「よいしょ……っと」

 5月の上旬、よく晴れた日。
 マンションのベランダから、午前のうちに干しておいた布団を取り込む。
 太陽の光を浴びたそれは、癒し成分のかたまりだ。

 暖かさを失わないうちに取り込み、ベッドの上にシーツ、敷布団、掛け布団と重ねていく。

「和ー、布団取り込んだぞー」
「はーい」

 同棲中の彼女を呼ぶと、すぐにパタパタと可愛らしい足音が向かってくる。
 ふんす、 と少し上気した様子の彼女も、干したての布団が待ち遠しくて仕方ないようだ。

「えいっ」

 ぼすっ と、彼女がベッドへダイブする。
 ふかふかの布団に全身をすり寄せる彼女は、小動物のようで愛らしい。

「のーどかっ」
「ひゃんっ」

 そんな彼女と布団を取り合うように、俺もベッドへとダイブする。
 太陽の匂いと彼女の甘い匂いに包まれ、これ以上なく幸せなひと時を過ごす。

「ふぁ……ぅ……」

 ひとしきりじゃれあいを楽しむと、和があくびを漏らす。
 時刻は午後3時。お昼を食べてから掃除と洗濯を二人で済ませ、日の傾く夕方まで、干したての布団で一緒に寝る。
 起きたら眠気覚ましに買い物に行き、二人で夕飯を作る。
 彼女とゆっくり過ごすパターンの1日だ。

「京太郎くん」
「ん」

 俺があおむけに寝て、その左脇に和が収まる。
 身体を俺に密着させ、俺の左胸の上に頭を乗せる。
 布団が吸い込んだ太陽の温かさと、彼女の温もりに包まれ、幸福感で満たされる。

「京太郎くん……」
「んー?」
「布団が温かいですね……」

 ぷっ、 と俺は少し小さく噴き出す。

「なんだそれ、俺は『死んでもいいや』って答えればいいのか?」
「ダメですそんなの」

 ぷぅ と、彼女が頬を膨らませるのを、左胸に伝わる感触で感じる。
「わかってるよ」

 前に和に聞いたことがある。
 俺の左胸を枕代わりにするのはどうしてかと。
 すると和はちょっと恥ずかしがったあとこう答えた。

『なんていうか……こうしてあなたの心臓の音を聞いていると、すごく幸せになるんです。
 ああ、自分の好きな人が生きてる って、感じられて……』

 それ以来、俺達が寝る時は、いつもこの恰好で寝ている。
 和は俺の心音を聞きながら、俺はそんな和の頭を撫でながら、身も心も一緒の時間を過ごす。

 大卒でプロ入りし、日々戦う彼女を休日はこうして支える。
 プロとして鎬を削り、公私ともに凛とした態度を貫く一方、二人きりの時はこうやって甘えてくれる彼女が、何よりも大事でいとおしい。

「京太郎くん………」
「んー…?」
「とっても……しあわせです…………」
「ああ……俺も」

 こんな1日の過ごし方を、ずっと無くさないでいられる関係でありたいなと心に願いながら、俺達は、多分世界で一番幸せな昼寝を始めた。

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最終更新:2020年04月06日 22:50