(全く、もう……)
原村和は呆れ顔で座り込む。
体育座りが彼女の胸部を更に強調しているが、それには気付かない。
(胸ばっかり見ないで欲しいですね)
見ていた当人たちからすれば、無茶を言うなと返したくもなる思案。
桃髪というだけでも目立つのに、才媛で、全国制覇した麻雀部の一員で、美少女で、爆乳なのだ。
年頃の男としては、気にするなと言う方が無理なのに。
「……須賀君は、全然見なくなりましたね」
夏の大会以後、京太郎はにわかに異性の友人が増えたとかで楽しそうにしている。
右も左も分からぬまま、ただ基本だけを仕込まれて大会に出て敗退した男を咎める術は、残念ながら和にはなかった。
夏の大会以後はネトマでも知人とチャットしながら楽しそうにしているし、なんなら部室でも電話が掛かってきては喜々として応対する姿を何度も見ている。
確かに輪の外にいた男が楽しめているのは喜ばしいことだが、自分たちが彼の埒外にいるのは寂しいものだった。
(………見ても、良いのに)
今日の部活は休み、とはいえ自分の居場所の一つに足が向かってしまうのは致し方ない。
夏の大会を終えて引退した前部長が残したベッドに寝そべると、熱の篭った溜息が幾度も部室に奏でられる。
最初は気にすることもなかった男への、仄かな(少なくとも和は仄かだと思っている)思慕が重なり、更なる熱となって吐き出されて。
「あれ、和か?どうしたんだ?」
「しゅ、しゅがきゅん!?」
「寝起きか?和が噛み噛みなのは珍しいな」
ケラケラと笑いながら、和が思案していたまさに当人が部室に入ってくる。
額を、首筋を、汗で湿らせながら。
制服の襟口も汗の染みらしい見受けられて、和は余計に頬を赤らめる。
「しゅ……須賀君は、どうして部室に?」
「久々に思い切り身体を動かしたらクタクタになってさ。休んで帰ろうかなって」
後ろ手で部室の扉を閉めると、ベッドにもたれるように座り。
和は、駄目だった。
京太郎の匂いは知っているが、汗の匂いと入り混じったそれを知覚してしまって──
「あの、須賀君!」
「?」
「膝枕をしてもらえませんか!?」
「あぁ、良いけど」
臭くても知らないぞ、という軽口はスルー。
お尻や胸を触られても怒りませんから、と言いそうなのを辛うじて飲み込み、京太郎の膝を枕に寝転ぶ。
間もなく、二つの寝息だけが部室に消えるように奏でられだした。
最終更新:2020年04月06日 22:49