23歳新卒、何の気なしに受けたオーディションに引っかかって

あれよあれよと話がトントン拍子に進み、気が付いたらいつのまにか

就職先が芸能界の大手プロダクションだった。

 一応、扱いとしてはアイドル兼歌手らしいんだけど... 

由暉子「京太郎君。昨日はどこに行ってたんですか?」

由暉子「私言いましたよね?言うこと聞かないと何するか分からないって」

京太郎「ゴメン!本当に寂しい思いさせてゴメンなさい!」

京太郎「だからお願い!手首切るのヤメテ!すっごく心が痛い!」

由暉子「私はもっと痛かったんですよ?貴方と離ればなれになって...」

由暉子「私と一緒にいてくれるって言ってくれたじゃないですか?」

由暉子「なのに、なのに....どうして貴方は」

ボロボロと涙を流すマネージャーさんにどう言い訳しようかと悩む俺。

 悩むと言えば聞こえは良いが、何をしたのかを言ってしまえば、更に

この人は取り返しのつかなくなるところまで暴走してしまうだろう。 

由暉子「はぁ...///京太郎君が私を私だけを見てくれてる..」

 小さくて可愛い外見とは裏腹に俺を担当してくれるマネージャーさんは

かなり病んでる人だった。初対面でいきなり王子様と呼ばれるのは

流石の俺も本気で総毛立った。 

京太郎(ヤベェよ...まじでヤベェよ芸能界) 

 新調した服とアクセサリーが冷や汗で濡れる。

由暉子「それじゃ、事務所に行きましょう」

 マンションの入り口に止めてあるプリウスに乗り込んだ俺達は池袋に

ある事務所に向かった。道路が空いていても気は抜けない。 

由暉子「では、9時半に収録、12時に雑誌の撮影が入っています」 

由暉子「18時からは任意の参加ですが、レッスンがあります」

京太郎「じゃあレッスン参加...」

由暉子「私を一人にする気ですか?」

京太郎「しません...」

 恐怖と脅迫に命と精神を脅かされながら、なんとか事務所に到着する。

 しかし、本当の恐怖はここから始まる。 






竜華「あーっ、京君やん!おっはよー」

京太郎「おはよう、ございます...清水谷さん」

竜華「なんやそんな固くなって!リラックスやで?な」

由暉子「<●> <●>」 

京太郎(ああああ...怖い怖い怖いよぉおおおおおお!!!) 

竜華「いやぁ~昨日は本当に楽しかったな、ん?」

竜華「ほんとはずーっと朝まで君と一緒にいたかったんよ?」

竜華「でもな?小蒔と霞がダメやって言うんよ?」

竜華「こわーいこわーい女が京ちゃんにまとわりついてるからって...」

由暉子「清水谷さん」

竜華「あ?お前、誰や」

由暉子「この人のマネージャーです」

由暉子「いい加減離れて貰えませんか、正直キモいです」

竜華「?????????????」

由暉子「貴方は、京太郎君に相応しくない」

竜華「....よし、<ピー>すか」

京太郎「竜華さん!止めて下さい!」

竜華「あ、ご、ごめんな?別に本気やないんやで?」

竜華「ただ、恋人に絡む鬱陶しいマネージャーに釘刺しただけやからな」

由暉子「その言葉、そっくりお返しします。依存するだけのお人形さん」

竜華「それじゃ、今日も頑張るからな京君。応援よろしく」

京太郎「竜華さん。全力でファイトです!」

 できればそのままクタクタになるまでお仕事していて欲しいです。

 そんな俺の心中を見透かしたのか、苦笑いを浮かべた彼女は去り際に

軽いキスを俺の唇に重ねた後、矢の如く走り去っていった。

由暉子「...す、必ず...八つ裂きに...」

 背中に狂気を突きつけられながら、俺は重い足を引きずり歩き出す。

桃子「京さん...京さぁん...」

 俺の背後から聞こえてくる、甘い甘い囁きとカメラ音。

京太郎(一体どうなってるんだ...誰もコイツが見えないのか?) 

桃子「無駄っすよぉ...ヒヒヒッ。私は...はぁ...はぁ...」

桃子「私を見つけた人に取り憑く...貴方だけの、愛の天使...」

京太郎(いやああああああ!!キモいキモい無理無理無理絶対無理!)

京太郎(なんだよここはまともな奴がいないのかよあああああ!!!)

 なんだよ俺がなにか悪いことでもしたのかよ一体何なんだここは!

由暉子「大丈夫。京太郎君。落ち着いて下さい」

京太郎「マネージャーさん...?」

由暉子「私だけを見ていて下さい。そうすれば直に収まります」 

桃子「はあああああああ!!!なんすかお前まじフザケンナ!」

桃子「それ以上この人に近寄るな離れろ失せろ消えろいなくなれ!」

由暉子「その言葉、そっくり貴方にお返しします。生き霊さん」

桃子「あぁぁぁぁぁぁぁ....」

 ユキの言葉に悶絶しながら消えていく女の生き霊らしき思念。

京太郎「マネージャー...貴方は、一体?」

由暉子「貴方の恋人ですよ」

 明らかにただ者ではない存在を相手取り、言葉だけで退却させる  

マネージャーに俺はいつの間にか目が離せなくなっていた。

 もっとこの人のことを知りたい。

由暉子「貴方が私に振り向いてくれなくても構わない」

 確かに本当に傷つきやすい人だけど、でも自分が傷つく以上に俺に

対して異常なほど献身的に尽くしてくれている。

 不気味なのは確かだ。

由暉子「でも、私は貴方が大好きです」

京太郎「由暉子...さん」 

 彼女のことを分かってあげたいと思うのは傲慢なのだろうか...

由暉子「だって、貴方と私は前世からつながっているんですから...」

 しかし、やっぱり彼女はそんな簡単なタマではなかった。

京太郎「前世があるかどうか分からないけど...」 

京太郎「まずは信頼できるパートナーから始められませんか?」

 とはいえ、まだ駆け出しのまま芸能界から立ち去るのは少々勿体ない。

 自分がどこまで歩いて行けるか分からないけど。

由暉子「はい。喜んで」

 差し出された小さな手を自分の手でしっかりと握りしめながら、俺達は

熾烈な今日を生き延びて、いつか二人で見ようと誓った高みへ至る道へと

歩いて行く。長く長く続く道には障害が立ちふさがるけど。

京太郎「平らげてみせるさ。全部な!」

由暉子「その意気です!」 

 こうして、俺の長く険しく恐怖に満ちた芸能界生活は始まったのだった。

 完