部室の一角を占めるベッドの近く。
須賀京太郎は雑用の疲れからか、うとうとと微睡み、部活仲間に休むよう言われて──

「なぁ和、これはどういうこと…なんだ?」

両手首を縛られて、京太郎は咎めるように問う。
じっと己を見つめるのは、一目惚れしてからしばらく、恋心も告げずにいる相手。
だが、どうにも様子がおかしい。
濁ったような眼差し、見たことのない恍惚とした顔、頬を染める熱。
彼女がレズなのでは、とは京太郎が深層心理に隠していた疑惑だが、まさか咲と距離が近いからこんな仕打ちを…?と考えて。

「須賀くんは、私のことが好きなんですよね」

断定するように、愛らしい声が耳に染み入る。
京太郎の耳朶を噛みそうなぐらいの距離で、和は艷やかに囁く。

「須賀くんは、私のことが好きですよね」
「でも、咲さんや優希と話す回数のほうが多いですし」
「あまり私のことも見てくれませんよね」
「須賀くんに見てもらいたくて、授業が終わった後……下着を脱いで来てるのに」

背中に、柔らかな肉鞠が押し付けられる。

「本当に、須賀くんは、私が、好きなんですよね?」

ぞっとするような、冷たい声。
ここで否と答えたらどうなるのか。

「答えてください」
「須賀くんは、私が好きなんですよね」
「須賀くんは、私が好きなんですよ」
「須賀くんは、私を好きなんです」

甘い香りがして、首筋に湿った感触がして。

「私は、須賀くんのことが好きではなかったですけど」
「前まで私に送っていた、ただただ情欲の対象にしたいと言わんばかりの視線」
「あんなのに毎日晒されたら、女の子は女の子でいられなくなりますよ」

そんな視線を送ったつもりはないのに。
恋焦がれた相手への憧憬すら許されないと?

「須賀くんに、いつか酷いことをされる」
「散々酷い目に合わされて、泣きながら須賀くんだけのものにされて」
「堕ちて行く──そう思っていたのに」
「何故、手出ししないんですか?」
「私を乱して、狂わせて、その果てに捨てるつもりですか?」

いや、結構手酷く言われてたからな。
だから、そう言われないようにしていた。

「なんだ、そうだったんですね」
「でも、須賀くんは私の告白を聞いちゃいましたよね」
「はしたなくて、だらしない身体の女の告白」
「受けてくれますよね?」
「須賀くんとの初めての場所が、この部室になるんですよ」
「みんなが集まる場所を散々に穢しながら、私は須賀くんだけのものになるんです」
「大丈夫──あの二人以外にも、須賀くんに甘い人はたくさんいますから」
「須賀くんが心奪われないよう、頑張りますよ?」

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最終更新:2020年04月06日 22:41