「お母さん!」 「やだよ、おばあちゃんっ」

 夏の日差しも翳り、カゲロウの声がかすかに聞こえる。
 あの人が逝き、どれくらい経っただろう。
 娘たちや孫が臥せった布団の周りに集まっている。

「ミヤコ  マサオ サトミ キョウカちゃん タカフミちゃん」

 もはや霞みがかった視界。これが最期と、
 がさつく喉よ裂けろと精一杯の声で名前を呼ぶ。
 ああ、そんな悲しそうな顔をしないでほしいものだ。
 思えば私は十分に生きた。生きてしまった。

 あの夏。命を振り絞って戦った夏。
 あの人と出逢った夏。
 恋をした、夏。

『大丈夫ですか?』 『うわ、あっつ! でも汗全然出てない……!』
 『スポドリ、どうぞ。ストローもありますんで必要なら言ってください』
                                                                  怜
  『あ、また会いましたね!』 『先鋒戦、かっこよかったです! こう、命張ってます、みたいな――』
                                            怜
   『え? ……はい。俺も、怜さんのことが好きです』
                『あっ!? ちょ、駄目ですって! 急にそんな動いたら!』
                        『言わんこっちゃない。はい? ああ、もちろん言いませんよ誰にも』
                怜
 『愛してるよ、怜』
     怜

 ああ、迎えにきたんやね、京
 私よりも先に逝くなんて、優しい京らしいいうか、最期にいけずだったっちゅうか

 うちは幸せやったよ。京のおかげで。ようやくまた逢えるわ。
 遅刻は許してな。ほら、うち病弱やから……。えへへ。
 あの日から今日まで、今日からも、ずっと。

「好きやで京――――


カンッ

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最終更新:2017年10月13日 00:11