひぐっっ……んっ、あぁっ……」
「」
「」
「」
チーフ「」
京太郎「……あの、大丈夫ですか?」
咏「っ……っっ……」コクコク
京太郎「じゃ、いきますねー」ソソクサ
チーフ「……みなさん、頑張ってください。たぶん今日は、ダメです」
「でしょうね」
「知ってた」
「いつも通りよ、へーきへーき」
――そして咏さんは信じられないようなミスをし、嘘のように大失点した。
チーフ「これは教育やろなぁ……」
京太郎「違うんです! 本当にマッサージしただけで――」
チーフ「なら私にもしてみなさい!」ドンッ
チーフ「あひぃっ……」ビクッビクッ
~試合後、夜
京太郎「――それでは、あの、俺はこれで……」
「こら待て戦犯」
京太郎「俺のせいですか!?」
「じゃなかったとしても!」
「確かに次鋒から大将、先鋒の咏さん含めても全員大失点だけど!」
「この惨状を放っていく気か!?」
咏「……ふっ……ぁっ……」トロー
チーフ「んふぇぇぇ……もっろぉ……」ビビクンッ
京太郎「」
京太郎「……えっと、移動の車でホテルに戻っては――」
「車までと、車から部屋まで運ぶのは誰が?」
京太郎「……はい、俺がします」
「よろしい。それじゃ、GO!」
京太郎「はぁ……まぁ清澄のときと違って、遅くなる連絡はいらないけどさ……」
~ホテル
京太郎「――で、こうなるんですね」
「飲まずにいられるか!」
「執事さーん、おつまみはよ!」
「明日の新聞見たくない……ニュースも……査定とか聞きたくもない……」
京太郎「一室スリーベッドってどんなホテルですか……簡易キッチンまであるとか、相当ですね」
「ここ使うチームもいくつかあるし、選手用に新設された部屋なんだって」
「とりあえず、チーフちゃんと咏ちゃんは、ベッドでオッケーだ!」
「あと一個は奪い合いだな……あ、京ちゃんも参加する?」
京太郎「朝までには帰らせてください……明日学校なんで(切実)」
「学生みたいなこと言いやがってー」グリグリ
京太郎「学生だよぉ!」
京太郎(んーと、明日は移動日のはず……なら、ちょっと飲みすぎても、まぁ平気か……)トントン ザクー
京太郎(試合、キツかっただろうし……なるべく飲めるように……けど、お腹には優しく、悪酔いしないように……)ジャーッ ザッ ジュワー
京太郎(――で、完成だ)
京太郎「お二人は起きられましたか?」
「全然」
京太郎「……じゃ、俺はこれで」
「これほんと大丈夫なの?」
「寝たきりになったりしない?」
「下着とか変えなくて大丈夫?」
京太郎「いやー……たぶん、まぁ……」
Oさん「なわけない。替えたし、お風呂入ったもん!」
Mさん「……さすがに、着替えた」
Tさん「えっと……なんか、汚れちゃってたし……お風呂のときに……うん……」
Sさん「……まぁ、替えた」
M姉妹「あ、熱かったので、さすがに……」「そそ、そういうのは聞いちゃいけないと思うよ!」
Hさん「……黙秘する」
Sさん「替えました。受けたときは、すぐ替えましたし、シャワーです」
Mさん「トレーニングルームだったしね。着替えあったから、シャワー浴びてすぐに」
Kさん「お風呂行ったでしょ……それで、風邪ひいたし……」
Kさん「色々済ませてから、シャワーにしました。ホテルでしたから、当然です」
京太郎「起きれば、各々で済まされるかと」
「本当にぃ?」
「起きるまでいててあげたら? 心配じゃない?」
「まぁ帰るなら、うまくは言っとくけど……うぃっく」ヒック
「内容は保証しない」ベローン
京太郎(酔ってんなぁ……酒が進む料理にしなきゃよかった)
京太郎「……はぁ、わかりました。追加でいくつか作って、あと朝飯の支度もしときます」
「うひゃっほー!」
「ものども、宴じゃあああああ!」
京太郎「咏さんたち起きちまうだろぉ!?」
京太郎「はぁ……これは明日、確定で遅刻だな……」
咏「むにゃ……んぅ……んふぇぇぇ……」
咏(やめっ……京太郎、そこはぁっ……んっ、あはぁっ……)
~6月第一週火曜、終了
~6月第一週水曜、ホテル
京太郎「いかがでしょうか。旅館の朝食を意識して、和風でしっかりご用意いたしました」
「はぁ、いい香り……」
「カツオブシはバンホテンのものを使用したのかね?」
「ココアじゃねーか!」
京太郎「……あの、咏さん――」
咏「うん! うめーよ、京太郎~。こりゃ
いい嫁さんになるぜ」
京太郎「……はい! ありがとうございます!」
「嫁さんには突っ込まないのか……(困惑)」
「つまり……ハギーの嫁になる可能性が微レ存?」
「ウェヒヒ」
京太郎「ならねぇよ、師匠なめんな!」
京太郎「……っていうか、いま一瞬、穏乃の気配が……」
咏「気のせいっしょ。あの山猿ちゃんは奈良だし、いるとしても赤土さんくれーだっての」
京太郎「昨日はドームでえらく調子に乗ってましたね」
咏「なー? くっそ、次は昨日みてーにさせねぇから……先鋒で決めてやんよ」
京太郎「はい、期待してます」
咏「……だ、だから、その……そうなったら、次は……私の部屋で、あの、アレを……」ボソボソ
チーフ「京太郎きゅんっ、昨日の疲れが抜けないのぉ……ねぇねぇ、アレしてよぉ……」スリスリ
京太郎「いいから飯食ってください、遅刻しますよチーフさん」
咏「……いい年して盛ってんじゃねーぞ」ゴルァ
チーフ「――へ?」
咏「ん? どったのチーフちゃん」
チーフ「い、いえいえ、なにも……まさか三尋木プロが、ねぇ?」ウーン
京太郎「どうでもいいんですけど、有珠山まで車だしてくださいよ、マジで……」
チーフ「あ、はいはい、もちろんですぅ……私が運転しまして、無事に学校までお送りしますので。すぐにフェラーリ回してきますから」
京太郎「なんつーもん乗ってんですか」
「……チーフの車って」
「フェラーリじゃねーし、ロードスターだし」
「だよね」
咏(にも拘わらずフェラーリって言いやがった……つまり、フェラーリってのは……はっっ!)
咏「京太郎、乗んじゃねぇ! 罠だ!」
京太郎「は?」
咏「おいこらチーフ! 相手は未成年だぞコラァ! 事案にされてーんかい、あぁん?」
京太郎(いきなりなにいってだこの人)
チーフ「いえ、あの……冗談で……はい、すいません……」
~午前、学校
京太郎「うーん、この遅刻」
「京太郎様がお見えになられたわ!」
「重役出勤……遅刻……不良……あぁ、なんてワイルドなの……」
京太郎(その理屈はおかしい)
京太郎「とにかく、職員室に行かないと……怒られなきゃいいけどなぁ」
~職員室
「はい、横浜ロードスターズからの連絡は受け取っています。出席日数には気をつけるようにね」
京太郎「すいませんでした……」
「……まぁ、融通が利く代わりに苦労も多い、と聞いてますからね。背負い込まず、気の置けない相手に相談するなどするといいですよ」
京太郎「ありがとうございます……では、失礼します」
京太郎(いい先生だなぁ……)
(浮かれてる女子が多い中で、落ち着いた淑女をアピール……これができる女というものですよ)キランッ
~再び教室
京太郎「4限からか……とりあえず10分ずつ、3限までの授業の復習に使って――」
由暉子「お疲れさまです、京太郎さん。これ、授業のノートです。もしよかったら……」
京太郎「おお、サンキュ! やっぱ頼りになるな、由暉子は」
由暉子「……いえ、そんな」
京太郎「っつーか悪い。今朝はなんも聞いてなかったけど、朝練とかしてたか?」
由暉子「いえ。全校ミサもありましたので、集合はできていません」
京太郎「そうか。ならよ――くもないな、午後はその分しっかりやろう」
由暉子「そうですね。ところで、札幌ではどんなお仕事をしてらしたんですか?」
京太郎「こういう仕事は基本的に、依頼をくれた選手のチームで、マネージャー業に務めるんだけど――」 ←説明しながら過去授業の復習中
京太郎「――えーっと、まずは咏さんにマッサージして、リラックスしていただいて」
由暉子「あ、そういえば得意だって――」
京太郎「で、肌蹴た着物を直した後、控室までと、そこから入場口までを抱っこして移動して」
由暉子「……は?」
京太郎「試合中は応援しつつ、選手の皆さんにお菓子おだししたり、ドリンク用意したり」
由暉子「いえ、あの、そんなことよりさっきのは――」
京太郎「で、終わったら反省会。ホテルに連れて行かれて、つまみ作ってお酌して、カクテル作ったり燗につけたりして――」
由暉子(それもそれで気になりますが、いったい……つまり先鋒の三尋木プロがボロボロだったのは、私たちが疲れさせたわけではなく――)
由暉子(京太郎さんのマッサージでリラックスしすぎて逆にヘロヘロだったと? それだけマッサージが素晴らしい、とうことでしょうか……)
由暉子(いえいえ、そこも問題ではありません。大事なのはマッサージによって――か、その前の準備でかは知りませんが、着物が肌蹴……)
由暉子(それを京太郎さんが直したということ……どうなんでしょうか)
由暉子(三尋木プロの身体つきは、京太郎さんの好みとは異なるはずですけど、でももしかしたら――) ←スッゴイ、シツレイ!
京太郎「――っつーことで、ようやくさっき帰ってきたとこだよ」
由暉子「は? あ、ああはい、お疲れさまでした……でもよかったんですか、私にそんな細部まで話してしまって (あんまり聞いてませんでしたけど……)」
京太郎「ん? 由暉子なら大丈夫だと思ったんだけど……あ、けどグチっぽくなったかな。悪い、次からは気をつけ――」
由暉子「それは――私を秘密の打ち明け相手として、評価してくれたってことですか?」
京太郎「まぁ……そうなるかな。頼れって言われたし、ほら、ノートも見やすいし……なんとなく由暉子なら、心配することもなく頼れるかなって」
由暉子「そうですか……」
京太郎「負担だったか?」
由暉子「いえ。また話してください……聞きます、いくらでも。ちゃんと内緒にしますから」
京太郎「……ありがとな」
由暉子「……はい」
由暉子(あ、いい雰囲気……)スッ
キーンコーン
京太郎「おっと、授業か……悪い、もうちょっとだけノート借りるな」
由暉子「……はい、どうぞ」
京太郎「なんか不機嫌になったような……ノート返そうか?」
由暉子「いえ。京太郎さんとは無関係の事柄ですし……」
由暉子(授業の合間に、教室であの空気では意味がないですね……残念でした)
~水曜、昼
京太郎「さて、お昼だ」ガタッ
由暉子「どちらに行かれるんですか?」
京太郎「いやー、札幌から直接来たから、弁当が用意できなくてさ。学食か購買か、あと自炊か、その辺で飯調達しないと」
由暉子「……ふむ」
京太郎「っつーわけで、行ってくるわ」
京太郎「さて、それならまずは学食に――」ガラッ
??「きゃっ」
京太郎「!? おっと、大丈夫ですか、お嬢様」ガシッ
成香「はぁ……すいません、ちょっと買いすぎちゃって――あっ」
京太郎「本内先輩、こんにちは。すいません、ぶつかってしまって……ケガはありませんか?」
成香「だ、大丈夫ですっ……あの、ありがとう、支えてくれて……」
京太郎「いえいえ、俺が急いで飛びだしたせいですから。次からは気をつけます」
成香「はい、私も……ところで、どうしてそんなに急いでたんですか?」
京太郎「っと、そうでした。お昼が用意できなかったので、急いで調達しないといけないんですよ。それじゃ、失礼します」
成香「そうなんですか、大変ですね……あ、だけど急がなくても大丈夫だと思いますよ」
京太郎「?」
成香「よその学校は知りませんけど、うちは学食も購買も平和的ですから……どの学年がゆっくり歩いても、目当てのものが購入できるはずです」
京太郎「……そっか、お嬢様学校でしたもんね。殺伐とした学校を渡り歩いてきたので、急ぐ癖が身についてました」
成香「ふふっ……あ、そうだ。あの、これ……よかったら、お昼の足しにしてください」カサッ
京太郎「こ、これは……うぐいすパン? レアなもん扱ってますね」
成香「餡子がしっとりで、おいしいですよ。その、支えてくれましたから、お礼に差し上げます。ご飯の後の、デザートにでもしてください」
京太郎「いや、そんな……俺がぶつかったわけですから」
成香「ううん、買いすぎちゃったから、もらってくれると助かりますし……」
京太郎「そういえば、どうしてそんなに? 実はよく食べる人なんですか?」
成香「……その、私……声が小さいから、やめるって言ったの、聞き取ってもらえなかったみたいで……そのあと、言いだせなくて……全部……」
京太郎「あー……あの、それならこれ、買い取りますけど……」
成香「せ、先輩として、そんなことできませんからっ。後輩に押し売りなんて……そんなつもりではなかったですし」
京太郎「けど……」
成香「……せ、先輩からの奢りですっ」
京太郎「………………ありがとうございます、ご馳走様です」
成香「はいっ! それじゃ、慌てないで行ってらっしゃい」
京太郎「はい、行って参ります。これ、助かりました」
由暉子「………………別にいいですし。一人分しか持って来てませんし、あげられませんし、わけても物足りないでしょうし」パクパク
~水曜、放課後
京太郎「ここの学食、メニュー追加しなくてよくないか? すげぇ充実してたぞ……」
由暉子「京ユキ丼は入れてもらわないと困ります」
京太郎「ああ、まぁロコモコは作ってみたかったしな、うん。ハンバーグもなかったし、そこはいいと思う」
由暉子「今日はなににしたんですか?」
京太郎「……内緒」
由暉子「当ててあげます。レディースランチですね」
京太郎「なぜわかった!?」
由暉子「お好きだって聞いてましたから」
京太郎「俺言ってないし、日誌にも書いてないよな?」
由暉子「はい。でもコメントとかで、そういう話題がありましたから」
京太郎「咲ぃ!」クワッ
由暉子「由暉子です」
京太郎「あ、ああ、それは……じゃなくて! っていうか、なんで女子校にレディースランチあるんだよっ」
由暉子「先輩に聞いた話ですが、昔は日替わりだったのですが売れ行きが悪く、試しにレディースランチに名称変更したところ、売り上げが飛躍的に伸びたとか」
京太郎「それでいいのか、有珠山のお嬢様方……」
由暉子「名称は大事だと思います。ロコモコ丼だと簡単に想像できてしまいますけど、京ユキ丼ならすぐにはわかりません。試しに注文し、売上も伸びます」
京太郎「強かな……あと、なんかタコライスとかタコス丼とか想像されそうな気がするんだが」
由暉子「そっちは京タコ丼でいいと思います」
京太郎「……結構言うな」
由暉子「一般に、そちらの組み合わせは優希よりタコスを好んで使ってるようですから」
京太郎(なんの話なんだ……)
由暉子「では、部活が始まるまで、メニューのレシピを考えましょう」
京太郎「そうだな……まずは試作だ」
揺杏「なになに、面白そうな話になってきたじゃん」
成香「あの、練習は……」
京太郎「……先輩たち、いつの間に?」
揺杏「は? 最初っからいたけど」
成香「ユキちゃんと話し込んでましたから、入ってきたときから……」
由暉子「そうですか? 普通にしていたつもりですけど……」
京太郎「だよな。まぁ、キリもいいし、試作より練習だ」
由暉子「……わかりました。始めましょう」
揺杏「それ、私が言うべきじゃね? ってことで、部活始めるよー」
京太郎「さて――俺はなにすっかなぁ」
京太郎「……電話、だと」
揺杏「お、またはやりんか~?」
成香「爽さんかも……」
由暉子「順当に考えれば三尋木プロですけど……」
京太郎「そう簡単にプロ選手から電話なんて――」
京太郎「……まぁ、咏さんですけど」
由暉子「やっぱり……」
揺杏「えー、なんでよ」
由暉子「……いえ、昨日お仕事を頼まれた方なわけですし」
成香「あ、そうですね。お礼かなにかでしょうか」
京太郎「どうでしょう……もしもし、京太郎です」
咏『んー、元気?』
京太郎「え、はぁ……って、朝会いましたよね?」
咏『まぁ、うん……だからほれ、この数時間で弱ってたりしないよなーって』
京太郎「大丈夫ですよ。咏さんこそ、ちょっと声にお力がありませんけど、大丈夫ですか?」
咏『へ? いや、へーきへーき、全然へーきよ、うん』
京太郎「今日はこれからお帰りでしたっけ、横浜」
咏『んー、そうそう。で、それが夜なんだけどさ、練習も終わったし、いっちょ京太郎と遊んでやろうかと思ってね~』
京太郎「えっと、大丈夫なんですか?」
咏『なにがだい?』
京太郎「その……昨日の結果があって、その今日でこっちに来るとかって……」
咏『――ま、長く打ってりゃ、ああいうこともあっからねぃ。なかったバケモンもいるわけだけどねぃ』
京太郎「すいません、俺がうまくできなかったせいで」
咏『いやいやいや、京太郎は関係ねーって! それよか、そっち行って大丈夫なんかい?』
京太郎「……はい、お待ちしています」
咏『ん、おっけ~。んじゃ、ちょ~っと待っててよ、即行で向かうからさ!』
咏「よっ」
京太郎「お疲れさまです」
揺杏「フットワーク軽いなぁ」
由暉子「……あの、三尋木プロ」
咏「おう、ど~したよ、おもちちゃん」
成香「おもっ……」
由暉子「いえ、えっと……ちょっと内緒話、よろしいですか?」
咏「なになに、悪口? それとも好きな子の告白かい? うっは、修学旅行みて~」
由暉子「ではなく――」
由暉子「……京太郎さんのマッサージって、どんなでしたか?」
咏「――やっばい。人生観変わるわ」
由暉子「なるほど……ありがとうございます、肝に銘じておきます」
咏「ま、JKにはオススメしないけどねぃ、知らんけど。どっちにしろ、もうほとんど受けちゃってそうだしねぃ」
京太郎「……なんなんだろう」
揺杏「さぁ? なんにしても、あのコンビ……小学生コンビに見えなくもなくね?」
京太郎「ノーコメントで」
咏「おいおい、聞こえてんぜ~、京太郎……そこは否定すっとこじゃね? 知らんけどさ」
京太郎「ヒッ」
咏「よーしよし、そんなに厳しい指導が好きかぁ……しゃーねーなぁ」
京太郎「」オワタッコ
京太郎「」チーン
咏「おー、よく頑張ったねぃ、偉いえらい」ナデナデ ペシペシ
京太郎「扇子で……叩かないでください……」グデー
咏「いやいや、褒めてんだって。あんだけ扱いたら、横浜の新人なら麻雀やめてるレベルなんだぜぃ? それについてこれる京太郎は、間違いなくプロの器ってわけさ」パチンッ
京太郎「そりゃどーもです……あー、腕が上がらねぇ」
咏「さて、そんじゃその状態で次は、半荘対局やってこうかい」
京太郎「」
咏「なーんつってな、冗談じょうだん♪ ほれ、ちょっと休んでていいぜ~、私はほれ、ほかの小童どもの相手でもしてっからさ」
京太郎「お手数、おかけします……」
咏「なーに、弟子の面倒見るのは師匠の役目だっての。さて、昨日からどんくらい強くなったか、見てやるとすっか」
京太郎(一日では変わりませんて……けど、俺にあれだけ指導しても、まだ動けるんだな……)
京太郎(……えりさんに聞いた話だと、持ち上げようとして潰されたって言ってたし、実は妖怪なんじゃなかろうか)
京太郎(まぁ、重かったのは着物のせいだとは思うけど……ああ、あの重りをつけて歩いてるわけだから、体力と筋力がついてるのか)
京太郎「……やっぱ俺も、もと鍛えないとなぁ」ボソッ
咏(うっへ、あれ以上!? やべぇ、涎が……)ジュルッ
由暉子(十分に鍛えられて引き締まっているのに、さらに――)ピキーン
揺杏(なに着せようなに着せようなに着せようなに着せよう)ハァハァ
成香(……割れてる腹筋、触ってみたいです)
京太郎「はぁー、ちょっと復活……そろそろ部活しないとな」
揺杏「ねぇねぇ京ちゃん京ちゃん」
京太郎「……なんすか」
揺杏「え、なんか反応冷たくね?」
京太郎「いや、呼びかけがどうも……宮永姉妹っぽくて」
揺杏「おー、私もついにそのレベルか……ま、それはいいんだけど」
京太郎「はぁ……(直す気はないのか……)」
揺杏「腹が見えるのと見えないの、どっちがいい? あ、ピッチリ系限定で」
京太郎「??????」
京太郎(……はっ! 由暉子の新衣装か!)
京太郎「見えるほうでお願いします!」キリッ
揺杏「だよね! よーし、任せとけよぉ……うひっ、ふへへへへっ……」
京太郎(なーんかやばい笑い方してたけど……由暉子の腹見せ衣装か、楽しみに――あ、やべ)
京太郎(それだと全国放送されちまうのか……けど俺も見たいし、試合では着ないように頼むか……いやいや、それはなんか越権行為だよなぁ)ウーン
由暉子(……自分の衣装だってわかってるんでしょうか?)
成香(揺杏ちゃんの涎がすごいです……)
京太郎「……まぁ完成してから言ってみることにしよう。完成しないと、俺も見られないからな。いまは部活だ」
京太郎「……えーっと部員が俺抜いて7人、咏さん入って8人……なるほど」
京太郎「うん、卓は埋まってるな」
京太郎「ということで、牌譜整理でもしておくか」
京太郎「……っていうか、ここ牌譜ねぇな!」
京太郎「仕方ない、予選の分と、去年の全国準決勝以上だけでも作っとくか――」
京太郎「えーっと、去年のまとめは……お、このサイトか」
京太郎「こないだ浩子先輩にもらった、牌譜作成用のソフトは、俺のタブレットにあったから――」
京太郎「こうしてこう、んで――おー、作りやすいなぁ」
~少年作業中
京太郎「ふぅ……とりあえず、こんなもんかな。しかし北海道も、そこそこ強い人が多いな……今年、大丈夫かな」
揺杏「気にしすぎだってーの、京ちゃんはさ~」
京太郎「いや、気にもしますって……っていうか、練習はどうしたんですか」
揺杏「いま飛んできたとこ」
京太郎「飛ばないでください……」
揺杏「いやいや、咏ちゃんの三倍満は無理だって」
京太郎「あー……お疲れさまです」
揺杏「まぁやるだけやって、それで無理なら諦めるしかないしさ。気楽に行こうぜ~」
揺杏「ってか、なにしてたん?」
京太郎「牌譜作ってました。この部、そういうの全然なくて、予選の対策とかまるでできなさそうだったんで」
揺杏「あー、そういやチカセンがそういうの持ってたなぁ……どこだっけか」
京太郎「マジすか、なら見つかったら教えてくださいね。とりあえず、去年の予選のまとめと、去年の全国準決勝以上、あと春の決勝です」
揺杏「うぇ、すっげ……え、これいま作ったっつーの?」
京太郎「はい。まぁ、ソフトに助けてもらってですけど」
揺杏「……京ちゃんさぁ」
京太郎「だからそれ――あぁもういいです。なんすか?」
揺杏「うちの子になんない? 正式に」
京太郎「雑用10回大成功したら考えます」
揺杏(……たぶんこれ、京ちゃんPとして由暉子プロデュースさせたら、マジデビュー余裕だよな? ちょっと有能すぎんよ~。うっへっへ、夢が膨らミングだぜ……)
京太郎(なーんか変なこと考えてそうだな……まぁ喜んでもらえたならいいか)
~6月第一週水曜、夕方
京太郎「――と、そろそろ終わりの時間ですね」
咏「げっ、マジか! うぉ、着信すげぇ……あ、また鳴ってる」
チーフ「失礼します! 咏さん、どうして電話出ないんですか!」
咏「ちょまっ……わ、わりーわりー、つい、ね……んじゃまたな、京太郎!」
京太郎「あ、はい、お疲れさ――もういないし」
由暉子「なんだか申し訳なかったですね、練習に付き合っていただいたのに……」
成香「叱られなければいいんですけど……」
京太郎「まぁ大丈夫ですよ、たぶん……さて、俺らも帰りましょうか」
揺杏「よーし、カギかけっぞー!」
京太郎「待った」
揺杏「ん?」
京太郎「掃除がまだです」
揺杏「……お、おう」
成香「怖いです……」
由暉子「真面目に掃除しないとですね、頑張りましょう」
京太郎「まぁ昨日、俺がいなかったのも悪いんですが……なんだったら、俺一人でもいいですけど」
揺杏「あ、マジで?」
由暉子「だめです」
成香「揺杏ちゃん、みんなでやればすぐですよ」
揺杏「……はい」
京太郎「それじゃ、始めましょうか。一年のみんなも、悪いけどよろしくな」
『はい!』
京太郎「ふー、みんな送ってたら遅くなったなぁ……お!」
京太郎「お隣さんいるじゃん、っしゃあ!」
京太郎「手作りはあれだからな、うん。前にネットで調べた、札幌でも名の知れた名店のお届け……」
京太郎「……赤土獅子原が教えてくれれば、もっといい店あったかもしれないのになぁ」シミジミ
京太郎「っと、またお出かけされるかもしれないし、早くご挨拶に伺っておこう」
ピンポーン
??『……はい?』
京太郎「夜分に失礼いたします。先日、隣に引っ越して参りました、須賀と申します。よろしくお願いします」
??『あ、はい。どうもご丁寧に――え、須賀?』
京太郎「それでですね、えーっと……ちょっとしたご挨拶の品をお持ちしましたので、よろしければお納めください」
??『……もしかして、手作りだったりします?』
京太郎「いえ、まさか。知らない相手ですと、そういったものは遠慮されますので。札幌で購入したものです」
??『……じゃあ人違いかな』
京太郎「えっと……どうしましょう。お忙しければ、また改めますが」
??『あ、はいはいはーい。出ます、ちょっとお待ちください。その、チェーンは外さなくてよろしいでしょうか?』
京太郎「ええ、もちろんです。最近は危ないですからね。平たい箱ですので、隙間からでも入りますよ」
??『お気遣いくださって、ありがとうございます。では、お待ちください』プツッ
カチャカチャ ガチャッ
??「お待たせしました、こちらに住んでおります、桧森と申します」
京太郎「ご丁寧に、ありがとうございます。改めまして、須賀です。どうぞよろしくお願いします――」
京太郎(………………ん?)
??(……あれ? やっぱり、これって――)
京太郎「――桧森誓子さん?」
誓子「――っ! あの、どうして……」
京太郎「っっ……すいません、失礼しました。えっと、去年の夏の、麻雀インターハイ覚えてますか?」
京太郎「そこで有珠山高校と試合になりました、清澄高校の一年――あ、いまは二年なんですが。須賀京太郎といいます」
誓子「本物の派遣執事!」
京太郎「あ、はい……それで、今月は有珠山に派遣となりましたので、こちらにお世話になってまして……」
誓子「へー……え、もしかして私が隣っていうの、知ってたとか……」
京太郎「そこまではさすがに。物件については、連盟に調べていただいて、そこに決める感じなので」
誓子「あ、そうなんだ……まぁでも、そういうもんだよね」
京太郎「にしても隣に、同校の先輩が……前に宮守でも似たようなことがありましたけど、偶然ってあるもんですね」
誓子「……なんかその噂、知ってる。半同棲だったってほんと?」
京太郎「――――ど、どこでそんな話を……」
誓子「爽が誰かから聞いたって、教えてくれた」
京太郎「獅子原ァ!」
誓子「こら、先輩相手に呼び捨てはだめ」
京太郎「っと……すいませんでした」
誓子「はいよろしい。それじゃ、えっと……どうしようか」
京太郎「あの、こちら……よろしければ、お納めください」
誓子「はい、ご丁寧にありがとうございます……あのね、本当なら上げてお茶でもっていうところだけど――」
京太郎「いえ、こんな夜分ですし、初対面の女性の部屋に上がるわけには参りませんし。これで失礼します」
誓子「ん、そっか……初対面の先輩と半同棲していたにしては、紳士的だね」
京太郎「う……はい、あの……なんかすいません」
誓子「あ、大丈夫だよ、気にしてるわけじゃないし、心配もしてないから」
京太郎「はぁ……では、失礼します。おやすみなさい」
誓子「うん、おやすみなさい。あ、そのうち学校に行く機会があったら、一緒に打とうね。それは楽しみにしてたんだ」
京太郎「はい、よろしくお願いします……では」ペッコリン
誓子「んー……かっこいいし、優しそうだけど……爽の情報のせいで、ちょっと踏み込みづらいなぁ」
京太郎「獅子原ァ! なんてことを……してくれたんやっ……」
~水曜、夜
京太郎「……気を取り直して、用事を済ませておくか」
京太郎「んで、早めに寝るとしよう。あまり遅くまで起きていて、桧森先輩に迷惑はかけられない」
~少年、ネット散策中
京太郎「――ん、これは……?」
京太郎「へぇ、こんな場所に朝市が……ちょっと遠いけど、一回目はタクシーで行っておくか」
京太郎「次からはルーラで行けるしな、うん」
京太郎「せっかく食材の美味しい土地にいるんだから、こういうのも堪能していかないと」
京太郎「よし、そうと決まれば寝るぞ! 起きる時間は……鍛錬よりちょっと早め、こんなくらいか」
京太郎「じゃ、おやすみなさいっと……」
~水曜、終了
~からの木曜早朝、朝市
京太郎「――着いた。こんな早朝だってのに、すげぇ活気だ」
京太郎「さて、とりあえずは一通り見て回るかな。買い物は次回以降だ……」
京太郎「魚介はカニとウニ、野菜だとアスパラが旬らしいけど……それ以外も充実しまくってんなぁ」
京太郎「ジャガイモは来月かぁ、惜しい……んっ!?」
京太郎「メロン! 夕張メロンが……おおおお、マジか、6月!」
京太郎「これは……やばい、買う気はなかったけど……押さえておきたい。デザートに使いてええええ……」
京太郎「――買ってしまった。そして作ってしまった」
京太郎「ゼリーとシャーベット、ケーキにチーズケーキ風味、ジャムにしてパイケーキに、クリームにしてサンド、etc……」
京太郎「……とりあえず、市場の人たちに試食していただくかな」
「あふんっ(低音)」
「んはぁっ(重低音)」
「ひぐぅっ(ハスキー)」
「んぁっ(美人なお姉さん)」
京太郎「……ふむ、なかなか好評だったな。まぁ定番なメニューになったけど、そもそものモノがいいから、奇をてらう必要もないか」
京太郎「この調子で、色々と考えていくかな」
~6月第一週木曜、朝
京太郎「なんだかんだで、もう四日目なんだな……」
京太郎「四日目にして、市場に気づけたのはよかった……今日の昼飯は、ちょっと豪華にやっちまおう」
京太郎「で、あとは見つけた食材の一部は、学校の保管用にっと……よし、こんなもんか」
京太郎「さーて、遅刻しないうちに、行くとしますかね」
京太郎「――お」
由暉子「あっ……おはようございます」
京太郎「おはよう、由暉子」
由暉子「今朝はいつもよりゆっくりですか?」
京太郎「うっ、そうかもしれん……」
由暉子「寝坊でしょうか?」フフフ
京太郎「いや、ちょっと朝市に行っててな。デザートの試食とかしてもらってたら、こんな時間に」
由暉子「………………?」
京太郎「えーっと……ほら、ちょっと離れたとこ……っていっても、結構かかるよな。車で行くようなとこだし」
由暉子「……もしかして、えっと……」スマホイジリー
由暉子「……こちらですか?」
京太郎「あ、そうそう。そこだ」
由暉子「……朝から、ここへ?」
京太郎「ああ。見つけたもんで、これは行くしかないと思って――」
由暉子「……京太郎さんも、冗談をおっしゃるんですね」
京太郎「えっ」
由暉子「行くだけならともかく、行って、デザートまで作って、そこから帰ってこの時間に登校なんて、できないじゃないですか」
京太郎「……だ、だよな」
由暉子「はい」
京太郎「……でも本当なんだ」
由暉子「……えっと、冗談ではないんですか?」
京太郎「うん……」
由暉子「そうでしたか……」
京太郎「いや、マジだよっ? こんなことで冗談とか嘘とか、言わないから!」
由暉子「そうなんですか?」
京太郎「特に面白くもないし、取れ高なさそうだからな」
由暉子「(取れ高?) なんだかよくわかりませんけど……京太郎さんがそうおっしゃるなら、信じます」
由暉子「でも、どうやって戻ってきたんですか? すごく遠い場所なのに……」
京太郎「ああ、それは――」
~執事説明中
由暉子「」
京太郎「……これはさすがに信じない、か?」
由暉子「いえ、信じます」
京太郎「……嬉しいけど、人を疑うことを覚えたほうがいいぞ?」
由暉子「嘘なんですか?」
京太郎「いや、マジだけど……」
由暉子「それなら信じます。それに、人を疑わないんじゃなくて、京太郎さんを疑わないだけですから」
京太郎(……あ、いまちょっと後光とか天使の羽とかが見えた。そういや天使のブラとかいうもんがあったような……)ジー
由暉子「? それはともかく、そろそろ学校です。あまり時間はありませんけど、練習しましょうか」
京太郎「あっ、そ、そうだな! よし、予選まで時間ないし、頑張ろうぜ!」
~木曜、昼
京太郎「――で、あっという間に昼休みだな。ほら由暉子」カパッ
由暉子「おいしそうなアスパラベーコンですね。アスパラが、とてもいい色をしています」
京太郎「今朝取れたてのを選んだからかな」
由暉子「それに――カニ?」
京太郎「カニの身とウニで、炊き込みご飯にしてみた。あとは、ちょっと早いけどいいジャガイモがあったんで、野菜と一緒にソテーして――」
由暉子「こっちの冷蔵バッグは……」
京太郎「メロンだけ持ってくるのももったいなかったから、昼用のデザート入れといた」
由暉子「本当に行ってたんですね、市場……」
京太郎「なんだ、やっぱ信じてなかったのか?」
由暉子「信じてましたけど、改めてということです」
京太郎「あそこはいい場所だ、これからも何度か通わせてもらおうと思ってる」
由暉子「私も一度、行ってみたいですね」
京太郎「ああ、いつでもいいぞ。行くとき連絡するから――」
由暉子「では、ゾロ目が出たときは誘ってください」
京太郎「ん、わかった (ゾロ目?)」
由暉子「それより、せっかくおいしそうにできてるんですから、早くお昼ご飯にしましょうか」
京太郎「お、そうだな――では、いただきます」
京太郎「――ふむ……ふむ、ふむ……」サラサラ
由暉子「京太郎さん、それは?」
京太郎「作った直後と、弁当にしたときの味の変化メモ。それを活かして、冷めてもおいしいのにしたりとか、アレンジを考えるんだ」
由暉子「本格的ですね……ちなみに、今回のはどうでしたか?」
京太郎「出来たてには劣る……みたいな」
由暉子「温かい料理である以上、それは仕方ないかと……」
京太郎「冷めることで、味が変化する――みたいな調理ができれば、一粒で二度おいしい感じに仕上がるんだが……すぐには難しいな」
由暉子「……大変なんですね」
京太郎「俺はまだ楽してるほうだろうなぁ……これまで見てきた料理人はみんな、もっと苦労して、試行錯誤してたよ……」
由暉子「――おそらくですけど」
京太郎「うん?」
由暉子「そういう人たちも、一人では作ってなかったと思うんです」
京太郎「ああ、だろうな」
由暉子「手伝ってくれる人や、味見してくれる人、様々な役割です」
京太郎「うん」
由暉子「……京太郎さんにも、そういう人がいてもいいと思います。むしろいるべきです」
京太郎「なるほどなぁ……けど、そう言われてもなかなか――」
由暉子「…………」ジー
京太郎「辻にいたときは智葉さんや追い回し、松実館にいたときは玄さんたちやBさん……さすがにここからは頼めないか……」
由暉子「…………」ムー
京太郎「…………なぁ由暉子」
由暉子「はいなんでしょう!」
京太郎「っっ! え、と……その、一つ食べて見てはいただけないでしょうか」
由暉子「もちろんです。いただきます」アー
京太郎「…………あれ?」
由暉子「…………」アー
京太郎「あの、由暉子さん……」
由暉子「…………」ンァー
京太郎「……こういうのは、学校の教え的にどうなんでしょうか」
由暉子「ありです」アー
京太郎「……では、お願いします」スッ
由暉子「あむ……んっっ、んんぅぅっっ!」ビクーン
由暉子(はぁぁぁぁぁっ……冷めたらおいしくなくなるなんて、そんなの嘘です、嘘じゃないですかっ……)
京太郎「ど、どうだ……?」
由暉子「と……とっても、おい、ひっ……れふ……」トローン
京太郎「ゆ、由暉子!? おい、しっかり!」ガシッ
由暉子「んはぁっ……」ビクッ
京太郎「うわぁっ、すまん! ち、違うっ、意識して触ったわけじゃ――」
由暉子「だ、大丈夫、れひゅ……そ、それより……もう一口、いただけませんか……」プルプル
京太郎「…………」ゴクリ
由暉子「だめ、でしょうか……?」プルンッ プルンッ
京太郎「……あーんして、由暉子」
由暉子「んぁー……んぅっ!!」ビクンッ
――このあと滅茶苦茶眼福した
~木曜、放課後
京太郎「――なんか5、6時間目中のクラスメートの視線が熱っぽかったような」
由暉子「気のせいじゃないですか?」
京太郎「具体的にはデザートを振る舞ってから、やばかったような」
由暉子「気のせいですね、きっと」
京太郎「だといいんだけど……」
由暉子「女の子の視線が気になるのはわかりますけど、ここは大多数が、教師陣さえもほとんど女性ですから、気にしだしたら持ちませんよ?」
京太郎「いや、わかってるって……そういうのは気にしてないつもりだから、たぶん」
由暉子「……ならいいんですが」
京太郎「気にしてたら部活にもならないしな――さて、行くか」
由暉子「はい、参りましょう」
京太郎「……なんか今日は、一日中由暉子と一緒にいる気がする」
由暉子「それは気のせいじゃないですね」
京太郎「いや、言いすぎだろ?」
由暉子「そうですね。朝、登校中に会うまでと、学校でも体育のときは別でしたから」
京太郎「なんで俺はまた、体育が別なんだっっ……」ドンッ
由暉子「男子と女子では運動能力に差がありますからね」
京太郎「……あ、ああ、そうだな」
由暉子「どこか一緒だったところはあるんですか?」
京太郎「……いや、基本別々だけどな、うん。それでも清澄は、同じグラウンドだったり、体育館だったり、プールだったりしたもんだ」
由暉子「プール……あの、原村さんたちと、同じプールに?」
京太郎「ああ、そうだったな……あのときは俺も若かった」
由暉子「去年のことですよ、しっかりしてください」
京太郎「そういえばそうだ。いや、けどあのときはほら、人間的にまだまだだったっていうか……まぁいまもまだまだなんだけど」
由暉子「……プール開きは、今月の末でしたね」ブツブツ
由暉子(……なにかのときに助けてもらえるからと、監視員のような形で一緒に……おそらく京太郎さんの脳裏には、原村さんのことが強く残っているはずですし――)
由暉子「上書きして見せますから……」ボソッ
京太郎「ん? なんか言ったか?」
由暉子「いえ。原村さんには負けられないなと」
京太郎「前と違って、由暉子は大将になるから、咲と当たるだろうけどなー」
由暉子「宮永さんは敵じゃないです」
京太郎「お、言うなー。まぁ気持ちで負けるよりは、そっちのほうがいいよな」ウンウン
~部室
京太郎「あ――そういや昨日、桧森先輩に会いました」
揺杏「マジで!? チカセンなにしてたのっ、っつかどこで!」
京太郎「あー……えっと、近所で。買い物かなんからしくて、たまたま」
由暉子「どちらが声を?」
京太郎「いや、俺がつい呼びかけちゃって……まぁ向こうも知っててくれたみたいだけど」
成香「チカちゃん、元気そうでしたか?」
京太郎「ええ、余裕ができたら、こっちにも顔をだすって言ってました」
成香「そっかぁ……楽しみにしておきます」
揺杏「成長した私らの実力、見せつけてやるかねー」
京太郎「いいですね。それじゃ、頑張りましょうか」
揺杏「……手加減してくれよー?」
京太郎「痛くなければ覚えないって言われて教わったんで、俺」
揺杏「どんな鬼コーチだよ!」
成香「三尋木プロ、瑞原プロはそういうタイプじゃなさそうですけど……」
京太郎「………………良子さん、健夜さん。あとたまに理沙さん」ブルブル
由暉子「可哀想に……怖かったんですね、もう大丈夫ですよ」ナデナデ
京太郎「あ、ああ、大丈夫だ……」
揺杏「へい、お若いの。ひっつきすぎじゃね?」
由暉子「近づかないと、撫でられないので」
成香「撫でる必要ないんじゃ……」
由暉子「でも怯えていますから、京太郎さん」ナデナデ
京太郎「はぁ、癒される……」ポヤー
成香「……大丈夫そうに見えるんですけど」
揺杏「おらぁっ! 練習にならんっ、叩き起こせぃ!」
京太郎「……まったく、ひどい先輩だ」
京太郎「んじゃ、本当に癒しが必要になるかどうか、皆さんにもわかっていただくってことで」
揺杏「なにそれこわい」
成香「ひぅっ」
由暉子「望むところです(癒しを)」
最終更新:2026年01月18日 23:45