「……鬱陶しいな」


 どんよりと曇った夜の空。
 今にも雨が降りそうな重く湿った風が私の髪に絡む。


「早くかけてこいっての、ばかきょー」


 いよいよ都予選を明日に控えた七夕。
 夏に不釣り合いな体を冷やす空気。
 雑魚たちからの嫉妬、罵倒、嫌がらせ。
 さいきょーにはまだ遠い私。
 全てが嫌になりそうだ。


Prrr♪ Prr「遅い!」

『もsうわっ、おまっ、声でかいって! ご機嫌斜めだなー、お姫様?』


 久しぶりの、アイツとの会話。胸の奥がきゅっと締まる錯覚。
 声が震えないように、変に上擦らないように息を一つ吐いて。


「ふん! この淡ちゃん様とお話できることに感謝の一言もないの」

『ハハーッ、ありがたき幸せでごぜェますだー』


 私の気も知らないでいつもの軽口が来る。
 ……? 違う。何か変だ。


『おーい。淡ー? 淡お嬢様ー? いや、ほんとごめんって。俺も最近忙しいんだよ』

「キョータローが私より優先することって何さ」

『ん? あー。ま、いいじゃん。せっかく今日はこんなに星が綺麗なのに』

「こっちは曇り」


 思わず口をついて出た言葉は不機嫌100%。
 話してくれないことがさらに不安を煽る。


『そいつは残念! まさにミルキーウェイな天の川、両岸には煌めく一等星! 俺には見えてる』

「私も見たかったな」

『……明日はインハイ予選だろ? しっかり寝てさ、他のやつらを蹴散らしちまえよ』

「ん。じゃあもう寝る。電話ありがと」

『おう。んじゃまたな』


 電話が切れる。
 いつの間にか俯いていた。


「風……クーラーつけてたっけ?  あっ」


 ふわりと撫でるように吹いた風。
 つられて見上げた空にはほんの一瞬、星が輝いていた。


「そっか。そうだよね。……負けるもんか。私は大星淡だ」


カンッ

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最終更新:2019年03月11日 01:19