久「まあまあ和、気持ちは分かるけど私たちにも打たせなさいな」

まこ「ほうじゃの。わしらも新入部員の実力を確かめさせえ」

和「…分かりました。先輩方にお任せします」

京太郎「い、いやあの…まだ部員として入部するとは…」

和「…!」ジロッ

京太郎「ひっ…!(は、原村さんって怖い人だな…)」ビクッ

咲「和ちゃんこう見えて割とガンコだからね。諦めなよ京ちゃん」ポン

京太郎「テンメェ覚えてろよ咲…」

咲「ふふん。覚えてろってヘタレの京ちゃんが何するつもりなのかなー?」クスクス

京太郎「うちに泊まりに来たときにカピーと遊ばせない」

咲「!?」

京太郎「さらに朝飯に納豆出してやらん」

咲「!!??」

久(なんか今、学生議会長として聞き捨てならない発言があったような…)

まこ(奇遇じゃな。わしも先輩として苦言を呈すべきことが聞こえたよったわ)

和「じゃあ私は部長と須賀君の間で見させてもらいます」

優希「ならわたしも抜けるじぇ。ちょうどタコスタイムだしな!買いに行ってくるじぇ!」ピョイ

  • 東3局 -


京太郎(ここまで二連荘の咲の親番。東ラスの親があるとはいえ、この親が何事もなく素通りするわけもなし…か)チラッ


咲捨て牌:東南西1p8p6m3s


京太郎手牌:12335799m555s南南【ツモ南】


京太郎(クッ。初っ端から俺に重なる前に南を打たれ…か。加えてテンパる寸前の絶好のカン6mの処理。
    ったくイヤミったらしいってのか…相変わらずはどっちだよ)   

和(第一打からのダブ東切りに加えて既に中張牌の脂っこいところが出てきてますが、咲さんの手はどこまで進んでいるんでしょう?)

京太郎(とりあえずテンパイを入れることはできるが、さてどうするか)

和(3mは一応の筋ではありますが。須賀君の選択は果たして…?)

京太郎(仮に咲が速いとすればここから一通への変化は遅すぎる。到底間に合うわけがない。それ以前にいかに咲が縦寄せが得意と言っても、
あの3sがテンパイサインならそのマタギの5sは危険極まりないし、それは一巡前の打6mから7mもしかり。
咲は割とテンパイからの空切りも奇襲的にやってくるしな。愚形だけどここでテンパイを拒否する理由…
   というより3m以外を打つ選択肢がない。ただし…)スッ


12335799m555s南南【ツモ南:打3m】
    ↓
1235799m555s南南南【カン6m待ちテンパイ】


和(4m引きでもフリテンのこの状況でダマを選択…冷静ですね)

京太郎(普段なら親の現物待ちのダマなんかしなけど、生牌で所在の掴めないドラの7p待ちを否定できない以上リーチはできない。
    というより咲や照さんほどじゃないが、俺もどちらかと言えば感覚派。
    俺の勘が正しければこの手牌、余程のことがない限りアガりはない。しかも…)


久「…」ゴゴゴゴゴゴ


京太郎(…敵は咲だけじゃないみたいだしな)

  • 次巡 -


和(あっ…部長の方はどうでしょう?)チラッ

久(さーて…掴まされる前にテンパイしないとね)スッ


久手牌:1245678m5(赤)77p222s【ツモ3m】


和(!!部長が持ってきましたね。高目一通ドラドラで即リーの一手)

久「…」

和(?何を悩んでいるんでしょう?赤5pが誰かの当たり牌だとの警戒ですか?)

久「…」ジッ

和(この待ちで何を躊躇う必要があるんです?これ以上の長考はブラフにも…)

久「……仕方ないわね!リーチ!」


1245678m5(赤)77p222s【ツモ3m:打5(赤)p】
    ↓
12345678m77p222s【369m待ちテンパイ】


久捨て牌:西9s7m発中1p北5(赤)p


京太郎(アガりへ向かう気配がかなり濃いと思ってたけど、やっぱり来た…!)

まこ(赤5p切ってのリーチ?足止め…それとも勝負手か?)

咲(んー。いいところなんだけどなー)


まこ【打5p】タン


咲【発ツモ切り】タン


和(リーチを受けて染谷先輩は降り?)


京太郎【打南】タン


和(須賀君も南の暗刻落とし…)

京太郎(咲はツモ切りだけど、勝負手の時に感じる強いオーラが消えた。
    親が受けに回った以上、今の俺の態勢じゃ突っ張れないよな)

  • 数巡後 -

久「ツモ!」ピンッ バチン

京太郎「!?」ビクッ


12345678m77p222s【ツモ9m】


久「3000/6000」

京太郎(びっくりした…すごいツモり方だな。それにしてもこの人…)

まこ「そのツモやめろ言うとるのに」

久「ごめんごめん。つい気分が乗っちゃうとね~」

和「…」

咲「?和ちゃんどうかした?」

和「!?い、いえ何でも」

久「…ねえ和、リーチのときの私の長考が気にいらない?」

和「えっ…ええまあ、正直に言わせていただければ」

久「やっぱりね。ねえ、須賀?」

京太郎「は…はい!何でしょうか」ビクッ

久「和に説明してあげてよ」

京太郎「お、俺がですか!?」

和「須賀君は分かるんですか!?部長のあの長考の意味が!」

京太郎「ま…まあ『多分こうかな~』って予想くらいは…はい」

まこ「ほう、わしも聞きたいのう」

京太郎「は、入り目は分かりませんが。7mの早切りからして2mか3m…でしょうか?」オソルオソル

久「正解。3mよ」クスッ

京太郎「(ほっ…よかった。ここが外れてたらただ恥ずかしいだけのヤツだった)5pをギリギリまで温存したのはこれにくっつくか、
    もしくは6m先引きなら一通を嫌ってマンズのペンチャン落としへ移行の構え…」

久「ええ」

京太郎「ところがここにダイレクトに3mをツモってしまった」

咲「絶好の三面張に見えるけどなぁ…」

京太郎「愚形テンパイの地獄待ちでも勢いがあるときはあっさり拾える牌が、自分に流れがきてないときは
    多面張でもツモれなくなるなんてよくある話。咲なら分かんだろ?」

咲「あるある。極端に酷いときなんて、お姉ちゃんの連荘中にお父さんにメンホン四面張のダブリーが入ったと思ったら、
  アガり牌14枚が全部王牌に死んでた…なんてことがあったもんね」

久「うわあ…」

まこ「おお、もう…」

和「偶然です!確率の偏りです!」

京太郎(あのとき咲のお父さん、『うあああああああ!!もう麻雀やめてやるうううう!!』って絶叫してたなぁ…)

咲(翌日、そこには元気に全自動卓のスイッチを入れるお父さんの姿が!!)

京太郎(『もう二度と不用意にダブリーかけたりなんてしないよ!』…ってか)

久「話題がそれちゃったわね。続き、いいかしら?」

京太郎「あ…す、すみません。まあ流れ云々はともかく、原村さんから見ても、咲に6mを先処理されてるのは無視できないですよね?」

咲「“さき”だけにね!」フンス

和「ええ。それは分かります」

京太郎「それを踏まえて部長…竹井先輩は、この手のアガり想定の一番手を、ダマで構えて、親の咲の6m切りを受けての
    俺か染谷先輩からの9m放銃と読んだ…」

咲「無視しないでよぅ…」グスン

京太郎「お前事あるごとにそのネタ使い過ぎなんだよ」ポン

和(確かにもし私が須賀君の変わりに座っていて、咲さんの河に南がなく、部長がダマを選択していれば、
  手牌の進行によっては親の安牌として雀頭の9mはどこかで処理していたかもしれません…)

まこ(わしも掴まされとったらノータイムじゃったかもしれんの)

久「でも単なる8000点の出アガりじゃ、トップの咲に点数的にはともかく、勢いや運量という意味で追いつくのは難しいわよね」

京太郎「…とは言ってもリーチを敢行したことで、俺や染谷先輩に受けに回られてアガり牌を抱え込まれるのはもちろんですが、
    そのスキを好調な親の咲に突かれて反撃されるのも怖いですよね」

咲「そうじゃなくても染谷先輩も京ちゃんも守りが堅いしね」

久「ダマの方がまだアガれそうに見える。でも勝負どころでは一見するとアガれそうにない方に受ける。これが私の麻雀よ」

京太郎(結果、俺にトイツのど高目の9mをツモって跳満。しかもトップ目の咲が親っ被りか…)

咲「それにしてもダマ満を捨ててのリーチか~。引けなかったらどうするつもりだったんですか?」

久「悔しいけど、素直にこの半荘は負けを認めるしかないわね」

京太郎(一瞬頭に浮かんだ3m犠打が正着手だったのか?いやこの人は元より安目見逃し覚悟のはず…そうなると、
    咲の鋭い感性ならそのフリテン変化で生じた微妙な空気の淀みを感じ取って全ツッパもあり得た。
    そうなった場合、少なくとも最近牌を握ってなくて完全に感覚が鈍ってる俺に止められたとは思えない)

久「ツモれちゃったからまだまだいくわよ!まずは連荘から!」ジャラジャラ

京太郎(クッ…正に最悪のタイミングでの親番。というかそもそもそれ以前の問題として、咲に処理された時点で
    例え自風でもそれにこだわらずに南のトイツを落として手を平たくするという手順は無かったのか?
    結果手の進みは遅れるにしてもそれによってまた違った展開も…)

和「…」

京太郎(まあ原村さんもこんな緩手を打つような男を無理に部員に引き入れようとは思わないだろうし…結果的にはよかったかもな)

和「須賀君」

京太郎「はい、後ろで見ていただいているのに緩い手を打ってすみませ」

和「あなたにはデジタルの才能があります!!」

京太郎「!?」

和「須賀君が実戦で磨いてきた牌理に私のデジタル理論を合わせればより高みにいけるはずです!」

京太郎「え…ええ…?」(困惑)

和「入部したらまずは付きっきりで私の打ち方を見てもらいます。そして逆に私の打ち方を見ておかしいところを指摘してください」

京太郎「既に入部することが前提になってる!?いやいや俺なんて大した打ち手じゃ…」

和「謙遜しないでください。須賀君は私がこれまで出会った同世代の雀士でも、一位、二位を争うくらい理論的で牌理に明るい人です!
  さらに私にはない、リアルな情報を戦略の一部にできる経験則があります!」

久「よっぽど自分と対等に牌効率やデジタル的な話ができる相手ができたのが嬉しかったのね…」

まこ「うちに感覚派が多すぎるんが問題じゃが、加えて顧問やコーチもおらんからの」

京太郎「あ、あの!原村さんって確かインターミドルチャンプですよね?そんな人に俺が教えることなんて…」

和「まずは須賀君の麻雀から“流れ”“勢い”“運量”“感性”といった単語を完全に排除することから始めましょうか」

京太郎「聞いてない!?っていうかそれ俺の麻雀の半分以上を占めてるんですがそれは…」

和「これ、私のネトマのIDです。今晩から毎晩8:00には必ずログインしてください。ああ、電話番号とメールアドレス、
  ラインも交換しておきますね」

京太郎「…」チーン(白目)

咲「…」ソー

京太郎「おいコラ待てや咲」

咲「!?ナ、ナニカナキョウチャン?」

久「声が上ずってるわよ咲」

京太郎「この半荘が終わったあと、ちょっと“お話”しようか」

咲「やだよ!それ絶対“お話”じゃなくて“お仕置き”じゃない!痛い思いすること分かってるもん!」

京太郎「心配するな。お前が〇らすまで全身くすぐり倒してやるだけだ…全然痛くないぞ」

咲「そっちのがやだよ!」



カン!

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最終更新:2019年03月11日 00:52