目の前にいるのは誰だ
そう、自問自答を繰り返す
高鴨穏乃
咲やネリー、淡と共に一年生でありながら、全国大会の決勝戦大将卓のメンバーであり、和の旧友
その縁もあり、山登りなどのアウトドアな趣味が男の俺と彼女を繋ぎ、友人関係を築くことが出来た
そう、思っていた

目の前の少女は、自分に馬乗りになり蠱惑的な表情で自分の顔を撫でる少女は、自分の知る彼女の印象とは全く違っていた

野山を駆け回る足、ぶんぶんと振り回されていた手、少年のような笑顔を浮かべる顔、元気よく自分に話しかけていた口

その足は自分の腰をきゅっと挟み込み、その手は自分の顔から首、胸をしゅるしゅるとなで回し、その顔はとろりと蕩けるような熱をおび、その口は三日月のような裂け目となっていた

「ねぇ京太郎。油断しすぎだよ?」

「女の子が、こんな山奥に、人の来ないような山奥に男の子と二人で来るなんてさ、意味なんて限られてるんだよ?」

耳元で囁かれる声は、まるでアカシアの蜜のようなゆるやかな粘り気を伴って脳を甘い密で染めていく

体が動かない
いくら体力があるとはいえ、40kgにも満たないであろう少女の一人くらい、軽く弾き飛ばすことなど容易い事なのに、体が動かないせいで抵抗すら敵わない

「京太郎、動けないんでしょ?無理しないほうがいいよ。今ね、ダルが憑いてるからさ。」

ダル……昔、なんかの妖怪の本で読んだことがある
飢え死にした人の霊だとかなんだとか言われる、憑かれたら身動きがとれなくなるとかいうアレか

「無防備だと思った?自分以外の男とこんな事したら襲われるぞとか思った?私の事を何も知らない無知な娘だと思った?」

嘲るような声は、しかし同時に、母親が幼子に言って聞かせるかのような慈愛も含んでいた

「京太郎は女の子の事、知らなさすぎだからね、教えてあげるよ。」

「それじゃあ、いただきます。」

カンッ

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最終更新:2020年04月06日 22:32