~ランジェリーショップ再び
京太郎「咏さん、終わりましたか?」
咏「おっせーよ!」
京太郎「うお!? す、すいませんっ……で、いかがでしたか?」
咏「ま、着てみた感じは悪くなかったんじゃね? 知らんけど」
京太郎「よかった……脱がれる前に――というか、着物を着られる前に戻る予定だったんですが、遅くなってしまいました」
咏「あー、いいよ別に。で、とりあえず下着は買ったけど、次は服見に行くかい?」
京太郎「あ――その、お代のほうは……」
咏「あんくらい自分で買うってのー」ケラケラ
京太郎「いえ、ですが俺が誘ったわけですし……」
咏「子供が生意気言うんじゃないの」ペンッ
京太郎「う……」
咏「そういうのは、自分で稼いで生活してから言いな~」ヒラヒラ
京太郎「……はい」
咏「……気持ちだけはもらっとくよ。京太郎も、仕事はきちんとやってんだしさ」ナデナデ
京太郎「……はぁ、やっぱり咏さんは大人ですよね」
咏「そりゃねぃ。社会人初めて、もう7年……8年? だしな――さ、それより服見に行こうぜー」ポンポン
京太郎「それなんですが――俺の見立てですが、こちらをどうぞ」
咏「――えっ」
京太郎「買いに行ってて、遅くなりました……すいませんでした」
咏「……なるほど、そういうサプライズだったわけか」ニヤニヤ
京太郎「はは、そんなとこです」
咏「ん――貸してみ。着替えてくるわ」
京太郎「はい、お待ちしています」
~キャミソール咏ちゃん
咏「っ……こ、こんな、感じだけど……」////
京太郎「」
咏「あ、あのさぁ! これ……す、スカート短すぎやしないかい!?」
京太郎「」
咏「肩も、羽織りついてんのはいいけどさぁ……薄くて透けて、なんかスースーするってーか……」モジモジ
京太郎「」
咏「く、靴もこう……踵が高いやつは、あんま好きじゃないしさぁ……」
京太郎「」
咏「~~~~~~~~っっ! な、なんとか言ったらどうさ!」
京太郎「ぁ――す、すいません、思わず見惚れて……」
京太郎「よくお似合いですっ、エロいです!」
咏「あ?」
京太郎「……よ、よくお似合いです、その……エレガントで……はい」
咏「よーし」
京太郎「うぅ、しまった……つい本音が……」
咏「いや、いーんだけどさ……その、なんだ……そそられる? 感じだったわけっしょ?」
京太郎「そ、それは……はい」カァッ
咏「……んふっ♪」
京太郎「な、なんすか、その笑いはっ……」
咏「いーや、なんでもぉ?」
京太郎「うぐぐぐっ……」
咏「あっはっは、いやー、気分いいねぃ。なんでもねー男が言ったら張っ倒してるとこだけどさ――」
咏「京太郎に言われっと――案外悪くねー気分よ、それも」
京太郎「……本当に、よくお似合いです」
咏「おう、サンキュ」ニッ
京太郎「では――せっかくですから、俺も着替えましょうか」シツジー
咏「それはいいから(迫真)」
京太郎「はい――と言いたいところなんですけどね」
咏「うん?」
京太郎「まぁそれなりにドレスコードがある場所に行きますので、一応俺も、正装が必要なんですよ」
咏「あぁ……夕食?」
京太郎「はい。まぁ、もう少し時間がありますから、どこかに寄り道していきましょうか」
咏「んー、そうすっか……けど、その場合は執事服じゃなくてよくね?」
京太郎「……はい」ヌギッ
~夕方
咏「ん~~~~~~~っっ……はぁ、肩凝った」
京太郎「着物のほうが凝りません? 重いですし」
咏「いやー、まぁそうだけどさ……撞球とか初めてだしさ」
京太郎「でもお上手でしたよ――まぁ、色々と危なかったですけど」
咏「へ……?」
京太郎「……えっと、ほら……その服、丈が短いじゃないですか」
咏「う……うん、まぁ……」スッ
京太郎(裾引っ張ってるのエロい)ジー
咏「で、それがなにさ!」ガーッ
京太郎「ああ、はい……で、ビリヤードで突くときって、こう……脚開きますよね?」
咏「――あっ」
京太郎「で、そうするとですね……裾がこう、スッと――」
咏「うああああああああああああああああ! バカッ、アホッ、忘れろっ、忘れろーっ!」
京太郎「だ、大丈夫です、見えてませんしガードしてましたから! っていうか、どんなの穿いてるかも知ってるわけですし!」
咏「やあああああああああああめえええええええええろおおおおおおおおおお!」
京太郎「お、落ち着いてくださいっ、ほらっ、食事ですから次は!」
咏「食っとる場合かぁーっ!」
京太郎「食事すれば落ち着きますって……たぶん」
咏「くそぉ……なんたる恥辱……」
京太郎「――洋服、お嫌でしたか?」
咏「いや……そういうこっちゃないけどさぁ……」
京太郎「ほら、見てください――」
咏「ん?」
京太郎「こうやって結構騒いでますけど、周りでは誰も見てません……いまの店でもそうでした」
京太郎「咏さんがいつもと同じ姿なら――トッププロとして、いつも見せている格好だったなら、もしかすると気づかれていたかもしれません」
咏「…………」
京太郎「でも、その格好ならきっと、誰も気づきません……麻雀日本代表でも、横浜エースでもない、ただの三尋木咏として――俺の隣にいてくださってます」
京太郎「俺としては、それがすごく嬉しかったです……」
京太郎「あの三尋木咏を独占するっていうのは、贅沢すぎるくらいですけど」
咏「はっ……あのってほどでもないっしょ」
京太郎「そうですか?」
咏「――私はいま、ただの三尋木咏なんだからさ?」ニヤッ
京太郎「……ははっ、そうでした」
咏「ん~じゃ、デートの締めにはどこでご飯食べさせてもらおっかな~?」ギュッ
京太郎「っと……はい、それはもう予約してますので。そこまで格式ばったところでもないんですけど、若手のいいシェフが開いたお店で――」
~お店
京太郎「――では、このコースを。それと追加で、この店ならではの品を、一品いただけましたら」
「かしこまりました。こちらなどはいかがでしょう」
京太郎「……なるほど、おもしろそうですね。ではお願いします」
「oui monsieur」
咏「私はこっちの白ワインね。そっちの子はミネラルウォーターを」
京太郎「お付き合いできず、申し訳ないです……」
咏「いーって。それは……4年後? までとっとくからさ」
京太郎「では――えーっと……」
咏「ん?」
京太郎「はは、なにに乾杯しようかと」
咏「そうなぁ……」
京太郎「――俺たちの初デートに、ではいかがでしょう」
咏「~~~~っっ!! よ、よくそんな恥ずかしいこと言えんね……」
京太郎「咏さんの、その顔が見たくて」
咏「くっ……」
京太郎「かわいいです」
咏「っ……あ~もうっ! それでいいから、乾杯すんぞ!」
京太郎「はい――俺たちの初デートに、乾杯です」
咏「~~~~~っっ!!」グイッッ
咏「ぷはっ……」
京太郎「わ、ワインを一気って……大丈夫ですか?」
咏「あ、ああ、こんくらいなら……全然……」
京太郎「そうは言っても、結構赤いですよ……やっぱり度数強いですからね」
咏「そ、そうかもねぃ……うん、次からはゆっくり飲む……」
京太郎「そうしてくださいね……」トクトクトク
京太郎「あ、やべ……ついクセで注いじゃいました」
咏「んー……まぁいいんじゃね? ギャルソンもずっとついてるわけじゃないしさ」
京太郎「はい……では改めまして、乾杯」
咏「ん、乾杯」チンッ
咏(はぁ……あー、やばい……顔が、熱い……自分で、嬉しすぎてんのがわかるっ……)カァァァッ
咏「――でさ、なんでこの店なん?」
京太郎「まぁさっきもお話した通りです。界隈では有名な方らしくて、その腕を知っておきたかったっていうのが、理由の一つです」
咏「はぁ……んっとに料理バカだねぃ」
京太郎「いえいえ、俺の料理なんて、趣味どまりですから……」
咏「辻の脇板がそんなこと言っててどうすんのさ」クックック
京太郎「う……まぁ、そうですね……お客様におだしする以上は、趣味どまりのものではいけません」
咏「んで、ここの料理はどう?」
京太郎「評判以上だと思います。素材の活かし方は、そこらの有名店やホテルの何倍も上ですし……ソースや味付けはシンプルなんですけど、それが素材の良さを引き立ててます」
京太郎「それに加えて、二種のソースの場合は片方が非常に複雑な味わいなんですよっ! 素材の良さを味わわせる一方で、素材の奥行きを見せてくれる――」
京太郎「はっきり言って、ここのシェフは天才ですよ」
咏「………………ぷっ」
京太郎「え」
咏「くっ、ふっ……ふふっ……あはははははっ!」
京太郎「えっ、あの――」
咏「あー、いや、ごめんっ……ただ、めっちゃ目ぇキラキラさせて、力強く語ってっからさ……くふっ……でかい図体の子供かって思っちゃって……」
京太郎「い、いいじゃないですかっ」
咏「ああ、うん、もちろん――悪いなんて思ってないし、馬鹿にしてるわけでもねーからさ」ケラケラ
京太郎「笑ってるじゃないですか!」
咏「面白いってのもあるからねぃ……けど、それ以上にさ、嬉しいんだよ」
京太郎「えっ」
咏「……なんていうか、京太郎の素が見えてさ。それがすげー嬉しい、それを独り占めできてんのが、幸せだ」
京太郎「――――――」
京太郎「――俺も幸せです」
咏「」
京太郎「誰も知らない咏さんと、こうして一緒にいられて……最高の気分です」
咏「あ……う……っっ……~~~~~~~~っっ////」
京太郎「今日は本当にありがとうございます、咏さん……」
咏「ま、まだ……終わって、ないだろ……?」
京太郎「はい。家に帰るまでがデートですから」
咏「修学旅行か!」
京太郎「遠足です」
咏「そっちかよ!」
京太郎「――そういえば、作ったことなかったなぁ」パクッ
咏「へぇ、フルーツのグラタンねぇ……夏場に熱いものって思ってたけど――」
京太郎「はい。夏場はこうして、冷やしても提供できるんですよね……普通のグラタンとは違い、カスタードクリームですから冷やしてもおいしいんです」
咏「これについての評価は?」
京太郎「基本的にデザートは、材料の分量がすべてですからね……その点に誤りはないです。粉っぽさやざらつきもなく、味が薄いこともない――」
京太郎「その上で、アクセントの洋酒がいい香りをだしています……フルーツも洋酒とシロップに漬けられてたんでしょうね」
京太郎「田舎風デザートでもあるフルーツグラタンが、一気に大人びた、高級感あるデザートになっています」
京太郎「あー、これは……再現するのは難しいかもしれませんね」
咏「そうなん? って、まぁ普通は、食べた味の再現なんて難しいもんだけど」
京太郎「それもそうなんですけどね……それに加えて、これはわりといいリキュールですよ。アルコール専門店で扱ってるようなやつでしょうか」
咏「あー……なるほど、買えないわけだ」ニヤニヤ
京太郎「そういうことです……」ハァ
咏「……まぁ、あれだ――種類がわかんなら、私が買っといてやるけど? そのリキュールさ」
京太郎「え――ほ、本当ですかっ?」
咏「ただし――条件が二つある」
京太郎「なんなりと!」
咏「そういうのは、聞いてから言うもんだぜー?」
京太郎「う……そうでした」
咏「まぁそんな無茶は言わねーからさぁ、知らんけど」
京太郎「お、お手柔らかにお願いします……」
咏「ま、一つは当たり前っていうか……それで京太郎が作ったやつ、味見させてもらうってこと」
京太郎「もちろんです!」
咏「で、もう一つは――また私と、デートすること」
京太郎「っ!」
咏「約束できんなら、買っといてやるけど?」
京太郎「――お約束します」
咏「!」
京太郎「また――また、デートしましょう……いえ――」
京太郎「またデートしてください、咏さん……すぐにってわけではありませんけど、必ず」
咏「……ん、そうだな……しよう」
京太郎「約束です」スッ
咏「ああ、約束な」キュッ
~第一週木曜、朝
~某ホテル
咏「………………」ボー
健夜「しゃきっとして」
咏「うーっす……」ボー
はやり「ダメだね、これは」
靖子「使い物になりませんよ」
良子「なにがあったんですか、咏さん!」
理沙「詳しく」
咏「あー……えー……色々かな」ボー
晴絵「その内容を聞いてるんですよ、元教師として」キリッ
靖子「面白がってるだけでしょ、あなた」
健夜「まぁ隠してもネタは上がってるんだけどね――恒子ちゃん!」
恒子「まぁ私も見てきたわけじゃないけどねー。目撃情報によると、三尋木プロは着物じゃなかったとか」
はやり「なんとぉ!」
恒子「ランジェリーショップから出てきたとか」
良子「なんて破廉恥な!」
理沙「おまいう」
恒子「高級レストランに消えていったとか」
咏「んー……うんまぁ、うん……だいたいあってる」ボー
晴絵「うわ、ほんとダメになってるよこれ。なにしたんだ、京太郎は……」
良子「下着を買って、着物ではなくなった……そういうプレイとしか考えられませんね」ギリッ
はやり「京太郎くんはそんなことしないぞ☆」
靖子「……でしょうね、あれは」
健夜「お洋服買ってたんでしょ?」
理沙「これ」スッスッ
恒子「おー、野依プロさすが! そうそう、これ――も、結構際どい服だよねぇ」
咏「うへへへへへ……ヘヘぇ……」ニマニマ
靖子「きもいな」
良子「ほらこの格好! 犯罪ですよ、これは!」
理沙「どうどう」
健夜「う、うーん……お忍び目的で、普段とかけ離れた格好にするしかなかった、から……?」
靖子「隣の男が執事の服を着てますが」
晴絵「逆に目立たないとか」
はやり「めちゃくちゃ見られてるぞ☆」
晴絵「ですよねー」
恒子「けどあれですよね、夜はきちんとホテルに帰ってきたみたいですし、この服でも落としきれなかったってことじゃないですかー?」
咏「」
靖子「咏ァ!」
健夜「恒子ちゃん、なんてひどいことを!」
良子「ふふふ、まぁ咏さんにしては頑張ったほうですよ」ニヤニヤ
理沙「外道!」
晴絵(こいつらブーメランなのになに言ってだ)
はやり(でもまぁ、京太郎くんが好きなのは私とか良子ちゃんみたいなのだよね☆)
咏(脳内会話やめーや)
~京ちゃん in ホテル
京太郎「……なんか好き勝手言われてる気がするのう」
京太郎「で――今日が試合みたいな感じで進めてたけど、今日は休みなんだよなぁ……俺ら」
京太郎「とりあえず、明後日に備えての練習はしないとだけど、Bブロックの二回戦もチェックしないと」
京太郎「ま、ともかくまずは朝飯だ。みんなは集合してるころかな……」
揺杏「よし、行くか」
由暉子「待ってください、リボンが……」
成香「寝癖がまだ……」
京太郎「……なんでナチュラルに俺の部屋にいて、身支度整えてるんですかねぇ」
揺杏「これ京ちゃんの着替えな。執事服ばっかは面白くない」
京太郎「あ、はい……ってなんですか、このヒラヒラした服は」
揺杏「ドラ○エ6の貴族の服をイメージしてみた」
京太郎「レイ○ック王子か!」
由暉子「それはともかく、昨日の練習での話なんですが」
京太郎「」ビクッ
成香「昨日なぜか『いなかった』し、聞いておくよね?」
京太郎「……お、オナシャス」
揺杏「まぁ朝飯の席でしようか。ほかの学校の人たちもいるだろうからさ」ポンポン
京太郎「せ、戦術的な話なら、いない場所のほうがいいのでは……」
由暉子「向こうの話も聞かせてくださるそうなので、条件は同じです」
成香「むしろ有利だよねぇ」
京太郎「…………はい」チーン
~二年目8月第一週木曜
~朝食
揺杏「――とまぁ、そんな感じかなー、うちは」
誠子「ふむふむ。なるほどねぇ」
灼「参考になる」
久「それじゃうちも、とっておきの咲情報を――」
京太郎「………………」ビクビク モグモグ
由暉子「――では、そろそろ本題に入りましょうか。昨日の話ですね」
京太郎「」ビクッ
淡「途中で名前呼ばれた気がしたんだけど!」
玄「あ、私も!」
憧「気のせいでしょ」
和「でしょうね」
尭深「どうなのかな、京太郎くん」
京太郎「さ、さぁ……ど、どうなんでしょうね~」
咲「ちゃんと答えて」
京太郎「アッハイ」
成香「針の筵だね」
優希「自業自得だじぇ」
宥「……でも、別に悪いことしたわけじゃないのに、可哀想だね」
穏乃「私もそう思うなー。まぁ練習休んで遊んでたのはよくないかもだけど」
京太郎「宥さん、穏乃ぉ……」ポロポロ
久「――まぁ確かに。まるで浮気した旦那を問い詰めるみたいに苛めるのは、筋違いよねぇ」
誠子「えぇ……ここで梯子外します?」
灼「自分も乗り気だったのに、清澄の監督さんずる……」
揺杏「じゃあ、京ちゃんに締めのひと言もらって、終わりにしよっか」
京太郎「えっ」
淡「ほい、元気よく!」
玄「ファイトだよ!」
京太郎「え、えーっと……」
京太郎「えっと……つまり、今日はどなたも遊びには行けない、誘ってもだめってことです……かね?」
咲「は?」
和「そんなことひと言も言ってないでしょうなにを言っているんですか!」
憧「べ、別に誘われたら行ってもいいかなって思わなくもないっていうか吝かでないっていうか」
淡「そーだよ! 藪傘だよ!」
尭深「吝かだよ、淡ちゃん」
誠子「うーんこの」
久「必死すぎねぇ」
玄「こ、怖いよぉ……」
由暉子「もう少し落ち着きというものをですね」
揺杏「ユキはそわっそわしすぎ」
穏乃「私も京太郎と遊びたい!」ハイッ
灼「……まぁ、京太郎がいいなら、うん」
成香「締めのひと言だったはずでは……」
宥「これはしばらく、動けそうにないねぇ」
京太郎(……これ、誘わなかったら誘わなかったでブチ切れられそう。明日は試合なのになぁ)
このあとめちゃくちゃミーティングする。
久「ところで優希は騒いでなかったようだけど」
優希「あのバカがあんなそれっぽいこと言って、そのあと誘う甲斐性なんてあるわけないじぇ」
咲「……確かに」
和「一理あります」
灼「……意外に冷静」
穏乃「昔の憧にそっくりなのに……」
憧「どういう意味よ!」
玄「昔の憧ちゃんは、お転婆さんだったもんね~」
宥「そうなの?」
憧「ちょっ、変なこと言わないでよ」
和「まぁ、いまより穏乃っぽかったのは確かですね」
穏乃「えっへへ~、おそろ~」
咲「仲いいなぁ」
久「まぁそれはともかく――もし誘われたら?」
優希「ふふふ、新しいメキシカンの店を開拓するのも悪くないじぇ」
~有珠山部屋
京太郎「なにやら噂されているような気が……」
由暉子「集中してください」
京太郎「はい」
成香「それじゃ、練習前のミーティングを始めましょう」
揺杏「えー、明日の相手は阿知賀、臨海、龍門渕。とりあえずキツい、おk?」
京太郎「ですね。特に大将がやばすぎます。衣おね……衣様にネリー、穏乃が相手だと、由暉子でも対抗しきれないでしょう」
由暉子「……すいません」
京太郎「っと、すまん。責めてるわけじゃないからな」
成香「ユキちゃんは悪くないよ」
揺杏「爽ならまだなんとか、って感じだからな~。んで、どうしよっか」
京太郎「三つ案があります。まず一つは、大将前に勝負を決めるってことです」
由暉子「なるほど」
成香「で、できるのかな」
京太郎「はい――と言いたいところですけど、かなり厳しいです。それこそ、由暉子が大将じゃなければ可能性はあった、という感じで」
揺杏「玄はドラの取捨が自由になったんだっけ?」
京太郎「ここまでの試合を見るに、ドラは切っていません。隠していたいからでしょう。操れるようになっている、と考えておくべきです」
京太郎「加えて――メグ先輩と智葉先輩が抜けたからって、臨海は弱くなんてなっていません。ハオ、明華さんを中心に、世界レベルの選手が固まっています」
成香「……聞いてるだけで絶望的なんだけど」
京太郎「下馬評では一位臨海、二位阿知賀と見ている人が多いようです。大将まで僅差でもつれれば、龍門渕が上に来るという見方も」
揺杏「……ん? あ、ってことは――」
京太郎「さすが揺杏さん。つまり、そういうことです」
由暉子「どういうことですか?」
京太郎「まず俺たちは二位狙い。そして、特定のチームを狙い撃って、副将戦まででそこに飛んでもらいます」
成香「そっか……一位にするチームを決めて、そこを援護するんだね」
京太郎「はい。幸い、うちは負け濃厚と見られていますから、集中狙いされることはありません。余計な失点を押さえれば、可能性はあります」
由暉子「この方法が、一番現実的に見えますね……あとの二つは?」
京太郎「大将までもつれた場合にも二位を狙う、そのために副将までで、二チームを削るやり方です」
京太郎「かつ――大将戦は、最短16局で終わらせたい」
成香「それは……」
京太郎「阿知賀には落ちてもらいます。残る二チームのどちらにおもねるかは、当日の展開次第です」
揺杏「んー……阿知賀対策は確定として、先にどっちか決めといたほうが、もう一つの対策もできね?」
京太郎「できます。けど、龍門渕支援を決めていて、そこまでで圧倒的大差がついて龍門渕が凹んだ場合、フォローが難しいかと思いますので」
揺杏「んん……でもどっちみち、対策が間に合わなそうだよな」
京太郎「ということで、三つ目――真正面から、全チーム潰す。です」
成香「できるの!?」
京太郎「可能性としては1%です。最初からぶっちぎりでいって、大将までもつれてでも、一位ないし二位でどこか飛ばす、という形ですから」
由暉子「策でもなんでもないですね」
京太郎「言うな……で、どれにします?」
京太郎「第一案の二位狙い大将前決着が30%、第二案の一位にコバンザメ作戦が15%、第三案が1%くらいだと思いますけど」
揺杏「勝率?」
京太郎「はい」
由暉子「――部長、お願いします」
成香「そうだね、決めていいよ」
揺杏「!?」
京太郎「どうぞ、ご決断を」
揺杏「待て待てまて! みんなで決めようよ!」
京太郎「まぁ意見くらいはいいと思います。でも、決めるのは部長の役目ですよ」
由暉子「では私は、第一案を推します。無理そうなら第二案でも構いませんが」
成香「私は……最後の大会、第三案で堂々と締めくくってもいいかなって思ってます」
揺杏「割れたし!」
京太郎「では、ご決断を」
揺杏「京ちゃんは!」
京太郎「……うーん、そうですねぇ」
京太郎「……大将戦で狙えそうなのは、時間がかからないという前提ですけど、穏乃だと思います」
京太郎「準決勝で副将までに飛ばすなんて、現実的とも思えませんからね。なので、最後までもつれる可能性を考慮して、コバンザメで」
由暉子「頑張りますっ」
揺杏「ん~……じゃ、それにしよっか」
京太郎「軽い! いや、確率的には1が高いんですよ?」
揺杏「まぁそうだけど……うちの大将は由暉子だからなぁ。最後は由暉子に賭けるのがベストだと思うし」
京太郎「……なるほど」
揺杏「それに、2案なら三校とも対策するじゃん? 一年の経験になるだろうし、もしかしたら来年も、うちが全国を狙えるかもしれないっしょ」
京太郎「揺杏さん……」
成香「揺杏ちゃん、来年以降のことも考えて……」
由暉子「さすが部長です……信じてよかったです」ウルッ
京太郎「じゃあ、阿知賀対策を第一に。あとの二校の対策も、各パターンで考え、由暉子に教え込むって形で」
由暉子「よろしくお願いします」
揺杏「よし、決まりな! それじゃ、練習行くぞ!」
全員『おぉぉ――っ!』
~ミーティング後
京太郎「さて――こんなこともあろうかと、強豪校の対策はあらかじめまとめてある」
京太郎「それについての練習メニューも、だ」
京太郎「あとは……先鋒から大将までで区分して、資料作りするだけだ」
京太郎「今日も一日がんばるぞい」
京太郎「――ふぅ、こんなもんか」ッターン
京太郎「結構時間かかったけど、これでなんとか、午前の練習から反映できそうだ」
京太郎「さっそく届けに行こう」
~練習所
京太郎「お待たせしました。阿知賀を中心に、対戦時に絶対押さえておくべきポイントをまとめた、準決勝用の飼料です」
由暉子「……え、この短時間でまとめたんですか?」パラパラ
京太郎「いや、前々からコツコツと作ってて……あと、トーナメントの櫓見て、相手がどうなるかのシミュレーションはしてたからな」
成香「ありがとうございます。頑張るね!」
揺杏「よし、そんじゃさっそく、これ使って練習だな」
京太郎「俺も入ります。完全にコピーはできませんけど、こんな風に打ってくる、っていうマネくらいはなんとか……」
揺杏「お前ほんと、なんでもできんね」
由暉子「ん?」
京太郎「言ってないんだよなぁ」
成香「時間もありませんから、早く始めましょう」
京太郎「では――各自、資料を見ながらでいいので、注意事項を意識して打ってください」
京太郎「俺もなるべく、阿知賀のメンバーの打ち癖を真似するんで」
揺杏「局ごとに?」
京太郎「そのつもりです」
成香「最初は玄さんだね」
京太郎「その辺は言わないので、癖からアタリをつけて、対応してみてください。まぁオカルトなとこまでは真似できないですけど」
由暉子「癖については、資料を見て覚えろってことですね」
京太郎「そういうこと。では、よろしくお願いします――」
成香25000→26500
揺杏25000→23500
由暉子25000→
京太郎25000→
成香「ロンです」
揺杏「げっ」
京太郎「よかったですよ。早くて、こっちの当たりも避けていました。欲を言うなら、仮想敵である俺から上がってほしいところです」
由暉子「それが一番難しいんですけど……」
成香「でも、京太郎くんから普通に上がれるようになれば、どんな相手でも怖くないよね……うん、頑張る!」
揺杏「いやー、きついっす」
京太郎「気を抜いてる余裕はありませんよ。続けますねー」
成香25000→26500→22500
揺杏25000→23500→15500
由暉子25000→21000
京太郎25000→41000
京太郎「ツモです、海底ですね」
揺杏「げっ」
由暉子「どういうことですか、これ……」
成香「イーシャンテンから進まない……」
京太郎「まぁ衣様が怒るとこんな感じです」
揺杏「っていうか真似できてるじゃん!」
京太郎「ま、まぁ一回くらいは……ちなみに攻略してED見ると、その能力がもらえるみたいですよ」
由暉子「させません」
京太郎「えっ」
成香「攻略なんてしちゃだめ、いいね?」
京太郎「アッハイ」
京太郎(まぁ衣様のお相手なんて、畏れ多いしな……)
衣(おねーちゃんだぞ)
京太郎(すいません、衣おねーちゃん)
成香25000→26500→22500→10500
揺杏25000→23500→15500
由暉子25000→21000
京太郎25000→41000→53000
京太郎(……揺杏さんのいまの打ち筋は、簡単にまとめた、良子さんのアドバイスが活きてる)
京太郎(由暉子も、いまのは悪くなかった……普通の相手なら、問題なく上がれてる)
京太郎「成香さんは、残念でした」
成香「う……はい……なんとかしないとって、逸っちゃって……」
京太郎「いえ、その気持ちはいいと思います。その気持ちを抱え、焦らず機会を窺えるよう――そして、機を見たら一気に動くことを、心がけましょう」
成香「はい!」
京太郎「じゃあ、続けます」
揺杏「おう……しかしきついな」
由暉子「打ち分ける京太郎も大変です……頑張りましょう」
京太郎(……あ、打ち真似してる設定だし、雀力半減にすればよかったな……もう遅いけど)
成香25000→26500→22500→10500
揺杏25000→23500→15500→3900
由暉子25000→21000
京太郎25000→41000→53000→64600
京太郎「……たぶんですけど、ちゃんと宣言してから打ち真似したほうがよかったですよね」
揺杏「かもねー」
由暉子「対応しきれるかはわかりませんけど、そのほうが練習にはなったかと」
成香「ま、まぁやってみたから気づけたわけだし、ね?」
京太郎「そうですね。では、その形でもう一度、やってみましょう。順番で一年生とも交代してください」
由暉子「京太郎は?」
京太郎「試合もありませんからね。ずっと打ちっぱなしで大丈夫ですよ」
成香「ごめんね……」
京太郎「いえ。有珠山が勝つためです、頑張りましょう」
揺杏「ありがとな……私らも頑張るから」
~お昼
京太郎「――ということで、一通り打ってみたわけだけど」
京太郎「さすがに、みんなもかなり疲れたみたいだな……まぁ俺もだけど」
京太郎「さて、こんなとき俺は――」
京太郎「戦士には休息が必要だ――」
京太郎「休息、つまりは飯……飯を食うときは、誰にも邪魔されたくない……」
京太郎「いや、本当はみんなで来たかったんだけどな……なんかこう、色々と考えてるみたいで、邪魔できなかったんだよ……うん」
京太郎「まぁ仕方ない。とにかく切り替えて、うまいものでも食って元気だそう」
京太郎「このところ家事もしてなくて、体力の回復が追いつかないからな……お、ここは――」
そう言って見つけたのは、いかにもな雰囲気の定食屋だった。
店構えも綺麗過ぎず汚すぎず、昔からこの場所にあって、多くの人に愛されてきた店の顔をしている。
京太郎「おすすめと日替わりの中身は外の看板で確認できるのか……」
おすすめには魚がメインの定食が並んでいる、どうやらいい魚が入っているらしい。
今日の日替わりは丼、そこに小鉢とお味噌汁――これもなかなかよさそうだ
京太郎「さて、ここから選ぶか……それとも、ほかのメニューを見せてもらうか」
ともかく入店しなくては、話にさえならない。
意を決し、入口の引き戸をガラガラと開く。
「いらっしゃいませー!」
元気のいいおかみさんの声、店内は明るく、寒すぎない程度の冷房が肌に心地いい。
席に着くとすぐさま、水とおしぼりを持った店員がやってくる。
「ご注文お決まりの頃、伺いますねー」
京太郎「あ、はい。お願いします」
急かすこともなく、メニューを渡して去っていくところも、ポイントが高い。
昼時ということで客も少なくはないから、一人に構っているわけにもいかないのだろうが――。
京太郎「さて、どうしたものか……」
メニューを眺めて、ほうと感心する。
定食や丼が豊富で、麺類もある程度はあるが、サイドの一品メニューもそこそこ多い。
なるほど、小鉢用にお惣菜を作るから、その流れでサイドメニューも増えているわけだ。
京太郎「それなら、定食か丼に加えて、なにか頼むか……」
店内に張られるメニューを眺めると、本日の小鉢が書かれている。
こふき芋とひじき、か。
京太郎「となるとおひたしか、野菜が取れそうな煮物がいいかもしれない……」
もしくはメインを野菜多めにして、サイドメニューでたんぱく質を補うか。
魚がおすすめなら、やはり野菜がサイドだろうか。
京太郎「悩ましい――ん?」
そうこうしている間に、他の客が頼んだ注文が運ばれてくる。あれは――。
京太郎「あれは――すき焼き?」
すき焼き丼、というべきだろうか。
牛肉に焼き豆腐、ネギ、しらたき、白菜といった煮込まれた具が丼の上に共演している。
京太郎「うん、これだ」
ピーンときた。
そこにこふき芋とひじきがあるなら、バランスも十分。
ただ、欲を言うならもう少し、たんぱく質がほしいところ――。
京太郎「そうだな……お、これがいい」
ブリ大根の小鉢、それだけでもメインを張れそうなメニューがある。
野菜とたんぱく質を両方補える、パーフェクトなチョイスだ。
京太郎「すいませーん」
??「すいませーん」
む、注文がかぶってしまった。
けれど、入ってきたのは自分のほうがあとだろう。
ここは先手を譲ることにして――。
京太郎「あ、先にあちらでいいですよ」
注文を取りに来ようとしたおかみさんにそう促し、かぶった相手のほうを見やる。
京太郎「…………あれ?」
そこにいたのは――。
京太郎「シロ……さん?」
シロ「京太郎?」
京太郎「どうしたんですか、こんなところで……」
シロ「京太郎こそ……ストーカー?」
京太郎「だったらどうします?」
シロ「大歓迎。あ、席移るね」
京太郎「そっちでいいですよ。俺が移動します」
席を立ち、そちらへ移る。
おかみさんの視線が、妙に生温かくなった。うーん。
シロ「……なに、そのナレーション」
京太郎「いや、孤独のグルメごっこを……」
シロ「私と会っちゃったから、食の軍師にしようか」
京太郎「いや、それはどうなんですか……シロさん、なににします?」
シロ「あ、やっぱり布陣勝負するんだ」
京太郎「しませんよ! あ、俺はすき焼き丼で――って、これが日替わりですね」
シロ「私はカツ丼で」
京太郎「……なんとなく、丼だと思いました」
シロ「なんで?」
京太郎「食べるの面倒がって、魚はないだろうなと。食器が多いから、定食もなさそうですし」
シロ「……当たらずも遠からず。でも、カツ丼にしたのは京太郎のせい」
京太郎「えっ。もしかして、すき焼きがよかったんですか?」
シロ「じゃなくて、前にサイトに上げてたの見て作ってから、妙にはまるようになったの」
京太郎「……それ、シロさんの卒業前の話ですよね」
シロ「責任取ってね」
京太郎「聞いて!」
「はいお待たせ―。彼氏くんのほう、ご飯大盛りにしといたから」ウフフ
シロ「ありがとうございます」
京太郎「なぜ否定しないのか……」
シロ「同じようなものだし……じゃあ彼氏クン、いただきます」
京太郎「召し上がれ――いやだから、彼氏では……」
シロ「はぐっ……あ、おいしい」
京太郎「初来店ですか?」
シロ「うん。お腹空いて倒れそうだったらところに、この店が」
京太郎「ほかの人はどうしたんですか……照さんとか、宮守卒の方々とか」
シロ「今日は仕事で、お弁当忘れてて、外で食べるかーってなって、彷徨ってた」
京太郎「……自分で移動したことは、すごいと思います」
シロ「なんとなく予感があったから」
京太郎「おいしい店があるって?」
シロ「京太郎に会えるって」
京太郎「……おいしいですか?」
シロ「うん」モグモグ
京太郎「んじゃ俺も、いただきます――うお、めっちゃいい肉だ」ハフハフ
シロ「わかるの?」
京太郎「そりゃもう……どうぞ、あーんしてください」
シロ「あーん……あ、おいしい。なんでレギュラーメニューにしないのかな」
京太郎「この値段でこれだしてたら、たぶん赤字ですよ。発注ミスか、常連さんからの差し入れとかじゃないですかね、たぶん」
シロ「業者のサービスとか」
京太郎「ありえますね……けど、それをとっさにすき焼きにしちゃえるあたり、料理してる人の手際と慣れが伺えます」
シロ「もう一口」アー
京太郎「さすがに二口目はカツとトレードです」
シロ「しょうがない」アーン
京太郎「もぐもぐ」
シロ「おいしい?」
京太郎「はい。豚の下処理が素晴らしいですね、まったく筋が感じられません」
シロ「ふふ……あ、お弁当」パクッ
イチャコライチャコラ
客1(やっぱりカップルじゃないか(憤怒))
客2(なんか見たことあるな、あれ……)
客3(東京の小瀬川プロだろ)
客4(マジかよ祝ってやる)
客5(呪わないのか……(困惑))
客6(だって小瀬川プロのファンだし)
客7(俺は宮永派だから……)
二人『ごちそうさまでした』
京太郎「いい昼食になりました……」
シロ「私も。あ、奢ってあげようか?」
京太郎「なんか怖いのでいいです」
シロ「遠慮しなくてもいいのに……」
京太郎「このあともお仕事ですか?」
シロ「ちょっとだけね。そのあとは時間あるよ」アッピル
京太郎「そうですか……」
京太郎(……仕事を急かすのも悪いし、今日は素直に見送るか)
京太郎「無理しないでくださいね。って言っても、大会中は忙しいですよね」
シロ「むぅ……まぁ今日は癒されたから、よしとする」
京太郎「それじゃ、お気をつけて」
シロ「京太郎も……チームの子にも、個人的な応援は無理だけど健闘を祈るって伝えておいてね」
京太郎「はい。ありがとうございます」
シロ「それじゃ」スッ キッ バタン
京太郎「おお、ナチュラルにタクシーを……これが大人ってやつか」
京太郎「さて――それじゃ、俺はどうしようかな」
~二年目8月第一週木曜 午後
京太郎「どうせなら誰かと出かけたいとこだけど……明日の試合のことを考えると、たぶん誰も――」
??「あっ、京太郎!」
京太郎「ん?」
ネリー「やっぱり京太郎だー! わーい!」
京太郎「おわっと……ネリー?」
ネリー「ネリーだよ!」
京太郎「どうしたんだよ、こんなとこで」
ネリー「お散歩だよー」
京太郎「えぇ……いや、明日準決勝だぞ? ほら、練習とかあるだろ、ほかのみんなも今頃――」
ネリー「うちは午後からお休みだよ! 前日は調整するからね!」
京太郎「あー……なるほど、そうか。そういうこともあるよなぁ」
ネリー「京太郎はっ? ヒマッ?」
京太郎「いや、むしろ逆っていうか……予定が空いててな。どこか出かけられたらって思ってたんだが――」
京太郎「………………」
ネリー「……? どしたの?」
京太郎「…………いや、いやいや。なんでもないぞ、うん」
ネリー「ふーん?」
京太郎(……さすがに、ネリーはまずいよなぁ。明日の試合の相手を連れ回したりしてたんじゃ……根も葉もない噂が広まるかもしれないし)
ネリー「まぁいいよ。それよりね、京太郎!」
京太郎「ん?」
ネリー「おヒマだったらさ、ネリーとデートしようよ!」
京太郎「」
ネリー「だめだった?」
京太郎「いや、そんなことはないんだけど……その、明日うちと臨海が当たるのはわかってるよな?」
ネリー「対戦校を忘れたりはしないよっ」
京太郎「それなら、その相手校の生徒と仲良く遊びにってのは……ほら、よくないことを言うやつもいるかもしれないし」
ネリー「……よくわかんないけど、それされると京太郎はイヤなの?」
京太郎「俺はいい。だけど、明日の結果次第では、ネリーと……もしかしたら有珠山や臨海も、なにか言われるかもしれない」
京太郎「俺以外の誰かがそうなるのは、さすがに許容できないな」
ネリー「そっかぁ……」
京太郎「だからネリー。今日のところは諦めてくれ……また、別の機会に――」
ネリー「うーん……やだ」
京太郎「悪いな……って、えぇっ!?」
ネリー「ネリーも、自分が言われるのはいいよ。でも、臨海が言われるのはやだ」
京太郎「だったら――」
ネリー「だったら、うちが勝てばいいだけ。どうせ負ければ、悪く言う人はいっぱいいるんだから、気にしててもしょうがないでしょ?」
京太郎「……そりゃ、そうだけど」
ネリー「それに、ネリーもそうだけど、京太郎もまだ学生だよ。勝敗の結果が、そんな一学生にかかってくるなんて、おかしいじゃない!」
京太郎「ネリー……」
ネリー「好きなことしようよ、京太郎! 色んな学校に関わってるんだから、これからだって、こういうことはいっぱいあるよ」
京太郎「まぁ、それは……」
京太郎(ラーメン屋で、阿知賀にも臨海にも、龍門渕にも会ったしなぁ……いや、けど一対一は……)
ネリー「それとも、本当はネリーとデートするのがイヤ?」
京太郎「そんなことない。ネリーがイヤなんてことは、絶対に」
ネリー「じゃあ決まりだね」
京太郎「……………………」
京太郎「………………そうだな」
ネリー「!」
京太郎「すまん、ネリー。俺は言い訳してた」
京太郎「周りがどうの、俺個人はどうのって……ちょっとうぬぼれてたかもしれない」
京太郎「俺みたいな子供が、なにかが起こる前に対策を完璧にしようなんて、おこがましいことだった」
京太郎「デートしようぜ、ネリー。それで、なにか言われるようなことになったら――」
京太郎「俺が全力で、ネリーも臨海も、有珠山のみんなも守ってみせる。どんな手を使ってでもな!」
ネリー「ん? いまなんでもするって――」
京太郎「それ誰に教えられたぁ!」
ネリー「よかった! じゃあ、デートできるんだよねっ、ねっ?」
京太郎「ああ、しよう! 遊びにいこうぜ!」
ネリー「わーい、やったぁ! ね、それじゃ行こっ、早くはやく!」
京太郎「ははは、そう慌てんなって! さーて、どこにするか――あれだ、もういっそのこと千葉のネズミ王国まで行っちゃうか!」
ネリー「ああいうとこはお高いからダメ!」
京太郎「お、おう……しっかりしてるんだな、そこは」
ネリー「金は命より重いんだよ」
京太郎「はい……」
京太郎「うーん、それなら――」
京太郎「なら、ゆっくり話せるとことかがよさそうだな」
ネリー「うんうん!」
京太郎(それなら、どっか個室だよな……うーん、俺の部屋はまずい。誰か来るかもしれないし……)
京太郎「なぜかカギ持たれてるからな……」
ネリー「?」
京太郎「じゃあ逆に――」
ネリー(逆に?)
京太郎「ネリーの部屋とか?」
ネリー「!」
京太郎「あ、でも個室じゃないとまずいよな。誰かと相部屋だったりするか?」
ネリー「しないよ! レギュラーは個室だからっ! それに誰かいたら追いだすから!」
京太郎「いや、それは悪いだろうけど……まぁそれなら、ネリーの部屋でゆっくりするか」
ネリー「うんっ、ゆっくりしていってね!」
ネリー(これは勝ったんじゃない?
エンディング見えたでしょ!)ガッツポ
京太郎「じゃあ行くか」
ネリー「うん! 気をつけて行かないとね!」
京太郎「気をつけて?」
ネリー「誰かに見られないように! 特にハオと明華と監督には!」
京太郎「そこは記者とかそういうのだと思うんだけど……ま、いいか」
~臨海のホテル、ネリーの部屋
京太郎「さっすが臨海……」
ネリー「ちょっともったいないよね」
京太郎「選手のモチベを上げるためっていうのもあるんじゃないか」
ネリー「そうかなぁ?」
京太郎「まぁいいや。それより、座って待っててくれ。とりあえずお茶淹れるから」
ネリー「はーい」ポスンッ
京太郎(おやぁ? 椅子とテーブルもあるのに、ナチュラルにベッドに座ったぞ?)
京太郎「ネリー、こっちのほうがよくないか? お茶がこぼれると大変だし……」
ネリー「ベッドのほうが柔らかいから!」
京太郎「あー、座り心地の問題なのね……」
ネリー「そだよー」ウソダケド
京太郎「なら仕方ない……ほい、こぼさないようにな」
ネリー「ありがとー」クイッ
京太郎「にしても……明日は準決勝なのに、落ち着いてんなぁ」
ネリー「まぁね。阿知賀の高鴨はちょっとあれだけど、龍門渕は前に当たったとき、メグが飛ばして勝ったから、そんなに心配してないし」
京太郎「ああ、副将戦までだったな。でも、そうか……ってことは――」
京太郎「ネリーは衣おね……衣様を知らないんだな」
ネリー「大丈夫だよ。データは見てるし、どんな相手でも負けないからね」
京太郎「いや、去年の決勝……」
ネリー「宮永はずるい!」
京太郎「ネリーと当たったほかのやつらも、同じこと言ってると思うぞ」ナデナデ
ネリー「えへへー」
京太郎「まぁともかく……こんなアドバイスするのは、本当はよくないんだけど……あんまり油断しないほうがいいとは思うぞ」
ネリー「してないよ――ちゃんと全力でやるから、負けるわけないって思ってるの」
ネリー「京太郎だってそうでしょ?」
京太郎「俺か? そうだなぁ、俺の試合前は――」
京太郎「――まぁ、ネリーと同じだよな」
ネリー「でしょっ♪」
京太郎「負けるかもって思ってると、やっぱりどっかで流れが悪くなるからな……その可能性は考えないほうが、安定して打てると思う」
ネリー「えへへっ、一緒だねっ」
京太郎「嬉しそうだな?」
ネリー「だって嬉しいよ! 京太郎と一緒だもん、すごく嬉しい」ギューッ
京太郎「ちょ、ひっつきすぎ……」
ネリー「いいでしょー? 誰も見てないし、いまは独り占めだし」スリスリ
京太郎「っっ……」
京太郎(い、いかん……ネリーの外見に騙されてたけど、やっぱり女子だ……なんか柔らかいっ……)
ネリー「京太郎ぉ……」スリッ
京太郎(ほあぁぁぁっ……すげぇ、いい匂いがぁ……)
ネリー「京太郎……京太郎は、おっきい子が好きなんだよね?」チラッ
京太郎「お、おっきいって、なな、なにが……?」
ネリー「おっぱい」
京太郎「ぶっっ……お、おもちと言いなさい! はしたない!」
ネリー「どっちでもいいよっ、じゃあおもち! おもちおっきいのが好きなんでしょっ?」
京太郎「そ、そうとは限らないっていうか……その子自身の魅力こそが大事っていうか、なぁ?」
ネリー「模範解答はいいから! おっきいのが好きか、ちっちゃいのが好きか、答えてよ!」ドン!
京太郎「お、おっきいのですっ、ごめんなさい!」
ネリー「だよね……」シュン
京太郎「……いや、その……けど、本当にな? それは単なる嗜好の一つで、大きくても小さくても関係なくてだな――」
ネリー「じゃあ、おっきいネリーとちっちゃいネリーだったら、どっちがいい?」
京太郎(そうきたかぁ!)
京太郎「……の、ネリーがいい」
ネリー「え?」
京太郎「いまのネリーがいい。俺の知ってるネリーは、その……おもちの小さい、だけどかわいい、そんなネリーだからな」
京太郎「知らないネリーより、俺の目の前にいるネリーのほうが、断然好きだ」
ネリー「」
ネリ「きょ……」
ネリー「きょうたろぉぉぉ~~~~~~~~~~~っっっ!!!」ブワァッ
京太郎「ネ、ネリー!?」
ネリー「うぅぅっ、嬉しいぃぃっっ! ありがと、京太郎ぉっっ……」ダキッ
京太郎「……当たり前のことだろ、そんなの」
ネリー「それでもっ……ちゃんと聞かないと、不安だよぉっ……」
ネリー「ねぇ、もう一回言って……」ウルッ
京太郎「ああ――」
京太郎「目の前にいる、ここにいるいまのネリーが好きだ」ボソッ ギューッ
ネリー「~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!」ビクンッビクンッ
ネリー「はふぅ……」クタァッ
京太郎「ん……お、おい、ちょっと! ネリー、大丈夫かっ?」
ネリー「はぁ、ふぅぅ……ら、らい、ひょうぶぅ……」トローン
京太郎「大丈夫じゃねえ!」
ネリー「きょうたろぉぉぉ……」スリッ、スリッ……ガクッ
京太郎「落ちた!? ネリー、しっかりしろ!」
ネリー「あへへへへぇぇ……」グター
京太郎「――ネリー、好きだ。愛してるぞ」
ネリー「ネリーも、京太郎のこと好きっ……大好きっ……」ギューッ
京太郎「ネリー」ジー
ネリー「っ……う、うん……」スッ
京太郎「んっ……」
ネリー「んちゅっ……ちゅっ、ちゅぅ……」
ネリー(やったよおおおおおおお、大勝利いいいいいいいいいい!)
京太郎「……二人きりだよな、いま」
ネリー「そうだよ、京太郎……」スルッ
京太郎「ネリーがほしい。いいか?」
ネリー「うん、もちろん……そのために、来てもらったんだもん」ギシィッ
京太郎「ありがとう――優しくするから」ギィッ
ネリー「ん、きて……京太郎――」
京太郎「……いっ……ネリー、しっかりっ……」
ネリー「んへぇぇ……きて、京太郎ぉ……」
京太郎「お! 起きたか、ネリー!」ガシッ
ネリー「ふぇっ!?」ビクンッ
ネリー「あ、あれ……ネリー、服着てる?」
京太郎「当たり前だ! まぁ、介抱するために、ちょっと緩めはしたけどな」
ネリー「あ、ほんとだ……」ハダケー
京太郎「開くな! っつかビックリしたぞ、いきなり倒れるんだから……もしかして、体調悪かったのか?」
ネリー「ううん、そんなこと――って、それじゃさっきのは!?」
京太郎「さっきの?」
ネリー「ネリーがほしいっていうやつ!」
京太郎「!? 言ってねぇよ!」
ネリー「なんで!?」
京太郎「知らんわ! っつーか夢だろ、夢! どんな夢だよ!」
ネリー「う……うううわあああああああ! ひどいよっ、夢オチなんてサイテー!」
京太郎「おちっ……落ち着け、ネリー!」
ネリー「大勝利だと思ったのにいいいいいいいい! ええええええええええええん!」
~落ち着いたネリー
ネリー「夢の中のことだけど、責任は取ってよね!」
京太郎「残念ながら、日本にそんな法律はないんだ……」
ネリー「うぅ……」
京太郎「どんな夢だったかは知らないけど、安心しろ……俺はそんな、ネリーが悲しくなるようなことはしないから、な?」ナデナデ
ネリー「ぐすっ、いましてるよぉ……」
京太郎「す、すまん」パッ
ネリー「そっちじゃないの! 頭は撫でていいの!」
京太郎「そうか……よしよし」ナデナデ
ネリー「ふぅ、はぁ……まぁでも、それならそれで、いまから現実にしちゃえばいいんだよね」
京太郎「うん?」
ネリー「京太郎……まだ時間、あるよね?」
京太郎「……えーっと、だな……」チラッ
ネリー「ん? えっ、お外暗い!?」
京太郎「かなり長い時間、倒れてたからな……だからこそ、心配したんだけど」
ネリー「もうこんな時間!? そんなぁ……」
京太郎「悪かったな、せっかく部屋まで上げてもらったのに、ロクに話もできなくて……」
ネリー「ううん、京太郎のせいじゃないよ……」
ネリー(次こそは……次のチャンスは、絶対にっっ……すごいことする!)
京太郎「で、だ――そろそろ夕食だと思うんだけど、どうする?」
ネリー「あ……そうだっ、ステーキ!」
京太郎「ステーキ?」
ネリー「ふっふっふ、知らない? 敵を食うっていう言葉にひっかけて、勝負事の前にはステーキを食べるんだよ、日本人は」
京太郎「あー……ステーキととんかつ、みたいなやつね」
ネリー「それでねっ、今日はみんなでステーキなんだ! 目の前でお肉焼いてくれるの!」
京太郎「ああ、なるほど。そういえばホテルのレストランにあったな、それ」
ネリー「えへへー、楽しみ――はっ!」
京太郎「それじゃ残念だけど、今日はこの辺で――」
ネリー「――と、思ってたけど待って!」ガシッ
京太郎「うおっ!? ど、どうした、ネリー? そんな必死にしがみついて――」
ネリー「えっと、えっとね!」
ネリー「京太郎のご飯が食べたい!」
京太郎「……いいのか?」
ネリー「ステーキは決勝でもあるから……準決勝は、京太郎のご飯にしたい!」
京太郎「そっか……よし、わかった! なら場所を変えよう、厨房かキッチン借りないとな……それと、ネリーは監督か部長さんかに連絡しとくようにな」
ネリー「うん!」
『――で、京太郎のご飯食べてきます。うらやましいでしょー ネリー』
監督「ギルティ」
明華「異議なし」
ハオ「少し監視を厳しくしましょう」
~ホテルの外
ネリー「連絡してきたー!」
京太郎「お疲れさん。それじゃ行くか、買い物もしたいしな」
ネリー「えへへ、楽しみ」
京太郎「それじゃ、ステーキを食べ損ねたわけだし、こっちは勝ちと引っ掛けてカツにするか」
ネリー「うん! カツ! 衣もついてるし、ちょうどいいね!」
京太郎「あ……しまった、そうか……」
ネリー「そんなに応援してくれてるなんて、嬉しい!」ギューッ
京太郎「ま、まぁな……(震え声)」
京太郎(申し訳ありません、衣様……衣おねーちゃん)
ネリー「じゃあ豚さんだね、トンカツ!」
京太郎「牛じゃなくていいのか?」
ネリー「それは決勝用♪ あ、鶏さんでもいいけどね」
京太郎「……ネリー、日本のご飯に詳しくなったなぁ」
ネリー「京太郎のおかげだよっ」
京太郎「じゃあ、店でいいやつがあったら、その肉にしよう」
ネリー「はーい」
京太郎「野菜もつけるから、しっかり食べるんだぞ?」
ネリー「はーい!」
~お店
京太郎「よし、どっちも揚げよう」
ネリー「ダブル!?」
京太郎「甲乙つけがたいからな……あとは付け合わせ用にキャベツと、パプリカ、ズッキーニ、タマネギ……スープの材料は――」
ネリー「ふふっ♪」ダキッ
京太郎「っと……どうした?」
ネリー「あれだよね、シンコンさんみたいだよねー」ギューッ
京太郎「……そう言われると、ちょっと照れるな」
ネリー「照れることないよ、えーっと……あ、あなたっ?」
京太郎「」
ネリー「日本では、ダンナさんのことこう言うんだよねっ」
京太郎「破壊力ばつ牛ン」
ネリー「え」
京太郎「い、いや、なんでもない……」
ネリー「むーっ……なんかおかしかったかなぁ?」
京太郎「そういうわけじゃなくて――」
京太郎「もっと言ってくれ」キリッ
ネリー「ん、いいよー。あなた♪」
京太郎(やばい、しにそう)
京太郎「ネリーは嫌いなものなかったよな?」
ネリー「うん、なんでも食べるよー、あなた♪」
京太郎「じゃあナスとトマトだな。取ってきてくれるか」
ネリー「はーい、あなた!」
京太郎(こ、これはやばい……クセになりそう……)
「り、臨海のネリーだ……」
「あっちは派遣執事……あれ、あいついま有珠山じゃ?」
「夫婦で敵対するとは、なんたる運命の悪戯……」
「争ったあとの夜って燃えるらしいし、それでしょ」
「マジ夫婦なの?」
「ご、ごっこ遊びやろ(震え声)」
「どっちにしてもうらやましすぎてしぬからもげろ」
「ああああああああああ! ネリーそこかわれえええええええ!」
京太郎「……うん、目立ちすぎてもよくないし、この辺にしとくかな」
ネリー「お待たせ、あなたー」
京太郎「そ、その辺にしといて、そろそろいこうぜ」
ネリー「うん? わかったー」
京太郎「ふぅ……」
ネリー「お部屋でならいいんだよね、あなた♪」
京太郎「」
京太郎「――って、しにかけてる場合じゃない! とにかく買って帰るぞ」
ネリー「はーい。それで、どこにするの?」
~ホテル厨房
京太郎「すいません、忙しい時間帯に……」
「いやいや、大丈夫。もうピークは過ぎてるからね」
京太郎「ありがとうございます……では、端のほうをお借りします」
ネリー「ネリーも手伝うよっ」
京太郎「ああ、頼む。それじゃここに卵を割って、溶いてくれるか?」
ネリー「はーい」
京太郎「溶けたら確認するから言ってくれ。あとの仕事は、またそのときに言うから」
ネリー「了解っ」カシャカシャ
京太郎「さて、こっちは肉の下処理をして、サラダとスープの準備から――」
京太郎「よし――それじゃネリー、小麦粉をこっちに、パン粉をこっちに広げてくれ」ジャー ジュー
ネリー「はーい」
京太郎「……こっちはあとは冷やすだけだな。キャベツもよし……メインにかかるぞ」
京太郎「肉に小麦粉、そして卵をくぐらせて、パン粉――」
ネリー「わくわく」
京太郎「揚げるぞ――」ジュワー パチパチパチッ
ネリー「…………」ジュルリ
(うぅむ、惚れ惚れするような手際……)
(やっぱり就職してくんないかなぁ……)
(あれで高校生とかマジかよ……)
京太郎「完成――チキンとポークのカツレツ、キャベツのマスタードマリネ、夏野菜ソテーの冷製前菜、コンソメジュレ、そら豆のスープ」
ネリー「お、おいしそう……」ジュルッ
京太郎「ここで――食べるってわけにもいかないか。冷める前に、部屋まで運ぼう」
ネリー「うん!」
「いやいや、時間がもったいないだろう? 一席あけておいたから、そこでいただきなさい」
京太郎「…………えっ」
ネリー「いいのっ?」
「ああ。須賀くんには世話になってるしね、お礼だよ」
ネリー「ありがとう! やったね、京太郎!」
京太郎「え、えーっと、その……できれば、部屋でゆっくりと――」
「さぁさぁ、運ぶのは任せて。二人は席へ」
ネリー「はーい」
京太郎「あ、あの、ですから話を――」
~テーブル
ネリー「おいしい!」
京太郎「う、うん、そうだな」
由暉子「………………」ジー
成香「………………」ジー
揺杏「………………」ジー
京太郎(ほらやっぱりいるし! 時間かぶったし! だから部屋で食べたかったんだよおおおお!)
ネリー「どうしたの、京太郎?」
京太郎「な、なんでもないぞ、うん……あー、うまいなー。いい油使わせてもらったしなー」
ネリー「ねー♪」
京太郎(……仕方ない。あとでお怒りは受けるとして、いまは食事を楽しもう)
ネリー「京太郎ー、あーん」
京太郎「……あ、あーん」モグッ
ネリー「おいしいねー」
京太郎「そ、そうだな!」
ネリー「…………ふふっ」チラッ
由暉子(こっちをっ……)
成香(煽ってますね……)
揺杏(……絶対勝つ、明日は絶対勝つ)
ネリー「ネリーにもちょうだーい、あーん♪」
京太郎「――――――」
京太郎「ん……ほい、あーん」
ネリー「んー! おいしいっ!」
京太郎「ネリーのために作ったからな」
ネリー「えへへー、嬉しいなぁ……ステーキ諦めてよかったよ!」
京太郎「そう言ってもらえると、こっちも嬉しいぞ」
ネリー「ねぇ、また作ってくれる……?」
京太郎「ああ、もちろん」
ネリー「やった! じゃあ個人でも優勝したら、祝勝会で作ってね! 二人っきりで!」
京太郎「……個人でも?」
ネリー「団体はもちろんだからねっ」フフンッ
京太郎「はっはっは、言ってくれるな、ネリー」
ネリー「えへへー、言っちゃうよー」
有珠山勢「………………………………………………」
~臨海ホテル前
京太郎「それじゃあ――今日は楽しかったよ。おやすみ、ネリー」
ネリー「うん、おやすみ! ぐっすり寝られそう……明日のネリーは、万全だよ」
京太郎「望むところだよ……ところでネリー?」
ネリー「んー?」
京太郎「ロビーのところに、鬼の形相した三人がいるんだけど」
ネリー「……だ、大丈夫だよ。淑女協定で、文句とかは言えないし妨害もできないはずだから」
京太郎「よくわからんが……まぁ問題ないならそれでいいか」
ネリー「心配してくれてありがとっ」
京太郎「ああ……じゃあ、また明日」
ネリー「またね、京太郎!」
サンディ「楽しかった?」
ネリー「さいっこうだったよ!」
明華「詳しく話しなさい」
ハオ「今日は寝かせませんから」
ネリー「えっ……あの、明日は準決勝――」
サンディ「知ったことかぁ!」
ネリー「監督だよね!?」
明華「負けられない戦いが、ここにはあるっ……」
ネリー「明日にもあるよ!」
ハオ「いいから情報共有です! それが一番大事!」
由暉子「京太郎……」
成香「明日、見ていてください……」
揺杏「絶対に勝つっ、なにがなんでも勝つっ……できれば臨海に勝つっ……」
京太郎「……俺の部屋で寝ないで、とは言えないか」ハァ
~木曜終了です! くぅ~w疲れましたw
~二年目8月第一週金曜、朝
~の、前に
京太郎「やべぇ」
京太郎「爽さんと誠子先輩のプレゼント、放置してた……」
京太郎「うーん……」
京太郎「持っていくしかないな、これは……」
~誠子の部屋
京太郎「――ここが誠子先輩の部屋?」
「は、はい、そうです!」
京太郎「ありがとう、助かったよ」
「いえっ、お役に立ててよかったです!」
京太郎「なにかあったら言ってくれよ。このお礼に、できる限りのことはするから」
「やったぜ。」
京太郎「ん?」
「いえ、なんでもありませんよ? では、がんばってくださいね! 失礼します!」
京太郎「白糸台の新入生もいいなぁ……っと、そんなことを言ってる場合じゃない」
京太郎「まずは起きていらっしゃるか、確認だな」
京太郎「警察だ!」ガチャッ
京太郎「って、なんで開いてんだよ!」
京太郎「すいません、開くとは思わなくて――あれ?」
誠子(スヤァ)
尭深(スヤァ)
京太郎「まだおやすみ中、そして部長と副部長の相部屋か……あ、失礼します」
京太郎「さて、ごく自然に入ってしまったけど、どうしたもんかな……」
京太郎「枕元にプレゼントをそっと……いやいや、時期が違う」
京太郎「とりあえずお茶の用意をして、起きていただいてから、ということになるんだけど――」
誠子「ん……あれ、なんかいいにお――」
京太郎「あ、おはようございます。よい朝ですね」ニコッ
誠子「……なんだ夢か」
京太郎「どっこい、現実です……(震え声)」
誠子「あのさぁ……」
京太郎「す、すいませんっ、なぜか鍵が開いててっ!」アセッ
誠子「だからって勝手に入るのはだめでしょ、常識的に考えてさ」
京太郎「おっしゃる通りです」
誠子「京太郎くんじゃなかったら、普通に通報案件だからね……今度から注意してよ」
京太郎(俺でも通報案件だと思うんですけど(名推理))
誠子「してほしいの?」ニッコリ
京太郎「すいませんでしたぁっ!」ドゲザッ
誠子「――で、なんの用?」
京太郎「いえ、その……遅くなってしまって恐縮なんですが、こちらを……」
誠子「?」
京太郎「えーっと……」
京太郎「誕生日、おめでとうございます」
誠子「え……あ、ありがとう……えっ?」
京太郎「すいませんっ、一昨日お渡しする予定だったんですが、なんやかんやあれやこれやで――」
誠子「いや、そうじゃなくて……私に?」
京太郎「もちろんです!」
誠子「……なんで?」
京太郎「なんでって……いつもお世話になっていますし、こうした機会でもないとお礼ができませんし――」
誠子「あ、ああ、なるほどね、そういう――」
京太郎「それに――」
京太郎「大事な人の誕生日ですからね」
誠子「――の割には忘れてたみたいだけど」
京太郎「」
誠子「あははっ、冗談だって。ま、ありがと。ありがたく頂戴しとくよ」
京太郎「お、お納めください……」
誠子「うん――あれ、結構軽い」
京太郎「あー、ちょっと包みは大きくなりましたね」
誠子「開けるのが怖いな……開けてみていい?」
京太郎「ええ、ぜひ」
誠子「それじゃ……」ガサガサ
誠子「っっ! これは……」
京太郎「すいません、時期的には外れてるかと思うんですけど、釣りがご趣味だと聞いていましたから」
京太郎「いまはお忙しいと思いますけど、冬場――えーっと……その、受験の合間にでも、気分転換されるとき……使っていただけると……」ゴニョゴニョ
誠子「…………ねぇ、知ってたの?」
京太郎「はい?」
誠子「ああ、いや……うん、そうだよね。さすがに知るわけないか」ハハッ
京太郎「なにかあったんですか?」
誠子「こないだ、大会用の荷造りしてたらさ、釣りのジャケット引っ掛けちゃって……代わり買うのもなーって、ちょっとショックだったんだよね」
京太郎「あ、そっか! 冷静に考えれば、持ってらっしゃって当然でしたね……」
誠子「まぁいいじゃない、結果オーライってことで」
京太郎「いやほんと、タイミング合ってよかったですよ」
誠子「おー、なんかカッコイイね。ありがと、これは破いちゃわないよう、気をつけるよ」
京太郎「お気に召してよかったです。では俺は、これで――」
誠子「尭深がまだ寝てるんだけど、そろそろ起こしたいし、挨拶していったら?」
京太郎「別件がありますので、すいません」
誠子「そっかぁ……ま、仕方ないね。今日は準決勝なわけだし」
京太郎「――あ、ええ、はい。そうなんです(それとは違いますけど)」
誠子「それじゃ、今日はありがとう。これのおかげで、こっちも頑張れそう」
京太郎「よかったです――では、決勝でお会いしましょう」
尭深「うーん……」ムニャムニャ
誠子「おはよ」
尭深「ん……もう、朝かぁ……」フワァ
誠子「よくいうよ、ずっと起きてたのに」
尭深「あ、バレてたんだ」
誠子「そりゃね……」
尭深「京太郎くんは全然気づいてなかったけどね」
誠子「気づかないフリじゃないかな」
尭深「うーん、そっかぁ……だからかなぁ、すごいシーンがなかったのは」
誠子「趣味悪いよ」
尭深「誠子の対応も、ロマンチックじゃなかったし……」
誠子「注文多いよ……いいから、はい! 早く起きる! 準決勝なんだから!」
尭深「一日ずらす設定でもいいのにねぇ」
誠子「二週間目使えないから、日数増やすわけにいかないの。はい、起きた起きた!」
尭深「はいはい」
誠子「ほら、尭深の分のお茶。緑茶だって」
尭深「……あ、ほんとに気づいてたみたい、起きてたの」
誠子「なんで?」
尭深「ちょうど飲みごろだよ、温度」
~爽編
京太郎「さて困った」
由暉子「どうかしましたか?」
京太郎「あ、起きてたのか」
由暉子「はい。シャワーもお借りしました」
京太郎「先輩方はまだ寝てるのに……」
由暉子「もう少しして起きなかったら起こしましょう。それで、なにかあったんですか?」
京太郎「実はこれなんだが……」
由暉子「箱ですね。それもアクセ……はっ、もしかして私に――」
京太郎「爽さんの誕生日プレゼントなんだけど、かなり過ぎちゃってるだろ? どうしたもんかと――」
由暉子「来年送りましょう。今日は試合に集中するということで」
京太郎「ひどすぎィ! それならせめて、試合のあととかあるじゃん!」
由暉子「祝勝会の予定がありますし」
京太郎「そっちは大丈夫だ。手間のかかる材料の下拵えは済んでるから、いつでも料理にかかれるぜ」フッフッフ
由暉子「そ、そうですか」
京太郎(あれ、引かれてる?)
由暉子「冗談です。ありがとうございます……頑張りますから」
京太郎「ああ、頑張ろう――で、爽さんのことなんだけど」
由暉子「もう諦めましょう」
京太郎「諦めねーよ!」
揺杏「ん……んん……? なんだぁ、うっさいよぉ……ふあぁ……」
成香「あぅ……なんですかぁ、寝坊……?」
由暉子「ゆゆ式事態です。京太郎が爽先輩に誕生日プレゼントを贈りたいと」
揺杏「もうすぎてんじゃん、来年でいいっしょ」
成香「チカちゃんに渡しとこうよ。あとで呼んでおくから」
京太郎「揃いも揃って!」
~爽たちホテル、ロビー
京太郎「――泊まってるホテルは、なんとか聞きだせた」
京太郎「けど、まだちょっと早いしなぁ……起きてるかどうか」
??「ん、あれ?」
晴絵「京ちゃんおっはー♪ なになに、私に会いに来たわけ?」バチコーン
京太郎「わずらわし……」ハァ
晴絵「灼の真似やめて!」
京太郎「あとおっはーも古すぎですよ……何年前だと思ってんですか、それ」
晴絵「咲の連載開始より遥か昔よね、たぶん」
京太郎「って、ンなことはどうでもいいんですよ! ちょうどよかった、晴絵先生、爽さんの部屋知ってます?」
晴絵「夜這い……朝這い?」
京太郎「どうしてもお渡ししたいものがあって、馳せ参じたわけです」
晴絵「え、それ言っちゃっていいの? 私、方々に言って回るけど」
京太郎「回るなや! っていうか、先生がそういうことしない人だって、信頼してるから言ったんですよ」
晴絵「……小憎らしいこと言うわねー」
京太郎「で、爽さんの部屋って――」
晴絵「知ってるわよ」
京太郎「教えてください!」
晴絵「うーん……起こしてくるのと、起こしに行くの、どっちにする?」
京太郎「来てもらうわけにいかないですよ。行きましょう」
晴絵「だよねぇ。じゃあはい、これ」
京太郎「これは?」
晴絵「鍵」
京太郎「」
晴絵「んじゃ、がんばってねー」ヒラヒラ
京太郎「教育者ァ!」
晴絵「いやー、かわいい教え子たちの部屋だったら、さすがに渡さないわよ? けどほら、爽は違うし」
京太郎「俺がなんかしたら、先生も幇助を問われますけど……」
晴絵「信頼には信頼で応えるのよ、私は」キリッ
京太郎「面白がってるだけでしょーが、あんた……まぁいいか。それじゃ、行ってきます」
晴絵「あ、そこ私と相部屋だから。私のベッドと荷物、荒らさないでよねー?」
京太郎「1ミクロンも興味ないので、大丈夫です」
晴絵「」ハルーン
~爽晴絵部屋
京太郎「失礼しまーす、おはようございまーす」ガチャリコ
爽(スヤァ)
京太郎「はい、朝ございます。でも爽さん、グッスリおやすみですねぇ」
京太郎「まぁ先生が起きて、外出ても気づかなかったわけだしな……」チラッ
爽「zzzzz」
京太郎「……外見だけは、文句なしに美少女だなぁ、この人」
爽「…………」ピクッ
京太郎「内面も、時々ならかわいいんだけどなぁ……」
爽「…………」ピクピクッ
京太郎「…………」
京太郎「――写真撮っとくか」
爽「――――」ビクッ
京太郎「寝顔かわいいし」
爽「ぅ……ぐっ……」ムニャムニャ
京太郎「でも勝手に撮るのもなぁ……」
爽「……っっ……っ……」コクコクッ
京太郎「ってことで、10秒以内に起きなきゃ撮ることにしよう」
爽「!?」
京太郎「じゅうきゅうはちななろくごよんさん――」
爽「はやっ!?」
京太郎「おはようございます、爽さん」
爽「…………あれ?」
京太郎「どうかなさいましたか?」
爽「いや、どうかしてるっちゃしてるよ……京太郎が部屋にいるわけだし」
京太郎「同室の方から、部屋の鍵を渡されまして」
爽「っていうかカメラは?」
京太郎「スマホのしかないですし、スマホは部屋に置いてきました」
爽「あーあ、パス開かれて、フォルダ全部チェックされてんぞ」
京太郎「ははは、由暉子や先輩たちがそんなことするわけないじゃないですか」
爽「揺杏もいるけど?」
京太郎「…………ま、まぁパスがわかんないでしょうから、多少はね?」
爽「まぁいいけど……っていうか、いつから気づいてたの?」
京太郎「晴絵先生が鍵をくれたときからです」
爽「――――時々さぁ……いや、いつもかな。京ちゃんのこと、すげー怖いと思うんだけど」
京太郎「俺は躊躇なく自分をトラップにできる、爽さんが怖いですよ」
爽「そう、そして京ちゃんはハマってしまった」
京太郎「いや、ちゃんと見抜いてたでしょ」
爽「果たしてそうかな?」カチッ
『……外見だけは、文句なしに美少女だなぁ、この人』
『内面も、時々ならかわいいんだけどなぁ……』
『――写真撮っとくか』
『寝顔かわいいし』
京太郎「」
爽「あはは、照れんなー、こんなに褒められっと」
京太郎「う、迂闊だった……」
爽「色々なことに使わせてもらうから」ポンポン
京太郎「……人には聞かせないようにしてくださいよ」
爽「あれ、消せとか言わないんだ」
京太郎「俺の落ち度ですし、勝手に入っちゃいましたし」
京太郎「あと本音もありますし」
爽「」
京太郎「あとは――たぶん、聞かせた爽さんのが危ないかと」
爽「た、確かに……」
京太郎「ということで、ご利用は計画的に」
爽「ぐぬぬ……痛み分けってとこか」
京太郎「いや、痛さでいえば俺が大激痛ですよ」
爽「まぁしゃーないか。これは大事にしとくってことで」
京太郎「お願いします」
爽「で――なにしにきたのさ」
京太郎「っと、そうでした。これを忘れてたら、ほんとなにをしにきたのかってことになりますね」
京太郎「これが目的です」コトッ
爽「……んー? あれ、これって形状的に――」
京太郎「そうです」
爽「指輪!?」
京太郎「違います。こんな長細いケースに入れる指輪ってなんなんですか」
爽「ですよねー。で、なに?」
京太郎「遅くなりましたが、誕生日プレゼントです」
爽「え――あ、あー、あー! マジか、へー」
京太郎「なんか面白い反応しますね」
爽「んー? まぁ色々とね……まさかもらえるとは思ってなかったし、当日も、あーやっぱなー、みたいな感じだったし」
京太郎「い、一回戦でてんやわんやでしたから……」
爽「あ、別に責めてないから。ほうほう、中身は……あらかわいい」
京太郎「爽さんに似合うかと思いまして」
爽「お、そうかい? まぁあれだよね、私ってなんでも似合うとこがあるっていうか――」
京太郎「実際そうだと思いますけど」
爽「揺杏曰く、着せ替え甲斐がないそうだ」
京太郎「なんでも喜んで着ちゃうからじゃないですか?」
爽「な、なぜそれをっ……ってかそれ言いだしたらユキもだぞ」
京太郎「ああ、確かに」
爽「やっぱあれかー、ちっちゃくて一部だけおっきい子を着せ替えるのが楽しいのかー」
京太郎「理由はありそうですけどねー」
爽「たとえばどんな?」
京太郎「んー……揺杏さんとは付き合い長いんですよね?」
爽「まーなー」
京太郎「お互いの好きなものとか嫌いなものとかわかりますよね」
爽「そりゃーねぇ。まぁ気にしないで食べさせたり食べさせられたりするけど」
京太郎「……ならやっぱ、揺杏さんはちゃんと気にしてるんでしょ」
爽「ん?」
京太郎「爽さんが本気で嫌がりそうな服は、あえて外してるんじゃないですか? だから、結局は着て喜ぶものになっちゃって、甲斐がないわけです」
爽「あー、なるほどねー。由暉子とは違うか」
京太郎「……ちなみに、どんなのが嫌いなんですか?」
爽「……さぁ?」
京太郎「えぇ……自分のことでしょ」
爽「これと言って浮かばねーし、揺杏にも渡されたことないから、わかんねーの!」
京太郎「じゃあたとえば――」
京太郎「たとえば――メイド服とかは?」
爽「超余裕。いや、っていうか……真っ先にそれが出るのか……」
京太郎「いや、身近な衣装だからですって!」
爽「なんでメイド服が身近なんですかねぇ……って言いたいけど、京ちゃんの普段の服じゃしゃーないか」
京太郎「はい、もちろん。俺にとっての執事服が戦闘服であるのと同じように、メイドにとってはメイド服が戦闘服ですからね」
爽(あ、スイッチ入っちゃった)
京太郎「もちろん、他の職業にとってもそれぞれの制服はそうかもしれませんが、メイドというのはやはり、執事に並んで特別で――」ペラペラ
爽(長くなる……二度寝してぇ)zzzz
~10分後
京太郎「――とこのように、歴史的に見れば――」
爽「もういい、もうわかったから……」ゲッソリ
京太郎「え、大事なのはここからなんですけど」
爽「もういいから(迫真)」
京太郎「あ、はい……」ショボン
爽「要するに、私にメイド服着てもらいたいんだろ?」ニヤァ
京太郎「え? いえ、そんなつもりは毛頭――」
爽「あっはっは、照れなくていーっての。まぁメイド服はかわいいし、今度揺杏に頼んで作ってもらうからさ。楽しみにしてなー」
京太郎「はぁ、そうですか……じゃあ超ミニで頼んどきます」
爽「頼むのは私だから! っつかミニも好きなんじゃん……メイドでミニってどうなん?」
京太郎「本来の用途、職業として考えればなしですね。でも、そのためだけの衣装ではないなら、むしろそういった進化も――」
~ホテル帰還、朝食
京太郎「――ってな感じでした」
揺杏「どう思う?」
由暉子「今度私も着てみます」
成香「いま確認したけど、その通りだったって」
京太郎(えぇ……やだ怖い)
揺杏「はぁ、まったくさぁ……準決勝って大事な試合の前に、よその女とばっか遊んでるのはどうよ」
京太郎「あ、遊んでいたわけでは――いえ、言い訳はしません。ここから挽回しましょう!」
揺杏「ほいほい、よろしく」
成香「それじゃ、いつものだね」
由暉子「よろしくお願いします」アーン
京太郎「やだこれもー」
はやり「お楽しみのところ邪魔しちゃうぞ☆」
京太郎「!?」
揺杏「はやりん……だと……!?」
健夜「ごめんね、ちょっとお仕事だから」
成香「こ、小鍛治プロ……」
良子「待ってください。なぜ私がこちらに入れられているのですか」
晴絵「私もだし、仕方ないでしょ」
靖子(赤土さんの場合は残当なのでは)
由暉子「さ、さらに続々と……」
咏「まぁこれも定めだっつーてね……ほいほい、そんじゃカメラも回ってるし、各校の意気込みとかいうのをバシッとやっちゃおうか」
恒子「オッケーです!」
みさき「それでは、優勝候補の一角である白糸台のみなさんから――」
京太郎「ちょ――ちょっと、なんなんですか、これはっ……」
えり「連盟からの依頼ですね。一部の学校にのみインタビューをするのは、それ以外の学校のモチベーション低下につながるからと」
京太郎「……つまり、すべての学校を平等に取り上げるため、だと?」
佐藤裕子「そういうことになりますね。試合前の各校の様子、というのはお決まりのようなものですし」
京太郎「まぁ……された側のモチベ維持も考えると、平等が一番ですけど――あの、どなたですか?」
裕子「はじめまして、須賀京太郎くん。私は国吉と同期で、針生さんの二つ下になります、アナウンサーの佐藤裕子と申します」
良子「私のバディですね」
京太郎「あ、どうも……よろしくお願いします」
裕子「はい、こちらこそ」ニッコリ ボイーン
咲「敵だ」
優希「だじぇ」
久「やめなさいみっともない」
尭深「まったく遭遇しないので、この機会にぶっこんでみたと」
誠子「それ以上いけない」
憧「……そういや、ハルエにも相棒のアナウンサーっているのかしら」
灼「原作では出ないだろうし、作ったら完全オリキャラだね」
裕子「本当に、わかりやすい視線ですねぇ」ニッコリ
京太郎「!? し、しまった……いえ、じゃなくて、違うんです!」
裕子「いえいえ、慣れていますし、お気になさらず。もっと露骨でも大丈夫ですから」
京太郎「マジですか!」クワッ
良子「いいわけないでしょう?」ニッコリ
京太郎「」スマセン
良子「佐藤アナも、純情な高校生をたぶらかさないように」
みさき「……裕子、焦りすぎ」
恒子「まだそんな年齢じゃないですよねー」
えり「……私へのあてつけかなにかですか?」
理沙「サツバツ!」
はやり「はやー、なにかすっごいことになってきてるんだけど☆」
健夜「あっちは良子ちゃんに任せて、こっちは仕事だよ」
咏「ってなわけで、次は有珠山のみんなに聞いてみっか~」
由暉子「絶対に許しません」
成香「訴訟も辞さない」
揺杏「負けたらあーん邪魔されたせいにしてやるからな」
靖子「……意気込みは十分のようです」
晴絵「こらこらこら、それで流していい内容じゃなかったろ」
靖子「こっちは穏便に終わらせたいんですよ、なんだってこんな火薬庫みたいなとこに……」
咏「おいおい~、真面目にやってる高校生たちに失礼だろ~?」
はやり「は~い、ありがとうございましたっ☆」
健夜「まぁどんなメンタルでも勝つのが、本当に強いチームですね。みなさんの地力の強さに期待します」
京太郎「なんか順調にインタビュー進んでるし……これ、本当によそもやってるんですか?」
みさき「ええ、もちろん」
えり「他のホテルは、他のプロたちやアナウンサーが担当ですから」
良子「さて、それではここにきた本命ですね」
裕子「おっと、そうでした……では須賀くん?」
京太郎「は、はいっ」
恒子「ズバリ、優勝候補を聞いてみましょうか!」
京太郎「――――え」
京太郎「もちろん有珠山です――から、それ以外でってことですよね?」
恒子「だねぇ」
京太郎「それだと……メンバーが多少入れ替われど、安定した層を維持できる臨海でしょうか」
みさき「なるほど。つまり、今日の準決勝でこちらのブロックからは、有珠山と臨海が勝ち上がると」
京太郎「その二校が決勝に上がるなら、ということですよ。詳しくは言えませんが、こちらの作戦次第では、どこが落ちるかまだわかりませんし」
良子「――安心しました。厳しい試合になるとは十分予想できますが、諦める気は毛頭ないようですね」
京太郎「当然ですよ。そんな学校は一校たりとも、東京まで来ていないでしょう」
えり「ええ、その通りですね」
裕子「さすが派遣執事、いいこと言いますね」
咏「目線さえそこじゃなきゃなー」
理沙「カメラ見て!」
健夜「ひ、人の目を見て話すよう、心がけてるんじゃないかな」
はやり「裕子ちゃんの目がおもちにあるなんて、初耳だぞ☆」
靖子「なんですか、そのクリーチャー」
晴絵「っていうか、このインタビューが一番、モチベに影響すんじゃないの。大丈夫かな、あの子ら……」
憧「…………なによ」
灼「それだけ京太郎が、宥さんを評価してたってことでしょ。気にしない」
宥「だ、大丈夫だよ~、みんなだったら……」
穏乃「あったりまえですよ! ちゃんと勝って、京太郎のこと見返してやりましょう!」
玄「どこが落ちるかわからないって言ってるし、うちと有珠山がってパターンも考えてるみたいだしねっ」
淡「臨海……決勝で会ったら、100回潰してやる!」
誠子「去年みたいにならないよう、集中しないとなぁ……」
尭深「私も……臨海だけじゃない、どこも本当に強いからね……」
京太郎(うぅ、言わされた感あるけど……言ってしまったものは仕方ない。これが大きく影響しませんように)
京太郎(……あと、生放送だけで、あまり見られてませんように。再放送とかありませんように)
最終更新:2026年01月19日 22:57