須賀京太郎が風邪を引いた。
なるほど確かに珍しいことかも知れなかったが、菫はそれ程大事とは思わなかった。
須賀京太郎とて人の子、風邪の一つも引くだろうと。
だが、後輩の様子がおかしい。
視線は定まらず、とにかく目立つ髪色と体躯の少年を求めている。
普段はからかってばかりの相手を求めるのもどうかと思いもしたが、気が散っている状態で部活をされると、ひいては他の部員たちにも多大に影響がある。
名指しで呼び、須賀京太郎の世話を頼むと言うや否や、慌てて走っていった。
後輩にも春が来たか、と感慨深げに思っていたが、どうやら影響は思った以上に大きかったらしい。
部内でも随一の肉鞠を揺らして走るさまを見て、多くの男子生徒たちは悶々とする羽目になるのだが、それはまた別の話。
京太郎の世話と言っても、彼は人一倍しっかりしている面があって、自分の事はある程度自分で熟すようにしていて。
端的に言えば、ベッドで眠る京太郎の汗を拭きながら、寝顔を眺めるだけの時間が長く続いた。
手持ち無沙汰どころではない。
そこで、不意に悪戯心が騒いで。
見るんじゃなかった、と淡は真っ赤な頬を押さえながら京太郎を眺める。
確かに淡を始めとした白糸台の仲間との写真もそれなりにあったが──
それ以上に、汎ゆる意味で全国に名だたる美少女たちとの写真が、一冊二冊では収まらぬ程に残されていた。
抱き締められたり、膝枕されていたり、膝枕していたり。
自分はされたこともないのに!と膨れて、自分がされた時にどうなるか考えて──頬が緩み、きっと幸せだろうなと思って。
すぐに、京太郎に襲われるという妄想になり──
「でも……添い寝ぐらいはしてもいいよね」
残念ながら、部屋の主は夢の国。
返らぬ答えに一層頬を緩めて、意を決して布団の中へ。
風邪を移されれば、京太郎が自分をお世話してくれるはずだ──汗を拭いてもらって、いっぱい撫でてもらおう。
写真の少女たちへの対抗心からか、胸を押し付けるようにして、横になり。
京太郎と汗の匂いが入り混じったソレが妙に心地良く、淡も眠るのだった。
最終更新:2020年04月06日 22:44