「なぁ、須賀。最近授業中五月蠅過ぎなんだよ…… 反省してんのか?」
「はい…… すいません……」
掘りの深いジャージの教師に職員室に呼び出されてさっきの英語の時間の態度を注意されている金髪の男子。
一見不良そう並みためだが中身はすごく素直で真面目な男子生徒、名前を須賀京太郎と言う。
「まぁ、お前のことだから何らかの理由があるんだろうが、一応のけじめとしてだな…… 理科室の掃除頼むわ」
「……えっ?」
「一人でな、ちゃんと机も綺麗に拭けよ」
「えええっ!?」
………………………………
……………………
…………
……
「はぁ…… なんで俺一人で掃除なんだよ、原因は竹井さんにもあるはずだろ……」
放課後、理科室に到着早々手に持ったかばんを適当な机の上において罰の掃除をすべく箒入れに近づく京太郎。
自分の不条理な境遇を嘆きつつブツブツと恨み節を口にするその表情は暗い。
「授業中からかってくるから…… まぁ五月蠅いのは俺のリアクションだし…… 仕方ないか」
そう言って箒入れの扉に手を掛けて開ける。
「さっさと掃除を終わらせるか…… ん?」
「…………………」
「うおぉぉぉぉぉぉっぉおおお!?!?!?」
開いた掃除入れの中をのぞくと、中に少女が一人居るのが目に入る。
一瞬脳が処理を拒み、フリーズしてしまう。
そして状況が呑み込めた瞬間、京太郎は大声をあげてしまった。
「た、竹井さん!!」
「あははははは! ビックリしてる! あははははは!!」
京太郎のオーバーリアクションがあまりにも面白かったのか可愛らしい声で笑う少女。
「やぁ、じっと我慢してた甲斐があったわ」
「た、竹井さんも罰で掃除?」
明るい笑顔で京太郎に話しかけながらなおも笑い続ける少女、竹井久。
京太郎のクラスメートで、京太郎をことあるごとにからかい続ける少女だ。
そのからかい方は上手で巧みの一言に尽きる。
何時も被害に遭っている京太郎が彼女を恨むことが全くないという点で人好きのする性格なのだろう。
「……………………」
「……ん?」
「ちゃっちゃと終わらせちゃいましょうね」
「お、おう……?」
京太郎の問いかけに意味深な間を開けてから答える久。
その含みのある答え方に戸惑い気圧される京太郎。
そんな彼に近づいてくる久。
「早く終わったら…… 2人で良いコトしましょう?」
京太郎の耳元で色気たっぷりに言う。
2人は高校三年生だ、青春真っ盛りの年頃の男子に美少女と言っていい久がそんなことをすればどうなるか……
京太郎の脳ミソがフル回転で稼働する。
久の言う良いコトとは何なのか?
どんどん想像が飛躍していって人には言えないピンク色に染まっていく。
「うおぉぉぉぉぉぉおお! やったるぜ!!」
一体ナニを想像したのか、京太郎のやる気が天元突破していく。
少し顔が赤くなっているがそのことを指摘してやるのは酷と言うものだろう。
そんなチョロイ京太郎を眺めて、ニコニコ笑う久。
(ああ、やっぱり須賀君可愛いわ~、こういう男の子好きだわ~)
事あるごとに久が京太郎をからかう理由。
それは非常に幼稚なことだが、好きな人には意地悪したいという事だったりする。
傍から見ればすごく仲のいい京太郎と久。
実はクラスメートたちから夫婦認定されているのだ。
もっとも、久はそれを知ったうえで京太郎をからかっているのだが……
一方の京太郎は夫婦認定も、久がからかう理由も何も知らなかったりする。
青春を過ごす2人の未来、それを知っているのは神様だけ。
最終更新:2018年05月02日 16:51