~部室
照(京ちゃんまだかなぁ)
揺杏(なんか上の空……これはチャンス!)
成香(気をつけてよ、揺杏ちゃん……)
照「ロン」
揺杏「」
成香「だから言ったのに……」
揺杏「なんも聞いてないけど!?」
成香「あ、ごめんなさい……心の中でした」
はやり「そんなに牌のお姉さんに憧れてるの?」
由暉子「いえ、そういうわけでは……」
由暉子「ただ――先輩たちが私のために考えてくれた、私たちの目標が……そこになっていたんです」
はやり「牌のお姉さんが?」
由暉子「瑞原プロのような、アイドルになることが、です」
由暉子「牌のお姉さんは、そのポジションに入ったという、わかりやすい象徴になるのではないかと」
はやり「ふぅ~む……それじゃ、牌のお姉さんとしては不十分かな☆」
はやり「牌のお姉さんは、一部の人や身内じゃなく――もっと大勢に目を向けて、大勢を幸せにできる職業なんだぞ☆」
由暉子「……はい」
はやり「なにより、子供好きじゃないといけない☆」
由暉子「そこは大丈夫です。子供はたくさん欲しいので」
はやり「その発言はアイドル失格だぞ☆」
咏「お、次は君かい。いいよいいよ、お姉さんがしっかり教えてあげよう」
(はい、成績最下位はここでマンツーマンの特訓です。お仕置き部屋、とも呼ばれています。辛いです)
~京太郎 in 部室
京太郎「お待たせしました――」
照「待ちくたびれた!」ダキッ
京太郎「おわっと! すいません、照さん……あと、打ってる途中で離席はよくないですよ」
照「ちょっと待って、すぐ終わらせてくる――」ギュルルル
揺杏「はは、南入りしたとこでそんな――」
照「ツモ、ロン、ツモ――お疲れさまでした」
揺杏「」
京太郎(えげつねぇ……)
照「お待たせ!」ダキッ
京太郎「配膳の邪魔なので、座っててください」
照「」テルーン
京太郎「ここまでの牌譜と……成績まとめがあれば、見せてください」
「あ、こ、こちらに!」
京太郎「ああ、悪い……ふむ、ふむふむ……」ペラッ
由暉子「真剣な横顔もかっこいいですね」
成香「たまにしか見られませんけど、素敵です」
揺杏「普通にしてれば精悍だからなー」
咏「普通にしてなくても、普通以上に見れるだろ?」
はやり「だね☆」
京太郎(さて、それじゃ……誰に渡そうか)
京太郎「んーと……まずは順当に、防御率1位のはやりさん、どうぞ」
はやり「わお、ありがと☆」
京太郎「で、和了率は照さん、総得点は咏さんですね……まぁそりゃそうか」
由暉子「…………」
揺杏「おとなげねぇ……」
成香「そ、それだけ真剣に練習を見てくださったんだから……」
京太郎「で、同じ人に渡すのもなんですから、2位と3位も同じなので、なしです」
照「遺憾」
咏「ま、しゃーないかね」
はやり「ちょっと待って! 1位一つと2位二つ、ポイントならはやりが有利!」
由暉子「そういう制度でしたっけ?」
揺杏「そもそも明確に決めてないし」
成香「京太郎くんの判断次第、ということですね」
京太郎(あれれー? 妙なプレッシャーが……)
はやり「………………」ジー
京太郎「う……小ホールをそれぞれに一つずつで、残りは4位以下で入ってる、由暉子と先輩方で分けてもらおうと……」
はやり「………………」
京太郎「で、一年にはあげられないので、それはこちらのマフィンとムースで……あ、よろしければこちらもどうぞ」
はやり「やたっ☆」
照「京ちゃん、私も」
京太郎「はい、どうぞ」
はやり「………………」
京太郎「あ」
由暉子「……まぁ、あちらは全員分あるんでしょうね」
揺杏「バカだな」
成香「せ、誠実なんだよ……そう言ってあげて……」
京太郎(心が痛い)
はやり「ふーんだ」パクッ モグモグ パァァッ
京太郎「いかがでしょうか……」
はやり「味は文句なしだぞ☆」
京太郎「う……で、でもやっぱり、はやりさんの作るものほどでは……」
京太郎「ずっとお菓子作りを続けていらっしゃれば、もっとおいしいものをいくらでも――」
はやり「誠意は言葉ではなく態度」
京太郎「誰だったかの移籍の言葉に似てますね……」
はやり「あれは金額だぞ☆ それはともかく――いっちばーん頑張った私に、なにかないのかな?」
京太郎「なにかと仰られても……えーっと、態度ですか?」
はやり「なんでもいいぞ☆」
京太郎「ん? いま――」
はやり「エッチなのは禁止だからね☆」
京太郎「うっす」
京太郎(さて困った……)
京太郎(だめだ、ハンサムじゃない京太郎には突如として反撃のアイディアなんて閃かねぇ――)
京太郎「……すいません、はやりさん」
はやり「はや?」
京太郎「いえ――申し訳ございません、はやりお嬢様」サッ
はやり「!? ど、どうしたの急に傅いて――」
京太郎「この京太郎、無学故に理解が及ばず……なにかご所望のものがございましたら、お申しつけくださいませ」スッ
はやり「ひぅっ! 手、手がっ……」ビクンッ
京太郎「本日、この部室において、私は忠実にお仕えしますので――」チュッ
はやり「」
京太郎「――犬とお呼びください」ウワメヅカイー
はやり「――っっ!」ブッシュゥゥゥゥッッ
咏「はやりさんが鼻血噴いたああああああああああ!」
由暉子「テレビ呼びましょうか」 (救急箱取りつつ)
照「冗談言ってる場合じゃない。まずは止血」
揺杏「成香、氷」
成香「タオルも取ってくるね!」
京太郎「はやりさん! しっかり! はやりさーん!」
はやり「あふぅぅぅ……ら、らめぇ、京太郎くん……そこ、舐めちゃ、らめぇ……イタズラな、ワンちゃんめぇ……うふふふ……」ガクッ
京太郎「まさか流血沙汰になるとは」
揺杏「反省しろ」
京太郎「うっす……はやりさん、大丈夫でしょうか」
成香「まぁ血も止まってたし、病院にも行ったから、大丈夫だと思うよ」
由暉子「三尋木プロがいらっしゃってよかったです。口の堅く、腕のよい病院を知っていらっしゃったので」
照「そうだね」
京太郎「照さんはどうしてまだいるんですか」
照「お菓子、食べてた」モグモグ
京太郎「食べかすが」ヒョイ
照「あーん」
京太郎「………………」スッ
照「はむっ」
揺杏(こっちは鼻血とかだしそうにないな)
成香(瑞原プロは一途にアイドルでしたから、免疫ないんですね……)
由暉子(それでもあれはまずいです。犬と呼んでなんて言われたら、普通は鼻血噴きます)
揺杏(せやろか)
京太郎「まぁ……時間はかかりましたが、部室の流血も掃除できましたし、帰りましょうか」
京太郎「ルミノール反応については、そのうち反応がなくなるよう、処理しておきます」
揺杏(できんの!?)
成香(し、知らない……)
由暉子(そもそも、その処理は必要なのでしょうか……)
照「じゃあ帰ろう。おうちまで」ギュッ
京太郎「……そういえば照さんは、いつまでこちらに?」
照「予選、楽しみにしてるから」キリリッ
京太郎(日曜までだと!?)
京太郎「……うちには泊めらんないので、ちゃんと宿取ってくださいね」
照「」テルーン
由暉子「行く場所がないなら、うちにお泊めしますけど」
揺杏「うちでもいいかな」
成香「あ、うちも……朝から忙しくて、騒がしいかもしれませんけど……大丈夫です」
照「みんな優しいね、ありがとう」
京太郎「甘やかさないように」
三人(京太郎(くん)が言うな!)
照「でも大丈夫。京ちゃんが泊めてくれないときは、札幌の寮で部屋を空けてくれるらしいから」
京太郎「フリーダムすぎぃ!」
京太郎「――成香先輩、今日の練習はどうでしたか?」
成香「うん……さすがに疲れたかな。プロが三人もいるなんて、強豪校でもめったにないことだろうし」
京太郎「そうですね。俺もたまにしか見たことないです」
成香「……京太郎くんがいないところでは、たまにもないと思うよ」
京太郎「ところで、照さんはどうでした? 先鋒としてなにか教われることがあるんじゃないかと、なるべく多く、当たってもらったつもりなんですけど」
成香「教わるどころじゃないよ……」
京太郎「……そういえば、照さんは感覚派だったからなぁ。教えるのが下手だって、白糸台でも有名で……」
成香「えぇ……」
京太郎「すいません、失念してました。年が近いほうがと思ったんですが、やっぱり咏さんにお願いするべきでしたね。日本代表の先鋒ですし」
成香「それこそ教わるどころじゃ……もう恐れ多いしね」
京太郎「なことないですって。どこの強豪校でも、トッププロ呼んで教わるのはやってることなんですから。咏さん相手でも、積極的にいきましょう」
成香「私は……そういうの、難しいから……」
京太郎「そうでしょうか……俺は、先輩なら誰にでも、正面から向かっていけると思ってるんですけど」
成香「そんなわけないよぉ……あ」
京太郎「?」
成香「それは、あれかな……今月の最初のほうは、私が京太郎くんに対して冷たかったの、根に持ってる?」
京太郎「ち、違いますって! いや、そのことも少しは関係してますけど――」
成香「やっぱり……違うんだよ、あれはその、ちょっと警戒してただけで別に……」
京太郎「じゃなくて! 根に持ってるとかじゃなくて! 先輩、男性が結構苦手に見えたのに、それでも俺にははっきりと言ってたので……」
京太郎「儚げに見えて、芯の強い人なんだなって感じてたんですよ。だから、誰にでも正面から向かっていけると、そう思ってるんです」
成香「…………そん、なこと……」
京太郎「大丈夫っす、自信持ちましょう!」
成香「う……でも……」
京太郎「そもそも、先鋒は各校のエースに当たることも多いのに、先輩はこれまで大きなミスもなくやってきました」
成香「でも、失点も多くて……」
京太郎「実力で劣るのはいいんです。ミスがないってことは、物怖じしてないってことです。相手に物怖じしないで、普段通り打てる――それこそ、俺が思うエースの資格ですよ」
京太郎「俺がエースになるなら、先輩みたいな打ち方に憧れます」
成香「」
成香「わ――」
成香「わた、私、なんてっ……そんな、こと……」カァァッ
京太郎「胸張ってください、先輩。背中伸ばして」スッ
成香「ひぅっ!?」
京太郎「で、上見ましょうか」
成香(えっ、えぇっ!? こ、ここ、この体勢――京太郎くんが、正面から背中に手を回して、だ……抱き寄せるみたいに、して……それで、上って――)
京太郎「……目は閉じないでくださいね」
成香「ふぇぇ!? あちっ、違うのっ、いまのはっ」アワワワワ
成香「あ――」
京太郎「俯き加減だと、わかんなかったでしょ? 上を向けば、視野が広がります――見方も変わります」
京太郎「意識して、自分の見方も変えていきましょう。もったいないですよ」
成香「――うん……そうだね……」
~夜
京太郎「――とか、ちょっと調子に乗って言っちゃったなぁ……気ぃ悪くされなかったかな」
京太郎「まぁ明日、様子お伺いして、機嫌悪そうならおとなしく謝ろう……よし!」
京太郎「さて、今日はなにするかな――」
京太郎「今日の練習で、復習することになったと思うけど……ま、まぁ見直しに使えるしな!」
京太郎「まとめて電子ファイルにして、部のPCに突っ込んどこう!」
京太郎「で、プリントしたものを冊子に、あとは個別に配布用をまとめて――」
京太郎「……なるほど、そうか……だから俺の場合も、こうすれば……ふむ……」
京太郎「――と、いかん! 読み込んでないで、ひとまずまとめてしまわないとっ……」
京太郎「さて――配るのはそれぞれに配るとして、こっちのファイルと電子ファイルのことは、誰かに伝えておかないとな……」
京太郎「……由暉子なら間違いないだろ」
京太郎「もしもし、あ、由暉子か? はやりさんからの指導メモ、まとめたのをファイリングしといたから、うん――」
由暉子『……遅くまでお疲れさまでした。すいません、そんな手間までかけさせてしまって』
京太郎「いや、好きでやってることだから、それはいいって」
京太郎「それより、俺も伝える予定ではいるけど、部の連絡事項として、全員がいるときに居合わせたら、連絡しておいてくれるか?」
由暉子『わかりました。えっと、もしメモを配るのなら、それも私が手分けしますけど――』
京太郎「ありがとな。けど、俺なりの注釈とかメモも加えてあるから、渡すときにそれも伝える予定なんだ。そっちは自分でやるよ」
由暉子『そうですか……お役に立てず、申し訳ありません』ユキーン
京太郎「いやいや、気持ちはありがたいって。それじゃ、ファイルの連絡だけ頼む。うん、じゃあな。また明日」
京太郎「――と、これで大丈夫だな。さて、作業も終わったし、明日の市場もない。今日はゆっくり寝られそうだ」
由暉子(……部長じゃなく私に言ってくれるなんて、嬉しいです……京太郎に頼られると、お腹の底から……こう……温かく……)キュンッ
~火曜終了
【6月第三週火曜】
今日も今日とて練習あるのみ。
その結果がこちら。
・メロンプリンタルト
・イチゴムース
・イチゴジャムのマフィン
――――――――
『あ……ああ……ああああ……』
淡かな? 穏乃かな?
『後輩の目が虚ろに』
『親友の目が虚ろに』
どっちかは打つこともできず廃人になったと見える。
『いや~、久々に手の込んだもん食ったけど、やっぱうまいね~』
『京ちゃんの愛情がたっぷりだった。また作ってね』
『この味は再現できないな~、やっぱり☆』
『……なるほど』
『把握しました』
『札幌集合ですか。わかりました』
『会いに行くたびにせがんで作ってもらって、大人としては少し恥ずかしくありませんか?』
『恥知らずー!』
集合……いや、やめよう。俺の勝手な想像で混乱を――勝手な想像じゃないよなぁ、どうしよう。
『……本当なら、部員全員分のメロンだったんだよなぁ』
『トッププロ二人と新人王最有力候補の指導ですから、お釣りが来ると思いますけど……』
『その指導と京太郎のお菓子、どちらが欲しいかアンケートしてみましょう』
おいばかやめろ。
『お菓子』
『お菓子』
『お菓子』
『お菓子』
『京太郎』
『京太郎』
『京太郎込みでお菓子』
『お菓子』
『指導』
『嘘、ホントはお菓子』
『京ちゃんのお菓子』
……………………
~プロ in 札幌
照「ようこそお集まりいただきました」
健夜「そういうのいいから」
シロ「お二人はともかく、照までなにしてんの」
はやり「お、シロちゃん公認かな☆」
咏「姉ちゃん枠に認められちゃ、しょうがねぇな~」
野依「寝言!」
良子「そもそも姉枠は私です」
洋榎「おっと、姉と聞いちゃ黙ってられへんなぁ」
セーラ「それやと絹恵とどうこうなったいうことにならへんか?」
ダヴァン「キヌエというと、ヒロエの妹。姫松副将だった、あのキヌエですね……確かに、キョウタロウが好みそうなタイプです」
絃「それには同意。京太郎くんは大前提として巨乳が好き。その上で愛嬌がある、年上などが含まれれば好み度は上がっていく傾向にある」
利仙「さすが絃さん。ということは、わたくしもストライクゾーンに入れていただけそうですね」
爽「愛嬌……」
晴絵「まぁ愛嬌はあるよね、うん。ときどき怖いだけで」
利仙「滅相もございません」ニコニコ
シロ「そもそも公認じゃないけど、それは置いといて」
良子「三人とも、たびたび北海道に来ているのではないですか?」
理沙「迷惑!」
はやり「お仕事のついでだよ、つ・い・で☆」
ダヴァン「」イラッ
咏「仕事もないのに先週押しかけて、自宅で晩御飯食べた人もいるんだぜ~」
全員『………………』バッ
健夜「な、なんでそこで私を見るの!?」
絃「でも否定しない」
健夜「」
晴絵「やってしまいましたなぁ……」
セーラ「越えたらあかんラインいうやつか」
健夜「さ、爽ちゃんもいたよ!」
絃「へぇ」
利仙「そうなのですか?」
爽「私は地元だろ!? いいじゃん! はるるんだってしょっちゅう会ってるみたいだし! 車運転できるからって!」
晴絵「巻き込むな!」
洋榎「…………それは、もしかして――」
絃「アッシー?」
利仙「赤土プロ……」ブワッ
照「これはひどい」
シロ「ひどすぎて京太郎を擁護できない」
ダヴァン「監督が聞いたら血涙流して悔しがりそうでスガ――」
理沙「ド、ドンマイ!」
良子「その……気を落とさず……」
晴絵「落としてねーわよ! っていうか、京太郎の送迎じゃないから! 女子部員とか、どっかのプロとかだから!」
はやり「………………oh」
健夜「……皆さん、本当にすみませんでした。用もないのにみだりに足を運ぶのは控えます(運ばないとは言ってない)」
咏「……頼ってることもあるから、なんとも言えねーけど……免許とかあっても、ロクなことになんねーな……知らんけど」
晴絵「別に便利に使われてるとかじゃないから! ほ、ほら、遠征のおみやげとかもらってるし! なにかあったらすぐ頼ってくるし、可愛い教え子だし!」
こうして、札幌の夜は更けていくのでした――。
~6月第三週水曜、朝
京太郎「ファイルとPC用のメモリオッケー、と」
京太郎「今日も含めてあと三日だ、きっちり仕上げて行かないと……」
京太郎「ってか、そういえば色々と日程忘れてんな……」
京太郎「土曜が団体、日曜が個人ってことでいいんだよな? うん、合ってる(たぶん)」
京太郎「土曜日はサポートに徹する、そんで日曜は俺も大会だ――頑張ろう」
京太郎「さて、それじゃ行くか」
京太郎「ってことでこれ、昨日言ってた資料な」
由暉子「はい、ありがとうございます」
京太郎「悪いな、連絡頼んでたのに。俺から言うことになりそうだ」
由暉子「いえ、いいんです。そのほうが確実ですし、私のほうは保険だったと思えば」
京太郎「……ありがとな。それじゃ、みんなにも配ってくるから」
由暉子「はい……あ、京太郎」
京太郎「ん?」
由暉子「これからも……なにかあれば、遠慮なく言ってください。なんでも構いませんから」
京太郎「――ああ、頼りにしてるよ、由暉子」
由暉子「はい!」パァァッ
京太郎「さて、さっさと配ってしまって、練習だ!」
京太郎「よし――これは一年の分だ。そして朝練はいつも通りだ」
「はい!」
「あの、メロンプリンタルトって、もう余ってないですかね……?」
「プロの指導に比べれば……」
「……メロン、食べたかったですね」
京太郎「……あの、ちゃんとメモ見てね?」
『はい!』
京太郎「よし――それじゃ、練習始めるぞ」
~水曜、昼
京太郎「え? いや、そんな風に思ってないですって。ええ絶対です」
晴絵『でも、だって……みんなしてそんなこと――』
京太郎「みんなって誰か知りませんけど、俺は俺に指導してくださったみなさんのこと、尊敬してるんです」
京太郎「晴絵先生にも、阿知賀であれだけ世話になって――その御恩を、忘れるわけないじゃないですか」
京太郎「その、こっちでは数少ない、頼れる大人ですから、色々頼ってしまってますけど……」
京太郎「なにかあったら、遠慮なく申し付けてくださいよ。お役にたちますから!」
晴絵『……本当にぃ?』
京太郎「マジです」
晴絵『約束する?』
京太郎「します」
晴絵『うー……わかった。なら、阿知ガールズをのきなみ落としたあんたのこと、信用しとくから』
京太郎「わかっていただけたようで、なによりです」
晴絵『じゃ、週末頑張りなさいね』プツッ
京太郎「……いったい、なにがあったのやら」
由暉子「誰ですか」
京太郎「晴絵先生。なんか俺が、先生のことを便利に使ってるって、誰かに言われたらしい……」
由暉子「私も使ってください」
京太郎「その反応はおかしい――けど、そう思わせたっていうのは、>>1の描写がまずかったってことだ。反省しないとな」
「すまんな」
京太郎「まぁせっかく北海道にいるのに、あんまり選ばれないからなぁ、あの人」
由暉子「優しくて気さくで、物知りで麻雀強くて、すごく頼れるんですけどね」
京太郎「評価高いな?」
由暉子「色々お伺いしましたから」
京太郎(気になる……気にならない?)
京太郎「とはいえ、聞けるはずもなく――あー、あっちぃ」ゴロン
揺杏「もー梅雨も終わりだよなぁ」
京太郎「そっすね……なんでいるんですか」
揺杏「最初からいたよ! ここでご飯食べてたっての……あとから来たの、そっちだからな?」
京太郎「それは失礼を――では、お茶などいかがでしょう」
揺杏「アイスにしてよー?」
京太郎「あんまり冷たいのばかりでも、お腹壊しちゃいますよ。ここはホットティーいっときましょうよ」
揺杏「汗かくだろ! 汗かいたら制服ベタつくし、この辺とか透けたりするだろ!」
京太郎「……どうぞ、ホットミルクティーでございます。本日はアッサムをお持ちしました」
揺杏「話聞こうか、ん?」ニッコー
京太郎「じょ、冗談ですって……どぞ、アールグレイのアイスです」
揺杏「ご苦労……それどうすんの?」
京太郎「俺は温かいのでいいので」
揺杏「はー、変わってんねー」
京太郎「言ったじゃないですか、内臓が弱りますからね」
揺杏「じゃなくてさ。私の制服透けたって、得しねーっしょ?」
京太郎「するに決まってるじゃないですか!」ガタッ
揺杏「」
京太郎「……失礼しました」
揺杏「ヒクな!」
京太郎「いや、聞いてくださいって! これは条件反射ですよ、男子たるもの――」
揺杏「女ならなんでもいいのね、はいはい」
京太郎「美人の服が透けるとなったら、透けさせたいもんでしょ!」
揺杏「しっらねーよ! っつかヒクな! 誰がびじ――えっ、美人?」
京太郎「美人です」
揺杏「誰が」
京太郎(無言で指差す)
揺杏(背後を確認)
京太郎「いや、あんただよ!」
揺杏「な――ば、バッカじゃねーの!」カァァッ
京太郎「……あー、揺杏先輩の女子の好みとか知りませんけど――」
揺杏「そんなんねーから! 強いて言うなら、着せ替えさせやすい子だな」
京太郎「ヒクな! まぁともかく――揺杏先輩は控えめに言っても、余裕で美人ですよ? 自虐することないと思いますけど」
揺杏「いや、別に自虐はしてねーけど……その……京太郎の、好みは……もっとこう……可愛い感じで、あとおもちとか……」ブツブツ
京太郎「そういう具体的な好みとかはないっすけど……ま、それこそ強いて言うなら――」
京太郎「前向きな女の子は好きですね。あと逆境にも負けまいとする人とか、素敵だと思います」
揺杏「ふーん」
京太郎「先輩もそういうとこ、ありますよね」
揺杏「!? ねーし!」
揺杏「……ったく、アホめぇ……そういうこと、真面目に言うなよ……」ハフゥ
京太郎「こう暑くなってくると、予選って気分だな」
成香「北海道は夏もそこそこ過ごしやすいって聞きますけど、どうなんでしょうか」
京太郎「んー、どうなんすかね。俺もほら、長野がそう言われてても、ピンとこなくて」
成香「ああ、そうだったね」
由暉子「比較するために長野に行ってみましょうか」
京太郎「ああ、そういえば長野より東京のほうが暑かったなぁ、さすがに」スルー
成香「それを考えれば、北海道も確かに、あっちよりは過ごしやすかったかも……」
由暉子「…………あの」
京太郎「なんか揺杏先輩がおとなしくないですか?」
成香「お昼に屋上から戻ってきてから、こんな感じなんだけど……」
京太郎「ふーむ……なにかあったんでしょうか」
成香「予選近いのに、心配です……」
京太郎「ですねぇ」
揺杏(おっめーのせーだから!)
由暉子「長野、行きたいです」
京太郎「……そ、そのうちな?」
由暉子「はい!」
成香「それじゃ、練習始めよっかー」
京太郎「そうですね。始めましょう……ほら先輩も、部長なんですからしっかり」
揺杏「お、おう、わかってらー!」
京太郎「声かけられるのは、爽さん、晴絵先生、咏さん、はやりさん、照さん――だな。忘れないようにしよう」
京太郎「誰か、俺と打ってくれま――」
由暉子「」ストッ
成香「」ギシッ
揺杏「」スッ
京太郎「……よろしくお願いします」
「まぁ、そうなるよね」
「私たちは朝に打ってもらってるし」
「……ちょっと待って! 私が打ってもらってないやん!」
「まぁまぁ、そんなに興奮しないで」
京太郎「このメンバーで打つのって、実は久しぶりですかね?」
揺杏「いまごろ気づいたのかよー、冷てーなー」
成香「京太郎くん、練習相手とか指導者の手配してくれたり、お菓子作ってくれたり、忙しかったですから……」
由暉子「私たちでは力不足かもしれませんけど、頑張りますから」
京太郎「そんなことないって。一緒に打てて嬉しいよ……よろしくお願いします」
京太郎(さて――俺の地力を伸ばすには、また押さえながら打って、技術を磨くことだけど……)
揺杏「んじゃ、どうすっかー。半荘で回すか?」
由暉子「東風戦にしましょう。感想戦を挟むなら、短い対局を繰り返したほうが色々教われます」
成香「持ち点も団体と違って個人分ですし、攻め方と守り方を考えることになりますね」
京太郎「………………」
揺杏「オッケー、それじゃ東風戦で――って、どうした京太郎?」
京太郎「いえ……では、東風戦でやりましょう」
京太郎(昨日の練習があって、こういう風に考えたんだろうな……そうだ。こうやって試行錯誤して、練習で引きだしを作っていくもんなんだ……)
京太郎「よろしくお願いします」
成香「よろしくお願いします」
揺杏「よろしく」
由暉子「よろしくお願いします」
成香25000→
揺杏25000→17000
由暉子25000→
京太郎25000→33000
京太郎「ロン――満貫です」
揺杏「むぎゅっ……容赦ねぇ」
京太郎「もう少し河に迷彩が欲しいですね。結構トレースしやすいですよ、思考が」
揺杏「あー、そーかも。京太郎相手だと速度優先しちゃうからなぁ……気ぃつけるわ」
京太郎「はい、では続けましょう」
成香「東風戦だとすぐ決着ですね」
由暉子「でもその分、逆転しやすいです」
京太郎「いやー、そう上手くは――」
点数処理省略、トビなし、京太郎トップ
京太郎「ツモ――お疲れさまでした」
揺杏「あーくそ! 満貫で始まり、満貫に終わるってなぁ!」
成香「揺杏ちゃんラスだね」
由暉子「やっぱり強いです、京太郎は……一応、守備的に打ち回ってみたんですけど」
京太郎「最後は攻めてきただろ?」
由暉子「まぁ……逆転できれば、いいところを見せられたので……」
京太郎「守備に関しては言うことないかな。ただ、攻撃的な打ち方のほうが、俺はかっこいいと思ったよ」
由暉子「――っ! はいっ、本番では攻めに攻めます!」
京太郎「……まぁ、ほどほどにな」
京太郎「成香先輩は、もう少し責めっ気が欲しいですね。無理をせず、その上で隙を突いていく感じで」
成香「なるほど……」
京太郎「揺杏先輩は、速さを重視するのが向いてるかもしれません。迷彩の部分を、少し重点的に詰めていきましょうか」
揺杏「あ、マジで?」
京太郎「はい。けど、予選には間に合わないかな……これは、全国でのお披露目にしましょう」
揺杏「――オッケ、了解!」
京太郎「では、いまの反省点を見直しつつ、もう一回いきましょうか」
おまけ
照「大変だ」
シロ「なに」
照「私164、さっきので真屋さんが162!」
シロ「……陥落だね、お疲れさま」
照「まだ落ちてない!」
シロ「いや、来週成長分で、抜かされてるから」
照「」
シロ「……まぁ、あと二日半と、週末の予選でなんやかんやあれば、ワンチャンだけど」
照「じゃあそれで!」
シロ「こんだけ攻略対象割れてちゃ、可能性低いよ」
照「」テルーン
京太郎「――うん、安定してるな」
由暉子「打ちながら牌譜取るの、疲れませんか?」
京太郎「まぁ東風一局くらいならなんとか」
成香「私たちの手牌の変化、どうやって把握してるんですか……」
京太郎「河と最終手さえ見れば、だいたいわかりますよ。時間はかかりますけど」
揺杏「その理屈はおかしい」
京太郎「健夜さん、良子さんに血反吐吐くほど鍛えられたら、これくらい無理すればできるようになります」
揺杏「こえぇ」
京太郎「で――こんな感じですかね」
由暉子「私のはあってますね」
成香「私もです」
揺杏「……私のもだ。やっぱこええ」
京太郎「ふぅー……じゃ、ちょっと休憩挟みますね」
揺杏「お疲れさん」
由暉子「次からはこっちでメモ取りますから、それ見てあとから牌譜取るようにしてください」
京太郎「時間があるときは、そうさせてもらうって」
成香「はぁ……少しは休むことを覚えてください」
揺杏「膝枕貸してやるからさー」ナンツッテ
京太郎「マジすか!」クワッ
揺杏「」
由暉子「先輩」ジロッ
揺杏「じょ、冗談だから」
京太郎「そーすか……」ショボンヌ
成香「はぁ……」
京太郎「最近してねぇなぁ、膝枕……」
京太郎「お待たせしました」
由暉子「休憩、できましたか?」
京太郎「ああ、おう……膝、どうも」
由暉子「いえいえ」ナデナデ
京太郎「いや……練習戻るから、頭押さえないで……」
成香「京太郎くん、練習中なんですけど」
京太郎「俺すか!? いや、由暉子が――」
揺杏「あぁん? 女のせいにすんの?」
京太郎「……さーせん」グググッ
京太郎(あ、あれ……? 起き上がれない……)
由暉子「どうしたんですか、京太郎。もっと寝ていたいなら、構いませんけど」
京太郎(これは、まさか合気!?)
由暉子「はい、放しましたよ」
京太郎「……あ、起きられる」
由暉子「それで、次はどうします?」
京太郎「今日は助っ人もいないし、指導に回るかな。さて――」
京太郎「では、さっきの対局で一番課題のわかりやすかった、成香先輩から」
成香「は、はい!」
由暉子「…………私たちはどうしましょう」
揺杏「一年引っ張り込んで打とう。おーい、一位と二位はこっちな、三位と四位は牌譜ー」
「はい!」
「ただいま!」
揺杏「ん、あっちの卓使いなー」
京太郎「ありがとうございます。では先輩、あちらへ」
成香「は、はいっ! よろしくお願いしますっ」
由暉子「……成香先輩、随分と京太郎と仲良くなりましたね」
揺杏「ん、そう? まぁ半月以上一緒だし、お泊りもしたしなー」
由暉子「私だって同じじゃないですかっ」
揺杏「……ユキはもう十分以上に仲いいと思うんだけど」
由暉子「まだ、足りないっ……いまは貪欲に、好感度……っっ……」
揺杏「……ま、頑張りなー」
京太郎「それでは、先ほど言ったことの実践を」
成香「えっと……守り主体で、隙を見つけて上がりに寄せていく……」
京太郎「はい。途中でわざと隙を作りますので、その間に手を進める。まずはテンパイまででも構いませんが――」
成香「が?」
京太郎「全部見逃さなければ上がれるよう、調整していきますので。目と頭、フルに活用してくださいね」
成香「が、頑張ります……」
成香「……ん~……んんっ……んっっ……はぁ……」
京太郎(エロい)
成香「んぅ……あぁっ、ダメ……っ……」
京太郎「残念、これでツモです」
成香「あぁっ……はぁ、ふぅ……」
京太郎「大丈夫ですか?」
成香「見逃してないつもりなんですけど……」
京太郎「はい。始めたばかりにしては、よく見えてると思います」
京太郎「あとは……その巡ごとに判断するのではなく、視野を広くすることでしょうか」
成香「周りを、ですか?」
京太郎「というよりは、その人の流れの中で、そのときの行動の理由っていうのを感じられれば、見えることもあるんじゃないでしょうか」
成香「そうですね。いまは二人ですし、周りの行動は関係ありませんから」
京太郎「本番だと、あと二人いるので、もう少し難易度上がりますからね……せめて一対一なら確実に進めるよう、精度を上げておきましょう」
成香「はい……もう一度、お願いします」
京太郎「ええ、もちろん。じゃ、始めましょうか」
成香「んっ……んぅっ、ふぅ……ぁっ……」
京太郎(エロい)
~夕方
京太郎「――夕方っていうか、夜ですよね」
揺杏「部活させすぎだ! これでもみんな、良家のお嬢様なんだぞ!」
京太郎「ま、まぁちゃんと送っていきますから」
成香「この辺りは治安がいいので、大丈夫ですよ」
京太郎「いえいえ、それでも念のためです」
由暉子「うちが一番遠いので、最後ですね。よかったら上がっていってください」
京太郎「それじゃ、掃除だけしちゃいますので。みんなは先に出ててください」
揺杏「はぁ……しゃーない、やるかぁ」
成香「一年生机をお願いします。私たちは椅子と、ホワイトボードのほうを――」
京太郎「あの、俺一人でも――」
由暉子「だめです」
京太郎「はい」
少年少女掃除中――
京太郎「……そういえば、ずっと気になってたことがあるんだけど」
由暉子「なんでしょう。今日は水色ですけど」
京太郎「ホワイトボード、なんで写真貼ってあって、連絡事項がセリフになってんだ?」
由暉子「…………爽先輩のせいです」
京太郎「ああ……」
揺杏「あと私もな!」
京太郎「ああ……」
成香「かわいいですよね」
京太郎「それは確かに」
由暉子「じゃあこのままでいいですね」ニッコリ
揺杏「ええーい! いいから早く済ませて帰ろう!」
京太郎「――いやいや、ルーラじゃないから。送ってきたから! ただの省略だから!」
京太郎「由暉子の家でも夕飯に誘われたし!」
京太郎「せっかくなんで一品作って、一緒にいただいてきたし!」
京太郎「――にしても、由暉子の私服……ちょっと薄着すぎませんかねぇ?」
京太郎「キャミソールとショートパンツは、さすがに……いまからあれだと、夏の本番はどうなるんだっていう……」
京太郎「部屋に誘われたのは断って、本当によかった……危ないところだったな」
京太郎「…………・ふぅ」
京太郎「あと二日か、今日はどうするか――」
~木曜、早朝
京太郎「屋台用メニューの試食会?」
「おう、そうそう」
「これまでもイカめしだの、松前のだしもちだのはだしてんだが……」
「ここらで別のもんも考えたくてなぁ」
京太郎「市場でってことじゃないですよね?」
「あちこちの夏祭りなんかでも、だすことんなるなぁ」
「で、たまには地方色のないもんか、別の地方の色でも入れられればってな」
「真っ先にみんな、京ちゃんのこと考えたわけよ」
京太郎「ふーむ……」
京太郎「要するに、食べ歩きできる料理ってことですね」
京太郎「焼きそばとかたこ焼きとか定番ですけど」
「そうそう、そういうんだ」
「材料はこっちで色々用立てっからよ、京ちゃんは使えそうなメニュー、考えてほしいんだ」
「できれば簡単に作れるやつでな、京ちゃんがいなくてもできるように」
京太郎「わかりました、考えてみます」
「で――それはそれとして、だ」
京太郎「はい」
「朝飯頼むわー」
「おう、こっちもだ」
「私のために毎日味噌汁作ってください」
京太郎「毎日は難しいですね。けどま、今日は作りましょう……なんにしようかな」
京太郎「はいよ、タコの炊き込みご飯と――」
京太郎「白魚は半生で、緩い卵とじだ」
京太郎「味噌汁……というか、スープに近いかもですけど、アスパラとコーン、エビのダシを使ってます」
京太郎「エビはダンゴにして、バターを合わせてもいけるんじゃないでしょうか」
「はぁ……あったまる」
「重いようで、どれもあっさりと味のキレがいい……」
「しっかり食べたいと思えば、バターを乗せて味の変化まで楽しめるし……」
「卵とじは、白飯でもいいかもなぁ」
京太郎「そういうこともあるかと思いまして、白飯もありますよー」
「京ちゃん愛してるぅ!」
「俺のもんだ、どけぇぇえ!」
「おっさんは下がってろ! 京ちゃんはうちら、イキオクレーズのもんだ!」
京太郎「……あの、落ち着いて召し上がってくださいね」
京太郎「あ、忘れてた。お粗末!」
~水曜終了
~二年目6月第三週木曜、朝
京太郎「手軽に持ちながら食べられる、屋台の……お焼きなんかも、できるっちゃできるよなぁ……」
京太郎「けど、祭りのイメージとしてどうなのか……というか、北海道でなぜってことにもなりかねん……」
京太郎「となると、日本のどこにあってもおかしくないものか、いっそ海外のメニューで――」
京太郎「…………そういえば、屋台でタコスやケバブが流行ってるみたいだよな。前にも見かけたし……」
京太郎「タコスといえば、トルティーヤ……そしてトルティーヤの材料は、北海道でおなじみのコーンだ」
京太郎「試作してみるか……?」
京太郎「――って、もうこんな時間か! そろそろ行かないと……」
京太郎「やべぇっ!」ガチャッ
誓子「わっ!」
京太郎「っとぉっ! すいませんっ、おはようございます!」
誓子「はい、おはよう……どうしたの、そんなに急いで」
京太郎「いや、朝練遅れそうで……」
誓子「……え、こんなに早く始めるの?」
京太郎「そうですね、あと一時間くらいで」
誓子「………………京太郎くん」
京太郎「なんでしょう」
誓子「ここから学校まで、30分もかからないでしょ?」
京太郎「それはもちろん。ただ早めに行って鍵開けたり、卓の調整したり、掃除したり――」
誓子「……よくわかったわ」
京太郎「わかっていただけましたか。では、急ぎますので、これで――」
誓子「でもそれ、京太郎くんが全部するよう言われてるの?」
京太郎「え? いえ、俺が勝手に――」
誓子「でしょうね……それじゃ、そんなに急ぐ必要もないわけだ」
京太郎「はぁ、まぁ……けど、できる限りのことは……」
誓子「その予定の時間に遅れそうなら、それはできる限りじゃないでしょ」
京太郎「申し訳ありません」
誓子「いや、怒ってるんじゃなくて……うーん、まぁ怒ってるんだけど……」
誓子「とにかく! そんな大慌てで行ったら危ないから!」
京太郎「……はい」
誓子「一日くらいできなくても、たぶん誰も文句言わないし……」
誓子「鍵開けるのだって、ほかの部員もできるはずでしょう?」
誓子「もっと周りを頼って、信用して、無理しないで活動するように」
京太郎「……押忍」
誓子「……どうにも不安だなぁ、君は」
京太郎「面倒をおかけしまして……」
誓子(うーん……久々に、学校に顔だしてみようかなぁ……)
誓子「……とにかく、気をつけて行ってね。はい、いってらっしゃい」
京太郎「はい、では……行って参ります」
~木曜、昼
~教室
京太郎「――てなことがあった」
由暉子「朝練中に言ってくれてよかったんですよ?」
京太郎「まぁ遅れて行ったのもあるからな、雑談するヒマもなかっただろ」
由暉子「打ってるときでもいいじゃないですか」
由暉子「あとは、その……授業中に、メールや小さな手紙なんかで……イチャイチャと……」
京太郎「いい人だよなー、誓子先輩。優しくて」デヘー
由暉子「…………」ムー
京太郎「で、実際どうしようか」
由暉子「先輩と京太郎は、相性よくないと思います」キッパリ
京太郎「おふ、そうか……いや、それはいいんだけど――本当はよくないんだけど……」
由暉子「どういう意味ですか!」
京太郎「そうじゃなくてだ、朝練前の掃除とか調整、できないときはどうしようかって」
由暉子「無理してやることじゃないです。前日の帰りに、全員でやってるんですから」
京太郎「……だよなぁ」
由暉子「もしどうしてもということなら、週に三回と決めて、部員同士で割り振りましょう」
京太郎「俺が勝手にやってたことに巻き込むのも、さすがになぁ……」
由暉子「じゃあ全員しちゃだめにしましょう」
京太郎「!?」
由暉子「部活開始の10分前まで、解錠も禁止です」
京太郎「そんな殺生な!」
由暉子「今日、部活に行ったら、みんなにも伝えておきましょうね」
京太郎「そんなぁ……少しくらい、いいじゃないか」
由暉子「その少しが伸びに伸びて、一時間前に学校に向かおうとすることになったのでは?」
京太郎「」
由暉子「朝は余裕を持ちましょう。もちろん、余裕を持つためにあり得ない時間に起きるのも禁止です」
京太郎「い、いや、ほら……あ、朝市とかに行って、時間が狂うんだよ、たまに」
由暉子「じゃあ二度寝してください」
京太郎「にべもねぇ!」
由暉子「――私が、先輩と同じく京太郎を心配して言ってることくらい、わかりますよね?」
京太郎「……はい」
由暉子「じゃあ言うことを聞いてください。少なくとも今週中は……明後日から、予選なんですよ?」
京太郎「……はい」
由暉子「大事になさってください。いいですね?」
京太郎「承知いたしました……」
~部室、爽
京太郎「――なんてな。ふふふ、昼に来て済ませてしまえば、由暉子にも気づかれまい」
京太郎「朝練前に綺麗にできないのは残念だが、放課後の練習前に掃除を済ませられると思えば、なかなか――ん?」
チョウテンマデアトーヒトイキー
京太郎「はい、もしもし。いつもあなたの隣に控える、須賀京太郎です」
爽「ひくな!」
京太郎「……爽さん? どうしたんですか、こんな時間に」
爽「誓子から連絡あってさ、なんか京太郎がやばいみたいな」
京太郎「ああ……いえ、朝練の時間のことで、お説教とアドバイスをいただいただけです」
爽「ふーん、そっか。まぁ誓子も心配性だからな、あんまり無理してるとこ、見せないように」
京太郎「うーっす。ご心配いただきまして、すいません」
爽「まぁ気にすんなよ、私も先輩らしいことくらい、たまにはな」
京太郎「ほんと、たまにですよね」
爽「」
京太郎「じょ、冗談ですって。大丈夫ですよ、先輩には色々お世話になってますから」
爽「あ、そう? やっぱり?」
京太郎(イラッ)
爽「まー、それは冗談だけどさ。ほんと、無理すんなー? 個人は明々後日だけど、直前まで体調崩したりしたら、ロクでもないんだからさ」
京太郎「……はい、気をつけます」
爽「そう思うんなら、昼休みくらいしっかり休めー? 掃除とかして、体力消耗すんなよ」
京太郎「!? な、なぜそれを――」
爽「そこカメラ仕掛けてあるぞ?」
京太郎「どこだぁっ!」ガターンッ
爽「ジョーダンだって……誓子の話聞いて、京太郎ならやりかねんって思っただけだ」
京太郎「くそっ、はめられたっ……」
爽「ってことで、いい加減休むように。掃除で回復するんなら別だけどな」
京太郎「あ、そうなんですか? じゃあ大丈夫ですよ、掃除で回復するんで」
爽「ははは、んなわけねーっての、なぁ?」
京太郎「えっ」
爽「………………えっ?」
爽「……はー、んっとになー、京ちゃんは」ピッ
晴絵「てめぇコラ爽ァ! 私がいいように使われてるあてつけかっ、これみよがしに電話なんぞ――」
爽「うえぇっ!? なになに、なに怒ってんのハルちゃん!」
晴絵「ちょっとときめいてるからっていい気になんなぁ!」
爽「ときめ――は、はぁっ!? めいてねーし、全然!」
晴絵「ウソつくなコラァ! 目にハート入ってんぞ、てめぇ!」
爽(なってねぇよ! っていうか、ハルちゃんのキャラが崩壊してる……なにがあったんだよ……)
~木曜、放課後
~部室
揺杏「……綺麗だな」
成香「綺麗だねぇ」
京太郎「不思議ですね」
由暉子「……京太郎」ジロー
誓子「京太郎くん……」
京太郎「俺がなにしたっていうんすか! あと、なんで誓子先輩が――」
揺杏「チカセンおひさーっ!」ダキッ
誓子「あっつい!」グイッ
成香「練習、していくの?」
誓子「うん、もっちろん。これでも全国ベスト8の卓に座ったこともあるんだよ」
揺杏「私らみんなだけどな!」
京太郎「なお俺は……」
由暉子「京太郎はベスト8どころか優勝者じゃないですか」
京太郎「っと、そうだった……団体じゃないからな、でも」
誓子「個人で優勝のほうがすごくない? チームに強い人がいたおかげ、ってことでもないみたいだもの」
成香「すごいことですよ、京太郎くん」
揺杏「お茶ー」
京太郎「はい、ただいま」
誓子「……せっかく褒めたのに聞いてないし」
揺杏「チッチッ、わかってないなぁ、チカセン。京太郎はこうされるほうが嬉しいんだ。つまりはドM」
由暉子(ドSだという噂がある上に、信憑性も高いんですけど……)
誓子「部長自らそういうことしてるから、京太郎くんが忙しくしてるんでしょ!」
揺杏「ちゃ、ちゃうねん……」
成香「チカちゃん、まぁまぁ……」
京太郎「お待たせしました、アイスティーしかありませんでしたけど、大丈夫ですか?」
揺杏「テンキュー」
京太郎「一応あとは、麦茶とアイスコーヒーも――」
揺杏「アイスティーだけじゃねーじゃん!」
由暉子「では、いただきながら練習始めましょうか」
成香「あ、一年生に紹介してなかった――い、一年生、集合してください。こちら――」
「OGの桧森誓子先輩!」
「お疲れさまです!」
「よろしくお願いします!」
「お噂はかねがね――」
成香「……知ってる、みたいですね」
京太郎「さすがです、先輩」
誓子「はぁ、どんな噂なのやら……」
京太郎「さて、それじゃ練習するかな」
京太郎「では、昨日に続いて、対局してからの感想戦を――」
京太郎(誓子先輩、初めて打つ相手だけど……打ち方としてはスタンダード、だけど時々大胆になる)
京太郎(次鋒戦では、でかいのを上がってる――)
京太郎(まこ先輩がメガネ外せなくて、ハオが守備的だったってこともあるけど……)
成香「チカちゃん、京太郎くんすごいんだよっ」
誓子「そうなんだ、ちょっと楽しみになってきた」
由暉子「ただし、負けたら言うことを聞くことになってるので、気をつけてください」
誓子「!? な、なにそれは、京太郎くん!」
京太郎「捏造ですよ!?」
由暉子「失礼、私だけの特別ルールでした」
京太郎「んなの決めてねぇよ!」
京太郎(う、だめだ……考えがまとまらねぇ……)
京太郎(……とりあえず、少し抑えて打ってみるか)
京太郎(予選も近いし、調整前の試運転ってとこだな――)
京太郎「よし――形式は決まり、と。始めましょうか」
誓子「ふふ、大学で鍛えた実力を見せてあげよう」
京太郎「どうぞお手柔らかに」
成香(私も、いいところを残さないと……)
由暉子(勝ったら、夕食に招待しましょう……)
京太郎「では、よろしくお願いします」
誓子25000→
成香25000→23400
由暉子25000→
京太郎25000→26600
京太郎「――ロンです。1600」
成香「う……はい」
誓子「ユキ、張ってた?」
由暉子「はい」
誓子「やっぱりかぁ……」
由暉子「京太郎は速いので」
京太郎(早くねぇよぉ! などと、反応はしない……我ながら冷静だな)キリッ
誓子(あ、真面目な顔かっこいい)
成香(が、頑張らないと……)
由暉子(変なこと考えてる顔ですね)カワイイ
誓子25000→13000
成香25000→23400
由暉子25000→
京太郎25000→26600→38600
京太郎「ロン、跳満いただきます」
誓子「……ま、負けてもなにもしないからね?」
京太郎「なにも言いませんよっ!」
由暉子「そうなんですか……」ガッカリ
成香「その反応はおかしいよね?」
誓子「でも――やっぱり強いわね、さすがはチャンピオン。勉強になるわ」
京太郎「え……そ、そうですかっ?」
誓子「ええ。しっかり教わって帰るから、色々と教えてね」
京太郎「も、もちろんですとも!」ヒャホーイ
由暉子「…………」ムー
成香(麻雀してると真面目だから、チカちゃんとも相性いいのかなぁ……って、私はなに考えてるのっ)シュウチュウッ
京太郎(うわぁ、頑張ろう)
誓子25000→13000→9100
成香25000→23400→27300
由暉子25000→
京太郎25000→26600→38600
成香「――ロン、3900です!」
誓子「うわ……あー、そろそろピンチかも」
成香「やりましたっ」
京太郎「お見事です」
成香「あ……ありがとう、ございます……っ///」
誓子「………………」
由暉子「どうされましたか、先輩」
誓子「え? ううん、別に――」
由暉子「――気づかれましたか?」ボソッ
誓子「へっ!? な、なにをっ……」
由暉子「さて、なにをでしょう」ニコッ
誓子「……まぁ、色々と」
由暉子「接するとわかりやすくなってしまうんです、みなさん」
誓子「……そう、みたいねぇ」
京太郎「いまので由暉子が流れて、俺のラス親ですか……」
成香「逆転、厳しそうかな……」
京太郎「最後まで諦めないように、しっかり来てください」
成香「は、はい!」
誓子(……心底ってほどじゃないけど、完全に好きになってるわね、これは……あの成香が恋心入っちゃったかー)
爽「めいてねーし!」
晴絵「あ、ほんとだ。ごめんごめん、勘違いしてたわ」
爽「ふっざけんな!」
誓子25000→13000→9100
成香25000→23400→27300→15300
由暉子25000→
京太郎25000→26600→38600→50600 トップ
トビなし、京太郎トップ
誓子(よぉーし、いいの張った! こいこいっ……)
由暉子(誓子先輩もテンパイ……ですが、ツモを狙うと京太郎に切り取られます。ここはダマで、ロン和了を狙っていくしか――)
京太郎「ロン――」
成香「きゃうっ!」
誓子(うっそ!)
由暉子(速い――)
京太郎「満貫、12000で――上がり止めですね」
誓子「あぶないっ……」
京太郎「惜しかったです」
誓子「そ、そう簡単にはいかないからっ」
由暉子「ふぅ……お疲れさまでした」
成香「うーん、集中切れちゃったかな……」
京太郎「上がりで一瞬緩んだかもしれませんね。その辺りが、なんとなく感じられましたので」
成香「そっか……うん、すいません。次はもう少し、引き締めていくから」
京太郎「ええ、その意気です。では、感想戦いきましょう」
誓子(……ほんと、信頼してるのね。さすがは派遣執事、なのかしら)
~6月第三週木曜、放課後、行動2
京太郎「――っと、こんな感じですかね」
成香「なるほど……はいっ、わかりました」
誓子「ふーむ……」
由暉子「先輩、どうされました?」
誓子「いや、お土産もらったときも思ったんだけど、成香にしては随分、京太郎くんに懐いてるなぁって」
由暉子「詳しく聞かせてください」グイッ
誓子「えっ、なにこのユキにしては珍しいアグレッシブさ!」
由暉子「どんな様子でしたか、成香先輩は」
誓子「いや、どんなって……普通に信頼してるなって感じかしら」
由暉子「こう、しなだれかかったり、腕を絡めたり、抱きついたりとか――」
誓子「してないわよ! っていうか、私の部屋でそんなことされたら、二人とも追いだしてるわ……」
誓子(――ん? ちょっと待って、もしかしてユキはそういうことを――)
由暉子「なるほど……参考になりました、ありがとうございます」
誓子「ちょ、ちょっと待ってユキ! そっちの話も――」
京太郎「おっと、そろそろ練習に戻らないといけませんね」
成香「あ、そうですね。なんだか一ヶ月くらい、指導されていた気がします」
京太郎「ははは、そんな馬鹿な――って、誓子先輩、どうされたんですか。すごい視線で睨んでますけど」
誓子「……ユキになにしたの」
京太郎「!?」
成香「京太郎くん……」
京太郎「なにもしてないですって!」
由暉子「そうです。むしろどんどんしてくださいというところで――」
京太郎「ややこしいから黙ってろおおおおおおおおお!」
揺杏「……なーにやってだ、あいつらは」
京太郎「はぁ、ひどい目に遭った……けどまぁ、とにかくさっきの対局はトップだったし、この調子でいこう」
京太郎「よし、次の練習は――差し入れの準備だ」
誓子「待ちなさーーーーい!」
京太郎「うおっ!」ビクッ
成香「どうしたのチカちゃん!」
誓子「なんかさっきからそればっかり言われてる……」
揺杏「で、どしたん?」
誓子「練習と差し入れ関係ないよね!」
由暉子「おいしいから大丈夫ですよ」
誓子「意味わかんない!」
京太郎「んー……つまり、練習もせずにサボるのはよくない、ってことでしょうか」
誓子「いや、サボりとまでは……そもそも、そういうこともするっていう体で、来てるわけだし……」
揺杏「かたいなぁ、チカセンは」
由暉子「とはいえ、一度食べてしまえば考えも変わるでしょうね」
成香「……あ、でもチカちゃん、京太郎くんの家のお隣だし。手作りのモノ、いただいてるかも――」
京太郎「いえいえ、俺もそこまで非常識じゃありません。ご近所に手作りを差し入れるのは、もっとコミュニティをランクアップさせてからです」
誓子(する気ではいたんだ……)
京太郎「まぁ大会前ですからね、先輩の仰ることもわかります」
誓子「そ、そうよね? 私おかしくないよね?」
京太郎「ですが、せっかく先輩がいらしてるんです。甘味もおだししないようでは、師匠に顔向けができませんので」
揺杏(何故そこで師匠ッ!?)
由暉子(なんだっていいです、誓子先輩に差し入れを食べていただくチャンスです)
成香(でもそうすると、チカちゃんも京太郎くんの味の虜になっちゃうかも……)
由暉子(それは問題です!)
京太郎(なんか無言で会話してるけど――もう行ってもいいよな?)
誓子「じゃあ、練習の続きを――」
京太郎「あ、はい。よろしくお願いします。では、俺は調理室のほうへ」
誓子「ってそうじゃない! 君が練習するんだって――あぁ、逃げられた……」
由暉子「京太郎っ、その判断は危険ですっっ……あれ?」
誓子「もう行っちゃったわよ」
成香「残念でしたね、ユキちゃん」
揺杏「しゃーない、私らも休憩すっかー」
誓子「れ・ん・しゅ・う」
揺杏「はい……」
京太郎「さて――久々すぎてネタがない。作中の季節が夏ってことで、食材の旬もずれてる……」
京太郎「ということで、北海道の牛乳でヨーグルトを、これに桃缶を使って――」
京太郎「桃とヨーグルトの、フローズンシャーベットでも作ろうか」
京太郎「冷やす時間は、いつも通りなんとかすることにして――」
京太郎「さて、久々にやりますか!」
京太郎「ふむ――うん、いいヨーグルトの風味だ」
京太郎「これなら青果じゃなく、缶詰のほうがむしろ相性がいい」
京太郎「甘さのバランスも取って……凍りすぎない、ギリギリで留めておいて――」
京太郎「よし、持っていこうか!」
~部室
京太郎「暑い中お疲れさまでーす。フローズンヨーグルト、お持ちしましたー」
揺杏「よっしゃ休憩だあああああああ!」
誓子「どれだけ疲れてるのよ……」
由暉子「いつも通りですよ」
誓子「ほぉう……」
成香「ま、まぁまぁチカちゃん。京太郎くん、ありがとうね」
揺杏「いっただきー!」
京太郎「どぞ」
誓子「はしたないなぁ」
成香「いただきます、京太郎くん」
由暉子「あーんしてください」
京太郎「ほい、あーん」
由暉子「ふぁむ……シャリシャリ……ほあぁあぁぁ……」パァッ
誓子(え、なにこの光景。どうして誰もつっこまないの?)
京太郎「先輩もどうぞ。お飲み物はホットとアイスで紅茶がご用意できますので、どちらでもどうぞ」
誓子「あ、うん……それじゃ、いただこうかな」
京太郎「はい、お召し上がりください」ニコッ
誓子「っっ……っっ……」ビクンッ
揺杏「効果はばつぐんだ」
由暉子「耐性がないからでしょうか、平均的な出来でもかなり影響しますね」
成香「もっとおいしいときなんて、もう……ね……////」
京太郎「平均かぁ……すいません、精進します」
誓子(な、なんでっ……この子たち、こんなすごいの食べてっ……平気な、顔をっ……くぅっ!)クッコロ
京太郎「ふむふむ……なるほど、味見じゃなく普通に味わってみると、粗があるというか……もう少し味にまとまりを持たせられたか」
京太郎「個別のバランスより、もっと全体のバランスを把握するべきだな……次の参考にしよう」
京太郎「見た感じは、そこそこ好評っと……まぁ夏場だしな、冷たいもののほうが喜ばれるわけだ」
京太郎「まぁでも、女性は冷えに弱い方も多い。ホットの支度を進めておくか」
京太郎「お疲れさまでーす。どうぞ、温かい紅茶です」
誓子「…………ありがと」
京太郎「う……あの、怒ってます?」
誓子「いや、別に……その、おいしかったよ?」
京太郎「ならよかったんですが……」
誓子「はぁ~……本当においしいの食べると、あんな風になっちゃうのね」
京太郎「いえ、まだまだです。もっとおいしいと思ってもらえるものを、これからもご用意したいなと思う次第で」
誓子(あれ以上……)ゴクリ
京太郎「その際は、誓子先輩にもぜひ――」
誓子「っ……う、ん……その、タイミングが合えば……また……ね?」
京太郎「ありがとうございます。お心遣いに報いられますよう、よいものを作りますので」ペッコリン
誓子(はぁぁぁぁ……なんだろ、次なにかなぁ……ケーキ得意だって言ってたよね? パイとか、プリンとか、パフェとかも聞くし――)キュンッ
京太郎(なにやら遠い目を……どうされたんだろう。あっ……)
京太郎「――先輩、甘いものお好きなんですか?」
誓子「え――? あっ、あえっ、そんな顔してたっ!?」バッ
京太郎「いえ、そこまでは……ただ、色々考えてるようだったので、そうかなぁと」
誓子「ま、まぁあれよ……ほら、甘いもの嫌いな女の子とか、いないじゃない?」
京太郎「それは……確かに、どこの学校でもだいたい好評でしたが」
誓子「それに京太郎くんの作ったの、甘いっていう甘さじゃないんだよね」
京太郎「えーっと……怒られてます?」
誓子「褒めてるの。くどくないっていうか、一口食べて甘いのがわかるんだけど、もっと食べたいなって思う甘さ」
誓子「なくなったときには、すごく満足感あるんだけど――でももう少し、食べたいなって思っちゃう」
誓子「いいお店とかで食べるデザートって、ほぼそういうのじゃないかな。同じくらいすごいよ」
京太郎「ありがとうございます」
誓子「――ということで、京太郎くん」
京太郎「あ、はい」
誓子「……その、いまは大会前だから、あれだけど……また、北海道で……あの部屋に来ることがあったら――」
京太郎(お誘いきたー!?)
誓子「――なにか作ってくれると、お姉さん嬉しいなーって思うんだよね、うん」
京太郎(こねええええ!)
誓子「あ、やっぱり迷惑かな?」
京太郎「いえいえ、滅相もございません。そうですね、折を見て色々と、ご用意させていただきます」
誓子「やった♪ 楽しみにしてるね……あっ!」
誓子「……み、みんなには内緒で。色々注意した手前、恥ずかしいから」ボソッ
京太郎「はい、心得ております」ニッコリ
揺杏(まぁ聞こえてるんだけど)
由暉子(ギルティ)
成香(ま、まぁまぁ、甘いもの目当てなだけだから……)
~木曜、夕方
京太郎「ふぅ――色々あったけど、練習はできたし、差し入れは喜ばれたし、俺は満足だ」
由暉子「私は不満です」プクー
成香「あ、そろそろ下校時間です……片づけ、始めましょうか」
京太郎「はい、お任せください!」
誓子「え――ちょっと揺杏! 京太郎くんに全部押しつけてるんじゃ――」
揺杏「そそそ、そんなことねーっす! いやほんと、なぁ京太郎っ?」
京太郎「ええ、もちろんです。一人でやろうとすると、いつも止められてますから」
誓子「…………」チラッ
成香「うん、本当だよ」
由暉子「朝練前の掃除も禁止にさせましたから、しばらくは大丈夫です」
誓子「そっか、それなら……」
揺杏「はー、もっと信用してくれよー」
誓子「あはは、ごめんごめん。揺杏は信用してるんだけど、京太郎くんが無理しすぎだからね、信用できなくて」
京太郎「あれ、ディスられる流れに……」
由暉子「気のせいですよ、京太郎。それになにかあっても、私がついてます」
京太郎「いや、でも……」
成香「さ、早く掃除終わらせて帰りましょう?」ニコッ
京太郎「はっ、仰せのままに!」ビシッ
由暉子「むううううっ!」プックー
京太郎「いや、その、すまん……ありがとな、由暉子も」ナデナデ
由暉子「えへへ……はい、大丈夫です」ポッ
揺杏「おらそこー、イチャついてねーで手ぇ動かせー」
誓子「……あれ、いつもあんななの?」フアンゲー
成香「すぐ慣れるよ、大丈夫」
誓子「慣れたくないんだけど……」
京太郎「さて、みんな送り終えました――けど……」
誓子「はい、お疲れさま」
京太郎「あー……すいません、付き合わせてしまいまして」
誓子「ううん、これくらい大丈夫。それに、京太郎くんがみんなを心配してるの、見られてよかったよ」
京太郎「そう言っていただけると……では、帰りましょうか」
誓子「ん、そうね――っと、いっけない! ごめん、晩御飯のお買い物とかあるから、私はここで」
京太郎「あ、はい。では、お疲れさまです」
誓子「はーい、お疲れさまー」
京太郎「――って、放っておくわけないでしょっ!」
誓子「ええっ!? いや、本当に大丈夫よ? すぐそこだし、危なくないから――」
京太郎「せっかく男手があるんですから、少しは頼ってくださいよ……荷物くらい、お持ちしますよ」
誓子「あ、本当? って……危ないあぶない。別にいいよ、あんまり買う予定ないもの」
京太郎「だとしても――あーっと、そりゃ先輩が嫌だって仰るなら、無理強いはできませんけど」
京太郎「ご近所だってのもありますし、それに後輩として、先輩の手伝いができるなら喜んでって思いますから」
誓子「う、ん……いや、ありがたいとは思うんだけどね。ただ……」
京太郎「ただ?」
誓子「……住んでる場所がその距離で、一緒に買い物したら……ほら……色々と誤解を、ね?」
京太郎「ああ……はい、そうですね。先輩がお気になさるなら、仕方ありません」
誓子「私はほら、そういう噂があれば防犯にもなるからいいけど……京太郎くん、そういう噂はよくないでしょ?」
京太郎「へ?」
誓子「ユキもそうだし……ほかの学校の子とか、気にされちゃうよ?」
京太郎「――俺のことは、気にしないでください。そういう噂が立つとしても、先輩のお手伝いであれば、お任せください」
誓子「……はぁ、もう……損な性格」
京太郎「むしろ得です、先輩と買い物なら」
誓子「はいはい……じゃ、お願いするわね、荷物持ちくん?」
京太郎「喜んで」ニコッ
~木曜、夜
京太郎「――さて、ここからだ」
京太郎「頼まれた例のこともあるし、色々やらなきゃいけないんだけど――」
~金曜、朝
京太郎「さて――頼まれていたアレを、準備しないとな」
京太郎「夜店で振る舞う、新しいメニュー……思いついたのは二種類だけど――」
優希「よくやったじぇ!」
京太郎「――なにか、幻聴が聞こえたような……まぁいいか」
京太郎「さてと、んじゃま――まずは仕入れだな」ギュッ
~市場
京太郎「はよーございまーっす」
「おお、京ちゃん!」
「メニューはできたかい?」
「みんな期待してるからねぇ」
京太郎「うーんこのプレッシャー」
京太郎「まぁ考えて来ましたし、試作もしてます。あとはここの食材で、みなさんに試食していただければと」
「おう、好きに使ってくんな」
「うちのを使ってくれよ!」
「うちのもだ! いいトマトがあってよ」
「トマトなんて使うかぁ? 屋台の料理だぜ?」
京太郎「――使いますよ。トマト、いただきます」
京太郎「さて、それじゃ――調理開始といくか!」
優希「」
京太郎「幻聴はなし、と……」
京太郎「じゃあ唐揚げだな。それじゃ、支度をして――と」
「京ちゃん、トマト使わないかい」
京太郎「……じゃあ、味の違いを楽しめるように、ソースに使いますね」
「やったぜ。」
京太郎「はは……それじゃ、調理のほう始めさせていただきます!」
京太郎「――ということで、ご用意したのは唐揚げです。これを米を使った衣で野菜、ソースと一緒に包み、提供します」
「お、おおおおっ、うまそうだっ……」
「こりゃ子供たちにも受けがよさそうだねぇ」
「でもお高いんでしょう?」
京太郎「はは、それはもう、皆さんのお気持ち次第ってことで……まぁでも、サイズを食べやすい大きさにすれば、ワンコインで済むんじゃないでしょうか」
京太郎「ともあれ皆さん、まずは――おあがりよ!」
「んじゃ、さっそく――」
「はぐっ、もぐ、もぐ……ふむうっ!?」ガタッ
「こ、こいつはっ……」
「うんまああああああああああい!」
「ほ、ほっへはが、おひるぅぅっっ!?」
京太郎「北海道といえば牛肉、あるいは羊肉――そんなイメージがあるので、北海道のブランド地鶏を使わせていただきました」
京太郎「ニンニクベースに、数種類のスパイス、果実を合わせたタレに漬けて、十分に味を染み込ませてあります」
京太郎「こちら、屋台で出す際に揚げ時間がかかるようなら、肉をこちらのダシで煮込んでから揚げると、時間短縮になります」
京太郎「ソースは醤油系、トマト系で用意しています。シンプルに塩コショウでもいいかもしれませんが」
京太郎「一応、このサイズならワンコインギリギリですけど――サイズを抑えれば、それで利益がだせるんじゃないでしょうか」
京太郎「北海道の鶏を知ってもらうためにも、これはいいんじゃないかと思い、提案させていただきます」
京太郎「ぜひ、ご一考を――」
~審議中
「これはいける、絶対にうまいぜ……」
「数の確保も、まぁ問題ないだろうな」
「あとは――」
「調理するやつが、この味をだせるかってことだが……」
「レシピを見る限りじゃ、作業は普通だが……」
「味の再現のためにも、事前に合わせとかねぇとなぁ……」
京太郎「ふぅ……まぁ俺にできるのはここまでだな。まぁ夏祭りに来たとき、もしだしてもらってれば、嬉しいなってとこか」
京太郎「にしても、なにかと食材使わせてもらったけど……色々と考えさせられるもんだ」
京太郎「食材に頼りきらず、力を借りて、ポテンシャルを引きだす――」
京太郎「ちょっとは成長できたかな……できてたら、嬉しいんだが……」
京太郎「ま、これからも精進しないとな。機会があれば、進んで使うようにして、慣れて行かないと」
~木曜、終了
【6月第三週木曜】
というか、もう金曜ですが。
実は屋台のメニューを考えていて、その試食会に出ていましたので、こんな時間に。
採用されたかはわかりませんが、子供にも受けそうな、唐揚げのライスバーを提案しています。
来月か再来月の夏祭りで、もしかすると店が出るかもしれません。
お立ち寄りの際は、ぜひお召し上がりください。
ちなみに、北海道のコーンを活かすために、トルティーヤを使った料理も考えたんですが、子供受けを考えて断念しています。
辛いソースが売りの料理だと、どうしても敬遠されがちですからね。
ということで、辛いけどあまり辛くない、子供が好きそうな辛い料理――を次の課題にしたいと思います。
――――――
なんか宣伝みたいになったな、大丈夫か……?
「こら京太郎ぉ! タコスを作らねーとはどういう了見だじぇ!」
いや、子供受け……まぁたしかに辛くないのもあるけど、食べてみないとイメージ優先だからなぁ。
「どうして唐揚げなんだ? 北海道なら牛や羊で、焼き肉風の具にしてもよかったものだが」
「有名でないかもしれないが、北海道には良質の地鶏が多く存在する」
「知られている作物以外にスポットを当てようと、京太郎くんなりに気遣ったんですね」
「そこで唐揚げチョイスいうとこは、まさに男の子の発想やなかね?」
「え、唐揚げって男の子が好きなんですか?」
「……私も、結構好きだけれど」
「そういえば、聞いたことがある……肉が好きな女子は、おもちがふくよかに育つ」
「明日から毎日唐揚げにします」
「私もそうします」
「いや、たぶんそれデマよ? バランスよく食べて、あとは運動とか……マッサージとか……」
「なになに、アコ! E乗った!?」
なん……だと……?
「まだですのだ! でも目前であqwせdrftgyふじこpl」
「いまのはみんな、忘れてあげてね~」
「こちらこそ後輩が申し訳ありません」
待って! 待って詳しく! 詳しく聞かせてください!
「実際のとこ、唐揚げでおもちが育ついうんは……どうなんや、従姉妹殿」
「嘘や」
「ほんま、かも……」
「どっちやねん!」
「あかんは、姉妹で格差ありすぎてわからん」
「宮永のほうやったら、効果の有無はすぐわかったのに……」
「は?」
「ゴッ」
「松実やと逆にわからんからな……」
「バランス取れてんなぁ。両方ある、両方ない、片方ある」
「ちょっと、あんまりいじめないであげてよ」
「そうですよ。そもそも大きいなんて、邪魔になるだけですよ」
「それ京太郎の前でも同じこと言えんの?」
……………………
~清澄
「タコス……はぁ……」
「おもち……はぁ……」
「ふ、二人とも元気をだしてくださいっ」
「まーたつまらんことで……」
「あら、大好物とスタイルのことなんて、女の子らしいじゃない」
「っていうか先輩、なんでそんなにタコス推しなんですか」
「ツキがつくっていうのはわかりますけど、きっかけとかあったんですか?」
「よくぞ聞いてくれたじぇ……あれは私が3つの頃、タコスの妖精と――」
(ほら、ツッコミどころ来たよ)
(い、いやでも、本当かもしれないし……)
「――つまり、タコス作りの得意な料理人と出会った、とういうことでしょうか」
「3つの子にタコスは食わさんじゃろ、さすがに……」
(そんなことより、さっきから咲が微動だにしてないんだけど、大丈夫かしら……)
「ああ……この血が憎い……宮永の血が……」
(なんか怖いこと言いだしてる!?)
~白糸台
「むぐっ、むぐぐぐぐっ……」
「弘世先輩も宮永先輩によく言ってたけど、名前だすのは厳禁だからね」
「まぁ最近じゃ、誰がなに言ってるか、わかるようになっちゃってるけどね……」
「そろそろ放してあげないと、やばくない?」
「あ、そうだね……んしょっと」ポヨン
「ぷはぁっっ!! はぁっ、はぁっ……た、タカミーのそれ、なんなの……凶器だよ……」ガタガタ
「秘技、窒息もち包み。お正月にお年寄りが詰まらせることが多いと聞いて、開発しました」
「そっちのもちは本物だから……あれも、細かく刻んでお雑煮に入れちゃえば、そうそう詰まらないのにね」
「うぅ、でっかいおもち怖い……」ガタガタ
「自分もでかくなったのになんか言ってるよ」
「すぐ治るよ、大丈夫」
「治らないで小蒔とか、原村さんに負けたら目も当てられないよ……」
「真屋さんとか、滝見さんとかもだね。うふふ、大変だぁ」
「負けなーい! 私はチャンピオーネ、誰にも負けないのだ!」
「あ、復活した」
「ね?」
~永水
「……実際のとこ、どうなんでしょうかねー」
「血じゃないかしら」
「ですよねぇ」ポヨン
「……くっ」
「ゆ、湧がすごく怖い顔を……」
「湧、姫様が怖がってるからやめなさい」
「えっ!? そ、そんな顔なんて……」ペタペタ
「まー私も巴も唐揚げ好きでしたからねー。関係ないのは自明の理でしたねー」
「まぁそれに……大きいからって、それだけじゃ意味ないものねぇ」
「でも、武器にはなる……使い方次第では、十分なアドバンテージ……」
「つ、使い方っ……は、ハレンチです!」
「落ち着いて、湧」
「破廉恥……なのでしょうか……?」
「小蒔ちゃんは気にしなくていいわよ、そんなことないんだから」ナデナデ
「えへへ……はい!」
~有珠山
「…………」
「チカセンどしたん?」
「言ってやるな、揺杏。せっかく学校に顔だしたのに、まったく触れられてないから不機嫌なんだ」ポンッ
「そんなこと、ひと言も言ってないでしょう?」ニコォ
「」
「ではどうして無言だったんでしょう」
「え……う、ううん、なんでもないの」
「……あのあと、二人でご飯作ったのに、それも書いてないから……とか……?」
「」
「そうなんですか、誓子先輩!」ガタッ
「ちち、違うから! そんなの普通に考えて、しないでしょ!?」
「そうですか、安心しました」
「あっさり信じんなぁ……」
「誓子先輩が、そんな嘘を吐く必要もありませんし」
「う……」
「あーあ、純真な後輩の期待を裏切って……」ボソッ
「う、裏切ってないわよ!」
~新人プロ組
「(お茶を)飲まずにはいられない」
「うちもや……」
「あのさぁ、予選前に余計な集まり設けないでよ……」
「爽さんがいらっしゃいませんけれど」
「後輩に、誘われたって……」
「そんでこのポンコツ姉どもはどないしてん」
「私はポンコツじゃない」
「うちほどようできた姉はおらんて業界でも評判や」
「そう(無関心)」
「おもちの話でしょ、どうでもいいよ」ダル
「確かになぁ、そんなん気にしてもどうにもならんし」
「馬鹿みたいに大きく膨らむよりは、ある程度以下なら十分と思えばよいのではないでしょうか」ニコニコ
「……すごく禍々しいオーラを感じた」
「誰に当てた皮肉や……」
(ほんま石戸となにがあってん……)
「確かに京太郎くんは大艦巨餅主義だけど、それだけで決める人じゃない……」
「そんなん気にしてるんとちゃうわ!」
「私はそこも気にしてる。もちろん京ちゃんは私を愛してるけど、それなら好みに添ってあげたい」
「京太郎が私を愛してるなら、好みにも添ってるし万々歳だね。はい、解決」
「さて、殺伐としてきよったわけやけど」
「黙々とラーメンを啜っていらっしゃるダヴァンさん、なにかございませんか?」
「臨海では私とネリーがなく、あとの三人はあの大きさでしタガ……好感度はそれなりにバラけています。あまり意味のない議論でスネ」
「まぁなくても高い、宮永妹とかおるしな。怜もそやし」
「根本の問題は、妹と同じ、あるいは妹に負けている……という点?」
「かもしれませンネ。なんにせよ――大会前にメンタルを戻すために、ここで吐きださせておけば問題ないでショウ」
「だから咲は――」
「いうても絹は――」
「もう京太郎は――」
「……これ終わるんか?」
「無理かな」
「適当なところで、わたくしたちは切り上げましょう」
「賛成デス」
~6月第三週金曜、朝
京太郎「――というわけで、前日だ」
京太郎「屋台メニューのことも終わったし、あとは明日、そして明後日のことに集中するのみ――」
京太郎「お弁当と差し入れの材料も仕入れとかないといけないし、今日も忙しくなるぞ……」
京太郎「よし、気合入れていくか!」
京太郎「行ってきます!」バンッ
誓子「……おはよう」
京太郎「っと、おはようございます、誓子先輩! 昨夜はありがとうございました!」
誓子「ちょっっ……お、大声で誤解招くようなこと言わない!」
京太郎「おっと、すいません……」
誓子「……というか、お礼いうくらいなら、日誌に少しくらい……」ブツブツ
京太郎「あの、なにか……?」ビクビク
誓子「なんでもないです」ニッコリ
京太郎「アッハイ」
誓子「それより、随分と気合い入ってるじゃない。朝練?」
京太郎「そりゃもう、前日ですからね。でもその代わり、放課後の練習は少な目に、調整に使うつもりですから」
誓子「そう――ちゃんと考えてるなら、張り切っててもいいかな」
京太郎「お気遣いいただき、ありがとうございます。では、行って参ります」
誓子「はい、気をつけて――あ、明日応援行くからね」
京太郎「ありがとうございます!」
誓子「それと……えっと、あの……」
京太郎「?」
誓子「……今日も、時間……取れそうなら、そっちに……行ってもいいかな?」
京太郎「――はい、もちろん。みんな喜ぶでしょうし、俺も励みになります」
誓子「そ、そうっ? じゃあ、時間作れたら行くからね」
京太郎「お待ちしております。では」ペッコリン
誓子(……あー、なんか……食べ物欲しさみたいに見られてないかしら……)
京太郎(甘いもの、甘いもの……八百屋に連絡して、果物送ってもらっとこうか……)
京太郎「――ということがあってな、今日も誓子先輩がいらっしゃるかも」
由暉子「私たちは調整ですから……控えの子の練習相手をお願いすることになりませんか」
京太郎「心苦しいけどな……ただ、一年が来年のレギュラーになると思えば、ここで先輩に見ていただけるのは大きい」
由暉子「せっかく来ていただくのに、少し申し訳ないですね」
京太郎「まぁその辺は、俺がなんとかおもてなしするってことで」
由暉子「それは認められません」
京太郎「なぜぇ!?」
由暉子「昨日だけで先輩がいくつ成長したと思ってるんですか。これ以上は戦争ですよ」
京太郎「意味がわからん……」
由暉子「………………つまり、です」
京太郎「はい」
由暉子「……私にも、もっと……構ってください」
京太郎「う――」
由暉子「お願いします」ウルッ
京太郎「……き、気にはかけてるから、な?」ナデナデ
由暉子「……はい」ウットリ
「……あれで付き合っていらっしゃらないの?」
「そ、そのはずですけれど……」
「付き合うってなんだよ(哲学)」
京太郎「おーい、そろそろ弁当食べないと、休み終わっちまうぞ」ナデナデ
由暉子「あと五時間ほど……」ウットリ
京太郎「放課後になっちまうよぉ!」
京太郎「梅雨開けたなぁ……いや、そもそも入ってない?」
揺杏「いやー、谷間だろ。来週とか雨だし」
京太郎「マジすか……あ、先輩」
揺杏「おっす」
京太郎「いい天気ですね」
揺杏「明日、明後日も晴れみたいよ」
京太郎「そりゃよかったです。雨だと気持ちが沈みます、それは牌にも乗っちゃいますからね」
揺杏「へー、京太郎そういうツキも信じてる系か」
京太郎「……色んな人を見てきましたからね。ツキでも流れでもオカルトでも、なんでもありですよ」
揺杏「あとそれ、私らだけじゃなくて、よその学校も一緒じゃね? 条件的に」
京太郎「おお、確かにそうですね」
揺杏「ま、動じないのもいるだろうから、京太郎がそういうタイプなら、晴れはうちに有利か」
京太郎「俺は明日出ませんけどねー」
揺杏「――んなことない」
京太郎「えっ」
揺杏「京太郎に教えられたこと、全部持って私らは打ってくるからな。京太郎が6人目の選手だ」
京太郎「――先輩」
揺杏「んー?」
京太郎「変なものでも食べましたか……?」
揺杏「ンだとこらぁ!」
京太郎「すいませんっっ! いえ、その……柄にもなくっていうか――」
揺杏「あぁん?」
京太郎「と、とにかくっ――嬉しかったです。ありがとうございます」
揺杏「……なんで泣きそうになってんだって。泣くなら明日なー」
京太郎「はい……頑張りましょう」
揺杏「で、明後日は私らを泣かせるように」
京太郎「……はいっ!」
~金曜、放課後
京太郎「――こっちのファイルと、あとタブレットと……メモリはこっちで整理しとくから。あとは――」
由暉子「張り切ってますね」
成香「明日の準備、ですよね……」
揺杏「おっと、由暉子の衣装も用意しとかないと」
京太郎「試着しておいたほうがよくないですか?」
揺杏「おお、確かに」
成香(ええ……?)
由暉子「そうですね、サイズが変わっていたら一大事です。京太郎、着替えるのを手伝ってください」
京太郎「おう、任せろ」
誓子「任せろじゃないでしょっ!」パァンッ
京太郎「イッタァイ!!」ビクッ
誓子「ユキも、めったなこと言わないの!」メッ
由暉子「冗談です。緊張をほぐそうかと」
成香(……本気でしたよね?)
揺杏(波風立ててもしゃーない、スルースルー)
誓子「で――これが今年の衣装?」
揺杏「ふふふ、自信作よ。スカートのスリットを、裾じゃなくウエスト側に持ってきた――ある軽巡を参考にしてな」
誓子(軽巡?)
成香「半分以上入ってますけど……」
揺杏「大丈夫、編み込みっぽくした紐で保護してある」
誓子(逆にいやらしい!)
成香「あと、あの……胸元、少し大胆では……」
揺杏「安心しろ、見えそうに思えるが、実際は谷間がチラするだけだ。絶対にこぼれん」
京太郎(すばらしいな)
由暉子「リボンもつけますから、ほぼ鉄壁です」
京太郎(だがサイズは強調される、実にすばらしい」
誓子「声」
成香「きょ、京太郎くん、いけないと思うよ!」メッ
京太郎「しまった! つい本音が!」マイガッ
誓子「あーもうっ! 京太郎くんは先生とこ行って、明日のスケジュールもう一回話してきなさい!」
京太郎「了解であります!」ダッシュ
誓子「はぁ……やっぱりあーいうとこあるのよねぇ、あの子は……」
揺杏「京太郎があれだけ食いつくってことは、今回のデザインも完璧だな」フフフ
由暉子「それじゃ――試着してみましょうか」ヌギッ
成香「……まぁ、京太郎くんがいないうちにですね」
誓子「はぁ……じゃ、手伝うわ。一年生は、廊下で先輩が戻ってこないよう、見張っててね」
『はい!』
京太郎「――戻ってきたら、着替えが終わっていた……だと……?」
由暉子「試着だけですから、すぐ脱ぎますよ」
誓子「じゃ、京太郎くんはもう一回、職員室ね」ニコッ
京太郎「殺生な!」
成香「さ、さすがに可哀想じゃ……」
揺杏「まぁこれ着て一局くらいしときたいし、もうちょいだけな」
由暉子「わかりました」
京太郎「では練習始めましょう!」
誓子「テンションすごいな……」
京太郎「大丈夫です、今日は外は行きませんから」
成香「そうなの?」
京太郎「はい、調整優先で。まぁ買い物くらいはしてもいいんですが」
由暉子「じゃあご一緒します」
揺杏「お披露目は大会にしたいから、そんときは脱げよー」
由暉子「……これで一緒に行きたかったんですけど、仕方ないですね」
成香「いや、あの……ユキちゃんも、調整だからね?」
京太郎「――ってことで、ちょっとだけ行動が減ってますが、ご容赦ください」
揺杏(誰に言ってんだ?)
京太郎「では、調整かねての対局で――どうしましょうか」
誓子「順番でいいと思うけど。レギュラー中心で……あ、私も入るね」
揺杏「あ、そんじゃチカセン抜けてるとき、一年の面倒任せていい? レギュラーじゃない子ら」
誓子「オッケー、任された」
成香「じゃあ、まずは先に打つほうを選びましょう」
由暉子「では、クジを引きましょうか」
京太郎「!? な、なぜその箱が!」
由暉子「先日、赤土プロからいただきました」
京太郎「やっぱりレジェンボックスかああああああああああ!」
レジェンボックス「やあ」
誓子「!? い、いま箱がしゃべっ――」
揺杏「はは、チカセンなにいってんの」
成香「ちょっと、疲れてる……?」
誓子「そ、そんなことないんだけど……え、幻聴?」
京太郎「もうどこにあっても不思議じゃねーな、この箱……ま、いいや。みんな引いてくださいっと」
京太郎(――というバランスなわけだが)
京太郎(今日はどう打とうか……)
京太郎(――うん、調整だしな)
京太郎(たまには、能力を抑えて――あ、能力といえば……)
京太郎(爽先輩の能力、強すぎじゃね? っていうかあんなん、数値データ化できねーよ……)
由暉子「――京太郎?」
京太郎「ん? ああ、大丈夫……」
誓子「あ、今日は早めに切り上げるんだよね? 半荘しないほうがいいかな」
成香「調整なら、一応半荘のほうがいいかもだけど……」
由暉子「どちらでも、京太郎のお好きなように」
京太郎(俺が決めるのもおかしい気がする……ま、いいか)
京太郎「じゃあ、本番と同じで半荘にしときましょう。まぁ本番は前後半ですけど」
由暉子「わかりました」
誓子「よろしくね~」
成香「よろしくお願いします」
揺杏「よし、一年はこっちで打とう。私が見ててやるからなー」
京太郎(あ、なんかサボりっぽい……)
京太郎「っと、よろしくお願いします」
由暉子(揺杏先輩を見てたようですね……むむぅ~っ)
成香(ユキちゃん、気合入ってるなぁ)
誓子(集中できない気がするけど、大丈夫かしら)
成香25000→
誓子25000→24000
由暉子25000→26000
京太郎25000→
由暉子「ロン――まずは1000点です」
誓子「……集中、できてるね」
由暉子「もちろんです」キリッ
京太郎「さすが……明日もこの調子で頼むぞ」
由暉子「お任せください」
成香「わ、私も……頑張らないと……」
京太郎「大丈夫ですよ、調整です。自分の打ち方ができているか、周りの状況は把握できているか、そこに重点を置いてください」
成香「は、はい」
誓子(……こういうとこは、頼もしいのよねぇ)
成香25000→24300
誓子25000→24000→26100
由暉子25000→26000→25300
京太郎25000→24300
誓子「――ツモ、700オールです」カンシャシマスッ
京太郎「綺麗な上がりですね」
誓子「ふふふ、いつまで余裕でいられるかな?」
由暉子(誓子先輩は、あんな風に褒めるんですね……)ムムゥ
成香(チカちゃんやっぱり上手だなぁ)
京太郎(で――俺は上がれるのか、これは……普段は色々頼りきってるってのがわかるなぁ)
成香25000→24300→23600
誓子25000→24000→26100→25400
由暉子25000→26000→25300→24000
京太郎25000→24300→27000
京太郎「っし――ツモです、700、1300」
由暉子「…………?」
京太郎「え……どうした?」
由暉子「いえ……珍しく、嬉しそうにしてましたので」
京太郎「そ、そうか? いつも上がれたら嬉しいけど」
成香「それはそうなんですけど、すごく必死な感じで……なんだか可愛かったです」ポヤヤ
誓子「うん、負けず嫌いの男の子って感じだったよ」
京太郎「な、なに言ってんですか! 普通ですって!」
由暉子「はい、普通ですね」クスクス
成香「さ、続きです」ニコニコ
誓子「頑張ろうねー」ニッコー
京太郎「あああああっ、もおおおおっ!」
成香25000→24300→23600
誓子25000→24000→26100→25400→23400
由暉子25000→26000→25300→24000
京太郎25000→24300→27000→29000
京太郎「――ロンです。お疲れさまでした」
誓子「うぁちゃ、最後にぃ……はぁ、お疲れさま」
由暉子「お疲れさまでした」
成香「お疲れさまです……んぅ……」
京太郎「どうされました、先輩?」
成香「あ、ううん……私だけ、上がれなかったなぁって。これで明日、大丈夫かちょっとね……」
京太郎「――そうですか? 俺は、さすが先輩って思いましたけど」
成香「えっ、えぇっ!? そ、そんなこと……だって……」
京太郎「先輩は確かに、他校のエースと争うタイプじゃないですけど……その中で打ち合って、大きく崩れないことが大事です。いままで何度か説明しましたよね?」
成香「うん……」
京太郎「そして、自分の打ち方を確認していただいて――結果は3位、それにあまり差が開いていません」
誓子(……わ、私を最後に狙ったのは、それが理由で……?)
由暉子(たぶん偶然ですが、最良の結果だったと思います)
京太郎「大丈夫――成香先輩は、明日もこの調子でお願いします」
成香「――はいっ!」パァッ
由暉子「京太郎、私にはなにかないんですか?」
京太郎「そうだな……由暉子は、特別なツキみたいなのがあるよな? いまは隠してたみたいだけど」
由暉子「あ、はい……京太郎と打つと、そういうのは阻害されると聞いたことがあるので」
京太郎「どういう縛りがあるかは知らないけど、その使い方さえ誤らなければ――由暉子に勝てる相手はいないはずだ」
由暉子「――はい」
京太郎「大将、任せたぞ」
由暉子「見ててください」キュッ
誓子「……私には?」
京太郎「えーっと……お付き合いいただき、ありがとうございました」
誓子「ふふっ、まぁそんなとこだよね。どういたしまして」
京太郎「先鋒と大将、ここがしっかりしてくると、戦術も活きてくる……いけそうだな」
揺杏「じゃ、次は私らだな」
京太郎「ですね。では、よろしくお願いします」
京太郎「これ終わったら、一旦休憩。そのあと軽く反省会して、ミーティングして、終わりってことで」
揺杏「オッケー。それじゃ、よろしく!」
京太郎「…………」
揺杏「なぁに」
京太郎「いえ、やる気になってる先輩、素敵だと思って」
揺杏「なっ――」カァッ
由暉子「」ガタッ
成香「落ち着いて、ユキちゃん」
誓子「まぁ――揺杏はそんな感じよね。やる気だすと、すっごく凛々しくなるの」
揺杏「あーもうっ、いいから早く!」
京太郎「はい、お願いします」
京太郎「そして終わった!」
揺杏「カット、だと……?」
京太郎「まぁ予定がありますので……」
京太郎「では、ミーティングのお茶をご用意してきますので。荷物の確認等、お願いします」
揺杏「うぃー」
誓子「掃除とかは?」
京太郎「卓と牌はいいかと思いますけど、教室はあとにしましょう。また汚れるかもしれませんので」
由暉子「では、卓の掃除と牌磨きだけ、済ませておきましょう」
「私たちでやっておきますけれど……」
「先輩方は、ゆっくりなさってはどうでしょう」
成香「ううん、みんなでやりましょう……今日までの練習の、感謝を込めて」
「せ、先輩……」
「感動ですっ……」
揺杏「チカセンの説教が浸透してんねー」
誓子「成香は真面目でいい子だからね」
由暉子「私たちも始めましょう、お掃除」
最終更新:2026年01月18日 23:47