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「……あぁ、寒い」

二月の風はまだ冷たく、一度吹いただけで部活で暖めた熱を奪い去っていく。
ポケットに手を突っ込むも寒さは防げず、京太郎は思わず声に漏らした。

(寒い……いや、寂しいかな)

京太郎の帰宅を邪魔するかのように前から吹く冷たい風。
その中を一歩一歩歩き、自分の思いを探り当てる。
体も寒いが、それ以上に心が寒かった。

今日は、二月二日で京太郎の誕生日だ。
部活に出れば咲達に祝われ、プレゼントを貰う。
嬉しかったし、楽しかった。
しかし……それでも、寂しさだけは埋まらない。

(遠距離恋愛って大変だな)

そう思い、寂しさの原因を取り払うべく、立ち止まるとポケットから携帯を取り出し開く……新着はなかった。
寂しさの原因は彼女にあった。そう現在、京太郎は遠距恋愛の真っ最中である。
夏の大会の時に彼女と出会い、偶然何度か出会い会話をして互いに好きになった。
遠距離が大変な事は京太郎も彼女も知っていた。
しかし、それでも好きになったのだ。

「はぁ……」

毎夜、ネットを繋げて顔を見て会話はしている。
でもそれだけでは足りなかった。

(触りたい。手を繋ぎたい。抱きしめたい。直接笑顔を見たいっ!!)

家に辿り着き、扉を開けて入れば暖かい空気が京太郎を出迎えた。
靴を脱いでいれば、暖かさのせいだろうかそのような想いが溢れでて、涙がじんわりと出た。

「ぐすっ……はぁ、落ちつけ……俺」

袖で涙を拭き、何度か深呼吸を終えた後、リビングへと足を運ぶ。
流石に泣いている所を家族に見せるわけにはいかない。
何事もなかったように扉を開けて中へと入った。

「ただい……ま?」
「お帰り、京太郎」

心は晴れないまま、扉を開けて帰宅したことを告げる。
告げれば、何時ものように/何時もとは、違う出迎えを受けた。

「どげんしたと?」
「……あれ?」

出迎えてくれた人物――彼女を前に京太郎は固まる。
彼女と言えば、そんな唖然としている京太郎に対して長い袖で口元を隠し、くすくすと笑う。

「あれれ……夢か?」
「夢じゃなかよ。京太郎」

京太郎は頬を抓る。こんな都合の良いことがあっていいのかと重い抓るも痛いだけ。
消えない目の前の彼女は、茶色い髪を肩口まで伸ばし、一対のヘアピンで髪を留めている。
服装と言えば、袖だけが長い白いセーターを着込み、スカートから伸びる足は黒いストッキングで隠れていた。
何時もの服装と違うものの、どうみても京太郎の彼女――鶴田姫子、その本人だ。

「っ!!」
「わわわ」

姫子本人だと分かれば遠慮はしない。
京太郎は、本能のまま姫子に抱きついた。

「本物の姫子さんだ」
「……」

姫子と言えば、それに驚き目を大きく広げるも、ぎゅっと抱きついてくる京太郎を見て/感じて頬を緩める。
驚いたのは一瞬だけ、それ以上に姫子自身も京太郎同様嬉しかった。
京太郎の呟きの後、二人は互いに離れていた時間を埋める様に抱きしめあう。

「……それで、何でここに? 平日ですし、学校は?」
「休んだ! 親ば説得すっと大変やった」
「会えてとても嬉しいです」
「私が我慢できなかっただけやけん! お礼ば言われるほどでもなかよ」

互いに抱きついたまま、顔を見合わせ微笑み合う。
その際に姫子がお小遣いなくなったと軽く拗ねる姿もまた可愛かった。

「そうだ! こい!」
「うん?」

見詰め合っていれば、姫子が思い出しとばかりに離れ、ソファーへと向かう。

「えへへ、お誕生日おめでとう!」

そんな姫子に続いていけば、ソファーに置いてあったらしい包みを京太郎は受取った。

「……中身を見ても?」
「よか。喜んでくれと嬉か!」

二人揃ってソファーに座り、京太郎は中身を開けていく。

「マフラー……しかし、長い?」

プレゼントの中身は真っ白いマフラーであった。
するするとマフラーを取り出すも、長々とマフラーは包みから出てくる。
マフラー自体、京太郎も持っているがそれよりも長かった。

「こうすっと」
「あぁ……二人用ですか」

長いマフラーに首を傾げていれば、姫子がそれを取り自分と京太郎の首に巻いていく。
そんな彼女の行動を見て京太郎もようやく、このマフラーの意味を知る。

「……すっごく暖かいです」
「えへへ」

マフラーを巻けば、距離的にもかなり近くなる。
姫子は京太郎の腕に自分の腕を絡め、京太郎の腕に寄り添う。
京太郎はといえば、そんな姫子を見て微笑み、目を瞑る。

(本当に暖かい。心が暖かいな)

マフラーの暖かさ、姫子の暖かさ、両方を感じ取れ、先ほど感じていた寂しさは消えていた。

「ありがとう、最高の誕生日です。姫子さん」
「んっ」

そして、二人は静かに口を合わせた。

カンッ!

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最終更新:2017年10月12日 21:32