最近、胸が苦しくなる時がある。
……と、親友の初美ちゃんに言えば即座に「はー私も苦しくなるくらい育ちたいもんですよー」と返ってくるので、あの子も大概拗らせてるわねえ、と思いつつも、やはり時折苦しくなる胸に想いを馳せる。

病気ではないと思う。
つい先日の健康診断ではなんら問題もなかったのだし、精々がまた胸のサイズが大きくなったことくらいだろうか……と、「まーだ育つんですかー大概にしてくださいねー」などと初美ちゃんにバッサリ切られるように言い放たれた記憶をも蘇らせる。
ちなみに彼女は一ミリだって育っていなかった……背丈も胸も。

さて、と考える。
ならばなにか……一応、胸が苦しくなる条件はわかっている。
最近こちらに越してきた神境に縁のある一族……その一人息子さんだ。
須賀京太郎、と言うなんとも立派なお名前で、背の高い、目も覚めるような金髪が活動的な印象を与える、整った顔立ちの殿方だ。

最初見た時からそうだった。
稲妻が脳天から爪先まで突き抜けるような衝撃が走り、鼓動は高まり、胸がきゅうきゅうと締め付けられた。
顔が火照り、吐息が漏れ、気がつけば彼の少年を目で追っていた。
視線に気づいた少年がこちらに笑い掛けてくれただけで、痛みはより強くなったのは今でも覚えている。

けれど、その理由がわからない。
何故、衝撃を受けたのか。
何故、顔が火照ったのか。
何故、吐息が漏れたのか。
何故、彼を目で追うのか。
何故、何故、何故。

「見た目は大人びてても情緒は一番幼いかもですねー」と、初美ちゃんに言われた言葉が過る……その顔は見た目の幼さとは裏腹にどこか大人びていた。
確かに、私はどこか人の感情に疎く、幼いままの子供を心の内に秘めているように自覚している。
もしももう少しだけでもその子が育っていたなら、この痛みにも説明や理屈が付けられたのだろうか?
答えはでない。

今もこうして彼を見ている。
呑気に姫様や春ちゃん、巴ちゃん、初美ちゃんと笑っている。
人の気も知らないで、まったく困ったものだと、八つ当たりじみた思いが浮かぶ。
胸は変わらず痛み、きゅうきゅうと締め付けているようにも思える。
けれどやはり、そんな彼に視線をやるのが、私は心地いいのだった。

この想い、この痛みの正体に私が気付くのはそれから幾らか月日を重ねた頃になる。
その頃には、同じような想いに至った子達がたくさんいて……私、石戸霞は、別の種類の痛みに悩まされる事になったりするのだった。

カン

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最終更新:2018年04月28日 23:10