京太郎「全国大会の会場ってホント広いよなー…」ウロウロ
三尋木「ん~あれー小鍛冶プロどこ行ったんだろ~?知らんけど~」ウロウロ
ドンッ!!
京太郎「いてっ…」
三尋木「いたた…~あー着物の裾が汚れちゃったよ~」ヒラヒラ
京太郎「あ…す、すいません…ちょっとよそ見してたもので…大丈夫ですか?(この人着物着てる…珍しいな…)」
三尋木「あははー私は大丈夫だよ~」
三尋木「それよりちょっと手を貸してくれないかなーちょっと腰がぬけちゃってうまくたてないんだよねい~」
京太郎「あ、すいません気がつかなくって…」
京太郎「いきますよ。せーのっ!」グッ
三尋木「よいしょ…ってあらっ…」ツルッ
京太郎「危ない!!」ギュッ
三尋木「……てあれ?痛くない?」
三尋木「あ…(この子がクッションになってくれたのか~なんか抱きしめられてるみたいで恥ずかしいなー)」
京太郎「だ、大丈夫ですか…?(や、やべー…今気付いたけどこの人…着物の下…何もつけてないから感触が…)」
三尋木「また助けられちゃったね~それよりどうしたの~?顔真っ赤にしちゃって~?もしかしておねいさんに興奮しちゃった?」ケラケラ
京太郎「し、してませんよ!」
三尋木「そーんなテンパった顔して言われても説得力ないぜ~?(この子可愛いな~ちょっとからかっちゃおうかなー)」ニヤニヤ
京太郎「!お、俺は本当にそんなつもりは…」アセアセ
三尋木「じゃあいつまで私に抱きついてるんだい~?」ニヤニヤ
京太郎「あっ!す、すいません!」バッ
三尋木「いやいや、気すんなよーむしろこっちはお礼を言う側なんだしね~」
三尋木「ん~それよりさあー君って彼女とかいる~?」
京太郎「いえ…いませんけど…」
三尋木「え~じゃあ今までいたことは~?」
京太郎「いや…今までそういったことには縁がなかったので…」
三尋木「へ~意外意外。君けっこう綺麗な顔立ちしてるのにね~」アハハ
京太郎「はあ…ありがとうございます」
三尋木「じゃあさ…そーゆー経験もないわけだ~?」ニヤニヤ
京太郎「…は?」
三尋木「だから~したことないんでしょ~?女の子とエッチなこととかさ~」ニヤニヤ
京太郎「なっ!//」
三尋木「あはは~ウブな反応だね~(まあ私も実はないんだけどねい~でも口のうまさなら負けないよ~)」
三尋木「んじゃあさ~さっきのお礼じゃないけど、私が教えてあげよっか~?」ニヤニヤ
京太郎「え!?そ、それはどういう…」
三尋木「だ・か・ら、おねいさんが経験のない君に特別にレクチャーしてあげよっか~?」ニヤニヤ
京太郎「………」
三尋木「ん~どうしたの~?急に黙っちゃってさー(もう十分からかえたね~ここら辺で引いて…)」
三尋木「あはは~じょうだ「いいんですか?」」
三尋木「へ?」
京太郎「だから…教えてもらってもいいですか…その…」
京太郎「あなたがしてきた経験ってのを…」
三尋木「あーえっと~その~(あ、あれ…わ、私やりすぎちゃった~?)」
京太郎「俺…ずっと共学だったんですけど全くそういう出会いはなくて…」
三尋木「え、えっと~あのねー?(そーいやお互いの名前もしらなかったなー)」
京太郎「だから…俺には全然魅力がないのかな、って思ったりして…」
三尋木「おーい…えっと…君~?(おいおい完全に自分語りに入っちゃったよー)」
京太郎「だから…大人の人にそういうことを教えてもらえれば俺に何が足りないのか分かるかもしれません!」
三尋木「おーい、おーい」
京太郎「初対面の人にお願いするようなことじゃないと分かってるんですけど…」
三尋木「ダメだね…聞こえてないねー…」
京太郎「お願いします、俺にどうか教えてください!」グッ
三尋木「あ…(手…握られちゃった…てか…これ、やばくね?)」
―会場の目立たない一角―
京太郎「ここなら…誰も来ませんね…」
三尋木「あ~…う、うん。そうだねい~」
三尋木「(小鍛冶プロを探してただけなのに…どうしてこうなったのかな~?)」
京太郎「じゃあ…お願いしてもいいですか?…あ、まだ名前を聞いてませんでしたね。俺は須賀京太郎といいます」
三尋木「あ~私は三尋木だよー三尋木咏~(勢いで連れて来られちゃったけど…困ったな~なんとかごまかして逃げられないかな~)」
京太郎「うたさん…ですか。珍しい名前ですね」
三尋木「あはは~よく言われるよー(昔はよく名前馬鹿にされてたからな~別にどうでもいいけどねー)」
京太郎「綺麗な…綺麗な名前ですね」
三尋木「へ?」
京太郎「だから…三尋木さんに似合ういい名前だなって思って」
京太郎「なんか和歌とかのうたと三尋木さんの雰囲気と着物とかいろいろマッチしてていい感じだなって」
三尋木「…」
京太郎「あ…すいません、俺馬鹿だからそんな単純な発想しかできなくて」
三尋木「…」
京太郎「…三尋木さん?」
三尋木「…あっ、えっ?何?(あ、あれ?私なんでこんなに動揺してるんだろ?私らしくないよ~?)」
京太郎「どうしたんですか?ぼーっとして…」
三尋木「なんでもないよ~気にしないでいいよー」
京太郎「えと…じゃあ恋人がするってことで…キスからお願いしていいですか?いきなりその…変なことはあれなんで…」
三尋木「お、おう。おねいさんに任しときな~(うっわー…何やってんだろ~私)」
京太郎「じゃあ、俺はどうすればいいですか?」
三尋木「う~ん…(こういうときどうすればいいか全然分かんねー)」
三尋木「…とりあえず…全然これじゃ届かないからしゃがんでくれるかい~?」
京太郎「はい!分かりました!」
三尋木「(う~ん困った…ホントに困ったな~自分から言い出した手前今更冗談とも言えないし~)」
三尋木「(この子には悪いけど…なんとかこっそり逃げられないかなー…)」
三尋木「…じゃあ、目をつぶってくれるかい~?」
京太郎「目を…ですか?」
三尋木「うんーそういうときは目をつぶるもんだよ~?(知らんけど)」
三尋木「絶対目開けちゃだめだかんね~?」
京太郎「は、はい。分かりました」グッ
三尋木「…(今のうちに…よし…ごめんねー須賀君~…)」
?「あっ!三尋木プロ!」
三尋木「!?」ビクッ
?「こんなとこで何やってるの?もう…探したんだから…」
三尋木「うわ…(なんてタイミングで現れるんだいー小鍛治プローていうか探してたの私のほうなんだけど~)」
京太郎「(なんだ…?まさか誰か来たのか!?…でも絶対目を開けちゃだめだって言われたし…)」
すこやん「…って何やってるんですか?こんなところで。三尋木プロ、この子は?どうして目をつぶってるんですか?」
三尋木「(あ~もうだめだこりゃ…いや、逆に人が来たってことでチャンスかな?)」
三尋木「須賀君~目開けていいよー」
京太郎「あ、はい。えーと…三尋木さん、この人は…」
三尋木「ああーこの人は小鍛治って人だよ~特技はアラフォー・ツモ、趣味は合コン日程調べ~」
すこやん「ちょっと!何吹き込んでるの?!」
三尋木「冗談だよ、冗談~」
すこやん「もう…こんな子にまで…(この子…すっごいイケメンだなあ…でも二人でこんなとこで何してたんだろ…)」
京太郎「あの…お二人は友達ですか?」
三尋木「ん~そんなとこかな~(よし、これに乗じて退散するよ~)」
すこやん「それより…お二人はこんなところで何をなさっていたんですか…?」
三尋木「え、え~と、ちょっとね~」
京太郎「(別に…言ってもいいよな?この人友達なんだし…)」
京太郎「ちょっと、この人に女性との関わり方を伝授してもらってたんです」
すこやん「え?!」
三尋木「(げ…)」
京太郎「小鍛治さんがもし来ないんでしたら…実は三尋木さんにその…キスを…教えてもらう予定でした」
すこやん「?!!それホント?!マジの大マジなの?ねえ!三尋木プロ?!」
三尋木「あ、あはは~そういえばそんなことも言ったっけな~(やべー小鍛治プロスイッチ入っちゃったよ~…)」
すこやん「(こ、こんなときに生のキスが見れるなんて…こんなチャンス、見逃せない!)」
すこやん「(なんでこんな状況になったのは分かんないけど…それは後で聞けばいいよね!今は自分のレベルアップのために最善を尽くす時だよ!!)」
すこやん「ごめんなさいっ!私邪魔しちゃって!どうぞ、続けて、続けてください!私、どっか行ってますから!」
すこやん「絶対覗いたりしませんから!ええ。絶対です!安心してください!むしろ見張っておきますから!」ダッ
京太郎「あっ…行っちゃったぞ…なんであんなにテンション上がってたんだろ?」
三尋木「さ、さあ~なんでだろねい~…(うわーこれマジすかー)」
京太郎「ちょっと横やりがはいりましたけど…続けて大丈夫ですか?三尋木さん」
三尋木「お、おー。そうだねー(やっぱりそうだよねーもう覚悟しちゃうか~?…)」
京太郎「……」
京太郎「あの…やっぱり…俺からキスしてもいいですか?」
三尋木「え?」
京太郎「いやその…そもそも俺に魅力がないのは、積極性が足りなくて、受身なところがあるから、ってのもあると思って…」
京太郎「だから、今回ので練習させていただければと、思いまして」
京太郎「あ、すいません、練習なんて言い方して…」
三尋木「いや~いいんだよ~言い出したのはこっちだし、君がやる気なら、こっちはレクチャーすることないしねい~」
三尋木「(…覚悟するかー無理だねこれはー…まあ自業自得だよねー…)」
京太郎「じゃ…目をつぶってもらえますか?」
三尋木「う…わ、分かったよ~(…自業自得で、ファーストキス喪失か~…私らしいのかもねー…)」
三尋木「(昔名前を馬鹿にされたときだって…おとなしくしてればいいのにわざわざそいつらと大喧嘩して自分も大けがしたっけ~…)」
三尋木「(麻雀の世界に入ってからも…私の言動を気に入らない人はたくさんいたし、それで私はたくさん損をしたこともあった
…)」
三尋木「(そんな私のキスなんて、こんなものでちょうどいいのかもねい~…)」
京太郎「(き、緊張するな…でも相手は慣れてるお姉さんだし、フォローしてくれるよな…ん?)」
京太郎「(あ、あれ…?三尋木さん、良く見ないと分からないけど、手が…震えてる…?なんでだ…?)」
京太郎「(まるで初めてキスするから緊張してる女の子みたいな…)」
京太郎「(……もしかして…)」
京太郎「…三尋木さん、ディープキスもしていいですか?俺、やってみたくて…」
三尋木「!」ビクッ
三尋木「い、いいよ~?好きなだけおねいさんで練習しなよ~」プルプル
京太郎「………」
京太郎「………三尋木さん、もういいですよ」ギュ
三尋木「………え?(私、抱きしめられてる?)」
京太郎「俺の練習に付き合っていただいてありがとうございました」
三尋木「え、え、どうしたんだい?」
京太郎「ですから、もう俺は十分練習になりました。じゃあこれで、もう俺は失礼させてもらいますね。本当にありがとうございました」
三尋木「ちょ、ちょっと待って、急にどうしたんだい?さっきまであんなにキスしたがってたよね?」
京太郎「…確かに俺は、自分に足りない何かを補いたくて、三尋木さんにレクチャーをお願いしました」
京太郎「でも…でも俺は他の人を傷つけてまでそんなことしたいと思いませんよ」
京太郎「三尋木さ…、本当はキスとか、そういう経験したことないんじゃないですか?」
三尋木「!!な、何いってるんだい?私は…」
京太郎「ふふ…さっきまでの軽い口調はどうしたんですか?」
三尋木「!!」カーッ
京太郎「それにほら…この手だって…」ギュ
三尋木「あ…(私の手を…握って…)」
京太郎「…まだこんなに震えてるじゃないですか…」
京太郎「すいませんでした、気が付けなくて。こんなんだから、俺は魅力がないんです」
京太郎「じゃあ…俺はこれで…」
三尋木「待って!…いや…待って、くれないかな…?」
京太郎「…まだ俺に用ですか?」
三尋木「!」ズキッ
三尋木「いや…あの…さっきはごめんね…その…からかったりして…」
京太郎「いいですよ、別に気にしてません。むしろこんなに可愛い女の人と話せたり、抱きしめたりできただけで俺は嬉しかった
ですよ」ニコッ
三尋木「…!」カアッ
三尋木「(あ、あれ私なんでこんなに動揺…してるんだろ…こんな気持ち…麻雀のタイトル戦のときでもなかった…)」
三尋木「(昔コンプレックスだった私の名前…綺麗って言ってくれて……)」
三尋木「(私がファーストキスだってこと…怖がってること…全部見抜いて…それで私に優しくしてくれた…)」
三尋木「(なんで…なんでこんなに胸がドキドキするんだろ…)」
三尋木「(あ、あれ…?もしかして、これって好きってやつなんじゃ…し、しらんけど…)」
京太郎「じゃあ、今度こそ、失礼します」スッ
三尋木「待って!」ギュッ
京太郎「え…三尋木、さん?」
三尋木「あ、ありがと。いろいろ私に気遣ってくれて…」
三尋木「これ…私の連絡先…何かあったら連絡してくれるかな?これでも私、有名な方だからさ。し、しらんけど」
三尋木「あと…これはお礼…」チュッ
京太郎「…え?(今…ほっぺにやわらかい感触が…)」
三尋木「じゃ、じゃあ、またあおうぜい」ダッ
京太郎「……」
京太郎「今、キスされたの、か?」ドキドキ
すこやん「すごかったー…さすがは三尋木プロ、私と違って経験豊富そうだもんなあ…//」ドキドキ
三尋木「…うわ~…は、恥ずかしいぜ…これは…」カーッ
三尋木「でも…また、須賀君と話せたらいいな~」
三尋木「ありがと…須賀君…」
―控室―
三尋木「ん~♪」
針生「あれ、どうしたんですか三尋木プロ。何かいいことでもありましたか?」
三尋木「いや~べっつに~?何もないけど~?♪」
針生「はあ…まあ、構いませんけど、もうすぐ一回戦の解説がありますから、それはしっかりやってくださいね」
三尋木「分かってるって~仕事は仕事でちゃんとやるぜ~」
針生「お願いしますよ、三尋木プロ。まあ、全国大会の解説ともなると、三尋木プロも緊張とかするんですか?」
三尋木「ん~緊張するのは選手の方じゃないのかい~?私たちはただスクリーンみておしゃべりするだけだぜい~」
針生「おしゃべりって…まあ間違ってはないですけど…」
三尋木「ん~♪」
針生「…まあその時に真剣になってくれれば私は何も言いませんよ…」
三尋木「そうだよ~細かいこと気にすんなって~」ケラケラ
針生「はあ…(どうしてこんな解説者と組むことになったんだろ…)」
―清澄控え室―
京太郎「」ポー
久「そろそろ一回戦が始まるわ。全国の初戦ね。気を引き締めていきましょう!」
和「はい。いつものことをいつも通りにやるだけです。ねえ、咲さん」
咲「うん。私、頑張るよ!(お姉ちゃんに会うために…絶対に負けない!)」
まこ「まあ、あんまり気負わずいったほうがええぞ」
優希「トップバッターは任せるじぇー!おい京太郎!タコスの準備、とっととするじぇー!」
京太郎「」ポー
優希「おい!何ぼーっとしてるんだじぇ!とうとう人間の言葉も分からなくなったかー?」
京太郎「」ポー
久「…須賀君?」
咲「そういえば京ちゃん、さっきからずっとこの調子だね…」
和「何かあったんでしょうか…」
優希「きょ、う、た、ろー!!」ドーン
京太郎「!?うわっ!」
京太郎「何すんだよ!優希!あぶねーだろ!」
優希「お前が人の話を聞かないからだじぇ!それとも私の話、聞いてたのかー?」
京太郎「う…すまん、ちょっと考え事しててな…で、なんだっけ?」
優希「今すぐ、タコスを半荘二回分用意するじぇ!大至急だぞ!」
京太郎「お、おう。そうだったな。すまんすまん。買いに行ってくるよ」アハハ
優希「頼んだぞー!走って行って来い!」
バタン
久「……」
咲「京ちゃん、いつもより何か浮足立ってるような…」
和「そうですね。でも今は大会に集中しましょう。須賀君のことは試合が終わってからでも大丈夫だと思います」
優希「んーまあ、犬にだって犬の事情があるかもしれないからなー」
まこ「そうじゃの、珍しく優希にしてはいいこといったのう」ニヤニヤ
優希「当然だじぇ!ご主人様は犬のことをなんでも知ってなきゃいけないからな!」
久「あはは…当然のように犬扱いなのね…まあいいわ。じゃあ一回戦の相手校のデータだけど…」
―控室外―
京太郎「はあ…この大事なときに…俺は何ぼーっとしてるんだ…」
京太郎「…」
京太郎「なんであの人、俺にキスしたんだろ…」
京太郎「…タコス買いに行くか…」
・
・
・
・
・
三尋木「ん~今日の対戦校はどこだっけ~」
針生「ちょっと三尋木プロ、もう忘れたんですか?昨日説明したじゃないですか」
三尋木「あはは~冗談だよ、冗談~」
三尋木(んー須賀君はこの辺にいたりするのかなー…)
・
・
・
・
・
京太郎「さて…一回戦も始まることだし、ちょっと急ぐか」ダッ
京太郎「ってあれ?あそこにいるのは三尋木さん?」
京太郎「…声かけてみるか」
京太郎「三尋木さーん!」
・
・
・
針生「…というわけです。一応もう一度説明しましたけど、大丈夫ですね?」
三尋木「だから大丈夫だって~」
針生「もう…ってあれ、あの人三尋木プロのこと呼んでませんか?」
三尋木「え?」
京太郎「三尋木さーん!」
三尋木「あ…」
三尋木(もう会えた…須賀君に…でも針生アナウンサーもいるし…また余計なことしゃべらないといいなー…私のせいなんだけど
ね~…)
三尋木「あ、あれー須賀君じゃん。どうしたのこんなところでー(平常心、平常心。)」
京太郎「ちょっと用事で外に出ようとしたときに見かけたんで…声かけてみようと思いまして」ニコッ
三尋木「お、おう~それは嬉しいねい~(うう…ガチで嬉しいなこりゃー…)」
針生「あれ、三尋木プロ。この子はどなたですか?ずいぶん若いようですけど…お知り合いですか?」
京太郎「あ、俺は須賀京太郎と言います。さっき三尋木さんとは知り合ったばかりで…」
三尋木「ま、まあいろいろあったんだよー(針生アナウンサーに知られるのはなんかやだなーここは先制ガードだよ)」
針生「そう。私は三尋木プロの相棒、とでもいうのかしら。この大会のアナウンサーを務めている針生えりよ。よろしくね」
京太郎「よろしくお願いします。…あれ?三尋木『プロ』?」
三尋木「あ~さっきは言わなかったけど、私、麻雀の女子プロなんだー」
針生「そんな大事なこと言ってなかったんですか?」
三尋木「さっきはちょっと急いでたからねー(なんでかは言わんけどー)」
京太郎「じょ、女子プロ…そう言えば、さっきの名刺にも…」
京太郎「あ、書いてる。麻雀女流プロ 三尋木咏って」
三尋木「ん~びっくりしたー?ただのフラフラしてるおねいさんだと思ってた~?」ニヤニヤ
京太郎「……」プルプル
三尋木「ど、どうしたのかなー?須賀君?」
京太郎「お…」
三尋木「お?」
京太郎「教えてくださいっ!!」ギュッ
三尋木「お、おう!?(また…手握られちゃったぜー…須賀君の手、温かいな…)」
三尋木「って、教えてくださいって今度は何をだい?」
針生「あの…いろいろと話が見えないんですが…」
三尋木「!いや、なんでもないんだって!それより須賀君、何を教えてほしいのかな~?(そんなに強く握らないでほしいな~…//)」
京太郎「もちろん麻雀です!」
三尋木「ま、麻雀かい?」
京太郎「はい!俺、麻雀始めたばっかりなんですけど、すっげー弱くて…」
京太郎「あ、いろいろと話を飛ばしすぎてますね。俺清澄高校、男子麻雀部一年須賀京太郎です」
針生「清澄と言えば…私たちの解説担当と逆のブロックの高校ですね」
三尋木「あ~すこやんたちのいる方ね~」
京太郎「はい。それで、俺はその雑用として長野から来てるんですけど…」
京太郎「俺、頑張ってるつもりなんですけど、全然麻雀うまくならなくて…」
京太郎「だから、よければ麻雀を俺に教えていただけませんか?ちょっとしたコツとかでいいので…」
三尋木(清澄、高校か~…じゃあ周りは女の子ばっかりなんだねい……)
三尋木(ここで…断ったら…もう接点持てないかも…連絡だっていつくるか分かんないしー…)
三尋木(いやー自分で連絡すればよくね?まあ、今はどうでもいいかー)
三尋木「いいよー」
京太郎「本当ですか!?」
針生「ちょっと、三尋木プロ!?」
三尋木「ん~時間の空いてる時でよっかたらね~」
針生「いいんですか?そんな約束して?さっき会ったばかりなんですよね?」ヒソヒソ
三尋木「いや、知らんし。なんとかするよー」ヒソヒソ
京太郎「ありがとうございます!ホント俺はついてるなあ!キスなんて教えてもらってる場合じゃなかったですね!」
針生「は…?(え、今この子何て言ったの…?)」
三尋木「」
京太郎「また連絡します、三尋木さん。じゃあ、俺、買い出しがあるので行きますね!失礼します!」ダッ
針生「…」
三尋木「…」
針生「…」
三尋木「…」
針生「…」
三尋木「…あー」
針生「…三尋木プロ?」
三尋木「な、何かな~…」ビクッ
針生「…説明………分かって…ますね?」
三尋木「あ、も、もうすぐ一回戦始まるよー?」ビクビク
針生「……」
三尋木「う…」
針生「……」
三尋木「わ、分かったよー……実は……」
三尋木「…というわけなんだよねい~…」ビクビク
針生「なるほど…」
針生(まあ、三尋木プロってそういう経験も多そうだし…ありうるのかな…)
三尋木(さすがに恥ずかしいからちょっとねつ造したよー…ちょっと?知らんしー)
針生「それで、その男の子…須賀君に女性の扱い方をレクチャーしようとしたけど、小鍛治プロが偶然通りかかって有耶無耶にな
ったと…」
三尋木「ま、まあそんなところかな~」
針生「…これからは控えてくださいよ?全国の麻雀大会の解説者がそんなことしてるってマスコミにばれたりしたら…」
三尋木「分かってるって~ちょっとやりすぎたのは反省してるよー」
針生「ま、キスでもなんでもいいですけど、そういうことは好きな者同士でやるものですから…」
針生「三尋木プロはそういったことには慣れているんでしょうけど、皆が皆、そうではないんですよ」
三尋木「うんー分かってるー(やっぱ私って周りからはそう見えるのかー…)」
針生「でも、結果として須賀君には、本当に好きな人のためにキスは残してあげられてよかったですね」
三尋木「えっ?」ズキッ
針生「だから…そういうものって高校生なら大事にとっておきたいものじゃないんですか?私はあまりそういうの詳しくないです
けど…」
三尋木「…そ、そうだねー。よし!もう時間ないからそろそろ仕事行こうぜい~」
針生「誰のせいだと思ってるんですか…行きますよ、三尋木プロ」
・
・
・
・
・
― 一回戦実況・解説室 ―
針生「…どういうことでしょうか、三尋木プロ。テンパイすらとらないとは…」
三尋木「分かんね~すべてが分っかんね~」
針生「」ムッ
針生「なんでしょうか、これは…三面張とピンフを捨てて、片上がりのノベタンに!これならリーチかけたほうが…ってそれ以前
の問題ですか…」
三尋木「かけられないんじゃねーリーチかけたら二つ目の赤五ピンが来た時困るんじゃないかなー…知らんけど」
針生「別に…困りませんよ?」
三尋木「そりゃそっかー」アハハ
針生「…ほら、いろいろともったいないことに…」
三尋木「いや、知らんし。」
・
・
・
・
・
針生「三尋木…さっきの解説、いったいなんなんですか?」
三尋木「いや~やっぱり難しいねえ、解説って」
針生「…あれじゃ見てる人は何も分からないと思うんですけど…」
三尋木「そりゃそっかーごめんごめん。次から気をつけるよ~」
針生「本当に三尋木プロは…」ハア
三尋木(私の説明で分かるなら説明するけどねー…「あの子にはドラが全部偏んだー」とか言っても解説にならないしねい~…)
針生(はあ…あの新人アナウンサーにしてもよくわからない人ばっかりだな…まともな人は…小鍛治プロぐらいか…)
三尋木「んじゃー仕事終わったし、今日は私帰るわー」ヒラヒラ
針生「あ、はい。お疲れさまでした。明日またよろしくお願いします」
―三尋木家―
三尋木「あ~今日はいろいろあって疲れたぜ~」
三尋木「でも…人生で、何番目かにはいい日だったなー…//」
三尋木(…連絡、来ないなー…そりゃすぐに連絡来ないよねー…だいたい困ったとき連絡してって言ったし、麻雀の練習だって、
そうそうできるもんじゃないし…)
三尋木(それより…アナウンサー言ってたなー…)
三尋木(本当に好きな人のためにキスは残してあげられてよかったねって…)
三尋木(…今更だなー…年の差って…好きな人同士、かー…)
三尋木(………きっついなー…)
―須賀家―
京太郎「ふう…無事一回戦突破できたな…本当に良かった」
京太郎「タコスを届けるのが遅れて…優希にはすげえ怒られたけど…」
京太郎「でもそのおかげで三尋木プロとまた会えたしなあ……」
京太郎「麻雀教えてもらえるなんて…しかも…あの三尋木さんに…直々に…」
京太郎「……やべ、何考えてるんだ俺は。三尋木さんは純粋に善意で俺の頼みを引き受けてくれたんだぞ…」
京太郎「それにしても…あの遊んでそうな三尋木さんが…すっごいウブだったなんて…」
京太郎「可愛かったな…ギャップがやばすぎだろ…手、震えてたしな…」
京太郎「まだ…ほっぺに三尋木さんのくちびるの感触が……」
京太郎「いかんいかん、また俺は何を考えてるんだ」
京太郎「そういえば連絡先もらったな…連絡してみようか…」
京太郎「しかし…今日は疲れた…こんな夜遅くには迷惑だろうしな…また三尋木さんには試合が終わったら連絡しよう…」
京太郎「寝るか…」
針生(ふうー…とりあえず残ってた仕事は片付いたわね…少し疲れたわ…)
針生(さて…私も今日は上がりだし、もう帰ろうかな…)
針生(あれ?あそこにいるのは…小鍛治プロと…変な新人アナウンサーね。二人もお仕事上がりかしら)
福与「今日も疲れましたねー小鍛治プロー」
すこやん「そうだね…私はこーこちゃんにツッコミを入れる一日だったけどね…」アハハ
福与「あー!あそこにいるの針生アナウンサーじゃないですか?」
すこやん「ホントだね。ちょっとあいさつしていこうか、こーこちゃん」
福与「りょーかい!私の先輩アナウンサーだしね!」
・
・
すこやん「針生アナウンサー、お疲れ様です。お仕事上がりですか?」
福与「お疲れ様でーす。あ、私ははじめましてですね。この間アナウンサーになったばかりの福与恒子です!先輩アナウンサー、よろしくお願いしますっ!」
針生「ええ、私も上がりよ。お疲れ様。それと、福与アナウンサー。知ってると思うけど、私は針生えりよ。よろしくね」
福与「よろしくお願いしまーす!いやあ、先輩アナウンサーの知り合いは私初めてですよー!」
針生「そう。でも…実はあなたは結構アナウンサーの間では有名なのよ?(もちろんいい意味じゃないけど…)」
福与「ホントですかー?やったよ小鍛治プロ!私、もう有名アナウンサーになったって!!」
すこやん「あははー…まあ、私の地味な解説より元気なこーこちゃんの実況のほうが目立つよね(絶対こーこちゃん勘違いしてるよ…)」
針生「ふふ…でもあなたたちのコンビも実は結構有名なのよ…?」
針生「ふくよかすこやか、デコボココンビ、なーんて言われてるんだから…」
福与「えー!?聞きました?小鍛治プロ!?私たちコンビ名がついてるんだって!もうこりゃ有名実況&解説コンビの誕生ですね!いえーい!」
すこやん「そ、そうなんだー!う、嬉しいなー!(うう…絶対へっぽこ漫才コンビとか思われてるんだ…知りたくなかったよお…)」
針生「…福与さんって…すっごい前向きな人ね…なんか尊敬しちゃえるレベルだわ」
福与「ありがとうございます!よく言われるんですよーえへへ。また褒められちゃった!…あれ?どうしたんですか?小鍛治プロ?」
すこやん「いや…なんでもないよ…(うう…針生さんにここまで言われてパートナーとして恥ずかしいよ…)」
針生「じゃあ、私そろそろ上がらせてもらうわ、じゃあね、二人とも」
すこやん「あっ、せっかくだから、途中まで一緒に帰りませんか?針生さんは電車ですよね?」
針生「そうだけど…私とでいいの?」
すこやん「私に気を遣わなくていいですよ、針生さん。こーこちゃんはお母さんが迎えに来るんだよね?」
福与「うん、そうだよ!じゃあ、先に失礼しますね!お疲れさま、針生先輩、小鍛治アラフォープロっ!」ダッ
針生「お疲れさま、福与さん」
すこやん「うん…じゃあね…って!聞こえてるよ!?去り際に何さりげなくディスってるの?!」
福与「聞こえなーい!また明日ー!」ダッ
針生「……あなたも大変ね…」
すこやん「うう…針生さん~~~…」グスッ
―電車内―
小鍛治「…というわけなんですよ!ひどいと思いませんか?こーこちゃん!」プンプン
針生「なるほどね…あの子もなかなかになかなかね…」フフッ
小鍛治「笑いごとじゃないですよ…私このままこーこちゃんに馬鹿にされ続けるのかな…うう…」
針生「…小鍛治プロは福与さんのことが嫌いなの?」
小鍛治「嫌いってわけじゃないですけど…こーこちゃんすっごい意地悪というか…ずけずけと私の心をえぐってくるというか…」
針生「そうね…あなたの苦しみを分かってあげられてることにはならないけど…でも今日いろいろ話を聞いてみて、あの子のパートナーがアナタでよかった思ったわ」
小鍛治「?なんでですか?私なんかより、こーこちゃんはもっとしっかりした人の方が…今じゃフォローしきれてないというか…ついて行けてないというか…」
針生「ふふっ、確かにそうかもしれないわ、でもあの子ってほら、言ってみれば無茶苦茶でしょ?思ったことはすぐ口に出すし、試合に関係ないこともベラベラしゃべってるし…」
針生「でもそれって見方を変えれば他のアナウンサーにはない持ち味だと思うわ。少なくとも私には一生彼女みたいな実況はできないと思う」
針生「福与さんは確かに他の人とはズレてるけど、だからと言って排除したりする理由にはならないわ」
針生「あの子の強みを生かせる人間がいれば、きっとうまくいくのよ」
針生「例えば…あの子が何を言ってもへこたれない、強いメンタルを持ってる人とか…どんな無茶ぶりをしてもきちんと反応する、対応力を持ってる人…とかね」
針生「だから、あなたみたいな人が福与さんにはちょうどいいと思うのよ。逆にしっかりした人だと福与さんみたいなノリは絶対無理だわ。途中でコンビは間違いなく崩壊よ」
針生「というわけで…あなたの不満は完全に抜きにした私の意見よ。ごめんね、からかわれるのが嫌だっていう相談を聞いてたのに…」
小鍛治「いえ…少し心が楽になりました」
小鍛治「たまにこーこちゃんにいじられてつらいときもあるけど…」
小鍛治「さっきの針生さんの言葉聞いたら、私がこーこちゃんを支えてあげなきゃって思いました」
小鍛治「ありがとうございます、針生さん」ニコッ
針生「少しでも役に立てたのならよかったわ。明日もそのいきで頑張ればいいと思う」ニコッ
針生(やっぱり、この子はまともというか、素直な子ね…)
針生(先輩として、少しは役に立てたかしら…)
針生(パートナーで悩んでるのは私だけじゃないのよね…はあ、三尋木プロか…)
針生(…ん?三尋木プロ…そう言えばさっき三尋木プロが……小鍛治プロに見られたって…)
針生「ねえ、小鍛治プロ、そう言えば今日三尋木プロが言ってたんだけど…」
すこやん「あ!今ので思いだしました!実は今日いいことが一つあったんですよ!」
すこやん「実は今日、三尋木プロが男子高校生と…ふふ、えへへへ…」
針生「…私もさっき三尋木プロにそのことを聞いてね」
針生「仕事前だったから詳しく聞けなかったのよね。よかったら詳しく聞かせてもらえないかしら。小鍛治プロが知ってることでいいから」
すこやん「えへへ…はっ?!なんですか?針生さん?」
針生「どこか遠くに行ってたわよ…今…(あれ…この子…大丈夫かしら…)」
針生「それで、三尋木プロと男子高校生のお話を聞かせてくれるかしら?」
すこやん「いいですよ!そりゃあもう!私目の前で見てましたからっ!!!」ドーン
ざわざわ
「なんだ、なんかあったのか?」
「あそこの二人がなんか騒いでるぞ?」
針生「ちょ、ちょっと、小鍛治プロ?電車内ですよ?落ち着いて…すごい注目浴びてますよ…」ヒソヒソ
すこやん「あっ…す、すいません、つい私、熱くなっちゃって…」
針生「いいのよ…気をつけてね…(この子も…ちょっと変な子なのかしら…私の周りの人たちって…)」ズーン
・
・
すこやん「どこから話したらいいですか?」
針生「そうね…私はちょうどあなたが偶然通りかかったところまで聞いたわ…でもそれで大体全部よね?」
すこやん「?!何言ってるんですか?大事なのはここからですよ?!」バンッ
針生「ちょ…小鍛治プロ…また…」
「うるせーな、またあの二人か」
「ケンカか?こんなところでやめてほしいな」
ざわざわ
針生「!小鍛治プロ、いったん場所を変えましょう。次の駅で降りて、空いてる喫茶店にでも入りましょう」
・
・
・
・
―喫茶店―
すこやん「すいません…迷惑かけちゃって…明日もお仕事あるのに…」ズーン
針生「いえ…いいの…気にしないで…」
すこやん(私…何やってるんだろ…相談に乗ってもらっといて…恩をあだで返してるようなものだよ…)ズーン
針生(この子も…やっぱり少し変わってるというか、周りが見えてない時があるというか…特定のことに凄く反応するみたいね…)
すこやん「あの…その…えっと…ごめんなさい、今日のこと思い出したら、熱くなってしまって…」
針生「いえ、…いいわ。それによっぽどあなたには刺激的な光景だったのね」
すこやん「!そうなんですよ…あれ、どこまで話しましたっけ?」
針生「まだ何も聞いてないわよ…でもその前に一ついいかしら?」
すこやん「なんでしょうか、針生さん」
針生「あなたと福与さんって結局似た者同士だと思うわ」クスッ
すこやん「ええ?!全然似てないですよ!急に何を言うんですか?」
針生「一緒よ、一緒。二人とも子供みたいで…熱くなりやすくって…」
針生「違うのはあの子が常にそうであるのに対して、あなたはスイッチが入ったら、ってところぐらいね」
針生「むしろあなたのほうが一回入ったらあの子よりずっと凄いことになるから性質が悪いんじゃない?」ニヤ
すこやん「うう…針生さんにそう言われると…面目ないです…」
針生「まあ、いいわ。前置きが長くなったわね。そろそろ始めてちょうだい」
すこやん「ええと…とりあえず、三尋木プロが須賀君に女の子の扱いをレクチャーしようとしてたんですよ」
針生「ふんふん(からかってたのよね…確か…)」
すこやん「それで…須賀君がキスを教えてほしいっていうから、三尋木プロがレクチャーしてあげることになって、キスしそうになったところで私が偶然通りかかって」
針生「そうね、三尋木プロもそう言ってたわ。ってあれ?これで終わりじゃないの?そのあと解散でしょ?」
すこやん「あれ?違いますよ?三尋木プロに聞いてないんですか?」
すこやん「そのあと…私は二人の邪魔をしちゃいけないと思って…とりあえず、退散したんです」
すこやん「…ここからは…ちょっと気合い入りますよ!渾身のダイジェストでお送りしますね」
針生「え、ええ(あれ、話に聞いてたのと違う…というか、何この溢れ出すオーラは……それになんで退散したこの子はこの後を知ってるの?いろいろツッコミが追いつかないわ…)」
すこやん「では…いきますよ…」
「高校一年生、須賀京太郎。三尋木咏の体にそっと手をまわし、こう言った」
『目をつぶってくれませんか…?』
「三尋木、そこは手慣れた様子で目を閉じ、キスを待つ。その顔はまさに乙女だ」
「須賀、練習とばかりに三尋木に甘い言葉をささやく」
『咏さん…俺もう我慢できません…むちゃくちゃにしていいですか…?』※遠くから見てるのでセリフは想像です
針生(え…誰…この人…私の目の前でしゃべってる人は誰…?)
「三尋木、そこは熟練の技。負けじとこう言い返す」
『いいわよ…私のこと、好きにして…?』※遠くから見てるのでセリフは想像です
「須賀京太郎、三尋木の甘いセリフと顔つきにノックアウト。たまらずキスをしようとする」
「しかしここは一旦引く須賀京太郎。簡単にキスはしない。三尋木プロの体をじっくり舐めまわすように観察」
「良く見ると三尋木の体は震えていた。須賀、それを察し、優しく彼女を抱きしめてこう言う」
『可愛いですよ…咏さん…俺に全部任せてください…』※遠くから見てるのでセリフは想像です
針生(あ、頭が痛いわ…帰っていいかしら……)
「そのあと様々な口説き文句を遣い、須賀は三尋木の顔を真っ赤にすることに成功。」
「仕上げに三尋木の震える両手をギュッと握ってさわやかな笑顔を三尋木に向ける」
『あなたのような綺麗な人にはもったいなくてキスできません…』※遠くから見てるのでセリフは想像です
「このまま二人は別れてしまうのか?しかし、そこは三尋木咏。最後はしっかり見せ場を作る」
「最後の最後に去ろうとする須賀に抱きつき、ほっぺに接吻をする」
「そして最後に名刺を渡し、連絡先を確保。つかんだ獲物は死ぬまで離さないーーー!!!」
針生(私…もう人間を信用できない……でも、場所を変えて、本当に、本当に、本当に良かった…)
すこやん「ふう~以上ですね!どうでしたか?私の渾身のダイジェストは?」ニコ
針生「と、とてもよかったんじゃないかしら?あなたの気持ちもすごくよく伝わってきたし…(や、やっと終わった……今日一日の仕事より、ずっと疲れたわ…)」
すこやん「そうですか!それはよかったです。それにしても三尋木プロ可愛かったなあ…あんなに手や体を震えさせて…顔真っ赤にして…」
すこやん「最後は…しっかり…き、キスもするんだから……//」
針生(ごめん、福与さん。さっきの数々のあなたへの暴言、撤回するわ。あなたのパートナーも大概よ…………ん?体と手を震わせて、顔を真っ赤にして?)
針生(…三尋木プロ、が…?そんなことありえるの?)
針生「ねえ、小鍛治プロ。三尋木プロはそんなに体とか手を震わせてたの?あと顔もそんなに真っ赤だった?」
すこやん「ええ!まるで初めてキスする人みたいに真っ赤だったんですよ!もう、本当に可愛かったなあ…キスもちゃんと見れたし…」ニヘラニヘラ
針生(…あり得ない…わざわざ三尋木プロがそんなサービスみたいなことするなんて……)
針生(それに今日の…今日の三尋木プロの態度もなんかおかしかったわ…わざわざ一般人相手に名刺を渡したり、麻雀の練習に付き合う約束をしたりするかしら)
針生(何もなかったって嘘までわざわざついて…たぶん何か隠してるわね…これは明日三尋木プロに確かめてみる必要があるわね…)
すこやん(針生さんすっかり黙っちゃったなあ…やっぱりあまりにこのダイジェストが良かったからかな?そうだよね!わざわざ仕事前にこーこちゃんに見つからないよういろいろ妄想
してたもん!)
―大会二日目 会場―
針生(さて…昨日は本当にとんでもない日だったわね…)
針生(三尋木プロは男子高校生をたぶらかすし、小鍛治プロは電車の中で騒ぎ始めるし…)
針生(なんだか福与アナウンサーが普通に常識ある人なんじゃないかって思えてきたわ…)
針生(よく考えたらあの態度だって小鍛治プロに対してしか見たことないし…)
針生(もしかして、福与アナっていい人?なのかしら…)
針生(はあ…)
福与「おはようございまーす!針生アナウンサー!」
針生「あ……福与、さん。おはよう」
福与「あれーどうかしたんですかー?なんか元気ありませんねー?そんな辛気臭い顔してたら老けちゃいますよー?」アハハ
針生「……いや…なんでもないの…。うん、ありがとう…」
福与「いえいえ、どーいたしましてー」アハハ
針生(この子は…たぶん悪気はないんだわ…でも…本当に言いたいことをはっきり言う子ね…)
針生(いい人というよりは…自分にどこまでも素直で、いい意味でも悪い意味でも純粋で…)
針生(なかなか扱いに苦労しそうね、頑張って、小鍛治プロ…)
福与「そういえば、針生さんって三尋木プロのパートナーなんですよねー?」
針生「ええ、そうよ。まだ三尋木プロは来てないみたいだけど…」
福与「私一度三尋木プロとも共演してみたんですよねー!なんかおたがい自由にやりたい放題って感じじゃないですか?」
福与「だから、けっこう相性いいんじゃないですかねーなーんて思ってましてー」アハハ
針生「そ、そうね…悪くない、かもね…(やりたい放題の自覚はあったのね…あの二人なんて絶対、組ませないわ!日本麻雀機構の未来のために!!)」
福与「もし針生アナがアナウンサーじゃなくて解説だったら、針生さんとも組んでみたいですねー」
針生「え、ええ。私もぜひ一度あなたと組んでみたいわ(え、遠慮したい…よかった業種が同じで…)」
福与「なんだか想像したら楽しくなってきちゃいました、えへへ」ニコニコ
針生「そうね…いつかそんな日が来たら、楽しいかもね(…この子…笑うとすごく可愛いわね…なんか…子どもの優しい笑顔みたいで…)」
針生(ちょっと私いろいろ考えすぎかしら…大体人に評価を下せるほど私は偉い人間でもなんでもないんだし…)
福与「あ、でも針生アナは小鍛治プロより年ですから、そのときには…いや、なんでもないですよー」アハハ
針生「…………あ、そろそろ三尋木プロが来るかもしれないから、私行くわね」
福与「はい!今日も一日頑張りましょう!」
針生「……前言撤回よ…あの子、やっぱりとんでもない子だわ…」
―会場 打ち合わせ部屋―
針生(遅いな…三尋木プロ…もうすぐ打ち合わせがあるっていうのに何やってるんだろ…)
バタン
三尋木「いや~遅れてごめんねいー…ちょっと寝坊しちゃってさあー…」ポリポリ
針生「おはようございます、三尋木プロ。まだ時間じゃないので大丈夫ですよ」
三尋木「そっかーあははー」
針生「あまり眠れなかったんですか?」
三尋木「ん~ちょっとねー…いろいろと考えてたら寝付くのが遅れちゃってねー…」
三尋木(須賀君のこと考えてて眠れなかったなんて言えないなー…)
針生(やっぱり須賀君のことで何かあったのかしら…そう言えば私もこういう経験ってないからよく分からないわ…)
三尋木「ん~それよりどうしたのー?珍しいねー針生アナが私に個人的なこと聞いてくるなんてさあ~」
針生「そんなつもりは…ただ仕事上、遅れそうになった理由ぐらいはと…パートナーの体調も把握しとかないといけませんし…」
三尋木「まあそんなことだろうと思ったよーてっきり針生アナが私に気を遣ってくれたのかと思ってさあー」ニヤニヤ
針生「…!いや、そんなつもりじゃ…ただ私はその…」ゴニョゴニョ
三尋木「んー相変わらずつれないなー針生アナはー」アハハ
三尋木(んーまあ私がこんなだからしゃーないかーきっと悩みなんてないノー天気女とか思われてるんだろうしねー…)
針生「いえ…私はこういう人間ですから…」
針生(ちょっと私って冷たいのかしら…でも仕事は仕事、プライベートはプライベートできっちり分けるべきだと思うし…)
針生(そう言えば昨日のこと、いつ聞こうかしら…タイミングが分からないわ…)
「それじゃあ今日の試合の打ち合わせ始めまーす!」
「解説の方、アナウンサーの方は集まってください!」
針生(ふう…今日も一日、頑張らないとね…全国二回戦、気合い入れていくわ)
三尋木(ああ~だめだなー私って…こんな時も須賀君のこと考えちゃって~…あまり集中できなさそうだなー…)
「打ち合わせは以上です、お疲れさまでしたー」
「今日も一日、よろしくお願いします、では解散してください」
針生(さて…二回戦が始まるまで一時間ぐらいはあるわね…どうしようかしら…)
針生(とりあえず、三尋木プロと個別の打ち合わせを…)
針生「三尋木プロ、控室で二回戦に向けて最後の打ち合わせしませんか?昨日はちょっと確認不足でしたので…」
三尋木「んーいいよー…りょうかーい(はあ…やる気でないなー…今日も須賀君会場に来てるんだよねー…なんとか会えないかなー…)」
針生(なんかうわの空って感じね…こんなんで大丈夫かしら…)
―会場 控室―
針生「…じゃあ、今日の対戦校のデータは以上です。大丈夫そうですか?」
三尋木「ん~今日はシード校の千里山女子だねーたぶんここが一抜けすると思うよー」
三尋木「県大会の牌譜をみたけどやっぱり皆うまいしねー特に先方の園城寺が他に何点差つけるか、って感じになりそうだね
~」
三尋木「他はまあ…阿知賀と越谷と劔谷のどこかが二位につけるかって感じかなー…私の予想はこんなところかなー」
三尋木「まあ奈良の常連だった晩成をやぶった阿知賀に私は期待するけどね~」
針生「はあ…よく県大会の牌譜だけでそこまで想像できますね…」
針生「順位予想としてはじゃあ一位が千里山、二位が阿知賀、三位四位が劔谷か越谷って予想ですか?」
三尋木「まあ、あくまで予想だけどねーあははー」
針生「なんだかんだ言ってもやっぱりプロですね、アナウンサーの私にはあまり分かりませんよ」
三尋木「いや~そこまで褒められることじゃあないよーそれよりなんだいーなんだかんだって」アハハ
針生「いえ…ちょっと今日の三尋木プロはなんだかぼーっとしてる気がしたので…いや、いつも通りな気もしますが…」
三尋木「なんだよそれーひっどいなー私だってやるときはやるよー?」
針生「すいません…じゃあ、そろそろ時間ですね、行きましょうか」
三尋木「おーまあ、今日もなんとなく頑張るかー」アハハ
針生「……まあ、いいんですけどね。頑張りましょう」
― 二回戦実況・解説室 ―
針生「さあ、大会五日目、今日から全国二回戦が始まります。二回戦からは上位二校の勝ちぬけになります」
三尋木「ん~二校って…ヴァイオレンス感足りなくね~?」
針生「」ムッ
針生(何を言ってるのかしら…三尋木プロは…また私がフォローしないと…)
針生「…そうですか?これでも普通のトーナメントと同じく、半分が敗退…」
針生「それも、ランダム性の強い競技でですよ…?」
針生「頂に至る道は狭く、遠く、険しく…彼女たちにとってチャンスは短く限られている…」
針生「それが厳しくないなんて、私には思えませんよ!」
三尋木「ふう~ん…そんなもんかねえー…」
針生(たまに三尋木プロはこれがあるから…大変だわ…)
・
・
三尋木「あははー!マフラーだよ、マフラー!夏にマフラー!」
針生(また…)
針生「さて、妹の失った点棒を取り返すことができるのでしょうか」
・
・
針生「後半戦、南三局でこれは痛い…」
三尋木「八順目か…最後の親番とはいえ、ちょーっと不注意だったかー?」
針生「さあ、いよいよ大将戦、後半オーラス、最後の一局」
針生「…これはさすがに、千里山と劔谷で決まりでしょうか」
三尋木「おーい…終わらないうちにそういうこと口にだすなよ、アナウンサー」
針生(え…?)
三尋木「あいつのツラみろよ…むしろ、何か始まってるぜ…?」
―会場 控室―
針生「お疲れ様です、三尋木プロ」
三尋木「ん~お疲れーいい試合だったねいー」
針生「そうですね…結局結果は三尋木プロの予想したとおりでしたね」
三尋木「いやー偶然っしょ、偶然ー。四つの高校の組み合わせなら適当に予想したって当たるってー」アハハ
針生「いえ…それは三尋木プロの力だと思います…それに、今日は三尋木にフォローも入れてもらいましたから…」
三尋木「あれー?そうだっけ?私何もした覚えないんだけどー」
針生「最後の大将戦南三局のとき…試合が終わるまで実況者が結果を決めるな、って言ってくれたじゃないですか」
三尋木「あーあれねーいやあれもてきとーに言っただけでー」
針生「それでも私はいろいろ気付かされたことがあった実況でした。今日はありがとうございました」
三尋木「んー……」
三尋木「お返しってわけじゃないけどさー針生アナもいつもありがとねー」
針生「え…?」
三尋木「いやーだからいつも私の無茶苦茶な解説に付き合ってくれてありがとーねー」
三尋木「正直フォロー入れるの大変っしょー?私って思いつきでしゃべったりするからさー(須賀君のことだって…ほんの出来
心だったしなー…)」
針生「………」
針生「…いえ…これも仕事ですから…」
三尋木「もーまた仕事仕事ってー素直になりなよー」バンバン
針生「ちょ…痛いですよ、三尋木プロ…」
三尋木「針生アナが素直にならないからじゃねー知らんけどー」アハハ
三尋木「あーじゃあ、ちょっと私やりたいことがあるから、ちょっと出てくるわ、またそのうち戻ってくるねいー」
針生「あ、はい。分かりました。早めに戻ってきてくださいね?」
三尋木「分かってるよーんじゃねー」
針生(…まさか三尋木プロにお礼言われるなんて…思いもしなかった…)
針生(……なんだかすごく嬉しいわね…これまで頑張ってきて良かったと思えたわ…)
針生(昨日自分で小鍛治プロにアドバイスしといてなんだけど…、私が三尋木プロの強みを活かしてあげられれば、それでうま
くいくのね…たまにフォローもしてくれるし…いい経験になったわ)
針生(……)
針生(それにしても…用事って…もしかして…須賀君、かしら……そう言えば聞きそびれてしまったわ…)
―清澄 控室―
バタン
咲「ただいま戻りました…」
優希「咲ちゃんお帰りー!一位だなんて最高だじぇ!これで二回戦突破だじぇー!」
和「咲さんさすがでしたね。これで次は準決勝です」
久「お疲れー。ホント咲を大将にして正解だったわ…あのメンツでは私もやりたくないもの」
まこ「おいおい、後輩の前でそんなこと言うんもんじゃないぞ……お疲れじゃあ、咲。ようやったの。ゆっくり休め」
京太郎「やったな!しかし、咲があんなに活躍する姿見るなんて、今になっても信じられないぜ!」
咲「うう…緊張したよ……みんなすごく強かった…でも勝てて良かった」フウ
久(…プラマイゼロでそれでいて一位抜けのくせして…よく言うわよ…最後なんかあんなにあっさり上がって…咲が敵じゃなく
てつくづく良かったわ)フフッ
久「ねえ、皆、二回戦の打ち上げじゃないけど、ご飯食べにいかない?また私がおごるから」
優希「ホントかー!?行くじぇー!部長サンキューな!」
和「いいんですか…?いつもすいません…」
まこ「なかなかいい提案じゃの、部長」
咲「ありがとうございます、部長」
京太郎「(できれば三尋木さんに会いたいな…でも、無理か…)……い、いいですね。俺もお腹すいてきました」
久「よし、決定ね!皆何が食べたい?」
優希「当然、タコス一択だじぇ!」
和「私は…前食べたラーメンがおいしかったのでそれをもう一度……」ゴニョゴニョ
咲「私はなんでもいいです。ごちそうしてもらえるんで…」
まこ「わしも皆が好きなんでいいぞ」
京太郎「……」
久「須賀君くんは?なんか食べたいものある?」
京太郎「…あ、俺もなんでもいいですよ」
久「よし、じゃあ行きながらのんびり決めましょうか」
・
・
・
・
三尋木(はー…いないなー須賀君…まーそう簡単には見つからんよね~…)ウロウロ
三尋木(連絡先聞いとくべきだったなー…)
・
・
三尋木(そろそろあきらめるかー…針生アナも待たせちゃってるしなー…)
「おい、優希!乗っかるなよ!重いぞ!」
三尋木(あ……この声須賀君かな…?あ、あそこにいた……こ、こっちくるよー…)ドキドキ
三尋木「(き、来た!」お、おーい。すがく…」
「れでぃーに向かって重いとは失礼な!許せないじぇ」
「うっせえ!レディーってのは和とか龍門渕の透華さんみたいな人のことを言うんだよ!」
「あ、ありがとうございます…でも、私はそんなんじゃ…」
「む!京ちゃん私はそうじゃないってこと?」
「あら、須賀君、咲の言うとおりだわ。私はその中には入らないの?」
「おいおい…あんまり京太郎をいじってやるなよ…こいつも雑用で疲れとるんじゃけえ…」
「はあ、染谷先輩の優しさが身にしみますよ…」
「む!犬のくせに生意気だじぇ!もう一発喰らわないと分からないようだな!」
ギャーギャーワーワー
三尋木「………」
三尋木「……そ、だよねー…」
三尋木「須賀君…優しいし、カッコいいもんね~」
三尋木「わざわざ私みたいなのと…関わる必要性もないし~」
三尋木「だいたい須賀君は麻雀教わりたいから私と関わってるようなものだしねー」
三尋木「分かってたよねー…というか昨日もそう思ってたし~…」
三尋木「…なのに…なんだろーこの胸の痛みはー…」ズキズキ
三尋木「……どうしたらいいか、わかんねー…」
・
・
針生「三尋木プロ…遅すぎ…」
針生「はあ…とりあえず探しにいこうかしら…」
・
・
針生「あ、三尋木プロいた……」
針生「三尋木プロ!何やってるんですか?こんなところで」
三尋木「……」
針生「全く…」
針生「…三尋木プロ?」
三尋木「……」ポロポロ
針生「ちょ、どうしたんですか!何かあったんですか…それに何もこんなところで……それに三尋木プロがこんな風になってるなんて新鮮すぎて…ってまたツッコミが追いつかないけど……」
針生「…答えたくなかったら答えなくていいです…」
針生「何か、あったんですか……?」
三尋木「…っかんねー…」ボソッ
針生「え?」
三尋木「だから…どうすればいいかわっかんねー…」ボソボソ
針生「……もしかして須賀君のことですか?」
三尋木「」ビクッ
針生「図星ですか…」
針生「ちょっと事情は分かりかねますが…でもあの三尋木プロがそうなるくらいの状況だってことは分かりました」
針生「とりあえず、落ち着いてください…」
三尋木「……」
針生「…こんなになってる三尋木プロを見るなんて思いもしませんでした。気付けなかった私はパートナーとして失格ですね…」
針生「でも…なんで私に相談してくれなかったんですか…?」
三尋木「……仕事…」ボソッ
針生「え?仕事?」
三尋木「…うん。だって、どうせ、また、仕事、ですから、とか言うん、でしょ…」
三尋木「そんな、ひとに、相談とか、できない…」グスッ
針生「…私だって人の相談には真剣に耳を傾けますよ…勤務中とプライベートはもちろん別ですけど…」
三尋木「うそ…だって、どうせ、遊んで、そう、とか…悩み、なさそう、とか、思って、たんだ…」
針生「うっ…」
三尋木「やっぱり……どうせ、私、なんか…」グスグス
針生「!とりあえず、ね?どこかで話しましょう?明日の打ち合わせは、その後でもいいですから、ね?」
三尋木「うう…また、仕事、って…私、なんか、どうでも、いいんだ…」グスッ
針生「あーもう!だったらどうしろって言うのよ!」
三尋木「うう…針生アナ、が、怒鳴った…」ビクビク
針生「ご、ごめんなさ…じゃなくて!あなたさっきから誰よ?!明らかに三尋木プロのキャラじゃないわよね?!何幼児退行してるんですか?!まさかわざとやってるんじゃないでしょうね?!」
三尋木「……」
三尋木「…ん~あははー…ばれちゃったかー…」ゴシゴシ
針生「はああああ?!ちょっと、三尋木プロいい加減に…」
三尋木「あははーごめんごめん……でも、泣いてたのはホントだよー…落ち込んでたのもホントだし、相談できる相手がいなかったのもホント」
三尋木「途中からは演技だったけどー…でも…」
三尋木「こんなにどうすればいいかわっかんねーのは人生で初めてだよー…」
針生「……」
針生「はあ…」
パン
針生「じゃあはい、今日の仕事はこれで終わり。たった今から私はプライベートモードに入ったわ」
針生「つまり私とあなたの関係は今は仕事仲間じゃなくて…えっと…」
針生「と、ともだち、よ……//(は、恥ずかしいわ…)」
三尋木「……」
針生「な、何か言ったらどうですか?三尋木プロ??//」
三尋木「いやー…針生アナがそんなことを言うなんて、この三尋木プロ、驚き桃の木山椒の木だよー」
針生「べ、別にいいでしょ?!私にだって友達の一人や二人くらいは…」ボソボソ
三尋木「顔真っ赤にしちゃって~可愛いな~この~ウリウリ~」
針生「うう……なんで相談に乗るはずの私がこんなに…」ブツブツ
三尋木「あはは、でもありがとう、針生さん」ニコッ
針生「!?い、いえ、まだ何もしてませんし…(こんな風に三尋木プロは笑えるのね…知らなかったわ…)」
三尋木「あれ~?針生アナもしかしておねいさんの笑顔に見惚れちゃった~?」ニヤニヤ
針生「なっ…いい加減にしてくださいよ!三尋木プロ!//」
三尋木「いやーつい嬉しくってさあ。ごめんごめん」
三尋木「じゃあー…今日はもう遅いし…私の家来ない~?」
針生「え…三尋木プロの、家、ですか?」
三尋木「うん~だって仕事の話もしなきゃいけないし、相談に乗ってもらったりしてたらもっと時間足りなくね~?」
針生「でも明日も仕事あるんですよ…?何も用意してないですし…」
三尋木「…相談に乗ってくれるって嘘だったんだ…私…一人ぼっちだったんだ…」グスグス
針生「あーもう!分かりましたよ!泊まりにいけばいいんでしょう?泊まりに行けば!」
針生「ていうかさっきからなんですかそのしゃべり方は!そのキャラは!ずっとパートナーやってた私にそんなの通じると思ってるんですか?!」
三尋木「あれ~?通じてるくね~?」ニヤニヤ
針生「~~!もう、行きますよ!ほら、案内してくださいよ、三尋木プロの家に!」
三尋木「了解~じゃあ、私の車で行こうかー」
針生「もうなんでもいいわ…好きにしてよ…」
針生(うう~くやしいわ…なんとかして一度三尋木プロをぎゃふんと言わせてみたいわ…)
針生(でも…友達、か…あんなこと言った自分にびっくりだわ…)
針生(こういうのも、悪くない、のかな……)
―三尋木家―
三尋木「着いたよーほい降りてー」
針生「意外と遠かったですね…。三尋木プロ、マンション住まいだったんですか」
三尋木「うんーそだよー住み始めたのは最近だけどねーまあ、さっさと行こうぜ~」
針生「そうですね」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ガチャ
三尋木「着いたねー入っていいよ~」
針生「おじゃまします」
三尋木「やっぱり針生アナは礼儀正しいねい~そこは勤務中もプライベートも一緒かいー?」
針生「これぐらい普通だと思うんですけど…」
三尋木「ん~そうなのかなー?あんまわかんねー」
針生「もしかして、友達を家に連れてきたことないんですか?」
三尋木「……」
針生(あれ…?何かしらこの反応は…)
三尋木「…とりあえず中入らねー?」
針生「あ、はい。じゃあお言葉に甘えて」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
針生「うわー…すごい広いですね、三尋木プロの家。この広さで17階だし、家賃とか相当高いんじゃないですか?」
三尋木「そうだねーでも今の稼ぎで十分賄えるよー」
針生「なるほど…さすがにトップクラスのプロ麻雀士は格が違いますね…」
三尋木「そーんな大層なもんじゃないってー針生アナは一人暮らししてるんだっけ?」
針生「そうですね。アパートなんで大したものじゃないですけど…一応今の稼ぎでなんとかやりくりしてますよ」
三尋木「そっかー。ま、とりあえず座っていいよー。ソファーでも床でもなんなら私のベッドの上でもさー」ニヤニヤ
針生「ソファお借りします」ドサッ
三尋木「なんだよーつれないねい~」
針生「…それより本題はどうしたんですか?明日も仕事あるんですし、早めに話したほうがいい気がするんですが…」
三尋木「また…そうやって、私の、こと…」グスグス
針生「もうひっかりませんからね。さあ、話してください、三尋木プロ」
三尋木「ちぇー…でもその前にさ~一ついいかいー?」
針生「今度はなんですか?」
三尋木「今は針生アナはプライベートモードなんだよねー?」
針生「はい。さっき手を叩いたときからそうですよ、まあ形式上ではありますけど」
三尋木「ふーん…いやさ~針生アナはプライベートのときもプロって呼ぶんだなって思ってー」
針生「ああ、確かにそれはちょっと矛盾してましたね。どう呼べばいいですか?」
三尋木「好きに呼んでくれていいよープロってのはちょっと違和感あっただけだからさー」
針生「うーん…そういえば三尋木プロの名前って確か『咏』でしたよね?なんか珍しい名前ですね」
三尋木「あ、ああそうだねーよく言われるよー」ビクッ
針生「ふむ…じゃあせっかくなんでそれでいきましょうか。『咏ちゃん』で」
三尋木「え?」
針生「え?じゃないですよ。三尋木ぷ…じゃなくて咏ちゃん。あなたが決めてって言ったのよ?ついでに敬語もやめるわ」
三尋木「お、おうー…」
三尋木「……」
三尋木「ねえ、私の名前って変じゃない?」
針生「変、かな?珍しいとは思ったけど…別に変じゃないわよ。むしろあなたにぴったりだと思うけど…服装とかイメージから判断してだけど。いい名前だと思うわ」
三尋木「へ、へ~そっか。ふ~ん…そっかそっかー…へー…………」
針生「何ニヤニヤしてるの?」
三尋木「いや~気のせいじゃね~?名前とかどうでもいいしーむしろ知らんしーいやマジで~」
針生「…まあいいわ。ていうかさっきからずっとツッコミたかったんだけど、あなたも私のことずっと『針生アナ』って呼んでるじゃない」
三尋木「あう…そうだったねー…」
三尋木(友達とか…あんまできたことないしよくわかんねー…)
針生「…咏ちゃん、私の名前知ってる?」
三尋木「し、知ってるって~針生えりでしょ!当然じゃんー!」
針生「じゃあ、えりでもなんでもいいんじゃない?昔ははりちゃんとかはりっちとか呼ばれてた時もあったけど…あとエリーとか」
三尋木「はりっち…」
ポワポワポワ
同級生A「よお、はりっち!今日も真面目だなー!」
同級生B「休み時間に真面目に本なんか読んでるなんて、つまんねーやつだなー」
針生「うるさいわね…ほっといてくれる?私の自由でしょ?」
同級生A「うわ!はりっちが怒ったぞ!こえー」
同級生B「今日もとげとげしいなー針だけに…プッ」
針生「うるさい!名前は関係ないでしょ!?あっちいって!」
同級生A「うわー逃げろー!」
同級生B「針攻めにあうぞー!」
ポワポワポワ
三尋木(だ、だめだよ~…はりっちはだめだ…針生アナのトラウマが蘇るぜー…)※三尋木プロの想像です
針生「…咏ちゃん?」
三尋木「!いや、なんでもないよー」
三尋木「えりちゃん!えりちゃんって呼ぶことにするよー」
針生「分かったわ。じゃあそろそろ聞かせてくれるかしら?」
三尋木「分かったよーえりちゃんー」
三尋木(うたちゃん……えりちゃん……えへへ…)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
咏「えりちゃんは何が聞きたいー?」
えり「とりあえず全部話して、さっき泣いてた理由も含めて」
咏「えー…全部はちょっと恥ずかしいなー//」
えり「じゃないと相談に乗れないわよ?恥ずかしがってないで、ほら(正直小鍛治プロの話は参考にならなかったし…)」
咏「分かったよー…」
(事情説明中)
咏「……って感じかなー」
えり「なるほど…軽くまとめると、経験豊富そうな外見と明らかに耳年増な口調を利用してちょっとウブそうな男の子をからかおうとしたものの、小鍛治プロの突然の登場に自体は急変
、なぜか本当に須賀君にレクチャーすることになったと」
えり「それでいろいろ優しくしてもらって結局彼のことを好きになってしまった。なるほどそれで気楽に名刺を渡したり麻雀の練習のお願いをきいてあげたりしたんですね」
えり「この間泣いてたのはせっかく彼に会いに行ったのに他の女の子に彼が囲まれていて凄く寂しくなったから……というわけね」
咏「うんうん。そんな感じだよー」
えり「なんていうか…この間も思ったけど、咏ちゃんの今までのキャラとあまりに違いすぎて困惑なんだけど…」
咏「そ、それは……仕方ないじゃんー…恋とか初めてで全然わっかんねーんだし……//」ボソボソ
えり「それにしても…」
咏「な、なんだよえりちゃん」
えり「せっかく助けてもらったのに、相手をからかおうとするなんて…恩を仇で返してどうするのよ……」
咏「うっ…」グサッ
えり「しかも実際は恋愛経験はありません、全くの初心者です、知ってるのは雑誌とかなんとかで持ってる知識だけ」
咏「ぐ…」
えり「さらに自分でレクチャーするって言っておいてから最後は相手に逆レクチャーしてもらうなんて…しかも年下…高校生に…」
咏「うう…」
えり「それでいて須賀君が女の子に囲まれているのを見るだけで落ち込むって…どれだけメンタル弱いのよ…。そんなので麻雀界でよくやっていけるわね…」
咏「……」ジワ
えり(ま、これでさっきの仕返しにはなったかしら…これ以上は可哀想だからやめておくわ)
咏「やっぱりダメなのかな……年下、それも高校生を好きになるなんて、無理があるのかなあ……年上のくせに恋愛経験もないし」グスグス
えり「ごめんごめん。とりあえず、今のは現状を挙げただけよ。ここからどうするか考えよう?」
咏「考えるって…どういうことだい?」
えり「そんなに難しく考えなくていいわよ。作戦を考えるだけよ」
咏「さくせん……?」
えり「そうよ。咏ちゃんの話を聞く限りその子はとてもいい子なんでしょう?それに私が見た限りでは外見もなかなかだったと思うし…」
えり「ライバルがいる可能性だってあるわ。つまりこれは勝負、バトル、戦争なのよ!」
咏「お、おう……(なんかえりちゃん意外とノリノリだ……)」
えり「戦いには勝つための戦略が必要です。咏ちゃんだって麻雀界で生き残るために、自分なりの戦略を立てて、それで勝ち残ってきたんでしょう?」
咏「んーと……そりゃ対戦相手とかの分析とかはよくするけど……あとはなんとなく今日の調子とか考えて…」
えり「まあとりあえずそういうことよ。『彼を知り己を知れば百戦殆からず』ね」
えり「つまりあなたは須賀君との接触が決定的に足りないわ!お互いのことを何も知らない。これじゃあ、周りの女の子に持っていかれるかもしれないわ…」
咏「そ、それはやだよー……どうすればいいんだろ。えりちゃんー……」
えり「デート」
咏「え?」
えり「デートに誘いましょう」
咏「お?」
えり「だからデートに誘いましょうと。あっちから連絡を待ってる余裕なんてないでしょ?もしかしたら清澄高校が敗退してすぐに帰っちゃうかもしれないのよ?」
咏「誘うって、そんなの無理だよー……恥ずかしすぎるぜー…」
えり「いやでもそんなこと言ってもね…」
咏「無理無理、誘い方とかわっかんねーし……」
えり「」イラ
えり「あーあ。今頃須賀君はホテルで女の子たちと準決勝進出お祝いパーティをしてるんでしょうねー」
咏「」ピク
えり「きっとすっごい盛り上がってて……ちょっと気が大きくなった女の子たちは須賀君にちょっかい出しちゃったりして」
咏「そ、そんなことあるわけが……」
えり「どうかしらねー案外人って分からないわよねー経験もないのに人をからかったりする人だっているらしいわよー?」ニヤニヤ
咏「う…それは……その、出来心で……」
えり「……まあ、それは冗談だとしても、このままじゃ何も解決しないわよ?何かして後悔するのと、何もしないで後悔するのどっちがいいの?」
咏「…うん。そうだね。えりちゃんの言うとおりだよ。誘う!誘ってみるよ!私頑張ってみるよ!」
えり「やる気になってくれてよかったわ」ニコ
えり(それにしても……私も恋愛経験とかほとんどないのに、よく口からベラベラ出てくるわね、それにびっくりだわ。まあ楽しかったけど…)
えり「じゃあとりあえずデートに明日誘ってみて。口実は散歩でも麻雀でもなんでもいいから、頑張って」
咏「分かったー。とりあえず、後悔だけはしないようにするよ~」
えり「ようやくいつもの口調に戻ってきたわね、それでこそ三尋木プロですよ」
咏「む。また三尋木プロって呼んでる……それに年がら年中ずっとこの口調じゃないんだぜ~?」
咏「まあいいや。ちょっと風呂入って気合い入れてくるぜー!えりちゃんはくつろいでて!」
えり「分かったわ。私もそのあとお風呂借りていいかしら?」
咏「もちろんいいよー別に一緒に入ってもいいんだぜ~?けっこう風呂広いからさー」
えり「え、遠慮しときます……さすがに女同士とはいえ、恥ずかしいので……//」
咏「また真っ赤になってる~えりちゃんかあいいー」ニヤニヤ
えり「知りません//!さっさとお風呂行ってください!」
咏「はいはい~じゃ行ってくるよ~」ガチャ
えり「もう……」
えり「咏ちゃんがお風呂出るまで何しようかしら。そういえば結構たくさん雑誌とか本とか持ってるのね」
えり「本棚に雑誌とかがぎっしり……ほとんどが麻雀のだわ。あ、これは咏ちゃんが載ってるやつね。せまりくる怒涛の火力……恋愛とは印象が大違いだわ」
えり「あれ、あとこの大量のファイルは何かしら」
えり「これは…大量の牌譜?なるほど、今の麻雀界のプロの牌譜ってわけね。うわ、すごい…所々コメントとか書き加えてある…」
えり「全部目通してるんだな…さすがにその辺りはプロって感じね」
えり「こっちは?県大会の牌譜?もしかして今の全国出場校の県大会でのものかしら…」
えり「あ…これもさっきのと同じように書き加えられてる…こんなに細かく…あ、これ今日の千里山と阿知賀と劔谷と越谷の分だ」
えり「これは特に読み込まれてる感じがする……解説担当の分はさらにしっかり読んでるのね」
えり「すごい…知らなかった、裏でこんな努力してたなんて…何も知らずに自分で全部カバーしてたと思ってた自分が恥ずかしいわ」
えり「もっと私も勉強しなきゃ…」
咏「あーいいお湯だったよー」
えり「」ビクッ
咏「あれー?えりちゃん何してんの?あ、それ今日の解説分の牌譜じゃん。どーしたの?」
えり「いえ…なんでもないわ。ちょっと咏ちゃんを見直しただけよ」
咏「んーよくわっかんねーけど褒められてるみたいだねぃ~あははー。えりちゃんもお風呂入ってこればー?」
えり「そうさせてもらうわ。着替えとか借りていいかしら?」
咏「どーぞー浴衣で良ければどーぞ」
えり「……ちょっとこれ小さすぎない?これじゃ下半身が微妙に隠れないんだけど…」
咏「女同士だから気にすんなよー今日一日だけだし、我慢我慢ー」
えり「分かりましたよ、じゃあ行ってきますね」
咏「行ってら~」
ガチャ
咏「……」
咏「うわー牌譜見られたー恥ずかしー//努力するとこは見せない主義なのになー//」
咏「ま、えりちゃんならいいか。と、友達だし……//」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
えり「お風呂いただきました。本当に広かったですね、びっくりです」
咏「でしょー?だから二人で入っても良かったんだぜー?」ニヤニヤ
えり「ふふ…二人で入るのは須賀君とにしたらどうですか?」
咏「!す、須賀君とお風呂とか…//」プシュー
えり「咏ちゃん、顔真っ赤になってるわよ」
咏「う、うるさいなー、仕方ないじゃんか……」ブツブツ
えり「ま、いいわ。とりあえず恋愛の話は終わったから、後回しにした仕事の話するわよ」
咏「げ。もう夜遅いし、明日でよくねー?」
えり「だめです。さあ、やりますよ、三尋木プロ」
咏「プライベートモードは一旦終わりかあ……仕方ないなー始めますか、針生アナ」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
えり「…じゃあ、明日はこんな感じでお願いします」
咏「りょーかい、りょーかい」
えり「あと、明日の解説分の牌譜のコピーとかもらえますか?私も勉強したいので」
咏「いいけどー急にどうしたの?」
えり「いえ……別に私も対戦校のことを勉強しとかないとって思っただけです」
咏「県大会の牌譜なら、検索すれば出てくるんじゃねー?」
えり「それじゃ、三尋木プロの書き込みとかないから意味ないんですよ…」ボソッ
咏「え?」
えり「とにかく!明日コピーさせてください」
咏「わ、分かったー(なんなんだろーこの気迫はー…)」
咏「んじゃそろそろ寝よーか。明日も仕事だしー。あ、なんか敬語に戻ってるよーえりちゃんー」
えり「ああ、忘れてました。この家ベッドがないみたいだけど、布団でいつも寝てるの?」
咏「うん。家に帰らないことも多いけどねー。あ、一応来客用の布団もあるから、心配しないでねー」
えり「じゃあ、さっそく敷いて寝ましょう?もう眠いわ」
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咏「んじゃ電気消すよーおやすみえりちゃんー」
えり「おやすみなさい、咏ちゃん」
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咏「………」
咏「もう寝た?えりちゃん」ボソッ
えり「……ほとんど寝てたけど、今目が覚めたわよ…」
咏「あーごめんごめん。ちょっと眠れなくってさ」
えり「今日いろいろなことがあったからね。体が少し興奮してるのかもしれないわね」
咏「うん…」
えり「…」
えり「あの…咏ちゃん?眠れないなら、一つ質問していい?」
咏「いいよ、何?」
えり「咏ちゃんは須賀君のどこが好きになったの?」
咏「直球だなーどこって言われても…よくわかんねーまだ会ったばかりだしねー」
咏「一目ぼれってやつな気もするんだけど…強いてあげるなら…私を私として認めてくれた気がした、からかなー…難しく言うとだけど」
えり「…といいますと」
咏「そーだな…えりちゃんになら話してもいいかなー…」
咏「今からいきなりわけわかんねー話するから独り言だと思って寝ててくれていいんだけどー」
咏「私自分のことあんまり好きじゃないんだー」
咏「自分の名前とか性格とかは今でもあんまり好きじゃない、まあ昔よりはマシなんだけどねー」
咏「特に性格はこんなだからさー基本的に友達とかできないよねー彼氏とかはなおさらだしー」
咏「えりちゃんだって私と組んでどう思った?なんでこんな人と…とか思ったんじゃない?」
えり「……」
咏「あ、別に責めてるわけじゃないよー?気にしないで。誰だって今までそう思ってたと思うし、私もそう思われるのに慣れてたし」
咏「まあそんな嫌味でテキトーな性格でもそれなりに頭は良かったみたいでさー特に麻雀の才能は飛びぬけてたみたいでさー」
咏「でもそれでさらにやっかみを買うわけだよねーホント世の中って世知辛いんだよねーまあ私が悪いんだけど」ヘラヘラ
えり「……えと…」
咏「そうやって、今まで生きてきたんだ。友達も恋人もそんなもの知らないよ。麻雀だけが私の頼りだよ」
咏「まあ、そんな得意な麻雀でも化け物はいて、小鍛治プロにはぼっこぼこにされたなあ…アラフォーアラフォー言ってるけどあれは正真正銘の化け物だぜ」
咏「話がそれたねーまあとにかく、私は私を頼りにして生きてきたんだよーだから、努力だってそれなりにはしてきたつもりだよー」
咏「その代わり他のものをいろいろ犠牲にしてきた気がする。麻雀に関係するもの以外、ほとんど切り捨ててきた気がするなーま、代償ってやつだ」
えり「……そんな…そんなのって…」
咏「同情はいらんし。というか、えりちゃんに関係なくねー?少なくとも私が選んできた道だしねー」
えり「……」
咏「…って思って生きてきたつもりだったんだ…」
えり「え?」
咏「少なくとも須賀君と…えりちゃんと出会うまでは…」
咏「自分の力で生きたくて…麻雀でいち早くプロになって活躍して、自分の力で生きていけるようになって…」
咏「自分のやりたいことがようやく叶ったとずっと思ってたよ…」
咏「でも…違ったんだよねー」
咏「私は自分の力を他人に認めさせたかったわけじゃない…」
咏「たぶん……私の麻雀の才能も嫌な性格とかも名前も趣味も他の部分も全部ひっくるめて認めてほしかったんだ」
咏「そんな、自分のことを自分として受け入れてくれる存在がほしかったんだよね」ボロボロ
咏「だから……嬉しくて…自分が自分でいていいんだってそう言ってくれてるみたいで…嬉しかったんだ…」ボロボロ
えり「咏ちゃん……」
咏「きっと…一人暮らしにこんなに広い部屋やお風呂ににしたのだって、たぶん誰か友達とかを誘いたかったのかも…」
咏「寝ないで聞いてくれてありがとね…こんなしょーもない話をさー」ゴシゴシ
えり「いえ…話してくれてありがとう、咏ちゃん…やっとあなたのこと理解できたような気がするわ…」
咏「い、いやいやーそんな大げさだよー」
えり「大げさじゃないよ。話すのにも勇気がいったんでしょ?嬉しかったよ。だから、無理しなくていいのよ?」
咏「う…」
えり「私以外誰も聞いてないから、ね?」
咏「えり、ちゃん……う…う…うわあああああああああああああん」
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・
えり「ちょっと落ち着いた?」
咏「うん…すげーすっきりしたわー…なんか24年分まとめて風呂に入ったような気分かなー」
えり「何その例え…でもものすごくすっきりしたんだなってのは伝わったわ」
咏「あははー。でも本当にありがとねーこんなにどうすればいいかわっかんねーのは人生で初めてだって言ったけどさー」
咏「こんなに…こんなに人生で嬉しかったのも人生で初めてだよー知らんけど」
えり「また知らんけどとか言って…そういうのは仕事の時だけにしてくれるかしら?ってなんかそれはおかしいわね」クスッ
咏「これはもう口癖で、特に意味はないんだよねー知らんけど」アハハ
えり「また…もう慣れたから、いいんだけどね。知らないけれど」アハハ
咏「ねえ…これからも私の友達でいてくれるかいーなんかこんなこと聞くもんじゃない気はするんだけどさ~」
えり「そうね…友達は、ちょっと嫌かな…」
咏「え!?」ガーン
えり「どうせなら、親友、とかがいいかな…せっかくこれからも一緒に仕事するんだし…」ボソボソ
咏「ふ~ん…嬉しいこと言ってくれるねえ~ホントえりちゃんはたまに熱くなるっていうか、青臭くなるっていうか…」ニヤニヤ
えり「もう咏ちゃんのいじりにはだいぶ慣れたわ。…さすがにちょっと恥ずかしいけどね//」
咏「つまんないな~でも…えへへ…親友かー嬉しいなーえへへー」
えり「…これで須賀君もゲットできれば、親友と恋人の同時ゲットですね」
咏「確かにーこれは私のこれまで欲しかった人生を取り返すチャンスだよねーちょっと頑張ってみようかな!」
えり「とりあえず、まずデートね。約束を取り付けたら、またいろいろ話し合えばいいわ。最後まで付き合うからね」
咏「うん。分かった。かなり遅くなったね、もう寝ようかー」
えり「ええ、それがいいわね。おやすみ、咏ちゃん」
咏「おやすみ、えりちゃんー」
咏「ありがとう、私の初めてのホントのともだち…」ボソッ .
最終更新:2014年12月18日 01:18