「……あれ?」
京太郎はいつもの様に部室に向かう。
そして扉を開けると、そこには咲が居た。
「あ、京ちゃん」
「おう」
珍しく今日は休みになり、他の皆は既に帰っている筈なのだが。
「暖房入れないのか? 凄ぇ寒ぃぞ?」
「うん。なんか故障してるみたいで……」
「つーか休みなのにどうして居るんだ?」
「ちょっと読みたいのがあって、さ」
「ホント咲って読書好きだよなー」
「それと雨宿りも兼ねてね」
そう言って、咲は大粒の雨が叩きつけられてる窓に目をやる。
「京ちゃんこそどうしたの? 休みなの知ってるでしょ?」
「んー……なんつーか牌を触りたくなった、みたいな?」
「ふふっ。何それ」
「馬鹿にしたな!これでもちょっとは上達してんだぞ!」
「そうなの?」
「信じてないだろ。ったく、いつか驚かせてやるからな!」
「そっか。頑張ってね」
「くっそぉ!素直に応援しやがってぇ!」
―――頁をめくる音と牌が卓を叩く音と雨音が不定期的に響く。
「……ねぇ、京ちゃん」
「んー?」
「お茶でも入れよっか?」
「お、気が利くねぇ―――よっしゃ、ツモ!4000オール!」
「それは3900オールだよ」
「何ですと!?」
「ちょっと待っててね」
「……はい。どーぞ」コトッ
「サンキュ…………ん、めっちゃ美味い」
「そ、そう?」
「それに凄ぇあったまるし。毎日煎れてもらいたいな」
「お、大袈裟だよ……もう……///」
そう言って定位置に戻る咲の耳が何故赤いのか、京太郎には分かる訳もなく。
再び、部屋は静かになる。
「…………」ペラッ
「…………」タンッ
「…………」
「…………」タンッ
「…………」ペラッ
「………っ……」
「…………咲? どした?」
「あ、ううん。何でもない」
……頭から爪先まで震えながら言われてもなぁ。
なんて考えながら、京太郎は無言で上着を咲の小さな肩に掛ける。
「え? きょ、京ちゃん?」
「良いから着てろって。俺は大丈夫だから」
「う、うん。ありがと…///」
一瞬で寒さが吹き飛んだ気がした。
顔が熱い。聞こえる筈の雨音が聞こえない。
ただ一つ聞こえるのは―――。
「よーし、カンだぁ!!」
咲は、ギュッと肩に掛かっている学ランを握り締めた。
京太郎には気付かれない様に。
「……あったかいなぁ……」
「しゃあ!嶺上開花―――って、今何か言ったか?」
……咲は微笑んだ。花が咲いた様な笑顔で。
「ううん。何でもない」
《おわり》
最終更新:2012年06月23日 11:03