えり(……遅い)

もう何度目になるか、時計を確認する。
さっき見た時から一分も経っていなかったが、えりには一時間ほどにも感じられた。

えり(はぁ……全くあの人は……)

付き合ってもう二年だろうか。京太郎が遅れてくるのはいつものことだが、それにしても今回は遅すぎる。

えり(……せっかくプレゼントも用意したのに)

高いアクセサリーより手作りお菓子、という本人の希望で、生まれて初めて焼いたクッキー。

えり(正直、美味しくできた自信は無い……)

長く待っているあいだに不安が大きくなってきた。もうこの場で食べてしまおうか――

えり(あ、来た)

人ごみをかき分け、急いでこちらにやってくるのが見える――やはり金髪は目立つ。

京太郎「――ごめんっ、遅れた!」

えり「遅いっ!」

首を竦める京太郎。しかしえりも止まれない。

えり「何度も言うけど、そんな風に謝って許されるのは今だけなんだから!社会人になってそれじゃ――」

京太郎「ちょ、分かった!分かったから!ごめんって、次から気を付けるから!」

えり「次から次からって、そればっかり!大体、なんでメールもしないの!?私っ、」

まずい、と思ったが遅い。涙がポロポロこぼれ出す。

えり「不安、だったんだから……!もう、来ないんじゃないかって……楽しみにしてたの、私だけだったの……?」

京太郎「……ごめん。いつもいつも、遅れてばっかで」

ギュッ

えり「……またそんな調子良く。今日はそう簡単に許されると思わないでよ」

京太郎「……うん、分かってる。それじゃ、まずどうしようか?」

えり「……プレゼント。今年もあるんでしょ」

そう言うと、京太郎は少し困ったような顔になる。

京太郎「……それは最後のお楽しみにしない?」

えり「駄目。今すぐ」

仕方ない、と京太郎が取り出した箱は、それは――確かに、最後に取っておいた方が良かったかもしれない。

えり「……指輪なんて、どうやって買ったのよ」

京太郎「給料三ヶ月分、ってとこかな」

えり「……私でいいの?」

京太郎「むしろ、俺が振られてもおかしくないと思うよ」

えり「……バカ。振るわけないでしょ」

今日は、今日ぐらいは。許しても良いだろう。


だって、こんなに幸せなんだから。

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最終更新:2018年05月02日 16:45