しっとりとした触感。
ふわりとした重さが、否応無しに幸福を約束してくれるという確信。
甘やかな時間を長く過ごすのに、言葉は最早邪魔でしかない。
二人きりの時間。
二人きりの絆が、確かにそこにはあった。

『玄さんのおもちは、出来損ないなんかじゃありません!断じて!』
『いえ、この宇宙に出来損ないのおもちなんて存在しないのかも知れません!』

寝間着姿の玄に迫る時の彼は、真面目で、真剣で、優しく、雄々しく、愛おしかった。

『俺、触ったことも、これから触れる可能性もないかも知れませんけど!でも!玄さんのおもちは素敵なものです!』
『なら……触ってくれる?』

熱に浮かされて、玄は何を言ったのか、一瞬気付けなかった。

『私のおもちを触って!好きにして!それでも京太郎くんは私のおもちを好きだと言ってくれるなら……私は、京太郎くんに全てを捧げますのだ…』

真夜中の松実館に、唾液を嚥下する音がやけに煩く聞こえた。
愛しい娘を嬲る権利を与えられた男か。
愛しい男に嬲ってくれと希った女のものか

『玄さん』
『京太郎くん』

二つの影が重なり。
そして、運命の夜は、遂に幕を開いたのだった。


「私達!」
「お付き合いすることになりました!」

眼前で旧友と部活仲間が腕を組んでいるのを見たとき、私の心に突き刺さったこの感情は一体なんなのでしょうか。
ふと周りを見ると、泣きそうな顔の優希が、悲痛な面持ちの咲さんが、唖然とした顔の染谷先輩が、一夜で妙に距離を縮めた二人を見つめています。

「あの、須賀君、玄さん。一体何故…?」

辛うじて口から出た言葉に、二人は満面の笑顔で答えました。

「俺にとって、一番必要な人が玄さんまったんだよ」
「私のことを、一番見つめて受け止めてくれる異性が京太郎くんだったのです!」

右腕に玄さんを侍らせながら、反対の腕には宥さんもおずおずとしがみついていて、何とも言えず愛らしく。

「須賀君。もしかして、胸ですか?」

咲さんと優希の顔が強ばるのが、背中越しでも分かります。

「和、確かに最初はおもちだった。でも今は違う。抱きしめられた時、俺の心の全てを受け入れてくれたのが玄さんと宥さんだったんだ」
「和ちゃん、違いますのだ。最初は私のおもちを愛してくれるだけだと思っていたけど、抱きしめられた時に、私の弱さも包んでくれる人だって分かったのです」

何とも言えない惚けかたに、呆れの溜息しか出ません。
ともかく。
この後、咲さんと優希をどうするかのほうが、大きな仕事になりそうでした。

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最終更新:2019年10月09日 10:09