ぎゅうと抱き竦められ、淡は息を飲んだ。
胸の下で、京太郎の両手が繋がれ。
きっと、酷いことをされるんだ。
きっと、酷いことをされて、京太郎だけのモノにされてしまうんだ。
それでも、抜け出そうとはしなかった。
出来ないのではなく、しなかった。

「………ね、ねぇ……?」

「キョータローは……おもち?触らなくてもいいの?」

「……触らないの?」

普段の騒がしさは鳴りを潜め、縮こまった姿は少動物もかくやと言わんばかりで。

「ね、もうちょっとで対局だから」

「ちゅー、して?」

「おもち、ぎゅっとして?」 

「キョータローと一緒なら負けないから」

「キョータローと一緒だもんね」

恋仲になれるほど、素直になれないのに。
今は、勇気も誇りも意地も、全部ある。
全部、自分を抱き締めている少年から。

「うん!勇気も元気も充電してもらったからね!」

名残惜しいが、もう対局の時間だ。
少年の手が解かれ、程なくして自由の身になった美少女が立ち上がろうとして。

少年は、ほんの少しの勇気を振り絞って、キスをした。
嫌われるかもしれないけど、と独りごちて。

淡の頬に薄く紅がさして、微笑んだ。

「いっぱい勇気をもらったから──絶対に負けないから!」

「だから───」

「戻ってきたらまた、ぎゅーってして」

「ちゅーしてね!」

少年の幼馴染の名前を以て例えるのは余りに皮肉ではあるが──

一輪の黄花が、卓上で咲き誇った。

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最終更新:2020年04月06日 22:43