(──なんで)

(──なんで)

(──なんでなのかな…?)

矮躯と童顔に似合わぬ胸を抱えながら、声にならない慟哭が脳裏に響く。
同じ趣味を持ち、同じ嗜好を語り合い、是非にと姉を紹介した男に──何の因果か姉と二人で同時に慕ってしまった。

自分だけの笑顔が、二人の為の笑顔になり。
自分だけの語らう時は、半分に減り。
彼が幾度も胸に送っていた視線は、姉だけのモノになってしまい。

(──いやだ)

(──いやだ)

お姉ちゃんも、京太郎君も、どちらも失くしたくないよ……)

叶わぬだろう願いが、より切なさを増して、遂に少女は涙を流した。
耐えよう、耐えようと歯を食いしばったが、一滴が枕を濡らしたのを引き金に、それは雨のように溢れ続けた。


「玄さん?」

枕に顔を押し付けて、嗚咽を隠していた少女に掛けられる声。

「寝てるのかな」

「起きてるよ…?」

「あ、起きててくれましたか」

明るい声が、少女の心を苛む。

「さっき、宥さんに相談してですね」

姉の名前を、今は出さないで。

「俺が玄さんと結婚しても、一緒に住まわせて欲しいって頼まれまして」

──は?

「恋人にもなれてないのに、時期尚早だとは思いましたけど──玄さんはどうかなって」

──そんなの、決まってる。

「京太郎君は……私でいいの?お姉ちゃんや、もっと立派なおもちの人もいるんだよ?」  

「俺は、おもちだけで人を決めつけたりしませんよ。──玄さんも、宥さんも好きです」

酷い男ですよね、と自嘲する声さえ、今の少女には愛おしく、恋しく、多幸感を与えてくれる。
布団の中の少女がどう答えたかを知るのは、二人以外に知るものはおらず。

強いて言えば、その日から少年はより強い想いを二人の娘に与え、二人の娘は泉の如く溢れる愛を以て応えるようになったとか。

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最終更新:2020年04月06日 22:39