それは宮永咲にとって黒歴史に属するもの。
それは中学1年のある日、迷いに迷いすぎた上にトイレが空いていないという事態になり、ついに、ついに……

泣いた。ビービーと泣いた。見られたら恥ずかしいことがさらに積み重なるのに、頭から吹っ飛んでいた
生温い水分がべっちょりと広がってスカートに微かな色がついてしまうぐらいに

そして、いつの間にか泣き声を聞いてバタバタと何人もの足音がして、やっとのことで今自分が人に見せられない姿だというのに気づいた。
あわあわと慌てるも、てんぱった頭に妙案なんて浮かぶはずもなく、

〇〇「こっち!」

クンと手を引かれて茂みの中に連れ込まれた先に体操服姿の男子がいて、咲は口をそっと抑えられて目を点にしたまま思考が空白に陥って

〇〇「やーっといったか。ほれ、俺の体操着の下あるからそっちに着替えろ。あと水で染み抜きするからスカートよこせ。あ、見えないとこに行けよ」

大人たちと元気な子供の襲来を無事隠れおおせた後、少年はポンポンと指示を出して行動に起こす
それに対してなぜだか頼もしさを感じて、宮永咲はもじもじと俯いて

咲「ごめんなさい……」

〇〇「違うだろ、そいう時は『ありがと』でいいんだって。んじゃ、俺はもう行くから」

咲「え、でもズボン」

〇〇「貸す、んー、やってもいいか。俺は平気だからさ」

うおぉぉっ! と雄たけびを上げて注意を引き付ける男子の全力疾走。上だけ体操着、下は下着のみというそのインパクトはすごく

××「何やってんの、〇〇! すげえ変!」

〇〇「落としたんだよ! 俺はこのまま制服に戻るんだ! 邪魔する奴はかかってこい!」

訳の分からない大騒動の裏で救われた女の子が一人だけいたのは、二人だけの秘密。

借りたズボンは三年経つのに返せてない。会う機会ならたくさんあったのに、言い出せずじまい。

咲「そもそも覚えてるのかが怪しんだよね」

そっと思い出の品のタブを見る。そこには『須賀』の文字が書かれていて。

黒歴史でアンモニアくさい……でも胸の中では甘酢っぽいこの気持ち、いつになったら言い出せるんだろう?


カン

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最終更新:2019年03月11日 00:54