ハギヨシに頼まれ、龍門渕のクリスマスパーティの準備を手伝いに行った京太郎。
夜深く、手伝いのお礼と日給相応のお金と夕食まで世話になり、更には一泊どうかと誘われるも、流石にそこまでは…とやんわり断ってみる。
しかし助けてくれた人を深夜に帰らせたとあらば龍門渕の恥という透華と、自身を畏れずに対局してくれる京太郎へのお礼だという衣の説得に折れて、京太郎は龍門渕にて一夜を明かすこととなる。
深夜──
京太郎が風呂に入っていると、そこには突然の乱入者──透華が現れる。
驚く京太郎を他所目に、透華は疑問を投げかけた。
─何故清澄にいながら、凡百にさえ届かない腕前しかないのか。
─何故その程度の腕前で清澄にいられるのか
─何故、衣のオカルトを畏れずに対局出来るのか。
透華の問いに、京太郎は自嘲しながら返す。
自分よりも輝ける仲間がいるから、その仲間の為に自分の対局機会を犠牲にしているだけだと。
雑用しているだけで、最早麻雀部員と呼べるようなものではないとの実感も。
そして───それが故に、対局出来ること自体が楽しく、嬉しく、新鮮で、オカルトなど気にしたこともないと。
昼間は明朗快活、心地良いほどの青少年だった京太郎の抱えた闇を、悲しみを、無造作に、興味本位で出してしまったことを、透華は理解してしまった。
慰める?励ます?茶化す?どうすれば良い?
一瞬に近い逡巡の果て、透華は──
京太郎を、抱きしめた。
辛さも苦しさも悲しさも怒りも、全て吐き出して欲しいとばかりに。
けして豊満とは言えぬ身体で、京太郎の巨躯を抱きしめた。
互いに抱き合って、一緒に風呂を出て、一緒の寝室に向かい、一つの布団で一緒に眠った、
透華は忘れない。
須賀京太郎の流した涙の熱さを。
須賀京太郎に抱き返されたときの喜びを。
それを彼女が母性と知るには、まだ幾ばくかの時間を必要とするのだが。
『須賀さん……いえ、京太郎。これから先、私は龍門渕の者として多大なスケジュールの元で動くことになりますわ』
『だからハギヨシを、と言っても、ハギヨシは一人ですもの。衣と私の世話を同時にしろた言うのは、流石のハギヨシにも難しいわ』
『ですから。ハギヨシには衣の世話を任せることに決めました』
『京太郎、貴方が私の世話をしなさい。こらから先、ずっと。永遠に、私の傍らで……ですわ』
『……私の婿になれと言うことですわ。ここまで言わせないでくださいまし』
カンッ
最終更新:2019年10月09日 10:23