原村和という娘は、デートというものを知識でしか知らなかった。
それ故に須賀京太郎という少年にデートに誘われた時、行く先などを決めようと頭を回して──よりにもよって少年の家に行きたいと言ってしまったのだ。

(須賀君のベッド……須賀君の匂い……) 

二人は恋仲と言えるほど強い仲ではない。
それでも、プライベートな空間で、悪くない関係の男女が、二人きり。
意識しないでいられるとは嘘でも言えない。

(須賀君の髪……サラサラですね……)

二人でベッドに腰掛けて、取るに足らない事を語り合い、ウトウトしだした京太郎に膝枕してあげて。
好きだと告白されたら、私はどう答える?
もしかしたら、寝起きの須賀君に押し倒されて、屈服してしまうかも知れない。 
須賀君だけの原村和にされてしまって。

(軽薄そう、と思っていたのに……)

須賀京太郎という少年は、和が思うよりも強く、優しく、真っ直ぐだった。
昔の自分なら、彼とこうやって親密にするなど考えられないだろうが。
頑張る姿を目で追ううちに気になりだして、ずっと京太郎の事ばかりを考え出して──

「女の子が、恋人でない男性の部屋に入る意味ぐらい……分かっていますよね……?」

「私を……原村和から、須賀和にしてくださいね?」

京太郎が目覚めたら、次は自分が膝枕してもらいたいな、なんて考えながら──

原村和は、初めて抱いた仄かな恋心に頬を染めるのだった。

カンッ

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最終更新:2020年04月06日 22:37