[京太郎⇔和 時空@阿知賀]
京太郎くんとは私が一番仲が良かったって断言できた。

穏乃ちゃんと憧ちゃんが麻雀教室に連れてきた男の子。
ドラを大切にしてる私の打ち方をすごいって褒めてくれて、代わりに『じゃあ京太郎くんはおもちを大切にするのです!』と教えたあの日。

憧ちゃんからは初心者に変なことから教えてどうするのかと言われ、赤土先生は苦笑して。
全然勝てなかったけど、それから京太郎くんは私の言う通りおもちに見立てた筒子を大事にし始めた。

それから『玄ねえ、玄ねえ』と私の後をついて回り、一緒におもちを揉みまくって一緒に拳骨を落とされた。
血の繋がらない弟くんとして私は可愛がりに可愛がり、甘やかしすぎだとまた拳骨を落とされた。

私が中学に入って離れても、欠かさず小学校まで迎えに行って時には二人で、時にはみんなで笑いあった。
京太郎くんが憧ちゃんと同じ中学に入って、やっぱり私は欠かさずに迎えに行った。

なのに憧ちゃんが『京太郎くんと離れるべきだとか、京太郎は怪しい』とか言うので私は『京太郎くんをイジメるのはやめるのです!』と颯爽と庇った。

それからしばらくしてだった。私が迎えに行っても京太郎くんがいなくなり始めたのは。
『京太郎くんも姉離れの時期なのかなあ』と考えて、自分はお姉ちゃんから全く離れた経験がないので問題ないとやっぱり迎えに行き続けた。

それで……そう、噂が流れたのだ。京太郎くんと憧ちゃんが付き合ってるって。
それを私に教えたのは、同じく京太郎くんと遊びにあんまりいけなくなった穏乃ちゃんだった。

帰るなり何度も憧ちゃんに電話をかけ、『ないない』と返事をもらって胸をなでおろして……
なんで撫で下ろしたのかと首を傾げた。

数ヶ月後、休日にお姉ちゃんと街に出て、憧ちゃんが京太郎くんの手を引っ張って歩いてるのを目撃して、お姉ちゃんに縋りついた。
憧ちゃんは『あれ、宥ねえ? おひさー』なんて声をかけてきて、私の目線にも気づかず京太郎くんと手を繋ぎつづけていた。

嘘つき、嘘つき、嘘つき。
憧ちゃんは京太郎くんから前は距離をとってたのに。
憧ちゃんは京太郎くんをイジメたのに。
私から京太郎くんを盗った。

その時になって、手遅れになってから、私は思い知った。
私はいつの間にか京太郎くんを弟のような存在じゃなく、一人の男の子として見ていたんだと。

大好きな彼を盗られて、私は麻雀教室の掃除の頻度を増やした。
あの時の、私と京太郎くんが一番近かった時を思い返しながら。

そして……京太郎くんは中学2年の春、奈良から去っていった。
穏乃ちゃんが落ち込み、私が泣き、憧ちゃんは……京太郎くんから逃げ回っていた。

信じられなかった。あんなに私たちが欲しがってた京太郎くんを手に入れておきながら、逃げたのだ。
その時にはもう私は知っていた。穏乃ちゃんが京太郎くんに向ける目の意味に……同類の私が気づかないはずがなかった。

そして彼がいなくなって、私は麻雀教室の掃除を欠かさずただただあの日々を思って待っていた。

そして私が高校生になった年の夏、穏乃ちゃんが私に朗報を持ってきた。
待ち続けた意味はあったのだと、あの日々は嘘じゃなかったのだと、私は嬉しくてたまらなかった。

インターミドルのチャンプになった京太郎くん。
その打ち筋の源流は私が教えた『おもちを大事にする』打ち方だった。
憧ちゃんに否定された、私達の絆だった。
無駄じゃなかった。私の教えを大事にしながら彼は男子中学生の頂点に立ってくれた。

そして穏乃ちゃんは、一緒に京太郎くんに会いに行こうと誘ってくれた。
穏乃ちゃんも私と同じだし、協力し合えるなら嬉しかった。あの楽しかった日々のように、また――

そして憧ちゃんが、阿知賀に来るという。
今更、そう、あの時逃げておいて、今更。

穏乃ちゃんは『これで三人ですね!』と言いながら目のどこかに不安が見えた。
当たり前だと思う。だって憧ちゃんは、京太郎くんの恋人だったのだ。
再会すればどうなるか――それを心の中で怯えながら、しかし人数不足で受け入れるしかない。
全国に行くには麻雀を続けていた人間の力が、憧ちゃんの力が必要になる。

私はどうすればいいのか? 彼に会いたい。憧ちゃんを会わせたくない。
助けておねえちゃ~ん!!


『クロチャーの事情』 カン
最後の最後で姉に泣きつくあたり、クロチャーはクロチャー

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最終更新:2017年10月12日 23:26