京太郎「ほら、いつもの」

咲「はい。いつもありがとう、京ちゃん」

京太郎「……違った。誕生日おめでとう、咲」

咲「あ、そうだね。なんか普通に受け取っちゃった」


咲「でも、また今年も中身は図書カードなんでしょ?」

京太郎「まぁな」

咲「べつに、毎年同じじゃなくてもいいんだよ?」

京太郎「そうは言っても、俺の中の咲はいっつも本読んでるイメージだから、やっぱ本関係がいいかなって」

咲「じゃあ本をプレゼントすれば?」

京太郎「お前……そう言って、俺が選んだ本は子供っぽいだのセンスが無いだの、却下しまくったじゃねえか!」

咲「そうだっけ?」


京太郎「そうだよ! それで結局、じゃあ咲が好きなの決めろよって図書カードになったんだろ」

咲「あー、思いだした。京ちゃん、誕生日プレゼントなのにマンガとか選ぶんだもん」

京太郎「だって咲が読みそうな本とかよくわかんねぇし。俺が普段読んでる本でいいって言ったじゃん」

咲「だからって、なんで18巻だけプレゼントしようするの!? テキトーすぎるよ!」

京太郎「なんでそんな細かいところは覚えてんだよ……」

咲「そういえば、最近本屋さん行ってないなぁ。行きたいなぁ」

京太郎「このごろ、忙しかったからな」

咲「うん。それもあるけど……」

京太郎「ん? なんか事情でもあるのか?」

咲「えっとね、私が表紙の雑誌とか置いてあってね……」

京太郎「なんだ、有名自慢か」

咲「そ、そういうんじゃないってば! でもちょっと恥ずかしくて……」


京太郎「大丈夫だって。そういうのって案外、気付かれないもんだよ」

咲「えー」

京太郎「それに咲の場合、普段と対局中の雰囲気が全然違うし」

咲「そうかな?」

京太郎「こーんなポンコツ娘が、まさかあの嶺上魔王だとは誰も思わないって」

咲「誰がポンコツだって? 誰が魔王だって?」ゴッ

京太郎「さ、さーてね……それで、どうする?」

咲「え?」


京太郎「本屋。行きたいんだろ?」

咲「あ……うん、行く!」

咲「本屋さんって楽しいよね。いっしょに楽しもうよ!」

京太郎「テンション高ぇなコイツ」

咲「まずは雑誌コーナーから攻めるよ、京ちゃん!」

京太郎「はいはい」


咲「秋服かぁ。結局、春モノでなんとかなっちゃうんだよね」

京太郎「女子力低っ。まぁ、俺もそのへんテキトーなんだが」

咲「ちょっと買い物に行くくらいなら制服で間に合うしね」

京太郎「学生の特権だな」

咲「『ご飯がすすむおかず特集』だって」

京太郎「新米の出る時期だからな。へぇ、秋さば……きのこ汁……」

咲「ゴクリ……食欲の秋もいいよね」

京太郎「ああ、いいな……」


咲「さて、やってまいりました新刊コーナー!」

京太郎「ここが本命か?」

咲「そうだよ」

京太郎「いつもどんな本読んでるんだ?」

咲「海外の作家で、ジャンルはミステリー物をよく読むかな」


京太郎「ふーん」

咲「うわー、まったく興味なさそうなリアクション」

京太郎「いつだったか、お前にそんな感じの本借りたことあったろ。全然アタマに入ってこないんだよ」

咲「読みやすいのをセレクトしたはずなんだけど」

京太郎「会話も、なんか小洒落たような言い回しが……」

咲「それがいいんだけどなぁ」


咲「よし、これにしよ」

京太郎「決まったかー?」

咲「うん。待たせちゃってゴメンね」

京太郎「いいって。それにしても、けっこう悩んでたな」

咲「欲しいのがたくさんあって迷っちゃったよ」

京太郎「そんなに考えてもらえれば、俺もプレゼントした甲斐があるってもんだ」

咲「ありがとう京ちゃん、今度貸してあげるね」

京太郎「いえ、それはいいです」

咲「もー」


京太郎「にしても、よく読むよなぁ。活字中毒ってやつ?」

咲「それほどでもないよ。あ、そういえば新しい本棚追加したんだよね」

京太郎「それほどでもあるんじゃないのか」

咲「小さいやつだよ? まだ数冊だけで、ほとんど空きスペースなんだけど……」


咲「そこには、京ちゃんからプレゼントしてもらった本が入れてあるの」

咲「わ、私ね、いつかその本棚を埋めるのが夢っていうか……そうなればいいなぁって思ってるんだけどね」

咲「なんていうかアルバム、みたいなさ。思い出を積み上げていきたいなって」

咲「1年に1冊。本を手に取ると、その頃の記憶をよみがえらせてくれるような、そんな本棚」

咲「今はまだちょっとしか置いてないけど、これから増やしていきたい。何年もかけて」

咲「でも、それは私一人じゃ出来ないんだ」

咲「だから、京ちゃんに……手伝ってもらいたい……」

咲「そ、そういうのってどうかな? 素敵だと思うんだけど」

京太郎「咲……」

咲「京ちゃん……」


京太郎「お前どんだけ誕プレ欲しいんだよ」

咲「ち、違うよ!? そういう意味じゃないよ!」


咲「京ちゃんの鈍感! 私が欲しいのは……!」

京太郎「欲しいのは?」

咲「~~っ!!」プルプル


咲「…………はぁ、もういいよ。これだから京ちゃんは」

京太郎「テンション上がったり下がったり忙しいな」

咲「とにかく、誕生日プレゼントありがとうね」

京太郎「どうも。どういたしまして」



XX年後


「そろそろ新しい本棚買わないとなぁ」

「そうだな。次の誕生日には、一緒に用意しとくか」

「やった。どんなのにするか今から考えとこ」

「いっそ、この機会に電子書籍に移行したらどうだ? 今そっちの方が主流だろ。わざわざ紙の本なんて」

「紙の本だからいいんだよ。電子書籍じゃこの手触りや質感は味わえないもん」

「ああ、そういや未だに咲はタブレットも使えないんだもんな。買わないんじゃなくて買えなかったんだったな」

「もう、京ちゃん!」

「ははっ、わるいわるい。でも、こうやって見ると歴史を感じるよ。1冊で1年だから」

「私達も年とったよね」

「だな、子供の頃からずっと一緒で。まぁ……なんていうか」


「これからもよろしくな、咲」

「よろしくね、京ちゃん」


カン!

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最終更新:2019年03月11日 01:41